愛知県 濃尾平野 地盤環境情報令和4年度

1.概要

(1) 地盤沈下等の概要
濃尾平野の地盤沈下は、昭和34年の伊勢湾台風の被災により特に注目されるようになり、その後沈下地域は漸次拡大し一宮市以南の濃尾平野全域にわたって認められるようになった。
沈下速度については、昭和40年代後半には10cm/年以上の沈下が広域にわたり認められたが、昭和48~49年をピークにして現在では沈静化の傾向にある。この地域では、道路、建造物等の施設の破損や低地部における浸水、湛水等多種多様な被害を生じており、特に伊勢湾台風による被害を経験したことから、高潮に対する危険性が憂慮されている。
法令による揚水規制については、名古屋市南部の南区の一部と港区の一部について、昭和35年5月に工業用水法に基づく地域指定(昭和35年6月施行)を行い、昭和42年1月までに既設の基準外井戸は水源転換された。しかし、その後の沈下は激化の一途を辿ったので、愛知県及び名古屋市はそれぞれ審議会を設けて対策を検討した。その結果、愛知県では昭和49年9月にほぼ全面的な井戸の新設を規制する条例改正を行い、名古屋市(一部)等18市町村(当時)を規制地域とした。その後尾張34市町村(当時)へと規制地域の拡大、一部地域での既設井戸の揚水量の2割削減と規制の強化を図り、昭和59年6月には工業用水法に基づく地域指定(昭和59年7月施行)を一宮市はじめ21市町村(当時)に行い、昭和60年8月には工業用水の給水を開始した。また、規制対象外の小規模な井戸については、昭和61年4月に小口径井戸指導要領を施行し、井戸の設置計画書を提出させることとした。
一方、名古屋市も独自の検討を行い、昭和49年11月に名古屋市公害防止条例による規制を開始した。 
昭和60年4月に国は濃尾地域の実情に応じた総合的な対策を推進することを目的とした地盤沈下防止等対策要綱を関係閣僚会議で決定し、令和2年2月に要綱の継続を確認した。
平成15年10月には、愛知県では県公害防止条例を全面改正し、県民の生活環境の保全等に関する条例を施行した。
また、名古屋市では平成15年10月に市公害防止条例を改正して、市民の健康と安全を確保する環境の保全に関する条例を施行し、これまで条例対象外であった小規模な井戸(井戸設備)についても届出を義務化した。その後同条例を一部改正し、平成24年4月から井戸設備による地下水揚水量と地下水位の測定及び報告を義務化した。
(2)地形、地質の概要
濃尾平野は、木曽三川(木曽川、長良川、揖斐川)及び庄内川により形成された沖積平野であり、扇状地が上流部まで発達し、下流部には氾濫原が広がり、さらに三角州、干拓地、埋立地が広く分布して伊勢湾に接している。
地形構造は、第三紀末から引き続く造盆地運動、養老断層東側の木曽ブロックが養老断層の前面で沈降し、東端の猿投山塊側で上昇する傾動運動により西方に向かって厚くなる第四紀層が分布している。地質は一般に粘土、シルト~砂の互層からなり、顕著な帯水層としてG1~G3の礫層が知られている。

2.地下水採取の状況

濃尾平野の愛知県における地下水揚水量は、工業用水法及び条例による報告の集計によれば284千m3/日(うち名古屋市分は24千m3/日、令和4年度)となっている。
経年でみると、全体的に減少している。用途別では工業用が工業用水法の地域指定に基づく水源転換により大幅に減少したが、その他の用途は横這いに推移している。(表6)

3.地盤沈下等の状況

濃尾平野における地盤沈下の実態把握は、昭和34年の伊勢湾台風の高潮災害後、関係各機関によって組織的に調査が行われるようになったが、広域的に行われるようになったのは昭和46年に「東海三県地盤沈下調査会」が発足してからである。 それによると本地域の地盤沈下面積は約740km2で濃尾平野の県内全域に及んでいる。 
地盤沈下状況は昭和40年頃から急速に進行し、昭和48年には名古屋市港区の水準点で23cm/年の沈下が記録された。その後沈静化の傾向を示すようになったが、東海三県地盤沈下調査会の発表によると昭和36年から令和2年の累積沈下により名古屋市南部及び一宮市以南の地域で沈下の等量線が約20~140cmに達し、累積最大沈下量は弥富市神戸の水準点で150cmと大きな値となっている。また、最低地盤域は弥富市でT.P.-2.4m程度に達している所もあり、ゼロメートル地帯(約207km2:T.P.±0.0mの地域)での災害が懸念される。(表1、3)
昭和20年頃には地下水の自噴帯も広域に存在していたが、その後の地下水利用により地下水位は低下し、昭和40年代末には最低となった。近年は条例等の規制や社会的条件等により年間揚水量は減少し、地下水位は全般的に上昇している。(表2)

4.被害

建築物の被害は非常に広範囲にわたる沈下のためあまり目立たないが、水路の破損、道路の不等沈下が生じた。また、ゼロメートル地帯では、排水不良等による湛水被害の見られる地域もあった。また、尾張地域南部の第1帯水層(G1)では、塩水化が見られた。

5.対策

(1) 監視測定
国土地理院、国土交通省中部地方整備局、愛知県、名古屋市、名古屋港管理組合等を構成員とする東海三県地盤沈下調査会が中心となり、昭和46年から基準日(11月1日)を定めて年1回水準測量を実施している。
  国土交通省、愛知県、名古屋市等は地盤沈下観測所を設置し、うち愛知県では、現在23ヶ所69井の監視を行っている。 (表5)

(2) 地下水等の採取規制
1. 法律による地下水揚水規制
  昭和35年6月に名古屋市南区の一部と港区の一部を工業用水法に基づき地域指定した。 許可基準は吐出口断面積46cm2以下はストレーナー位置80mまたは90m以深、46cm2を超えるものは300mまたは180m以深である。 これらに伴う工業用水道布設の進捗により、昭和42年1月までに既設の基準外井戸は水源転換された。 
  また、昭和59年7月には一宮市をはじめとする尾張西部21市町村(当時)を工業用水法の地域に指定し、尾張地域で揚水量の多い工業用地下水は順次工業用水道へ水源転換された。
  許可基準は吐出口断面積19cm2以下、ストレーナーの位置10m以浅または2,000m以深である。

2. 条例による地下水揚水規制 
  愛知県は昭和49年4月、公害防止条例に「地下水の採取に関する規制」を追加して改正し、同年9月に名古屋市の一部等18市町村(当時)を揚水規制区域とした。しかし、その後の地盤沈下等の進行により昭和51年4月1日から揚水規制区域の拡大及び規制の強化がなされた。 
  規制の対象は吐出口の断面積が6cm2を超える揚水設備による地下水採取であり、家事用を除く全用途が対象となる。新規に採取する場合の許可基準は、
  1) ストレーナーの位置 10m以浅 
  2) 吐出口の断面積 19cm2以下 
  3) 揚水機の原動機の定格出力 2.2kW以下 
  4) 1日当たりの総揚水量 350m3以下 
である。
  なお、平成15年10月1日に「公害防止条例」を全面改正し、引き続き地下水採取に関する規制を、「県民の生活環境の保全等に関する条例」に規定した。
  また、名古屋市は昭和48年1月に「名古屋市公害防止条例」を定めたが、市内の地盤沈下の進行に対処するため、昭和49年11月には、名古屋市全域を地下水採取の規制地域とし、規制の内容は工業用、建築物用、洗車用、農業用、温泉のための揚水設備で吐出口断面積6cm2を超えるものを対象として地下水の採取を許可制とした。しかし、県条例の適用を受けたが、既設設備のうち建築物用と洗車用については、東海道線以西の第1号地域で昭和50年11月以降水源転換を図る市条例の適用を受け、また、昭和51年11月には市の中心部の第2号地域でほとんどの井戸の水源転換が終了している。 
  平成15年10月1日には県の条例改正と同時に、「市民の健康と安全を確保する環境の保全に関する条例」を施行した。 (表0-2) 

(3) 各種用水事業
1. 工業用水道
  名古屋市南部の工業用水法指定に併せ、地盤沈下対策事業として愛知用水工業用水道(第1期事業)及び名古屋市工業用水道(第2期事業)に着手し、それぞれ昭和36年及び昭和42年に竣工させた。
  このほか現在愛知県で産業基盤整備として愛知用水工業用水道(第4期)及び地盤沈下対策事業として尾張工業用水道(第1期)(昭和60年8月給水開始)を実施しており、また、名古屋市南部、弥富市(旧弥富町)、飛島村、東海市及び知多市に供給する名古屋臨海工業用水道(第1期)を計画していたが、需要の未発生により休止となっている。一方名古屋市では、市南部を中心に給水地域の拡大を含めた工業用水道の整備を計画している。

2. 上水道 
  従来、名古屋市では表流水のみの自己水源を持つ上水道を有しており、名古屋市及びその周辺部を除いた地域へは、木曽川を水源とする愛知県水道用水供給事業を実施している。

3. 農業用水 
  農林水産省が、濃尾用水農業水利事業、濃尾用水第二期農業水利事業を実施し、水資源機構が、愛知用水事業、愛知用水二期事業、木曽川用水事業、木曽川用水施設緊急改築事業及び愛知用水三好支線水路緊急対策事業を実施した。現在、農林水産省が新濃尾農地防災事業を実施している。

4. 防災対策事業 
  国土交通省、農林水産省及び愛知県が、ゼロメートル地帯の高潮対策事業、排水機場の整備、河道整備、堤防の嵩上げ・補強等を実施している。

6.詳細情報

その他の「詳細情報」を、下記のエクセルファイルからご覧になることができます。