報道発表資料

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2002年01月28日
  • 保健対策

化学物質の環境リスク初期評価(平成9~12年度、パイロット事業)の結果について

環境省は、化学物質の環境リスク評価の本格的な実施に向け、その方法論の確立を目的とするパイロット事業を、平成9年度から4か年かけて実施し、中央環境審議会の環境保健部会化学物質評価専門委員会の審議を経て結果をとりまとめた。
 これにより、今後体系的に行うべき環境リスク初期評価の基本的な方法論を確立するとともに、39物質を対象とした初期評価の実施により詳細な評価を行う候補物質等の判定を行った。
1. 趣旨・目的
   世界で約10万種、我が国で約5万種流通していると言われる化学物質の中には、人の健康及び生態系に対する有害性を持つものが多数存在しており、これらは環境汚染を通じて人の健康や生態系に好ましくない影響を与えるおそれがある。
 こうした影響を未然に防止するためには、潜在的に人の健康や生態系に有害な影響を及ぼす可能性のある化学物質が、大気、水質、土壌等の環境媒体を経由して環境の保全上の支障を生じさせるおそれ(環境リスク)について定量的な評価を行い、その結果に基づき適切な環境リスクの低減対策を進めていく必要がある。
 環境省では、このような化学物質の環境リスク評価の本格的な実施に向け、その方法論の確立を目的とする環境リスク評価のパイロット事業を、平成9年度から12年度にかけて行ってきた。
 
 
2. 本事業における環境リスク評価の内容
  (1) 環境リスク評価とは
     化学物質の環境リスク評価とは、評価対象とする化学物質について、[1]人の健康及び生態系に対する有害性を特定し、用量(濃度)-反応(影響)関係を整理する「有害性評価」と[2]人及び生態系に対する化学物質の環境経由の暴露量を見積もる「暴露評価」を行い、[3]両者の結果を比較することによってリスクの程度を判定するものである。
 本パイロット事業で行った環境リスク評価も、基本的にこのような考え方に沿うものである。
 
  (2) 初期評価と詳細評価
     環境リスク評価には、多数の化学物質の中から相対的に環境リスクが高そうな物質をスクリーニングするための「初期評価」と、次の段階で化学物質の有害性及び暴露に関する知見を充実させて評価を行い、環境リスクの低減方策等を検討するための「詳細評価」がある。
 本パイロット事業で行ったのはこの「初期評価」に当たるものであり、具体的には39物質を対象として、国内外の既存文献より得られた知見に基づき環境リスクの評価を行った。
 
 
3. 本事業における環境リスク初期評価の実施の枠組
  (1) 専門家による指導とガイドラインの作成
     次の3分野について専門家よりなる委員会を設置し、統一的な手順を示すガイドラインを作成して、各物質についての環境リスク初期評価を行った。
   
暴露評価
  委員長 中杉修身(国立環境研究所化学物質環境リスク研究センター長)
健康リスク評価(人の健康に対する有害性及びリスクの評価)
  委員長 内山巌雄(京都大学大学院工学研究科教授)
生態リスク評価(生態系に対する有害性及びリスクの評価)
  委員長 安野正之(滋賀県立大学環境科学部教授)
 
  (2) 評価対象物質の選定
     環境リスク初期評価の手法確立も目的としたパイロット事業であることに鑑み、環境への排出量が多いと考えられるPRTRパイロット事業対象物質等の中から、有害性に関する知見が既存の評価文書等を通じて比較的豊富に見出された物質について、平成9年度から12年度までの間に、計39物質を選定した。
 
  (3) 評価対象とする影響範囲等
     基本的に、現時点で評価手法の確立した有害性に関する知見に基づき評価を行うこととした。
 すなわち、健康リスク初期評価においては、発がん性を除く一般毒性及び生殖・発生毒性について定量的な評価を行い、定量化のための検討課題が多い発がん性については、評価文書に基づく定性的な判定にとどめた。生態リスク初期評価においては、水環境中の化学物質の水生生物に対する影響に限定して評価を行った。なお、現在有害性評価のための試験法開発等が進められている内分泌かく乱作用については、健康リスク、生態リスクとも評価の対象としていない。
 一方、暴露評価については、環境濃度の実測値をもとに、基本的には特定の排出源の影響を受けていない一般環境等からの暴露について評価を行った。
 
 
4. 本事業の成果及び今後の対応
  (1) 39物質についての初期評価の判定
    [1] 本事業の直接的な成果として、対象39物質の環境リスク初期評価の実施により、詳細な評価を行う候補物質、関連情報の収集が必要な物質等の判定・抽出を行った。

  

  健康リスク 生態リスク
  1. 相対的にリスクが高い可能性があり「詳細な評価を行う候補」
アセトアルデヒド、p-ジクロロベンゼン、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、ホルムアルデヒド ディルドリン、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、ホルムアルデヒド
  1. リスクはAより低いと考えられるが「関連情報の収集が必要」
キシレン、o-ジクロロベンゼン、臭化メチル等8物質 アニリン、エンドリン、キシレン等6物質
  1. 相対的にリスクは低いと考えられ「更なる作業を必要としない」
18物質 15物質
  1. 得られた情報では「リスクの判定ができない」
9物質 15物質
 (注) 本表は物質単位で整理したもの。評価の詳細については別表1、2参照。
 
  [2] この結果を踏まえ、「詳細な評価を行う候補」とされた物質については、環境省として次の対応を図る。また、「関連情報の収集が必要」、「リスクの判定ができない」とされた物質については、関連情報を収集の上、その情報に応じ必要な初期評価を行う。
    i) フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)の健康リスク
       食物からの経口暴露による健康リスクが相対的に高い可能性がある。現在、塩化ビニル製手袋の食品への使用自粛等の対策がとられつつあるが、環境由来の暴露について不明な点が多いこと等から更に調査を行い、詳細なリスク評価を行う。
    ii) アセトアルデヒド、p-ジクロロベンゼン及びホルムアルデヒドの健康リスク
       これらの物質は室内空気の吸入暴露による健康リスクが相対的に高い可能性があるが、既に同じ視点から室内濃度指針値の設定(厚生労働省)を含め、リスクの低減対策が進められつつあるので、当面、これらの対策の効果等について情報収集を行う。
    iii) フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)及びホルムアルデヒドの生態リスク
       これらの物質はPRTR制度の対象物質として環境排出量の把握等が行われるほか、水生生物保全に係る水質目標の検討等が行われているが、これらによる知見の集積を図りつつ、詳細なリスク評価を行う。
    iv) ディルドリンの生態リスク
       本物質は既に化学物質審査規制法により製造・使用が禁止されている。今回の生態リスクの判定は環境中の残留によるものと考えられるので、必要な環境モニタリングを行い、状況を把握していく。
 
    (2) 環境リスク初期評価の方法論の確立
  [1] 環境リスク初期評価のパイロット事業として、暴露評価、健康リスク評価及び生態リスク評価の作業手順を示した各ガイドラインをとりまとめ、環境リスク初期評価の基本的な方法論を確立することができた。
  [2] 今後、これを踏まえ、内外の知見から人の健康又は生態系に対する有害性が高いと考えられる物質、PRTRデータ等から環境排出量又は暴露量が多いと考えられる物質を選定しつつ、環境リスク初期評価を計画的に実施していく。
 併せて、今回のガイドラインに関しても、次の事項についての調査検討を進める。
    暴露評価については、PRTRデータ等を用いた暴露モデルの開発と活用
    健康リスク評価については、発がん性に関する定量的な評価の方法
    生態リスク評価については、水生生物以外の生物に対する影響評価の方法

添付資料

連絡先
環境省総合環境政策局環境保健部環境安全課環境リスク評価室
室   長 鈴木 幸雄(内線6340)
 室長補佐 山崎 邦彦(内線6341)
 室長補佐 武井 貞治(内線6343)
 

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