報道発表資料

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2015年03月03日
  • 自然環境

モニタリングサイト1000 ガンカモ類調査第2期とりまとめ報告書の公表について(お知らせ)

環境省生物多様性センターでは、モニタリングサイト1000事業の一環として実施しているガンカモ類調査について、平成20年度から24年度までの調査成果のとりまとめを行いました。
調査成果のとりまとめから、各調査サイトがラムサール条約の下での国際的に重要な湿地に関する基準5(定期的に2万羽以上の水鳥を支える湿地)及び基準6(水鳥の一つの種または亜種の個体群の個体数の1%を定期的に支える湿地)に合致するかどうかの評価を行ったところ、既にラムサール条約に登録されているサイトを除いて新たに31箇所のサイトが基準を満たすことがわかりました。(ただし、モニタリングサイト1000調査で行ったガンカモ類のみの評価であり、他の動植物は勘案されていないこと、モニタリングサイト80サイトのみにおいて評価したものであり全国を網羅した評価ではないこと、ラムサール条約に登録するにはその他の要件を満たす必要があることに留意が必要です。)
また、絶滅危惧種であるシジュウカラガン及びハクガン(ともに環境省レッドリスト絶滅危惧ⅠA類)の個体数は、2004/05年の調査開始以来増加傾向にあり、日本に飛来する個体数が増加していると考えられます。
生態系の変化を明確に捉えるために長期間の継続的なモニタリングが必要であり、今後も引き続き行っていきます。

1.モニタリングサイト1000ガンカモ類調査

モニタリングサイト1000(重要生態系監視地域調査)はわが国を代表する様々な生態系の変化状況を把握し、生物多様性保全施策への活用に資することを目的とした調査で、全国約1,000箇所のモニタリングサイトを設置し、平成15年から長期継続的に実施しています。

ガンカモ類調査は、湖沼生態系の指標として2004年秋から2005年春までのシーズンから調査を実施しています。代表的な全国80箇所に設定された湖沼を中心とした調査サイト(添付資料1)において調査員を配置し、ガンカモ類が日本へ渡ってくる9月から翌年5月にかけて個体数調査を行っています。双眼鏡等を使用した目視により、ガン、ハクチョウ、カモ、カイツブリ、バンの仲間を対象に個体数を種ごとにカウントしています。

2.とりまとめの方法

モニタリングサイト1000は、5年に1度を節目として、生態系毎にそれまでの調査成果をとりまとめることとしています。ガンカモ類調査では、2012/13シーズンまでの9年分の結果について、とりまとめを実施しました。今回のとりまとめでは、2012/13シーズンまでのデータを用いて、全国の各モニタリングサイトにおけるガンカモ類の個体数や種数の状況、各種の全国的な状況等についてとりまとめ、各サイトがラムサール条約の下での国際的に重要な湿地に関する基準を満たすかどうかの評価やレッドリスト種の個体数の状況整理を実施しました。

3.とりまとめの結果

(1)モニタリングサイトの状況

各サイトにおけるガンカモ類の個体数の状況をとりまとめ、個体数の増減の傾向を把握しました。

ガンカモ類の越冬期である冬の調査では、27サイトで個体数が有意に増加した種が見られ、14サイトで有意に減少した種が見られました。同一サイト内で、3種以上の種に増加傾向が見られたサイトが5箇所(函館周辺海域出来潤崎~志海苔、北浦、朝日池、琵琶湖全周、きらら浜・土路石川河口)あり、一方で、3種以上に減少傾向が見られたサイトが3箇所(小川原湖、琵琶湖全周、中海)ありました(添付資料2)。琵琶湖全周サイトでは、増加した種(ヨシガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、ミコアイサ、ウミアイサ、カンムリカイツブリ、オオバン)と減少した種(ハシビロガモ、ホシハジロ、スズガモ)が複数あり、種構成に変化が生じている可能性が考えられます。

また、個別サイトの例として、下北半島沿岸北部サイトで絶滅危惧Ⅱ類(VU)のコクガンの増加傾向が見られたほか、片野鴨池サイトでは同じく絶滅危惧Ⅱ類(VU)のトモエガモの増加傾向が見られました。片野鴨池サイトでは近年2,000羽以上の記録がされるなどトモエガモの越冬地として重要な場所であると言えます(図1、図2)。

片野鴨池(石川県)における冬期のトモエガモの最大個体数のグラフ

図1.片野鴨池(石川県)における冬期のトモエガモの最大個体数

冬期におけるトモエガモの記録状況の図

図2.冬期におけるトモエガモの記録状況

第2期(2008/09~2012/13)

(白抜きの小丸は記録のないサイト)

(2)ラムサール条約の下での国際的に重要な湿地に関する基準を用いた各サイトの評価

各サイトがラムサール条約の下での国際的に重要な湿地に関する基準5(定期的に2万羽以上の水鳥を支える湿地)及び基準6(水鳥の一つの種または亜種の個体群の個体数の1%を定期的に支える湿地)に合致するかどうかの評価を行ったところ、既にラムサール条約に登録されているサイトを除いて新たに31箇所のサイトが基準を満たすことがわかりました(表1、添付資料3)。

ただし、モニタリングサイト1000調査で行ったガンカモ類のみの評価であり、他の動植物は勘案されていないこと、モニタリングサイト80サイトのみにおいて評価したものであり全国を網羅した評価ではないこと、また、ラムサール条約に登録するには国内法による担保等その他の要件を満たす必要があることに留意が必要です。

今後、ガンカモ類の重要な生息地としての保全が期待されます。

ラムサール条約の下での国際的に重要な湿地に関する基準5及び基準6を満たす未登録のサイトの表

(3)ガンカモ類の各種の状況

各種の増減傾向についてサイトごとに分析し特徴を把握しました。

その結果、冬の調査でオオハクチョウ、コハクチョウ、コクガン、マガン、亜種オオヒシクイ、オシドリ、マガモ、カルガモ、ヨシガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、スズガモ、クロガモ、シノリガモ、ホオジロガモ、ミコアイサ、ウミアイサ、カンムリカイツブリ、オオバンの19種で増加傾向を示したサイト数が減少傾向を示したサイト数を上回り、一方で亜種ヒシクイ、ハシビロガモ、ホシハジロの3種は減少傾向を示したサイト数が増加傾向を示したサイト数を上回ったことがわかりました。

ハクチョウ類(オオハクチョウ、コハクチョウ)では、冬の調査において7サイト(伊豆沼・内沼、菅生沼、朝日池、鵜ノ池、福島潟、佐潟、邑知沼)で増加傾向が見られ、うち5箇所は新潟・北陸地方のサイトでした。減少傾向が見られたサイトは2箇所(尾駮沼、化女沼)であり、本調査のサイト内においては新潟・北陸地方で増加傾向が見られました(添付資料4)。

ガン類(マガン、ヒシクイ、亜種オオヒシクイ、亜種ヒシクイ、コクガン)では、冬の調査において4サイト(下北半島沿岸北部、伊豆沼・内沼、最上川河口、福島潟)で増加傾向が見られ、減少傾向が見られたサイトは1箇所(化女沼)であり、本調査のサイト内においては東北地方を中心に増加傾向が見られました(添付資料4)。

(4)絶滅危惧種

絶滅危惧種について、種毎に各年の状況をまとめました。IUCNと環境省のレッドリストに該当するガンカモ類は、それぞれ5種(軽度懸念(LC)を除く)と11種2亜種がこれまでに記録されています。

顕著な変化があった例として、シジュウカラガンとハクガンの個体数は、2004/05年の調査開始以来増加傾向にあり、一度に記録される個体数の最高記録が年々更新される状況にあります(図3、図4)。

シジュウカラガンは、かつては非常に多く日本に飛来していましたが、繁殖地であるアリューシャン列島と千島列島の繁殖地の島々では、羽毛の採取目的にキツネを放す取組が20世紀の初頭に行われ、キツネの捕食により日本への飛来は消滅状態となりました。その後、狩猟が禁止されたことや、日本でのシジュウカラガンの羽数回復事業が日・米・露の研究者等により1983年から実施され、試行錯誤の結果、繁殖地での放鳥等の取組によって日本への飛来数の増加につながっていると考えられます(添付資料5)。

1地点における最大個体数の経年変化(シジュウカラガン)のグラフ

図3.1地点における最大個体数の経年変化(シジュウカラガン)

ハクガンは100年ほど前まではマガンなどと同様に日本へ飛来していましたが、白く目立つことや、強い集団性を持つために狩猟されやすかったこと等からアジアに生息する群れはほぼ消滅したと考えられていましたが、各国で狩猟が禁止されたことや1993年から日・米・露の研究者等により実施されているアジアでの越冬個体群を復元させる計画によって、繁殖数が増え日本への飛来数の増加につながっていると考えられます(添付資料5)。

1地点における最大個体数の経年変化(ハクガン)のグラフ

図4.1地点における最大個体数の経年変化(ハクガン)

添付資料

連絡先
環境省自然環境局生物多様性センター
センター長:中山 隆治
保全科長 :木村 元

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