科学的な議論としては、100ミリシーベルト以下の確率的影響のリスク評価に直線しきい値なし(LNT)モデルが妥当であるかどうかということについての決着はついてはいません。例えば、全米科学アカデミー(NAS)では、2006年にLNTモデルは科学的にも妥当との見解を発表しました。100ミリシーベルト以下でもがんリスク上昇が見られる疫学的証拠があるとしています。
一方、フランスの医学アカデミーと科学アカデミーは共同で、一定の線量より低い被ばくでは、がん、白血病等は実際には生じず、LNTモデルは現実に合わない過大評価である、という見解を2005年に発表しています。ここでは、インドや中国の高自然放射線地域の住民のデータに発がんリスクの増加が見えないこと、低線量放射線に特異的な防御的生物反応が次々と見つかったことが根拠となっています。
国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告では、LNTモデルと線量・線量率効果係数の2を用いることで、放射線防護の実用的目的、すなわち、低線量被ばくのリスクの管理においてより単純かつ合理的な仮定を提供するとしています。一方で同勧告では、「低線量における不確実性を考慮すると 多数の人々が極小さい線量を長期間受けることによるがんまたは遺伝性疾患の仮想的な症例数を計算することは、公衆の健康を計画する目的には適切ではないと判断する」ともしています。
(関連ページ:上巻P80「確定的影響と確率的影響」)
*出典:
・ The National Academy of Sciences, “Health Risks from Exposure to Low Levels of Ionizing Radiation: BEIR VII Phase 2”, 2006.
・ Aurengo, A. et al., “Dose–effect relationships and estimation of the carcinogenic effects of low doses of ionizing radiation”, Académie des Sciences - Académie nationale de Médecine, 2005.
・ ICRP Publication 103「国際放射線防護委員会の2007年勧告」, ICRP, 2007.
本資料への収録日:平成25年3月31日
改訂日:平成30年2月28日