今後、京都議定書目標達成計画に規定された対策・施策について、各部門において各主体が全力で取り組むことにより、森林吸収量の目標である1,300万炭素トン(基準年総排出量比3.8%)の確保、京都メカニズムの活用(同比1.6%)と併せて、京都議定書第一約束期間の削減約束を達成することとしています。
そのほか、地域の自然的社会的条件に応じた地球温暖化対策を推進するため、地方公共団体実行計画の策定・実施を支援します。
また、地球温暖化を防止するためには、地球規模での温室効果ガスの更なる長期的・継続的かつ大幅な削減が必要です。そのため、後述の地球温暖化対策基本法案では、わが国は、1990年比で、2020年(平成32年)までに25%の温室効果ガスの排出削減を目指すとの中期目標を、すべての主要国による公平かつ実効性ある国際的枠組みの構築と意欲的な目標の合意を前提として掲げるとともに、2050年(平成62年)までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指すとの長期目標を掲げ、2050年までに世界全体の温室効果ガスの排出量を少なくとも半減するとの目標をすべての国と共有するよう努めることとしています。また、平成22年6月に策定した新成長戦略において、すべての主要国による公平かつ実効性ある国際的枠組みの構築や意欲的な目標の合意を前提として、2020 年に、温室効果ガスを1990年比で25%削減するとの目標を掲げ、あらゆる政策を総動員した「チャレンジ25」の取組を推進することとしています。
わが国の地球温暖化対策の基本的な方向性を明らかにするために、地球温暖化対策に関しての基本原則や国、地方公共団体、事業者及び国民の責務、温室効果ガス排出量の削減に関する中長期的な目標、地球温暖化対策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本計画、基本的施策等を盛り込んだ地球温暖化対策基本法案を国会に提出しております。法案の成立後には、基本法に基づき基本計画を定めることになります。
環境省では、中長期目標を実現するための具体的な姿を示すため、中央環境審議会地球環境部会に設置した中長期ロードマップ小委員会において、「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ」の精査を続けており、平成22年12月には、これまでの検討の内容を取りまとめた「中長期の温室効果ガス削減目標を実現するための対策・施策の具体的な姿(中長期ロードマップ)(中間整理)」を同審議会地球環境部会に報告しています。環境省では、今後、当該中間整理をもとに更に精査をすすめ、国民的な議論を行っていく予定です。
ア 低炭素型の都市・地域構造や社会経済システムの形成
低炭素都市づくり関連施策の集中投入、低炭素都市推進協議会を通じた成果の情報共有等により、施策の効果の最大化を図るとともに、各府省の連携・協力のもと「環境モデル都市」における取組を促進するなど、低炭素都市づくりを推進します。
具体的には、より実効的な地方公共団体実行計画(区域施策編)の策定・実施を支援するための土地利用・交通、地区・街区に関する都市・地域の低炭素化手法の検討、公共交通機関の利用促進、未利用エネルギーや自然資本の活用等の面的な実施によるCO2削減シミュレーションを通じた実効的な計画策定や事業の実施の支援、ICTの活用や系統安定化対策によって、再生可能エネルギーを導入した次世代エネルギーシステムを確立します。また、バイオマスタウンの認定や、低炭素都市づくりを支える人材育成等を行います。
イ 部門別(産業・民生・運輸等)の対策・施策
(ア)産業部門(製造事業者等)の取組
自主行動計画については、京都議定書目標達成計画において示された観点も踏まえ、政府による自主行動計画の厳格な評価・検証を行います。中小企業における排出削減対策の強化のため、中小企業の排出削減設備導入における資金面の公的支援の一層の充実や、大企業等の技術・資金等を提供して中小企業等(いずれの自主行動計画にも参加していない企業として、中堅企業・大企業も含む。)が行った温室効果ガス排出抑制のための取組による排出削減量を認証し、自主行動計画等の目標達成のために活用する国内クレジット制度、農林水産分野においては、平成19年6月に策定した農林水産省地球温暖化対策総合戦略に基づき実施してきたバイオマスの利活用の推進等の地球温暖化防止策、暑さに強い品種の開発や栽培体系の見直し等の地球温暖化適応策、わが国の技術を活用した国際協力を引き続き推進します。さらに、同戦略を平成20年7月に改定し、農山漁村地域に賦存するさまざまな資源やエネルギーの有効活用による低炭素社会実現に向けた農林水産分野の貢献等を実施します。
(イ)業務その他部門の取組
省エネルギー法に基づき、企業単位・フランチャイズチェーン単位での総合的なエネルギー管理を義務付けることで、工場・オフィスビル等の実効性のある省エネ取組のさらなる強化を行います。一定の中小規模の住宅・建築物に係る省エネ措置の届出義務等、省エネルギー法改正の内容について前年度に引き続き、周知徹底を行います。また、建築物等に関する総合的な環境性能評価手法(CASBEE)の充実・普及さらにグリーン投資減税を創設し、建築物の省エネ化を促進します。さらにグリーン投資減税を創設し、建築物の省エネ化を促進します。トップランナー基準については、さらに個別機器の効率向上を図るため、対象を拡大するとともに、すでに対象となっている機器の対象範囲の拡大及び基準の強化を図ります。
また、平成19年3月に閣議決定された政府実行計画に基づき、政府の事務及び事業に関し、率先的な取組を実施します。特に、全国の国の庁舎において、太陽光発電、建物緑化、ESCO等のグリーン化を推進します。政府実行計画に基づく取組に当たっては、平成19年11月に施行された国等における温室効果ガス等の排出の削減に配慮した契約の推進に関する法律(平成19年法律第56号)に基づき、環境配慮契約を実施します。
(ウ)家庭部門の取組
一定の中小規模の住宅・建築物に係る省エネ措置の届出義務等、省エネルギー法改正の内容について前年度に引き続き、周知徹底を行います。また、消費者等が省エネルギー性能のすぐれた住宅を選択することを可能とするため、住宅等に関する総合的な環境性能評価手法(CASBEE)や住宅性能表示制度の充実・普及、「住宅事業建築主の判断の基準」に適合していることを表示する住宅省エネラベルの情報提供を実施します。さらに、既存住宅について一定の省エネ改修工事(高断熱窓への取替え等)を行った場合の所得税額の特例措置を延長し、また、製造事業者等による省エネルギー性能の品質表示制度を円滑に実施するとともに、その省エネルギー効果について各種媒体を活用した周知徹底を行うこととし、住宅リフォーム時に導入可能な各種省エネ対策について普及啓発を行います。また、一定の省エネ基準を満たす住宅の新築・リフォームに対し、様々な商品等と交換できるポイントを付与する住宅エコポイント事業を引き続き実施します。
加えて、平成22年6月に閣議決定した「新成長戦略~「元気な日本」復活のシナリオ~」に位置付けられた「環境コンシェルジュ制度」の創設に向けて、各家庭のCO2排出実態に合った、きめ細やかなアドバイスを行う家庭エコ診断の推進のための基盤整備を行います。
(エ)運輸部門の取組
自動車単体対策のみならず、交通流対策、燃料対策、エコドライブなどの自動車利用の効率化対策等も含めた総合的アプローチを推進します。自動車単体対策として、世界最高水準の燃費技術により燃費の一層の改善や、燃費性能のすぐれた自動車やクリーンエネルギー自動車の普及等の対策を推進します。あわせて、環状道路等幹線道路網の整備等の推進により、交通流対策を実施します。また、地域公共交通の活性化及び再生に関する法律(平成19年法律第59号)に基づく地域公共交通活性化・再生総合事業により、地域鉄道の活性化、都市部におけるLRTやBRTの導入、乗継の改善等を総合的に支援します。物流分野に関しては、配送を依頼する荷主と配送を請け負う物流事業者の連携を強化し、地球温暖化対策に係る取組を拡大することで、物流体系全体のグリーン化を推進します。また、自動車輸送から二酸化炭素排出量の少ない内航海運又は鉄道による輸送への転換を促進するとともに、国際貨物の陸上輸送距離の削減にも資する港湾の整備を推進します。
また、国際標準化戦略と船舶の革新的省エネ技術の開発を一体的に行う海洋環境イニシアティブを推進するとともに、内航海運におけるスーパーエコシップ等の省エネ船舶の普及促進等により、海運分野の低炭素化を推進します。
輸送用燃料については、平成22年6月に閣議決定されたエネルギー基本計画において、平成32年(2020年)に全国のガソリンの3%相当以上のバイオ燃料の導入を目指すとされたことを踏まえ、バイオ燃料を全国的に供給できる体制を構築するための事業を推進していきます。
また、エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(平成21年法律72号)に基づく、非化石エネルギー源の利用に関する石油精製業者の判断の基準(平成22年経済産業省告示242号)が平成22年11月に施行されたことにより、平成23年度から一定規模以上の石油精製業者には、持続可能性基準を満たしたバイオ燃料の利用が義務付けられることとなります。
(オ)エネルギー転換部門の取組
原子力発電に関しては、福島第一原子力発電所の事故の収束に全力を集中し、その上で、今回の地震・津波の状況や事故原因について徹底的な検証を行う必要があります。こうした検討を踏まえつつ、原子力政策を含むエネルギー政策全体についての議論が必要です。また、原子力等のほかのエネルギー源とのバランスやエネルギーセキュリティを踏まえつつ、天然ガスへの転換等その導入及び利用拡大を推進します。再生可能エネルギーの利用を促進するため、固定価格買取制度の導入に取り組みます。また、再生可能エネルギーを利用するための設備の設置の促進、電力系統の整備の促進、規則の適切な見直し等、必要な施策を講じます。また、天然ガスコジェネレーションや燃料電池、ヒートポンプなど、エネルギー効率を高める設備等の更なる普及も推進していきます。
廃棄物の発生抑制、再使用、再生利用の推進による化石燃料由来廃棄物の焼却量の削減、廃棄物の最終処分量の削減や、全連続炉の導入等による一般廃棄物焼却施設における燃焼の高度化、混合セメントの利用の拡大、下水汚泥の燃焼の高度化等を引き続き推進します。
産業界の計画的な取組の推進、代替物質等の開発等、代替物質を使用した製品等の利用の促進、冷媒として機器に充填されたHFCの法律に基づく回収等の施策を、引き続き実施します。
具体的には、事業者の先導的な排出抑制の取組に対する支援、冷凍空調機器や断熱材における温室効果の低いガスを用いた技術開発の早急な推進、代替フロンを含有する製品における「見える化」の推進(二酸化炭素換算表示)、特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律(平成13年法律第64号)による冷媒フロン類の回収の徹底、冷媒フロン類の使用時排出対策、特定家庭用機器再商品化法(平成10年法律第97号。以下「家電リサイクル法」という。)及び使用済自動車の再資源化等に関する法律(平成14年法律第87号。以下「自動車リサイクル法」という。)に基づくフロン類回収の徹底、発泡断熱材、エアゾールなどのノンフロン化をさらに推進するための普及啓発等に取り組みます。また、代替物質を使用した製品等の利用を促進するため省エネ型自然冷媒冷凍等装置の導入補助等を引き続き行います。
さらに、産業構造審議会化学・バイオ部会地球温暖化防止対策小委員会及び中央環境審議会地球環境部会フロン類等対策小委員会において、フロン類の更なる排出抑制に向けた対策強化のあり方について引き続き検討を行っていきます。
森林吸収量(1990年以降に森林経営活動等が行われた森林の吸収量)については、1,300万炭素トン(基準年度総排出量比約3.8%)の確保のため、平成19年度以降の6年間に、毎年55万haの間伐等の森林整備の実施が必要な状況となっています。
このため、平成23年度から新たに、面的まとまりをもって計画的な森林施業を行う者に直接支援を行う「森林管理・環境保全直接支払制度」を導入するとともに、森林境界を明確化する取組への助成や「森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法(平成20年5月施行)」に基づく措置等を活用し、間伐等の森林整備を引き続き推進します。
また、都市における吸収源対策として、引き続き都市公園整備、道路緑化等による新たな緑化空間を創出し、都市緑化等を推進します。
さらに平成20年7月に改定した農林水産省地球温暖化対策総合戦略に基づき、農地土壌の温室効果ガスの吸収源としての機能の活用に向けた取組等を実施します。
地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号。以下「地球温暖化対策推進法」という。)に基づき、事業者全体、フランチャイズチェーン全体での事業者による算定・報告が着実かつ適切に実施されるよう、引き続き周知を図るとともに、報告された排出量等を確実に集計し公表します。
地球温暖化対策推進法第21条に基づく排出抑制等指針について、引き続きその他の部門や更なる指針の活用方等についても検討を行うなど、事業者による温室効果ガスの排出抑制等のための取組を推進していく予定です。
地球温暖化防止のために政府が推進する国民運動「チャレンジ25キャンペーン」を引き続き展開し、オフィスや家庭などにおけるCO2削減の具体的な行動である「6つのチャレンジ」の実践を広く国民の皆様に呼びかけていきます。
「カーボンフットプリント制度」については、制度の構築・理解促進、国際標準化作業への積極的参加等を引き続き行うとともに、前述した家庭エコ診断等において、「見える化」による温室効果ガスの削減効果の把握のための調査の結果を活用しつつ、主に家庭部門等での温室効果ガス削減のための施策を進めていく予定です。また、事業者におけるサプライチェーン全体での温室効果ガス排出量の算定及び見える化を促進していく予定です。
「地球温暖化対策の主要3施策について」(2010年12月28日地球温暖化問題に関する閣僚委員会)に基づき、わが国の産業に対する負担やこれに伴う雇用への影響、海外における排出量取引制度の動向とその効果、国内において先行する主な地球温暖化対策(産業界の自主的な取組など)の運用評価、主要国が参加する公平かつ実効性のある国際的な枠組みの成否等を見極め、慎重に検討を行います。
また、2008年10月に開始した「排出量取引の国内統合市場の試行的実施」については、義務的な国内排出量取引制度の基盤となるものではありませんが、排出実態等に関する情報収集、排出量の算定・検証の体制の整備、対象事業者における排出量取引への習熟等の意義があることから、引き続き必要な見直しを行いながら継続します。
なお、自主参加型国内排出量取引制度(JVETS)や国内クレジット制度については、引き続きその運営を行っていきます。
オフセットに関する国内・海外の情報収集や、「カーボン・オフセットフォーラム(J-COF)」を活用した継続的な普及啓発・相談支援を通じてオフセットの普及促進を促進すると共に排出量の全量をオフセットするカーボン・ニュートラル(炭素中立)の取組についても普及を図ります。また、「オフセット・クレジット(J-VER)制度」については、対象となるプロジェクトの拡充やJ-VER認証プロセスの効率化により、J-VER制度の円滑な運営を図るとともに、認証に係る事業者等への支援やクレジットの売り手と買い手のマッチング機会を提供するなど制度活用を促進させるための取組を強化していきます。
日本カーボンアクション・プラットフォーム(JCAP)のネットワークも活用しつつ、これらを通じてオフセットの取組を社会全体に定着させることで、市民・企業等あらゆる主体における排出削減等の活動を促進し、わが国を低炭素社会にシフトするための基盤づくりに貢献します。
気候変動に関する国際連合枠組条約に基づき、温室効果ガス排出・吸収目録(インベントリ)を報告します。また、温室効果ガス排出量・吸収量のさらなる精度等の向上に向けた算定方法の改善や情報解析等を行います。
地球温暖化の防止及び地球温暖化への適応に資する技術の高度化及び有効活用を図るため、再生可能エネルギーの利用、エネルギー使用の合理化、燃料電池、蓄電池並びに二酸化炭素の回収及び貯留等に関連する革新的な技術の開発及び普及を促進します。
農林水産分野においては、農林水産省地球温暖化対策総合戦略に基づき、地球温暖化対策に係る研究及び技術開発を強化します。温暖化緩和技術については、温室効果ガスの発生・吸収メカニズムの解明を進め、温室効果ガスの排出削減技術、森林や農地土壌などの吸収機能向上技術の開発を推進します。また、有機資源の循環利用や微生物を利用した化学肥料・農薬の削減技術、養分利用効率の高い施肥体系および土壌に蓄積された養分を有効利用する管理体系の確立を推進します。
さらに、温暖化適応技術については、精度の高い収量・品質予測モデル等の開発、気候変動の農林水産物への影響評価を行うとともに、温暖化の進行に適応した生産安定技術の開発、ゲノム情報を活用した高温や乾燥等に適応する品種の開発を推進します。
地球温暖化の実態を解明し、科学的知見を踏まえた一層適切な行政施策を講じるため、環境研究総合推進費等を活用し、現象解明、将来予測、影響評価及び対策に関する研究を総合的に推進します。
わが国を含む各国の研究機関による「低炭素社会国際研究ネットワーク」を引き続き支援し、国際的に研究を推進します。
地球温暖化分野の観測にかかわる関係府省・機関が参加する連携拠点の運営や、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)第6章第3節1(4)参照)を用いた全球の温室効果ガス濃度の観測等により、気候変動及びその影響等を把握するための総合的な観測・監視体制を強化します。
フロン類回収・破壊の一層の徹底を図るため、引き続き特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律(平成13年法律第64号)の周知を行い、都道府県による法施行強化等を推進します。
特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律(昭和63年法律第53号)に基づき、オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書に定められたHCFC等のオゾン層破壊物質の生産規制等を着実に実施するとともに、その排出抑制、使用合理化の一層の促進に努めます。また、オゾン量、オゾン層破壊物質及び有害紫外線の観測・監視等を実施します。
開発途上国におけるフロン等対策を支援するため、議定書の下に設けられた多数国間基金を使用した、オゾン層破壊物質からオゾン層を破壊せずかつ温室効果の低い代替物質への転換支援、JICAを通じた研修員の受入れや専門家の派遣等を引き続き推進するなど、開発途上国への技術協力を行います。さらに、オゾン層保護担当官ネットワーク会合等を活用し、日本の技術・取組等の普及促進による開発途上国における議定書遵守対策の加速化、フロン類の回収・再利用・破壊に係る施策実施の促進を図ります。
前ページ | 目次 | 次ページ |