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化学物質と環境円卓会議(第12回)議事録

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■日時:平成16年12月1日(水) 13:00~16:00
■場所:スクワール麹町  錦華(3F)
■出席者:(敬称略)
<学識経験者>
  原科 幸彦 東京工業大学大学院総合理工学研究科教授
  安井 至 国際連合大学副学長
  <市民>
  有田 芳子 全国消費者団体連絡会事務局
  大沢 年一 日本生活協同組合連合会 環境事業推進室長
  崎田 裕子 ジャーナリスト、環境カウンセラー
  角田季美枝 バルディーズ研究会運営委員
  中下 裕子 ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議 事務局長
  村田 幸雄 (財)世界自然保護基金ジャパン シニア・オフィサー
  <産業界>
  瀬田 重敏 日本化学工業協会・広報委員会顧問
  田中 康夫 レスポンシブル・ケア検証センター長
  中塚 巌 (社)日本化学工業協会 ICCA対策委員長
  西方 聡 (社)日本電機工業会 化学物質総合管理専門委員会委員長
  吉村 孝一 日本石鹸洗剤工業会 環境・安全専門委員長
  八谷 道紀 日産自動車株式会社(山下光彦 代理)
  <行政>
  片桐 佳典 神奈川県環境農政部 技監
  菊地 弘美 農林水産省大臣官房参事官(染英昭 代理)
  塚本 修 経済産業省製造産業局次長
  上家 和子 環境省環境保健部環境安全課長(滝澤秀次郎 代理)
   (欠席)
北野 大 淑徳大学国際コミュニケーション学部教授
後藤 敏彦   環境監査研究会代表幹事
嵩 一成   日本チェーンストア協会環境委員
黒川 達夫   厚生労働省大臣官房審議官
   (事務局)
荒木 真一 環境省環境保健部環境安全課 課長補佐
■資料:
○事務局が配布した資料
資料1  化学物質削減のために~市民が自ら実践できること~(有田さん講演資料) [PDF(313KB)]
資料2-1  市民による化学物質の環境リスク削減のための取り組み(中下さん講演資料) [PDF(86KB)]
資料2-2  円卓会議資料集(中下さん資料) [PDF(185KB)]
資料2-3  「子ども環境保健法」(仮称)の立法提言(中下さん資料) [PDF(36KB)]
資料3-1  WWFによる市民向け化学物質リスク削減支援活動例(村田さん講演資料) [PDF(529KB)]
資料3-2  ブックレット「家庭の中の化学物質」(村田さん資料) [PDF(320KB)]
資料3-3  ブックレット「化学物質汚染」(村田さん資料) [PDF(1,330KB)]
○事務局が配布した参考資料
参考資料1  第11回化学物質と環境円卓会議議事録(メンバーのみ配布) [HTML]
参考資料2  化学物質と環境円卓会議リーフレット [HTML]
○円卓会議メンバーが配布した資料
滝澤さん資料1 「化学物質ファクトシート―2003年度版―」の作成・公表について [PDF(42KB)]
滝澤さん資料2 化学物質と環境に関する学習関連資料「ケミストリーカードゲーム(正式版)」の完成とホームページ上での公開のお知らせ [PDF(1,061KB)]


■議事録

1.開会

(荒木) 本日は、お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。時間がまいりましたので、開催させていただきます。本日は、安井さんに司会をお願いしています。安井さん、よろしくお願いします。

(安井) 皆さんこんにちは。それでは、ただ今から「第12回化学物質と環境円卓会議」を開催します。今回は、メンバーの皆さんとご相談させていただき、「市民が自ら実践できる化学物質の環境リスク削減策」について意見交換を行うこととなっています。これにあたり、本会議メンバーの有田さん、中下さん、村田さんそれぞれから、25分程度のお話を頂きます。まず、事務局から、本日のメンバーの出席状況等と資料の確認などをお願いします。

(荒木) まずは代理出席の方をご紹介します。産業側から山下光彦さんの代理で八谷道紀さん、行政から染英昭さんの代理で菊地弘美さん、また、当省の滝澤秀次郎の代理で上家和子が出席します。本日のご欠席は、学識経験者の北野大さん、市民側の後藤敏彦さん、産業側の嵩一成さん、行政側の黒川達夫さんです。
 次に、配布資料の確認をさせていただきます。資料1が有田さんの講演資料で「化学物質削減のために ~市民が自ら実践できること~」、資料2が中下さんの講演資料の関係で、資料2-1が講演資料「市民による化学物質の環境リスク削減のための取り組み」、資料2-2が円卓会議資料集、資料2-3が「『子ども環境保健法』(仮称)の立法提言」です。資料3は、村田さん講演資料の関係で、資料3-1が講演資料「WWFによる市民向け化学物質リスク削減支援活動例」、資料3-2がブックレット「家庭の中の化学物質」、資料3-3がブックレット「化学物質汚染」です。
 次に、本会議メンバーが配布した資料ですが、滝澤さん資料1が、「化学物質ファクトシート―2003年度版―」の作成・公表について、滝澤さん資料2が、化学物質と環境に関する学習関連資料「ケミストリーカードゲーム(正式版)」の完成とホームページ上での公開のお知らせです。
 続いて、参考資料についてですが、参考資料1が「第11回化学物質と環境円卓会議議事録」で、本会議のメンバーのみに配布しているものです。これは、既にメンバーに御確認いただき、環境省ホームページに掲載しています。参考資料2が「化学物質と環境円卓会議リーフレット」で、これは毎回必要に応じて改訂しながら配布しているものです。今回は、一部写真を差し替えています。
 それでは、ここで、滝澤さん資料について簡単にご紹介させていただきます。滝澤さん資料1は、「化学物質ファクトシート-2003年度版-」の作成・公表についてのお知らせで、この冊子は、本日一緒にお配りしています。化学物質ファクトシートとは、化学物質についてできるだけ分かりやすい言葉でとりまとめたものであり、昨年度から環境省で作成を開始し、今年の10月21日に公表いたしました。今後も継続してPRTR制度の対象物質を1年間に約50物質のペースで順次作成していく予定です。内容は、1物質につき約2ページの文章と、1ページの関連情報を表を用いて整理しています。初めに、全体の概要を枠囲みで示し、その後に物質の用途や環境中での排出や動き、健康影響、生態影響について、できるだけ分かりやすい文章でまとめました。ご要望があれば、送料は負担していただきますが、無償で配布しています。
 次に、滝澤さん資料2「化学物質と環境に関する学習関連資料『ケミストリーカードゲーム(正式版)』の完成とホームページ上での公開のお知らせ」についてです。こちらも今年の10月21日に公表いたしました。2枚目以降にカラー印刷でいくつかご紹介しています。これは、応募していただいたアイデアの中から専門家のご意見をいただきながら3つを選定し、それらについての試作品を作成し、ホームページ上での投票によって第一位に選ばれたものであり、環境省において作成したゲームの第二弾で、主に小学生を対象としています。このカードには、1から13まで身近で排出量の多い異なる化学物質の名前と特徴を簡単に書いたものや、ダイオキシン等の有害物質を示した有害カードなどがあり、「セブンブリッジ」に似たルールで遊びます。今回、このカードゲームが環境省のホームページ上で遊べるようになり、また、現在、これ自身をカードにして実費で配布できるよう、この事業を請け負っている(社)環境情報科学センターが準備を行っており、まもなく入手できる状態になります。簡単ではありますが、資料のご紹介は以上です。

2.議事

(安井) それでは、早速、議事に入りたいと思います。今回の議題は「市民が自ら実践できる化学物質の環境リスクの削減策」についてということで、本会議の市民側のメンバー3人からお話をしていただきます。はじめに、有田さんから、「化学物質削減のために~市民が自ら実践できること~」についてお話をしていただきます。有田さんよろしくお願いします。

(有田) 
 全国消費者団体連絡会(以下、消団連)の有田です。本日は「化学物質削減のために~市民が自ら実践できること~」ということでお話します。私の後に発表されます中下さんや村田さんは専門的なお話をされるだろうと思いますが、私は消費財を使う消費者に一番近いところにいる団体の一員としてお話します。本日の配布資料としては準備しておりませんでしたが、急遽資料を持って参りましたので、円卓会議のメンバーにのみお配りしました。
 資料は、消団連で出している情報誌「消費者ネットワーク」の83号と85号です。この中に、21世紀は環境の世紀ということで、環境のことを取り上げたシリーズがあり、私を含め、専門家やいろいろな方が原稿を書いています。そして、もう1つの資料は、消団連がどういう組織かを説明しているものです。

 消団連がどのようなことを行っている組織かを御存じでない方がいらっしゃると思いますので、まず、組織の説明をさせていただきます。本会議のメンバーの大沢さんが代表をされている日本生活協同組合連合会や主婦連合会、消費者連盟等の団体が参加している全国的な連絡会組織で、1956年に結成され、現在では、地方や中央の消費者団体を合わせ43団体で構成されています。
 参加団体には、それぞれいろいろな考え方がありますが、問題意識や活動方針が共通する部分においては、国のパブリックコメント等に対して消団連として要望を出しています。

 これまでの消団連の取組について少しご説明します。まずは、化学物質に関する情報発信ということで、「消費者ネットワーク第83号」のシリーズ「21世紀は環境の世紀」の中で、PRTR制度や今年度のPRTR情報について記載しています。具体的には、東京都のPRTR担当者にお話を聞き、東京都の状況がどのようになっているのかというようなことも書いています。
 また、化学物質アドバイザー制度の活用事例についても紹介しています。消費者団体はこれまで化学業界との対話集会を行っており、ある程度は情報収集をしていますが、それでも専門家ではないため、誤った情報があるのではないかということで、化学物質アドバイザー制度を利用して学習会などを行っています。化学業界との対話集会は、1998年から8回程行い、消費者がどのように思っているか、例えば、環境ホルモンの現状がどうなっているのかというようなやりとりや、PRTR制度はどういうものなのかということについて意見交換等を行っています。
 また、環境報告書評価については、中心は化学業界との対話集会の際に質問を行い、公開データ以外の情報を出していただき、その結果を評価し、自分たちの意見として化学業界に伝えるというようなことを行っています。

 消費者団体の取組は全国的に広がっているわけではありませんが、例えば、こちらからの紹介で、関西で化学業界との対話集会が2年程前から始まりました。また、中央ではコープのメンバーが中心となり、神奈川県にある化学関係会社の工場見学や現状、PRTR制度を中心とした学習会を行っています。それから、パイロット事業である化学物質アドバイザー派遣事業を利用し、化学物質アドバイザーを招いた学習会も行っています。化学物質は難しいというような認識があり、全国的な広がりというふうにはなっていませんが、PRTRパイロット事業が行われた都道府県下の地区や工業地帯では、関心を持って化学物質アドバイザーを活用しようとする動きがあるように思います。

 化学物質削減のための取組としては、今は対話や学習会を行っています。消費者団体といっても、全国すべての団体が参加しているわけではありませんし、消費者団体によっては、化学物質は難しいものだと思っているところもありますので、情報誌の中で、まずは化学物質に関心を持ちましょうという情報を出しています。また、私たちは、まず身の回りにある化学物質に関心を持つ状況が必要だと思います。ただ単に学習会を行って、知ったつもりになって使い方を誤ってしまうということでは良くないので、まずは騒ぎ立てられた不安ではなく、正しい不安を感じることで物事を知っていく、そのためには関心を持ってもらうことが必要であると思います。そのために情報を出し、学習会を行っていきたいと考えています。
 それから、周囲にある工場等を見学に行くことも勧めています。工場見学をきっかけにその企業の環境報告書を見て、質問等を企業に投げかけたり、それに対する説明をしていただくことで、信頼関係や透明性を築くということにつながると思います。ですから、環境報告書に関心を持つことも必要であると思っています。

 化学物質削減のためのコミュニケーションにおいて、私たち市民ができることでまだまだ弱い点は、事業者、行政との意見交換や情報交流です。PRTR制度ができて、リスクコミュニケーションを推進するといったときに、最初からパイロット事業などを行っている自治体の方は、わりと関心が高く、市民にどういう情報を出していこうかと考えているところが多いです。そうではない自治体では、変な情報を出すと市民が怖がると思っているようです。例えば、ダイオキシンのデータについてはまだ出すなというようなことを市長が言っているということを数年前に聞いたことがあります。しかし、行政と意見交換をする中で、もう少しデータが欲しいとか、関心を持つというコミュニケーションが私たちにできる化学物質削減のための1つの行動であると思っています。

 化学物質削減のために「環境に配慮された商品を選択する」ということはどこでも言われていますが、ただそれもなかなか難しいものです。消費者団体はこれまで、環境に配慮された商品を選ぶ、またラベル、つまり、表示を見るということについてずっと言ってきたので、表示の見方や商品選択のための情報のあり方も含めて、関わりを持たなければいけませんし、意見を出していかなければいけない、また学習もしなければいけないと思っています。

 そこでは、情報を冷静に受け止めるということと、信頼性や透明性が不可欠であると思っていますので、日常的な交流の中で信頼関係の構築をしていきたいと思っています。

 最後に、課題をいくつか挙げます。実はここが大きいところです。私も含めて、消費者団体は、専門的なことを知っているようで本当は肝心なことを知らないということがありますので、高度な専門知識を持ったNGOの方々から日常的に情報を頂いています。例えば、エコケミストリー研究会のメンバーになるというように、消団連以外の高度な専門知識を持った団体とのネットワークを作っています。しかし、会員内の情報のやりとりではまだまだ不足していますので、消費者団体としての課題であると考えています。
 次に、数多くの情報がある中でどの情報を選んでいけば良いのか、ということが分からないこともあります。例えば、今年、消団連が市民という立場で、生態系の保全にも関わっていく方針を出しているのですが、どういうふうに進めていくかという動きがまだ決まっていません。ですから、「消費者ネットワーク85号」では、後で話をしていただく村田さんに化学物質と生態系の保全の関係について記事を書いていただいて、会員メンバーに情報を発信するというように、外部からも多くの情報を得ています。
 それから、ものの見方や分析力が弱いという問題もあります。それは消費者団体ということだけではなく、消費者に今後の課題として突きつけられているところだろうと思います。ですから、そういうところも専門家の方の力を借りて、総合的なものの見方や分析力をつけていかなければと思います。
 ただやはり、化学物質に関していえば、できれば市民は、選ぶ力を身につける必要があると思います。そのために、分かりやすい、といっても、ただ単に簡素化して騙されたような気分にならないようなリスク情報を、メーカーの方や行政の方と共有していかなければいけないと思います。私たちも勉強しなければいけないと思いますが、なかなか理解できないような言葉が多く、難しすぎるといわれるので、そういうことも含めて情報を共有化していかなければいけないと思います。
 市民が化学物質を削減するためにできることは、消費者団体としてまだまだ課題は多いのですが、情報の共有化を行うこと、また一消費者としては、環境に配慮した商品をどう選んでいくか、つまりは表示の見方や情報を取得するための学習ということになると思っています。以上です。

(安井) ありがとうございました。有田さんのお話に対し、メンバーからの質問等はございますか?瀬田さんどうぞ。

(瀬田) どうもありがとうございました。極めてプリミティブな(注、素朴な)質問になりますが、1つは、化学物質削減のためにというテーマについて、化学物質というものをどういうふうに捉えているのかということです。化学を若干かじったものから見ると、およそ形のあるものはみな化学物質ですし、環境に優しいものもやはり化学物質ですから、化学物質を削減すると言われると我々は混乱してしまいます。ですから、化学物質というものをどのように捉えているかを中下さんや村田さんも明確にした上で話していただきたいと思います。
 もう1つは、化学物質について説明をすることは、なかなか難しいのです。我々は決して情報を隠しているわけではありませんし、また、難しい表現をあえて使おうとしているわけではありません。なかなか説明をしにくいために苦心しています。例えば、資料の「消費者ネットワーク85号」の中で、村田さんが書かれている文章でありますが、これぐらいであれば分かりやすいのでしょうか。「分かりやすく」とただ言われても非常に困ります。この村田さんの文章が1つの基準であるというのであれば、我々も納得しますし、もう少し噛み砕いて工夫しろというのであればそのように考えます。この点に関してのコメントを頂きたいと思います。

(有田) 実は、化学物質削減のためというテーマを与えられたので、そのまま書いてしまいました。私個人としては、砂糖や塩も化学物質であると学習をしてきました。ただ、通常は、多少関心がありながら、初めてPRTR制度について学び、その先に化学物質とは何かという学習会をする際に、塩や砂糖から入ると、分かってはいるけれども、何か騙されているように感じる人がいます。つまり、ほとんどのものが化学物質であると分かっていますが、ここで私たちが言っている化学物質というのは、有害な化学物質です。例えば、食品添加物を例に出すと、添加物の種類は法律で決められているため、それ以外のものが食品に添加されていたとしてもそれを添加物とはいわれない、というようなことと同じような説明になってしまうでしょう。発表の際に私の言葉が足りず、また急いで資料を作りましたので組み立てが弱いです。私が化学物質削減のために何をするのかと考えたときに、消費者団体が今やっていること以上にできることをいろいろと考えましたが、やはり学習会や情報の発信、ネットワーク作りであると思いました。それから、まさに瀬田さんがおっしゃったように、化学物質とは何かということも含めて学習をしています。
 また、分かりやすさに関しては、私も非常に困っています。私はずっと皆さんから情報を頂いて、分かっているつもりになっています。しかし、これぐらい分かるだろうと情報を流しても、それでは分からないと言われる方もいます。分かりやすさというものは、1つのものさしでは計れないと思います。どちらかと言えば、分かりにくいと言われるのは、行政用語です。分かりにくいという言葉は、普通の人が普通には使わない言葉です。
 「消費者ネットワーク第85号」で村田さんが書かれた文章は、分かりやすいと思いました。ただ、例えば、アトラジン(注、除草剤)については、生態系への影響が懸念されていることしか分かりません。さらに、PPP(注、Polluter Pays Principle;汚染者負担の原則)については、すべての方は分からないかもしれません。

(崎田) 瀬田さんのご質問に対して、私の考えを話したいと思います。第5回の円卓会議の際に、「市民ができること」として資料を出しましたので、今回は資料を出しませんでしたが、地域で活動しながらどういう情報が欲しいのかということをよく考えます。たまたま、今日の午前中に新宿区立環境学習情報センターで、化学物質アドバイザーに来ていただいて、「こんなにあるの、家の中の化学物質」という講座をしてきました。これは、地域社会の中で環境活動のリーダーとなる人材を養成するための講座で、全10回ある中の4回目です。しかし、関心がある方が参加しても、「PRTR制度を御存じですか」という問いかけに誰も手を上げなかったという状態でした。
 市民にとって化学物質は遠い存在で、企業が工場の中で使って、それをきちんと管理しないと環境が汚れるのではないかというような昔ながらの不安を持っているだけの状態です。普段はあまり関心がないけれども、突然テレビや新聞で何か事故が起こったときの報道だけを見るとびっくりしてしまいます。そのような人々が自分たちの家の中にあるいろいろな商品を作るために、かなり多くの化学物質が使われていて、自分たちはどの製品にどんな化学物質が含まれているのかということをきちんと考え、選び、使う、そして、廃棄するときにも管理をする。このように、化学物質が自分たちの暮らしに関係があるものだと理解する過程や、それが分かるような情報がもっとたくさん必要なのだと私は感じています。そういう意味で、消費者にとって、細かい亀の子の構造式ではなく、私たちを取り巻く全体像を知り、自分たちが感心を高めていくことが重要であるということを知る過程の情報や機会が少ないように感じます。私はこのようにお答えしましたが、有田さんはいかがでしょうか?

(有田) まさにそうだと思います。崎田さんというリーダーがいらっしゃるところでは、活動の幅が広がるように思います。ただ、関心を持っているけれども、一方的に怖い情報がパッと入ってくると、その中で私たちはどういう選択をしていったら良いのかとういうことはなかなか伝わりにくいかなと思います。
 最近、神奈川県で約50名の市民の方が参加した学習会に私も参加しました。その際に、化学物質アドバイザーがすごく分かりやすくお話をされていました。参加した市民もそれなりに分かっている方々でしたが、新しい情報が入っていませんでした。私は日々いろいろなところから情報が入ってくるので、今の情報ではこうらしいと言えるのですが、市民の方はそうではありません。ですから、崎田さんがおっしゃったようにリーダーや核になる人を育てることが必要だと思いました。ただ、そのような取組はまだまだ少ないと思います。

(安井) 原科さんどうぞ。

(原科) 有田さんのスライド6に「コミュニケーション」とあり、次のスライド7には「選択」とあります。コミュニケーションから選択に一気にとんでいますが、当然この間に意思形成や判断形成プロセスがあり、そこが一番大事なところだと思います。ですから、コミュニケーションと選択の間で具体的にどんなことをやっているのかを伺いたいと思います。

(有田) 原科さんは、環境省が市民ガイドブック(http://www.env.go.jp/chemi/prtr/archive/guidebook.htmlより閲覧可能)に載せているコミュニケーションのサイクルの図をイメージされているのだと思います。様々な段階で、このサイクルが回るようにしなければなりませんが、私たち消費者団体の中では不十分な状態です。ただ、行政がこのような会議を開いて我々も参加していますし、色々な取組に参加しているので、必ずしもコミュニケーションから選択にとんでいるわけではありません。スライドにコミュニケーションのサイクルの図を入れておけばよかったですね。

(原科) コミュニケーションとは、情報を提供して情報を吸収し、あるいは情報を発信します。情報を得たら、やはり次は消費者のグループでそれなりの判断をしなければいけない。そういうプロセスを明示的に考えておかないと、急に選択にとぶような感じがします。これを見ると、コミュニケーションをして何か情報を受けたら、それを鵜呑みにしてパッと結論を出すような非常に危険なことが起こります。そこのメカニズム等を考えなければいけません。それはむしろ消費者側の責任でもあります。情報を提供されたらそれを分析する、しかし、分析力が足りないと自覚されているのであれば、まさにそこのプロセスを明示的に考えていかないといけないと思います。

(有田) 言い訳するわけではありませんが、先ほども申し上げたとおり、いろいろな考え方の消費者団体があります。例えば、「SPEED’98」でリストにあがった67物質はすべて環境ホルモンだったと考える団体や、そうではないと考える団体もあります。時間をかけコミュニケーションしていますが、話しようがないというのが正直なところです。崎田さんがおっしゃったような核があるところは、日常的に次はどんなことをして、どういうふうに情報をもらって学習会をしようというようにPDCAサイクル(注、P(Plan)・D(Do)・C(Check)・A(Action)という事業活動の「計画」「実施」「監視」「改善」サイクル)が回っているのですが、核がないところでは統一的な話ができない部分があります。先ほど関西の例を出しましたが、関西の消費者団体連絡会に参加している団体の中でも、情報の差や判断の差があるように思いました。ですから、1つの情報もすぐには判断できない、時間がかかるというようなところがあるように思います。コミュニケーションの後の説明が不足しているというよりも、バラつきがあるために、話しにくいというところがあります。

(原科) 判断はリスクの不確実性によって違います。リスクの不確実性によって対応が変わると思います。ですから、消費者団体が全国一律に一気にやるのではなく、それぞれがどうリスクを感じるか、主体的にそれぞれが判断することが大事です。今の説明では、それはみんないっぺんに揃わないと駄目のような印象を受けました。そうではなく、むしろ、それぞれの地域で考えて、どういうリスクを特に重要と思うかを考えて対応していくことが必要だと思います。

(有田) はい。私もそう思いながら、逆に悩んでいます。課題はそこにあります。できれば、消団連のメンバーの中でも一番大きな団体に所属される大沢さんに何かを言っていただければなと思います。PRTR制度が導入される前に、日本生活協同組合連合会(以下、生協)が主催した化学物質のシンポジウムに私はパネラーとして参加し、PRTRについて考え、市民がどう参加していけば良いかというお話をしました。現在、生協として、化学物質についてどのように考えているのかを伺えたらと思います。

(大沢) 生協の現在の取り組みよりも、最後のスライドに出てきた課題に関してお話ししたいと思います。この4つに共通して、消費者が最新の情報にどれだけ更新していけるかということが大事だと思っています。例えば、20年、30年前には、生協で洗剤運動等も随分やってきましたが、LAS(注、界面活性剤)に催奇形性があると言われていた1970年代に、たまたま生協の役員で一生懸命勉強した人は、催奇形性があるものだということから情報が更新されにくくなっています。また、蛍光増白材に発ガン性があるという情報をその時に受け取った人は、それ以降情報が更新されないまま同じように発ガン性があると思いがちです。多くの生協は、途中で情報の修正をしていますが、当時の情報と現在の知見は変わっているといっても理解を得られにくいところがあります。業界や行政からも最新の情報を出すことと、消費者団体や消費者自身が最新の情報に更新していける能力を持てるかどうかということが大事だろうと思っています。

(有田) そのようにおっしゃっていただいて、私はホッとしています。先ほどは神奈川県の話をしましたが、一部の学習会等においては、単に新しい情報だけではなく、新しい科学的知見に基づいた、より正しい情報を含めて発信していくというやりとりを行っています。もし誤解がある場合には、誤解を払拭するようにしています。つまり、リスクコミュニケーションを行っています。
 ですから、コミュニケーションと選択の間では何度も努力したり、情報の出し方等を工夫しなければいけないと思います。そういう中で、丁寧に取り組まれているところでは、きちっとしたものの受け止め方や判断、選択ができるようになっているかもしれません。一方で、ただ単にそれは全く問題ないというだけの出し方をすれば、より削減の方向に向かわない行動をしてしまうかもしれません。
 大量に化学物質を使えば、発ガン性はなくとも環境への影響があるかもしれないということも含めて説明する必要があります。具体例を挙げると、「石鹸でも大量に使うのはどうでしょう」ということや「河川に直接流すのであれば、やはり石鹸の方が良いでしょう。ただし、下水道が完備されているところであれば、ヘドロが発生することになるかもしれないので、必ずしも合成洗剤が悪いわけではないでしょう」といった、行動スタイルや消費スタイルや下水道が完備されるような運動を提案しています。ですから、各地の消費者がどれぐらい自分の行動スタイルにつなげることができるのかということが、今後の課題だろうと思います。ただし、誰か偉い人が言ったことに皆が従うのではなく、消費者が主体的に選べるように育たなければ駄目なのではないだろうかと思います。以上です。

(安井) よろしいでしょうか? 崎田さんどうぞ。

(崎田) 化学物質を自分たちの暮らしの問題として捉えた後に、行動につなぐという問題があります。そのために、例えば市民団体や市民グループ、NGOとしてどういうコミュニケーションの方法があるのだろうかと考えると、仕組み作りの方法をできるだけ皆で共有できるようにしていくことが挙げられます。また、市民だけではできない部分で、例えば、公的な措置での環境教育等は、どういう時期にどういう方法でやれば良いのかという仕組み作りの両方をきちんと提案していくことが重要だと考えます。
 私は昨年、環境情報科学センターの行事で4回ほど化学物質リスクコミュニケーションの講座をやりました。このような機会にいつも考えることは、多様な主体が自分の立場で意見表明ができる連続講座で、同じ参加者が何度も意見を交換し、最後に自分の意思形成ができるようにすることが重要だということです。昨年の連続講座では、第1回目は「環境と経済の好循環」というテーマで私がお話し、第2回は企業からの立場で瀬田さんに、第3回目は化学物質アドバイザーにお話いただいたあと、第4回目は環境省にもご参加いただきながら、多くの方が参加するパネルディスカッションをやりました。その方法が、ベストという意味ではありませんが、時間をかけて、最後は参加者本人が考えるというプログラムや情報を私たち市民自身がどんどん共有していくことも必要ではないかと感じました。

(安井) それでは時間ですので、有田さんありがとうございました。先ほど化学物質とは何かという話がありましたが、広辞苑には、化学物質とは「物質のうち、特に化学の研究対象となるような物質を区別していう語」と書いています。ですから、おそらく人間の身体を、化学の対象にするかどうかで決まってくるのではないかという気がします。では続いて、中下さんお願いします。

(中下) 
 ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議の事務局長をしています中下です。本日はこのような発表の機会を与えていただき、ありがとうございました。瀬田さんからの宿題に安井さんが答えてくださいましたが、私どもNGOが考えている化学物質は、主として人工の化学物質、それに加え、リスクがある重金属類のような天然のものも対象としています。本日は、そういったものを対象として、「市民による化学物質の環境リスク削減のための取組」ということで発表させていただきます。
 もともとこのタイトルは、前回のビューロー会合で挙がった課題をほとんどそのままタイトルとして使っています。最初に与えられた課題は、市民による実践活動だったように思います。実践というと、言葉のイメージとしては、日頃の生活の中で、日常的に一人一人が個人的にやるようなことというイメージがあるのではないかなと思います。もちろんそれもやっておりますし、そういうこともとても大事なことだと思いますが、先ほど原科先生がお話になりましたように、私どもとしては、市民として意思決定の参加を目指していきたいというのが、国民会議の主たる活動です。そういう意味で今日は、取組という言葉にさせていただきました。

 初めに、ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議という私どものNGOのご紹介をします。有田さんやこれから発表されます村田さんのところとは違い、大変歴史の浅いNGOです。御承知のように「奪われし未来」という環境ホルモン汚染を告発した本を私たち女性弁護士が読んだことから、化学物質に対して大変危機意識を持ち、何か意思決定に私たちが参加できるような活動ができないだろうかと思い、158名の女性弁護士が呼びかけ人になりました。そして、そういう意思決定の場へ参加をするためには、具体的な政策の形で提言を示していくことが必要になると思い、私ども弁護士だけではなく、科学者や作家、詩人、医師、経済学者といった様々なジャンルの方にご協力を頂いて、学際的な専門家の方々と、市民が協働して政策を練り上げ、私たちの意思として示していくというような活動を目指して設立しました。本会議のメンバーの方のみにお配りした資料の中に、入会案内のパンフレットがあり、その中には、発起人として50名の先生方のお名前が挙がっています。見ていただきますと、いかに学際的であるかということがお分かりいただけるのではないかと思います。代表には、愛媛大学名誉教授で現愛媛県環境創造センター長である立川涼が努めています。ある意味で環境科学のパイオニアとしてこれまで学績を積んできた立川が代表を務め、大変心強く思ってやっている次第です。目的は、「物言えぬ野生生物と未来の子ども達に成り代わって、具体的な政策を提言し、ダイオキシン・環境ホルモン汚染の危機を回避する」といったことを主としてやってきています。

 これまでの主な活動内容を紹介します。日本はダイオキシン対策が遅れていたので、私どもとしては、3次にわたって緊急対策提言を行いました。さらに、循環型社会基本法の立法提言や、土壌汚染対策法案に対する意見書、容器包装リサイクル法の改正提言といったような個別法についての提言に加え、本日資料としてお配りしました『子ども環境保健法』(仮称)の立法提言を昨年行いました。また、その他、先般も「SPEED’98」の改訂作業に対しての意見も申し入れしました。折に触れて、意見具申も行っています。

 同時に、POPs条約(ストックホルム条約)の成立に向けた取組ということで、国際会議への参加や学習会の開催、国際会議場でのロビー活動を展開する取組も行いました。また、政策提言への理解を深めていただくためには、一人一人の市民の方々に、化学物質の問題について、いかなる問題があって、どのような政策が望ましいのかということについて深い理解を頂かなければいけないので、そういう意味で、環境教育のビデオ制作や、ブックレット作りという活動をしております。今日は主に、ブックレット作りの活動についてご紹介いたします。

 これまで、3冊の国民会議ブックレットを発行しています。第1冊目が「化学汚染から子どもを守る(2003)」です。

 ブックレットの構成は、1章「子どもの発達段階への化学物質の影響」を解説した上で、子どもの生活の中で、例えば、食べ物や住まいと衣類、おもちゃ・子どもの化粧品、学校、保健・医療といったような、様々なシーンでどのような化学物質を浴び、どんな暴露を受けているのかというようなことを解説し、その中で、有害物質についてはハザード情報のお知らせをし、できるだけリスクを削減するような取組をしていただきたいということで、私たちなりの提案をしています。4章は、私どものNGOの特徴についてですが、今どういう対策が行われていて、海外や日本のNGOがどのような取組をし、そして最後に私たちが目指すものとしてどういった対策が望ましいのかという提言にまとめ上げています。

 最後にまとめた提言は、先ほど申し上げた「子ども環境保護法」(仮称)という形で立法提言をしました。御存じの通り、1997年のG8の環境大臣会合で「マイアミ宣言」が採択されていますが、日本の国レベルの取組としては、まだまだ十分ではないのではないかというふうに考えていますので、提言をしました。お手元にお配りしていますので、読んでいただければと思います。

 次に、国民会議ブックレットは、「食品のダイオキシン汚染~ダイオキシンから身を守るために(2003)」というものです。

 内容は、1章が「ダイオキシン類の基礎知識」、2章「魚介類のダイオキシン類汚染の実情」、3章「魚介類の汚染源の原因分析とその対策」、4章「食事とダイオキシン類」、5章「妊産婦と若い女性へのアドバイス」、6章「まとめと提言」といった構成になっています。魚介類を中心にダイオキシン類の情報を書いています。

 なぜかと言いますと、人が摂取するダイオキシン類の95%以上が食品由来で、そのうち魚介類が75%以上を占めているからです。人のダイオキシン類の総摂取量の70%以上が魚介類からということになります。所沢のダイオキシンが問題になり、対策が進んで大気中のダイオキシン類は随分減ってきているかもしれません。しかし、それが食品の中に濃縮されているわけで、食物連鎖を通じて人が摂取し、それが70%以上占めているにも関わらず、なかなかこれについての主立った対策がなされていないのが実状です。それで、私どもなりに、データを分析し、できることを提言していこうというのがこのブックレットを作成した大きな目的意識です。

 これは、環境庁が平成11年に約2800検体の水生生物について行ったダイオキシン濃度についての大変貴重な調査データを主として活用しました。そのデータを分析しましたところ、汚染は海域によって相当な差があることが分かります。東京湾や大阪湾や瀬戸内海東部の汚染は深刻です。また、環境庁の分析によると、底質の汚染と魚の汚染とには相関がある、つまり、底質の汚染がひどいところは、魚の汚染もひどいといえる状況ではないかと思います。

 私たちがそのデータに挙がっている魚介類の種類毎にいろいろと分析を行ったところ、ダイオキシン類に高濃度に汚染されやすい魚介類があるということが分かりました。その特徴としましては、沿岸の河口周辺にいて、コノシロ、イワシ、クロダイなどのように脂質含有率が高い魚や同じ魚種でも年齢が高い、大きい魚、タチウオ、サバ、アカカマスなどのように、汚染された魚などを食べる食物連鎖の上位にいる魚、また、同じ魚でも脂質含有率が高くなる旬の魚、というものです。

 さらに、環境庁は国内の調査だけでしたが、その後、水産庁の調査結果等も入手したところ、遠洋魚や輸入魚にも汚染濃度が高いものがあるということが分かりました。例えば、米国東海岸北部沖大西洋でとれたクロマグロになると、10.109pg/g(注、1pgは1兆分の1g)という数値が出ていますし、中部太平洋のキハダやカスピ海のチョウザメ卵も高い数値が出ています。

 現行のダイオキシン類のTDI(注、Tolerable Daily Intake;耐容一日摂取量)は4pg/kgとなっていますが、御存じのようにEUでは、1週間あたりのTWI(注、Tolerable Weekly Intake;耐容一週間摂取量)が14pg、つまり1日あたりにすると2pg/kgということになります。私たちは、できるだけ2pg/kgを目指そうということで考えた結果、魚介類に含まれるダイオキシン類の濃度基準値を0.9pg/gとし、これを超えると要注意ではないだろうかと結論づけました。

 先ほどの環境庁の平成11年度データを3つのグループに分類しました。汚染されやすいグループは、全体の70%以上が基準値を超えているグループで、マアナゴ・ウナギ・コノシロ・タチウオ・スズキ等の魚が該当します。これらの魚は、どの海域でもやはり注意が必要で、摂取回数に気をつけた方が良いというメッセージを発しています。次に、とれた海域に注意が必要なグループは、全体の30~80%が基準値以内のグループで、ブリ・シログチ・マダイ・イサキ・マサバ・ボラなどが該当します。これらは、海域によっては注意が必要で、例えば、東京湾のものは、相当汚染がひどかったりします。比較的汚染されにくいグループは、全体の80%以上が基準値以内のグループで、カワハギ・カンパチ・ヒラメ・シロギス・貝類・エビ・イカなどが該当します。これは、全国どこへ行っても、たとえ東京湾であっても、ほぼ大丈夫ということです。
 このように、魚を選ぶ時の目安にしていただきたいという思いでグループ分けを行いました。

 さらにEUでは既に最大許容値や行動指針値目標値といったものが設置されていますし、アメリカEPA(注、Environmental Protection Agency;アメリカ環境保護局)は、魚のダイオキシン濃度と摂取回数についてガイドラインを出しています。これによると、1.2pg/gを超えるものは許容回数が0で、摂取をやめた方が良いとしています。0.3~0.6pg/g程度でも、月に1回にすべきであるというように摂食回数についてのアドバイスが出ています。こういったものが、日本でも必要ではないかと私たちとしては考えています。
 さらに、五大湖の忠告として、資料2-2にEPAのホームページからとったデータを載せました。PCBについて、五大湖でとれた魚の種類と大きさ毎に摂取回数についてアドバイスがあるという状況があり、やはり日本でもこういった形での対応が必要なのではないかと思います。最近は水銀等の接触についての勧告がでていますが、そういったものがダイオキシンにも必要なのではないかと考えた次第です。

 最後に、ダイオキシンから身を守る食べ方を提案しています。まずは、汚染の少ない食材を選びましょう。特に、魚介類は産地や魚種に気をつけて、できるだけ汚染の少ないものを選びましょう。次に、魚介類の食べ方に注意しましょう。摂取回数に気をつけましょう。特に子どもたちや妊産婦は回数を制限するようにしましょう。また、このブックレットの中では、調理法によっても相当ダイオキシンが減るということや繊維質と一緒に食べると体外に排出しやすいというデータを探してきて、他の食品との組み合わせを提案しています。内臓を取り除き、皮をはいで食べるようにすると摂取量が随分減ります。肉類・乳製品・卵は、たくさんとりすぎないように注意しましょう。また、野菜類については、水洗いをすると相当ダイオキシン類が減ります。野菜類は、よく水洗いをし、皮をむいて食べるようにしましょう。生で食べるよりも、ゆでたり、煮たりして食べるようにしましょう。それから、食物繊維・クロロフィル(葉緑素)を含む食品を食べるようにしましょう。結論的に言うと、多種類の食品を用いたバランスのよい食事を心がけましょう、ということが、一番良いのですが、そういうようなことを情報として発信をしているというのがこのブックレットです。

 次に、ブックレット「知らずに使っていませんか?~家庭用品の有害物質~(2004)」では家庭用品のことを取り上げました。先ほど、崎田さんから私たちが身の回りにある化学物質について情報提供をする必要があるというお話がありましたが、それは全くその通りだと思います。家庭用品の中に一体どういった有害物質が含まれているのかということを調査して、お知らせしようということで作成したのがブックレットです。

 ブックレットの構成は、まず、1章「私たちの問題意識、基礎知識」として、表示の見方等について解説しています。2章「製品の危険性をチェックしよう!」が主要な部分にあたり、合成洗剤からシロアリ駆除剤に至るまで、11項目にわたっての製品情報を解説しています。

 さらに、3章「社会のしくみを知ろう」ということで解説しています。先ほど申し上げました通り、私どもとしては、政策の提言に結びつけたいという気持ちがあります。私たちは、どういう法律で日常的に使っている化学物質から守られようとしているのか、という現状を知っていかなければなりません。ということで、家庭用品規制法、化審法、PRTR法、そして、国際的な動きも知っていただこうということで、ストックホルム条約やスウェーデンの取組、あるいは、EUの新化学物質政策、化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)、環境ラベルといったような情報についても、皆さんに分かりやすくお知らせしようと心がけています。

 2章「製品の危険性をチェックしよう!」では、家庭用品に含まれる化学物質の成分や毒性、危険性、あるいは、表示の見方について解説をし、さらに中毒事故や被害例を紹介しています。それから、私たちなりにこうしたらリスクが削減できるというリスク削減策に関する提案、代替品などを提案しています。

 少し例を挙げてみますと、有機溶剤に含まれる家庭用品の商品例として、資料2-2の表2に、市場でよく売れている商品の例と、そこに含まれている有機溶剤の例を掲載しています。表3では、有機溶剤の主成分の毒性が分かるようになっています。有機溶剤の成分名のところを見ていただきますと、毒性情報を記載しています。ただ、これはICSC(注、国際化学物質安全性カード)の情報からとりましたので、ICSCに載っていない情報もいっぱいあり、実はまだまだ分かっていない毒性があるということが調べていく過程で分かりました。
 商品を買ってきても物質名だけでは何も分からないという方々には、これを見ていただいて、どういう毒性があるのかという知識を得ていただきたいということで作成しました。

 もう1つ、園芸用農薬の例をご紹介します。表4を見ると分かるように、有効成分についても調べて記載しています。表5には、さらにその有効成分毎に商品例と毒性を記載しています。表6には、健康被害モニター報告の中からいくつか事故事例を紹介して、使い方の注意を促しています。園芸用の農薬は家庭用品として使われていますが、本当の農薬と同じ成分が含まれるので使い方には相当の注意が必要です。非常に危険なものだということを認識していただいた上で、使う際には、使い方に気をつけていただきたいということで、こういう情報を発信しています。

 最後に、私たちの提言を挙げました。項目が非常に多いので後で読んでいただければと思います。まずは、化学物質全般についての提言を9項目にまとめています。

 また、家庭用品の中に、化学物質を使う場合にはこういった対策を講じてもらいたいという趣旨で、8項目にわたって提言を取りまとめています。これは、ブックレットの提言ですが、いずれもう少しまとまった形で具体的な法規制に対する提言として、取りまとめをして、関係省庁に提案をしたいと考えています。以上、大変駆け足で失礼しましたが、私の報告とさせていただきます。

(安井) ありがとうございました。中下さんのお話に対し、メンバーからの質問等はございますか?

(有田) 消団連としても、リスクコミュニケーションの1つとして、国民会議のブックレットを含めた資料を配布したり、情報を流しています。今後、ブックレットの見直し等を行う予定はありますか?

(中下) まだ、発行して間がありませんので、今のところ見直しの予定はありません。改訂することは大変なので、次々と新しいものを作っていこうと企画しています。私どものNGOは、有田さんや村田さんの団体とは違い、財政基盤が全く確立しておりませんので、全員がボランティアです。事務的なことをするパートタイムの事務局スタッフが一人いるだけで、ブックレット等を作るのは、皆、無償ボランティアでやっています。ですから、地球環境基金やイオン財団等から助成金を頂いてこういうブックレットを作っています。助成金があれば改訂版を出せるとお思いでしょうが、なかなか難しいです。ブックレットは作成当時の情報から作りましたので、新しい情報が出れば、第2版、新本という形で出してしまおうと考えています。実は今、食品については、ダイオキシンだけではなく、水銀やカドミウムやフタル酸類といったようなものや、その他いろいろな重金属や環境ホルモン物質といわれるもののデータを集めているところです。助成金ができれば、食品のダイオキシンに限らず他のものについても、最新の情報を出していきたいと思います。それから、第4弾として、予防原則についてのブックレット作りについて取り組んでいます。これは予算を頂いていますので、来年には、できるかなと思います。

(安井) 村田さんどうぞ。

(村田) 同じ業界にいる競合他社として、3つのブックレットについてお伺いします。今までのところ、お読みになった方からどんな反応が来ているのか、分かっている範囲で差し支えがなければお聞かせください。

(中下) はい、ブックレットにはアンケートを入れていましたが、やはり回収状況が良くありません。ただ、売れた部数だけでいいますと、ブックレットは当初の3000部がすべてなくなり、1000部増刷しました。また、ブックレットも当初の2000部がなくなり、1000部増刷しました。ブックレットは最近3000部の印刷ができあがったところです。こういう本が欲しかったというような好意的なご意見を頂いています。あまり悪口は入ってきませんので、これはちょっとフェアではないと思っていますが、届いている限りでは、概ね良い意見でした。先ほど有田さんのお話にもありましたが、やはりなかなか一般の方に理解をしていただくのは難しいなと思いました。かと言って、あまり簡単すぎては、必要な情報をお伝えすることができませんので、いつも悩ましく思っています。

(安井) 中塚さんどうぞ。

(中塚) 先ほどからお話を伺って、これだけの作業をボランティアの方がなさっているということですので、おそらく大変だったのだろうと思います。中下さんの資料に関して、きちんと調べてみたら誤りがいくつかありました、例えば、資料2-2の表2にシンナーとあり、含まれている有機溶剤の例としてベンゼンとあります。ベンゼンには、発ガン性があり非常にインパクトが強いものです。しかし、製品名と製造元をすべて調べたら、最近の代表的なシンナーにはほとんどベンゼンが入っていませんでした。何千部も配布されているとなると影響力が非常に大きいと思いますので、このあたりにお気をつけいただければと思います。それから、資料2-2、表5の園芸用農薬のところで、29の化合物が挙がっていますが、実はその中の12種類は園芸用農薬ではありません。そういう範疇に入っていないものまで、含まれています。この辺りも非常にインパクトが大きいと思いますので、お気をつけいただきたいと思います。

(中下) 私どもはほとんど素人でやっていますので、是非そういうご意見をお寄せいただきたいと思います。実は私も殺虫剤などを調べましたが、過去のものと比べて随分変わっていったというものがありました。産業界の方にお願いしたいことは、例えば、芳香剤などは成分がほとんど分かりませんから、この際、情報は全部出していただきたいと思います。また、今のように、私たちが間違った情報を持っているかもしれませんので、ぜひご意見を頂戴できればと願っています。資料の中でデータがないものについても情報がありましたら、合わせて情報を出していただければありがたいと思います。

(安井) 角田さんどうぞ。

(角田) 同じ財政基盤が脆弱なNGOとして教えてください。助成金を獲得して、活動資金を得て、調査研究を行い、分かりやすくまとめるというだけでも、私どもではけっこう疲弊することもあるのですが、さらにそれを必要な人に届けるということをやらなければ作ったかいがありません。例えば、マーケティングのようなことで工夫されている点はありますか。

(中下) それが、実は苦労せずして売れましたので、とても有り難い話だと思っています。いくつかの新聞に取り上げていただきましたが、あとは口コミだと思います。書店の販売ルートに乗っていませんから、私どものところに直接注文がきてお送りしている状態です。また、いろいろな学習会でのテキストとしても活用していただいています。この間も、埼玉県で100名ぐらいの方が参加した学習会の際にも、特別価格一冊500円で皆さまに販売させていただきました。学習会にテキストで使っていただけると、だいぶ良いのかなと思います。また、関心を持った方々から、広がっていくのかなと思っています。

(安井) 有田さんどうぞ。

(有田) 少し訂正をさせていただきます。財政はうちも脆弱で、いろいろな冊子を出したくても、なかなか出せないのが現状です。先ほど、ブックレットの見直しについて伺いましたが、新しい知見が入ってきても、訂正のコミュニケーションがなかなかできないように思います。そういうことも含めて、見直しや検討をいつされるのかなというつもりで申し上げました。それから、こういうものを作った後に、企業の方と意見交換をするような機会を今後検討されていますか?

(中下) 機会がありましたら、是非させていただきたいと思っています。これを題材にリスクコミュニケーションをするとか、先ほど申し上げましたが、調べてみてもなかなか情報が出なかったものがありますので、是非そういうものも開示していただくというご相談もさせていただきたいと思います。是非、行いたいと思います。

(菊地) ここでいう園芸用農薬とは、プロの農家が使うというものではなく、消費者やサラリーマンが農に親しむという形で使う農薬をある程度イメージして使われているのですか?

(中下) はい、そうです。ホームセンターに調べに行って、そこで売られているものが対象です。

(菊地) 表7は、農薬による中毒者事故件数とありますが、これはかなりショッキングでした。ほとんどが自殺用に使われたという表ですね。

(中下) はい、ほとんどが自殺です。

(菊地) 先ほど、消費者としての化学物質とのつきあい方の議論がありました。市民、国民は、消費する立場であり、一方では使用する立場にもあるという局面があると思っています。例えば、昨今自分で一坪農園をされているとか、マンションのベランダで稲を作る人もいます。世界でも農薬を全く使わないという国はほとんどないのが現状で、いわば、農作物を成長させるためには、それなりの農薬を使わざるを得ないという状況です。そのために、中下さんがご案内の通り、農薬取締法という法律を作っていますが、最近大きな改正を行いました。以前は販売する部門のみの規制でしたが、現在は、輸入、製造、そして使用する場合にも規制がかかっています。使用する物についても、それぞれの農薬について、この農薬はどのような作物について、どの程度の回数を使ってください、といったいわゆる効能書きというものをきちんと製造者、販売者に示してもらいます。それに応じて、農業者の方、家庭で農業をされる方も、それを守って農薬を使っていく、いわゆる使用基準を守っていくというような法体系にしました。ですから、今後、農薬に限らず、化学物質を削減するとどうかという議論がある一方で、使う立場に立った場合には、化学物質の適切な使い方をきちんと守って使っていくということが重要だと思います。できれば、このパンフレットに、こういう事件もあったというよりも、商品に書いている使い方といったところもお知らせいただければ幸いです。

(中下) はい、そういうことの解説も中にはしていると思います。私たちからすると、今のご指摘の通り、使い方を誤る例、例えば、家庭用品に係る健康被害病院モニター報告(注、家庭用品等による皮膚障害や誤飲事故の健康被害についての報告書)等を見ると考えられない使い方をされています。飲むものではないものを飲んだりしています。実は、国民会議に問い合わせがあったケースですが、最近では結婚式でフタル酸を用いた演出が行われていて、それをお客さんが飲んでしまうケースがあるようです。フタル酸を作っている方は、こんな使い方をするなんて到底考えられないで作っていらっしゃると思いますが、家庭用品というものは、そういう予想外のことが起こります。ですから、使用方法を徹底するというのは非常に大事なことですが、それでも防ぎきれないこともあるので、有害な物質は家庭用品には使わないようにするということも大事だと思います。政策の優先順位はそちらかなと思います。

(安井) 原科さんどうぞ。

(原科) 今、法的な新しい枠組みができたとおっしゃいましたが、その実行段階ではどの程度行政が関与しているのでしょうか。法律といっても、日本ではなかなか遵守というものが励行されない場合が多いです。行政の具体的な取組もご紹介いただかないと、ただ法でこう決まりましたから守ってくださいというだけでは、なかなかうまくいかないように思います。どのような体制をとっていますか?

(菊地) 法律規制は規制として罰則も伴います。一方で、行政的に指導することで、各都道府県が農薬を安全に使おうといった運動を起こしています。販売店の方々には、農家の方だけではなく、一般の方が農薬を買う場合にも使用方法をきちんと説明するようにかなり強い指導を繰り返してきています。この法改正の施行自体が、昨年行われましたので、まだまだ至らない面があるかと思いますが、私どもではかなり「安全」ということを考えて取り組んでいる次第です。

(安井) 崎田さんどうぞ。

(崎田) 先ほどの発言は、家の中にたくさんある化学物質をきちんと使いましょうというような環境教育が現在進んでいますし、そういうことが大事だと思いましたので申し上げました。市民社会でもそういう動きが起きていますので、それと一緒になった情報提供というのがあれば、ありがたいと思っています。そういう意味で言うと、中下さんの今の発表を伺って、ブックレットの2章タイトルが「製品の危険性をチェックしよう!」と大きくありますが、もしこれを正確に言うのであれば、「製品の有害性をきちんと知って、危険のないように使いましょう」ということなのだと思います。やはり、できることをお互いの立場できちんとやっていこうと思っています。

(安井) それでは中下さん、ありがとうございました。続いて、村田さんから、「WWFによる市民向け化学物質リスク削減支援活動例」についてお話を頂きたいと思います。

(村田) 
 まず初めに、WWFのネットワークとして行っている市民向けの化学物質リスク削減に関わる情報提供の例として、主にWEBを使ったケースを中心にご紹介しまして、最後に市民への情報提供に関する課題をまとめます。

 これはWWFインターナショナルが、化学物質のキャンペーンの1つとして、ちょうど今行っている「DETOX」というものです。「DETOX」という言葉が聞き慣れない方もいらっしゃるかと思いますが、「detoxify:解毒する」という言葉からとったものです。
 これから、ホームページに載っているいくつかの例をご紹介します。最初のページでは、「バーチャルショッピング」というところを紹介します。

 ここで、ショッピングカートの絵を選ぶと、これから買うべきものの購入リストが出ます。カートを押しながら、それぞれ商品を選びます。

 これはちょうどシャンプーを選んで、カートの中に入れるという画面です。

 すべての買い物が終わるとレジに行きます。

 通常、本物のレジでは商品のコストが示されますが、ここでは、人や生態系に対するコストが示されます。どんな有害な成分が入っていて、どんな心配があるのか、ということが示されます。

 先ほどはシャンプーでしたが、これはフッ素加工したフライパンの例です。

 買い物が終了すると、もう一度自分の生活を振り返ってどうしたら良いのだろうか、ということを考えていただくために、今度は「e-マガジン」というものが出てきます。雑誌の表紙をまねたページです。

 ページをめくっていくと、食生活や様々な場面において、それぞれどんなことをすべきか、推奨すべきことや気をつけなければいけないことについて、イラストをつけて非常に簡単に示しています。

 おしゃれに関しては、化粧や毛髪染色の問題等というように、情報量はそれほどありませんが、パッと見てすぐに分かるような仕掛けにしています。

 これは、WWFのイギリス委員会が作っている情報の例です。家庭における化学物質と健康というテーマで、生活の様々な場面毎に避けるべきこと、推奨できること、行動を変えるべきことという3つのカテゴリーに分けて、それぞれの生活の場面でアドバイスや指針が載っています。これと同じ内容のものをブックレットでも配布しています。これは、ホームページから見ることができます。

 これは、WWFのアメリカの委員会が作ったものです。先ほどまでは画面上で見て学ぶというものでしたが、これは、もちろん画面にも出ますが、ダウンロードして印刷をしてもらい、切り取って、家庭の中の見やすいところに貼って使ってもらうものです。このグリーンホームカードには2つのテーマがあり、有害物質とクリーンエネルギーです。クリーンエネルギーには省エネのヒントが書いています。有害物質編を見ますと、例えば、有機食品を選びましょうとか、農薬系統の殺虫剤を使う場合の注意点、家庭内での洗剤等について書いています。その前に見た冊子と比べて情報自体には目新しいものはありませんが、これらの情報を切り取っていつでも家の中で確認できるようになっています。一番下の所には「Household Recipes」、つまり、家庭内でのレシピというものがあり、有害な化学物質を使わないでどういう工夫ができるかという実例を紹介しています。例えば、万能クリーナーはどんなものをどれだけ入れると安全なクリーナーを自分で作れるという例や、汚れ落としの処方、ゴキブリや蟻退治の方法などのヒントを紹介しています。

 これもアメリカの委員会のもので、「バーチャルハウス」といいます。これは化学物質問題だけに焦点を当てたものではなく、5つのテーマ、森林の問題、有害化学物質、野生生物取引、海洋と水産の問題、気候変動についてそれぞれ見ることができます。

 有害化学物質を選ぶと画面が出てきて、すぐに「食べ物に有害化学物質が入らないようにする簡単な方法は?」という質問が出てきます。この質問の答えを画面上にある家の中に入り込んで探し出します。探す場合のヒントも出されます。ここでのヒントは「あなたはだんだん熱くなる」です。ベッドルーム等いろいろなところを探って答えを見つけます。

 この場合には、電子レンジが答えですので、電子レンジを選択します。

 「正解」ということで、プラスチックのラップをしたまま電子レンジの中に入れるのは避けましょうというように、非常に単純な形で、楽しみながら一つ一つ学習していくというものです。

 いずれも中身は他愛もないもので、ここにいらっしゃる皆さんにとっては当然御存じのことだと思います。ただ、市民の方に対して化学物質の情報提供する場合につい忘れがちなのは、常日頃関心と知識を持っている私たちとは違い、一般市民のかなり多くの人は、化学物質に対して不安を持っているけれど基本的な知識等に乏しく、もっと詳しく調べようという行動になかなか移せない、その間に大きな壁があるということです。その壁をいかに乗り越えさせるかというところがリスクコミュニケーションの中でも一番重要な部分だと思います。そういう意味で、次はどんなことがあるのだろうかということに少しずつ関心を持たせるという点で、非常に面白い取組であったのではないかと思っています。私どもWWF Japanでは、まだWEB上に同じようなものはできていませんが、出版物として2つのブックレットを出版しました。

 これは、資料3-2として、皆さんに配布しています。家庭の場面毎に注意すべき対象や対応策を考えるヒント等を紹介しています。

 前半は場面毎に紹介していますが、後半はトピック毎にどんな問題があるかということを非常に短いスペースに、できるだけ易しく書いています。しかし、これでも難しすぎると思われる方もいらっしゃると思います。これは、今年の6月に作成し、新聞や雑誌等でお知らせをしましたので、かなり多くの方から請求を頂きました。また、これまで私どもが出してきたパンフレットと違った反応がありました。それは、一度お送りした方から、これをぜひ地域の勉強会や環境教育の場で使いたいのでまとまった部数が欲しいという声をかなりいただいたという点です。逆に言えば、分かりやすい、あまり難しすぎない情報に対するニーズというものが潜在的にかなり大きいように強く感じました。
 今挙げたようなWEBサイトやブックレットを通じて、市民ができることにはどんなことがあるのかということを紹介していますが、このブックレットを作る時もそうでしたが、市民ができる範囲というのは、本当に限られた部分しかありません。

 では、なにが、壁になっているのかということを考えてみますと、まず情報がないことです。情報の三重苦と私が勝手につけましたが、1つは、情報はあってもアクセスがしにくい、どこにあるか分からない、辿り着いたのは良いけれど、言っている意味が分からない。要するに、一般市民にとって書き方が難しいだけではなく、市民の視点から書かれていないので理解しづらいことがあると思います。
 もちろん先ほどの中下さんのお話にもありましたように、情報を知ろうと思ってもそれが公開されていないというケースもあります。そもそも、ハザード情報であれ、暴露情報であれ、情報として存在しているものは、我々が欲しいと思っているうちの何分の一、または何十分の一です。情報が今現在存在していないという状況の中で、最善の方法をどうやってとったら良いかと言えば、市民側としては、予防的な考えをとらざるを得ないということになると思います。

 ただ、情報がわかりにくいという問題は、すべて提供する側が一方的に悪いというのではなく、市民側も態度を変えなければならないことがあります。1つには、化学が嫌いという方がものすごく多いことです。むしろ化学が好きだという人は人口の何分の一か、何百分の一かは分かりませんが、ごく少数でしょう。しかし、嫌いで済ませる問題ではありません。それでも逃げずに考えてみようと思わせるだけの工夫がまだ私たちに欠けているのかもしれません。
 2つ目は、「シロかクロか」に判断するという問題で、これはよく産業界の方からも言われます。例えば、「買ってはいけない」という本が出た時には、ワッと売れました。要するに結論だけを見て、これは良いもの、悪いもの、というふうに、自分で考えることを止めて、人が決めた通りに行動しがちです。もう一歩踏み込んで考えないと、自らの選択を狭めることになります。
 3つ目は、こういった難しい問題は、専門家に任せれば良いという形で関わろうとしないことです。化学物質の専門家と言いましても、化学物質は非常に広い分野にまたがり、本当の意味での専門家の本来の守備範囲は意外と狭いのです。少数の専門家で問題のすべてをカバーできるわけではありません。やはり、リスク評価に関わることであれば、その中に市民も関わっていかなければいけません。以上のような市民側の問題も大きいのではないかと思います。

 したがって、市民がもう少し自覚を持たなければならないことを伝える必要があります。従来は、自分が被害者になってはじめて関心を持ちました。自分が安全なら気にしないで終わってしまうわけです。そうではなく、自分の行動が加害者となっているケースもあるわけです。直接的な加害者の場合もあるし、間接的にそういった行動を支援している、黙認しているということで、加害者になっているというケースもあります。また、消費者として持続可能な社会を作る上でそれなりの役割があり、持続可能な生産と消費にむけて果たすべき役割には、非常に大きなものがあると思います。そういう自覚を持たなければいけないのではないかと思います。
 これは、中下さんのお話にもありましたので、繰り返しませんが、やはり、傍観者ではなく、自分も社会の一員として責任ある行動をする、意思決定に参加して、自らも責任ある行動を起こすということが重要だと思います。身の回りのリスク削減という、今回のテーマから、地域、地球全体のリスク削減行動へという形で、もう少し視野を広げていただければなと思います。今回配布しました資料3-3は、この最後の部分を市民の方に気付いていただきたく作成しました。ご参考まで。以上です。

(安井) ありがとうございました。村田さんのお話に対し、メンバーからの質問等はございますか?崎田さん、どうぞ。

(崎田) バーチャルショッピング等は世界全体で共有している仕組みですか?いろいろと非常に素晴らしい取組をやっていらっしゃると思います。1つ伺いたいのは、私が去年スウェーデンの環境NGOの取材に行ったときに、1つ思ったことがありました。それは、NGOが活動の中心を一般市民への広報・普及に置いているということです。そのために、パンフレット等を整備するとともに、1年の中の1ヶ月か2ヶ月を今年のキャンペーン期間として、今年はこの物質に関して、皆の関心を呼ぶようにするとか、そういうふうにしてポスターを作ったり、いろいろな活動をされていました。そういうやり方も非常に積極的ですし、具体的で良いなと思いました。今こういうパンフレット等をお作りになって、これの普及として、具体的にどういう動きをされているのか、また、どんなふうにお考えかを教えていただければと思います。

(村田) 先ほどから、NGOの台所事情の話がちらちらと出ていますが、私どもの団体も例外ではありません。今お手元にある2つのパンフレットも外からいただいたお金があってできたものです。ですから、部数も限られていますので、今後はできるだけこれらを必要とされる方に優先的にお届けしたいと思います。私どもは、市民サイドでものを考えていると言いましたが、市民といっても非常に様々な価値観があります。多様な考え方や懸念などを知るために、例えば、勉強会のような場に出かけることも考えています。ただ、このプログラムを担当している人間に限られるので、全国展開でということはやりきれませんが、できる範囲で考えています。

(崎田) ありがとうございます。

(安井) 中塚さん、どうぞ。

(中塚) バーチャルショッピングの中に出てきたシャンプーにフタル酸エステルとありましたので、私どもで調べてみた結果、最近のシャンプーにフタル酸エステルはほとんど入っていませんでした。ここでは、重要なこととして展開されていますし、インパクトも大きいですから、この辺りはお気をつけいただければと思います。

(村田) はい。私どもでは、そういうより正確な情報をご指摘いただくことは大歓迎です。ただこれは、WWFインターナショナルのサイトですので、他の国のことも分かれば、私の方から現状について伝えたいと思います。

(中塚) 今申し上げましたのは、日本についてです。今日本で活動されている場合は、おそらく日本の方がターゲットになるでしょうから、そこはお気を付けになった方が良いかと思います。

(村田) はい。私どもでは、これを日本語化して日本のサイトでも見えるようにしたいという希望を持っています。その際は、日本の状況を見ながら必要な部分は修正するようにしたいと思います。

(安井) それでは、ここで10分程度の休憩を挟みます。休憩後は引き続き、村田さんのお話に対するメンバーからの質問等から始めたいと思います。

―― 休憩 ――


(安井) では議論を再開します。まずは、村田さんへのご質問があればお願いします。瀬田さんどうぞ。

(瀬田) 質問というわけではありませんが、最初に申し上げた「化学物質」というものに対する説明をお願いします。また、表現が分かりやすいとか分かりにくいといった問題に関連して、村田さんがお書きになったものがあります。例えば、これで見ると、これくらいのことは書けということなのか、あるいは、もう少し踏み込んだ方が良いのか、どういう感じでしょうか?

(村田) コミュニケーションの基本的な部分であると思いますが、話しかける相手は誰かということが重要です。パンフレットを作る場合には、特定の読者層が定まっている場合と、中学生から主婦までといった幅広くあいまいな場合があります。コミュニケーションは相手を知ることが重要ですが、相手が定まらない場合はできるだけ正確に伝えたいけれど、わかりやすくすることとの妥協の連続ではないかなと考えています。ですから、消団連の情報誌に書いた記事も、読者層が一般の主婦ではなく、むしろ消団連の中のいわゆる消費者活動に携わっている方をイメージして、書いたつもりです。

(瀬田) そういうことだろうと思います。やはり、分かりやすく化学物質を説明するということは決して容易なことではありません。したがって、化学物質を説明するために、お互いに知恵を出していくということなのではないでしょうか。知恵を出していくというのは、化学産業界だけではなく、それを受ける側もそれに対してアドバイスをするというように、化学物質に対するものの考え方を作り上げていくということが、きっとこういう場なのだと思います。

(安井) 角田さんどうぞ。

(角田) 情報の分かりやすさについてのやりとりを聞いて、1つ欠けているのではないかと思うことがありますので、述べさせていただきます。村田さんがいみじくも最後のスライドで情報にアクセスがしにくい、難しいといったような説明をされました。難しすぎるということは、内容が専門的なだけではなく、視点が市民の視点ではない、と確かおっしゃったと思います。そこが非常に大事であると私は思っています。私も仕事で編集やライターをやっています。誰に伝えるということも大事ですが、その人が何を欲しがっているのかといったところを押さえなければ、結局こちらが言いたいことだけ伝えて、ニーズに応えられないというケースがありますので、分かりやすいというのは非常に難しいことだと思います。いろいろな要素が組み合わさっていますので、中でも特に重要なことが、市民にとってどういう情報が必要なのか、「適合性」とよく言われますが、そこを押さえていくことが大事なのかなというところを再度確認できればと思います。

(安井) そういう話はありうると思いますが、例えば、今の瀬田さんのお話ですと、企業側だけの努力ではできない、ということでした。

(角田) 今後は、企業が伝えたいことだけではなく、市民が伝えて欲しいことを合わせて伝えるということが非常に大事なのではないかと思います。というのは、やはりNGOの活動をしていると、情報自体が本当に入手できず、正確な情報をいくら伝えたくてもできない。特に、製品の情報はどんどん更新され、新しい製品も出ます。同じ製品でも成分がどんどん変わっていって、その情報自体を入手できないというのはよくあることです。そうなってくると、やはり企業が自分の製品を作ったという設計の責任という意味において、情報提供するということが第一にあると思います。その場合、ここが環境に良いとか、使いやすいとか、製品として良いといったようにPRしたいというのは分かりますが、それだけではなく、市民が不安に思っているのであれば、その情報をきちんと伝えるということが重要であると思いますし、それは、企業だけの視点だけではなく、市民の立場を勘案して伝えることが必要だと思います。既に企業各社は、お客様相談室等でそのようなことをやっているのですが、電話のやりとりやホームページを見る限りではまだまだその辺りが薄いかなと感じます。その辺について今後ともやっていただければ思います。

(安井) 私もそう思いますが、企業だけではできないからこそNGO等の存在意義があるのではないでしょうか?瀬田さんの発言は、その辺りの要請であったように思います。

(角田) それを決して否定しているわけではありません。企業として情報提供をするということについて、まだまだ欠けている部分があるのではないかということをNGO活動や私の編集という仕事上の立場から述べたということです。

(安井) 有田さんどうぞ。

(有田) 角田さんにお伺いしたいのですが、情報が欠けているということは、例えば、お客様相談窓口等からアクセスしても情報を出してくれない、単なるPRではない製品情報を窓口で出してもらえないことがあるのでしょうか?

(角田) あります。例えば、電話をかけたり、ホームページを見たりする際に、消費者は必ずしも企業秘密を知りたいと思っているわけではないのに、「これは企業秘密ですので、情報提供できません。」といった文面を各社のホームページで見ることがあります。消費者は、企業秘密が欲しいから質問しているのではなく、不安を少なくしたいということで聞いてくるわけです。出し方を考えていただければ、企業秘密に触れることなく、分かりやすく情報提供することが企業としてできるのではないかと思います。

(有田) 以前、化学物質アドバイザー事業を活用して勉強会を行ったときに、トイレの便器を洗浄する装置の話題になり、その装置に、何も表示がされていなかったので、あれは、何でしょうか?という質問が出ました。しかし、化学物質アドバイザーの方にも専門があり、すべてのことに答えられるわけではないため、後日調べて報告していただくことになりました。私も調べましたが、情報がとれませんでした。企業秘密なのか、たいしたものが入っていないからなのかは分かりませんが、私たちが言っていることは、不安で煽るのではなく、正しく不安がらないと正しい使い方ができないということです。そのためには、どこかだけでは解決できない問題があって、正しく伝えたいという時に、本当に正しい情報を伝えていただけるのでしょうか。消費者団体というだけで、未だに斜めに見て、うるさい人たちだから付き合いたくないという態度をとられる企業の方がいます。例えば、これを変なふうに使うのではないか、間違ったように言われるのではないかというバイアス(注、偏見)がかかっているのかもしれません。そういった意味で、安井さんがおっしゃったように一緒に良いものにしていくことがどれくらい可能なのかと思い、角田さんにも確認させていただきました。

(安井) 今のような話は確かにあります。枠組みとしてある程度公開しなければいけないのは事実ですから。例えば、消費者があるものを買ったときに、そのMSDSを企業に要求したら、企業はどう対応するのでしょうか?

(原科) 今のことに関係しますが、情報公開に対してまだ温度差があるように感じました。ここにご参加の方は相当前向きのように思いますが。中下さんたちがオーフス条約について随分調べられているので、その内容をお話しいただければ、ちょっとは分かるのではないでしょうか?

(中下) オーフス条約とは、国連欧州経済委員会で環境問題に関する情報へのアクセス、意思決定への参加、司法へのアクセス、という3つの柱において市民参加の最低基準を決めている条約です。主として、意思決定に参画するためには、情報がきちんと公開され、我々が十分に理解と分析をし、自分の意思を表明していくことが必要です。そういうプロセスの中で情報公開が受けられなかった、あるいは、意思決定の参画の手続きに不備があったという場合には、最終的には司法アクセスで是正されなければ、市民参加は担保されません。私は法律家ですが、今の日本の訴訟制度で、環境問題について様々な基準の決定の仕組みそのものがおかしい等ということはなかなかできず、訴訟になりません。そういう意味で、意思決定の参画においても司法へのアクセスをして、皆がちゃんと参画ができた上で意思決定ができているかをチェックする。あるいは、環境法規に違反しているということも市民が監視をして、それが司法アクセスで訴えられるということになると、ある意味で行政の軽減化にもつながりますし、規制緩和の方向にも合います。そういう意味で環境問題に関しては、市民は加害者でもあり、被害者でもあり、もちろん産業界を含め、あらゆるレベルの人たちが参加することによって初めて適切に扱われるということが、オーフス条約の根本精神です。そういうものが、今、国連で採択され、発効されています。これは、UNECE(注、国連欧州経済委員会)の条約ですが、いずれ国連全体の条約になってくるでしょうし、ある意味で、アジアにおいて参画の仕組みを作っていくということが課題ではないかと思います。その中で日本がリーダーシップを発揮すべきだと思いますので、ぜひ企業の方、行政の方、いろいろな方に理解していただいて、皆が参加する前提としての情報へのアクセスが当然だということをぜひご理解いただきたいなと思います。

(安井) 瀬田さんどうぞ。

(瀬田) 中下さんにお伺いします。今日お話を聞いて、活動の全貌が分かりました。ただ、環境問題というのは、それに対応している人間が悩んでいるのは、分からない点が非常に多く、しかも、分かっていることが刻一刻と変り、評価も変わる。加えて未知のリスクが入ってきます。そういう中で、このような問題をいわばボランティアのグループで議論して、意見提言をすることまでは良いと思います。しかし、政策提言にまで持っていくということは、無理があるのではないかという気がしています。というのは、お話を聞いていて、例えば、資料の中にある数字などを見ると、政策提言にまで繋ぐにはいささか荒っぽいのではないのかなという感じがしたからです。そうではなく、ただご説明の問題でそう聞こえただけであれば結構です。1つの例として、スライド14には、国民会議の提案でダイオキシン類のTDIを現行の4pg/gから2pg/gにするとか、魚介類の基準値を0.9pg/gにするというような数字を決めていますが、こういう数字を決めたことで何かサイドエフェクト(注、思わぬ影響)が起こるだろうかということを考えなければいけないわけです。一例として、去年の今頃だったと思いますが、ある雑誌に魚の中には蓄積されている化学物質がけっこうあるという記事が載りました。提案された基準で、食べられる魚がどれくらい残るのでしょうか?また、漁業関係者が基準値以上のダイオキシン類を含むと言われる魚が網にかかって引き上げた時にどうするでしょうか。多分その場で捨てることになる。実際に捨てると、漁獲量や船の積載可能量の空いた分だけまた獲って不適応の魚はまた捨てる。こうして高価な魚やダイオキシン含有量が少ない魚だけ積んで帰るということになれば、結果、ダイオキシンが多い魚は獲れても捨てることになる、捨てられた魚は弱っていて多くは死んでしまう。その後の調べでダイオキシンはその程度あっても問題ないなどということにでもなれば、トータルとして漁業資源を損なっていくことにつながらないのだろうか、影響としてはかなり大きいように思います。ですから、先ほど、予想外のことが起こるとおっしゃいましたが、確かにこの種の報道や提言は副次的な問題を起こしますし、前提を間違ったときには負の問題を引き起こします。政策提言をするには、同時にいろいろなことを事前に考えなければいけない、前提を間違えて将来に禍根を残さないようにしなくてはいけません。またある程度やったところで検証した方が、後々のためによいように思います。例えば、中下さんの資料にはダイオキシンの話が出てきていますが、ダイオキシンに関わる政策提言についてその結果どうだったのかということを国民会議で議論をされるのかどうか、これらの点をお伺いしたいと思います。

(中下) 政策に関して、何が正しくて何が間違っているかということは、意思決定をしていくということだと思います。ですから、私どもが正しいと言っているわけではありませんが、私たちは今の政府の政策が正しいとは思っていません。私たちのスタンスは、「物言えぬ野生生物とこれから生まれてくる子ども達の立場で政策を提言する」というものです。産業界の立場というものはそれぞれあるでしょうが、産業界としても、物言えぬ野生生物とこれから生まれてくる子ども達の立場をわきまえた産業活動をしていくのは、漁業者も含めて当然のことだと思います。その中で、漁業者が被るであろう損害を見積もれと言われても、私ども先ほど申し上げたように、そんな予算があるわけではありません。こういうことは、むしろ国にやってもらいたいと思います。基準を決めるとなると、いくつかのデータを調べ、現実的に対応がどこまでできるのかを検討しなければなりません。そうすると、その基準をいきなり設けるのではなく、段階的に設けていくということもできるでしょう。そういうことは、総合的な判断で議論をしなければいけません。私たちとしては、そういう意味で我々の提案をしています。受けて議論をしていただきたい。そのための材料を集めていただきたいと思います。
 PCBは、現在では暫定基準値がありますが、過去には、汚染のひどい魚の買い取り補償のような形で処理されたところもあると聞いています。水俣の魚もそうでした。ですから、調査してみて、東京湾や大阪湾の汚染がひどく、おっしゃるようにほとんどの魚が出回れないという事態であれば、補償制度を考えざるを得ないように思います。それから、基準値というものは、絶対に市場に出てはいけない基準値にするのか、それとも、摂食指導という形でまずは妊産婦の方が気をつけてくださいというようなガイドラインにするのか、この辺りに関しても、議論をして国民が意思決定をすべきであると思います。漁業者の方もNGOも、学識経験者も政府の方も、1つのテーブルについてコミュニケーションをして、意思決定をしていくということだと思います。そういう意味で、検証は非常に大事なことだと思います。私たちも折に触れてやっていきたいと思います。検証や調査をするにはものすごく時間がかかりますが、できるだけ最新の情報にしようと思っていますので、ダイオキシンのデータは毎年集めています。この情報に基づいて、我々はこういう分析をして、基準値を0.9pg/gとした場合、結果危ないものが相当あるということです。0.9pg/gという数字が正しいかどうかは分かりません。しかし、0.9pg/gという数字は、アメリカの1.2pg/gと比べても、決しておかしな数字ではないと思っています。正確かどうかと言い出したら、何が正しいかは分かりません。ですから、ガイドラインで少なくとも、摂食回数を記入したり、妊産婦に対して食事を指導したり、できるところからやって少しでもリスクを減らしましょうというのが私たちの考え方です。

(安井) 私もこの点に関して質問があります。国民会議の中の提案で、こういった形で数値が出る時に、例えばどんな議論が行われて、その後でどんな意思決定プロセスを経て数字が決まるのかを伺いたいと思います。例えば、ダイオキシンに関して、毎回申し上げている通り、母乳の濃度は低下していますし、1970年頃の赤ちゃんがおそらく今の倍ぐらいの負荷を持ったのではないかと予測されています。今の人たちは段々良い方向に向かっていると思います。要するに、過去の経過をどのぐらい議論されたか、どういうデータに基づいて、どういう議論が行われるかということです。あるいは、魚はむしろダイオキシンよりメチル水銀の方が問題かなという気がしますが、例えば、他のものとの比較について、どんなデータに基づいて、どんな形で議論が行われ、誰がこの2pg/gという数字を出すのか、さらに、TDIでなぜ2pg/gなのか。私は、ダイオキシンはTMI(注、Tolerable Monthly Intake;耐容一月摂取量)で良いように思っています。ですが、TDIで2pg/gという数字を誰がどうやって決めるのかを伺いたいと思います。

(中下) 最初はWHO(注、World Health Organization;世界保健機関)の提案が1ないし4pg/gということで、目標値を1pg/gに設定すべきだという意見が多数でました。御承知の通り、ダイオキシン法(ダイオキシン類対策特別措置法)ができたときも、各政党では、野党案でもほとんど1pg/gで提案されていました。その辺が合意の得やすいところなのかなと思いましたが、実際にはなかなか難しく、4pg/g以下になりました。1pg/gを目指したいと思いましたが、1pg/gで計算すると8割方の魚が流通できない状況でした。それで、現実問題としては、1pg/gは目標にしつつも、今すぐそこにいくには無理があるだろうということで、一日の目標値を0.9pg/gという数字で出しました。TMIでも良いのかもしれませんが、そこは詳しくは議論していません。先ほども話したように、魚の種類を3通りに分けて、皆さんが実際に市場で買うときに参考にしていただくものです。いちいち測って食べられるわけではありませんから、消費者としてできることは、危なそうな魚は回数に気をつけるか、妊産婦はできるだけ食べないか、調理方法に気をつけて食べるか、そういうことしかできません。そういうための情報発信をしています。水銀のリスクは比べようがありませんが、現在、水銀については調査中です。

(安井) 比べようもないという議論が行われたかどうかを伺っているだけです。

(中下) 複合影響が分かりませんから、比べようがありません。

(安井) そういう議論が行われたということですね。2pg/gという数値が出てきた理由は分かりましたが、どういうプロセスで決まったのか、多数決で決めるのか、あるいは、誰かがリーダーシップをとって2pg/gでいこうということで決めるのか、その辺りを伺いたいと思います。

(中下) 会内合意形成の仕組みは、すべての会員を集めるわけにはいきません。私たちの会には、一定の執行役員のような形で、常任幹事がいますので、そこで議論をして、シンポジウム等を開いて皆さま方に提案をして、採択をするというプロセスです。

(安井) もう1つ、ダイオキシンの暴露が一番あったのは1970年頃だろうといったことに関して、どのような形で議論がされているのでしょうか?

(中下) 減っているということは、良いことだろうというように議論をしています。ただし、かといって今安全なレベルまでいっているかというと、決してそうではないと私たちは考えています。

(安井) 過去は危険であったと?

(中下) 過去も危険ですし、現在も危険です。

(安井) 要するに過去には、悪い影響が出たということですか?

(中下) ダイオキシンによる悪影響についてはまだ完全に分かりません。ただし、微量でも影響があると私たちは考え、意識しています。特に、子どもの発達への影響です。脳の発達など。

(安井) はい、他に何かございますか?

(菊地) 情報提供ですが、今年の9月末に私ども水産庁が、平成11年から15年度までの魚介類の調査結果を発表しました。日本周辺における海で、いろいろな魚を捕り、そこに含まれるダイオキシンの量の調査結果をそのまま出しています。ここで、1つ例を挙げると、関東沖のマイワシは検体数が7で、ダイオキシン濃度は低いもので0.081pg/g、高いもので1.998pg/gといった結果でした。同じ魚でも、海域によって低いものから高いものまでいろいろとあるようです。ですから、この話は結局、同じ水域で同じ魚種でも個体によって違っているといった調査結果が出ています。今後も、このような調査を続けていきたいと思っています。当然、情報も出しています。結果については的確に判断していただきたいと思います。もう1つ、私たちは1つの魚だけを食べているわけではなく、例えば、寿司屋に行けば、マグロから貝まで様々なものを食べています。また、何も魚に限ったことではなく、我々は食生活でまんべんなく食べることが良いわけです。1日の食事の中で、肉以上に魚介類を食べているのが現実です。太古の昔から、肉以上に私たちの食生活になじみのあるものですから、魚介類を可愛がっていただきたいと思います。

(中下) 実は、情報公開法が施行された初日に水産庁へデータの請求に参りました。産地に関しては、公開していただけないのではないかと危惧していましたが、全部公開していただきました。大変前向きに対応していただいたということで評価しています。
 翌年にもう一度情報公開請求に行った際に、私どもがいちいち情報公開請求をしなくても、前向きに全部情報提供をしてくださいとお願いしましたが、2年目では無理でした。ようやく3年目になって、すべて提供していただけるようになりました。ですから、水産庁も大変前向きになってきたと私どもは評価しています。
 しかし、残念ながら、実はその調査結果は使えませんでした。なぜかと言うと、同じ魚をずっと追っているわけではないからです。高い数値の魚が出ているのに、なぜ、翌年から経年変化を調べてくれないのかと聞いたら、皆が食べているもののバックグラウンドをまんべんなく調べ、どの程度の汚染度かを調べる調査だからという答えでした。ですから、そのデータは私たちがやりたい分析のデータとしては使えませんでした。
 瀬田さんが、データが荒っぽいとおっしゃったのはその通りです。持っているデータはこれだけですし、また、公開されているデータを活用する以外に他にデータはありません。NGOは自分たちでデータをとることができません。データが荒っぽいとおっしゃるのであれば、データを調べてください。私たちが使えるデータがないということがよく分かりました。検体数に関しては、環境省が1検体で水産庁は複数なので、本当は水産庁のデータを使いたかったのですが、いろいろな魚種を経年変化で調べていないので、なかなか使えませんでした。また、検体数も非常に少ないように思います。そういうことがあるので、この際是非、そういうことも勘案して、水産庁も魚が大事なのであれば、ある程度の安全性や食べ方等も合わせて公開していただきたいと思います。
 私も魚が好きなので、特に、子どもがお腹にいるときには、毎日青い鯖ばかり食べていました。しかし、残念ながらアレルギー体質で生まれたため、こういう心配をするようになりました。ですから、安心できるような情報を集めていただきたいと思います。また、やはり憂慮されるような状況であれば、東京湾や大阪湾の汚染を改善するために、どういうことをすれば良いかをもっと真剣に考えていただきたいと思います。そうでなければ、魚は大事で大好きですが、東京湾や大阪湾の魚は子どもに食べさせられません。 

(菊地) 私ども役所は、情報提供に一所懸命に取り組んでいます。水産庁を評価していただきありがとうございます。実は、本日「牛肉トレーサビリティ法(牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法)」が完全施行されました。牛肉に限っては、生産現場から小売店まで義務的に情報を発信する時代になってきていますし、その他の魚や野菜も、任意ではありますが、できる限り生産履歴情報を消費者に伝えようと努力しています。それには、お金がかかるので、消費者に負担していただきたいと思います。以上です。

(安井) では、片桐さんどうぞ。

(片桐) 今日のお話の中には、NGOがいろいろな行動に取り組みながら、法制度の改正を提言したり、企業の自主管理の話や市民によるリスクの削減ということがありました。NGOの方々がいろいろと資料を出したり、こういう取組をやっているということが、非常に参考になりました。しかし、具体的に、市民に何をやってもらうのかという話が抜けているのではないかと思いました。どちらかというと、今日のテーマは、そちらの方の話だと思っていましたので、話を少しさせていただきたいと思います。
 基本的に、NGOは行動基盤を持っていますし、いろいろと行動することができます。しかし、一般市民の多くは、基盤を持っていません。自分たち自身でどうしたら削減できるのかを考えなくてはいけないのではないかと思います。しかし、大多数の方は考えてないように思います。そういう中で、一般市民の方々にやっていただくことは、化学物質を含んだいろいろな製品を使用目的に合った適正な使用量、使用場所を考えながら使ってもらうことだと思っています。また、どうやって、それを市民に理解していただくのか、おそらく環境学習や環境教育といった話になるかと思いますが、その辺りが非常に難しいのかなと思います。何か良いお考えがあれば教えていただきたいと思います。
 もう一つ、私たち神奈川県は、いろいろとシンポジウムを開いたり、リスクコミュニケーションをやっていますが、なかなか理解していただけません。私どもが作った資料には、確かに見づらいものもありますし、なかなか理解が難しいものもあります。できれば、NGOのみなさんや企業の皆さんにもお使えいただけるような資料になれば良いなとも考えています。このことについても、何か助言をいただけるようでしたら、お聞かせください。

(安井) 中塚さんどうぞ。

(中塚) 中下さんの発言の中で非常に興味深いものがありました。1つは、ダイオキシンは何が問題かといった質問に対し、子どもの脳の発達への影響だと非常に確信を持っておっしゃいました。その根拠は一体何でしょうか?資料や何かをお持ちでしょうか?一般に、私どもの知っている範囲では、ダイオキシンにはいくつかの事故、例えば、イタリアのセベソ(注、1976年イタリアのセベソにある化学工場で起きた爆発事故。町全体に降り注がれた化学物質の中にダイオキシンが含まれていた。)等があり、かなりの人が暴露しているのですが、その時に出てきた毒性は、非常に軽いものでした。クロルアクネ(注、chloracne;塩素挫瘡)といってニキビのようなもので、亡くなった人はいませんでした。動物と同じ暴露をしているのですが、大きな影響はないというのが、これまでの疫学的なデータです。おっしゃるように、子どもに対する影響の証拠や疫学的なデータをお持ち、あるいは御存じなのかということを伺いたいと思います。

(中下) 私は専門家ではありませんので、詳しくどこに書いているということは、挙げられませんが、事件で言えば、台湾油症事件(注、1979に年に台湾で発生したPCBによる中毒事件。PCBが混入したライスオイルを摂取した約2000人に塩素挫瘡や色素沈着などの深刻な健康被害が現われた。)がそうです。知的発達等に遅れがあったということは、疫学的に出ていると思います。それから、PCBについては、EPAが五大湖のガイドラインを出している通りです。さらに、先日私どもNGOの総会で黒田洋一郎先生(注、東京都神経科学総合研究所 客員研究員)に講演をしていただいた際にも、子どもの脳の発達に影響を及ぼす疑いがあるというお話を聞きました。しかし、疑いでも私たちは予防原則で提案をしています。

(中塚) 先ほど、確信を持って危ないとおっしゃっていましたが。

(中下) はい。油症や五大湖については、ほぼ高濃度の暴露による影響ですから。

(中塚) 可能性の1つとして疑いがあるかもしれませんが、直接的な因果関係が明らかにされているのかということを感じました。もう1点、これは一般論ですが、本日の皆さんからのご発表は全体的にハザードコミュニケーションだと思います。今のダイオキシンの例もそうですが、要するに、定性的な潜在的影響、つまりハザード面に焦点を当てられた化学物質がいろいろとあり、内分泌かく乱物質もそれに含まれているのだと思います。我々がこの場で何度も申し上げているように、ハザードだけではなく、リスクを考えた上で評価し、リスクを議論するというのがこれからの方向性だと思っています。ですから、ハザードだけで議論をされると、結果的にどうしても煽るようなことになる気がします。NGOの方々の影響は非常に大きいのでその事を自覚され、リスクベースでなるべく正確に正しくお伝えいただきたいと思います。そうしないと、我々が一番懸念していますように、化学物質についてますます消費者の方が誤った不安を抱かれるのは大変残念なことですので、よろしくお願いします。

(中下) ご主旨はよく分かります。私はリスクベースで話をするということはその通りだと思います。ただ、EUの規制の方向性から考えてもお分かりのように、vPvB(注、very Persistentand very Bioaccumulative;残留性と生物蓄積性が非常に高い化学物質)であるとか、CMR(注、発がん性・突然変異誘発性・生殖毒性を有する化学物質)であるとか、一定のハザードによる規制ということもこれから考えていかなければ、すべての化学物質の情報を今から得ていくということは非常に大変です。それをやろうとしているわけですが、そういう中で、予防原則の立場にたった対策のあり方としては、やはり、一定のもの、特にダイオキシンには有用性が全然ないので、ハザードベースで話をするのも当然かなと思います。

(安井) 先程の片桐さんの質問に話を戻したいと思います。崎田さんどうぞ。

(崎田) 自らの実践のために環境教育が大事だとおっしゃいましたが、まさにその通りだと思います。私自身、環境教育や環境学習の普及・啓発、また市民の実践型の環境活動を応援するというような活動をしている者として、本日、それに関する全国の状況をきちんと資料提示しなければいけなかったかなと反省しています。今、市民の実践につなぐということがすごく大事です。化学物質の分野は、もちろん情報が少なかったりしますが、逆にうまくつながるような芽を持っているところがたくさんあるのではないかと感じています。環境学習を進めるときに、今必要だと思うことは、情報と教育、活動、実践の場作りと人材育成です。情報と人材育成については、いまかなりお話が出ましたが、教育や活動の場作りというお話でいえば、やはり市民参加型の場作りがすごく大事だと思います。自ら行動するということが大事で、そういう意味ではそれぞれの地域の環境NGO、あるいは、環境活動グループが自ら企画して地域社会で作っていく、それを行政なども応援するという状況を構築することがとても大事だと感じています。
 もう1つ、今地域で自然環境を大切にということで、水を大切にするグループやいろいろなグループが増えてきています。そういうグループにきちんと情報を伝えながら、水をもっときれいにするために、自分たちが暮らしの中でどういうふうに管理をしたら良いのかということにさかのぼるような形でやっていく。例えば、今環境省の水環境部で「こどもホタレンジャー制度」というものをやっていて、ホタルを育てることで水をきれいにする、水をきれいにすることで自分たちが何を排水として流すのかということにも関心を持つ、そういうようにさかのぼるような呼びかけもしています。こういった情報を総合的にフル回転させて使っていくということも必要だと思います。
 さらに、例えば、女性が化学物質に一番敏感になるのは、妊娠をし、自分が次の世代を作っていくときに、自分の暮らし方が大丈夫であったかという思いを抱くときです。そう言いう時期に、例えば、保健所できちんとした情報が定期的に提供されるといったことも1つの方法だと思います。教育の場作りや実践の場作りというところで、市民ができること、そしてそれを応援する行政ができることをもう一度総点検するということが大事だと思います。
 それと、今企業の方の化学物質情報への関心というものが非常に高くなっています。GHS(注、Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals;化学品の分類および表示に関する世界調和システム)のラベルや環境ラベルの話も、今後2、3年で急激に変わってくると思います。そういう情報整備をした後で、市民がどう変わるかということもそろそろ考えていった方が良いと思います。その時に何が変わるかというと、もちろん多くの人が関心を持って、消費行動に気をつけ、あるいは使うときにちゃんとラベルを見るということがあると思います。そしてその後に、どういうふうに捨てるか、使い切れなかったものをどう捨てるかということにも影響してくるかと思います。今の廃棄物行政で苦労している部分がありますが、そういう問題点を洗い出すとともに、今すぐというのは大変ですが、数年かけて、業界としての店頭回収システムの整備ができるかどうか等についても検討に入っていただく時期だと私は考えています。あと、今廃棄物行政の話をしましたが、それだけではなく、下水道局も大変困っていると思います。下水道の水の中に化学物質などがどれだけ入っているかということをちゃんと把握して、危険性を発信していただきながら、もっと生活排水のところにさかのぼりながら対応していくような普及・啓発の方法も必要だと思います。そういう意味で今、化学物質管理やリスク管理を社会全体できちんとしていくということは大変重要な課題になっていると思います。ですから、そういう全体像に関してある程度の提言ができるような話し合いをしていくことが必要なのではないかと感じています。

(安井) 有田さんどうぞ。

(有田) 2点あります。菊地さんが先ほどおっしゃった情報に関して、消費者団体としては、その情報を受け止めながら、情報を発信しているということをお返ししたいと思います。また、先ほど、片桐さんが市民側の有害化学物質削減のためにどういうふうに努力をしていけばよいかを話し合う場であるとおっしゃいましたが、私もそれは必要だと思います。
 神奈川県が出しているパンフレットには、PRTR制度について市民ができることや、家庭からの排出量が多い化学物質について分かりやすく書かれています。こういうものも、配布し、市民活動の中で学習会も行っていますが、行政が悩むのと同じように、市民側も悩んでいます。時間をかけてPRTR制度を作ったけれども、情報が使われない。いろいろと言われていますが、時間がかかることです。単に、化学嫌いなのではなく、学校教育が化学に重点をおいてこなかったことも背景にあるのではないでしょうか。私は決して化学が嫌いな方ではないので、自分が興味を持ったことについていろいろと調べます。また、いろいろな学習の場に行くと、年齢が高い方も若い方も、1つ疑問に思ったことに食いついてきて、学習しようというふうになります。決して単純に亀の子の構造式ではなく、身近にある化学物質に対する意見のやりとりで、真実が見えてきたりするように思います。
 だから、先程から安井さんがおっしゃっているように、いろいろな人の知恵を集めて、正しい情報を伝えるということが大事だと思っています。現状を国際的な情報網がある化学業界の方に教えていただければ良いし、良い方向に向かうための化学物質削減という知恵を出し合う時期だと思っています。ですから、今日は片桐さんもおっしゃったように、こちらも知恵を頂きたいなと思います。努力はしていますが、これから企業の方や行政の方とご一緒しなければなかなか難しいかなと思います。

(安井) 先程原科先生のお話の中に非常に重要なポイントがありました。情報を受け取って選択にいく間に当然何かがあるわけです。ここで市民がどういうことをやっているかというと、自分の持っている感性なり知識なり、何らかのもので選択をするわけですが、この中間的なところに何か足りないわけです。この足りないものが一体何なのか。私は毎回環境教育を行う際に考えていますが、それは、私が毎回この場でいっているリスクはゼロにはならないということです。地球は有限であり、人間の寿命も有限である、この単純なことをもっとちゃんと分からなければ我々が次世代のために、何を要求し、何を残すのかという話も語れないようにここ最近思っています。その辺りを今日議論する時間がありませんでしたが、そのうち機会があればやっても良いのではと思います。何かご質問や意見はありますか?原科さんどうぞ。

(原科) 安井さんがおっしゃったことを引き継いで、そういうことはやはり市民の場でやらなければいけないと思います。しかし、皆さんの話では、NGOの置かれている位置が弱い、特に台所事情が厳しいということなので、情報公開と財政基盤の両方が必要だと思います。情報公開は積極的にやっており、今後も進めていきたいとおっしゃっていましたが、財政基盤に関しては保証が必要でしょう。NPO法人法を始め、いろいろとやっておられると思いますが、行政にはさらに支援等を進めていかれることを希望しています。これは、同時に産業界の方もそうです。産業界とNGOは議論することでお互いを助け合うこともあるので、そういったサポートがお互いに必要ではないかと思います。社会システム全体で見るような視点が必要だと思います。

(安井) 本日ご発言のなかった方から、何かありませんか?田中さんどうぞ。

(田中) 我々が市民の立場で考えると、ダイオキシンというものは化学産業界だけの問題ではないように思います。また、市民という立場で考えると、「ダイオキシンから身を守る食べ方」等は、昔聞いた話とはだいぶん変わっています。昔の知識が頭に焼き付いていて、生野菜は食べてはいけないと思っていましたが、今ではよく洗って食べれば良いということです。そういう情報の変更があれば、市民としてどこをどういう理由で変えたのかを知らせてもらえると、コミュニケーションから選択にいく判断に非常に役立つように思います。それから、今日はダイオキシンについてもかなり議論になりましたが、私はダイオキシンの専門ではありませんので、専門家の方でも招いて、この話を聞けば、違った考えが出てくるのではないかと思いました。今後そういう機会を考えていただければなと思います。

(安井) 他に何かありますか?

(菊地) 過去にはいろいろな情報がありましたが、野菜に含まれるダイオキシン類は、極めて微量という継続的な調査結果があり、大丈夫と思います。最近では生野菜を食べる方が多いようですので、こちらも様々な調理方法で食べていただきたいと思います。

(安井) 私もそう思います。野菜を洗ってもダイオキシンはとれないと思います。ここで、たばこからもダイオキシンが出るということを話していただきたいと思います。むしろそちらの方がきいていると思います。
 それでは、そろそろ時間となりましたので、この辺で、本日の会議は終了したいと思います。
 次回(第13回)の議題については、この後開催する予定のビューロー会合において協議して決めたいと思います。
 それでは、最後に、事務局の方から何かございますか。

(荒木) ビューロー会合は5階の「寿」にて行いますので、メンバーの方でご出席いただける方はよろしくお願いします。それから、最初に言いそびれて大変恐縮ですが、お手元のネームプレートが今日から縦型に変わっています。名前が分かるようにという意図で、4面に書いております。また、ご発言の時には、ネームプレートを倒していただくつもりでしたが、言いそびれました。次回以降はそのような形でお使いいただければと思います。よろしくお願いいたします。

(安井) それでは、本日の会議はこれで閉会にさせていただきます。どうもありがとうございました。