国際生物多様性の日シンポジウム
「生物多様性の主流化-人々と暮らしを支える森里川海」開催報告

開催日時
平成28年5月21日(土) 13:30~16:30
開催場所
国連大学ウ・タント国際会議場
(東京都渋谷区神宮前5-53-70)
参加者数
218名
主催
環境省、国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)、地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)
協力
国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB-J)
以下開催概要

 5月21日(土)に国連大学ウ・タント国際会議場(東京都渋谷区)で「生物多様性の日シンポジウム 生物多様性の主流化-人々と暮らしを支える森里川海」が開催されました。5月22日は生物多様性問題に関する普及と啓発を目的として国連が定めた国際生物多様性の日です。今年のテーマは「生物多様性の主流化-人々や暮らしの支え」として、世界各地で関連イベントが開催されています。
 本シンポジウムでは基調講演の他、先進的な取組 事例の紹介、森里川海プロジェクトのこれからの展開についての説明、四角大輔さんと鎌田安里紗さんの対談、有識者による座談会を行い、私たちの暮らしを支える「森里川海」の恵みや、生物多様性を生かした持続可能な社会づくりに向けた、ライフスタイルの見直しや森里川海に関わる取組を支える仕組みづくりについて考えました。 

 はじめに、主催者を代表して鬼木誠環境大臣政務官、竹本和彦国連大学サステイナビリティ高等研究所所長から挨拶がありました。

 基調講演では「森里川海で拓く成熟した国づくり」をテーマに、武内和彦国連大学上級副学長から講演がありました。日本の社会における課題として、2050年までに今の2割が無居住地化すること、食料自給率、木材自給率、現在あるインフラ整備並びに更新への経費問題などが挙げられ、それらに対応することは我が国が世界に先駆けて持続可能な社会の形成のモデルになるとの考えが示されました。また、国づくりの中で真の豊かさとは何なのかとい点について問題提起がされました。さらに、国連が2030年までの目標として定めた持続可能な開発目標(SDGs)、ミレニアム生態系評価について解説がありました。
 森里川海と日本人の暮らしの中で、自然のつながり、人のつながり、仕組み作りが大切だという解り易い話から、新しい時代のライフスタイルの転換や阿蘇、能登の世界農業遺産、東日本大震災の復興等の事例により、森里川海がつながることで自然と共生するこれからの成熟した国づくりが実現できるのではないかという考えが発表されました。

<武内和彦国連大学上級副学長による基調講演、及び会場の様子。>

 次に、“めぐりのライフスタイル”をテーマに元レコード会社プロデューサーで 執筆家 ・四角大輔さんとモデル・タレントの鎌田安里紗さんのお二人による対談が行われました。鎌田さんの取り組むエシカルファッションを通じた人と自然のつながり、四角さんのニュージーランドの原生林 に囲まれた湖畔の暮らし から、食べる事、着る事など生活の中にある自然とのつながりについて意見交換がされました。
 四角さんが実践する自給自足ベースの森の生活では、自然の中で植生する食物や魚が身体に入ることは、自然の命がめぐっているということを実感できること。世界の中でも日本人は唯一その感性を持っているのではないだろうかという意見から、食べる事が最も自然とつながることができる基本となっていること。また、ファッションの中でも世界規模での移動が行われる中で、全てのプロセスを把握することが難しく、意識的に生きていかなければ自然の大切なつながりを見落としてしまうという感想がありました。また、スマホ等の物も本来は地球にある自然のものから生み出されたもので、大切に使う、長く使うということがMade in Earth という意識と自然を大切にするということにつながるのではないかという提案がされました。生物多様性の主流化という言葉だけ、また数値だけを聴くだけでなく、暮らしの身近な行動から変えていくことが、今日のテーマを実現する方法だと感じるといった意見がなされました。その他にも自然の共生、人として社会としての多様性の重要性、パーマカルチャーなどの話もあり、日本から森里川海とのつながり、自然と共生する社会づくりを発信していきたいとまとめがありました。

<対談する四角大輔さん(左)と鎌田安里紗さん(右)>

 続いて「つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト」のこれからの展開について、中井徳太郎環境省大臣官房審議官より報告がありました。一昨年12月から始まった「つなげよう、支えようの森里川海プロジェクト」のコンセプト説明、中央環境審議会から意見具申があった環境・生命文明社会について、G7富山環境大臣会合からの提言などの説明と、今後のアクションや中間とりまとめの見直しポイントの解説がありました。

 見直しのなかでは具体的な展開事例として森里川海循環共生協議会、地域創造ファンドの創設等が挙げられ、平成28年7月に提言としてとりまとめを行う予定であり、様々な主体が集いボトムアップの取組がなされるよう多くの方々からの意見をいただきたい旨のお願いがありました。

<中井徳太郎環境省大臣官房審議官による説明>

 つづいて、森里川海をつなげる活動を実践されている取組事例を2名の方に発表いただきました。

 1つ目の事例は、「地域資源を活用した循環共生型のまちづくりに向けた取組」をテーマに 山口美知子東近江市市民環境部森と水政策課課長補佐より発表がありました。琵琶湖に注ぐ愛知川流域のまちである東近江市の地域特性、地域経済概要等についての説明の後、地域で生み出した菜の花エコプロジェクト、あいとうふくしモール等の紹介、東近江市環境円卓会議、東近江三方よし基金の設立等について説明がありました。

 2つ目の事例は、「生物多様性に配慮した商品の流通を通じた地域づくり」をテーマに高橋宏通パルシステム連合会執行役員広報本部長により発表がありました。パルシステムの事業の特徴、生物多様性を原点と考え40年前から行われてきた石けん運動、生物多様性を向上する商品の展開として、沖縄の恩納もずくを食べるとサンゴの海が蘇る事例、鹿児島県でのニホンウナギを食べて守る運動、原木しいたけを食べて里山を守る活動、生きもの観察会の開催など、多くの事例について発表がありました。

<取組事例を発表する山口美知子東近江市市民環境部森水政策課課長補佐(左)、高橋宏通パルシステム連合会執行役員広報本部長(右)。>

 シンポジウムの最後に、それぞれの分野で活躍する有識者の皆さんによる座談会が行われました。
 武内和彦国連大学上級副学長がコーディネーターを務め、
 NHKエンタープライズエグゼクティブ・プロデューサー井上恭介さん、
 熊本県熊本市のリストランテオーナーシェフ宮本けんしんさん、
 パルシステムの高橋宏通さん、
 東近江市の山口美知子さん、
 場所文化フォーラム代表理事吉澤保幸さんの6名で、
 「森里川海で描く豊かな社会」をテーマに和やかな雰囲気で意見交換が行われました。

 はじめに、井上さんから報道番組制作者としての取材を通じて森里川海とは対極と思われている経済的な視点からも気候変動に貢献しないような投資はやめようというような流れを感じるというお話がありました。また、宮本さんからは熊本で地域の生産者から直接仕入れを行うことで、地域の食材をメインとした歴史や風土を感じさせる料理を提供しており、ライフワークとして在来種をまとめることと赤牛を守る活動をしている等のお話がありました。熊本地震における阿蘇地域の現状についても発表がありました。次に、森里川海プロジェクトのとりまとめにも参加いただいた吉澤さんから、場所文化フォーラムの活動として地域に埋もれている文化、地域資源の再生・創造を 通じ、新たな環境・生命文明を切り開く活動として 、2008年以後毎年開催しているローカルサミットについて説明がありました。
 武内コーディネーターから阿蘇の赤牛を具体例に消費者の評価・価値認識へ働きかける仕組み作りについて問いかけがあり、パルシステム高橋さんが流通や原材料の情報を確認できることが大切ではないかと回答がありました。また、山口さんに対しては、地域の取組・地場の生業との連携の具体例について問いかけがあり、森林保全のため管理伐採した木材を薪にする「薪プロジェクト」の活動を通じて、障がい者支援の団体と協働で薪資材を作り出すことができたという事例の紹介がありました。
 この他にも、経済と環境、都市と地域をつなげる仕組みや事例、森里川海プロジェクトの今後について、プラチナ構想ネットワークとの連携による企業の自然資本経営等の推進や 、7月9~10日開催予定の第2回「つなげよう、支えよう森里川海」推進志民全国大会IN高野山 などパネリストからコメントがありました。

 

最後に武内コーディネーターから、今までの活動をこれからも積極的に広げていき、会場に集まった皆さんまた関心がある皆さんのお力で社会を変えていければと思いますという感想が述べられました。

<6名の有識者による座談会の様子>

 また会場ロビーでは、全国リレーフォーラムの結果を伝えるパネル、えんたくん、「つなげよう、支えよう森里川海プロジェクト」の紹介パネル等を展示したコーナーが設置され、多くの参加者が、地域から発信されたメッセージに足をとめる場面が見られました。

  国際生物多様性の日シンポジウム 「生物多様性の主流化-人々と暮らしを支える森里川海」は、盛況のうちに無事終了いたしました。ご参加いただきましたたくさんの皆様、講演者・有識者の皆様、関係者の皆様、本当にありがとうございました!