世界規模で異常気象が発生し、大規模な自然災害が増加するなど、気候変動問題への対応は今や人類共通の課題となっています。我が国においても、自然災害をはじめ、自然生態系、健康、農林水産業、産業・経済活動など、様々な分野に影響が及んでおり、人類や全ての生き物にとっての生存基盤を揺るがす「気候危機」とも言われる状況です。課題解決と経済成長を同時に実現しながら、経済社会の構造を変化に対してより強靭で持続可能なものに変革する新しい資本主義の観点から、また、炭素中立を目指す観点からも、まさに今、取組を加速することが必要と言えます。
2050年カーボンニュートラルと2030年度温室効果ガス46%削減目標の実現は、決して容易なものではなく、2030年までの期間を「勝負の10年」と位置づけ、全ての社会経済活動において脱炭素を主要課題の一つとして、持続可能な社会経済システムへの転換を進めることが不可欠です。我が国が直面する数々の社会課題に対し、炭素中立(カーボンニュートラル)・循環経済(サーキュラーエコノミー)・自然再興(ネイチャーポジティブ)の同時達成に向け、地域循環共生圏(第3章参照)の構築等により統合的に取組を推進することを通じて、持続可能な新たな成長を実現し、将来にわたる質の高い生活の確保を目指す必要があります。経済、社会、政治、技術全てにおける横断的な社会変革は、生物多様性損失を止め、反転させ、回復軌道に乗せる「自然再興」に必要であり、循環経済の推進によって資源循環が進めば、製品等のライフサイクル全体における温室効果ガスの低減につながり炭素中立に資するなど、相互の連携が大変有効であると言えます。さらに、パリ協定に定められた労働力の公正な移行に加え、地域経済、地場企業の移行を一体的に検討し、自然資本の回復・増加を図り、相互に支え合う自立・分散型の循環を実現し、地上資源を最大限、かつ持続的に活用していくことが重要です。第2章では、炭素中立(カーボンニュートラル)、循環経済(サーキュラーエコノミー)、自然再興(ネイチャーポジティブ)の同時達成に向けたそれぞれの取組を見ていきます。
パリ協定の1.5℃目標の達成を目指し、炭素中立型経済社会への移行を加速することは重要と言えます。我が国は、2030年までの期間を「勝負の10年」と位置づけ、必要な取組を進め、2050年までのカーボンニュートラル及び2030年度温室効果ガス46%削減の実現を目指し、50%の高みに向けた挑戦を続けていくこととしています。このような中、2022年2月にロシアによるウクライナ侵略が発生し、世界のエネルギー情勢は一変しました。我が国においても電力需給ひっ迫やエネルギー価格の高騰が生じるなど、1973年の石油危機以来のエネルギー危機が危惧される極めて切迫した事態に直面しています。安定的で安価なエネルギー供給は、国民生活、社会・経済活動の根幹であり、我が国の最優先課題です。今後、「グリーントランスフォーメーション」(以下「GX」(Green Transformation)という。)を推進していく上でも、エネルギー安定供給の確保は大前提であると同時に、GXを推進することそのものが、エネルギー安定供給の確保につながります。また、ロシアによるウクライナ侵略を契機とし、欧米各国は脱炭素への取組を更に加速させ、国家を挙げて脱炭素につながる投資を支援し、早期の脱炭素社会への移行に向けた取組を加速するなど、GXに向けた脱炭素投資の成否が、企業・国家の競争力を左右する時代に突入しています。そのため、GXの実現を通して、我が国の企業が世界に誇る脱炭素技術の強みをいかして、世界規模でのカーボンニュートラルの実現に貢献するとともに、新たな市場・需要を創出し、我が国の産業競争力を強化することを通じて、経済を再び成長軌道に乗せ、将来の経済成長や雇用・所得の拡大につなげることが求められています。
GXの実現を通して、2030年度の温室効果ガス46%削減や2050年カーボンニュートラルの国際公約の達成を目指すとともに、安定的で安価なエネルギー供給につながるエネルギー需給構造の転換の実現、さらには、我が国の産業構造・社会構造を変革し、将来世代を含む全ての国民が希望を持って暮らせる社会を実現すべく、GX実行会議における議論の成果を踏まえ、「GX実現に向けた基本方針」を取りまとめ、2023年2月に閣議決定しました。官民の持てる力を総動員し、GXという経済、社会、産業、地域の大変革に挑戦していきます。
将来にわたってエネルギー安定供給を確保するためには、エネルギー危機に耐え得る強靱なエネルギー需給構造への転換が必要です。そのため、化石エネルギーへの過度な依存からの脱却を目指し、エネルギーの安定供給の確保を大前提として、徹底した省エネの推進、再エネの主力電源化、原子力の活用等に取り組んでいきます。
また、国際公約達成と、我が国の産業競争力強化・経済成長の同時実現に向けては、様々な分野で投資が必要となります。その規模は、一つの試算では今後10年間で150兆円を超えるとされ、この巨額のGX投資を官民協調で実現するため「成長志向型カーボンプライシング構想」を速やかに実現・実行していく必要があります。具体的には、「成長志向型カーボンプライシング構想」の下、「GX経済移行債」等を活用した20兆円規模の大胆な先行投資支援(規制・支援一体型投資促進策等)を行っていくとともに、カーボンプライシング(排出量取引制度・炭素に対する賦課金)による GX 投資先行インセンティブ及び新たな金融手法の活用の3つの措置を講ずることとされています。
これらの早期具体化及び実行に向けて、「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案(GX推進法案)」、「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案(GX脱炭素電源法)」を2023年2月に閣議決定し、第211回国会に提出しました。
コラム:若者団体との意見交換
2022年6月、山口壯環境大臣(当時)は、日本版気候若者会議による提言の手交を受けるとともに、若者団体との意見交換を行いました。意見交換会では、若者から、気候変動問題に対する危機感が示されるとともに、気候変動対策について、若者の声を政策に反映してほしい、などの要望が表明されました。これに対し山口壯環境大臣(当時)は、市民レベルでの議論の結果を真摯に受け止めること、また、2030年度削減目標、2050年カーボンニュートラルという約束を果たすべく取組を進めていくことを約束しました。
脱炭素が経済競争と結びつく時代、地域脱炭素は、脱炭素を成長の機会と捉える時代の地方の成長戦略になり得るものであり、地域資源を最大限活用することにより、地域活性化、防災、地域の暮らしやすさの向上など地域課題の解決に貢献するものです。また、暮らしの脱炭素は一人一人が主体となって今ある技術で取り組めることや、寿命の長い地域の公共インフラや構造物、エネルギー供給インフラは脱炭素型へと移行するのに時間がかかり、今から進める必要があることも踏まえ、地域脱炭素は、国全体の脱炭素への移行を足元から先導します。
このため、2020年12月から2021年6月にかけて開催した国・地方脱炭素実現会議では、地域が主役となる、地域の魅力と質を向上させる地方創生に資する地域脱炭素の実現を目指し、特に2030年までに集中して行う取組・施策を中心に、工程と具体策を示す「地域脱炭素ロードマップ」(2021年6月国・地方脱炭素実現会議決定)を策定しました。
本ロードマップに基づき、地域脱炭素が、意欲と実現可能性が高いところからその他の地域に広がっていく「実行の脱炭素ドミノ」を起こすべく、2025年度までの5年間を集中期間として、あらゆる分野において、関係省庁が連携して、脱炭素を前提とした施策を総動員していきます。
地域脱炭素ロードマップに基づく施策の一つが脱炭素先行地域の実現です。脱炭素先行地域とは、2050年カーボンニュートラルに向けて、民生部門(家庭部門及び業務その他部門)の電力消費に伴うCO2排出の実質ゼロを実現し、運輸部門や熱利用等も含めてそのほかの温室効果ガス排出削減についても、我が国全体の2030年度目標と整合する削減を地域特性に応じて実現する地域であり、全国で脱炭素の取組を展開していくためのモデルとなる地域です。2025年度までに少なくとも100か所選定し、2030年度までに実現します。これにより、農村・漁村・山村、離島、都市部の街区など多様な地域において、地域課題を同時解決し、地方創生に貢献します。2022年度までに2回の募集により46の脱炭素先行地域を選定しています(図2-1-1、写真2-1-1、写真2-1-2)。
地域脱炭素ロードマップに基づく、もう一つの施策が脱炭素の基盤となる重点対策の全国展開です。2030年度目標及び2050年カーボンニュートラルに向けては、脱炭素先行地域だけでなく、全国各地で、地方公共団体・企業・住民が主体となって、排出削減の取組を進めることが必要です。あらゆる対策・施策を脱炭素の視点をもって取り組むことが肝要ですが、特に、屋根置きなど自家消費型の太陽光発電の導入、住宅・建築物の省エネルギー性能の向上、ゼロカーボン・ドライブの普及等の脱炭素の基盤となる重点対策の複合実施について、国も複数年度にわたって包括的に支援しながら各地の創意工夫を凝らした取組を横展開し、脱炭素先行地域を含めて、全国津々浦々で実施していくことにしています。2022年度には、「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」にて、32の地方公共団体における脱炭素の基盤となる重点対策の加速化を支援しました。
地域の脱炭素化に向けて、国は、人材、情報・技術、資金の面から積極的に支援していく方針です。
人材面では、環境省において、地域のコーディネーター役となる脱炭素人材育成のための研修を行っているほか、地方公共団体と企業のネットワークを構築するためのマッチングイベントを開催しています。また、内閣府において、地方創生人材支援制度によりグリーン専門人材の派遣を行うほか、総務省と環境省において、自治大学校により地方公共団体職員向けの地域脱炭素に係る研修を行うなど、関係省庁と連携して、人的な支援を行っています。
情報・技術面では、再生可能エネルギー情報提供システム(REPOS)により、地域再生可能エネルギーの案件形成の基盤として、再生可能エネルギーポテンシャルの推計を拡充するとともに、地域経済循環分析ツールを提供し、再生可能エネルギー(再エネ)など地域資源を活用し、地域のお金がどうしたら地域で循環するかという地域経済循環の考え方を普及するなどしています。
資金面では、2022年度当初予算に創設した脱炭素先行地域づくりや脱炭素の基盤となる重点対策を支援する「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」を拡充した上で、自営線マイクログリッドを構築する地域における排出削減効果の高い主要な脱炭素製品・技術の導入を支援する「特定地域脱炭素移行加速化交付金」を加えて、新たに「地域脱炭素の推進のための交付金」として2023年度当初予算に創設し、民間と共同して意欲的に脱炭素に取り組む地方公共団体を支援していきます。また、「GX実現に向けた基本方針」(2023年2月閣議決定)において、地域脱炭素の基盤となる重点対策を率先して実施することとされるなど、地方公共団体の役割が拡大したことを踏まえ、公共施設等の脱炭素化の取組を計画的に実施できるよう、総務省では新たに「脱炭素化推進事業費」を計上し、脱炭素化推進事業債を創設しています。
国の積極支援に当たっては、地域の実施体制に近い立場にある国の地方支分部局(地方農政局、森林管理局、経済産業局、地方整備局、地方運輸局、地方環境事務所等)が水平連携し、各地域の強み・課題・ニーズを丁寧に吸い上げて機動的に支援を実施します。具体的には、各府省庁が持つ支援ツールと支援実績実例等の情報を共有し、協同で情報発信や地方公共団体等への働きかけを行います。また、複数の主体・分野が関わる複合的な取組に対しては各府省庁の支援ツールを組み合わせて支援等に取り組みます。さらに、2022年度、地方環境事務所に地域脱炭素創生室を創設することで、こうした関係府省庁との連携も通じた脱炭素先行地域づくりについて、地方公共団体が身近に相談できる窓口体制を確保し、相談対応や案件の進捗状況を地方支分部局間で共有しながら連携して対応しています。
地域経済を資金面から支える地域金融機関は、地域の持続可能性が自らの経営に直結する存在でもあり、経済社会構造がカーボンニュートラルに向かっていく中で、取引先の企業とともに具体的な対応を考えていくことが期待されています。そのため、地域の脱炭素化にとって、地域の主体、とりわけ地域金融機関との連携は極めて重要です。地域金融機関が地域内企業のハブとなって脱炭素社会への適応を推進していくことで、投融資先を皮切りに企業行動を変革していくことが可能となります。実際、これまでに選定された脱炭素先行地域の共同提案者として地域金融機関が加わっている事例が複数あります。
環境省では、ESG地域金融促進事業として、先進的な地域金融機関と連携し、地域課題の解決や地域資源を活用したビジネス構築のモデルづくりを推進しています。また、気候変動関連情報を開示する枠組みであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に基づく情報開示に取り組む地域金融機関を支援しています。さらに、環境金融の拡大に向けて、地域脱炭素に資する設備投資向け貸出の利子の一部を環境省が補給し、企業の投資コスト低減を図ること、ESG要素を考慮した機器のリースについて、補助金の交付によるリース料の低減を通して利用を促進することなど、金融機関を通じた企業の脱炭素化の後押しも実施しています。
また、2022年5月に地球温暖化対策推進法の一部を改正する法律が成立し、脱炭素事業に意欲的に取り組む民間事業者等を集中的、重点的に支援するため、財政投融資を活用した株式会社脱炭素化支援機構が設立されました。現在、民間において、地域共生・地域貢献型の再エネ事業、食品・廃材等バイオマス利用など様々な脱炭素事業が検討・実施されていますが、まだまだ認知度が少ない、類例が乏しいとの理由により、民間の金融機関等からの資金調達に課題があるケースが見受けられます。株式会社脱炭素化支援機構が資金供給を行い、公的資金と民間資金を組み合わせた、いわゆるブレンデッド・ファイナンスにより、民間資金の「呼び水」につなげることが可能となります。脱炭素に必要な資金の流れを太く、速くし、経済社会の発展や地方創生への貢献、知見の集積や人材育成等、新たな価値の創造に貢献します。2023年3月末までに株式会社脱炭素化支援機構より、3件の支援決定の公表を行っています(図2-1-2、図2-1-3、図2-1-4)。
さらに、企業の脱炭素に向けた取組に関して専門的なアドバイスを行う人材に対するニーズの高まりを踏まえ、人材の育成に資する民間資格制度について認定を行う枠組みを検討し、温室効果ガスの排出量計測や削減対策支援、情報開示に関する知識やノウハウ等に関して、資格制度が提供すべき学習プログラムの要件をまとめた「脱炭素アドバイザー資格制度認定ガイドライン」を公表しました(図2-1-5)。
我が国の企業数の圧倒的多数を占め、従業員数でも全国の7割を占める中小企業の脱炭素化も、地域の脱炭素化を進めていく上で重要です。
2050年カーボンニュートラルに向けた取組は自社の温室効果ガス(GHG)排出量削減に留まらず、サプライチェーン全体へと広がっています。この広がりは、中小企業にも及び、サプライチェーン内の中小企業に対するGHG排出量の開示や削減を促す動きがあります。先行して脱炭素の視点を織り込んだ企業経営(脱炭素経営)に取り組む中小企業では、優位性の構築、光熱費・燃料費の低減、知名度・認知度向上、社員のモチベーションアップ、好条件での資金調達といったメリットを獲得しています。
環境省では、2020年度から3カ年中小規模事業者に対してGHG排出量削減目標設定支援モデル事業(計22事業者)の実施による支援及び「中小規模事業者向けの脱炭素経営導入ハンドブック」等の公表を進めてきました。地域毎に多様性のある事業者ニーズを踏まえて、[1]地域ぐるみでの支援体制の構築、[2]算定ツールや見える化の提供、[3]削減目標・計画の策定、脱炭素設備投資に取り組んでいきます。
具体的には、地域金融機関、商工会議所等の経済団体など(支援機関)の人材が、中小企業を支援する支援人材となるための説明ツールの提供やセミナー等開催による育成、人材バンクの活用を含めた専門機関とのマッチング支援、金融機関等から中小企業への助言ができるよう、脱炭素化支援に関する資格の認定制度を検討していきます。また、事業者に対するGHG排出量の算定ツール(見える化)の提供、削減計画策定支援(モデル事業やガイドブック等)、脱炭素化に向けた設備更新への補助、ESG金融の拡大等による支援を実施していきます。
コラム:環境政策に係る全国行脚
2022年1月から6月にかけて、地域の脱炭素化及びその他の環境政策について、環境大臣、環境副大臣、環境大臣政務官が全国47都道府県で様々な関係者と対話を実施しました。計56回の意見交換会で、知事や市町村長、民間企業幹部をはじめ約500名と意見交換しました。各地方公共団体・民間企業等からは、先進的な脱炭素の取組や今後の脱炭素事業への意気込みをお話いただいたほか、財政支援や人的支援など地域脱炭素に関するニーズや課題の意見をいただきました。
遠浅の海域の少ない我が国では、水深の深い海域に適した浮体式洋上風力の導入拡大が重要です。長崎県五島市の実証事業において風水害にも耐え得る浮体式洋上風力が実用化された事を活かし、確立した係留技術・施工方法等を元に普及啓発を進めています。浮体式洋上風力の導入に当たっては、環境保全・社会受容性の確保や、維持管理や使用後の破棄など多様な観点からの検討が不可欠です。今後も、脱炭素化と共に自立的なビジネス形成が効果的に推進されるよう、エネルギーの地産地消を目指す地域における事業性の検証等に取り組みます。
再生可能エネルギーの地域における受容性を高め、最大限の導入を円滑に進めていく上で、環境への適正な配慮と地域との対話プロセスは不可欠であり、環境影響評価制度の重要性はますます高まっています。環境省及び経済産業省による「再生可能エネルギーの適正な導入に向けた環境影響評価のあり方に関する検討会」において、風力発電所の円滑な立地の促進のためには、適正な環境配慮の確保及び地域とのコミュニケーションを図ることが重要であるため、風力発電所の環境影響の程度が立地の状況に依拠する部分が大きい風力発電所の特性を踏まえた適正な環境影響評価制度の検討が必要とされました。この結論を踏まえ、2021年6月に閣議決定した「規制改革実施計画」において、立地に応じ地域の環境特性を踏まえた、効果的・効率的なアセスメントの風力発電に係る適正な制度的対応の在り方について2022年度に迅速に検討・結論を得ることとされ、環境省及び経済産業省は、2021年7月から具体的な検討を開始し、2022年度に現行制度の課題を整理した上で、新制度の大きな枠組みについて取りまとめました。2023年度は、2022年度に取りまとめた新制度の大きな枠組みを基礎としつつ、制度の詳細設計のための議論を速やかに行います。
また、洋上風力発電については、2022年度に関係省庁とともに検討を行い、新たな環境影響評価制度の方向性を取りまとめました。2023年度は、2022年度に取りまとめた方向性に基づき検討すべきとされた論点を踏まえ具体的な制度について速やかに検討を進めます。
地熱発電は、発電量が天候等に左右されないベースロード電源となり得る再生可能エネルギーであり、我が国は世界第3位の地熱資源量を有すると言われていることなどから、積極的な導入拡大が期待されています。しかし、地下資源の開発はリスクやコストが高いこと、地熱資源が火山地帯に偏在しており適地が限定的であること、自然環境や温泉資源等への影響懸念等の課題もあります。このような状況を踏まえて、守るべき自然は守りつつ、地域での合意形成を図りながら、自然環境と調和した地域共生型の地熱利活用を促進する観点から、2021年4月に「地熱開発加速化プラン」を発表し、9月に自然公園法及び温泉法の運用見直しを行いました。引き続き同プランに基づき、地球温暖化対策推進法に基づく促進区域の設定の促進、温泉モニタリングなどの科学的データの収集・調査を行うことによって、地域調整を円滑化し、全国の地熱発電施設数の2030年までの倍増と最大2年程度のリードタイムの短縮を目指しています。
電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)等は、[1]運輸部門の脱炭素化と動く蓄電池として再生可能エネルギー主力電源化を同時達成でき、[2]バッテリーはリユースなどが可能であり、[3]災害時に給電可能で自立・分散型エネルギーシステムの構成要素にもなることから、脱炭素、循環経済、レジリエンス強化を進める鍵となります。
2021年1月、菅義偉内閣総理大臣(当時)は第204回国会の施政方針演説において、脱炭素社会実現に向け、2035年までに新車販売で電動車100%の実現を表明し、同年10月に閣議決定した「地球温暖化対策計画」にも目標として掲げられています。
電気を動力とする電動車には、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車種があります。このうち電気自動車(EV)は、バッテリー(蓄電池)に蓄えた電気でモーターを回転させて走る自動車です。走行時には自動車からの排出ガスは一切なく、走行騒音も大幅に減少します。また、燃料電池自動車(FCV)は、車載の水素と空気中の酸素を反応させて、燃料電池で発電し、その電気でモーターを回転させて走る自動車です。水素を燃料とする場合、排気されるのは水素と酸素の化学反応による水のみとなり、排出ガスは一切ありません。これらの自動車は外部への給電が可能な場合が多く、平時は太陽光等から発生した余剰の再生可能エネルギーによって充電し、必要なタイミングで放電し住宅等で活用する等により、再生可能エネルギーをより有効に活用することが可能となる等、より一層の再生可能エネルギー導入に貢献することが期待されます。また、災害時等の停電時には非常用電源としての活用が期待されています。
また、新たなライフスタイルに合わせた、電気自動車(EV)のシェアリングサービスを活用した脱炭素型地域交通モデル構築に対する支援や、地域の再生可能エネルギーと動く蓄電池としての電気自動車(EV)等を組み合わせて再生可能エネルギー主力電源化とレジリエンス強化の同時実現を図る自立・分散型エネルギーシステム構築に対する支援を実施しています。
初期費用ゼロでの自家消費型の太陽光発電設備・蓄電池の導入支援等を通じて、太陽光発電設備・蓄電池の価格低減を促進しながら、ストレージパリティ(太陽光発電設備の導入に際して、蓄電池を導入しないよりも蓄電池を導入したほうが経済的メリットがある状態)の達成を目指しています。
また、蓄電池を活用することで災害時等に自立的にエネルギー供給が可能となる、レジリエンス強化型のZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の普及促進に向けた支援や公共施設への太陽光発電設備・蓄電池等の導入支援を通じて、地域のレジリエンスと地域の脱炭素化の同時実現を目指しています。
地域の脱炭素化を進めていく上では、再生可能エネルギーの利用の促進が重要ですが、一部の再エネ事業では環境への適正な配慮がなされず、また、地域との合意形成が十分に図られていないこと等に起因した地域トラブルが発生し、地域社会との共生が課題となっています。脱炭素社会に必要な水準の再エネ導入を確保するためには、再エネ事業について適正に環境に配慮し地域における合意形成を促進することが必要です。
このため、地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第54号)により、再エネの利用と地域の脱炭素化の取組を一体的に行うプロジェクトである地域脱炭素化促進事業が円滑に推進されるよう、市町村が再エネ促進区域や、再エネ事業に求める環境保全・地域貢献の取組を自らの計画に位置づけ、適合する事業計画を認定する仕組みが2022年4月に施行されました。地域脱炭素化促進事業に関する制度の目的は、再エネ事業について、適正に環境に配慮し、地域に貢献するものとし、地域と共生することで、円滑な合意形成を図りながら、地域への導入を促進することです。
既に太陽光発電に関する促進区域を設定している先行事例は、2022年12月1日時点では全国4か所で生まれており、国は今後も、地方公共団体における再生可能エネルギーの導入計画の策定や、地域脱炭素化促進事業の促進区域設定等に向けた、ゾーニング等を行う取組への支援等を行っていきます。
2020年1月に策定された「革新的環境イノベーション戦略」を受け、環境・エネルギー分野の研究開発を進める司令塔として、2020年7月から「グリーンイノベーション戦略推進会議」が開催され、関係省庁横断の体制の下、戦略に基づく取組のフォローアップを行ってきました。
また、第203回国会での2050年カーボンニュートラル宣言を受け、2020年12月に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(以下「グリーン成長戦略」という。)が報告され、2021年6月には、更なる具体化が行われました。
グリーン成長戦略においては、技術開発から実証・社会実装までを支援するための2兆円のグリーンイノベーション基金やカーボンニュートラルに向けた投資促進税制等の支援措置のほか、重要分野における実行計画が盛り込まれています。
具体的には、洋上風力・太陽光・地熱産業(次世代再生可能エネルギー)、水素・燃料アンモニア産業等のエネルギー関連産業に加え、自動車・蓄電池産業、半導体・情報通信産業等の輸送・製造関連産業の他に、資源循環関連産業やライフスタイル関連産業等の家庭・オフィス関連産業に係る現状と課題、今後の取組方針等が位置づけられました。
環境省においても脱炭素移行を進めるため、高品質GaN(窒化ガリウム)基板の製造からGaNパワーデバイスを活用した超省エネ製品の商用化に向けた要素技術の開発及び実証、低コスト化を達成するための技術開発等、先端技術の早期実装・社会実装に向けた取組を推進しています。
また、環境省、国立環境研究所、JAXAの共同ミッションとして実施している温室効果ガス観測技術衛星GOSATは、2009年の打上げ以降、二酸化炭素やメタンの濃度を全球にわたり継続的に観測してきました。2018年には、観測精度向上のための機能を強化した後継機GOSAT-2が打ち上げられ、現在、これらのミッションを発展的に継承したGOSAT-GWの開発を進めています。GOSATシリーズから得られるデータを利用して、大規模排出源の特定やパリ協定に基づく各国の排出量報告の透明性の確保を推進し、脱炭素社会への移行を目指しています。
また、資源循環関連産業に係る取組として、バイオプラスチックの利用拡大に向け、2021年1月に「バイオプラスチック導入ロードマップ」を策定し、バイオプラスチックの現状と課題を整理するとともに、ライフサイクル全体における環境・社会的側面の持続可能性、リサイクルをはじめとするプラスチック資源循環システムとの調和等を考慮した導入の方向性を示しました。バイオプラスチックの導入促進に向け、技術開発・実証や設備導入の支援を実施し、社会実装を推進しています。
また、グリーンイノベーションの推進には、新たな環境ビジネスに先駆的に取り組むスタートアップ(以下「環境スタートアップ」という。)や起業家候補人材に対する技術開発等の支援が重要です。環境省では、環境スタートアップの成長ステージに応じ、環境スタートアップ特化型の研究開発支援、ピッチイベントや表彰による事業機会創出、環境技術の性能実証による信用付与等を実施することにより、グリーンイノベーション創出のための環境スタートアップの研究開発、事業化を支援しています。
事例:二酸化炭素の資源化を通じた炭素循環社会モデル構築促進事業(積水化学工業)
環境省では、二酸化炭素の資源化を実現するための課題の克服と、脱炭素社会及び循環型社会の構築促進を目的とした実証事業を実施しています。2019年に採択を受けた積水化学工業では、廃棄物処理施設から排出される二酸化炭素を、水素を活用して一酸化炭素に変換する技術の開発と、一酸化炭素及び水素を用いて、微生物触媒によりエタノールを製造するプロセスを、岩手県久慈市にて商用1/10プラントスケールで実証しています。本技術により、二酸化炭素を石油化学製品の原料となるエタノールにまで変換が可能となり、使用した石油化学製品は廃棄物として処理することにより、再び資源化が可能となります。つまり、炭素資源は大気中に放出されることなく循環的に利用できることになり、特に材料分野での脱炭素社会の構築促進に結びつく技術になり得ると期待されています。
コラム:航空機による大気観測「CONTRAILプロジェクト」
CONTRAILプロジェクトは、日本航空(JAL)が定期運航する旅客機に二酸化炭素濃度連続測定装置(CME)と自動大気サンプリング装置(ASE)の2種類の観測装置を搭載して温室効果ガスを広域で観測する、2005年から開始された取組です。民間航空機を利用した定期的で連続的な温室効果ガスの観測は、当時世界で初めての試みでした。旅客機から得られた観測結果は、飛行経路における温室効果ガスの濃度分布を直接把握できるだけでなく、GOSATシリーズの観測で得られた濃度の比較・検証に使用して、その精度向上に寄与する役割も担っており、全球の温室効果ガスの濃度分布や変動を正確に理解するためになくてはならない存在になっています。
コラム:DX(デジタルトランスフォーメーション)で気候変動対策を促進
近年、DXを通じて気候変動対策を促進する取組が増えてきています。例えば、冷凍空調機器で使用されるフロン類冷媒の漏えいは地球温暖化の原因となりますが、IoT技術を駆使した遠隔監視システムを導入することにより、機器からのフロン類の漏えいを早期に発見し対処することが可能です。このような技術の進展を踏まえ、2022年8月、国は遠隔監視システムによる機器の管理を、フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(平成13年法律第64号)に定める簡易点検を代替するものとして認める告示改正を行いました。このような制度改正と相まって、民間企業において、気候変動対策に資する様々なDX技術の開発と、それらの最新技術を活用したサービスの提供が促進されることにより、気候変動対策が益々進化していくことが期待されます。
事例:環境スタートアップ大賞環境大臣賞(EF Polymer)
環境省では、環境スタートアップの創出の加速化を目的として「環境スタートアップ大賞」を実施しており、外部有識者が環境スタートアップの環境保全性・革新性・成長性等を評価し、優れた環境スタートアップを表彰しています。2021年度に環境大臣賞を受賞した「EF Polymer」は、通常廃棄される、果物の搾りかすなどの食品の不可食部分から開発した生分解性の超吸収性ポリマーの開発を行っています。ポリマーが持つ保水性や保肥性を活かし、干ばつによる水不足に悩む地域の農地や、豪雨等による土壌流出の防止や農地被害の防止に活用されはじめており、製品の普及を通じて様々な社会課題の解決を目指す同社の取組が高く評価されました。
事例:イノベーション創出のための環境スタートアップ研究開発支援事業(イーアイアイ)
「イノベーション創出のための環境スタートアップ研究開発支援事業」では、環境スタートアップ特化型の研究開発支援を実施しており、環境保全に資する技術シーズの事業化に必要な技術の採算性調査・概念実証、実用化研究等、段階に応じた継続的な支援をしています。2021年度から2022年度の2か年にわたって採択を受けたイーアイアイでは、飲料容器(びん、缶、PET)の手選別処理ラインで導入可能な人間支援型のAI自動選別ロボットの開発を行っています。人手に頼ることが多いびんの色選別(茶、白、ミックス)の自動化は、飲料容器の選別における類例が少なく、地域の中小事業者の労働環境の改善やリサイクル事業の生産性の向上が期待されています。
石炭火力発電は安定供給性と経済性に優れていますが、排出係数が、最新鋭のものでも天然ガス火力発電の約2倍であり、CO2の排出量が多いという課題があります。加えて、電力部門におけるCO2排出係数が大きくなることは、産業部門や業務その他部門、家庭部門における省エネの取組(電力消費量の削減)による削減効果に大きく影響を与えます。このため、電力部門の取組、とりわけ石炭火力発電への対応は、脱炭素化に向けて非常に重要です。
2050年カーボンニュートラル実現に向けて、火力発電から大気に排出されるCO2排出を実質ゼロにしていくことが必要です。一方で、火力発電は、東日本大震災以降の電力の安定供給や電力レジリエンスを支えてきた重要な供給力であるとともに、現時点の技術を前提とすれば、再生可能エネルギーを最大限導入する中で、再生可能エネルギーの変動性を補う調整力としての機能も期待されることを踏まえ、安定供給を確保しつつ、その機能をいかにして脱炭素電源に置き換えていくかが鍵となります。
このため、2030年度の新たな温室効果ガス削減目標の実現に向けては、安定供給の確保を大前提に、石炭火力発電の発電比率を可能な限り引き下げることとしています。具体的には、非効率な石炭火力発電について、省エネ法の規制強化により最新鋭のUSC(超々臨界)並みの発電効率(事業者単位)をベンチマーク目標として新たに設定するとともに、バイオマス等について、発電効率の算定時に混焼分の控除を認めることで、脱炭素化に向けた技術導入の促進につなげていくこととしたほか、容量市場においては、2025年度オークションから、一定の稼働率を超える非効率な石炭火力発電に対して、容量市場からの受取額を減額する措置を導入するなど、規制と誘導の両面から措置を講じることにより非効率の石炭火力発電のフェードアウトを着実に推進していきます。また、発電事業者はフェードアウト計画を毎年度作成し経済産業大臣に届出するとともに、経済産業省は全事業者を統合した形で2030年に向けたフェードアウトの絵姿を公表することとしております。
さらに、2050年カーボンニュートラルに向けては、グリーンイノベーション基金なども活用して、水素・アンモニアの混焼・専焼化やCO2回収・有効利用・貯留(CCUS/カーボンリサイクル)の技術開発・実装を加速化し、脱炭素型の火力発電に置き換える取組を推進していくこととしています。
なかでも、我が国では、2023年3月にとりまとめられた「CCS長期ロードマップ」において、2030年までに事業開始に向けた事業環境を整備し、2030年以降に本格的にCCS事業を展開することを目標としております。環境省では商用規模の火力発電所におけるCO2分離回収設備の建設・実証により、CO2を分離回収する場合のコストや課題の整理、環境影響の評価等を行うとともに、経済産業省と連携し、CCS導入に必要なCO2の貯留可能な地点の選定のため、大きな貯留ポテンシャルを有すると期待される地点を対象に、地質調査や貯留層総合評価等を実施しています。さらに、化石燃料等の燃焼に伴う排ガス中のCO2を原料とした化学物質を社会で活用するモデル構築等を通じ、CCUSの早期社会実装のため、商用化規模の早期の技術確立を目指し、普及に向けた取組を加速化していきます。
持続可能な社会の実現に向けて産業・社会構造の転換を促すには、巨額の資金が必要であり、民間資金の導入が不可欠です。また、持続可能な社会の構築は、金融資本市場や金融主体自身にとっても便益をもたらすものであり、ESG金融(環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)といった非財務情報を考慮する投融資)に係る取組が自らの保有する投融資ポートフォリオ全体のリスク・リターンの改善につながる効果があるとも期待されます。さらに、ESG要素を投融資の判断に組み込むことは、ESGに係る投融資先のリスクの低減や、新しい投資機会の発見にもつながります。こうした背景から、脱炭素社会への移行や持続可能な経済社会づくりに向けたESG金融の推進は、SDGsを達成し持続可能な社会を構築する上で鍵となり、世界各国でも政策的に推進され、欧米から先行して普及・拡大してきました。このようなESG要素に配慮した資金の流れは、我が国においても近年急速に拡大しています(図2-1-6)。
環境省では、金融・投資分野の各業界トップと国が連携して、ESG金融に関する意識と取組を高めていくための議論を行い、行動する場として2019年2月より「ESG金融ハイレベル・パネル」を開催しています。2023年3月に開催された第6回では、GX(グリーントランスフォーメーション)と循環経済(サーキュラーエコノミー)や自然再興(ネイチャーポジティブ)をテーマに議論が行われました。前半では、GX実行会議で示された方針を踏まえた各金融主体の取組について議論が交わされ、後半では、脱炭素社会への移行と相互に関係する循環経済への移行や自然再興の取組について、自然資本に関する情報開示ルールを策定している自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)による動き等の国際的な動向を踏まえ、GXの取組と統合的に推進するための方策について議論されました。
さらに、再生可能エネルギーなど、グリーンプロジェクトに対する投資を資金使途としたグリーンボンドについて、2017年より、環境省で国際資本市場協会(ICMA)が作成している国際原則に基づき国内向けのガイドラインの策定等により国内への普及に向けた取組を進めています。また、世界の市場では、特に気候変動分野を中心に、いわゆる「グリーンウォッシュ」への対応など品質確保の観点が課題となっており、EUにおけるタクソノミー規制の策定をはじめとして、各国において政策的な対応も進んでいます。このような国内外の動静や国際原則の改定を踏まえ、我が国のサステナブルファイナンス市場を更に健全かつ適切に拡大していく観点から、環境省は「グリーンファイナンスに関する検討会」を設置し、2022年7月に「グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン2022年版」、「グリーンローン及びサステナビリティ・リンク・ローンガイドライン2022年版」を策定しました。これらのガイドラインにおいては、今後大きな拡大が期待されるサステナビリティ・リンク・ボンドのガイドラインを新規策定したほか、グリーン性の判断基準の明確化や、資金調達者による市場説明の強化等を行い、利便性向上とグリーンウォッシュ防止の双方に対応しています。また、炭素中立型の経済社会実現のためには巨額の投資が必要とされており、我が国においては、クリーンエネルギー戦略中間整理において、今後10年間に官民で150兆円の投資が必要と試算されています。企業の気候変動対策投資とそれへの資金供給を更に強化するためには、[1]企業や金融機関がグリーン、トランジション、イノベーションへの投資を行う際の環境整備を図ること、[2]金融資本市場等において、排出量の多寡のみならず、GXへの挑戦・実践を行う企業への新たな評価軸を構築することや、[3]マクロでの気候変動分野への資金誘導策を検討することが必要です。金融庁、経済産業省、環境省では、2022年8月に「産業のGXに向けた資金供給の在り方に関する研究会(GXファイナンス研究会)」を設置し、GX分野における民間資金を引き出していくための第一歩として、同年12月に施策パッケージを取りまとめました。
気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、各国の財務省、金融監督当局、中央銀行からなる金融安定理事会(FSB)の下に設置された作業部会です。投資家等に適切な投資判断を促すため、気候関連財務情報の開示を企業等に求めることを目的としています。2017年6月に、自主的な情報開示のあり方に関する提言(TCFD報告書)を公表し、2023年3月末時点で、世界で4,378の機関(金融機関、企業、政府等)、うち我が国では世界第1位の1,266の機関がTCFDへの賛同を表明しています(図2-1-7)。環境省、金融庁及び経済産業省も、報告書を踏まえた企業の取組をサポートしていく姿勢を明らかにするため、TCFDへの賛同を表明しています。
パリ協定では、世界共通の長期目標として、工業化前からの世界全体の平均気温の上昇を2℃より十分下方に抑えるとともに、1.5℃に抑える努力を継続することが盛り込まれています。このパリ協定の採択を契機に、パリ協定に整合した科学的根拠に基づく中長期の温室効果ガス削減目標(SBT)を企業が設定し、それを認定するという国際的なイニシアティブが大きな注目を集めています。2023年3月末時点で、認定を受けた企業は世界で2,456社、我が国でも既に400社が認定を受けています(図2-1-8)。
サプライチェーンにおける温室効果ガスの排出は、燃料の燃焼や工業プロセス等による事業者自らの直接排出(Scope1)、他者から購入した電気・熱の使用に伴う間接排出(Scope2)、事業の活動に関連する他社の排出等その他の間接排出(Scope3)で構成されます。取引先がサプライチェーン排出量の目標を設定すると、自社も取引先から排出量の開示・削減が求められます。SBT認定を取得している日本企業の中でも、主要サプライヤーにSBTと整合した削減目標を設定させるなど、サプライヤーに排出量削減を求める企業が増加しており、大企業だけでなく、サプライチェーン全体での脱炭素化の動きが加速しています。
環境省は、SBT目標等の設定支援やその達成に向けた削減行動計画の策定支援、さらには、脱炭素経営に取り組む企業のネットワークの運営等を行いました。
RE100とは、企業が自らの事業活動における使用電力を100%再生可能エネルギー電力で賄うことを目指す国際的なイニシアティブであり、各国の企業が参加しています。
2023年3月末時点で、RE100への参加企業数は世界で403社、うち我が国の企業は78社にのぼります(図2-1-9)。日本企業では、建設業、小売業、金融業、不動産業など様々な業界の企業において、再生可能エネルギー100%に向けた取組が進んでいます。RE100に参加することにより、脱炭素化に取り組んでいることを対外的にアピールできるだけではなく、RE100参加企業同士の情報交換や新たな企業とのビジネスチャンスにもつながります。
なお、中小企業・自治体等向けの我が国独自の枠組みである「再エネ100宣言 RE Action」は、2023年3月末時点での参加団体数は305にのぼります。各団体は遅くとも2050年までの再生可能エネルギー100%化達成を目指しています。
環境省では、2018年6月に、公的機関としては世界で初めてのアンバサダーとしてRE100に参画し、環境省自らも使用する電力を2030年までに100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す取組を実施しています。
我が国は、途上国などに対して優れた脱炭素技術やインフラ等を導入することにより排出削減に貢献する「二国間クレジット制度(JCM)」を展開しています。2022年には、JCMパートナー国として新たに8か国が加わり25か国まで拡大するとともに、これまで240件以上の再エネや省エネの技術導入等の脱炭素プロジェクトを実施してきています。2021年10月に閣議決定された「地球温暖化対策計画」においては、JCMについて、「官民連携で2030年度までの累積で、1億t-CO2程度の国際的な排出削減・吸収量の確保」を目標として掲げています。2023年3月に開催されたアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)官民投資フォーラム及びAZEC閣僚会合において、アジアに対する我が国の貢献の1つとしてJCMについて発表しました。引き続きJCMの拡大を進めることで、世界の脱炭素化に貢献するとともに、日本企業の海外展開を促進していきます。
また、パリ協定第6条に沿ったJCMを含む市場メカニズム、いわゆる「質の高い炭素市場」の構築のため、COP27において、我が国が主導し60を超える国や機関の参加表明を得て「パリ協定6条実施パートナーシップ」を立ち上げました(2023年3月23日現在、64か国、27機関が参加)(写真2-1-3)。このパートナーシップでは、パリ協定第6条を実施するための各国の理解や体制の構築を促進することとしています。これにより、世界各国でJCMの活用の機会が広がることが期待されており、今後も参加する国や機関を拡大しながら国際的な連携を更に強化していきます。
また、官民連携の枠組みとして、2020年9月に設立した環境インフラ海外展開プラットフォーム(JPRSI)を活用し、環境インフラの海外展開に積極的に取り組む民間企業の活動を後押ししていきます。具体的な活動として、現地情報へのアクセス支援、日本企業が有する環境技術等の海外発信、タスクフォース・相談窓口の運営等を通じた個別案件形成・受注獲得支援を行っています。
さらに、2021年度から、再生可能エネルギー由来水素の国際的なサプライチェーン構築を促進するため、再生可能エネルギーが豊富な第三国と協力し、再生可能エネルギー由来水素の製造、島嶼(しょ)国等への輸送・利活用の実証事業を開始しました。
これらの取組を通じて、世界の脱炭素化、特に、アジアの有志国からなるプラットフォームを構築し、地域の特性を踏まえながら、脱炭素化と経済成長を目指す「アジア・ゼロエミッション共同体」構想の実現にも貢献し、気温上昇を1.5℃に抑制するために、できるだけ早く、できるだけ大きな削減を実現できるよう支援していきます。