環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第3章>第2節 ポストコロナ時代のワーク・ライフスタイルの在り方

第2節 ポストコロナ時代のワーク・ライフスタイルの在り方

1 ワークスタイルの新たな潮流

新型コロナウイルス感染症の感染防止のため、いわゆる三つの「密」を避け、極力非接触・非対面とする新たな生活様式は、働き方を大きく変えつつあります。ICTの活用によるテレワークは、働き方改革を推進するに当たっての強力なツールの一つであり、また今般の新型コロナウイルス感染症対策として人と人との接触を極力避け、業務継続性を確保するためにも不可欠です。休暇中に滞在先で仕事をするワーケーションも多様な休み方や働き方が可能となる環境づくりの一つに寄与します。以下では、ポストコロナ時代のワーク(働き方)の在り方を紹介します。

(1)テレワークの普及拡大

新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためには、多くの人が集まる場所での感染の危険性を減らすことが重要です。通勤ラッシュや人混みを回避し、在宅での勤務も可能となるテレワークは、その有効な対策の一つです。

テレワークはICTを活用した時間と場所を有効に活用できる柔軟な働き方のことで、ワーク・ライフ・バランスの向上や通勤による疲労軽減、地方における就業機会の増加等に寄与します。

2020年4月の7都道府県への緊急事態宣言以降、全国的にテレワークの実施率が上昇し、緊急事態宣言の解除後もほぼ横ばいとなっているという調査結果があります(図3-2-1)。また、テレワーク実施者に対する新型コロナウイルス感染症の感染拡大収束後のテレワーク実施についての調査によると、継続を希望する割合が増加傾向にあります(図3-2-2)。

図3-2-1 テレワーク実施率(全国平均)の推移
図3-2-2 コロナ収束後のテレワーク継続希望率

コロナ禍で急速に広まりつつあるテレワークは、環境面で様々な影響を及ぼすことが考えられます。例えば、家庭・業務・運輸等の様々な部門におけるエネルギー消費・CO2排出への影響です。通勤や出張等の減少により、日頃の自家用車や電車等の移動方法によって影響は異なるものの、人の移動に伴う運輸部門のエネルギー消費量の減少が見込まれます。一方で、在宅時間の長期化により、家庭でのエネルギー消費量や、データセンターを始めとする情報通信インフラにおけるエネルギー消費量の増加が見込まれます。また、在宅により家庭から排出される一般廃棄物の増加とともに、産業廃棄物については事業所で排出される廃棄物の減少が見込まれます。

テレワークは、移動に伴うCO2排出量の削減やペーパーレス化等の環境保全効果も期待されているため、今後は実施に伴う環境影響も考慮しつつ、多様な働き方の一つとして選択することが重要です。

コラム:ESGの視点から考えるテレワークの推進

テレワークは、一人一人のライフスタイルに合わせた勤務形態としてワーク・ライフ・バランスに資することができ、多様な人材の能力発揮が可能となります。

例えば、テレワーク先駆者百選の総務大臣賞を受賞した富士通では「イノベーションによって、社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」ということをパーパス(会社の存在意義)とし、イノベーション創出に向けた取組として、働き方改革を進めています。2017年にテレワーク勤務制度を導入し、2019年度には週1回以上テレワーク勤務を実施する従業員が約40%となる等、かねてより取り組みを進めてきました。2020年4月以降の緊急事態宣言下においては、原則テレワーク勤務としたこともあり、テレワーク勤務の割合は約90%に達しました。また、2020年7月にはWork Life Shiftというニューノーマルにおける新たな働き方のコンセプトを発表しています。テレワークをベースとした働き方のため、光熱費や通信費、デスク等の環境整備サポート費用として月5,000円を全社員に支給する等、人事制度と環境整備の両面から様々な施策を推進したことで、テレワーク勤務の割合は緊急事態宣言解除後も約80%を維持しています。富士通は、今後もニューノーマルにおける新たな働き方を追求し、Well-Beingを実現していくとしています。

Work Life ShiftのConcept

企業の事業活動において、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素を考慮することは、企業価値を向上させることにつながります。その観点から、テレワークは従業員の労働環境に配慮した取組としてESGに資する事業活動とも考えられます。

企業におけるテレワークの導入により、事業所等における温室効果ガス排出量の削減等につながりますが、それぞれの家庭で冷暖房等の家電使用による温室効果ガスや一般廃棄物の排出量への影響も考えられます。テレワーク等の導入においては、環境負荷の軽減と柔軟な働き方の両立が重要と思われます。

(2)個人による働く場所の選択

ワーケーションは、「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語です。普段とは異なる環境で仕事をしつつ、別の日や時間帯に休暇を取ったりすることで、自らの業務に対するモチベーションを向上させ、創造性や生産性を高めることができます。また、家族や友人と過ごす時間を増やすことなどにより、個人としてのワーク・ライフ・バランスを図ることのできる働き方にもなり得ます。滞在先の地域にとっても関係人口が増え、地域の活性化にもつながります。

従来の日本の観光スタイルは、特定の時期に一斉に休暇を取得する、宿泊日数が短いといった特徴があります。新型コロナウイルス感染症による社会影響を踏まえて、休暇取得や分散化に向けた滞在型の「新たな旅のスタイル」の普及が必要となっています。ワーケーションの推進のためには、企業及び従業員が双方にメリットがあることを互いに認識し、地域の活性化につながるような制度として導入されることが重要です。

ワーケーションは、テレワーク等を活用して、国立公園やリゾート地、温泉地等で行う働き方の一つで、休暇型と業務型の2パターンがあります。休暇型では、有給休暇を活用してリゾートや観光地等でテレワークを行います。業務型は、地域の関係者との交流を通じて、地域課題の解決を共に考えながらビジネスの創出を目指します。また、合宿のように場所を変えた上で職場のメンバーと議論を行う、またはサテライトオフィスやシェアオフィスで勤務を行う形態があります。

ワーケーション等の活用により、個人や企業それぞれが働く場所を選択することで、それぞれに適した福利厚生や生産性の向上等の効果が期待されます。

2 ライフスタイルの更なる変革

世界は、気候変動問題や新型コロナウイルス感染症の拡大を始め、危機的状況に直面していると言えます。このような状況は、経済・社会システムに起因するものであると同時に、物質的な側面等での利便性の高い生活を追い求めてきた私たちのライフスタイルと切り離して考えることはできません。以下では、私たちの日々の暮らしに欠かすことのできない衣食住や移動について、私たち一人一人が環境保全に貢献できる取組や、政府や企業等が、暮らしを豊かにしながら環境保全にも貢献する取組を紹介します。

(1)住まい
ア みんなでおうち快適化チャレンジ

菅義偉内閣総理大臣は、第203回国会の所信表明演説で、「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すこと」を宣言しました。2050年カーボンニュートラルの実現には脱炭素型のライフスタイルへの転換が必要です。また、コロナ禍において、家庭で過ごす時間が増え、世帯当たりエネルギー消費量の増加傾向が見られます。これらを踏まえると、「おうち時間」に焦点を当てて、新たな日常の脱炭素化を進める必要があります。

そこで、環境省では、2020年11月から「みんなでおうち快適化チャレンジ」キャンペーンを開始しました(図3-2-3、写真3-2-1)。

図3-2-3 キャンペーンロゴ
写真3-2-1 キックオフイベント

本キャンペーンでは、冬を迎え寒くなり、暖房使用等による家庭でのエネルギー消費の大きくなるタイミングを捉え、家庭の省エネ対策としてインパクトの大きい、断熱リフォーム・ZEH(ゼッチ)化と省エネ家電への買換えを、関係省庁及び関係業界等と連携して呼び掛け、国民一人一人の行動変容を促していくことにより、脱炭素で快適、健康、お得な新しいライフスタイルを提案しています。

コラム:ナッジを活用した行動変容(楽天、電力シェアリング)

ナッジ(nudge:そっと後押しする)とは、行動科学の知見の活用により、「人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるように手助けする政策手法」です。環境への取組についても、ナッジにより人々に気づきを与えることを通じて、関心が低い人も社会課題に関心を持って自分事化し、前向きで主体的に楽しみながら、できることから一つずつ取り組むようになることが期待されます。環境省のナッジ事業の一環として、楽天では2018年度から宅配便の再配達防止を通じたCO2排出量の削減やトラックドライバーの労働時間削減のための実証実験に取り組んでいます。1回で荷物を受け取れなかった人の約4割がアンケートで「配達されることを知らなかった」と回答したことを受け、配達を事前に伝えることが効果的であるのではないかと考え、スマートフォンのアプリに荷物の配送状況をポップアップ表示で分かりやすく伝える機能を搭載し、効果を検証しました。その結果、荷物の到着予定を通知することで1回での受取率が11%増加することが実証されました。

宅配便の配送ステータス通知

また、電力シェアリングでは、生産・流通過程を含むサプライチェーン全体でCO2排出量実質ゼロの野菜を販売し、消費者の選好を2020年度から調査しています。具体的には再生可能エネルギーの利用や、J-クレジットでのオフセットにより、CO2排出量を実質ゼロにしています。CO2排出量実質ゼロの環境に配慮した野菜であることをポップやシールで説明し、通常の野菜と並べて横浜市の農家の直売所やインターネットで販売したところ、売上額の約3割を占めました。

CO2排出量実質ゼロの環境に配慮した野菜の販売
イ 再生可能エネルギー電力の選択

太陽光発電設備等を自宅に設置する以外にも、家庭で使用する電力を再生可能エネルギー由来のものにする方法があります。

現在、全国では、複数の小売電気事業者が太陽光や風力等の再生可能エネルギー由来の電力メニューを一般家庭向けに提供しています。こうした電力を購入することで、家庭での使用電力を再生可能エネルギー由来のものへと切り替えることができます。再生可能エネルギー由来の電力メニューを選択する家庭が増えることで、家庭部門からの排出削減に加え、再生可能エネルギーに対する需要が高まり、市場の拡大を通じて再生可能エネルギーの更なる普及拡大につながることが期待されます。

再生可能エネルギー由来の電力を選択する家庭を増やすため、自治体による支援も行われています。例えば、東京都では、2019年度から、再生可能エネルギー由来の電力の購入を希望する家庭等を募り、購買力を高めることで、安い電力料金で各家庭等に再生可能エネルギー由来の電力を利用してもらう「みんなでいっしょに自然の電気」キャンペーンを実施しており、さらに2020年度は、近隣自治体とも連携してキャンペーンを拡大して実施するなど、このような取組が広がりつつあります。

(2)食
ア 食と環境とのつながり

食は、私たちの健康的な暮らしのために欠かすことのできない大事なものであるとともに、美味しい食は私たちの生活を豊かにするものです。しかし、近年の我が国の食生活は、飽食とも言われるほど豊かになっている反面、脂質や塩分を摂り過ぎるなどの栄養バランスの偏りや、食料資源の浪費等の問題が生じています。そのため、食においては、まずは肉や魚、野菜等の栄養バランスを考慮し、健康で豊かな食生活を心がけることが大切です。

また、食の生産から加工、廃棄に至るまでのライフサイクルにおいては、CO2や廃水の排出、化学農薬や化学肥料の使用、農地への転用に伴う森林開発、食品廃棄物といった環境負荷が生じる可能性があるため、食における環境負荷を意識することも重要です。IPCCが2019年に公表した土地関係特別報告書でも、世界の食料システムにおける温室効果ガス排出量(食料の生産、加工、流通、調理、消費等に関連する排出量)は、人為起源の排出量の21~37%を占めると推定されること、食品ロス・食品廃棄物を削減する政策や食生活における選択に影響を与える政策といった食料システムに関連する政策は、気候変動対策に資することなど、食と気候変動問題が密接に関係していることが示されています。

例えば、平均的な日本人の食事に伴う1人当たりのカーボンフットプリントは年間1,400kgCO2e(温室効果ガスの種類別排出量合計を地球温暖化係数に基づいてCO2 量に換算した排出量)と試算されています(図3-2-4)。その中でも、肉類、穀類、乳製品の順でカーボンフットプリントが高く、特に肉類は少ない消費量に対して、全体の約1/4を占めるほどの高い温室効果ガス排出原単位となっています。肉類は飼料の生産・輸送に伴うCO2排出に加え、家畜の消化器からのメタン(CH4)発生等から、その他と比較して高い排出原単位となっています。また、穀類は米が水田からのCH4発生等から、他の作物と比較して高い排出原単位となり、我が国では米を多く消費するため、カーボンフットプリントが高い傾向にあります。

図3-2-4 日本人の食に関連するカーボンフットプリント及び物的消費量の割合(2017年)

私たちの日常生活の一部である食においても、何を食べるのかという選択、そして食べた後の配慮の積み重ねが環境に大きな影響を与えていると言えます。

イ 食における地域資源の活用

肉や魚、野菜等の農林水産物は、森里川海やその連関が形成する豊かな自然の恵み(生態系サービス)がもたらす地域の自然資源で、地域固有の伝統文化の一つです。

地域の農林水産物を地域で消費する地産地消は、食料自給率の向上に加え、直売所や加工等の取組を通じて、地域内での経済循環を高め、6次産業化等の産業の活性化につながります。

そして、地産地消によって、私たちの食生活は豊かになるだけでなく、災害発生時にはその地域内での食料供給の確保にも貢献が期待でき、輸送等に係るCO2排出量の削減や本来廃棄されるはずだった資源の活用など環境負荷を低減できます。

例えば、地域の有害鳥獣駆除で捕獲されたニホンジカやイノシシ等は、自家消費を除き、その多くが埋設や焼却されており、未活用の状況です。これらをジビエとして有効活用することで、農山村の所得向上や、有害鳥獣の捕獲意欲が向上し、農作物被害や生活環境被害の軽減につながることが期待できます。また、新たな食文化の創造として、外食や小売等を始め、農泊や観光、学校給食での提供、さらにはペットフードなど様々な分野での利用が進むことで、なじみの薄い有害鳥獣をジビエという付加価値に変えていくことが期待されており、また、ジビエは低カロリーかつ高栄養価の食材としても注目されています。ジビエの活用は、地域の活性化だけでなく、本来廃棄されるはずだった資源を活用する取組と言えます。

事例:地元の野菜と農家の思いを八百屋が届ける、地産地消の新しい形(カネマツ物産)

創業100年の地域に根ざした八百屋である有限会社カネマツ物産は、地元の自然栽培野菜を全て買いきって、流通させ、消費者に届けることで、自然栽培野菜から利益を得られる社会にすることを目指して活動をしています。この活動は第8回グッドライフアワード環境大臣賞優秀賞を受賞しました。

自然の恵みと食卓をつなぐかけ橋 カネマツ倶楽部

具体的には、農家の思いを消費者に伝えるために、試食イベントや農家による講演会などを開催したり、貴重な野菜たちを余すところなく使い切るために自社で惣菜にして冷凍販売をしたりしています。また、今まさに畑で収穫ができる野菜を、形が悪く販売に至らない野菜も含めて販売する「畑の応援パック」や、オンライン食事会の開催を通して、農家や自社の思いとともに、地球の恵みを消費者に届けています。こうした活動により、野菜の命を通して地球とともに人が生きていくことを体現できるきっかけを作っています。

これまで、野菜講座のイベントの参加者は合わせて1,000人以上となり、「畑の応援パック」の会員は80人になりました。農家と消費者をつなげるNAGANO農と食の会では毎月定例会を行い、91回開催し参加者は延べ2,200人になりました。これらの取組が自発的に広まり、会員によるイベント開催や開業、障害者施設や被災地に野菜や冷凍惣菜を届ける取組が12件以上生まれています。

また、第8回グッドライフアワード受賞団体との連携も始まっています。環境大臣賞NPO・任意団体部門受賞の一般社団法人里海イニシアティブが横浜市金沢漁港で養殖している昆布を堆肥として活用する有機農業を始めており、海と畑をつなぎ、横浜市の海の恵みを長野県の畑に活かすことを検討していきます。

今後は、畑と野菜を通した児童養護施設の卒業生の自立支援として、自分たちの畑で作った無農薬野菜を冷凍総菜として販売したり、食堂で料理を提供したりといった、施設の卒業生が畑と野菜を通して仕事をしていくプロジェクトを展開していきます。このプロジェクトでは、第8回グッドライフアワード環境大臣賞最優秀賞受賞のNPO法人東京里山開拓団とも連携し、活動を広めていく予定です。

ウ 環境や社会に配慮した原材料を使った調理品

例えばハンバーガーの具材であるパティのような加工食品等や日頃気軽に食べることができる調理済み食品においても環境や社会に配慮しているものが増え、私たちの食の選択肢が多様化しています。外食・小売チェーン店でも、生産から運搬、包装、販売において環境や社会に配慮したメニューが増えており、私たちがそのようなメニューをできる範囲で継続的に選ぶという行動が、環境に配慮し、持続可能な社会づくりへの貢献につながると言えます。

事例:持続可能な食材の調達(日本マクドナルド)

マクドナルドは、世界最大級の外食企業として世界中の社会課題や環境問題の解決のため、「Food」・「Communities」・「Planet」・「People」の4つの柱に注力して取り組んでいます。持続可能な食材・資材の調達に関しては、特に、「国際認証」を取得した原材料の使用を推進しています。

2019年8月、人気メニュー「フィレオフィッシュ」で、国際的な非営利団体MSC(海洋管理協議会)が管理している「MSC CoC認証」を取得しました。漁業は既にMSC漁業認証を取得していましたが、加工・流通過程の管理に関する認証であるCoC認証を取得したことで、日本で販売するフィレオフィッシュのパッケージにMSCの「海のエコラベル」が表示されることになりました。また、フィッシュポーションの冷凍工程を見直すことで、年間で約50%の水の使用量を削減し、電力もCO2換算で約38%の削減効果がありました。さらに、魚の内臓等は他製品へリサイクルされ、魚由来の廃棄物も約5%削減されています。

MSC「海のエコラベル」が表示されたフィレオフィッシュの新パッケージの写真

同社は他にも認証製品の採用に取り組んでおり、紙袋や紙カップなど提供用の紙製容器包装類にFSC®(Forest Stewardship Council®)認証紙を採用し、店舗での揚げ油に使うパーム油には、RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil)認証油を使っています。2019年10月からはコーヒーをレインフォレスト・アライアンス認証のものに切り替えました。

持続可能な食材・資材の調達環境を整えることによって、マクドナルドで食事をすることが、すなわち環境・社会問題にも貢献していくという理想の関係を築こうとしています。

コラム:食の一つの選択肢としての代替肉

世界的に環境志向や健康志向等、食に求める価値観が変化していることなどを背景に、生産から流通・加工、外食、消費等へとつながる食分野の新しい技術及びその技術を活用したビジネス(フードテック)への関心が高まっており、我が国においても、代替肉や、健康・栄養に配慮した食品等について産学官連携で本分野の新たな市場創出を推進していくことが重要です。代表的なフードテックとして、豆類等の植物性タンパク質由来の代替肉があります。近年、国内でチェーン展開している飲食店やスーパー、コンビニエンスストア等が、大豆を主原材料とした代替肉を使った商品を提供しています。

飲食店では、ドトールコーヒー、モスバーガー等でバーガーメニューの一部を、スーパー等のPB商品としてイオンや無印良品等が、代替肉を使った商品を提供しています。また、コンビニエンスストアでは、セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンが、ボロネーゼ、タコスミート等で使う挽肉の代わりに使っていました。さらにコメダ珈琲店が新業態「KOMEDA is □(コメダイズ)」を開店するなど、私たちが代替肉メニューを食することができる場所が増えています。

ドトールコーヒーショップ「全粒粉サンド大豆ミート~和風トマトのソース~」
トップバリュ「大豆からつくったハンバーグ」

古来、一部の和食料理には、魚や肉の代わりの食材として、大豆や小麦粉を使った食材を使っています。現代は、見た目や食感も肉に近い代替食材が開発されるようになり、食の一つの選択肢として、より身近な存在になることが期待されています。

事例:あふの環(わ)における連携

「あふの環(わ)2030プロジェクト~食と農林水産業のサステナビリティを考える~」(以下「あふの環(わ)プロジェクト」という。)は、2030年のSDGs達成を目指し、今だけでなく次の世代も豊かに暮らせる未来を創るべく立ち上げられたプロジェクトです。あふの環(わ)プロジェクトでは、趣旨に賛同するプロジェクトメンバー(2021年3月30日時点で116社)と共に、「あふの環(わ)勉強会」や「食と環境を考える1億人会議」を開催したほか、2020年9月17日から27日を「サステナウィーク~未来につながるおかいもの~」として、サステナブルな商品のPRや取組の発信を行いました。また、「サステナアワード2020伝えたい日本の“サステナブル”」では、食と農林水産業に関わるサステナブルな取組動画を国内外に発信するため、あふの環(わ)メンバー等からサステナブルな取組動画を募集し、「つくる・はこぶ・うる部門」、「つかう部門」で合わせて34の動画に賞を授与しました。今後も、あふの環(わ)プロジェクトメンバーと農林水産省、消費者庁、環境省が連携して、持続可能な食と農林水産業の生産と消費を促進する活動を行います。

あふの環プロジェクト、サステナアワード2020、サステナウィーク(9月17日~27日)
エ 食品ロス

日本では食べられるのに捨てられた食品が年間約600万トン発生しています(2018年度推計)。これは、国連世界食糧計画(WFP)による食料援助量の約1.5倍にもなります。食品ロスは、家庭及び事業者のどちらからも発生しています。環境省では、この食品ロスを削減するための対策の一つとして、飲食店等での食べきりの促進と、食べ残してしまった場合の料理の持ち帰りを促進しています。持ち帰りを促進するため、環境省では、消費者庁、農林水産省、ドギーバッグ普及委員会と共催して、飲食店等における食べ残し持ち帰り行為の名称等を公募する「Newドギーバッグアイデアコンテスト」を実施しました。このコンテストは、食べきれなかった料理について自己責任で持ち帰ることを身近な習慣として広め、利用者とお店の相互理解の下で持ち帰りの実践を促す社会的な機運醸成を図ることを目的として開催しました。全部門で2,723点の応募があり、ドギーバッグによる持ち帰りに代わる新たなネーミングとして「mottECO(もってこ)」を大賞として選定し、ロゴも作成しました(図3-2-5)。この「mottECO(もってこ)」には「持って帰ろう」「もっとエコ」という意味が込められており、「mottECO(もってこ)」を行うことが当たり前になるように、普及に取り組んでいます。

図3-2-5 mottECOのロゴ

また、食品ロス削減及び生活困窮者支援等の観点から、災害用備蓄食品の有効活用が広がっています。農林水産省、消費者庁、文部科学省においては、「食品ロス削減の推進に関する関係省庁連絡会議」等の議論を踏まえ、それぞれの省庁が保有する災害用備蓄食品をフードバンク等活動団体へ提供を行ってきました。この取組を、全府省庁において実施するため、関係府省庁において申合せを行い、まずは中央府省庁で実施することとしました。

日本の食品ロスを減らすためには、私たち一人一人の小さな心掛けが重要です。

事例:環境省&TABETE “No-Foodloss!”Youth Action Project

TABETE(タベテ)は、食品ロスを削減するための、スマートフォン用アプリを活用して提供されているサービスです。登録している飲食店や小売店が、今までであれば廃棄していた「おいしくてまだ安全にいただける食品」を出品し、利用者はアプリ上で決済をした上で、商品を店舗で受け取る仕組みになっています。TABETEを活用することで、飲食店は食品ロスを削減できるとともに追加の売上を獲得でき、利用者はお得に食品を購入できるとともに食品ロス削減に貢献できます。この取組が評価され、第7回グッドライフアワード環境大臣賞優秀賞を受賞しました。

環境省は2020年度にTABETEを運営するコークッキングと共催で、学生を対象とした“No-Foodloss!”Youth Action Projectを実施しました。本プロジェクトでは、学生が地域の大学や自治体、事業者等と連携し、食品ロス削減のための取組を検討・実施しました。学生は自ら考えるだけでなく、食品ロス削減に第一線で取り組んでいる事業者や有識者等からの助言を得ながら検討を行うとともに、地元の農家や学生食堂の担当者、食品リサイクル事業者等に取材を行うなど、取組を実施する現場に適した食品ロス削減対策を検討・実施しました。

環境省&TABETE“No-Foodloss!”Youth Action Project

今後、本プロジェクトの取組が地域に根付き、さらに発展していくだけでなく、このような取組が各地に広がることが期待されます。環境省としても、2030年度までに食品ロスを2000年度比で半減させるという目標を達成するために食品ロス削減のための取組を引き続き支援します。

(3)ファッション
ア 衣服における環境負荷

毎日の暮らしに欠かせない衣服は、暮らしに彩りを与え、質の高い生活を送る上でもとても大切なものです。一着の服が出来るまでには様々な工程があり、近年は「大量生産・大量消費・大量廃棄」による環境負荷の増大が国際的な課題となっています。

世界の衣料品によるCO2排出量のうち、国内に供給される衣料品によるCO2の排出割合は4.5%と推計されています。また、国内で供給されている衣料品によるCO2排出量は9,500万トンと推計され、うち輸送までの上流段階で全体の94.6%を占めると言われています。また、我が国において衣料品により排出されているCO2排出量は970万トン(日本の総排出量に比べて0.8%)と推計されています(図3-2-6)。

図3-2-6 国内に供給されている衣料品のCO2排出量のうち、我が国において排出されているCO2排出量

国内に供給される衣料品の水消費量は、83億8,000万m3と推計され、うち原材料調達段階が91.6%を占めると言われています。世界のファッション産業で消費される水のうち9.0%が国内に供給されるために消費される水と推計され、服1着を生産するに当たり必要な水は2,368Lと言われています(図3-2-7)。

図3-2-7 国内に供給される衣料品、ファッション産業の水消費量

このように、衣服においても生産から利用・廃棄までの過程で環境に負荷を与えていると言われていますが、生産者と日々の暮らしを営む生活者がそれぞれの工夫をすることで、楽しみながら同時に環境負荷の低減に貢献する「サステナブルファッション」へ転換することができます。ここではいくつかの事例を紹介します。

イ サステナブルファッションに向けた生産~販売

生産過程においては、企画、原材料調達、紡績、染色、裁断・縫製、輸送、販売等各段階において、CO2排出、水の大量使用、水・大気・土壌汚染、マイクロプラスチックの流出、廃棄物等が問題となっており、生産者において様々な取組が始まっています。例えば、環境に配慮されたコットンやペットボトルからの再生素材などの原材料における取組、水の使用量の削減など製造段階での環境負荷の低減、マイクロプラスチック抑制のため繊維屑(ファイバーフラグメント)の脱落の少ない製品の開発等の開発段階における取組等が始まっています。このように生産者が自身の取組を分かりやすく生活者に伝える動きも始まっており、CO2排出量等の環境負荷の見える化、サステナブルな素材のラベル表示などの取組拡大が期待されています。また、それらの取組を生活者に普及していくことも重要です。

また、「大量生産・大量消費・大量廃棄」から脱却し、「適量生産・適量購入・循環利用」に転換することが望まれます。既に、適正な在庫管理とアップサイクルによる廃棄の削減、回収から製品化までのリサイクルの仕組みづくり等も行われていますが、更に拡大・加速していくことが期待されます。

事例:「ファッションロスのない世界」衣料品在庫の焼却廃棄をゼロにする取組(アダストリア)

アダストリアは、国内外で30ブランド以上、約1,400店舗を展開するファッションカジュアル専門店チェーンです。ファッションロス(衣料品廃棄)を社の重要課題ととらえ、衣料品在庫の焼却廃棄をゼロにすることを決定し、「燃やさない、捨てない」ために様々な取組を実施しています。

例えば、徹底したOTB(Open To Buy)計画の策定や、発注精度の向上を通じた適価販売・適量生産へ取り組むとともに、売れ残った商品を黒く染めてアップサイクルして販売する「FROMSTOCK」を行っています。また、着られなくなった子ども服のシェアリングプラットフォーム「KIDSROBE」、不要な衣類を回収し新しい資源にリサイクルする「Play Cycle!」を展開しています。

衣服を「作りすぎず、活用し、循環させる」ことを進めることで、サーキュラーエコノミーの実現を目指しています。

適正な生産量の仕組み、子供服のシェアリングサービス
ウ サステナブルファッションに向けた購入~利用

サステナブルファッションを実現していくためには、環境配慮製品の生産者を積極的に支援するとともに、生活者も一緒になって、「適量生産・適量購入・循環利用」へ転換させていくことが大切です。具体的には、以下の5つのアクションが挙げられます。まずはできることからアクションを起こしていくことが大切です。

[1]服を大切に扱い、リペアをして長く着る

[2]おさがりや古着販売・購入などのリユースでファッションを楽しむ

[3]可能な限り長く着用できるものを選ぶ

[4]環境に配慮された素材で作られた服を選ぶ

[5]店頭回収や資源回収に出して、資源として再利用する

例えば、「[2]おさがりや古着販売・購入などのリユースでファッションを楽しむ」に関しては、鹿児島県種子島の高校生が卒業生の不要となった制服の譲り受け(おさがり)を仲介する無料アプリを開発するなどファッション分野のリユース促進につながる動きが出始めています。

また、「[4]環境に配慮された素材で作られた服を選ぶ」、「[5]店頭回収や資源回収に出して、資源として再利用する」について、事例を紹介します。

事例:商品へのカーボンフットプリントの表示(オールバーズ)

シューズ・アパレルブランドのオールバーズは、独自に算定したカーボンフットプリントを商品に表示するなど、消費者の選択に環境負荷を織り込む取組を進めています。

カーボンフットプリントの表示は、製造者にとっても環境負荷の削減を促す効果があります。オールバーズでは、天然素材やリサイクル素材などを積極的に取り入れつつ、環境に配慮した事業を通じてカーボンオフセットを実施し、カーボンニュートラルを達成しています。例えば、靴紐などの石油を使用するパーツに関しては、ペットボトルをリサイクルした素材などを活用しており、ペットボトル1本から、靴紐2本を製造しています。

オールバーズでは、食品におけるカロリー表示のように、カーボンフットプリントの表示が当たり前になる社会を提案しています。

商品へのカーボンフットプリントの表示

事例:自治体と企業との連携による衣類の店頭回収(江東区・良品計画)

江東区は、家庭から着なくなったり、不要となったりした衣類等を回収し、事業者を通して国内外で再利用する取組を行っています。資源循環を進めることで、廃棄物として焼却処分される量を減らし、脱炭素社会への移行の促進にも貢献しています。回収された衣類は事業者を通じて国内外に二次流通するほか、ウエスや反毛として再利用されています。

この取組の一環として、良品計画と協定を締結し、区の古着回収ボックスを「無印良品 東京有明」に常設しています。これにより、利用者の利便性が高まり回収量が増えます。

無印良品 東京有明(江東区)に設置されている古着回収ボックス

併せて、食品ロス削減に向け、家庭で余っている食品を回収し、フードバンク団体を通じて福祉施設などに提供するフードドライブも連携して実施しています。

(4)移動

移動における脱炭素化は、2050年カーボンニュートラル・脱炭素社会の実現に向けて重要です。移動に伴う環境負荷を削減するためには、まず移動の必要性や距離を少なくすることが考えられます。

次に、日々の移動において低公害で低炭素な移動手段を選択することが重要です。そのためには移動手段である交通手段そのものの環境負荷が極力低減されたものを選択すること、公共交通機関や徒歩、自転車などの選択により一人一人の輸送量当たりの環境負荷を削減することが必要です。

自動車においては、菅義偉内閣総理大臣は、2050年カーボンニュートラルと共に2035年新車販売における100%電動車を宣言し、グリーン成長戦略では、供給面として電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)等の電動化の促進に向けて蓄電池等の技術革新を推進するとしています。ここで重要なのが、需要面として、いかに私たちのワークスタイル・ライフスタイルに浸透していくかです。住宅においても、電気自動車(EV)用の充電スタンドが設置されているケースが増えてきました。

図3-2-8 電気自動車の家庭における電源活用のイメージ「V2H(Vehicle to Home)」

環境省は、再生可能エネルギー電力と、「動く蓄電池」として活用できる電気自動車(EV)、プラグインハイブリット車(PHEV)又は燃料電池自動車(FCV)を活用したドライブを「ゼロカーボン・ドライブ(ゼロドラ)」と名付け、家庭や地域、企業におけるゼロドラの取組を応援していきます。特に、4年間の「再生可能エネルギー100%電力の調達」と「モニター制度への参加」を要件として、補助金の上限額を以前より倍増する補助事業を実施するなど、ライフスタイルの更なる変革を推進します。

写真3-2-2 ゼロドラの広報イベントの様子(自動車会社等の協力の下、補助金対象車のEV、FCV、PHEVを視察)
図3-2-9 ゼロドラのロゴマーク

3 持続可能な社会の基盤となる健康を守る取組

(1)持続可能な社会の基盤となる健康づくり

ポストコロナ時代において、脱炭素社会への移行、循環経済への移行、分散型社会への移行による、持続可能で強靱な経済社会へのリデザイン(再設計)を強力に進めていくに当たっては、3つの移行を支える横断的な基盤となる、人の生命・健康と環境を守る取組が不可欠です。例えば、気候変動と密接に関わる熱中症によって、2018年には約9万5,000人、2019年には約7万1,000人、2020年には約6万5,000人(2020年のみ6~9月。2018年、2019年は5~9月)が救急搬送されており、2018年には1,581人、2019年には1,224人、2020年6~9月には1,433人(2020年のみ概数)が死亡しています(死亡者数における65歳以上の高齢者の割合は約80%。)(図3-2-10)。また、日常のあらゆる場所における経済社会活動において不可欠な化学物質は、高度成長期の公害問題を始め、国内外における経済社会の変革期に、不適切な利用により人(特に妊産婦、老人、子供等の脆(ぜい)弱な集団)の健康に、甚大な悪影響を及ぼしてきました。

図3-2-10 熱中症による死亡数の年次推移

ポストコロナ時代においては、脆(ぜい)弱な集団を含めて「誰一人取り残さない」というSDGsの基本方針の下、将来世代を含めた人の健康を守りながら、経済社会の変革を実現していかなければなりません。以下では、持続可能な社会の基盤となる健康を守る取組について紹介します。

(2)高齢者や子供の健康を守る取組
ア 熱中症警戒アラートの全国展開

熱中症による救急搬送者人員は年々増加傾向にあります。今後も、熱中症により1,731人が死亡した2010年や、1,581人が死亡した2018年のような災害級とも言える暑さが懸念されることから、熱中症対策の強化は、私たちの生活と密接する気候変動への適応の観点からも急務となっています。

熱中症を防ぐためには、特に、その危険度が高い日や地域において、国民一人一人に効果的な予防行動を取ってもらうことが何より重要です。このため、環境省と気象庁は、2020年度、両省庁の強みを活かした新たな情報発信である「熱中症警戒アラート」を関東甲信地方(1都8県)で試行しました。「熱中症警戒アラート」は、気象庁による従来の「高温注意情報」の発表基準(気温35℃)を、環境省が全国各地で予測している「暑さ指数(WBGT)」(気温・湿度・輻射熱を反映した熱中症との相関が高い指数)に置き換え、熱中症の危険性が特に高い、暑さ指数33以上になると予測される日の前日夕方及び当日朝に発表することで、国民に暑さへの「気づき」を促し、予防行動につなげることを目指すものです。

2021年3月には、政府一丸となった熱中症対策を推進するため、政府の「熱中症対策行動計画」を策定しました。中期的な目標として「熱中症による死亡者数ゼロに向けて、できる限り早期に死亡者数年1,000人以下を目指し、顕著な減少傾向に転じさせる」を掲げ、2021年4月からの「熱中症警戒アラート」の全国展開や高齢者対策を始め、地域や産業界と連携し、取組を推進していく予定です。

イ 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)

胎児期から小児期にかけての化学物質へのばく露が、子供の健康に与える影響を解明するために、2010年度から、全国で10万組の親子を対象とした「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」を実施しています。協力者から提供された血液や臍(さい)帯血、母乳、毛髪等の生体試料を分析するとともに、子供が13歳に達するまで、質問票によって健康状態や生活習慣等のフォローアップを行っています。また、10万人の中から抽出された約5,000人の子供を対象として、医師による診察や身体測定、居住空間の化学物質の採取等の詳細調査を実施しています(図3-2-11)。この調査は、国立研究開発法人国立環境研究所、国立研究開発法人国立成育医療研究センター、全国15地域のユニットセンターの協力により、進められています。

図3-2-11 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)の概要

エコチル調査の開始から10年が経過し、これまでに約450万検体の生体試料が収集され、順次、化学分析等が実施されています。質問票による子供の健康状態等に関する情報も蓄積しています。

これらの貴重なデータを基に発表された論文は、既に144本に上っており(2020年12月末時点)、化学物質のばく露や生活環境といった環境要因が、妊娠・分娩時の異常や出生後の子供の健康状態に与える影響等についての研究が着実に進められています(図3-2-12)。発表された成果については、環境省において、シンポジウムの開催や地域との対話を通じて、国民の皆様への情報発信を行うとともに、食品安全委員会における食品健康影響評価に用いられるなど、活用が進んでいます。

図3-2-12 子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)これまでの成果(例)

また、世界保健機関の専門機関である国際がん研究機関が事務局を務める「環境と子どもの健康に関する国際作業グループ(ECHIG)」に参加し、関係機関等と小児環境保健分野における学術的な連携や協力活動等を行うことで、この分野の更なる発展に寄与しています。

これからもエコチル調査を着実に実施し、現在及び未来の子供たちにとって、よりよい環境づくりを進めていきます。

(3)化学物質・材料・製品のライフサイクル全体へのアプローチ

2002年に開催された「持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)」で定められた実施計画において、「2020年までに化学物質の製造と使用による人の健康と環境への著しい悪影響の最小化を目指す(WSSD2020年目標)」とされたことを受け、2006年2月、第1回国際化学物質管理会議(ICCM1)において、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM(サイカム))が採択されました。これを受け、2012年9月には、WSSD2020年目標の達成に向けた今後の戦略を示すものとして、SAICM(サイカム)国内実施計画を策定し、包括的な化学物質管理を推進してきました。国内実施計画の点検結果については、2020年3月にSAICM(サイカム)事務局に提出しています。

目標年の2020年を迎え、SAICM(サイカム)に替わる新たな枠組みが、2020年10月の第5回国際化学物質管理会議(ICCM5)において採択される予定でしたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、会議の開催は延期されています。

国内では、SAICM(サイカム)で示されたライフサイクル全体での化学物質管理を進めるため、規制的手法等による化学物質管理の着実な実施に加え、化学物質を製造・使用する事業者による自主的な管理を後押しできるようESG金融との連携を検討しているところです。事業者による自主的な取組としては、製品について独自の高度なリスク評価を実施したり、化学物質の情報についてサプライチェーン全体で適切に伝達されたりするような仕組みの構築等が、積極的に進められています。

こうした国内の検討の方向性を後押しするため、SAICM(サイカム)に替わる新たな枠組みが、引き続き化学物質のライフサイクル全体を対象に、自主的な取組を強化する企業や金融セクターを含む多様な主体の参加を促すものとなるよう、国際的な議論に積極的に貢献していきます。

4 ポストコロナ時代のワーク・ライフスタイルに向けて

私たちのワーク・ライフスタイルにおいて、働く場所、買うものの選択肢が多様化してきました。使う電力の選択から、自動車、野菜や肉や魚、調理品、衣服に至るまで、私たちが買ったり使ったりするモノやサービスには、私たちの手元に来てそれを使い終わるまでに様々な過程があり、多かれ少なかれ、環境への負荷があります。私たちは少しずつでも、環境への負荷が少ないモノやサービスを選ぶことにより、日々の何気ない行動を「皆で」変えてみることが、環境に配慮した持続可能な社会づくりに貢献することになります。

コラム:東京オリンピック・パラリンピック競技大会、大阪・関西万博

以上のように、第2章で2050年カーボンニュートラルに向けた動き、第3章で持続可能な社会づくりについて紹介してきましたが、我が国においてはポストコロナ時代の象徴として2つの世界的なイベントが控えています。

まずは、2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。なお、2020年3月30日に、東京オリンピックは2021年7月23日から8月8日に、東京パラリンピックは同年8月24日から9月5日に開催されることが決定された。)です。東京2020大会では、東京2020大会を社会全体に対して持続可能性の重要さの認識を高め持続可能な社会構築への行動を後押しする機会として捉え、「持続可能性に配慮した運営方針」及び「持続可能性に配慮した運営計画」を策定しています。具体的には、ISO20121に則したマネジメントシステムを行うことの宣言とともに、持続可能性コンセプト「Be better, together/より良い未来へ、ともに進もう。」の下、「気候変動」、「資源管理」、「大気・水・緑・生物多様性等」、「人権・労働、公正な事業慣行等」、「参加・協働、情報発信(エンゲージメント)」を5つの主要テーマとし、SDGsの実現に貢献していくこととしています。

脱炭素化の分野では、オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「大会」という。)史上初めて、再生可能エネルギー由来の水素が聖火台や聖火リレー等に使用されるとともに、東京2020大会時の運営電力の全量を再生可能エネルギーにより供給し、さらには、開催都市等の200以上の事業者の協力の下にカーボンオフセットを行うなど、東京2020大会で排出されるCO2をゼロ以下にする「カーボンマイナス大会」を実現していきます。

循環経済の分野では、大会史上初めてとなる金銀銅のメダル全量を使用済み携帯電話等の小型家電等から抽出されたリサイクル金属で製造するプロジェクトや、43の会場で使用される表彰台を使用済みプラスチックや海洋プラスチックで製造するプロジェクト、選手村の休憩所を全国の自治体から無償で借り受けた国産木材で建築し、東京2020大会後は提供元の自治体にて再利用される木材活用リレープロジェクトなどが行われています。東京2020大会では、こうした市民参加型の取組のほか、東京2020大会により排出される廃棄物も過去の大会と比較して最も高いレベルのリユース・リサイクル率を掲げるなど、物資の調達段階から東京2020大会後の資源循環を見据えた取組が講じられています。

また、調達するモノやサービスのサプライチェーン全体で持続可能性が確保されるよう、「持続可能性に配慮した調達コード」を策定しており、この中では、木材、農・畜・水産物、紙、パーム油についての調達基準も定めています。

このように、東京2020大会では、将来の大会やメガスポーツイベントに、日本・世界にレガシーとして継承され、多様に発展していくことを目指しています。

続いて開催が控えている、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)では、「いのち輝く未来社会のデザイン」をメインテーマとし、「Saving Lives(いのちを救う)」「Empowering Lives(いのちに力を与える)」、「Connecting Lives(いのちをつなぐ)」の3つをサブテーマとして、ポストコロナの新たな社会像を提示していくこととしており、これに向けて、2020年12月に「2025年に開催される国際博覧会(大阪・関西万博)の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」が閣議決定されました。

大阪・関西万博ロゴマーク

同基本方針においては環境問題への取組が盛り込まれ、大阪・関西万博で利用されるエネルギーについて、再生可能エネルギーや水素の利用を進め、分散型エネルギー資源や、省エネルギー・環境関連の技術を活用していくとともに、会場においては、2050年カーボンニュートラルの実現を目指し過去のストックベースでの二酸化炭素の削減(ビヨンド・ゼロ)を可能とする日本の革新的な技術を通して、世界に向けて脱炭素社会の在り方を示していくこととなりました。また、会場を「未来社会の実験場」と位置づけ、多様なプレイヤーによる共創の場とすることで、イノベーションの誘発や社会実装を推進することとしています。

こうした取組により、大阪・関西万博では一人一人が心身共に健康で可能性を最大限発揮できる生き方をどう実現するか、そのような多様な生き方を支え、地域循環共生圏の創造による持続可能な社会・経済システムをどう構築するか、世界の人々と共に考え、ソリューションを共創していくこととしており、これは、第3章で見てきた、人々が健康で幸福感を感じながら活き活きと暮らし、地域が自立し誇りを持ちながらも、他の地域と有機的につながることにより、国土の隅々まで豊かさが広がるという考え方に通じるものです。