環境省
VOLUME.60
2017年8・9月号

脱炭素社会ミライ予想図01 数字から考える「長期低炭素ビジョン」

気候変動対策の長期的な指針となる「長期低炭素ビジョン」。
ビジョンに盛り込まれた気候変動対策のポイントを、数字に注目して読み解いていきましょう。

VISION1 2℃目標

2015年の国連気候変動枠組条約第21回締結国会議(COP21)で、197の国と地域が合意した、地球温暖化対策に関する国際的な枠組み「パリ協定」。「2℃目標」とはこのパリ協定で掲げられた、世界の平均気温の上昇を、産業革命前に比べて2℃より十分低く保つこととする目標。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)による科学的知見をふまえ、気候変動による深刻な影響を避けるために設定されている。この目標を達成するためには、日本を含め世界全体で脱炭素社会の構築を目指し、今世紀末までに人為的な温室効果ガス排出量を実質ゼロとしなければならない。

1961年~1990年 平均からの気温偏差[℃]

VISION2 80%削減へ

日本は長期的目標として、2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を掲げている。80%削減を達成するため、「長期低炭素ビジョン」では、技術、経済・社会システム、ライフスタイルなどあらゆる分野でのイノベーションの必要性を指摘している。また、気候変動対策によって、経済成長、地方の活性化、少子高齢社会対策など多様な課題の「同時解決」を図ることが重要との考え方も盛り込まれた。目指す脱炭素社会のあり方として、①省エネ②エネルギーの低炭素化③利用エネルギーの転換(電化、水素など)の3つを対策の柱としながら、建物・くらし、移動、産業・ビジネス、エネルギー需給、地域・都市という5つの「絵姿」を示している。

VISION2 80%削減へ

目指す到達点

VISION3 1兆tに抑える

IPCC第5次評価報告書によれば、2℃目標達成のためには、1890 年以降に人為起源で発生した二酸化炭素の「累積排出量」を2.9兆tにとどめる必要がある。この考え方を「カーボンバジェット」(炭素予算)といい、2011年までで既に1.9兆tが排出されているため、2012年以降の世界全体での排出量を、1兆tに抑えることが求められている。そのため、限られたカーボンバジェットを念頭に、継続的かつ迅速に対策に取り組む必要がある。

VISION4 9兆$の投資

気候変動対策は、今後長期にわたって継続的な投資が必要とされる、いわば「約束された市場」を創出する。国際エネルギー機関(IEA)の試算によると、2℃目標達成に向けて、2050年までの間に電力部門だけで世界で約9兆ドルの追加投資が必要であり、この極めて大きな市場の誕生は経済成長のチャンスと言える。日本も世界の流れに乗り遅れず、脱炭素化に向けた投資を一層進めていく必要がある。

VISION4 9兆$の投資

COLUMN 01どうして「長期低炭素ビジョン」が必要なのか

パリ協定では、気候変動対策について、長期的な戦略を策定するよう努力することが各国に求められている。2016年の伊勢志摩サミットでは、この長期戦略を2020年に十分先立って策定することにG7各国が合意した。2017年7月現時点では、アメリカ、ドイツ、カナダ、フランスなど6カ国が策定を終え、国連気候変動枠組条約事務局に提出している。日本が長期戦略を作るために、目指すべき将来像の「絵姿」と、今後の気候変動対策の方向性を示すものとして、環境省が「長期低炭素ビジョン」をとりまとめた。

パリ協定採択の木槌を打つ、ファビウスCOP21議長(写真提供:(公財)地球環境戦略研究機関 田村堅太郎氏)

パリ協定採択の木槌を打つ、ファビウスCOP21議長(写真提供:(公財)地球環境戦略研究機関 田村堅太郎氏)

COLUMN 02パリ協定に対するアメリカの動向

アメリカのトランプ大統領がパリ協定からの脱退を表明し、州政府や米企業が反発するなど国内外で波紋が広がっている。なお、正式に脱退できるのは2020年以降で、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを世界全体で取り組む国連気候変動枠組条約からは脱退せず、引き続き排出削減に取り組んでいくことなどが、今年6月のG7ボローニャ環境大臣会合で確認された。

G7 ボローニャ環境大臣会合では、米プルイット環境保護庁長官からも気候変動対策と経済成長が両立することに完全に同意する趣旨の発言があった

G7 ボローニャ環境大臣会合では、米プルイット環境保護庁長官からも気候変動対策と経済成長が両立することに完全に同意する趣旨の発言があった

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