報道発表資料

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1998年06月26日

「瀬戸内海海砂利採取環境影響評価調査」の中間とりまとめについて

環境庁は、平成6年度から12年度までの7ヶ年計画で瀬戸内海における海砂 利採取が環境に及ぼす影響について体系的な調査を実施しているが、今般、調査 開始から4年間の調査内容について中間とりまとめを行った。
 これまでの調査の結果、水深が著しく増大したために砂堆や砂州が完全に消失 し、さらに海底が礫化してしまった海砂利採取区域の存在が明らかになった。ま た、海砂利採取に伴い排出される濁水の拡散状況について航空写真撮影等により 確認した。
 一方、生態系への影響についても調査を実施しているが、現時点では海砂利採 取との因果関係は明らかになっていないため、今後3年間は、特に海砂利採取が 生態系に与える影響について、重点的に調査を継続する予定である。

1.調査の背景

 良質な海砂利を豊富に産し、採取にも好適な条件にある瀬戸内海においては、高度成長期以降の山・川砂利の供給不足に対応して備讃瀬戸、三原瀬戸、伊予灘を中心に全国の海 砂利生産の約6割にも及ぶ大量の海砂利が毎年採取され続けてきており、水質、底質、海底地形、生態系等への影響が懸念されているが、これまで環境保全の観点からの体系的な 調査はなされてこなかった。
 中国・四国の瀬戸内海沿岸地方では、海岸浸食や漁獲量減少などの事象と海砂利採取との因果関係について住民の高い関心があり、さらに認可採取量を上回る違法採取の実態の 判明をうけ、瀬戸内海における海砂利採取の是非が論議されている。
 一方、瀬戸内海で採取されている海砂利は、主としてコンクリートの細骨材として使用されており、砂利の安定供給という社会的要請がある。
 (瀬戸内海における海砂利採取の状況と環境庁の関わりについては別紙1参照)

2.中間とりまとめの概要

(1)構成
 環境庁が実施している「瀬戸内海海砂利採取環境影響評価調査」の中間とりまとめとして、「瀬戸内海における海砂利採取とその環境への影響」(別紙2に中間とりまとめの目 次)を作成した。
 この中間とりまとめでは、前半に「海砂利とは何か」といった基礎的知識、つまり砂利の定義、用途、品質規格等について(1章)、次に砂利採取法の体系と各県での海砂利採 取に対する個別の規制制度を(3章)、さらに、採取のための設備構造・方法、採取量、採取業者数、採取船数等の解説により海砂利採取の概要を記載している(4章)。
 後半(5章)には、環境庁が実施している海砂利採取環境影響評価調査の概要(別紙3)と主な項目別の調査方法とその結果を中間的なとりまとめとして記載している。また、 4ヶ年の調査結果の全体統括表(73~78頁)及び海砂利採取に伴い概念的に予想される環境影響事象をフロー図(79~80頁)として掲載している。さらに、各種文献調査 の結果を6章に記載している。
 以下、環境庁による現地調査の概要を主な項目別に記す。

(2)濁水の拡散調査
 平成6年度の夏季の大潮時及び秋季の小潮時のそれぞれに、備讃瀬戸東部海域及び三原瀬戸において砂利採取船からの余水(濁水)の周辺海域への拡散状況を調査した。
 操業中の砂利採取作業船を航空機から撮影したカラー写真画像から変換したデジタル画像を、同写真撮影時に同位置で採水分析したSS(浮遊物質)濃度との相関から画像解析 し、表層のSS濃度分布図を作成した(85頁、図5-5参照)。このSS濃度分布により濁水の海面水平方向への拡散範囲を確認したが、砂利採取船から潮流方向に続いている と考えられる濁りの拡散範囲は、潮流の強弱、底質の含泥率、採取船の装備とその運転状況、周辺海域の濁度等によりかなりの差異が生じていることがわかった。
 備讃瀬戸東部海域での調査結果では、夏季の大潮時(西流最強時)のSS濃度25mg/l以上の範囲は、最大幅約200m×長さ約1700mの帯(87頁、写真 5-1)から、その1/10程度の比較的狭い範囲内でおさまっている最大幅約15m×長さ約130m及び約170mの2本の帯(89頁、写真5-2)まであり、範囲の差が著しい。 また、秋季の小潮時のSS濃度25mg/l以上の範囲は、最大幅約20m×長さ約50mの帯から最大幅約50m×長さ約75mの帯まであったが、大潮時と較べてかなり狭い 範囲となっていた。(今回、濁りの範囲をSS濃度25mg/lで区切っているが、これは海域における濁度又はSS濃度の環境基準が設定されていないために、暫定的な濁りの境界値として水質汚濁防止法に基づく公共用水域へのS Sの排水上限基準値(200mg/l)の1/10値を超える値を設定している。)
 また、同時期に実施した濁水の鉛直方向への濁りの拡散調査の結果や大潮時と小潮時の時間的割合等を考慮すると余水口から排出された濁水は、比較的狭い範囲で自然界のレベ ルまで低下していると判断できた。
 なお、今回の航空写真撮影では、大潮時にのみ潮流による底質等の巻き上げが原因と考えられる濁りが、砂利採取船よりかなり離れた海域で確認された。また、ランドサットの 衛星写真(91頁、写真5-3)でも大潮の海峡部では、海砂利採取区域以外の広い範囲で濁りが生じていることがうかがえる。ただし、この濁りの原因物質は不明である。

(3)余水の水質調査
 平成6年度に、海砂利採取時にポンプ採取船から濁水として排出される余水中のSS濃度及び底質の含泥率を測定した(81~83頁参照)。その結果、底質の含泥率によって 余水のSS濃度も大きく変化することがわかった。なお、砂利採取海域の海底は一般に底質の含泥率が少ないことから、ポンプ砂利採取船からのSS発生原単位は、瀬戸内海での 浚渫埋立工事におけるSS発生原単位(133頁、図6-2)と比較すると数分の一から数十分の一までの小さな値であった。
 また、平成6年度に砂利採取船の余水及びその周辺の表層海水についてPH、COD、SS、溶存酸素及び栄養塩類(窒素・燐)等の16項目について水質測定を行った 。その結果、余水排出による水質の変化は、余水口周辺の狭い範囲の海水以外にはほとんど認められなかった。

(4)海底地形
 平成7年度に、備讃瀬戸東部海域の堅場(たてば)島南東海域砂利採取区域及び三原瀬戸の忠海(ただのうみ)砂利採取区域において、音響測深機及びサイドスキャンソナーに より海底面探査を行った。この結果を海図や沿岸海域地形図等の既存資料と比較検討し海砂利採取による海底地形の変化を把握した。
 まず、備讃瀬戸東部海域の堅場島南東海域砂利採取区域では、海砂利採取に伴って当該砂利採取区域の大半で砂利採取開始以前の水深から20m程度水深が増している(95頁 、図5-8参照)。
 次に、三原瀬戸の海砂利採取海域では、高根島から大久野島に至る海域に存在した「能地堆」、「布刈ノ洲」と呼ばれる水深3~20mの砂堆は消滅し、忠海採取区域では、大 半が40mを超える水深となっており、30m以浅は区域の南端側に一部存在するだけになっていた(97頁、図5-9参照)。

(5)底質調査
 平成6年度に、備讃瀬戸東部採取海域において6地点(100頁、図5-11参照)、三原瀬戸忠海採取区域において5地点(101頁、図5-12参照)の計11地点におい て底質の粒度組成を測定した。その結果三原瀬戸忠海採取区域において明らかな礫化が確認できた。この原因として、海砂利採取時には礫分が不要物として排出されるが、これら は粒径が大きいことから潮流によっても流されず、採取区域に堆積したままとなることが考えられ、これにより礫分の増加傾向が生じていると考えられる。(6)イカナゴ稚魚調査(調査中)
 イカナゴ* が夏眠・産卵場として好んで選択する海砂利の粒度範囲とコンクリート用細骨材の標準粒度の範囲は重なっている(136頁、図6-23参照)。藤原(京都大学 大学院農学研究科助教授)の研究によると、備讃瀬戸から大阪湾におけるイカナゴの卵稚仔調査の結果から、備讃瀬戸では発生量が減少傾向にあるのに対して、播磨灘では急激な 増加傾向がみられているが、両海域には水質面ではあまり差がないことから、両海域でみられる大きな違いとして海砂利採取をあげ、その影響が現れているのではないかと推論し ている(111頁参照)。
 この推論を確認することを目的に、平成9年度から、イカナゴの主要な夏眠・産卵場である備讃瀬戸においてイカナゴ稚魚調査を実施し、同海域における同一調査の過去のデー タを比較解析することにより、海砂利採取による影響を解析しようと試みている。この調査定点(21地点)のうち、数地点は海砂利採取区域の近傍であり(112~3頁参照) 、各調査定点ごとのイカナゴ稚魚量の経年変化を本格的な海砂利採取開始時期に遡って解析するとともに、播磨灘や大阪湾を含む広域でのイカナゴ稚魚発生量と備讃瀬戸でのそれ を比較することにより、自然の変動の範囲なのか海砂利採取等の人為的な影響による変動なのかを検討していく予定である(114頁、図5-20参照)。

*イカナゴ:長さ10cm位の細長い魚で、瀬戸内海の多獲性魚類として代表的な種。瀬戸内海ではコウナゴとも呼ばれる。体長5cm以下の稚魚の佃煮は、「くぎ煮」として有名である。

(7)底生生物調査(調査中)
 環境庁が平成3~6年にかけて瀬戸内海全域で実施した瀬戸内海環境管理基本調査における422地点(103頁、図5-13参照)の底生生物の種類数、個体数のデータを、 各調査地点ごとの砂利採取の履歴(つまり、砂利採取がされた海底なのか否か、また、砂利採取期間等)によって解析した(109頁参照)。しかし、砂利採取海域での調査デー タ不足のため、砂利採取履歴の違いによる底生生物の種類数等の差を有意化できなかった。
 なお、海砂利採取行為が、底生生物をはじめ水生生物の生息環境に重大な影響を与えることが予想されるが、これを定量的に評価することはきわめて困難である。その一つの原 因として、海砂利採取区域(周辺部を含む)における同一調査点での過去の生物調査データがきわめて少ないことがあげられる。
 そこで、10年度以降は、特定の海底における海砂利採取の直前、直後及び一定期間経過後の底生生物の生息状況(個体数、種類数、特定の種の生息確認等)の比較調査を行う 予定である。

3.今後の調査方針

 平成10年度以降の調査は、海砂利採取に伴う生態系、特に生物生息への影響を中心に調査を進める予定である。
 具体的には、上記(6)のイカナゴ稚魚の生息調査を継続して実施するとともに、新たに上記(7)の海砂利採取前後の底生生物の比較調査を行う。
 さらに、海図等の新旧の既存海底地形データを比較検討することにより、海砂利採取海域及びその周辺海域の海底地形(水深)変化を確認し、生物生息に重要な役割を果たしている浅海域(砂州・砂堆等)の消失について定量化を試み、生物生息への影響評価を検討する予定である。

 

別紙1    瀬戸内海における海砂利採取の状況と環境庁の関わり

(1)採取の状況

  • 備讃瀬戸、三原瀬戸、伊予灘を中心に瀬戸内海の海底より大量の海砂利を毎年採取。

  • 瀬戸内海沿岸11府県のうち、現在採取実績のある下記6県及び広島県を含む平成8年度における海砂利採取量は23,913千m3。この量は、全国の海砂利採取量の65%に相当。 (平成8年度の全国の海砂利採取量は、全国の全砂利採取量の約22%となっている。また、平成8年度の瀬戸内海沿岸11府県の海砂利採取量は、瀬戸内海沿岸 11府県の全砂利採取量の約87%を占めている。)

  • 現在、瀬戸内海沿岸において海砂利採取をしている県は下記の6県。
    {1}福岡県(14.3%、玄界灘を含む)
    {2}香川県(13.9%)
    {3}愛媛県(12.2%)
    {4}岡山県(10.4%)
    {5}山口県(6.0%、日本海を含む)
    {6}大分県(1.8%)
    *()内の数値は平成8年度の全国の総海砂利採取量に対する各県の比率

  • 広島県は平成10年2月から海砂利採取を全面禁止。
    (平成8年度の全国の総海砂利採取量に対する広島県の比率6.7%)

  • 大阪府と和歌山県は海砂利採取実績なし。兵庫県と徳島県は、20年以上前に採取を中止。

(2)環境庁との関わり
 瀬戸内海環境保全特別措置法に基づく瀬戸内海環境保全基本計画の第三「目標達成のための基本的な施策」の3「藻場干潟の保全等」に『また、海底の砂利採取に当たっては 、動植物の生育環境等の環境の保全に十分留意するものとする。』と記載されている。
 さらに、同法に基づき策定される「瀬戸内海の環境保全に関する府県計画」においても、徳島県を除く瀬戸内海に沿岸域を有する10府県で同様の記載がある。

例:兵庫県計画での記載例

『海底の砂利採取を伴う各種開発行為の際及び砂利採取法に基づく認可等の際には、動植物等の生育環境等の環境の保全に十分留意するものとする。』

 なお、瀬戸内海環境保全特別措置法の中には、海砂利採取を規制するような規定は設けられていない。
 また、瀬戸内海国立公園区域内で行われる海砂利採取は、すべて自然公園法上の普通地域に該当する海域であり、普通地域における海砂利採取については自然公園法上の届出を要しない行為となっている。

別紙2 《中間とりまとめ「瀬戸内海における海砂利採取とその環境への影響」の目次》

 1章 砂利の種類と主な用途
  1.1 砂利とは
  1.2 海砂利の主な用途
  1.3 海砂利の品質規格
  1.4 海砂利利用時の問題点
 2章 瀬戸内海の概要
  2.1 瀬戸内海の概況
  2.2 水質・底質の現況
  2.3 漁業の現況
  2.4 瀬戸内海の起源
  2.5 瀬戸内海の海底地質と海砂利の起源
 3章 砂利採取に係る法規制の概要
  3.1 砂利採取法の体系
  3.2 瀬戸内海関係各県での海砂利採取に係る規制の状況
 4章 海砂利採取の概要
  4.1 採取方法の概要
  4.2 海砂利の採取量
  4.3 海砂利採取業者と使用船舶数
  4.4 採取違反と監視活動
  4.5 各県の対応状況
  4.6 瀬戸内海環境保全基本計画及び瀬戸内海の環境の保全に関する      
   府県計画における関係記載事項
  4.7 砂利の採取量と消費量
  4.8 海外の状況(砂利の輸入)
 5章 環境庁による海砂利採取に伴う環境影響調査
  5.1 環境庁の委託調査の概要(中間調査結果とりまとめ)
  5.2 水質調査
  5.3 海底地形調査
  5.4 底質の粒度組成等の変化
  5.5 既存調査データ(瀬戸内海環境管理基本調査)による粒度組成等の
      底質及び底生生物についての比較検討
  5.6 イカナゴ仔魚調査
 6章 文献等にみられた海砂利採取に伴う環境影響調査
  6.1 賦存量調査の概要
  6.2 環境モニタリング調査の概要
  6.3 海浜・海底地形への影響
  6.4 流況影響
  6.5 水質・底質への影響
  6.6 生物への影響
  6.7 漁業への影響
別紙3  環境庁が実施している海砂利採取環境影響調査の概要

(1)調査名
     瀬戸内海海砂利採取環境影響評価調査

(2)調査計画期間
     平成6年度から平成12年度までの7ヶ年計画

(3)調査目的      海砂利採取が水質・底質、地形、生態系をはじめとする瀬戸内海の環境に及ぼ     してきた影響を明らかにすること。

(4)調査内容

   【平成6年度及び平成7年度】
     海砂利採取に伴う
     {1}水質変化(特に、濁水の発生・拡散)、
     {2}海底地形(水深)変化、
     {3}底質(粒度組成等)の変化、
     等の環境事象について現場調査を実施。
     さらに7年度については生物影響についての文献調査を実施。

   【平成8年度】
     海砂利採取に係る許認可制度の運用状況及び環境影響調査等の実施状況等につ
    いて関係府県への聞き取り調査及び各種文献調査を実施。

   【平成9年度】
     生物生息への影響調査のために、次の予備的調査を実施。
     {1}粒度組成等の底質に関する既存データの比較検討
     {2}底生生物に関する既存データの比較検討
     {3}イカナゴ稚魚の生息調査

   【平成10年度】
     海砂利採取に伴う生物生息への影響を中心に調査を進める予定。
     {1}特定の海底における砂利採取前後の底生生物の生息状況比較調査
     {2}海図等の既存データに基づく海利採取海域及びその周辺海域の海底地形
           (水深)変化の確認
     {3}イカナゴ稚魚の生息調査(2年目)

  【平成11年度及び平成12年度】
     海砂利採取に伴う生物生息への影響を中心に調査を進める予定。ただし、調査
    計画詳細は10年度の調査結果に基づき策定する予定。




連絡先
環境庁水質保全局水質規制課瀬戸内海環境保全室
室   長 :名執芳博(6660) 
 室長補佐 :英保次郎(6661) 
 室長補佐 :宍戸 博 (6663)