環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第1章>第4節 コロナ危機と気候変動問題への対応

第4節 コロナ危機と気候変動問題への対応

1 世界における対応

各国では、新型コロナウイルス感染症拡大後の経済復興について、気候変動対策の野心を高め、持続可能な経済社会の実現に向けたグリーンリカバリーなどの取組が進められています。コロナ危機により、世界の政治経済の構造は大きく変化し、気候変動・エネルギー対策もこの変化への対応と一体的に推進する必要があります。

米国では、ジョセフ・バイデン大統領が、米国の外交及び安全保障政策の不可欠な要素として、気候変動対策を明確に規定し、パリ協定のゴールの実現に向け、指導力を発揮すると宣言しました。また、2035年までに電力部門の脱炭素化を達成し、2050年までに米国が温室効果ガス排出量ネットゼロ経済を目指す「クリーンエネルギー革命」の実現を労働者、企業とともに目指すことを掲げています。さらにジョセフ・バイデン大統領は、国内外における気候危機対処のための大統領令を発出し、同大統領令内で、2021年4月22日及び23日に気候サミット(Leaders Summit on Climate)を開催するなど、同年11月の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)に向け、国際社会の気候変動対策を加速させる取組を進めています。

EUでは、欧州委員会が2020年5月、予算総額1.85兆ユーロの復興計画案(Recovery plan for Europe)を提案しています。グリーンとデジタルの二つの移行を加速し、より公正でレジリエントな社会の構築を目指すとしています。また、交通の分野では持続可能でスマートなモビリティ戦略(Sustainable and Smart Mobility Strategy)としてゼロエミッション自動車の増加、公共・ビジネス輸送のための代替手段の提供、デジタル化・自動化の促進などの向上に取り組んでいます。

英国では、コロナ危機からのよりよい復興(Build Back Better)を掲げ、産業のグリーン化などで積極的な施策を展開し重工業向けの支援策としても脱炭素の方針を掲げています。また、発表当初に2040年としていた計画を前倒しし、2030年以降ガソリン・ディーゼル車の新規販売を停止、2035年からはゼロエミッション車であることを求めることとしています。

フランスでは、経済・社会・環境の復興に関するロードマップ「France Relance」を発表しました。航空の分野では、コロナ禍で経営難となったエールフランスへ国内線でのCO2排出削減などの条件と引換えに公的支援を実施すると発表しています。

アジア諸国では、中国が2060年排出実質ゼロに向け、石炭消費量の抑制、石炭火力発電の高効率化や、分散型エネルギーの大規模化とスマートグリッド構築の強化を図るなど、持続可能な経済政策等に取り組んでいます。

韓国では、2050年排出実質ゼロを宣言し、気候と環境の課題に取り組みながら、約65万人の雇用を創出し、経済危機を克服するための幅広い国家戦略として「グリーンニューディール」に取り組んでいます。

2 我が国における対応

我が国を含めて、世界全体が新型コロナウイルス感染症という歴史的危機に直面する中で、感染防止と社会経済活動の両立は世界共通の課題です。一方で、今も排出され続けている温室効果ガスの増加によって、今後、豪雨災害等の更なる頻発化・激甚化などが予測されており、将来世代にわたる影響が強く懸念されています。私たちは時代の大きな転換点に立っているという認識のもと、新型コロナウイルス感染症の拡大前の社会に戻るのではなく、持続可能で強靱な社会システムへの変革を実現することが求められています。

このような状況下で、我が国では、2020年10月26日、菅義偉内閣総理大臣が第203回国会の所信表明演説において、「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しました。世界が脱炭素の大競争時代に突入したことを認識した上で、世界最大の投資分野である脱炭素分野で技術のイノベーションを起こすとともに市場を獲得していくことは、日本の成長戦略としても不可欠です。

新型コロナウイルス感染症、気候変動問題、生物多様性の損失といった問題は相互に関連しており、いずれも私たち一人一人の生活や今日の経済・社会システムと深く関わっています。今を生きる私たちが環境問題の解決を図りながら傷ついた経済を立て直し、将来の世代が豊かに生きていける社会を実現するためには、「脱炭素社会への移行」・「循環経済への移行」・「分散型社会への移行」という3つの移行を加速させることにより、持続可能で強靱な経済社会へのリデザイン(再設計)を進める必要があります。そして、地方においては、地域循環共生圏の考え方に基づいた新たな地域づくりで3つの移行を具現化し、私たち一人一人のライフスタイルを一層快適で利便性が高く、かつ持続可能なものに変革していくことが重要です。

次章以降では、持続可能で強靱な経済社会のリデザイン(再設計)に向けた3つの移行について、政府の取組と地方自治体や企業との連携、また私たち一人一人が、持続可能な社会をつくる当事者として実践できるワークスタイル・ライフスタイルについて紹介していきます。

コラム:気候変動時代における将来世代の役割

2050年頃に社会の中心を担う将来世代は、今後の新型コロナウイルス感染症や気候変動問題の影響を最も受けることとなります。Z世代は、主に2010年代から2020年代に掛けて社会に進出する世代を指し、生まれた時点でインターネットが利用可能であったという意味で、真のデジタルネイティブ世代としては最初の世代です。「コロナ危機と気候危機」とも言われている現在、経済社会のリデザイン(再設計)を進めるに当たって、Z世代を始めとした若者等の将来世代は重要な役割を担っています。そのため、今後の気候変動問題等の政策形成においては、若者等の将来世代の声や意見等を生かすことが求められます。また、若者等の将来世代は、実際に気候変動問題等の環境問題の解決にも積極的に取り組んでいます。

宮城農業高等学校では、科学部で代々、東日本大震災からの復興のため、津波跡の校庭に残った桜の増殖と植栽を繰り返し、総数が1,000本を超えました。そして、人を魅了し愛される桜とより多くの地域住民をつなぐことで、緑被率(ある地域又は地区における緑地(被)面積の占める割合)も上がると考えて、桜の品種開発も行ってきました。

候補の桜について調べたところ、3.5%濃度の塩水を使った葉の塩害実験では桜13種類の中で2番目に低く塩害が発生しにくいこと、またCO2を多く取り込む形質も見られ、今後街路樹や沿岸部の緑化、さらには森林の一部として貢献できることが分かりました。そこで、集落が移転した宮城県岩沼市玉浦西地区の名前を1字貰って「玉夢桜(タマユメザクラ)」と命名し、2020年8月に、宮城農業高等学校と玉浦西地区が共同で申請を行い、公益財団法人日本花の会から新品種の認定を受けました。

宮城農業高等学校では、令和元年東日本台風の被災地などで、オンリーワンの桜、奇跡の桜、そして新しい植栽法を紹介しながら、桜でなければできないCO2吸収促進を提言しています。

さらに、環境活動を行っている全国の高校生を対象とする第6回「全国ユース環境活動発表大会」で、環境大臣賞を受賞しました。

また、福島県立ふたば未来学園では、毎週月曜日の給食は、栄養士の監修のもとで生徒の身体や環境に配慮したベジタリアン食を献立にする「ベジマンデー」が実施されています。これは、ベジタリアンの語源はラテン語で「健康で、生命力にあふれる」という意味に基づいて行われているそうです。生徒たちは給食を通じて、食料廃棄などの環境や社会問題を学んでいます。

玉夢桜、沿岸部における育樹作業、玉夢桜の生育調査

環境省では、小泉進次郎環境大臣がZ世代を中心とした若者世代の代表から環境課題の解決に向けた提言を受け、2021年3月に3回、若者世代の代表とオンラインで意見交換を行いました。大臣からは、地球温暖化対策の推進に関する法律の改正やプラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律の制定による取組などの重要な環境政策についての説明があり、説明に対する若者世代との意見交換を通して、今すぐに喫緊の環境課題に取り組まなければいけないという課題意識を共有しました。

学生とオンライン意見交換する小泉進次郎環境大臣、環境省職員も一緒に若者世代と意見交換