環境省
VOLUME.71
2019年6・7月号

KEY PERSON INTERVIEW - 医療現場の専門家から見た災害時の熱中症対策

KEY PERSON - 三宅康史さん 帝京大学医学部救急医学講座教授 帝京大学付属病院高度救命救急センター長

 私たちの体には、体温を一定に保つための調節機能が備わっています。暑いときは皮膚表面の毛細血管に多くの血液が流れ込み、熱を放出しようとします。汗をかくのも、水分が蒸発する際の気化熱で体温を下げる働きがあります。しかし、あまりに外気温が高く、皮膚表面に血液が集中して大事な臓器への血流が悪くなったり、大量の汗で体内の水分が減少したりすると、体温調節がうまく機能せずに体温が著しく上昇します。このような状態が熱中症です。その結果、めまいや立ちくらみ、筋肉痛などの症状が起こり、重症化すると死に至ります。

熱中症の起こり方

 一般的に、体内の水分量が少ない高齢者や、体温が高く自力で水分補給のできない乳幼児は熱中症になりやすいといわれていますが、どの年代の人も熱中症になる危険性はあります。特に学生や働き世代でも、暑さなどの環境や体調を考慮せずに、無理をしてしまうことで熱中症にかかる例は多いです。

どのような人がなりやすいか(からだ・行動)

 近年、夏場の豪雨や台風などにより被害を受けた地域で、避難所生活をする中で熱中症になってしまうケースがみられます。慣れない避難所で集団生活を送る被災者は、心的、肉体的ストレスを受け続けることになりますが、ストレスは熱中症を引き起こすリスクを高める要因となります。避難生活のストレスの原因を取り除くことは個人の努力だけでは難しい面もあります。

 私は、個人でできる熱中症の予防で最も大切なのは「自己管理」だと考えています。日頃から自分の体調がどんな状況にあるのかを把握し、無理をしすぎないこと。これは災害時でも同じです。また、高齢者など自分で体調を管理することが難しい人には、災害時のように平時とは異なる環境では特に、家族や近所に住む人とのお互いの「声かけ」も有効です。

 では、自分や周りの人が熱中症になってしまったら、どうすればいいのでしょう。熱中症の応急処置のポイントは、「FIRE」と覚えてください。立ちくらみなど熱中症の疑いを感じたら、速やかに水分を補給(F:Fluid)します。屋外の場合は冷房が効いた車やコンビニの中などへ移動し、屋内の場合は冷房や扇風機を使って、体を冷やす(I:Icing)ようにしましょう。クラッシュアイスや保冷剤などを、首や脇の下などに体に沿うように当てると効果的です。安静(R:Rest)にして、体調が回復してきた場合は、そのまま様子をみて構いませんが、症状が改善されないときは医療機関を受診してください。意識障害がある場合など緊急時には、FIREを逆から実行し、最初に救急車を呼んでから(E:Emergency)、応急処置(Rest,Icing,Fluid)を開始します。

熱中症の応急処置

KEYNOTE - FIRE 正しい応急処置を身につけ、熱中症から命を守りましょう。

三宅康史(医学博士)

帝京大学医学部救急医学講座教授。帝京大学付属病院高度救命救急センター長。熱中症に関する委員会前委員長(日本救急医学会)。専門は救急医学。編著に『熱中症~日本を襲う熱波の恐怖~改訂第2版』(へるす出版)など。環境省『熱中症環境保健マニュアル』編集委員。

ページトップへ戻る