新潟県 新潟平野 地盤環境情報令和4年度

1.概要

(1) 地盤沈下等の概要
新潟平野(越後平野)の海岸部に位置する新潟市周辺では、昭和30年代前半から水溶性天然ガスの採取に伴う地下水の汲み上げにより激しい地盤沈下が生じた。 地盤沈下の原因については、当時、行政、学者、業界を巻き込んで論争が繰り広げられ、社会的な問題となった。科学技術庁資源調査会は原因として唱えられた諸説の検討を行い昭和34年6月24日付け資源調査会報告第11号において「沈下の主原因は地下水の急激な大量揚水であるとする説を重視せざるを得ない」との結論を出した。その前後、数回にわたる鉱業用ガス採取規制により地下水位は回復した。また、地盤沈下防止対策の一つとしてガスを分離した後の地下水を地下へ還元する技術開発と実験が行われ、昭和36年から一部の採取井を圧入井に転換し、水溶性天然ガスの採取に伴って汲み上げられる地下水(以下「ガス付随水」という。)の地下還元が実施された。昭和48年10月以降、地下水総合規制対策に基づく新潟県の要請と通商産業省の指導により、新潟ガス田全域においてガス付随水は全量を地下へ還元されることになり、沈下は沈静化した。一方、新潟平野の内陸部に位置する旧白根市付近でも昭和30年代半ばに沈下現象が顕在化した。その原因についても前述の資源調査会で検討され、自家用天然ガスの採取に伴う地下水の汲み上げであることが明らかになった。そこで、新潟市周辺の13市町村では、条例により自家用ガス井戸の新規掘削及び更新を禁止し、地下水揚水量の増加を抑制した。また、既存の自家用ガス井戸対策として、燃料転換助成制度を設け、天然ガスから他の熱源に転換するときに県と市町村がその費用の補助を行い、ガス井戸の減少に努めた。その結果沈下も沈静化した。 近年の沈下状況は、内陸部では沈静化の傾向が見られるものの、阿賀野川河口付近の海岸部において沈下の傾向が続いている。
(2)地形、地質の概要
新潟平野は新潟県の北部に位置し、信濃川と阿賀野川によって形成された沖積低地である。北側は日本海に面し、東側は越後山脈と魚沼丘陵によって、西側は弥彦山地と東頸城丘陵によって境され、南端は長岡市に至る北東-南西方向に長い平野である。新潟平野はそのほとんどが沖積面で占められている。海岸部には砂丘列が発達し、内陸から海岸に向かって砂丘の形成年代は新しくなる。古い砂丘は一部平野の地下に埋没しているが、地表に露出している場所では、微高地を形成し、集落が分布している。また、内陸部には自然堤防が点在しており、過去の河川の流路を知ることができる。砂丘の後背地には湖沼や湿地が形成されている。新潟平野はほとんどが第四系におおわれており、平野の東に位置する笹神丘陵、新津丘陵、魚沼丘陵、平野の西に位置する角田・弥彦山地には第三系が分布する。山地・丘陵と平野との境界は直線的であることから、新潟平野(越後平野)の堆積盆は周囲の山地ないしは丘陵が隆起し、平野部が沈降することによって形成されたと考えられており、平野中央部には最大層厚3600mに達する第四系が堆積していることが推定されている。平野地下の第四系から第三系中に連続性のよい礫層が分布している。礫層中には水溶性天然ガスが胚胎しており、ガス層は上位よりG1層、G2層、G3層、G4層、G4-1層、G5層、G5-1層、G6層、G7層及びG8層と呼ばれている。これらのガス層から水溶性天然ガスを採取するため大量の地下水が汲み上げられ、その結果、地下水位の低下と地盤沈下が生じた。

2.地下水採取の状況

本地域で採取されている地下水のほとんどは、水溶性天然ガス採取に伴う地下水である。 これらのうち鉱業権者による採取量は、106.4千m3/日(令和4年4月~令和5年3月)であり、すべて地下に還元されている。自家用に利用されているガスに伴う採取量は、平成6~8年度に県が実施した新潟地域地盤沈下機構解明調査によると44~45千m3/日程度と推定されている。

3.地盤沈下等の状況

新潟平野の地盤沈下は、新潟市の中・西部から信濃川沿いにかけて生じており、沈下面積は約804km2に及んでいる。観測を開始した昭和32年から令和3年までの累計沈下量の最大値は約287cm(新潟市西区寺尾上)であり、年間沈下量の最大値は、昭和34~35年の53.7cm(新潟市西区寺尾上)であった。近年の沈下状況は、内陸部では沈静化の傾向が見られるものの、阿賀野川河口付近の海岸部において沈下の傾向が続いている。令和4年度の水準測量結果によると、調査面積606.0km2のうち544.1km2で沈下が確認された。年間最大沈下量は、新発田市城北町一丁目の2.2cmであった。

4.被害

地盤沈下による被害は、港湾施設や堤防の沈下、用排水路の勾配変化による排水不良などである。昭和39年6月16日の新潟地震では、地震により発生した津波が、沈下した堤防を越流したため、海岸部の地区は浸水被害を被った。また、新潟市の市街地から信濃川周辺の低平地にかけては、いわゆるゼロメートル地帯が広がっている。平成18年度に最新の航空レーザ測量結果をもとに、県が調査した結果によると、その面積は約183km2となっている。

5.対策

(1) 監視測定
新潟平野では、関係行政機関が、水準測量及び地盤沈下観測井による地下水位と地層収縮量の観測を実施している。観測開始は、水準測量が昭和32年、地盤沈下観測井が昭和33年である。令和4年度水準測量の実施距離は、323kmであり、1等(級)が119km、2等(級)が204kmである。実施機関は、国土交通省国土地理院、同省北陸地方整備局、農林水産省北陸農政局、新潟県、新潟市及び新発田市の6機関である。地盤沈下観測井による監視は36本で実施し、地下水位と地層収縮量を観測するものが24本、地下水位のみを観測するものが3本、地層収縮量のみを観測するものが9本である。実施機関は、農林水産省北陸農政局、経済産業省資源エネルギー庁、新潟市の3機関である。
(2) 地下水等の採取規制
昭和30年代に実施した対策は、鉱業用ガス井戸に対しては通商産業大臣からの勧告による揚水量の削減や汲み上げた地下水の圧入であり、自家用ガス井戸に対しては市町村条例による規制であった。これらの対策の効果により昭和40年代になると地盤沈下は沈静化した。しかしながら、依然として終息しないことから、新潟県は昭和46年3月にすべての用途の地下水採取を規制の対象とするための指針として地下水総合規制対策を策定した。同対策により鉱業用ガス井戸についてはガス付随水が全量地下へ還元されることになり、自家用ガス井戸については他の熱源に転換するための助成制度が設けられ、その他の用途の井戸に対しては新潟県生活環境の保全等に関する条例による地下水採取規制がなされた。
(3)対策事業
地盤沈下対策事業としては、港湾、海岸、河川、農地及び下水道等の施設について、昭和50年までに約386億円にのぼる工事が実施された。

6.詳細情報

その他の「詳細情報」を、下記のエクセルファイルからご覧になることができます。

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