全身に1グレイ(1,000ミリグレイ)以上の放射線を一度に受けた場合、様々な臓器・組織に障害が生じ、複雑な臨床経過をたどります。この一連の臓器障害を、急性放射線症候群と呼びます。この時間経過をみると、典型的には、前駆期、潜伏期、発症期の経過をたどり、その後、回復するか死亡します。
被ばく後48時間以内に見られる前駆症状により、おおよその被ばく線量を推定することができます(上巻P96「急性放射線症候群の前駆症状と被ばく線量」)。
その後、潜伏期を経て、発症期に入ると、線量増加と共に造血器障害、消化管障害、皮膚障害、神経・血管障害の順で現れます。これらの障害は、放射線感受性の高い臓器や組織を中心に現れます。概して線量が多いほど潜伏期は短くなります。
皮膚は大人の体で1.3~1.8m2とかなり大きな面積を持つ組織です。また、表皮は、基底層で生まれた基底細胞が徐々に分化を遂げながら表面に押し上げられていき、角質層となり最後は垢となって体表面から離れます。
基底層から表層への移行時間は大体20~40日強といわれています1。放射線の影響を受けた角質層から基底層までの細胞は表面に現れるのに2週間から1か月強程度の時間が掛かります。このため、放射線の強さにより被ばく直後に初期皮膚紅斑が出ることもありますが、一般に皮膚障害は、被ばく後2~3週間以上経ってから現れます(上巻P25「外部被ばくと皮膚」)。
1. UNSCEAR 1988, 「放射線の線源、影響及びリスク」放射線医学研究所監訳、(株)実業広報社、1990年3月
本資料への収録日:2013年3月31日
改訂日:2021年3月31日