環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第4章 東日本大震災から10年を迎えた被災地の復興と環境再生の取組>第1節 放射性物質汚染からの環境回復の状況

第4章 東日本大震災から10年を迎えた被災地の復興と環境再生の取組

2011年3月11日、マグニチュード9.0という日本周辺での観測史上最大の地震が発生しました。

この地震により引き起こされた津波によって、東北地方の太平洋沿岸を中心に広範かつ甚大な被害が生じるとともに、東京電力福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)の事故によって大量の放射性物質が環境中に放出されました。また、福島第一原発周辺に暮らす多くの方々が避難生活を余儀なくされました。

2021年は東日本大震災から10年が経過した節目の年に当たります。これまで、除染や中間貯蔵施設の整備、特定廃棄物の処理、帰還困難区域における特定復興再生拠点区域の整備等の復興・再生に向けた事業が続けられてきました。2020年3月までに、帰還困難区域以外の避難指示区域(避難指示解除準備区域及び居住制限区域の全域)で避難指示が解除され、帰還困難区域についても同年3月のJR常磐線の全線運転再開にあわせて、双葉町、大熊町、富岡町の一部区域で初めて避難指示が解除されました。

引き続き、福島県内除去土壌等の県外最終処分の実現に向けた取組を始め、環境再生の取組を着実に進めるとともに、脱炭素・資源循環・自然共生といった環境の視点から地域の強みを創造・再発見する未来志向の取組を推進していきます。

ここでは、福島第一原発の事故に由来する放射性物質の汚染からの環境再生・復興に向けたこれまでの取組を概観します(図4-1-1)。

図4-1-1 事故由来放射性物質により汚染された土壌等の除染等の措置及び汚染廃棄物の処理等のこれまでの歩み

第1節 放射性物質汚染からの環境回復の状況

1 空間線量率の状況

航空機モニタリングによる、2020年10月時点の福島第一原発から80km圏内の地表面から1mの高さの空間線量率の平均は、2011年11月時点と比べて約80%減少しています。福島第一原発事故によって放出された放射性物質は、主にヨウ素131、セシウム134、セシウム137で、半減期はそれぞれ約8日、約2年、約30年となっています。放射性物質の物理的減衰と降雨等の自然要因による減衰効果を考慮して、2011年8月時点と比較して2年後に約4割、5年後に約5割減少すると推定されていました。放射線量の減少は、この推定を上回るペースで進んでおり、除染の効果や降雨等の自然現象の影響等によるものと考えられます(図4-1-2)。

図4-1-2 東京電力福島第一原子力発電所80km圏内における空間線量率の分布

2 水環境における放射性物質の状況

環境省では、2011年から福島県及び周辺地域の水環境における放射性物質のモニタリングを継続的に実施しています。公共用水域(河川、湖沼、沿岸)のうち沿岸では、2019年度までの全期間を通じて、水質から放射性セシウムは検出されていません。河川及び湖沼については、2013年度以降、福島県以外の水質では放射性セシウムは検出されておらず、福島県の水質においても、検出率及び検出値は減少傾向にあります(図4-1-3)。また、地下水中の放射性セシウムについては、2011年度に福島県において検出されたのみで、2012年度以降検出されていません。

図4-1-3 福島県及びその周辺における公共用水域の放射性セシウムの検出状況

3 東京電力福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質に係るモニタリング

福島第一原発事故により環境中に放出された放射性物質のモニタリングについては、政府が定めた「総合モニタリング計画」(2011年8月モニタリング調整会議決定、2021年4月改定)に基づき、関係府省、地方公共団体、原子力事業者等が連携して実施しています。また、放射線モニタリング情報のポータルサイトにおいて、モニタリングの結果を一元的に情報提供しています。

4 野生動植物への影響のモニタリング

福島第一原発の周辺地域での放射性物質による野生動植物への影響を把握するため、関係する研究機関等とも協力しながら、野生動植物の試料の採取、放射能濃度の測定、推定被ばく線量率による放射線影響の評価等を進めました。また、関連した調査を行っている他の研究機関や学識経験者と意見交換を行いました。

5 野生鳥獣への影響と鳥獣被害対策

福島第一原発の事故以降、放射線量の高い帰還困難区域等においては、農業生産活動等の人為活動が停滞し、狩猟や被害防止目的の捕獲を行うことが難しい状況となり、イノシシ等の野生鳥獣の人里への出没が増加し、農地を掘り返したり、家屋に侵入したりする被害が発生しています。

これらの鳥獣をこのまま放置すれば、住民の帰還準備や帰還後の生活、地域経済の再建に大きな支障が生じるおそれがあることから、2013年度から帰還困難区域等において、イノシシ等の生息状況調査及び捕獲を実施しています。2020年度は、5町村(福島県富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村)でイノシシが計2,252頭、アライグマ、ハクビシンが計527頭捕獲されました。

6 国際機関との連携

海域で実施する放射性物質のモニタリング(海域モニタリング)に関し、モニタリングを実施する日本国内の分析機関が適切な試料の採取手法、分析能力及び分析の正確性を有するかについて、2014年から継続して国際原子力機関(IAEA)によるレビューを受けています。

7 ALPS(アルプス)処理水の海洋放出

2021年4月、廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議において、多核種除去設備等処理水(以下「ALPS(アルプス)処理水」という。)の処分について、2年後を目途に、国内の規制基準を厳格に遵守することを前提に、ALPS(アルプス)処理水を海洋放出するとの基本方針が決定されました。

上記基本方針においては、ALPS(アルプス)処理水の海洋放出に当たり、トリチウム以外の放射性物質が規制基準を確実に下回るまで浄化されていることを確認した上で、取り除くことの難しいトリチウムの濃度は、海水で大幅に希釈することにより、規制基準(60,000ベクレル/L)を厳格に遵守するだけでなく、消費者等の懸念を少しでも払拭するよう、現在実施している福島第一原発の排水濃度の運用目標(1,500ベクレル/L未満)と同じ水準とするとしています。また、ALPS(アルプス)処理水の放出前から、政府及び東京電力ホールディングスはトリチウムに関する海域モニタリングを強化・拡充し、その際、IAEAの協力を得て分析機関の相互比較を行うなどにより分析能力の信頼性を確保すること、東京電力ホールディングスが実施する試料採取、検査等に農林水産業者や自治体関係者等が参加すること、専門家等による新たな会議を立ち上げ、海域モニタリングの実施状況について確認・助言を行うことなどにより、客観性・透明性を最大限高めることとしています。