環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和3年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第1章 経済社会のリデザイン(再設計)と3つの移行>第1節 新型コロナウイルス感染症の拡大の影響

第1章 経済社会のリデザイン(再設計)と3つの移行

2020年は、気候変動問題に加え、新型コロナウイルス感染症という新たな危機が出現しました。これらは相互に深く関連しており、環境・経済・社会を統合的に向上する社会変革、生物多様性の保全や自然との共生が危機を乗り越えるために不可欠です。

そのためには、我が国の環境政策を「脱炭素社会への移行」・「循環経済への移行」・「分散型社会への移行」という3つの移行に向け、その上で地方においては地域循環共生圏の考え方に基づいた新たな地域づくり、また私たち国民においては一人一人がライフスタイルを変革する社会にリデザイン(再設計)していくことが重要です。

第1章では、「コロナ危機と気候危機」とも言われている状況が環境・経済・社会面に及ぼしている影響と、これらにより如実となった生物多様性の危機について紹介します。

第1節 新型コロナウイルス感染症の拡大の影響

1 世界の新型コロナウイルス感染症の拡大に関する状況

新型コロナウイルス感染症の拡大は、世界中に大きな影響を与えています。私たち国民の生活も、感染拡大防止のための全国一斉休校や外出自粛、テレワークの実施など、ワーク・ライフスタイルに大きな変化が生じています。本節では、世界の新型コロナウイルス感染症の状況と、自然共生や温室効果ガス排出量等の環境面に与える影響とそれらに対応する各国の経済政策等について紹介します。また、我が国における、環境・経済・社会面に対する、新型コロナウイルス感染症の拡大が与えた影響についてデータ等を通じて概観します。

(1)新型コロナウイルス感染症の状況

新型コロナウイルス感染症は、2019年12月に確認されて以来、感染が世界的に広がりを見せ、世界保健機関(WHO)は、2020年1月31日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」、3月11日に新型コロナウイルスはパンデミック(世界的な大流行)になっている、と宣言しました。新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、国境を越えたヒト・モノ・カネの移動に依存する世界経済のリスクを顕在化させました。2021年3月末時点で、新型コロナウイルス感染症による感染者数は世界で約1億2,800万人、死亡者数は約280万人、日本では、感染者数約47万人、死亡者数は約9,000人にのぼり、依然として新型コロナウイルスによる猛威は続いています。

(2)自然共生についての再考

新型コロナウイルス感染症を始めとする新興感染症は、土地利用の変化等に伴う生物多様性の損失や気候変動等の地球環境の変化にも深く関係していると言われており、今後の人間活動や自然との共生の在り方の再考を私たちに突き付けています。また、生物多様性は人の健康に様々な形でつながっていることから、健全な生態系と人の健康を共に推進する統合的なアプローチの推進が指摘されています。

2020年10月に、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)が「生物多様性とパンデミックに関するワークショップ報告書」を公表しました。報告書では、推計170万もの未発見のウイルスがあり、そのうち54万~85万のウイルスが人間に感染し得ること、また1960年以降に報告される新興感染症の30%以上は森林減少、野生動物の生息地への人間の居住、穀物や家畜生産の増加、都市化等の土地利用の変化がその発生要因となっていることなどを指摘しています。また、パンデミックの予防にかかる費用はパンデミックにより引き起こされる経済的損失の100分の1程度の額に収まると試算されることから、今後はパンデミックが発生してから対応するのではなく、発生前の予防的アプローチへと感染症対策を抜本的に移行することが必要であると指摘しています。また、保護地域を設定することや、生物多様性の高い地域における持続性のない開発行為を減らすことで、野生生物と家畜及び人間との間の過剰な接触を減らし、新たな感染症の流出(spillover)を防ぐことができると提示しています。

さらに、2020年9月に生物多様性条約事務局が公表した「地球規模生物多様性概況第5版(GBO5)(以下「GBO5」という。)」においても、自然との共生を達成するためには、「今までどおり」から脱却する社会変革が必要とされており、生物多様性を含むワンヘルス(自然・動物・人間の健康はつながっているという概念)や農林水産業、都市など8つの分野での移行を進める必要があると指摘されています。

日本では、古くから里地里山での農林業等の営みが、時空間的に多様な動植物の生息・生育環境や人と野生生物との適切な距離を維持してきました。しかし、近年、このような地域で自然に対する人の働きかけの縮小により、生物多様性に変化が生じています。すなわち、山林の手入れ不足や人口減少による農地の放棄・荒廃といった土地利用の変化等により、里地里山で育まれてきた種の生息・生育環境が失われる一方で、野生動物の生息域が拡大し、人間の生活圏への侵入が進行することで、鳥獣被害等の軋轢や感染症の脅威が増大しています。

グローバル化や人口減少が進む中で、自然と人とのバランスのとれた健全な関わりを取り戻すため、時代に則した自然共生社会を構築することが必要です。例えば里地里山におけるバイオマス資源の活用など、それぞれの地域で身近な地元の資源を持続可能な形で利用していく、いわゆる「地産地消」を進め、人と野生動物が相互の過干渉を回避しながら資源が適正に配分される、かつての距離感を取り戻すなど、新たな社会像を示していくことが求められていると言えます。

コラム:生態系と感染症

新型コロナウイルス感染症のような新興感染症に限らず、今、人間社会は地球環境変動に伴う、様々な自然の脅威にさらされています。気候変動、生物多様性の劣化及び廃棄物汚染等の重大な地球環境問題は三位一体であり、その根源はエネルギー及び資源の大量消費、そしてその結果としての大量廃棄にあるとも言われています。

国連環境計画(UNEP)の「Six nature facts related to coronaviruses」によれば、人獣共通感染症の多くのケースでその発生の要因となっているのが、人間活動がもたらす環境の変化とされ、人為的な環境改変によって野生生物の生息域が縮小し、生物多様性を減少させ、その結果、特定の病原体及び宿主動物や媒介生物にとって有利な環境状態をもたらすことになると述べています。

国立環境研究所生物多様性領域生態リスク評価・対策研究室長で侵略的外来種の生態系リスク評価の専門家である五箇公一氏は、人間が化石資源を採掘してエネルギー利用するようになって以降、人間活動が肥大化し、自然環境の奥深くまでその活動圏が浸食したことで、野生動物体内のウイルスが、人間あるいは家畜動物と接触する機会が増大して、新興感染症が頻発するようになったとし、さらにグローバル経済がウイルスの世界的拡大をもたらし、重大な健康被害と経済被害を生じていると指摘しています。ウイルスを含む生物多様性との共生を図るためには、これ以上、生物多様性を劣化させる活動を縮小し、人間社会と生物界が過剰に干渉し合わないよう、両者の間のゾーニングを確立することで人間及び野生生物の双方の生息エリアを保全し、不可侵の共生関係を築くことが必要であり、自然共生こそが安心安全な人間社会の持続的な発展には欠かせない課題である、と警鐘を鳴らしています。

生態系ピラミッドの崩壊

2 我が国の新型コロナウイルス感染症の拡大に関する状況

我が国における新型コロナウイルス感染症の拡大が、エネルギーや廃棄物といった環境面、国内総生産(GDP)や労働人口といった経済面、物流や人流、データ通信量といった社会面に対して与えた影響と、それぞれの変化について概観します。

(1)環境分野の変化
ア 電気事業者による発電電力量と家庭部門における電力消費量

エネルギー転換部門においては、電力調査統計(資源エネルギー庁)によると、2020年の各月の電気事業者による発電電力量は、コロナ禍がなかった前年同月と比べ減少傾向となっています(図1-1-1)。これは、コロナ禍による経済活動の停滞等で電力需要が減少したことが、要因の一つであると思われます。

図1-1-1 電気事業者による発電電力量の前年同月との比較

一方で、家庭部門においては、家計調査(総務省)によると、2020年の各月の世帯当たり電力消費量は、コロナ禍がなかった前年同月と比べ、増加する月が多くなっています(図1-1-2)。これは、コロナ禍による在宅時間の増加により、家庭での暖房・給湯・照明等の使用が増えたことを受けたものであると思われます。

図1-1-2 世帯当たり電力消費量の前年同月との比較
イ 廃棄物処理と排出量

新型コロナウイルス感染症の影響で、東京23区では2020年3月以降、前年比で家庭からの一般廃棄物は最大11%程度増加しています。一方、事業所からの一般廃棄物については、前年比で最大42%程度減少したため、全体として見ると最大12%程度減少しています(図1-1-3)。大阪府では、2020年3月から5月にかけて前年比で家庭からの一般廃棄物の量は4%増加したものの、事業所からは14%程度減少し、全体としては3%程度減少しています(図1-1-4)。家庭からの一般廃棄物を種類別に見ると、不燃ごみ、ペットボトル、粗大ごみ、金属類、白色トレイは10%以上増加し、プラスチック製容器包装は約2%増加しています。産業廃棄物については、電子マニフェストで把握される処理委託量の傾向を見ると、2020年5月に大きく前年同月を下回り、2021年1月から2月にかけても前年同月に対する伸びの鈍化が見られます。電子マニフェストの普及率は年々上昇しているため、この傾向は二度の緊急事態宣言による経済活動の停滞が影響していると考えられます。

図1-1-3 東京23区の清掃工場へのごみ搬入量の推移(前年同月比)
図1-1-4 大阪府内市町村の一般廃棄物搬入量の変化(2020年3月~5月前年同月比)
(2)経済分野の変化
ア 経済・産業指標(GDPと構成要素、鉱工業生産指数)

2020年の我が国の実質GDPは、1~3月期及び4~6月期とマイナス成長が続きました(図1-1-5)。感染拡大防止のための外出自粛等による個人消費の減少や、訪日外国人数の急減に加え主要貿易相手国でも経済活動の停止等の措置が講じられたことによる輸出の減少等が理由です。7~9月期及び10~12月期にかけてはプラス成長となりましたが、2020年の暦年での実質GDPは前年比マイナス4.8%となりました。これは、現行統計で比較可能な1995年以降で、リーマン・ショックに次ぐ落ち込みとなります。この1年間の我が国の経済は、感染症の影響という非循環的な外生要因により大きな下押しを受けたと言えます(2021年3月末時点の情報にて記載)。

図1-1-5 実質GDPの推移

また、産業部門について、鉱工業生産指数(経済産業省)によると、2020年の同指数は、コロナ禍がなかった前年と比べ減少しました(図1-1-6)。これは、コロナ禍による世界規模での経済活動の停滞が大きく影響しているものと思われます。

図1-1-6 鉱工業生産指数の前年同月との比較
イ 労働人口、失業率

労働力人口や就業者数、雇用者数は2019年10月~12月期をピークに減少に転じています(図1-1-7)。就業者数、雇用者数は2020年11月まで8か月連続で減少しています。また、完全失業者数を見ると、2019年10~12月期から2020年4~6月期にかけて41万人増加しており、2020年11月まで10か月連続で増加しています。

図1-1-7 労働力人口の変化(2018年1月~2020年12月)

完全失業率は、全国的に見ると、2015年7~9月期から2019年7~9月期にかけては、いずれの地域でも低下傾向にありましたが、2019年10~12月期から2020年4~6月期にかけて上昇に転じています。また、地域別で見ると、コロナ禍が発生した2020年1~3月期から4~6月期にかけて、北関東・甲信を除く全ての地域で上昇しました。北関東・甲信では2019年10~12月期から2020年1~3月期にかけて上昇が見られましたが、4~6月期に向けて緩やかに低下しています。

(3)社会分野の変化
ア 物流と人流

鉄道の分野では、2020年の東海道新幹線・山陽新幹線・北陸新幹線(JR西日本管内)の利用者は、各新幹線とも、前年同月比で3月以降減少しており、4、5月は90%程度減少しています。6月以降は回復傾向にありますが、前年を下回る傾向が続いています(図1-1-8)。鉄道貨物輸送(JR貨物)についても減少傾向にあり、5月は約20.8%減少し、8月も約13.7%減少しています(図1-1-9)。

図1-1-8 新幹線利用者数の推移(前年同月比)
図1-1-9 鉄道貨物輸送(JR貨物)の推移(前年同月比)

航空の分野では、日本航空(JAL)及び全日本空輸(ANA)の旅客数については、国際線は1月以降、国内線は2月以降減少傾向にあり、5月には前年同月比で国際線、国内線ともに90%以上減少しています。国内線では、6月以降回復傾向にありますが、11月は前年同月と比較して50%程度減少しています(図1-1-10)。航空貨物(JAL、ANA)は旅客数と比較すると減少幅は小さいですが、4、5月は前年同月比で50%程度減少しています。

図1-1-10 JAL、ANAの旅客数の推移

交通量では、全国の高速道路の交通量調査によると、2020年3月以降、前年比で減少が見られました。4月7日に緊急事態宣言が発出され、新型インフルエンザ等対策特別措置法(平成24年法律第31号)に基づき外出自粛について協力要請がなされて以降、特にゴールデンウィーク期間の4月25日から5月6日では、対前年比で約30%、小型車は約20%減少しています。その後、6月以降は回復傾向にあり、10月では、前年度と比較してほとんど変わらない程度まで回復しています(図1-1-11)。

図1-1-11 高速道路の交通量の推移(前年同月比)

宅配便は前年同月を上回る傾向が続いています(図1-1-12)。例えばゆうパックは、12月の前年同月比は5%程度増加しています。一方で、郵便物については6月及び10月に一時的に回復しましたが、前年同月を下回る傾向が続いています(図1-1-13)。

図1-1-12 宅配便取扱個数の推移(前年同月比)
図1-1-13 郵便物・ゆうパックの推移(前年同月比)
イ データ通信量の伸長

データ通信量については、急激なデジタル化の進展とともに増加しつつありますが、2020年3月以降さらにトラヒックは増加しています。5月中旬と2月25日週の通信量(日中)を比較すると、最大で約60%増加しています(図1-1-14)。これは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のため、在宅時間が増加したことなどが、トラヒック急増の原因と考えられます。

図1-1-14 平日日中帯トラヒック増加の推移(2020年2月25日の週との比較)

新型コロナウイルス感染症防止の観点から、テレワークの利用が広がりました。全国では、1月時点ではわずか6%でしたが、3月時点では10%に上昇し、緊急事態宣言が出されていた4~5月は25%まで上昇しました。緊急事態宣言解除後の6月の時点では17%と低下しましたが、その後は6月と同水準で推移し、12月には16%となりました。埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県の東京圏の居住地から見たテレワーク利用率は、12月時点で26%となり全国平均と比較すると10%以上高くなっています。全国平均との差は6月までは徐々に拡大していましたが、6月以降は安定して推移しています(図1-1-15)。

図1-1-15 全国及び東京圏の平均テレワーク利用率
ウ 東京都への集中緩和の動き

埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県で構成する東京圏への転入・転出超過の状況は、2020年7月に、外国人を含む集計を開始した2013年7月以降初めての転出超過となりました(図1-1-16)。8月は引き続き転出超過となり、9、10月は再度転入超過に戻りましたが、11月には再び転出超過に転じ、12月も転出超過となりました。東京都でも、2020年5月に外国人を含む集計を開始した2013年7月以降初めての転出超過となり、7月以降6か月連続で転出超過となっています。東京都への転入者数は、2020年4月以降、一貫して前年比減少となっています。他方で、東京都からの転出者数は、5月は前年と比べて大きく減少したものの、6月以降は前年と比べて同等または増加傾向にあります。

図1-1-16 東京圏への転入超過数の推移

なお、2020年4月~12月計における、東京都からの転出超過となった15道県の転出超過数の85.5%を埼玉県、神奈川県及び千葉県の3県が占めました(図1-1-17)。

図1-1-17 道府県別の東京都の転入超過数(2019年及び2020年4月~12月計)

コラム:若年層の地方移住への関心の高まり

内閣府が行った「第2回新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(2020年12月)によると、2019年12月から比べ、地方移住への関心が高まっていることが分かります。東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)の全年齢での「強い関心がある」「関心がある」「やや関心がある」と答えた割合は、2019年12月は25.1%だったのに対し、2020年12月は31.5%と増加しました。東京圏の20歳代に絞ると、2019年12月は32.1%だったのに対し、2020年12月は40.3%と増加し、全年齢の割合に比べて地方移住に関心がある人の割合が多い結果となりました。

また、地方移住への関心の理由としては、「人口密度が低く豊かな環境に魅力を感じたため」、「テレワークによって地方でも同様に働けると感じたため」、「ライフスタイルを都市部での仕事重視から、地方での生活重視に変えたいため」といった理由に加え、5番目に多かった理由として、「現在地の感染症リスクが気になるため」が挙げられています。

地方移住への関心(東京圏在住者)、地方移住への関心理由(東京圏在住で地方移住に関心がある人)