報道発表資料

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2013年10月17日
  • 自然環境

モニタリングサイト1000沿岸域調査(磯・干潟・アマモ場・藻場) 2008-2012年度とりまとめ報告書の公表について(お知らせ)

 環境省生物多様性センターでは、モニタリングサイト1000事業の一つとして全国の沿岸域(磯・干潟・アマモ場・藻場)で生態系モニタリングを実施しており、この度、2008-2012年度の5年間の結果をとりまとめ報告書を公表いたしました。今回の5年分のデータからは、東日本大震災の津波などの突発的な影響を捉えることができました。また、今回のとりまとめでは、今後、気候変動などの長期的な変動による生物の顕著な変化を把握するための、基盤となる情報が整備できました。

1.とりまとめの概要

 沿岸域調査(磯・干潟・アマモ場・藻場)は、平成20(2008)年度から調査を開始し、昨年度(2012年度)に調査開始5年目の節目を迎えたことから、これまでに得られたデータを活用し、各生態系やサイトにおける生物多様性の状況などを把握するためのとりまとめを実施しました。
 とりまとめ報告書では、今後長期モニタリングを続けていくための各調査サイトの特徴の把握のため、生態系ごとに各調査サイトの生物相の短期的な変化やサイト間の類似性などについてまとめました。また、トピックスとして、東北地方太平洋沖地震による沿岸生態系へ影響などについてもまとめました。

2.生態系ごとの結果

磯調査

調査内容
全国6サイトにおいて、磯に生息する生物の現存量などを調べています。
とりまとめ結果
とりまとめの結果、本調査での出現種数は厚岸浜中と石垣屋良部サイトで少なく、安房小湊、大阪湾、南紀白浜サイトで多いことが確認されました(表2-1-2)。また、サイトごとの種の多様度(種数が多く、種ごとの個体数が均等なほど、多様性が高いと評価される)について調べた結果、大阪湾では、特に種の多様性が高いことがわかりました(図2-1-4)。
表2-1-2.各サイトの全30方形枠における出現種の総数

図2-1-4.各サイトのSimpson多様度指数.

干潟調査

調査内容
全国8サイトにおいて、干潟の表面と砂や泥の中に生息する動物(底生動物)の種類や数などを調べています。
とりまとめ結果
とりまとめの結果、サイト内で多く見られる底生動物の種類や密度がサイト間で大きく異なっていることがわかりました(図2-2-3)。なお、各サイトで多く見られる底生動物の写真については図2-2-4に掲載しています。
図2-2-3.毎年の定量データ(2 mmの篩)から算出した,調査期間(2008~2011年)における底生動物優占種の平均生息密度.各サイトの個体数上位90%の種を色分けして示し,下位10%の種はその他(灰色)とした.
図2-2-4.各サイトにおける最優占種.

アマモ場調査

調査内容
全国6サイトにおいて、海草の種類や被度などを調べています。
とりまとめ結果
とりまとめの結果、本調査では合計15種の海草類が確認されました(表2-3-1)。出現種数は、石垣伊土名サイトが9種で最多であり、次いで厚岸サイト(5種)、大槌サイト(4種)、富津サイト・安芸灘生野島サイト(3種)、指宿サイト(1種)の順でした(表2-3-1、図2-3-2)。
表2-3-1.各サイトにおける海草類の出現リスト
図2-3-2.サイトごとの海草類の出現種数.青色は各サイトの調査地点ごとに出現した平均種数,青色と赤色の合計がサイト全体での出現種数を示す.

藻場調査

調査内容
全国6サイトにおいて、海藻の種類や被度などを調べています。
とりまとめ結果
とりまとめの結果、本調査で確認された種数は、淡路由良サイトで66種と最も多く、室蘭、志津川サイトでは22種と最も少なくなりました(表2-4-1)。種数は、淡路由良サイトをピークとして最北の室蘭サイトから南にいくほど増加する傾向を示していました。
表2-4-1.各サイトで観察された目別の海藻の種数

3.震災による沿岸生態系への影響

 モニタリングサイト1000沿岸域調査(磯・干潟・アマモ場・藻場)では、震災の影響を受けた東北地方に、岩手県の大槌(アマモ場)、宮城県の志津川(藻場)、福島県の松川浦(干潟)の3箇所に調査サイトを設けています。
 これら3つの調査サイトについて、震災前の調査データと、震災後である2011年の調査データとの比較を行い、震災による影響について調べました。

【アマモ場調査】大槌サイト

 震災後の2011年10月の調査においては、船越湾及び大槌湾の両湾の奥部に広がっていたアマモ場のほとんどが津波襲来により裸地となっていましたが(2010年まで確認されていたアマモが2011年にはなくなった)、一部の地点においては、アマモやタチアマモの芽生え(実生)が観察されました(図3、4)。

図3.大槌サイト船越湾における津波襲来前(左: 2010年7月撮影)と津波襲来後(右: 2011年10月撮影)のアマモ場の景観の変化.
図4.大槌サイトの船越湾と大槌湾における2008~2011年の海草の被度の経年変動.バーは20方形枠の標準偏差を示す.実生は2011年の調査で観察されたことをあらわし、0は海草類が全く見られなかったことを示す.

【藻場調査】志津川サイト

 震災後の2011年6月の調査においては、津波の直接的な力によりダメージを受けたと思われるアラメが観察されましたが、一部の調査地点を除き、海藻の景観、被度には地震前後の大きな変化は認められませんでした(図5、6)。

図5.志津川サイトにおける津波襲来前(左: 2010年5月撮影)と津波襲来後(右: 2011年6月撮影)の海藻藻場の景観の変化.
図6.志津川サイトのライン調査(上),永久方形枠調査(下)による2008~2011年の大型海藻の種構成と被度の経年変動.

【干潟調査】松川浦サイト

 震災直後(2011年6月)の調査においては、津波襲来前と比較して、干潟面積の大規模な減少、後背湿地の植生の消失、がれきの堆積などが確認され(図1)、いずれのエリアにおいても、底生動物の種数と個体数が大きく減少し、底生動物が全く観察されない調査地点もありました(図2)。

図1.松川浦サイトにおける津波襲来前(左: 2010年5月撮影)と津波襲来後(右: 2011年6月撮影)の干潟の景観の変化.
図2.松川浦サイトにおける2008~2011年の底生動物の種数(左)と個体数(右)の経年変動.0は底生動物が全く見られなかったことを示す.
※1
モニタリングサイト1000沿岸域調査(磯・干潟・アマモ場・藻場)について

 モニタリングサイト1000(重要生態系監視地域調査)はわが国を代表する様々な生態系の変化状況を把握し、生物多様性保全施策への活用に資することを目的とした調査で、全国約1,000か所のモニタリングサイトを設置し、平成15年から長期継続的に実施しています。
 沿岸域調査(磯・干潟・アマモ場・藻場)は、磯6サイト、干潟8サイト、アマモ場6サイト、藻場6サイトの計26サイトを設定し(添付資料1)、平成20年度から底生生物、海草類、海藻類などの調査を実施しています。
 なお、別業務で太平洋沿岸地域における震災前後の影響把握のための調査を実施していますが、震災前から毎年継続してデータを取得しているのは、モニタリングサイト1000だけです。

※2
文中の図表の番号は、とりまとめ報告書内の図表番号と同一です。

4.参考

モニタリングサイト1000ウェブサイト
http://www.biodic.go.jp/moni1000/index.html
沿岸域調査(磯・干潟・アマモ場・藻場)の速報ページ
http://www.biodic.go.jp/moni1000/findings/newsflash/index.html
平成24(2012)年度モニタリングサイト1000 沿岸域(磯・干潟・アマモ場・藻場)調査報告書 http://www.biodic.go.jp/moni1000/findings/reports/pdf/h24_coasts_and_shallow_seas.pdf
環境省グリーン復興プロジェクト 東北地方太平洋沿岸地域自然環境情報.
http://www.biodic.go.jp/Tohoku_Portal/

【添付資料】

1 モニタリングサイト1000沿岸域調査(磯・干潟・アマモ場・藻場) 調査サイト位置図
2 モニタリングサイト1000沿岸域調査(磯・干潟・アマモ場・藻場)2008-2012年度とりまとめ報告書

添付資料

連絡先
環境省自然環境局生物多様性センター
直通:0555-72-6033
センター長    :中山 隆治
総括企画官   :鑪 雅哉
生態系監視科長:佐藤 直人

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