報道発表資料

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2005年09月22日
  • 自然環境

ツシマヤマネコ生息状況調査の結果概要について

環境省では、ツシマヤマネコについての生息状況の調査を平成14~16年度にかけて実施してきましたが、その結果概要がまとまりましたのでお知らせします。
 調査の結果、ツシマヤマネコの生息数は80~110頭と推定され、また1980年代以降ツシマヤマネコの生息頭数が減少傾向にあることが示唆されました。
 また、1990年代まで確認できていた対馬の下島における分布については、確実にヤマネコが生息しているとの情報を得ることができませんでした。
 環境省としては、今回の調査結果をツシマヤマネコの保護対策の為の重要な基礎資料として活用していきたいと考えています。

1. ツシマヤマネコとは

 ツシマヤマネコは、我が国では長崎県対馬にのみ分布しており、レッドデータブックでは最も絶滅のおそれの高い絶滅危惧IA類に分類されている。
 平成6年に絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(「種の保存法」)の国内希少野生動植物種に指定され、平成7年に保護増殖事業計画を策定している。
 我が国において、野生下における絶滅が最も強く危惧されている哺乳類の一つであることから、野生個体の保護、生息調査や生息地の改善等を推進するとともに福岡市動物園において繁殖事業を進めており、今後、飼育下における繁殖個体の野生復帰(再導入)事業に取り組む予定である。

2. 調査結果の概要

 ツシマヤマネコに関する総合的な環境省の調査としては、昭和60年度から3か年(S60~62年度)にわたり実施したツシマヤマネコ生息環境等調査(以下第一次調査)及び平成6年度から3か年(H6~8年度)にわたり実施したツシマヤマネコ第二次生息特別調査(以下第二次調査)がある。
 平成14年度から16年度まで実施した今回の調査は、総合的な生息調査としては3回目であり、前回の調査から約8年ぶりとなる。
 調査結果の概要は以下のとおり(調査の手順は図1を参照)である。

(1)生息分布図の作成

 平成12年度以降における、確実な生息情報として、対馬の上島及び下島において、保護・捕獲、死体、自動撮影及びDNA分析による糞の情報(*)を収集することにより、生息分布図を作成した(図2)。
 その結果、上島については、ほぼ全域にツシマヤマネコが生息していることが明らかになった。
 一方、前回調査まで何らかの生息情報が得られていた下島については、ごく一部の地域でヤマネコの可能性のある糞が採取されたが、DNA破損等の要因で読み取れなかったため、最終的にツシマヤマネコの糞であるか否かの確認ができず、ヤマネコの生息の有無について、確実な生息情報を得ることができなかった。

(*)糞のDNA分析
 糞の内容物をDNA分析することにより、ツシマヤマネコの糞とツシマヤマネコ以外(ネコ、イヌ、ツシマテン及びチョウセンイタチ)の糞とを識別することが可能となった。そのため、糞についても確実なツシマヤマネコの情報として採用することが可能となった。(DNA分析は北海道大学に依頼して実施した。)

(2)密度分布の把握及び生息頭数の推定

 生息地と推定される場所を極力カバーするように設定した91ルート(のべ踏査距離数625Km)における糞情報を基に、地域別の糞密度を算出し、相対的な生息密度の把握を行い、地域区分別密度分布図を作成した。
 また、琉球大学及び長崎大学の調査により糞密度と生息密度の関係が分かっている志多留・田ノ浜地域と比較し、他地域の生息密度の推定を行った。
 さらに密度分布に面積を乗じることにより、野生下における生息頭数は80~110頭と推定した。
 さらに、生息情報等必要な情報を加え、地域区分別密度分布図をもととして、保護マップ基礎図を作成した(図3)。

(3)分布及び生息頭数の推移

 今回の調査は前回までの調査に比べ、糞のDNA分析の利用が可能になったこと、現地踏査による情報が大幅に増加したこと、また対馬野生生物保護センターが開所し(平成9年)、情報が多く寄せられるようになったこと等により、情報量が大幅に増加した。このため、今回の結果は前回までの調査と比較して、ツシマヤマネコの生息状況をより正確に反映していると考えられる。
 一方、調査手法が異なることから過去の調査結果と今回のものをそのまま単純に比較することはできない。そこで、分布や生息頭数について過去の生息調査結果について補正を行い、補正後のデータを比較した。
 その結果、1980年代から2000年代前半の分布の変遷については図4のようになり、下島における生息分布の消失が危惧される結果となった。また1980年代の生息頭数は約100~140頭、1990年代の生息頭数は約90~130頭と見直され、今回の推定生息頭数80~110頭と比較すると、1980年代から1990年代にかけて7~9%の減少、また1990年代から2000年代前半にかけては9~10%の減少となり、ツシマヤマネコの生息頭数の減少傾向が続いていることが示唆された。

3. 今後の課題

 ツシマヤマネコの種の存続については、生息適地の減少や交通事故等の要因により危機的な状況にあると認識されているが、今回の調査結果からも依然として生息頭数の減少傾向が続いていることが示唆され、保護対策の必要性が裏付けられた。今後、ツシマヤマネコが比較的安定的に暮らしている地域についてはその生息環境の維持が、低密度の地域については生息環境の改善等を行う必要があると考えられる。保護対策を推進していくためには、今後とも様々な関係者の理解と協力を得ることが必要であり、その際、今回の調査結果を活用していくこととしている。また、1990年代に実施された前回調査では比較的広い範囲で生息が確認されていたにも拘わらず、今回調査ではツシマヤマネコの生息を確認することができなかった下島については、早急にその生息状況を確認する為、痕跡調査等を進めていく必要がある。

添付資料

連絡先
環境省自然環境局野生生物課
課長 名執 芳博(6460)
 補佐 牛場 雅己(6475)
 専門官 曽宮 和夫(6464)

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