環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第2節 生物多様性の主流化に向けた取組の強化

第2節 生物多様性の主流化に向けた取組の強化

1 多様な主体の参画

(1)国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB-J)による取組

2011年から2020年までの10年間は、国連の定めた「国連生物多様性の10年」です。愛知目標の達成に貢献するため、国際社会のあらゆるセクターが連携して生物多様性の問題に取り組む10年とされています。

我が国においては、あらゆるセクターの参画と連携を促進し、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する取組を推進するため、2011年9月に「国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB-J)」を設立しました。UNDB-Jは、生物多様性に関する理解や普及啓発に資する取組として、国民一人一人が自分の生活の中で生物多様性との関わりを捉えることができる5つのアクション「MY行動宣言」の呼び掛け、全国各地で行われている5つのアクションに取り組む団体・個人を表彰する「生物多様性アクション大賞」、子供向け推薦図書(「生物多様性の本箱」~みんなが生きものとつながる100冊~)の全国の図書館での展示の呼び掛け等の取組を行いました。また、国際自然保護連合日本委員会が行う「にじゅうまるプロジェクト」への登録を呼び掛けるとともに、優良事例についてはUNDB-Jが推奨する連携事業として認定し(2018年9月時点で累計144件)、広く紹介しています。また、各セクター間の意見・情報交換の場として、2018年10月に鹿児島市において全国ミーティングを開催するなど、あらゆるセクターの連携の強化とネットワークの拡大を進めています。

これらの活動状況を発表するオフィシャルウェブサイトやFacebook等のSNS、ポータルサイト「生物多様性.com」の開設を通じて、普及啓発を促進しています。

(2)地域主体の取組の支援

生物多様性基本法(平成20年法律第58号)において、都道府県及び市町村は生物多様性地域戦略の策定に努めることとされており、2018年12月末時点で43都道府県、93市町村等で策定されています。また、生物多様性地域戦略の策定を推進するため、4地域(11市町村)に専門家を派遣するなどの支援を行いました。

生物多様性の保全や回復、持続可能な利用を進めるには、地域に根付いた現場での活動を自ら実施し、また住民や関係団体の活動を支援する地方公共団体の役割は極めて重要なため、「生物多様性自治体ネットワーク」が設立されており、2019年3月末時点で167自治体が参画しています。

地域の多様な主体による生物多様性の保全・再生活動を支援するため、「生物多様性保全推進支援事業」において、全国42か所の取組を支援しました。

地域における多様な主体の連携による生物の多様性の保全のための活動の促進等に関する法律(生物多様性地域連携促進法)(平成22年法律第72号)は、市町村やNPO、地域住民、企業など地域の多様な主体が連携して行う生物多様性保全活動を促進することで、地域の生物多様性を保全することを目的とした法律です。同法に基づき、2019年3月末時点で14地域が地域連携保全活動計画を作成済みであり、15自治体が同法に基づく地域連携保全活動支援センターを設置しています(図2-2-1、表2-2-1)。また、2017年度に開催した生物多様性地域連携保全活動の促進に関する検討会の提言を踏まえ、同法の更なる活用を図るため、地域連携保全活動支援センターへの各種情報提供、同センターの設置促進等を行いました。

図2-2-1 地域連携保全活動支援センターの役割
表2-2-1 地域連携保全活動支援センター設置状況

ナショナル・トラスト活動については、その一層の促進のため、引き続き税制支援措置等を実施しました。また、非課税措置に係る申請時の留意事項等を追記した改訂版のナショナル・トラストの手引きの配布等、普及啓発を行いました。

利用者からの入域料の徴収、寄付金による土地の取得など、民間資金を活用した地域における自然環境の保全と持続可能な利用を推進することを目的とし、2015年4月に施行された地域自然資産区域における自然環境の保全及び持続可能な利用の推進に関する法律(地域自然資産法)(平成26年法律第85号)の運用を進めました。

(3)生物多様性に関する広報の推進

毎年5月22日は国連が定めた「国際生物多様性の日」であり、2018年の国際生物多様性の日のテーマは「生物多様性条約25周年」でした。国際生物多様性の日を記念するとともに、地域レベルでの取組が国際目標である愛知目標や持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献するものと再認識するため、2018年5月に、東京・青山の国連大学において「国際生物多様性の日シンポジウム 生物多様性とSDGs」を開催しました。そのほか、生物多様性の重要性を一般の方々に知っていただくとともに、生物多様性に配慮した事業活動や消費活動を促進するため、前項で紹介したUNDB-Jの各種取組のほか、「みどりとふれあうフェスティバル」、「エコライフ・フェア」、「Ogawa Organic Fes」、「GTFグリーンチャレンジデー」、「東京湾大感謝祭」など、様々なイベントの開催・出展や様々な活動とのタイアップによる広報活動等を通じ、普及啓発を進めています。

2 生物多様性に配慮した企業活動の推進

(1)生物多様性に配慮した事業者の取組の推進

愛知目標4「ビジネス界を含めたあらゆる関係者が、持続可能な生産・消費のための計画を実施する」を受け、生物多様性の保全及び持続可能な利用など、生物多様性条約の実施に関する民間の参画を促進するため、「生物多様性民間参画ガイドライン」等の普及広報など様々な取組を行っています。

近年の事業者を取り巻く生物多様性に関する動向を踏まえ、2009年に策定した「生物多様性民間参画ガイドライン」を、2017年12月に8年ぶりに改訂し、普及啓発を進めています。

経済界を中心とした自発的なプログラムとして設立された「生物多様性民間参画パートナーシップ」や「企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)」と連携・協力しました。

(2)生物多様性に配慮した消費行動への転換

事業者による取組を促進するためには、消費者の行動を生物多様性に配慮したものに転換していくことも重要です。そのための仕組みとして、生物多様性の保全にも配慮した持続可能な生物資源の管理と、それに基づく商品等の流通を促進するための民間主導の認証制度があります。こうした社会経済的な取組を奨励し、多くの人々が生物多様性の保全と持続可能な利用に関わることのできる仕組みを拡大していくことが重要です。

環境に配慮した商品やサービスに付与される環境認証制度のほか、生物多様性に配慮した持続可能な調達基準を策定する事業者の情報等について環境省のウェブサイト等で情報提供しています。また、木材・木材製品については、国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(グリーン購入法)(平成12年法律第100号)により、政府調達の対象とするものは合法性、持続可能性が証明されたものとされており、各事業者において自主的に証明し、説明責任を果たすために、証明に取り組むに当たって留意すべき事項や証明方法等については、国が定める「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン」に準拠することとしています。加えて、合法伐採木材等の利用を促進することを目的として、木材等を取り扱う事業者に合法性の確認を求める合法伐採木材等の流通及び利用の促進に関する法律(クリーンウッド法)(平成28年法律第48号)が2017年5月に施行されました。これらの取組を通じ、合法証明の信頼性・透明性の向上や合法証明された製品の消費者への普及を図っています。

3 自然とのふれあいの推進

(1)国立公園満喫プロジェクト等の推進

2016年3月に政府が公表した「明日の日本を支える観光ビジョン」に掲げられた10の柱施策の一つとして、国立公園満喫プロジェクトをスタートしました。本プロジェクトでは、日本の国立公園を世界水準の「ナショナルパーク」とし、2015年に490万人であった訪日外国人の国立公園利用者を2020年に1,000万人とすることにより、国立公園の所在する地域の活性化を図り、自然環境の保護と利用の好循環を実現することを目標とし、阿寒摩周、十和田八幡平、日光、伊勢志摩、大山隠岐、阿蘇くじゅう、霧島錦江湾、慶良間諸島の8つの国立公園を選定し、先行的、集中的に取組を進めています。2018年度は、ビジターセンターや歩道等の整備、上質な宿泊施設や滞在施設の誘致、ツアー・プログラムの開発、質の高いガイド人材等の育成、展望台へのカフェの設置等による新たなサービスの提供、利用者負担による公園管理の仕組みの調査検討、国内外へのプロモーション等を行いました。さらに、2018年7月に本プロジェクト全体の中間評価を行い、9月に取りまとめた本プロジェクトの今後の進め方を踏まえて、先行8公園の「ステップアッププログラム2020」の見直しを行いました。また、地域やテーマを限定して先行8公園の成果をそのほかの国立公園に広げる国立公園満喫プロジェクト展開事業を2017年度に引き続き実施しました。

(2)自然とのふれあい活動

みどりの月間(4月15日~5月14日)、自然に親しむ運動(7月21日~8月20日)、全国・自然歩道を歩こう月間(10月1日~10月31日)等を通じて、自然観察会など自然とふれあうための各種活動を実施しました。また、2016年から8月11日が山の日として国民の祝日となったことを記念し、大山隠岐国立公園(鳥取県米子市及び大山町)において記念式典が開催されました。

国立・国定公園の利用の適正化のため、自然公園指導員及びパークボランティアの連絡調整会議等を実施し、利用者指導の充実を図りました。

サンゴ礁や干潟の生き物観察など、子供たちが国立公園等の優れた自然地域を知り、自然環境の大切さを学ぶ機会を提供しました。

国立公園を楽しむためのモデルコース等を紹介したウェブサイト「国立公園へ出かけよう!」の情報追加・充実を行ったほか、国立公園の風景を楽しむことができるカレンダーの作成等を行いました。

国営公園においては、ボランティア等による自然ガイドツアー等の開催、プロジェクト・ワイルド等を活用した指導者の育成等、多様な環境教育プログラムを提供しました。

(3)自然とのふれあいの場の提供
ア 国立・国定公園等における取組

国立公園の保護及び利用上重要な公園事業を国直轄事業とし、安全で快適な公園利用を図るため、ビジターセンター、園地、歩道、駐車場、情報拠点施設、公衆トイレ等の利用施設や自然生態系を維持回復・再生させるための施設の整備を進めるとともに、国立公園事業施設の長寿命化対策、ユニバーサルデザイン対応の推進等に取り組みました。また、2018年度には、上信越高原国立公園の万座しぜん情報館(2018年5月開所)及び山陰海岸国立公園の鳥取砂丘ビジターセンター(2018年10月開所)を整備しました。国立・国定公園及び長距離自然歩道等については、46都道府県に自然環境整備交付金を交付し、その整備を支援しました。長距離自然歩道の計画総延長は約2万8,000kmに及んでおり、2016年には約7,824万人が長距離自然歩道を利用しました。

旧皇室苑地として広く親しまれている国民公園(皇居外苑、京都御苑、新宿御苑)及び千鳥ケ淵戦没者墓苑では、施設の改修、芝生・樹木の手入れ等を行いました。また、海外からの観光客も含め、増加する来園者による負荷の緩和を図りながら、庭園としての質や施設の利便性を高めるための取組を進めました。

イ 森林における取組

保健保安林等を対象として防災機能、環境保全機能等の高度発揮を図るための整備を実施するとともに、国民が自然に親しめる森林環境の整備に対し助成しました。また、森林環境教育、林業体験学習の場となる森林・施設の整備等を推進しました。国有林野においては、農山漁村における体験活動とも連携し、フィールドの整備及び学習・体験プログラムの作成を実施するとともに、レクリエーションの森において、利用者のニーズに対応した森林・施設の整備等を実施しました。

国有林野においては、森林教室等を通じて、森林・林業への理解を深めるための「森林ふれあい推進事業」等を実施しました。また、国民による自主的な森林づくりの活動の場である「ふれあいの森」等の設定・活用を図り、国民参加の森づくりを推進しました。

(4)温泉の保護及び安全・適正利用

温泉の保護、温泉の採取等に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害の防止及び温泉の適正な利用を図ることを目的とした温泉法(昭和23年法律第125号)に基づき、温泉の掘削・採取、浴用又は飲用利用等を行う場合には、都道府県知事や保健所設置市長等の許可等を受ける必要があります。2017年度には、温泉掘削許可220件、増掘許可23件、動力装置許可130件、採取許可48件、濃度確認135件、浴用又は飲用許可1,564件が行われました。

環境大臣が、温泉の公共的利用増進のため、温泉法に基づき地域を指定する国民保養温泉地については、2018年5月に湯野浜温泉(山形県鶴岡市)及びみなかみ町国民保養温泉地(群馬県みなかみ町)を新たに指定し、2019年3月末時点で80か所を指定しています。

2018年5月から現代のライフスタイルに合った温泉地の楽しみ方として「新・湯治」を推進するためのネットワークである「チーム新・湯治」を立ち上げ、3回のセミナーを実施しました。2019年3月末時点で221団体が参加しています。また、温泉地で過ごすことのリフレッシュ効果等を把握する調査を全国で開始しました。

(5)都市と農山漁村の交流

「観光立国推進基本計画」(2017年3月閣議決定)において、「農山漁村滞在型旅行をビジネスとして実施できる体制を持った地域を平成32年までに500地域創出することにより、「農泊」の推進による農山漁村の所得向上を実現する。」と位置付けられており、日本ならではの伝統的な生活体験や農山漁村地域の人々との交流を楽しむ「農泊」をビジネスとして実施できる体制の構築や地域資源を魅力ある観光コンテンツとして磨き上げる取組、古民家等を活用した滞在施設等の整備等、「農泊」に取り組む地域の自立的発展と農山漁村の所得向上を図るために必要なソフトとハードの取組を一体的に支援しました。

子供の農山漁村での宿泊による農林漁業体験や自然体験活動等を行う「子ども農山漁村交流プロジェクト」を通じ、都市農村交流の取組を推進しました。