環境省
VOLUME.75
2020年2月・3月号

KEY PERSON INTERVIEW - アスベストの規制の流れと、今後の取り組み

KEY PERSON - 神山宣彦 さん 独立行政法人労働安全衛生総合研究所フェロー研究員 元東洋大学経済学部教授

 アスベストの使用規制は、日本では昭和40年代後半から始まっていましたが、初めて禁止されたのは1975(昭和50)年の「石綿を5%を超えて含有する吹付作業を禁止する」という吹付作業に対する労働安全衛生法によるものでした。「健康被害を引き起こすことがわかっていたなら、すぐに全面使用禁止にすべきだったのでは」と思う方もいるかもしれませんが、アスベストによる健康被害であるじん肺(粉じんを吸い込むことで呼吸がしにくくなる病気)や肺がん、中皮腫は労働者だけの問題として捉えられていて、それらは労働環境を管理すれば防げると考えられていたのです。
 しかし2006年、過去にアスベスト製品を製造していた工場周辺の住民のなかから、中皮腫患者が多数出たことで状況は一変。一般の人にも健康被害のリスクがあることを重くみた政府は、すぐにアスベストの全面使用禁止の方向へと舵を切ることになりました。平成に入ってからようやくアスベスト問題が表面化してきたのは、アスベストによる健康被害は潜伏期間が非常に長く、吸引後、数十年たってから発症することが多いことから、被害の状況がなかなか表には出てこなかったためです。
 2006年にアスベストを含んだ製品や建材が一部を除いて使用禁止となって以降は、大気中のアスベスト濃度はほぼ順調に減少しています。東日本大震災や熊本地震の直後は一時的に周辺の濃度が上がったこともありますがそれもすぐに落ち着き、現在は一般の人が大気を吸い込むことでアスベストによる健康被害を受ける心配は、ほとんど無くなったといっていいでしょう。
 とはいえ、アスベスト問題は完全に解決したというわけではありません。今後、高度成長期に建てられた建物が解体のピークを迎えることから、大気中のアスベスト濃度が上昇していくのでは?とも懸念されています。当然のことながら、こうした事態を防ぐために環境省、国土交通省、厚生労働省は一丸となって急ピッチで飛散防止対策に取り組んでいます。例えば調査にあたる人材の育成もそのひとつです。
 これまでも建物を解体する際はアスベストが使用されているかどうかを事前に調査することが法令で義務づけられていましたが、誰が調査を行うのかが明記されていなかったため、調査報告がきちんと行われないケースがありました。こうした状況を是正するため2013年に大気汚染防止法が改正され、現在は施工業者だけでなく発注元も責任を負うことになっています。さらに、近いうちには建築物石綿含有建材調査者講習を受けた資格者が調査を行うという新たなルールも設けられる予定です。
 今後は、一般の人も自宅のどこにアスベストが使用されているか、ある程度は把握しておいたほうがいいでしょう。自分が住んでいる家にアスベストが使われていた場合、不安を抱えてしまう人が多いかと思いますが、普通に暮らしているぶんには粉じんを吸い込むリスクはほとんどありません。ただ自宅のリフォームをDIYで行おうとしている人は注意が必要です。アスベストが含まれている疑いのある壁や天井はむやみに壊さない、作業の際は必ず防じんマスクを着けるなど、最低限のルールを守って作業を行うようにしてください。

石綿(アスベスト)使用禁止までの流れ

アスベストの使用は、1975年から労働安全衛生法において段階的に禁止され、現在では全面的に新たな使用は禁止となっています。

1975(昭和50)年
石綿を5%を超えて含有する吹付作業を原則禁止
1995(平成7)年
石綿を1%を超えて含有する吹付作業を原則禁止
茶石綿・青石綿を1%を超えて含有するすべての物の新たな製造、輸入などが禁止
2004(平成16)年
石綿を1%を超えて含有する主な建材、摩擦材および接着剤の新たな製造、輸入などが禁止
2005(平成17)年
石綿を1%を超えて含有する吹付作業を完全に禁止
2006(平成18)年
石綿を0.1%を超えて含有するすべての物の製造、輸入、譲渡、提供、新たな使用が禁止
( 一部については、例外として禁止猶予)
2012(平成24)年
石綿を0.1%を超えて含有するすべての物の製造、輸入、譲渡、提供、新たな使用が完全に禁止(猶予措置撤廃)
※石綿のうち石綿分析用試料などについては禁止の対象外

アスベスト大気濃度調査総繊維数濃度の推移

アスベスト大気濃度調査総繊維数濃度の推移

アスベスト大気濃度調査総繊維数濃度の推移

アスベスト大気濃度調査総繊維数濃度の推移

KEYNOTE - 健康被害を防ぐには、対策を怠らないことが大切です

神山宣彦(理学博士)

現・労働安全衛生総合研究所にて、アスベストやシリカなど有害粉じんの計測法や健康影響の研究に30年間従事。平成17年より東洋大学教授、23年より同大学院客員教授を務める。公職としては環境省中央環境審議会石綿健康被害判定小委員会専門委員、日本労働衛生工学会会長、日本作業環境測定協会常務理事などを歴任。

石綿(アスベスト)による病気に心当たりのある方は、こちらにご相談ください

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