奥入瀬渓流を擁する十和田市は本州最北端の青森県、十和田湖を境に秋田県と接する県境に位置し、十和田湖、奥入瀬渓流、八甲田の自然と、十和田市現代美術館を中心に全体をひとつの美術館に見立てた官庁街通りなど豊かな自然とアートが融合した美しいまちです。
奥入瀬渓流は火山、雨水の働きによって作られた芸術品といえます。100万年ほど前に始まった八甲田山火山群及び20万年ほど前から始まった十和田火山の噴火活動に伴う火砕流で作られた大地が約1.5万年前の十和田湖(かつてのカルデラ噴火によってできたカルデラ湖)の決壊による大洪水によって河川浸食され生じたものであり特徴的なU字型の渓谷となっています。
その成り立ちは大地や水の激しい活動によるものですが、奥入瀬渓流自体は全長約14kmの上流と下流で200mの標高差しかない(勾配70分の1)大変緩やかな地形です。その地形的な特徴と、豊かな森林、さらに十和田湖が周囲の雨水を受け止める役割をすることから奥入瀬渓流の水量と環境は安定的なものとなっています。その結果、周囲の森林も安定的に生育し、森林内や渓流内の岩上にコケ類が豊かに生育するといった奥入瀬渓流ならではの景観が生み出されています。
周囲の森林は江戸時代以降に伐採されるなど人手が入ってはいるものの、昭和11(1936)年の国立公園指定等の保護対策が行われるようになってからは厳正に保全されており、日本海側と太平洋側の特徴を兼ね備えた気象条件が育んだ豊かな植生となっています。
このような他にない自然環境を有する奥入瀬渓流は、十和田湖、八甲田山とともに日本を代表する自然として十和田八幡平国立公園(紫明渓から子ノ口水門下流部までが最も規制の厳しい「特別保護地区」)に、「十和田湖および奥入瀬渓流」として国の特別名勝及び天然記念物にも指定されています。
1)人口減少
旧十和田湖町の総人口は平成11(1999)年3月末の69,386人をピークに減少しており、令和4年(2022)年3月末で59,201人となっています。将来にわたって持続的な発展を達成できるよう、若い世代の結婚、出産、子育ての希望をかなえるための施策や定住促進、UIJターン支援などによる移住促進に向けた取組を積極展開することが必要です。これらの状況を踏まえて、三沢市など周辺市町村や秋田県小坂町も含めた「上十三・十和田湖広域定住自立圏第2次共生ビジョン(平成30(2018)年1月31日策定)」に基づき中長期的視点に立った広域連携の取組も進められているところです。
2)観光業の現状と課題
十和田市総合計画において整理されているとおり、十和田市の地域資源を活かした観光メニューの開発・提供やそれらを担う人材の育成・強化について観光事業者をはじめとした様々な主体が連携し進めることが重要な課題となっています。
3)保全及び利用上の課題(国道102号とバイパス整備)
本地域の豊かで原生的な自然を後世に伝えていくために、国立公園を始めとする各種制度により保全が図られているが保全意識の一層の向上や立ち入りによる撹乱の防止等がより求められています。
また渓流と並行して国道102号が整備されているため、観光シーズンには車が殺到して、渋滞や環境への影響を引き起こすなどの様々な問題も生じています。渓流を迂回する道路も存在するが、道路勾配が急であり、幅が狭いため大型車のすれ違いが困難であり、地域住民にとっては利用しづらく、観光シーズンの渋滞は住民の生活にも支障をきたしています。
「自然環境保全と渋滞解消」を目的として関係機関により「奥入瀬十和田利活用協議会」が設置されており、利用適正化に向けた検討を進めているほか、著しい渋滞の発生が予想される休日には、交通誘導や平成15(2003)年からはマイカー規制などの対策も実施されています。
これらの課題解決のため青森県では平成12(2000)年に「青橅山バイパス環境検討委員会」を設置し、バイパス建設による解決について主に環境面から慎重な検討を進めてきました。その結果、平成22(2010)年の同委員会において現在のBP計画が妥当であるとの最終報告がなされ青森県知事へ報告されました。当該計画については同年に開催された環境省の中央環境審議会においても了承、十和田八幡平国立公園の公園計画が変更されています。
以上のような経緯を経て平成25(2013)年度には奥入瀬渓流を安全に迂回できる「国道103号奥入瀬(青橅山)バイパス」が事業化され現在整備が進められています。当該バイパス完成後には現在の国道102号の交通をバイパスに転換する「交通軸の転換」が予定されていることから従来型の主に見どころを巡る利用や通過型の利用とは違った「歩く利用」をメインとした新しい利用のあり方についての具体的な検討も必要となります。
4)奥入瀬渓流の将来に関する各種ビジョン
奥入瀬渓流については、豊かな自然とアクセスの利便性から以前よりオーバーツーリズムも課題となっており、マイカー規制など様々な取組が進められています。このような課題を踏まえた奥入瀬渓流の将来のビジョンとして平成30(2018)年に奥入瀬渓流利活用検討委員会により「奥入瀬ビジョン」が策定されています。また国立公園としての観点からのビジョンを実現するプログラムとして「十和田八幡平国立公園ステップアッププログラム2025」が挙げられます。
1.自然環境の保全
~ 天然の自然博物館「奥入瀬」を将来にわたって保全するためのエコツーリズム ~
悠久の時の中で創り出された奥入瀬の大地とそこで育まれてきた原生的な森林は、自然の成り立ちや様々な事物・生命の関係性を学ぶことができる「天然の自然博物館」です。人との関わりも深い場所にありながら残されてきた奥入瀬ならではの自然環境を将来にわたって保全します。
2.観光・地域の振興
~ 奥入瀬ならではの自然を活用した観光・地域振興。人と人との出会いを生み出すエコツーリズム ~
奥入瀬の自然環境や歴史文化が人々の興味を呼び覚まし当地を訪問することによる観光振興、地域の人々が地元のことを学び体感することで生み出される地域への誇りの育成、さらにこれらを通じた国内に留まらない人と人との出会い・交流による地域の振興につなげます。
3.人と自然のふれあいの推進
~ 「人と自然の新しい関係」を創り出すエコツーリズム ~
奥入瀬は自然の中で感じられる心身の浄化、五感を通じた自然への回帰の地であるとともに、近年はオーバーユースなどの人と自然の適切なふれあいのあり方について考える地にもなっています。これらの体験や課題解決を通じて、新しい人と自然の関係を創り出し実践します。
1.適正な保全と利用のためのルール
奥入瀬渓流においては平成30(2018)年6月に策定された「奥入瀬ビジョン」において「地域の目指す姿」の基本的な考え方を以下のとおりとしています。
<基本的な考え方>
すばらしい自然環境を有する奥入瀬・十和田湖地域を世界に誇れる地域として次世代に残していくためには、人と自然が共存・共生し、持続可能な地域であることが必要です。そのために、自然環境や歴史文化の保全と、観光を中心とする生業(なりわい)が両立した地域を目指します。
このビジョンの趣旨を踏まえ奥入瀬渓流エコツーリズムをより具体的な形で推進するため、本構 想において各種ルールを設定します。なお、本ルールは罰則を伴うものではない自主ルールであり、今後の自然環境、社会情勢の変化に応じて適切に見直していくこととします。
また、必要な場合には強制力をもったルールの設定(本構想における特定自然観光資源の指定、条例の制定等)も検討します。
2.ガイダンス及びプログラム
奥入瀬渓流は豊かな自然が残され、厳正に保護されている一方、アクセスの良さから多数の観光客も訪れる場所です。この原生的な自然を守りつつ、生態系の仕組みやその恩恵について学び、気づくきっかけを提供するガイダンスやプログラムを中心に展開されています。
今後の青橅山バイパスの開通後は区域内の国道102号からバイパスに交通軸が転換される予定であることから、本地域のエコツーリズム推進の基本方針の3にあるように「人と自然の新しい関係」を創り出す視点からガイダンスやプログラムの継続や発展を進めていきます。
3.モニタリング及び評価
本地域の自然の大部分は法令等で厳正に保護された貴重な「天然の自然博物館」であり、その展示物といえる自然の状態を把握、管理する必要性がある一方、多数の観光客が訪れることからも自然観光資源の変化をモニタリングする必要があります。したがって継続的なモニタリングを行い、必要に応じてエコツアーの改善を図ることが重要です。
現在青橅山バイパス工事にあわせて青森県が主体となってモニタリングが行われていますが、バイパス開通後の変化も見据えた大規模・長期的なモニタリングのあり方についても委員会において意見交換・議論するものとします。
4.その他
1)主な情報提供の方法
2)ガイドなどの育成又は研鑽の方法
3)住民参加の推進と連携
4)委員会関係者以外のエコツアー実施者、新規参入事業者への対応
5)関係者による定期的な会議の開催
滝や瀬、森など渓流の見どころを巡るエコツアー
自然や生態系の仕組みなどをじっくりと楽しむエコツアー
歩くこと、体を動かすことの楽しさを感じるエコツアー
自然の中で心をリフレッシュするエコツアー
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ネイチャーガイドと歩く渓流ガイドツアー | 奥入瀬渓流コケさんぽ |
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コケ玉づくり体験 | グリスロで楽しむ奥入瀬渓流ネイチャーツアー |
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スノーシューツアー | 奥入瀬渓流氷瀑ツアー |