環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第4章>第7節 放射線に係る住民の健康管理・健康不安対策

第7節 放射線に係る住民の健康管理・健康不安対策

1 福島県における健康管理

国は、福島県の住民の方々の中長期的な健康管理を可能とするため、福島県が2011年度に創設した福島県民健康管理基金に交付金を拠出するなどして福島県を財政的、技術的に支援しており、福島県は、同基金を活用し、2011年6月から県民健康調査等を実施しています。具体的には、[1]福島県の全県民を対象とした個々人の行動記録と線量率マップから外部被ばく線量を推計する基本調査、[2]「甲状腺検査」、「健康診査」、「こころの健康度・生活習慣に関する調査」、「妊産婦に関する調査」の詳細調査を実施しています。また、ホールボディ・カウンタによる内部被ばく線量の検査や、市町村に補助金を交付し、個人線量計による測定等も実施しています。

「甲状腺検査」について、2016年3月に福島県「県民健康調査」検討委員会が取りまとめた「県民健康調査における中間取りまとめ」では、甲状腺検査の先行検査(検査1回目)で発見された甲状腺がんについては、放射線による影響とは考えにくいと評価されています。さらに、2019年7月、同検討委員会において、「現時点において、本格検査(検査2回目)に発見された甲状腺がんと放射線被ばくの間の関連は認められない。」と評価されています。

また、「妊産婦に関する調査」については、2020年8月、同検討委員会において、「これまでの調査結果では、調査方法が異なり単純な比較はできないものの、県内での早産率、低出生体重児出生率、先天奇形・先天異常の発生率等は全国的な平均等と大きく変わらない。」と報告されています。さらに、調査の今後の方向性について、福島県内で母子健康手帳を交付された方等を対象にした本調査は2020年度までとし、総合的な相談対応や支援を継続して行うこと、出産約4年後に行われるフォローアップ調査は、2019年度及び2020年度における2回目のフォローアップ調査を踏まえ、今後の調査継続の必要性及び今後の支援方法について検討を継続することが提案されています。

2 国による健康管理・健康不安対策

環境省では、2015年2月に公表した「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議の中間取りまとめを踏まえた環境省における当面の施策の方向性」に基づき、[1]事故初期における被ばく線量の把握・評価の推進、[2]福島県及び福島近隣県における疾病罹患動向の把握、[3]福島県の県民健康調査「甲状腺検査」の充実、[4]リスクコミュニケーション事業の継続・充実に取り組んでいます。

[1]事故初期における被ばく線量の把握・評価の推進

大気拡散シミュレーションや住民の行動データ、ホールボディ・カウンタ等による実測値等、被ばく線量に影響する様々なデータを活用し、事故後の住民の被ばく線量をより精緻に評価する研究事業を実施しています。

[2]福島県及び福島近隣県における疾病罹患動向の把握

福島県及び福島近隣県における、がん及びがん以外の疾患の罹患動向を把握するために、人口動態統計やがん登録等の統計情報を活用し、地域ごとに、循環器疾患を含む各疾病の罹患率及び死亡率の変化等を分析する研究事業を実施しています。

[3]福島県の県民健康調査「甲状腺検査」の充実

福島県は、県民健康調査「甲状腺検査」の結果、引き続き医療が必要になった方に対して、治療にかかる経済的負担を支援するとともに、診療情報を活用させていただくことで「甲状腺検査」の充実を図る「甲状腺検査サポート事業」に取り組んでおり、国は、この取組を支援しています。そのほか、国として甲状腺検査の結果、詳細な検査(二次検査)が必要になった方へのこころのケアを充実させるため、また県内検査者の育成や県外検査実施機関の拡充に向け、医療機関への研修会等を開催しています。

[4]リスクコミュニケーション事業の継続・充実

福島県内では、2014年度から福島県いわき市に「放射線リスクコミュニケーション相談員支援センター」を開設し、避難指示が出された12市町村を中心に、住民を支える放射線相談員や自治体職員等の活動を科学的・技術的な面から組織的かつ継続的な支援を実施していくため、研修会や車座集会の開催等を行っています。

そのほか、希望する住民には、個人線量計を配布して外部被ばく線量を測定してもらい、またホールボディ・カウンタによって内部被ばく線量を測定することにより、住民に自らの被ばく線量を把握してもらうとともに、専門家から測定結果や放射線の健康影響に関する説明を行うことにより、不安軽減へつなげています。

一方、福島県外では、住民からの相談に対応する保健医療福祉関係者、自治体職員等の人材育成のための研修や、地域のニーズを踏まえた住民セミナーの開催等のリスクコミュニケーション事業に取り組んでいます。