使い捨てを基本とする大量生産・大量消費型の経済社会活動は、大量廃棄型の社会を形成し、天然資源の消費を抑制し、環境への負荷ができる限り低減される健全な物質循環を阻害するほか、気候変動問題、天然資源の枯渇、大規模な資源採取による生物多様性の損失など様々な環境問題にも密接に関係しています。
こうしたこれまでの大量生産、大量消費、大量廃棄型の経済・社会様式から、競争条件への影響も踏まえ、資源・製品の価値の最大化を図り、資源投入量・消費量を抑えつつ、廃棄物の発生の最小化につながる経済活動全体の在り方が強調されている「循環経済(サーキュラーエコノミー)」の取組は、昨年のG7でも、気候変動対策、生物多様性の保全と並んで、行動を強化すべき分野として位置づけられるなど、国際社会共通の課題となっています。
我が国における温室効果ガス全排出量のうち、資源循環の取組により、温室効果ガス削減に貢献できる余地がある部門の割合は約36%という試算もあり、循環経済への移行によって3R(廃棄物等の発生抑制・循環資源の再使用・再生利用)+Renewable(バイオマス化・再生材利用等)をはじめとする資源循環の取組が進めば、製品等のライフサイクル全体における温室効果ガスの排出低減につながることから、カーボンニュートラル実現の観点からも重要な取組です。また、循環経済の取組により、資源の効率的使用、長期的利用や循環利用、ライフサイクル全体での適正な化学物質や廃棄物管理を進めることにより新たな天然資源の投入量・消費量の抑制を図ることは、資源の採取・生産時等における生物多様性や大気、水、土壌などの保全、自然環境への影響を低減するという観点からも重要です。さらに、循環経済の取組は、資源制約に対応し、我が国の経済安全保障の取組を強化することにも資する考え方を提示しており、また、環境面に加え、バリューチェーンの強靱化等にも効果的なものとして、その意義はますます高まっています。
こうした循環経済の取組を持続的な取組とし、社会経済活動の中で主流化していくために、政府としては、2030年までに循環経済関連ビジネスの市場規模を、現在の約50 兆円から80 兆円以上にするという目標を掲げており、GXに向けた取組の一つと位置付けるとともに、あらゆる主体の取組推進に向けた環境整備を進めていきます。
2021年10月に改訂された「地球温暖化対策計画」において、地球温暖化対策の基本的考え方の1つとして3R+Renewableをはじめとするサーキュラーエコノミーへの移行を大胆に実行する旨が明記されるとともに、「サーキュラーエコノミーへの移行を加速するための工程表の今後の策定に向けて具体的検討を行う」との記載が盛り込まれました。これを踏まえ、環境省においては、「第四次循環型社会形成推進基本計画」(2018年6月閣議決定)の第2回目の進捗点検結果も踏まえ、2050年カーボンニュートラルの宣言後、我が国で初となる循環経済の方向性を示した「循環経済工程表」を取りまとめ、2022年9月に公表しました。
循環経済工程表では、2050年を見据えた目指すべき循環経済の方向性と、素材や製品など分野ごとの2030年に向けた施策の方向性を示しており、これに基づき、ライフサイクル全体での資源循環に基づく脱炭素化の取組を、官民が一体となって推進していきます(図2-2-1)。
循環経済の取組の実施に当たっては、環境的側面だけではなく、経済的側面や社会的側面を含め、これらを統合的に向上させていくことが必要になります。また、循環型社会の形成に取り組んできた我が国の実情を踏まえれば、循環経済への取組は、3R(優先順位は[1]発生抑制(リデュース)、[2]再使用(リユース)、[3]再生利用(リサイクル))の取組を経済的視点から捉えて、いわゆる本業を含め経済活動全体を転換させていくことが重要です。
循環経済アプローチの推進等により資源循環を進めることで、原材料など資源の循環、生産過程の効率性向上、消費過程での効率性向上といった観点から製品等のライフサイクル全体における温室効果ガスの低減に貢献することが可能になります。我が国の温室効果ガスインベントリをベースに分析した結果、我が国全体における全排出量のうち、資源循環が貢献できる余地がある部門の排出量の割合としては約36%という試算もあり、2050年カーボンニュートラルの実現に向けても3R+Renewableをはじめとする循環経済への移行を進めていく必要があります。
3R+Renewableは、循環型社会形成推進基本法(平成12年法律第110号)に規定する基本原則を踏まえ、3Rの徹底と再生可能資源への代替を図るものですが、主に炭素を含む物質の焼却・埋立の最小化による温室効果ガスの削減だけではなく、生産過程のエネルギー消費量削減、原料のバイオマス化を含む素材転換、処理過程の再生可能エネルギーへのシフトを進め、脱炭素社会の実現に幅広く貢献する基盤的取組です(図2-2-2)。
また、海洋プラスチックごみによる汚染や生物多様性の損失等の地球規模での環境汚染に対処する観点からも、循環経済の取組を通じた天然資源投入量・消費量の抑制や適正な資源循環の促進による全体的な環境負荷(生物多様性や大気、水、土壌などへの影響)削減への貢献を考えていくことが必要です。
循環産業をはじめとする循環経済関連ビジネスを成長のエンジンとしながら、循環経済の取組を持続的な取組とし、社会経済活動の中で主流化していくために、政府としては、2030年までに、循環経済関連ビジネスの市場規模を、現在の約50兆円から80兆円以上とする目標を掲げています。強靭で持続可能な経済社会の実現に向け、経済社会の変革を目指す取組のひとつであるGXをはじめとする投資を行うこととし、循環経済関連の新たなビジネスモデルの普及に伴う経済効果の分析を行い、2050年を見据えた循環経済の市場規模拡大や主流化に向けた必要な施策についての検討を進めていきます。
また、世界全体の人口増加や経済成長、昨今の国際情勢等も踏まえながら、資源制約に対応するとともに、我が国の経済安全保障の確保のための取組を強化することが重要になってきています。循環経済は、資源の国内循環を促進し、目指すべき持続可能な社会に必要な物資の安定的な供給に貢献するものとしていく必要があります。
循環経済の取組を推進するに当たっては、地域の循環産業による地域活性化をはじめとする様々な社会的課題の解決といった観点、我が国の循環経済の取組の国際展開による国際的な循環経済体制の確立への貢献といった観点、官民連携をはじめとした幅広い関係主体との連携による消費者や住民の前向きで主体的な意識変革や行動変容の促進といった観点も念頭におくことが必要になります。
以上の方向性を踏まえ、経済社会の物質フローを、環境保全上の支障が生じないことを前提に、ライフサイクル全体で徹底的な資源循環を行うフローに最適化していくことにより、第四次循環型社会形成推進基本計画に掲げる、「ライフサイクル全体での徹底的な資源循環」が実現した「必要なモノ・サービスを、必要な人に、必要な時に、必要なだけ提供する」将来像を目指していきます。
[1]プラスチック・廃油、[2]バイオマス、[3]ベースメタルやレアメタル等の金属、[4]土石・建設材料、[5]温暖化対策等のより新たに普及した製品や素材について、環境への負荷や廃棄物の発生量、脱炭素への貢献といった観点から方向性を示しています。素材ごとに、上流から下流までのライフサイクル・バリューチェーン全体でのロスゼロの方向性を目指していくことが必要となります。資源確保や生産など素材や製品のライフサイクルの段階の多くを海外に依存しているモノについては、デジタル技術を活用し環境面も含めたトレーサビリティを担保することにより、新たな循環経済関連ビジネスやあらゆる主体の行動変容の基盤とするほか、サプライチェーン上での様々なリスクや社会的責任への対応を確保することが今後ますます重要になります。
主な取組として、2030年までにプラスチック資源としての回収量や金属リサイクル原料の処理量を倍増させること、食品ロス量を2000年度比で半減(489万トン)する目標に加え400万トンより少なくすることを目指すこと、持続可能な航空燃料(SAF)の製造・供給に向けた取組を推進することなどを示しています。
素材と同様に、資源確保や生産、流通、使用、廃棄のライフサイクル全体で徹底的な資源循環を行うフローに最適化していくことが必要で、[1]建築物、[2]自動車、[3]小電・家電、[4]温暖化対策により新たに普及した製品や素材、[5]ファッションについての方向性を示しています。生産段階における使用・廃棄段階の情報を元に修繕・交換・分解・分別・アップデート等が容易となる環境配慮設計や、再生可能資源利用の促進、使用段階におけるリユース、リペア、メンテナンス、シェアリング、サブスクリプション等のストックを有効活用しながら、サービス化や付加価値の最大化を図る循環経済関連の新たなビジネスモデルの取組を推進していきます。
主な取組として、今後廃棄量が急増する太陽光発電設備についてリユース・リサイクルを促進するため、速やかに制度的対応を含めた検討を行っていくことや、サステナブル・ファッションの実現に向けて、ラベリング・情報発信、新たなビジネスモデル、環境配慮設計等を推進していきます。
事例:「Re&Go」捨てずに返す容器のシェアリングサービス(NISSHA、NECソリューションイノベータ)
「Re&Go(リーアンドゴー)」は、NISSHAとNECソリューションイノベータが開発し、2021年11月から東京都内で実証実験を進めている、繰り返し利用できるテイクアウト容器のシェアリングサービスです。飲み物や料理のテイクアウト容器を、本サービスに参加する飲食店等で回収し、洗浄して再利用することでプラスチック等の容器ごみを削減します。また、CO2排出量の削減や保温保冷といった機能面でも、使い捨て容器の代替としてお客さまに選んでいただけるサービスを目指しています。
本サービスは、貸出管理のため、容器に印字された2次元コードをユーザー自身のスマートフォンで読み込むかたちでITを活用し、手軽に利用できる仕組みとなっています。
また、ユーザー個人・サービス全体での容器ごみ削減量・CO2排出削減量を公式サイトなどで公開しており、自分の行動が環境へどれだけ貢献できたかユーザーが確認できるようになっています。今後、2023年中の対象エリアの拡大と事業化を予定しています。
循環経済関連ビジネスの促進、廃棄物処理システム、地域の循環システム、適正処理、国際的な循環経済促進、各主体による連携・人材育成についての方向性を示しています。
主な取組として、「廃棄物・資源循環分野における2050年温室効果ガス排出実質ゼロに向けた中長期シナリオ(案)」を元に、脱炭素技術の評価検証や関係者との連携方策を検討するとともに、分散型の資源回収拠点ステーション等の整備に向けた必要な施策の検討を進めることとしています。
経済産業省において、2020年5月に策定した「循環経済ビジョン2020」で示した方向性を踏まえ、国内の資源循環システムの自律化・強靱化と国際市場獲得に向けて、技術とルールのイノベーションを促進する観点から総合的な政策パッケージとして、「成長志向型の資源自律経済戦略」を2023年3月に策定しました。
2022年4月に施行されたプラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(令和3年法律第60号)は、プラスチック使用製品の設計から廃棄物の処理段階に至るまでのライフサイクル全般にわたって、3R+Renewableの原則にのっとり、あらゆる主体におけるプラスチック資源循環の取組を促進するための措置を講じています。本法律に基づき、「設計・製造」段階においては、プラスチック使用製品設計指針を国が策定し、製造事業者等に環境配慮設計の取組を促すこととしています。また、「販売・提供」段階においては、商品の販売又は役務の提供に付随して消費者に無償で提供されるプラスチック使用製品(特定プラスチック使用製品)の使用の合理化を求めることとしています。さらに、「排出・回収・リサイクル」段階においては、市区町村による再商品化計画、製造・販売事業者等による自主回収・再資源化事業計画及び排出事業者による再資源化事業計画の国による認定のほか、排出事業者に対して排出の抑制・再資源化等に取り組むことを求めるなど、各主体による積極的な取組を推進しています。
2022年2月から3月にかけて開催された国連環境総会において、海洋環境等におけるプラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた政府間交渉委員会を立ち上げる決議が採択されました。同決議を踏まえ、2022年5月から6月にはセネガルにおいて公開作業部会が開催され、条約交渉に向けた初期的な議論が行われました。2022年6月から7月には、ポルトガルにおいて開催された第2回国連海洋会議に務台俊介環境副大臣(当時)、三宅伸吾外務大臣政務官(当時)が出席し、海洋汚染対策に係る双方向対話や二国間会談等を通じて、我が国がプラスチック汚染対策に積極的に貢献していくことを表明しました。そして、2022年11月から12月にはウルグアイにおいて第1回政府間交渉委員会が開催され、正式に条約交渉が開始されました。政府間交渉委員会は2024年末までの作業完了を目指して5回開催されることとなっており、2019年のG20大阪サミットにおいて、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにまで削減することを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を提唱した我が国としては、プラスチックの大量消費国・排出国を含む多くの国が参画する実効的かつ進歩的な枠組みの構築に向けて、引き続き積極的に議論に貢献していきます。
廃棄物処理基本方針は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号。以下「廃棄物処理法」という。)に基づき定められている、廃棄物の排出抑制、再生利用等による廃棄物の減量その他その適正な処理に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な方針(以下「基本方針」という。)を示すものであり、2050年カーボンニュートラルに向けた廃棄物分野における脱炭素化の推進、ライフサイクル全体での徹底した資源循環の促進など廃棄物処理を取り巻く情勢の変化を受け、基本方針の変更に向けた検討を進めています。2023年4月の中央環境審議会循環型社会部会(以下「循環型社会部会」という。)において案を公表しました。
同案では、適正処理の確保や災害廃棄物対策といったこれまでの政策課題への方針を拡充させつつ、2021年8月に循環型社会部会で議論した「廃棄物・資源循環分野における2050年温室効果ガス排出実質ゼロに向けた中長期シナリオ案」及び、2022年9月に策定した「循環経済工程表」等を踏まえた内容に変更しています。
廃棄物処理法に基づき、廃棄物処理施設整備事業の実施の目標及び概要を定める廃棄物処理施設整備事業に関する計画(以下「廃棄物処理施設整備計画」という。)の策定に向けた検討を進めています。現行の廃棄物処理施設整備計画(以下「現行計画」という。)は、2018年度から2022年度を計画期間としており、2023年度から2027年度を計画期間とする次期の廃棄物処理施設整備計画(以下「次期計画」という。)の検討を進めるため、2023年4月の循環型社会部会において次期計画の案を公表しました。
同案では、廃棄物の持続可能な適正処理の確保については災害時も含めてその方向性を堅持しつつ、脱炭素化の推進や資源循環の強化という今後の廃棄物処理施設整備事業の重要な方針を示しています。2050年カーボンニュートラルに向けた脱炭素化の観点から、熱回収やメタン発酵、資源循環の取組等により他分野も含めた温室効果ガス排出量の削減に貢献することなどを新たに記載して気候変動への対策内容を強化するとともに、循環型社会形成推進基本法の基本原則に基づいた3Rの推進と循環型社会の実現に向けた資源循環の強化の観点から、リサイクルの高度化や地域における循環システムの構築、再生材の供給等による取組等を加えています。また、地域の脱炭素化や廃棄物処理施設の創出する価値の多面性に着目し、地域循環共生圏の構築に向けた取組についても深化しています。