環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成24年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第4節 原子力発電所の事故に伴う放射性物質による汚染の状況と対応

第4節 原子力発電所の事故に伴う放射性物質による汚染の状況と対応

 東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、環境に大量の放射性物質が放出され、平成23年4月12日、政府により、国際原子力・放射線事象評価尺度(INES)のレベル7と暫定評価される深刻な事故となりました。

 同原子力発電所の事故に伴う放射性物質による汚染等について、我が国は平成23年6月、「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書-東京電力福島原子力発電所の事故について-」をとりまとめ、同月に国際原子力機関(IAEA)で開催された「原子力安全に関するIAEA閣僚会議」において報告を行いました。

 この報告書の中で「この原子力事故は、我が国にとって大きな試練となり、世界各国の支援を受けつつ、国内の数多くの関係機関が一体となって対応に取り組んでいるところである。また、我が国は、この事故が世界の原子力発電の安全性に懸念をもたらす結果となったことを重く受け止め反省している。そして、何よりも事故の発生によって、世界の人々に放射性物質の放出について不安を与える結果になったことを心からお詫びする。」とあるように、事故に伴って環境中に放出された放射性物質は、最大の環境汚染の問題を引き起こし、我が国のみならず世界の人々にも不安を与えました。

 この節では、主に、この事故に由来する放射性物質による汚染等への対応を詳述します。また、原子力発電所における事故直後の状況と対応の経過等の詳細について、平成23年5月31日までの状況は、平成23年6月に公表された「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」において、平成23年8月31日までの状況は、同年9月に公表された「国際原子力機関に対する日本国政府の追加報告書-東京電力福島原子力発電所の事故について-(第2報)」等において、詳述されています。

 なお、本節で、「放射性セシウム」とした場合は、事故由来の放射性物質であるセシウム134及びセシウム137を指しています。

1 原子力発電所における事故直後の状況及び避難等の状況

 東京電力福島第一原子力発電所における全交流電源喪失及び非常用炉心冷却装置注水不能等の事態を受け、3月11日19時3分、菅総理(当時)は、原子力緊急事態宣言を発し、原子力災害対策本部を官邸に設置しました。福島県災害対策本部では、同原子力発電所における原子力緊急事態宣言を受け、同日20時50分、福島県知事は、大熊町及び双葉町に対し、同原子力発電所から半径2km圏内の居住者等の避難を指示しました。

 原子力災害対策本部は、同11日21時23分、福島県知事及び関係自治体に対し、同原子力発電所から半径3km圏内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うこと及び同発電所から半径10km圏内の居住者等に対して屋内退避を行うことを指示しました。

 その後、関係閣僚等により、避難範囲に関する再検討が行われ、原子力災害対策本部は、翌12日5時44分、福島県知事及び関係自治体に対し、同原子力発電所から半径10km圏内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うことを指示しました。同12日15時36分、1号機の原子炉建屋で爆発が発生したことを受け、原子力災害対策本部は、同日18時25分、福島県知事及び関係自治体に対して、同原子力発電所から半径20km圏内の居住者等に対して避難のための立ち退きを行うことを指示しました。

 3月14日11時1分の3号機の爆発、3月15日6時頃の4号機方向からの衝撃音の発生、同日8時11分頃における4号機原子炉建屋5階屋根付近の損傷確認、同日9時38分の同原子炉建屋3階北西付近での火災発生等の事態が連続的に発生した後、原子力災害対策本部は、15日11時、福島県知事及び関係自治体に対し、同原子力発電所から半径20km以上30km圏内の居住者等に対して屋内への退避を行うことを指示しました。

 加えて、同原子力発電所の半径20km圏内については、住民の安全確保に万全を期すため、原子力災害対策本部が、福島県知事及び関係市町村長に対し、同区域を警戒区域に設定することを4月21日に指示しました。

 また、環境モニタリングのデータから、同原子力発電所の半径20km圏外の場所でも放射性物質が高いレベルで蓄積されてきている場所があることが明らかになったため、4月22日には、20km圏外の一定の区域を「計画的避難区域」として新たに設定するとともに、従来、屋内退避区域とされてきた20kmから30km圏内の地域のうち「計画的避難区域」以外の区域については、「緊急時避難準備区域」として設定することが関係自治体の長に指示されました。これによって、計画的避難区域内の居住者等は避難のための計画的な立退きを行い、また緊急時避難準備区域内の居住者等は常に緊急時に避難のための立退き又は屋内への退避が可能な準備を行うように指示されました。このうち、緊急時避難準備区域については、平成23年9月30日解除されました。

 さらに、計画的避難区域の外にも、事故発生後1年間の積算被ばく線量が20ミリシーベルトを超えると推定される空間線量率が続いている地点が局地的に存在することから、原子力災害対策本部は6月16日に、当該地点を「特定避難勧奨地点」とし、居住住民に対して注意喚起及び避難の支援、促進を行う対応方針を示しました。

 平成23年8月9日、原子力災害対策本部は、避難区域等の見直しに関する考え方を示しました。この中では、避難指示が住民などの生活に非常に大きな影響を及ぼすものであることから、原子炉施設の安全性の確認や詳細なモニタリング結果の蓄積を通じた線量低減の把握などによって、状況に大きな変化が生じた場合には、これらの避難指示を速やかに見直すことが適当であるとされています。

 その後、12月16日、原子力災害対策本部において、原子炉の「冷温停止状態」の達成、使用済燃料プールのより安定的な冷却の確保、滞留水全体量の減少、放射性物質の飛散抑制などの目標が達成されていることから、発電所全体の安全性が総合的に確保されていると判断し、「放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている」というステップ2の目標達成と完了を確認しました。これを受け、原子力災害対策本部は、12月26日に、「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」をとりまとめ、警戒区域及び避難指示区域の見直しについての具体的な検討を開始するに当たり、見直しに関する基本的な考え方を提示し、平成24年3月30日に見直しを行うことを決定しました。

2 放射性物質による環境の汚染状況についての監視・測定

 東京電力福島第一原子力発電所の事故により環境中に大量の放射性物質が放出され、国民の健康への影響等が懸念されることから、子どもをはじめとした国民の健康管理や除染活動等今後の対策の検討に資するとともに、一体的で分かりやすい情報提供を行うため、政府等で構成されるモニタリング調整会議において、平成23年8月に「総合モニタリング計画」を決定し、平成24年3月には改訂を行いました。同計画では、放射性物質に係るモニタリングについて各府省等の役割分担を明確にしており、各府省庁等は、同計画に沿ったモニタリングを実施しています。また、放射線モニタリングのポータルサイトにおいて、各府省が実施したモニタリングの結果を一元的に提供しています。


表2-4-1 放射性物質の監視・測定の体制

(1)環境モニタリング一般、航空、海域、学校、公共施設等

 各都道府県における空間線量率を測定するとともに、土壌等に含まれる放射性物質の分析を行うための環境試料分析装置等の整備を進めました。また、東京電力福島第一原子力発電所周辺においては、モニタリングカーや可搬型モニタリングポスト、積算線量計(ガラスバッジ)による空間線量の測定等を平成23年3月より継続的に実施してきました。旧緊急時避難準備区域においては、定期的に行っているモニタリングとは別に、復旧を支援するため、生活圏に着目した走行サーベイによる面的なモニタリングや各自治体の要望に対応して井戸水、河川等の詳細モニタリングを実施し、放射線分布マップ等を作成するとともに、警戒区域(避難区域)及び計画的避難区域を対象として、走行サーベイ等による空間線量率の測定等の詳細モニタリングを実施しました。さらに、東日本を中心とした1都21県において、航空機モニタリングを実施し、特に、同原子力発電所から80km圏内においては、5回(うち1回は警戒区域及び計画的避難区域のみ)のモニタリングを実施し、空間線量率と放射性セシウムの沈着状況を把握しました。


図2-4-1 航空機モニタリング結果の例

 海洋については、福島県及び周辺県を中心として、[1]東京電力福島第一原子力発電所近傍海域、[2]沿岸海域、[3]沖合海域、[4]外洋海域において、海水、海底土及び海洋生物の放射性物質の濃度を測定しました。その結果、海水の放射能濃度については、東京電力福島第一原子力発電所の事故から間もない時期と比べて低い値となっていますが、事故以前の調査において全国の海域で測定された結果※に比べれば、いまだに高い値が続いている地点もあります。さらに、海底土の放射能濃度についても、空間的、時間的なばらつきがあるものの、事故以前の調査の結果に比べ、全般的に、未だに高い値となっており、また、広域にわたる拡散が見られることがわかりました。これらの結果や、河川流入海域を中心とした海底土、海産生物への放射性物質の影響に関する社会的関心が高まっていることを踏まえ、平成24年度において海洋のモニタリングの強化・充実を行うこととしています。

 学校等のモニタリングについては、データ転送機能を備えた設置型の小型線量計を順次整備し、インターネット回線等を通じて測定データを関係機関に送付するリアルタイム放射線監視システムを構築しました。また、福島県内で比較的高い線量が測定された学校等の空間線量率を測定するとともに、県内のすべての学校等に積算線量計を配付し、学校生活における児童生徒等を代表する者の受ける積算線量を把握しました。

※平成20~22年度海洋環境放射能総合評価事業海洋放射能調査結果

(2)港湾、空港、公園、下水道等

 国、関係地方公共団体及び関係団体において、東北・関東地方の港湾において大気中の空間線量率や海水中の放射性物質の濃度を測定するとともに、各主要空港近傍においては空間線量率を測定しました。また、東京湾浦賀水道航路付近においては、海水中の放射性ヨウ素及び放射性セシウムの濃度を測定し、結果を取りまとめました。

 下水汚泥等に含まれる放射性物質濃度については、関係自治体が実施した測定結果をとりまとめました。また、福島県が測定した福島県全域の都市公園における空間線量率や、県内の観光施設・山地・自然・道の駅等の観光施設における空間線量率もとりまとめました。

(3)水環境、自然公園、廃棄物

 水環境については、福島県を中心として、岩手県、山形県、宮城県、茨城県、栃木県、群馬県及び千葉県等の河川、湖沼・水源地、水浴場等の沿岸域の約700地点において、平成23年8月末より定期的に水質・底質等の放射性物質モニタリングを実施しました。その結果、放射性ヨウ素は水質、底質ともに全地点で不検出、放射性セシウムについては、水質からはほとんどの地点で不検出(平成24年2~3月調査では最大でも2Bq/L)でしたが、底質では、おおむね2,000Bq/kg(乾泥)程度以下ではあるものの広範囲に放射性セシウムが検出されており、特に東京電力福島第一原子力発電所の20km圏内の河川、湖沼・水源地など一部の限られた地点においては10万Bq/kg(乾泥)を超える高い値が検出されました。全体の状況としては、河川については、おおむね減少傾向が見られるものの、河口等一部地点において増加が見られるなど増減にばらつきがあり、湖沼、沿岸については全体的に増減にばらつきがある状況でした。底質の放射性セシウムについては、水による遮へい効果を考慮すれば、住民への被ばく線量への影響は限定的と考えられますが、洪水などの自然現象により状況が変化する可能性があることから、今後ともモニタリングを継続し、推移を注視する必要があります。

 また、同地域の地下水について、平成23年10月より定期的に水質の放射性物質モニタリングを実施しました。平成23年10~11月に宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県の5県の433地点で測定を実施し、その結果、放射性ヨウ素については全地点で不検出、放射性セシウムについても福島県内の2地点において1Bq/Lが検出されましたが、残りの地点では不検出でした。平成24年1~3月には上記5県に岩手県、群馬県、千葉県の3県を加えた8県の558地点で測定を実施し、その結果、放射性ヨウ素、放射性セシウムはともに全地点で不検出でした。

 さらに、夏の海水浴シーズンに水浴場の利用に当たっての放射性物質による影響が懸念されたため、平成23年6月23日、自治体等が水浴場開設を判断する際の水浴場の放射性物質に係る水質の目安などを内容とする水浴場の放射性物質に関する指針を策定しました。

 東京電力福島第一原子力発電所の周辺地域での放射性物質による野生動植物への影響を把握するため、環境省では植物の種子やネズミ等の試料の採取を進め、関係する研究機関とも協力しながら分析を進めていきます。野生動植物への影響の把握には、何世代にも渡る長期的な調査が必要となるため、関係する研究機関や学識経験者とも連携しながら、モニタリング方法を検討し、野生動植物への影響の把握を進めています。

(4)農地土壌、林野、牧草のモニタリング計画

 農地土壌については、農林水産省が中心となって、平成23年8月30日に福島県等6県を対象に約580地点の農地土壌の放射性セシウム濃度を測定して得られた濃度分布図を公表し、さらに、平成24年3月23日にはこの対象を15都県、点数を約3,400地点に拡大した分布図を公表しました。また、林野についても、福島県内の森林391箇所において、森林内の空間線量率と堆積有機物及び土壌の放射性セシウムの濃度を測定し、その結果を分布図として取りまとめ、平成24年3月1日に公表しました。農林水産省では、これらの分布図の農地や森林の除染や生産現場での営農等に活用していくこととしています。

(5)食品のモニタリング

 平成23年3月11日、原子力緊急事態宣言が発出されたことをうけ、3月17日、放射性物質に汚染された食品の取扱に関する通知が、都道府県知事、保健所設置市長、特別区長宛てに発出されました。この中で、食品衛生法の観点から、当分の間、原子力安全委員会が「原子力施設等の防災対策について」の中で示した指標値を暫定規制値とし、これを上回る食品については食品衛生法第6条第2号に当たるものとして取り扱うこととされ、これらの食品が食用に供されることがないよう販売その他について十分処置することが求められました。

 暫定規制値を超える放射性物質が検出された食品については、回収・廃棄を行うとともに、暫定規制値超過に地域的な広がりが認められる等の場合には、原子力災害対策特別措置法に基づく原子力災害対策本部長の指示により、その出荷や摂取の制限が行われています。3月21日に、同法に基づく最初の出荷制限が行われて以降、暫定規制値を超える放射性物質が検出された原乳、野菜類、穀類、水産物、肉等について、その出荷や摂取の制限が行われてきましたが、その後のモニタリングにより、暫定規制値を安定的に下回る場合には、原子力災害対策本部の示した考え方に基づき、制限が解除されています。

 この暫定規制値は、事故後の緊急的な対応として定められたものであることから、より一層、食品の安全と安心を確保する観点から、長期的な状況に対応する新たな基準値が定められ、平成24年4月1日から施行されています。

(6)水道のモニタリング

 東京電力福島第一原子力発電所の事故に関連した水道水中の放射性物質への対応については、平成23年3月19日及び3月21日に、原子力安全委員会の定める飲食物摂取制限の指標及び食品衛生法上の暫定規制値に基づき、緊急時における水道水中の放射性物質に係る指標が定められ、超過時の対応について都道府県、水道事業者等に通知されました。また、平成23年4月4日に、モニタリング方針、検査結果に基づく摂取制限の要否・解除の考え方が示されました(平成23年6月30日に一部改定)。これまで、20の水道事業者等で水道水の摂取制限が実施されましたが、平成23年5月10日までにすべての水道事業者等で解除されて以降、指標の超過により水道水の摂取制限を行った水道事業者等はありません。また、平成23年4月以降は水道水中からはおおむね不検出の状態が続いています。

 厚生労働省では、平成23年6月に、その時点の知見の集約として中間取りまとめを行い、今後の見通しとして、同原子力発電所から大量の放射性物質が放出されない限り、摂取制限等の対応を必要とするような影響が水道水に現れる蓋然性は低いこと等を示しています。その後、食品中の放射性物質の新たな基準やモニタリング実績を踏まえ、平成24年3月5日に指標が見直されて新たな管理目標値(セシウム134及びセシウム137の合計で10Bq/kg)が設定され、モニタリング方法及び目標値超過時の措置等について都道府県、水道事業者等に通知されました。この管理目標値は、平成24年4月1日以降適用されています。

3 放射性物質汚染対処特措法に基づく除染や汚染廃棄物処理等の取組

(1)放射性物質汚染対処特措法の概要

 東日本大震災に伴う原子力発電所の事故によって放出された放射性物質による環境の汚染が生じており、これによる人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することが喫緊の課題となっています。こうした状況を踏まえ、平成23年8月30日に「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号。以下、「放射性物質汚染対処特措法」)が公布されました(図2-4-2)。


図2-4-2 放射性物質汚染対処特措法に基づく制度の概要

 また、平成23年11月11日には放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針が閣議決定され、環境の汚染の状況についての監視・測定、事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理、土壌等の除染等の措置等に係る考え方がとりまとめられました。これに基づき、事故由来放射性物質による環境の汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減するため、放射性物質による汚染の除去等の取組を進めることとされました。

(2)放射性物質による汚染の除去等の取組

ア)放射性物質汚染対処特措法に基づく枠組み

 放射性物質汚染対処特措法においては、除染特別地域と汚染状況重点調査地域が規定されています。除染特別地域については、警戒区域又は計画的避難区域の指定を受けたことがある地域が指定されており、同地域では、環境大臣が定める特別地域内除染実施計画に基づいて、国が除染等の措置等を実施しなければならないこととされています。

 また、環境大臣は、年間の追加被ばく線量が1ミリシーベルト以上となる地域を汚染状況重点調査地域として指定することとされています。指定された市町村等は、汚染状況重点調査地域内で、年間の追加被ばく線量が1ミリシーベルト以上となる区域について、除染実施計画を定めることとされています。国、都道府県、市町村等は、それに基づいて、除染等の措置等を実施しなければならないこととされています。


表2-4-2 放射性物質汚染対処特措法に基づく枠組み

 除染特別地域については福島県内の11市町村、汚染状況重点調査地域については岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県内の合計104市町村が指定されています(平成24年5月現在)。

イ)土壌等の除染等の措置の基本的考え方

 放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針においては、土壌等の除染等の措置については、まずは人の健康の保護の観点から必要な地域について優先的に、特別地域内除染実施計画又は除染実施計画を策定し、線量に応じたきめ細かい措置を実施する必要があること、特に、成人に比べて放射線の影響を受けやすい子どもの生活環境については、優先的に実施することが重要である旨が明記されています。


表2-4-3 土壌等の除染等の措置に係る目標

ウ)除染特別地域における除染

 「特別地域内除染実施計画」については、「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について(平成23年12月26日、原子力災害対策本部)」により、新たな避難指示区域の区分が示されていることを踏まえ、その区分ごとに基本的な考え方を整理して、環境大臣が策定を進めることとなります。この策定作業は実際の区域の見直しの検討作業と密接に関連します。そのため、モデル実証事業やインフラ等についての先行的な除染を進めつつ、市町村等の関係者と密接な連携を図って特別地域内除染実施計画の策定作業を進めることとなります。

 また、この特別地域内除染実施計画の策定後に、建物等の状況調査、同意の取得など、除染作業に入るための準備を実施し、順次除染作業を開始します。


図2-4-3 当面の除染特別地域の除染工程

[1] 除染モデル実証事業(技術的知見の収集)

 平成23年11月以降、警戒区域や計画的避難区域等において、除染の効果的な実施のために必要となる技術の実証実験等のため、除染モデル実証事業が実施されました。除染モデル実証事業については、平成23年11月以降、双葉町を除く、予定されたすべての除染対象地区において、順次、進めてきており、3月末に本事業の線量低減効果のこれまでの結果等について報告を行いました。その主なポイントは、以下のとおりです。

 このように、今後もモデル事業を実施し、引き続き、除染技術の効果や限界を明らかにしつつ、その適用可能性等の知見を蓄積するとともに、これらの知見については順次除染事業等に活用します。

[2] 先行除染(本格除染実施のために必要な除染)

 今後の本格的な除染を進めるに当たっては、除染活動の拠点となる施設(役場、公民館等)や、除染を行う地域にアクセスする道路、除染に必要な水等を供給するインフラ施設を対象に、先行的な除染を実施する必要があります。

 このため、平成23年12月以降、自衛隊等による除染、常磐自動車道の除染等を順次実施しているところであり、今後も、役場、公民館等の公的施設や、上下水道施設等のインフラ等の先行的な除染を進めることとなります。


写真2-4-1 先行除染の様子

[3] 本格除染

 本格除染については、平成26年3月末までに、住宅、事業所、公共施設の建物等、道路、農用地、生活圏周辺の森林等において土壌等の除染等の措置を行い、そこから発生する除去土壌等を適切に管理された仮置場へ逐次搬入することを目指すこととしています。

 除染によって生じた土壌等を保管するための中間貯蔵施設については、平成23年10月に環境省として「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質による環境汚染の対処において必要な中間貯蔵施設等の基本的考え方について」を示し、その後、平成23年末には、福島県双葉郡内での立地の検討をお願いしました。平成24年3月には、双葉地方町村、福島県と国との間で意見交換を行い、複数の地域に設置する国の案を示しました。地元自治体や住民の理解と協力を得つつ、仮置場での本格搬入開始から三年程度を目途として供用開始ができるよう、政府として最大限努力していくこととしています。

[4] 除染実施区域における除染

 汚染状況重点調査地域は、その地域の平均的な放射線量が1時間当たり0.23マイクロシーベルト以上の地域(年間の追加被ばく線量が1ミリシーベルト以上となる地域)を含む市町村を、地域内の事故由来放射性物質による環境の汚染の状況について重点的に調査測定をすることが必要な地域として、環境大臣が指定するものです。指定を受けた市町村は、具体的に市町村内で除染実施計画を定める区域を定めることになります。

 除染の実施に係る考え方としては、放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針において、土壌等の除染等の措置の方針として、追加被ばく線量が比較的高い地域については、必要に応じ、表土の削り取り、建物の洗浄、道路側溝等の清掃、枝打ち及び落葉除去等の除染等、子どもの生活環境の除染等を行うことが適当であること、追加被ばく線量が比較的低い地域については、周辺に比して高線量を示す箇所があることから、子どもの生活環境を中心とした対応を行うとともに、地域の実情に十分に配慮した対応を行うことが適当であるとしています。


除染等の取組


 除染方法については、放射性物質の状況により、効果的な方法は異なります。除染作業の前に放射線量を測り、除染方法を選択し、作業実施後も放射線量を測って効果を確認します。

 放射線量が比較的低い地域の除染方法の例として、民家軒下の雨樋の清掃、草木の刈り取り、側溝の汚泥の除去等があります。放射線量が比較的高い地域の除染方法として、土地の除染については、重機を用いた校庭表土の削り取り、手作業による腐葉土を薄くはぐ等の方法がとられます。また、屋根等の除染については、屋根の高圧洗浄、樋の除染等の例があります。


除染等の取組

(3)事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理

 事故由来放射性物質により汚染された又は汚染されたおそれのある廃棄物は、基本的に、放射性物質汚染対処特措法及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)に基づいて処理されます。放射性物質汚染対処特措法においては、放射性物質により汚染された廃棄物を、特定廃棄物と特定一般廃棄物及び特定産業廃棄物に区別し、それぞれの処理方法等について定めています。

ア)特定廃棄物

 放射性物質汚染対処特措法に基づいて、特定廃棄物は、汚染廃棄物対策地域内にある廃棄物(対策地域内廃棄物。)と、指定廃棄物に区別されています。

 対策地域内廃棄物は、国が対策地域内廃棄物処理計画によって処理を進めます。

 指定廃棄物は、特別な管理が必要な程度に放射性物質により汚染された廃棄物が指定されます。この指定廃棄物は、国が処理を実施します。指定の流れは、一定の要件に該当する水道施設、下水道、工業用水道施設、廃棄物処理施設及び集落排水施設において排出された廃棄物の汚染状況について、その施設の管理者が調査を行い、環境大臣に報告し、その結果、放射性セシウムの放射能濃度が8,000Bq/kgを超えると認められる廃棄物を環境大臣が指定廃棄物に指定します(表2-4-4)。このほか、廃棄物の占有者が、自身が占有する廃棄物の汚染状況を調査した結果、放射性セシウムの放射能濃度が8,000Bq/kgを超えると思料する場合、指定廃棄物の指定について環境大臣に対し申請できます。


表2-4-4 指定廃棄物の発生元及び想定される廃棄物

 これらの特定廃棄物の処理は、放射性物質汚染対処特措法第20条に基づき定められた収集運搬基準、保管基準、中間処理基準、最終処分基準に従って行われます。これらの基準は、住民の安全確保のため、処理に伴って周辺住民の受ける線量が毎年1ミリシーベルトを超えないように定められています。具体的には、放射線の遮へい、公共水域や地下水の汚染の防止、施設からの排ガス・排水の管理等の安全確保のために必要な措置を行い、周辺の線量、地下水、排ガス・排水等のモニタリングを行って、これらの措置が的確に講じられていることを確認することとされています(図2-4-4)。


図2-4-4 指定廃棄物の保管の例

イ)特定廃棄物以外の事故由来放射性物質により汚染された廃棄物

 放射性物質汚染対処特措法第23条において、事故由来放射性物質により汚染された又はそのおそれがある廃棄物(特定一般廃棄物・特定産業廃棄物)の処理を行う者は、廃棄物処理法に基づく廃棄物の処理基準に加えて、特別処理基準に従わなければならないこととされています。

 特定一般廃棄物又は特定産業廃棄物に該当する廃棄物は、特定廃棄物に該当しない廃棄物であって次のいずれかに該当するものです

 [1] 除染特別地域内又は除染実施区域内の土地等に係る土壌等の除染等の措置に伴い生じた廃棄物

 [2] 一定の地域の一定の要件に該当する水道施設、下水道終末処理場、焼却施設等から排出される汚泥、焼却灰等

 [3] 稲わら、堆肥が事故由来放射性物質により汚染されたため利用できなくなった結果、廃棄物となったもの

 [4] [1]から[3]までに掲げる廃棄物を処分するために処理したものであって、これらの廃棄物に該当しないもの

 この特別処理基準は、特定廃棄物に該当しない廃棄物について廃棄物処理法を適用しつつ、入念的に、より一層の安全確保を図ろうとするためのものです。

 特別処理基準は、収集運搬の基準、中間処理の基準、埋立て処分の基準から構成されています。

 収集運搬の特別処理基準では、運搬に当たって特定一般廃棄物又は特定産業廃棄物の積替保管を行う場合の基準として、必要な要件を備えた掲示板が設けられている場所で保管することが定められています。

 中間処理の特別処理基準では、特定一般廃棄物又は特定産業廃棄物を焼却等(焼却、溶融、熱分解及び焼成)する場合について定められており、ろ過式集じん方式の集じん器などの高度の機能を有する排ガス処理設備を備えた焼却施設で行うこととされています。

 埋立て処分の特別処理基準では、特定一般廃棄物又は特定産業廃棄物の埋立て方法として土壌層の設置や層状埋立て等が定められています。

 また、廃棄物処理施設のうち、特定一般廃棄物又は特定産業廃棄物の処理を行う焼却施設等及び特定一般廃棄物又は特定産業廃棄物の処理をしていなくても一定地域に所在する焼却施設等に対しては放射性物質汚染対処特措法第24条に基づき定められた特別維持管理基準が適用され、排ガスや排水中の放射性物質の濃度を月1回以上、敷地境界における空間線量を週1回以上測定することとされています。

 さらに、特定一般廃棄物又は特定産業廃棄物を埋立て処分する最終処分場にも特別維持管理基準が適用され、地下水・放流水中の放射性物質の濃度を月1回以上、敷地境界における空間線量を週1回以上測定することとされています。

(4)除染や汚染廃棄物処理等の体制整備

 除染や汚染廃棄物処理については、復興庁や原子力災害対策本部と連携しながら、体制をより充実し、進める必要があります。

 環境省においては、放射性物質汚染対処特措法が平成24年1月1日に全面施行されたことに伴い、福島県等における除染や汚染廃棄物処理を推進するために「福島環境再生事務所」を開所しました。

 また、福島県・環境省では、除染等に関する専門家を市町村等の要請に応じて派遣するとともに、除染のボランティア活動等の関連情報の収集・発信を行う拠点として、国、福島県、関係機関、関係団体等の連携を図る「除染情報プラザ」を設置しました。平成24年1月20日より電話及びメールで、除染等に関する専門家の派遣要請の受付を開始しています。なお、これらの専門家は、放射線に関する学会等の関係機関、関係団体の御協力の下、有志のボランティアとして集まっています。

 加えて、環境省、厚生労働省及び福島県では、平成23年12月以降、除染等の事業に関わる事業者・関係機関の方々が、作業を適切かつ安全に行うための規則に関する知識や基本的な知識を得て、各事業場において作業管理に必要な特別教育・指導を実施していただくための講習会を、平成24年4月までに、各地で計60回開催し、約13,000名が修了しています。

4 低線量被ばくへの対処

(1)低線量被ばくのリスク管理に関する知見等の整理・検討

 東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射性物質汚染対策においては、低線量被ばくのリスク管理を適切に行っていくことが求められています。そこで、国内外の科学的知見や評価の整理、現場の課題の抽出、今後の対応の方向性の検討を行う場として、原発事故の収束及び再発防止担当大臣の要請に基づき、放射性物質汚染対策顧問会議の下で「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」が開催されました。低線量被ばくの影響について、国内、国外から相反する意見を含めて幅広い意見を有する専門家を含め有識者に参集いただき、政府関係者も積極的に参加して公開で議論が行われました。

 同ワーキンググループでは、以下の3つの課題について全8回の議論が行われ、平成23年12月22日に見解をまとめた報告書が出されました。その概要は以下のとおりです。

ア)避難指示の基準である年間20ミリシーベルトという低線量被ばくの健康影響

 国際的にも信頼性の高い疫学調査の結果によると、100ミリシーベルト以下の被ばく線量では、発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされています。これは、放射線による発がんの影響が、ほかの要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいためであり、現時点では、疫学調査以外の科学的手法によっても、人のリスクを明らかにするにはいたっていません。

 しかし、放射線防護の観点からは、健康への影響が科学的に証明されていない100ミリシーベルト以下の低線量被ばくであっても、被ばく線量に対して直線的にリスクが増加するという安全サイドに立った考え方に基づき、被ばくによるリスクを減らすための措置を採用するべきであるとされています。

 避難指示の基準である年間20ミリシーベルトという低線量被ばくの健康影響は、これを自発的に選択できるほかのリスク要因による健康影響と単純に比較することは必ずしも適切ではないものの、リスクの程度を理解するために比べると、ほかの発がん要因(例えば喫煙、肥満、野菜不足等)と比べても十分低い水準です。また放射線防護の観点からは、除染や食品の安全管理等によって十分にリスクを回避できると評価されます。こうしたことから、年間20ミリシーベルトという数値は、今後より一層の線量低減を目指すに当たってのスタートラインとして適切であると考えられます。

イ)子どもや妊婦への配慮事項

 100ミリシーベルトを超える被ばくでは、子どもは、成人よりも放射線による発がんのリスクが高いことが分かっている一方で、100ミリシーベルト以下の低線量被ばくでは、成人の場合と同様に、発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされています。しかし、100ミリシーベルト以下の低線量被ばくであっても、住民の方々の大きな不安を考慮に入れて、子どもや妊婦に対して優先的に取り組むことが重要であると考えられます。

 なお、子どもは放射線を避けることに伴うストレス等に対する影響について感受性が高いと考えられるため、きめ細かな対応策を実施することが重要です。

ウ)リスクコミュニケーションのあり方

 リスクコミュニケーションでは、これまでに得られている科学的知見を検討し、福島の状況に即したリスク評価を理解され易いかたちで、地域住民に提示することが重要です。その結果として、住民の方々が、放射線・放射能についての正しい知識に基づいた自主的な対応ができるようになることが必要です。

 また、長期的かつ効果的な放射線防護や健康管理の取組を実施するためには、住民が主体的に参加することが不可欠です。このため、政府は各個人が自ら情報を得る手段を提供し、住民の方々がそれにより自身の状況を理解し、評価できるようにするとともに、復旧・復興に向けて主体的、持続的に取り組める環境を整えることが重要です。

 さらに、政府や専門家が、直接住民の方々と対話し、コミュニケーションをとって、分かりやすく情報を提供することで、全員が同じ目線に立って、被ばく線量の低減対策や健康管理対策を実施することができます。

(2)福島県における県民健康管理調査等

 福島県では、全県民を対象に中長期的な健康管理を行うため「県民健康管理調査」を実施し、被ばく線量の把握、震災時に18歳以下であった全県民に甲状腺超音波検査や健康状態を把握するための健康診査等を行っています。国は、こうした取組が円滑に行われるよう、財政的・技術的な支援を行っているところです。また、放射線についての正確な知識を深め、低線量被ばくによる人体への健康影響その他放射線の人体への影響等に関する国民の理解を促すための広報、教育その他の取組を進めていきます。さらに、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)、国際放射線防護委員会(ICRP)等の国際研究機関と連携を図りつつ、放射線の人の健康への影響に関する調査研究を実施します。