環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第2章 脱炭素社会・循環経済・分散型社会への3つの移行>第1節 脱炭素社会への移行

第2章 脱炭素社会・循環経済・分散型社会への3つの移行

今日の世界は、気候変動問題、海洋プラスチックごみ問題、生物多様性の損失といった地球環境の危機に加え、新型コロナウイルス感染症の感染拡大という新たな危機に直面しています。これらの危機は相互に関連しており、この星に生きる全ての生き物にとって避けることのできない喫緊の課題です。

また、我が国は少子高齢化・人口減少、そして人口の地域的な偏在の加速化等が進んでおり、これらは地域コミュニティの弱体化を招き、地方公共団体の行政機能の発揮の支障となり、環境保全の取組にも深刻な影響を与えています。

具体的には、近年、気候変動を背景として、我が国でも豪雨等が頻発し、世界各地では記録的な熱波や寒波、大雨等の深刻な気象災害により多くの生き物の命が失われるなど、甚大な被害が生じています。気候変動は全ての大陸と海洋にわたって、自然及び人間社会に影響を与えており、温室効果ガスの継続的な排出により、人々や生態系にとって深刻で広範囲にわたる不可逆的な影響を生じる可能性が高まると言われています。今後は、私たち人類や全ての生き物にとっての生存基盤を揺るがす「気候危機」とも言われている気候変動問題に対処するため、「2050年カーボンニュートラル・脱炭素社会」の実現を目指す必要があります。

さらに、このような気候変動問題を始めとした問題の対処には、「脱炭素社会への移行」、「循環経済への移行」、「分散型社会への移行」という3つの移行を加速させ、持続可能で強靱な経済社会へのリデザイン(再設計)を強力に進めていくことが不可欠です。この移行は、急速に変化するグローバル経済における競争力の源泉であり、また地球環境問題という重大リスクに対する予防です。

本章では、持続可能で強靱な経済社会へのリデザイン(再設計)に向けた「脱炭素社会への移行」、「循環経済への移行」、「分散型社会への移行」という3つの移行とそれぞれの取組について紹介します。

第1節 脱炭素社会への移行

1 2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現に向けて

(1)2050年カーボンニュートラル宣言に至るまでの流れ

パリ協定が2020年から本格運用を開始しましたが、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が、我が国を始め世界全体に大きな打撃を与え、世界の社会経済システムを停止・遅延させています。世界がこの危機に対処している中でも、気候変動や環境劣化は進んでおり、気候危機とも言われる気候変動問題への対応として、国内外で、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた動きが始まりつつあります。

2020年9月、我が国を議長国として、オンライン・プラットフォーム閣僚級会合が開催されました。会合では、今こそ、力強い回復に向けてスタートを切る時、そしてその起爆剤こそ、環境と成長の好循環で、二つの危機に対処する上で、世界の全ての国が協力、包括性をもって持続可能で強靱な経済社会へのリデザイン(再設計)することが不可欠であり、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)に向けた機運を醸成・維持し、気候変動対策における連帯を一層進める必要があることを世界各国と共有しました。

国内では、地方自治体によるゼロカーボンシティの宣言が広がり続けています。さらに、2020年8月には、全国知事会がゼロカーボン社会構築推進プロジェクトチームを設置しました。会合には小泉進次郎環境大臣が参加し、参加した知事との意見交換を通じて、地域の脱炭素化への取組の共有をしました。あわせて、国が自ら「2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロ」を表明し、リーダーシップをとって気候変動対策に積極的に取り組むといった、全国知事会から国への提言を行っています。

2020年10月26日、菅義偉内閣総理大臣は第203回国会の所信表明演説において、我が国として2050年までに、温室効果ガスの排出を全体として実質的にゼロにする、すなわちカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました(写真2-1-1)。

写真2-1-1 第203回国会における菅義偉内閣総理大臣の所信表明演説の様子

2020年11月、第203回国会において、衆議院及び参議院の本会議で気候非常事態宣言決議案が採択されました。これにより、両議院では、「地球温暖化問題は気候変動の域を超えて気候危機の状況に立ち至っている」と認識が共有され、この危機を克服すべく、一日も早い脱炭素社会の実現に向けて、我が国の経済社会の再設計・取組の抜本的強化を行い、国際社会の名誉ある一員として、それにふさわしい取組を、国を挙げて実践してくことを決意するとしました。

これらの流れを受けて、2020年12月、国・地方脱炭素実現会議が首相官邸で初めて開催されました(写真2-1-2)。会議では、国と地方の協働・共創による地域における2050年脱炭素社会の実現に向けて、特に地域の取組と密接に関わる「暮らし」「社会」分野を中心に、国民・生活者目線での2050年脱炭素社会実現に向けたロードマップ及びそれを実現するための関係府省・自治体等の連携の在り方等について議論を行っています。2021年4月には第2回を開催し、地域脱炭素ロードマップの骨子案を示しました。ロードマップの骨子案には、足元からの5年間に集中して取組を進め、2030年までに脱炭素を実現する「脱炭素先行地域」を少なくとも100か所つくり、並行して先行地域に限らず地域裨益・環境共生型再エネの利活用等の重点対策を実施すること、また、それらを実現するための具体策も盛り込みました。今後5年程度の集中期間においては、適用可能な最新技術を地域に実装し、脱炭素のモデルケースを各地に創り出しながら次々と先行地域を広げていく「脱炭素ドミノ」を実現するため、国と地方の連携だからこそ実現できる新たな取組を生み出していきます。

写真2-1-2 第1回国・地方脱炭素実現会議の様子

また、この「脱炭素ドミノ」を海外にも展開するため、2021年3月、環境省はUNFCCCの協力の下オンラインで脱炭素都市国際フォーラムを開催しました。フォーラムでは、コミュニティに直結する都市の脱炭素政策と中央政府・国際機関による後押しの重要性を確認し、今後、都市の先進的な取組を世界に広げて、世界で「脱炭素ドミノ」の輪を広げていくことを確認しました。

2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、地域における再生可能エネルギーの普及拡大、脱炭素化に向けたイノベーションの創出、企業による脱炭素経営、ESG金融等を推進していく必要があります。

2020年12月に決定した「インフラシステム海外展開戦略2025」では、「カーボンニュートラル、デジタル変革への対応等を通じた、産業競争力の向上による経済成長の実現」と環境を含む「展開国の社会課題解決・SDGs達成への貢献」が中核に加わりました。これらを踏まえ、我が国としては、環境性能の高いインフラのビジネス主導による海外展開を脱炭素化に向けた政策の策定支援とパッケージで行う「脱炭素移行型支援」を官民連携で推進し、世界の脱炭素化に貢献していきます。

地方自治体の動きもさらに活発になってきており、2021年2月には、ゼロカーボンシティを宣言した市区町村による「ゼロカーボン市区町村協議会」が設立され、同年3月には脱炭素社会の実現に向けた政策に関する提言を、小泉進次郎環境大臣に行いました。

そして、2050年カーボンニュートラルを基本理念として法に明確に位置付けるとともに、地域における合意形成を円滑化しつつ再生可能エネルギーの活用を促進する仕組みの創設や、企業の排出量情報のデジタル化・オープンデータ化の推進などを内容とする「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」を第204回国会に提出しました。

(2)ゼロカーボンシティの広がりと更なる推進

環境省では、2050年に温室効果ガス又はCO2の排出量を実質ゼロにすることを目指す旨を表明した地方自治体を「ゼロカーボンシティ」と位置付けており、2021年4月1日時点で356の地方自治体、人口で1億957万人に至っています(図2-1-1)。

図2-1-1 2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明自治体(2021年4月1日時点)

環境省では、ゼロカーボンシティを目指す地方公共団体に対し、情報基盤整備、計画等策定支援、設備等導入を一気通貫で支援することにより、地域における温室効果ガスの大幅削減、地域に裨益する形での再生可能エネルギー事業の推進による地域経済循環の拡大、レジリエントな地域づくりを同時実現することを目指しています。例えば、自治体がゼロカーボンシティの計画を策定するための支援策として、様々なツールを開発しています。具体例としては、再生可能エネルギーのポテンシャルの情報を把握・利活用するためのツールであるREPOS(再生可能エネルギー情報提供システム)や、地域内の資金の流れを俯瞰(ふかん)的に把握するとともに、産業の実態や地域外との関係性などを可視化するための分析手法である地域経済循環分析などがあります。

(3)カーボンプライシングの検討

2050年カーボンニュートラルの実現には、あらゆる施策を総動員して、民間企業の大胆な投資とイノベーションを促し、産業構造の転換と力強い成長を生み出していくことが重要であり、そのためには技術のイノベーションに加えて、ルールのイノベーションが不可欠です。

そのため、炭素への価格付けを通じて脱炭素に向けた行動変容を促す仕組みであるカーボンプライシングの検討を進めています。検討に当たっては、国内外の情勢を踏まえた上で、炭素税、排出量取引のみならず、クレジット取引や炭素国境調整措置等について、間口を広く構えて検討することとしており、環境省と経済産業省が連携し、幅広いステークホルダーと対話を重ねながら、成長に資するカーボンプライシングの検討に取り組んでいます。

(4)石炭火力発電

石炭火力発電は安定供給性と経済性に優れていますが、CO2の排出量が多いという課題があり、石炭火力発電所に効果的な温室効果ガス削減対策を行わないまま建設・稼働していけば、CO2排出量の高止まりを招くおそれがあります。とりわけ、火力発電の中でもCO2排出量が多いのが石炭火力発電であり、石炭火力発電の排出係数は、最新鋭のものでも天然ガス火力発電の排出係数の約2倍です。このため、イギリス、カナダを始め諸外国では脱石炭を標榜(ぼう)する国があります。各国がエネルギーに関して抱える事情は様々ですが、こうした脱石炭を標榜(ぼう)する国々には、天然ガスや水力など自国産のエネルギー源に恵まれている国もあります。世界的な脱炭素化の潮流の中で、我が国は、原発依存度を低下させつつ、経済大国として多量の電力を必要とするなどの事情も踏まえ、脱炭素化をできるだけ早期に実現していく必要があります。国内においても、近年事業性の観点から石炭火力発電所としての開発計画について、変更する動きも出ています。

今後は、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取組が不可欠です。特に、電力部門は我が国全体のCO2排出量の約4割を占める最大の排出源です。加えて、電力部門におけるCO2排出係数が相当程度増加することは、産業部門や家庭部門における省エネの取組(電力消費量の削減)による削減効果に大きく影響を与えます。このため、電力部門の取組は、脱炭素化に向けて非常に重要です。このような中、経済産業省では非効率石炭火力発電のフェードアウトに向けて、規制・誘導両面からの措置に加え、事業者の取組を確認・担保するためにフェードアウトに向けた計画の提出を求めることで、安定供給を確保しつつフェードアウトを進めていく方針を示したほか、国内の発電事業者の中には、自発的に2050年ゼロエミッションへの挑戦を表明し、「ゼロエミッション火力」の実現に向けて取り組む事業者も出てきています。

国外対策については、2020年7月に骨子が公表され、同年12月に決定した「インフラシステム海外展開戦略2025」において、世界の実効的な脱炭素化に責任をもって取り組む観点から、今後新たに計画される石炭火力輸出支援の厳格化を行いました。

また、我が国では、2019年6月に閣議決定した「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」において、「とりわけ石炭火力発電については、商用化を前提に、2030年までにCO2回収・貯留(CCS)を導入することを検討する」と位置付けています。このような背景の下、環境省では商用規模の火力発電所におけるCO2分離回収設備の建設・実証により、CO2を分離回収する場合のコストや課題の整理、環境影響の評価等を行うとともに、経済産業省と連携し、CCS導入に必要なCO2の貯留可能な地点の選定のため、大きな貯留ポテンシャルを有すると期待される地点を対象に、地質調査や貯留層総合評価等を実施しています。さらに、化石燃料等の燃焼に伴う排ガス中のCO2を原料とした化学物質を社会で活用するモデル構築等を通じ、CO2回収・有効利用・貯留(CCUS/カーボンリサイクル)の早期社会実装のため、2023年までの日本初の商用化規模の技術確立を目指し、普及に向けた取組を加速化していきます。

2 再生可能エネルギーの普及拡大

(1)地域の再生可能エネルギー主力化による地方創生

我が国は、限られた国土を賢く活用しながら、再生可能エネルギーの導入拡大を進めてきました。この結果、面積あたりの太陽光設備導入容量は主要国トップレベルです。他方で、再生可能エネルギーをめぐる現下の情勢については、コストや適地の確保、環境との共生など、課題が山積しています。このため、地域の豊富な再生可能エネルギーのポテンシャルを最大限に引き出し、再生可能エネルギーを主力電源化していくためには、国を挙げてこうした課題を乗り越え、地域にメリットがある形で持続的に導入が拡大していくような取組が重要です。このような取組を行う主体として、地域の再生可能エネルギーを活用し、地域内に供給する地域新電力が増えています。一部の地域新電力では再生可能エネルギーを地産地消するのみならず、地域の事業者に対する省エネルギー支援、次世代型路面電車システム(LRT)への電力供給等を通じたコンパクトシティ等のまちづくりへの貢献等、多様な役割を担うようになってきています。また、収益を活用して地域の社会課題解決に取り組んだり、災害時にもエネルギー供給できるという特色を活かして防災にも役立つ自立・分散型コミュニティの電源に位置付けたりするなど、再生可能エネルギーの導入が温室効果ガスの削減という観点だけではなく、地域の経済循環や地方創生の観点からも重要な役割を担うようになってきています。

再生可能エネルギーの地域における受容性を高め、最大限の導入を円滑に進めていく上で、環境への適正な配慮と地域との対話プロセスは不可欠であり、環境影響評価制度の重要性は高まっています。「再生可能エネルギーの適正な導入に向けた環境影響評価のあり方に関する検討会」での議論を通して、風力発電所の規模要件を含めた風力発電に係る環境影響評価制度の適正なあり方について検討を行っています。

(2)再生可能エネルギー主力化と移動の脱炭素化の同時達成

電気自動車(EV)や燃料電池自動車(FCV)等は、[1]運輸部門の脱炭素化と動く蓄電池として再生可能エネルギー主力化を同時達成でき、[2]バッテリーはリユース等が可能であり、[3]災害時に給電可能で自立・分散型エネルギーシステムの構成要素ともなることから、「脱炭素社会への移行」、「循環経済への移行」、「分散型社会への移行」という、3つの移行を統合的に進める鍵となります。

2021年1月、菅義偉内閣総理大臣は第204回国会の施政方針演説において、脱炭素社会実現に向け、2035年までに新車販売で電動車100%の実現を表明しました。

電気を動力とする電動車には、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の車種があります。このうち電気自動車(EV)は、バッテリー(蓄電池)に蓄えた電気でモーターを回転させて走る自動車です。走行時には自動車からの排出ガスは一切なく、走行騒音も大幅に減少します。また、燃料電池自動車(FCV)は、車載の水素と空気中の酸素を反応させて、燃料電池で発電し、その電気でモーターを回転させて走る自動車です。水素を燃料とする場合、排気されるのは水素と酸素の化学反応による水のみとなり、排出ガスは一切ありません。これらの自動車は外部への給電が可能な場合が多く、平時は太陽光等の余剰の再生可能エネルギーによって充電し、必要なタイミングで放電させることで、再生可能エネルギーを最大限活用することが可能となるほか、系統の調整用の電源として活用することで再生可能エネルギーの不安定さを補い、より一層の再生可能エネルギー導入が可能になります。また、災害時等の停電時には非常用電源としての活用が期待されており、実際に、令和元年房総半島台風の被害により千葉県で発生した大規模停電の際には、自動車メーカー等が電気自動車(EV)等を現地に配置しています(写真2-1-3)。

写真2-1-3 停電時における保育園への給電(令和元年房総半島台風)

こうした再生可能エネルギー及び「動く蓄電池」である電気自動車(EV)等を一体的に導入・普及を目的に、2021年1月に成立した令和2年度第3次補正予算において、再生可能エネルギー電力と併せた電気自動車(EV)等の購入を集中的に支援することとしています。

また、新たなライフスタイルに合わせた、電気自動車(EV)のシェアリングサービスを活用した脱炭素型地域交通モデル構築に対する支援や、地域の再生可能エネルギーと動く蓄電池としての電気自動車(EV)等を組み合わせて再生可能エネルギー主力化とレジリエンス強化の同時実現を図る自立・分散型エネルギーシステム構築に対する支援を実施しています。

事例:ラストワンマイル配送のEV化に向けた導入支援(日本郵便、本田技研工業)

2020年1月より、日本郵便及び本田技研工業は、東京都をはじめとした首都圏の近距離配達エリア及び一部の地方主要都市の郵便局に、バッテリー交換式電動二輪車を配備する取組を進めています。配送車両等をバッテリー交換式の電動車とすることにより、充電時間をかけずに次の配送に活用できます。また、交換式のバッテリーはCO2削減効果のみならず、交換式バッテリーステーションの災害時における非常用電源としての活用が期待されます。環境省では、ラストワンマイル配送車両のEV化を目指して「配送拠点等エネルギーステーション化による地域貢献型脱炭素物流等構築事業」を実施しており、2020年度には計2,000台の郵便配達業務用二輪車をバッテリー交換式電動二輪車に入れ替えるための支援を実施しました。こうした取組の結果、2020年度末には東京都内における郵便配達業務用二輪車の2割がバッテリー交換式電動二輪車となるほか、首都圏、東海、近畿、中国、四国、九州、沖縄エリアの郵便局にも幅広くバッテリー交換式電動二輪車が導入されています。

バッテリー交換式電動二輪車、小泉進次郎環境大臣による郵便配達業務用二輪車の視察の様子
(3)浮体式洋上風力の利活用

洋上風力は再生可能エネルギーの主力電源化に向けた鍵です。その中でも、遠浅の海域の少ない我が国では、水深の深い海域に適した浮体式洋上風力の導入拡大が重要です。長崎県五島市の実証事業において風水害にも耐えうる浮体式洋上風力が実用化された事を生かし、確立した係留技術・施工方法等を元に普及啓発を進めています。浮体式洋上風力の導入に当たっては、広域的な風況マップ等の事業性に加え、環境保全・社会受容性の確保や、維持管理や使用後の廃棄などの多様な観点からの検討が不可欠です。今後も、脱炭素化と共に自立的なビジネス形成が効果的に推進されるよう、エネルギーの地産地消を目指す地域における事業性の検証や既存の浮体式洋上風車を用いた理解醸成に取り組みます。

図2-1-2 浮体式洋上風力発電

3 グリーンイノベーションの推進

パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略に基づき、エネルギー・環境分野において非連続なイノベーションを創出していくために2020年1月に「革新的環境イノベーション戦略」が策定されました。本戦略の策定を受けた環境エネルギー分野の研究開発を進める司令塔として、2020年7月に「グリーンイノベーション戦略推進会議」が設置され、関係省庁横断の体制の下、戦略に基づく取組のフォローアップを行なってきました。

また、第203回国会での菅義偉内閣総理大臣の2050年カーボンニュートラル宣言を受け、グリーンイノベーション戦略推進会議において、今後の産業としての成長が期待される重要分野について検討が行われました。

2020年12月に開催された成長戦略会議において、2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(以下「グリーン成長戦略」という。)が梶山弘志経済産業大臣より報告されました。グリーン成長戦略においては、企業に対する技術開発から実証・社会実装までを支援するための2兆円のグリーンイノベーション基金やカーボンニュートラルに向けた投資促進税制等の支援措置のほか、重要分野における実行計画が盛り込まれています。具体的には、洋上風力産業、水素産業等のエネルギー関連産業に加え、自動車・蓄電池産業、半導体・情報通信産業等の輸送・製造関連産業、住宅・建築物産業、資源関連産業、ライフスタイル関連産業としての家庭・オフィス関連産業に係る現状と課題、今後の取組方針、2050年までの時間軸をもった工程表が位置づけられました。

また、グリーンイノベーションの推進には、新たな環境ビジネスに先駆的に取り組むスタートアップ(以下「環境スタートアップ」という。)や起業家候補人材の技術開発などへの支援が重要です。これにより、ポストコロナ時代の新たな環境ビジネス創出や雇用の増加への寄与が期待できます。環境省では、環境スタートアップ特化型の研究開発支援やピッチイベントや表彰による事業機会創出、環境技術の性能実証による信用付与等により、グリーンイノベーション創出のための環境スタートアップの研究開発、事業化を支援していきます。

コラム:ライフスタイルを脱炭素化するイノベーションに向けた取組

私たちのライフスタイルを脱炭素化するためには、技術を普及し社会実装を促していくことが重要なため、ライフスタイルの脱炭素化のイノベーションに向けた三つの取組を紹介します。

環境省は、温室効果ガス観測技術衛星GOSATシリーズの観測により、全球のCO2とCH4の濃度が年々上昇している状況を明らかにしてきました。現在開発中の後継機GOSAT-GWは、これまでのミッションを発展的に継承し、大規模排出源の特定能力と排出量の推計精度の向上を目指します。また、地球温暖化による大規模災害の拡大防止等の防災対策への貢献も期待されています。

また、2020年12月、成長戦略会議に提出されたグリーン成長戦略において、ライフスタイル分野の実行計画が盛り込まれています。ライフスタイルを脱炭素化するためのイノベーション技術として、住まい・移動のトータルマネジメント(ZEB(ゼブ)・ZEH(ゼッチ)、需要側の機器(家電、給湯等)、地域の再生可能エネルギー、動く蓄電池となる電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)等の組み合わせを実用化)、ナッジやシェアリングを通じた行動変容、デジタル技術を用いたCO2削減のクレジット化等を促進する技術開発・実証、導入支援、制度構築等に取り組むことが位置づけられました。

具体的には、建築物や住宅のZEB(ゼブ)・ZEH(ゼッチ)化を進め、高効率な冷蔵庫や洗濯機等の家電製品や給湯器を導入することにより、利用するエネルギーを最小化するとともに、必要なエネルギーを太陽光発電の設置等により再生可能エネルギーで賄えるようにします。また、ナッジ等の行動科学の知見とAI/IoT等の先進技術の融合(BI-Tech)により一人一人に合ったエコで快適なライフスタイルを提案しサポートすることにより、行動変容を促します。これらに伴い、地域の再生可能エネルギーを住宅だけでなく、電気自動車(EV)等のモビリティの脱炭素化に活用することができるようになります。また、電気自動車(EV)の蓄電池、家電や給湯器等の家庭にある機器、再生可能エネルギーによる電気等を総合的にマネジメントする技術により、需給調整を行い、変動する再生可能エネルギーの電気の自立的な利用を実現することができます。さらに、太陽光発電による電気の自家消費等、個人の再生可能エネルギーCO2削減価値(環境価値)が、低コストかつ自由に取引できる市場の構築でブロックチェーン技術を用いて立ち上げることにより、個人のCO2削減の取組により経済的なメリットも享受できるようになります。

通常、家電製品、電気自動車(EV)、発電所等での電力変換等に用いる直流・交流変換器には、ケイ素(Si)のパワーデバイスが使われていますが、これを高品質窒化ガリウム(GaN)半導体に変えることでエネルギー損失を大幅に抑えることができます。環境省では、ライフスタイルに関連の深い多種多様な電気機器(照明、サーバー、電子レンジ等)に組み込まれている各種デバイスを、GaN半導体素子を用いることで高効率化し、徹底したエネルギー消費量の削減を実現するための技術開発及び実証を実施しています。

このようなライフスタイルを転換するイノベーションにより、2050年までに、再生可能エネルギーで作り出すエネルギーが消費より多い「脱炭素プロシューマー」への転換により、エネルギーで稼ぐ時代を実現することを目指しています。

脱炭素プロシューマーへの転換

4 脱炭素経営の進展

企業や金融機関においても、パリ協定を契機に、ESG金融の動きなどとあいまって、脱炭素化を企業経営に取り込む動き(脱炭素経営)が世界的に進展しています。

自然災害による被害は近年激甚化し、気候変動問題が企業の持続可能性を脅かすリスクになりつつある中、脱炭素化によって、リスクを回避するとともに機会の獲得を目指す動きが企業経営の潮流となっています。環境省としても、気候関連リスク・機会を経営戦略に織り込む取組や、サプライチェーン全体で効果的に削減を進めるための取組への支援などを実施しています。

ここでは、企業の脱炭素経営の取組のうち、気候関連財務情報を開示する枠組み(TCFD)と、脱炭素に向けた中長期目標の設定(SBT、RE100)について紹介します。企業がサプライチェーン全体の排出量を把握・削減し、その情報を開示していくに当たっては、SBTやTCFDの枠組みを活用することで、投資家にとって理解がしやすく透明性の高い情報開示とすることができます。SBTやTCFDなどの枠組みを活用して脱炭素経営に取り組む日本企業の数が世界トップクラスであるように、既に日本企業は排出量等の情報について透明性の高い情報開示を行っており、こうした我が国の強みを生かすことで、国内だけでなく海外からのESG投資の呼び込みへとつなげていく必要があります。

(1)気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)

気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、各国の財務省、金融監督当局、中央銀行からなる金融安定理事会(FSB)の下に設置された作業部会です。投資家等の適切な投資判断を促すため、気候関連財務情報の開示を企業等に求めることを目的としています。2017年6月に、自主的な情報開示のあり方に関する提言(TCFD報告書)を公表し、2021年3月29日時点で、世界で1,920の機関(金融機関、企業、政府等)、うち我が国では世界第1位の358の機関がTCFDへの賛同を表明しています(図2-1-3)。環境省も、報告書を踏まえた企業の取組をサポートしていく姿勢を明らかにするため、TCFDへの賛同を表明しています。

図2-1-3 国・地域別TCFD賛同企業数(上位10の国・地域)
(2)パリ協定と整合した目標設定(SBT:Science Based Targets)

パリ協定では、世界共通の長期目標として、工業化前からの世界全体の平均気温の上昇を2℃より十分下方に抑えるとともに、1.5℃に抑える努力を継続することが盛り込まれています。このパリ協定の採択を契機に、パリ協定に整合した科学的根拠に基づく中長期の温室効果ガス削減目標(SBT)を企業が設定し、それを認定するという国際的なイニシアティブが大きな注目を集めています。2021年3月29日時点で、認定を受けた企業は世界で634社、我が国でも既に94社が認定を受けています(図2-1-4)。

図2-1-4 国別SBT認定企業数(上位10か国)

このような脱炭素化に向けた動きは、大企業だけではなく、サプライチェーンを通じて中小企業にも起きています。

サプライチェーンにおける温室効果ガスの排出は、燃料の燃焼や工業プロセス等による事業者自らの直接排出(Scope1)、他者から購入した電気・熱の使用に伴う間接排出(Scope2)、事業の活動に関連する他社の排出等その他の間接排出(Scope3)で構成されます。取引先がサプライチェーン排出量の目標を設定すると、自社も取引先から排出量の開示・削減が求められます。SBT認定を取得している日本企業の中でも、主要サプライヤーにSBTと整合した削減目標を設定させるなど、サプライヤーに排出量削減を求める企業が増加しており、サプライチェーン全体での脱炭素化の動きが加速しています。

企業がパリ協定に整合した意欲的な目標を設定し、サプライチェーン全体で効果的に排出削減を進めるため、環境省は、SBT目標等の設定支援やその達成に向けた削減行動計画の策定支援、さらには、脱炭素経営に取り組む企業のネットワークの運営等を行いました。

(3)国際的イニシアティブ「RE100」

RE100とは、企業が自らの事業活動における使用電力を100%再生可能エネルギー電力で賄うことを目指す国際的なイニシアティブであり、各国の企業が参加しています。

2021年3月29日時点で、RE100への参加企業数は世界で295社、うち日本企業は51社にのぼります(図2-1-5)。日本企業では、建設業、小売業、金融業、不動産業など様々な業界の企業において、再生可能エネルギー100%に向けた取組が進んでいます。

図2-1-5 国別RE100参加企業数(上位10か国)

RE100に参加することにより、脱炭素化に取り組んでいることを対外的にアピールできるだけではなく、RE100参加企業同士の情報交換や新たな企業とのビジネスチャンスにもつながります。

環境省では、自らが再生可能エネルギーの主力電源化の先鋒となるため、2018年6月に、公的機関としては世界で初めてアンバサダーとしてRE100に参画し、2019年12月には、「環境省RE100達成のための行動計画」を策定しました。行動計画に基づき、2020年度は、新宿御苑を始めとした環境省の9施設で再生可能エネルギー100%の電力調達を実施しました。

(4)経団連等との連携

2020年7月に行われた環境省と一般社団法人日本経済団体連合会(以下「経団連」という。)の意見交換会において、両者は、脱炭素社会に向けて連携を強化していくことに合意しました。それを受け、2020年9月、環境省と経団連は、合意文書「環境と成長の好循環に向けたコロナ後の経済社会の再設計(Redesign)─脱炭素社会実現に向けた環境省・経団連の連携に関する合意─」を取り交わしました(写真2-1-4)。合意文書では、環境省と経団連が、脱炭素社会の実現に向けて、「チャレンジ・ゼロ」やTCFD・SBT・RE100やESG金融等を通じてより緊密に連携していくことを規定しました。また、合意文書に基づき、環境省と経団連で定期的な意見交換を実施しています。その他、日本商工会議所及び公益社団法人経済同友会とも意見交換を実施しています。

写真2-1-4 合意文書締結の様子

5 ESG金融の推進

(1)世界におけるESG金融の拡大

世界では、脱炭素社会への移行や持続可能な経済社会づくりに向けたESG金融(環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)といった要素を考慮する投融資)への取組が、パリ協定や持続可能な開発目標(SDGs)等を背景として、欧米から先行して普及・拡大してきました。このようなESG要素に配慮した資金の流れは、我が国においても近年急速に拡大しています。世界全体のESG投資残高に占める我が国の割合は、2016年時点では約2%にとどまっていましたが、2018年には世界全体の約7%を占め、成長率では世界一となりました。2019年の日本のESG投資残高は約3兆ドル(336兆円)と、2016年からの直近3年で約6倍にまで拡大しています(図2-1-6)。

図2-1-6 ESG市場の拡大
(2)我が国におけるESG金融の伸長

環境省では、2018年7月の「ESG金融懇談会提言」を踏まえ、金融・投資分野の各業界トップと国が連携して、ESG金融に関する意識と取組を高めていくための議論を行い、行動する場として2019年2月より「ESG金融ハイレベル・パネル」を開催しています。2020年3月に開催された第2回パネルでは、ESG金融の更なる主流化に向けて特に議論を深めるべきテーマとして、二つのタスクフォースを立ち上げました。一つはポジティブなインパクトを生む金融の確立に向けた議論を行う「ポジティブインパクトファイナンスタスクフォース」です。2020年7月には、インパクトファイナンスをESG金融の発展形として環境・経済・社会へのインパクトを追求するものと位置付け、大規模な民間資金を巻き込み主流化していくことを目的として、「インパクトファイナンスの基本的考え方」を取りまとめました。同文書では、国際的な考え方との整合性等に留意しつつ、インパクトファイナンスの定義として、[1]インパクトを生み出す意図、[2]インパクトの評価・モニタリング、[3]インパクトの情報開示、[4]適切なリスク・リターンの確保の4つの要素が示されました。これを踏まえ、2020年10月に開催された第3回パネルでは、インパクトを与えるべき社会課題や金融機関の役割等について活発な議論が交わされました。さらに2021年3月には、インパクトファイナンスの実践に資するための「グリーンから始めるインパクト評価ガイド」を取りまとめました。同月、もう一方の「ESG地域金融タスクフォース」では、ESG地域金融の普及展開に向けた「共通ビジョン」が取りまとめられ、2021年4月に開催された第4回パネルでは、両タスクフォースからの最終報告が行われるとともに、地域の脱炭素化に向けた課題についての意見交換が行われました。

図2-1-7 インパクトファイナンスの全体像
(3)国際的なサステナビリティ開示の基準統一化の動き

世界的にESG金融の拡大が進む中で、気候変動を含む企業のサステナビリティに関する報告基準が多数存在し、基準の内容や報告対象等も多様にある状況が指摘されています。こうした中で、基準を利用する企業及び基準に基づき報告された情報を利用する投資家等の関係者から、統一的な報告基準の実現を求める声が国際的に高まっています。

こうした状況を受け、2020年9月に、これまで国際会計基準(IFRS)を策定した実績やグローバルなネットワークを持つIFRS財団が、サステナビリティに関する国際的な報告基準を策定すべく、新たな基準設定主体を設置する旨の市中協議文書を公表しました。

当該市中協議では、企業のサステナビリティに関する統一的な基準に取り組むための方法として、IFRS財団の下に、企業のサステナビリティに関する新たな基準設定主体を設置すること、企業のサステナビリティに関する報告基準を策定している既存の団体と連携し、そうした団体の取組を活用すること、新たな基準設定主体では、当面は気候関連情報について作業すること(クライメート・ファースト)等が示されました。

当該市中協議に対し、我が国としても、金融庁及び財務会計基準機構(FASF)が事務局を務めるIFRS対応方針協議会において、環境省、経済産業省、国内民間関係者と連携して統一的なコメントを取りまとめ、公表しています。このコメントの中では、当該市中協議文書の提案に対し、総論として歓迎し支持する旨及び今後の基準策定の取組に積極的に貢献する旨を表明した上で、特に重要と考えている点及び修正すべきと考えている点について述べています。

IFRS財団は、本市中協議の結果を踏まえ、2021年3月に、新たに設置する国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の戦略的方向性についてのプレスリリースを公表しました。その中でIFRS財団は、投資家の判断に重要な情報にフォーカスし、TCFD等の既存の枠組み・作業等をベースとし、まずは気候関連の報告に注力すること等を表明し、今後、同財団の定款改定の市中協議を実施すること、ISSB設置の最終決定は2021年11月に開催予定のCOP26に先立って行う旨表明しています。また、2021年4月にはISSBのメンバー構成等を含む定款改定案を公表、市中協議を開始しています。

こうした国際的な基準統一化に向けた動きに関し、我が国としても、意見発信を含め、IFRS財団の開示の枠組みの策定に積極的に参画していきます。