環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況>第2部 各分野の施策等に関する報告>第1章 地球環境の保全>第1節 地球温暖化対策

第2部 各分野の施策等に関する報告

第1章 地球環境の保全

第1節 地球温暖化対策

1 問題の概要と国際的枠組みの下の取組

近年、人間活動の拡大に伴ってCO2、メタン等の温室効果ガスが大量に大気中に排出されることで、地球が温暖化しています。特にCO2は、化石燃料の燃焼等によって膨大な量が人為的に排出されています。我が国が排出する温室効果ガスのうち、CO2の排出が全体の排出量の約92%を占めています(図1-1-1)。

図1-1-1 日本が排出する温室効果ガスの内訳(2017年単年度)
(1)気候変動に関する政府間パネルによる科学的知見

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2014年に取りまとめた第5次評価報告書統合報告書において、以下の内容を公表しました。斜体で示した可能性及び確信度の表現は、表1-1-1及び表1-1-2のとおりです。

表1-1-1 第5次評価報告書における可能性の表現について
表1-1-2 第5次評価報告書における確信度の表現について

○観測された変化及びその原因

○将来の気候変動、リスク及び影響

図1-1-2 世界平均地上気温の変化
図1-1-3 平均地上気温変化分布の変化

○適応、緩和、持続可能な開発に向けた将来経路

また、2018年10月には1.5℃特別報告書(正式名称「気候変動の脅威への世界的な対応の強化、持続可能な発展及び貧困撲滅の文脈において工業化以前の水準から1.5℃の気温上昇にかかる影響や関連する地球全体での温室効果ガス(GHG)排出経路に関する特別報告書」)において、第5次評価報告書統合報告書以降の最新の科学的知見として以下の内容を公表しました。

図1-1-4 1850年~1900年を基準とした気温上昇の変化
図1-1-5 気温上昇を1.5℃に抑える排出経路における、人為起源CO2排出量
(2)日本の温室効果ガスの排出状況

2017年度の温室効果ガス総排出量は、約12億9,200万トンCO2でした(2017年度温室効果ガス排出量(確報値))。再生可能エネルギーの導入拡大や原発の再稼働等に伴うエネルギー起源のCO2排出量の減少により、前年度(13億800万トンCO2)と比べて1.2%減少、2013年度の総排出量(14億1,000万トンCO2)と比べて8.4%減少しました。また、2005年度の総排出量(13億8,200万トンCO2)と比べて6.5%減少しました(図1-1-6)。

図1-1-6 日本の温室効果ガス排出量

2017年度のCO2排出量は11億9,000万トンCO2(2013年度比9.6%減少)であり、そのうち、発電及び熱発生に伴うエネルギー起源のCO2排出量は11億1,100万トンCO2でした。さらに、エネルギー起源のCO2排出量の内訳を部門別に分けると、産業部門からの排出量は4億1,300万トンCO2、運輸部門からの排出量は2億1,300万トンCO2、業務その他部門からの排出量は2億700万トンCO2、家庭部門からの排出量は1億8,600万トンCO2でした(図1-1-7、図1-1-8)。なお、地球温暖化対策計画では、2030年度におけるエネルギー起源CO2の各部門の排出量の目安を、産業部門が4億100万トンCO2、運輸部門が1億6,300万トンCO2、業務その他部門が1億6,800万トンCO2、家庭部門が1億2,200万トンCO2と設定しています。

図1-1-7 CO2排出量の部門別内訳
図1-1-8 部門別エネルギー起源CO2排出量の推移

CO2以外の温室効果ガス排出量については、メタン(CH4)排出量は3,010万トンCO2(2013年度比6.9%減少)、一酸化二窒素(N2O)排出量は2,050万トンCO2(同5.2%減少)、ハイドロフルオロカーボン類(HFCs)排出量は4,570万トンCO2(同42.5%増加)、パーフルオロカーボン類(PFCs)排出量は350万トンCO2(同7.1%増加)、六ふっ化硫黄(SF6)排出量は210万トンCO2(同1.6%増加)三ふっ化窒素(NF3)排出量は45万トンCO2(同72.2%減少)でした(図1-1-9)。

図1-1-9 各種温室効果ガス(エネルギー起源CO2以外)の排出量

2017年度の森林等吸収源によるCO2の吸収量は約5,570万トンCO2でした。

なお、各数値については、気候変動に関する国際連合枠組条約(以下「気候変動枠組条約」という。)の報告ガイドラインに基づき、温室効果ガス排出・吸収量の算定方法を改善するたびに、過年度の排出量も再計算しているため、以前の白書掲載の値との間で差異が生じる場合があります。

(3)フロン等の現状

特定フロン(クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC))、ハロン、臭化メチル等の化学物質によって、オゾン層の破壊は今も続いています。オゾン層破壊の結果、地上に到達する有害な紫外線(UV-B)が増加し、皮膚ガンや白内障等の健康被害の発生や、植物の生育の阻害等を引き起こす懸念があります。また、オゾン層破壊物質の多くは強力な温室効果ガスでもあり、地球温暖化への影響も懸念されます。

オゾン層破壊物質は、1989年以降、オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書(以下「モントリオール議定書」という。)及び特定物質等の規制等によるオゾン層の保護に関する法律(昭和63年法律第53号。以下「オゾン層保護法」という。)に基づき規制が行われています。その結果、代表的な物質の一つであるCFC-12の北半球中緯度における大気中濃度は、我が国の観測では緩やかな減少の兆しが見られます。一方、国際的にCFCからの代替が進むHCFC、及びCFC・HCFCからの代替が進むオゾン層を破壊しないものの温室効果の高いガス(いわゆる代替フロン)であるハイドロフルオロカーボン(HFC)の大気中濃度は増加の傾向にあります。

オゾン全量は、1980年代から1990年代前半にかけて地球規模で大きく減少した後、現在も1970年代と比較すると少ない状態が続いています。また、2018年の南極域上空のオゾンホールの最大面積は、南極大陸の約1.8倍となりました(図1-1-10)。オゾンホールの規模は、依然として大きい状態が続いていますが、年々変動による増減はあるものの、長期的な拡大傾向は見られなくなりました。モントリオール議定書科学評価パネルの「オゾン層破壊の科学アセスメント:2018年」によると、南極域のオゾン層が1980年以前の状態に戻るのは今世紀後半と予測されています。

図1-1-10 南極上空のオゾンホールの面積の推移
(4)気候変動枠組条約及び京都議定書について

気候変動枠組条約は、地球温暖化防止のための国際的な枠組みであり、究極的な目的として、温室効果ガスの大気中濃度を自然の生態系や人類に危険な悪影響を及ぼさない水準で安定化させることを掲げています。

1997年に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3。以下、締約国会議を「COP」という。)で採択された京都議定書は、先進国に対して法的拘束力のある温室効果ガス削減の数値目標を設定し、目標達成の補足的な仕組みとして、海外での削減を目標達成に活用できる京都メカニズムについて定めています。2008年から2012年までの第一約束期間において、日本は基準年(原則1990年)に比べて6%、欧州連合(EU)加盟国全体では同8%等の削減目標が課されました。これに対し、同期間の日本の温室効果ガスの総排出量は5か年平均で12億7,800万トンCO2であり、森林等吸収源や海外から調達した京都メカニズムクレジットを償却することで京都議定書の削減目標(基準年比6%減)を達成しました。

2012年に行われた京都議定書第8回締約国会合(CMP8。以下、京都議定書締約国会合を「CMP」という。)においては、2013年から2020年までの第二約束期間の各国の削減目標が新たに定められました。しかし、近年の新興国の排出増加等により、京都議定書締約国のうち、第一約束期間で排出削減義務を負う国の排出量は世界の4分の1にすぎないことなどから我が国は議定書の締約国であるものの、第二約束期間には参加せず、全ての主要排出国が参加する新たな枠組みの構築を目指して国際交渉が進められてきました(図1-1-11)。

図1-1-11 世界のエネルギー起源CO2の国別排出量(2016年)
(5)パリ協定について
ア パリ協定採択までの経緯

2011年のCOP17及びCMP7では、全ての国が参加する2020年以降の新たな枠組みを2015年までに採択することとし、そのための交渉を行う場として「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)」を新たに設置することに合意しました。

2013年のCOP19及びCMP9では、全ての国に対し、自国が決定する貢献案(INDC)のための国内準備を開始しCOP21に十分先立ちINDCを示すことを招請することなどが決定されました。

2014年のCOP20及びCMP10では、INDCに含まれるべき情報等が決定されました。

2015年、フランス・パリにおいて、COP21及びCMP11が行われ、全ての国が参加する温室効果ガス排出削減等のための新たな国際枠組みである「パリ協定」が採択されました。パリ協定においては、世界共通の長期目標として、産業革命前からの地球の平均気温上昇を2℃より十分下方に抑えるとともに、1.5℃に抑える努力を追求することなどが設定されました。また、主要排出国を含む全ての国が削減目標を5年ごとに提出・更新することが義務付けられるとともに、その目標は従前の目標からの前進を示すことが規定され、加えて、5年ごとに世界全体としての実施状況の検討(グローバルストックテイク)を行うこと、各国が共通かつ柔軟な方法でその実施状況を報告し、レビューを受けることなどが規定されました。そのほか、二国間クレジット制度(JCM)を含む市場メカニズムの活用、森林等の吸収源の保全・強化の重要性、途上国の森林減少・劣化からの排出を抑制する取組の奨励、適応に関する世界全体の目標設定及び各国の適応計画作成過程と行動の実施、先進国が引き続き資金を提供することと並んで途上国も自主的に資金を提供することなどが盛り込まれました。

パリ協定の採択を受けて、ADPは作業を終了し、パリ協定の実施に向けた検討を行うための新たな作業部会である「パリ協定に関する特別作業部会(APA)」を設置することなども合意されました。

イ パリ協定の発効

2016年4月にはパリ協定の署名式が米国・ニューヨークの国連本部で行われ、175の国と地域が署名しました。5月には我が国でG7伊勢志摩サミットが開催され、同協定の年内発効という目標が首脳宣言に盛り込まれました。9月には米中両国が協定を同時締結したほか、国連主催のパリ協定早期発効促進イベントが開催されるなど、早期発効に向けた国際社会の機運が大きく高まりました。そして10月5日には、締約国数55か国及びその排出量が世界全体の55%との発効要件を満たし、11月4日、パリ協定が発効しました。なお、我が国は11月8日に締結しました。

ウ 米国のパリ協定脱退表明、実施方針に関する交渉等

2016年11月、モロッコのマラケシュにおいて、COP22、CMP12及びパリ協定第1回締約国会合第1部(CMA1-1。以下、パリ協定締約国会議を「CMA」という。)が行われました。COP22では、パリ協定の実施指針等に関する交渉の進め方について、引き続き全ての国が参加する形で行うこと、実施指針を2018年までに策定することなどが決定されました。

2017年6月、米国トランプ大統領はパリ協定から脱退する意向を表明しました。これを受け、我が国は、「米国のトランプ政権がパリ協定からの脱退を表明したことは残念である」、「パリ協定の締約国と同協定の着実な実施を進めることを通じ、この問題に積極的に取り組んでいく」との声明を発出しました。

2017年11月、ドイツのボンにおいて、COP23、CMP13、CMA1第2部(CMA1-2)が行われ、フィジーが議長国を務めました。COP23は米国がパリ協定からの脱退を表明してから初めてのCOPとなりましたが、米国も交渉に参加しました。COP23では、[1]パリ協定の実施指針に関する交渉の進展、[2]2018年の促進的対話のデザインの完成、[3]グローバルな気候行動の推進の3点が焦点になりました。実施指針の策定については、技術的な作業が進展し、指針のアウトラインや具体的な要素がまとめられました。促進的対話については、議長国フィジーの考え方である「タラノア」(包摂性があり、参加型で、透明な対話のプロセス)の精神を反映し、タラノア対話という名称になりました。このデザインとして、2018年1月から12月のCOP24にかけて、温室効果ガスの排出状況、目指すべき目標及びその達成方法の三つの論点について、各国やその他幅広い主体で対話を行うことになりました。グローバルな気候行動の推進については、日本の優れた技術・ノウハウを活用しつつ、途上国と協働してイノベーションを創出する「Co-innovation(コ・イノベーション)」をキーワードとして我が国のビジョンと具体的な取組を取りまとめた「日本の気候変動対策支援イニシアティブ2017」を2017年10月に発表し、これをCOP23会場に設置したジャパン・パビリオンにおけるイベント等を活用して、世界に発信しました。このほか、英国及びカナダが、現存する従来の石炭火力発電所の段階的廃止を目指し、各国政府、自治体、企業と連携して取り組むための連合をCOP23期間中に設立しました。

2018年12月、ポーランドのカトヴィツェにおいて、COP24・CMP14・CMA1-3が開催されました。COP24では、パリ協定の精神にのっとり、先進国と途上国との間で取組に差異を設けるべきという二分論によることなく、全ての国に共通に適用される実施指針を採択しました。採択された実施指針では、緩和(2020年以降の削減目標の情報や達成評価の算定方法)、透明性枠組み(各国の温室効果ガス排出量、削減目標の進捗・達成状況等の報告制度)、資金支援の見通しや実績に関する報告方法等について規定されました。市場メカニズム(二国間クレジット制度(JCM)等の取扱い等)については、根幹部分は透明性枠組みに盛り込まれ、詳細ルールは次回COPにおける策定に向けて検討を継続することとなりました。

我が国は、COP議長や主要国など13か国及びEUとのバイ会談等を積極的に実施するとともに、パリ協定の実施指針採択に向けた議論に積極的に参加し、先進国と途上国の二分論の回避に貢献しました。また、国内における4年連続の温室効果ガス排出削減、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」による世界の排出量の透明性の向上への貢献、地域循環共生圏の構築等を、政府代表演説やバイ会談などあらゆる機会で発信し、我が国の取組や技術について高い評価を受けました。

写真1-1-1 原田義昭環境大臣による閣僚級ステートメント

2 科学的知見の充実のための対策・施策

(1)我が国における科学的知見

気候変動が我が国に与える影響については、2015年3月に中央環境審議会により「日本における気候変動による影響の評価に関する報告と課題について(以下「気候変動影響評価報告書」という。)」が環境大臣に意見具申されました。

当該意見具申において、我が国の気候の現状として、1898年から2013年までの期間において、年平均気温が100年当たり1.14℃上昇していることが示されています。

20世紀末と比較した、21世紀末の年平均気温の将来予測については、気温上昇の程度をかなり低くするために必要となる温暖化対策を講じた場合には日本全国で平均1.1℃上昇し、また温室効果ガスの排出量が非常に多い場合には、日本全国で平均4.4℃上昇するとの予測が示されています。

気候変動の影響については、気温や水温の上昇、降水日数の減少等に伴い、農作物の収量の変化や品質の低下、漁獲量の変化、動植物の分布域の変化やサンゴの白化、桜の開花の早期化等が、現時点において既に現れていることとして示されています。また、将来は、農作物の品質の一層の低下、多くの種の絶滅、渇水の深刻化、水害・土砂災害を起こし得る大雨の増加、高潮・高波リスクの増大、夏季の熱波の頻度の増加等のおそれがあると示されています。

(2)観測・調査研究の推進

気候変動に関する科学的知見を充実させ、最新の知見に基づいた政策を展開するため、引き続き、環境研究総合推進費等の研究資金を活用し、現象解明、影響評価、将来予測及び対策に関する調査研究等の推進を図りました。

気候変動対策に必要な観測を、統合的・効率的なものとするため、「地球観測連携拠点(地球温暖化分野)」の活動を引き続き推進しました。加えて、2009年1月に打ち上げられた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT)」(第6章第3節2(1)を参照)は、主たる温室効果ガスの全球平均濃度の変化を継続監視し、2009年の観測開始から季節変動を経ながら年々濃度が上昇している傾向を明らかにしました。さらに、観測精度を飛躍的に向上させた後継機「いぶき2号(GOSAT-2)」を2018年10月に打ち上げ、搭載した機器が正常に動作することを確認し、2019年2月に定常運用を開始しました。この衛星は、全球の温室効果ガス濃度を観測するミッションを継承するほか、人為起源のCO2を特定するための機能を新たに有しており、今後各国のパリ協定に基づく排出量報告の透明性向上への貢献を目指します。なお、水循環変動観測衛星(GCOM-W)後継センサとの相乗りを見据えて調査・検討を行ってきた3号機については、継続的な観測体制の維持に加え、排出源の監視能力を更に強化した次期温室効果ガス観測センサの設計に着手しました。

世界の政策決定者に対し、正確でバランスの取れた科学的情報を提供し、気候変動枠組条約の活動を支援してきたIPCCは、現在第6次評価サイクルにあり、第6次評価報告書(2021年から2022年にかけて公表予定)に加え、1.5℃特別報告書(2018年10月公表)、土地関係特別報告書、海洋・雪氷圏特別報告書及び温室効果ガスインベントリに関する方法論の改良報告書(いずれも2019年公表予定)の策定を行っています。これら報告書は、パリ協定において、その実施に不可欠な科学的基礎を提供するものと位置付けられています。我が国は、第6次評価サイクルの各種報告書作成プロセスに向けた議論への参画、資金の拠出、関連研究の実施など積極的な貢献を行っています。その一環として、2019年5月にIPCC第49回総会を日本の京都市で開催する予定であり、IPCC、関係省庁、地元自治体と連携しつつ準備を進めています。本総会では、各国による温室効果ガス排出量の把握の精度向上のために、前述の方法論の改良報告書が採択される予定であり、本総会の支援を通じて、パリ協定下の削減努力の透明性向上に貢献することを目指しています。さらに、我が国の提案により公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)に設置された、温室効果ガス排出・吸収量世界標準算定方式を定めるためのインベントリ・タスクフォース(TFI)の技術支援ユニットの活動を支援し、各国の適切なインベントリ作成に貢献しています。第6次評価サイクルにおいても、我が国はTFIの共同議長を引き続き務めています。

気候変動枠組条約の目標を達成するための我が国の取組の一つとして、環境研究総合推進費による「SLCPの環境影響評価と削減パスの探索による気候変動対策の推進(S-12)」及び「気候変動の緩和策と適応策の統合的戦略研究(S-14)」等の研究を2018年度にも引き続き実施し、科学的知見の収集・解析等を行いました。これらの研究により明らかとなった知見は、IPCC等にインプットされることになります。

3 持続可能な社会を目指した低炭素社会の姿の提示

COP19等において、全ての国に対し、COP21に十分先立ち(準備できる国は2015年第1四半期までに)2020年以降のINDCを示すことが招請されました。我が国としても2020年以降の温室効果ガス削減目標の検討を加速化するため、2014年10月に、中央環境審議会地球環境部会2020年以降の地球温暖化対策検討小委員会・産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会約束草案検討ワーキンググループ合同専門家会合を立ち上げて検討を行い、2015年4月にはINDCの要綱案を同合同専門家会合において示しました。同年6月には地球温暖化対策推進本部を開催し、INDCの政府原案を取りまとめ、パブリックコメントを経て、同年7月に開催した地球温暖化対策推進本部において、2030年度の我が国の温室効果ガス削減目標を、2013年度比で26.0%削減(2005年度比で25.4%削減)とするとの内容を含む「日本の約束草案」を決定し、同日付で気候変動枠組条約事務局に提出しました。

COP21におけるパリ協定の採択を踏まえ、同年12月に地球温暖化対策推進本部を開催し、「パリ協定を踏まえた地球温暖化対策の取組方針について」を決定しました。その後、同方針の下、2016年5月13日に地球温暖化対策計画を閣議決定しました。約束草案やパリ協定等を踏まえて策定された同計画では、2030年度削減目標の達成に向けて着実に取り組むことに加え、「パリ協定を踏まえ、全ての主要国が参加する公平かつ実効性ある国際枠組みの下、主要排出国がその能力に応じた排出削減に取り組むよう国際社会を主導し、地球温暖化対策と経済成長を両立させながら、長期的目標として2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指す。このような大幅な排出削減は、従来の取組の延長では実現が困難である。したがって、抜本的排出削減を可能とする革新的技術の開発・普及などイノベーションによる解決を最大限に追求するとともに、国内投資を促し、国際競争力を高め、国民に広く知恵を求めつつ、長期的、戦略的な取組の中で大幅な排出削減を目指し、また、世界全体での削減にも貢献していく」こととしています。

パリ協定等で2020年までに、今世紀半ばの長期的な温室効果ガスの低排出型の発展のための戦略を提出することが招請されていることなどから、環境省では中央環境審議会地球環境部会長期低炭素ビジョン小委員会において、2050年及びそれ以降の低炭素社会に向けた長期的なビジョンについて審議を行い、2017年3月に中央環境審議会地球環境部会において長期低炭素ビジョンを取りまとめました。また、2018年3月には、「技術」のイノベーションはもとより、技術を普及させる「経済社会システム」のイノベーションや、施策を「今」から講じ2040年頃までに大幅削減の基礎を確立することが重要であるといった、長期大幅削減の鍵となるメッセージをまとめた「長期大幅削減に向けた基本的考え方」を環境省として取りまとめました。

その後、政府としては、長期戦略の策定に向け、金融界、経済界、学界等の各界の有識者からなる「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会」において、議論が進められ、2019年4月2日に提言が取りまとめられました。提言では

[1]今世紀後半のできるだけ早期に「脱炭素社会」の実現を目指し、2050年までに80%の温室効果ガス排出削減に大胆に取り組む

[2]1.5℃の努力目標を含む、パリ協定の長期目標の実現に向けた日本の貢献を示す

[3]気候変動問題の解決には世界全体での取組と非連続なイノベーションが不可欠であり、ビジネス主導の環境と成長の好循環を実現する長期戦略を策定すべき

などの基本的な方向性が示されました。この提言を踏まえつつ、2019年のG20までに、政府としての長期戦略を策定します。

4 エネルギー起源CO2の排出削減対策

(1)産業部門(製造事業者等)の取組

2013年度以降の産業界の地球温暖化対策の中心的な取組である「低炭素社会実行計画」の2017年度実績について、審議会による厳格な評価・検証を実施しました。具体的には、[1]目標達成の蓋然性を確保するため、2017年度に実施した取組を中心に各業種の進捗状況を点検し、2020年、2030年の目標達成に向けて着実に対策が実施されていることを確認しました。また、[2]足下の実績や取組だけでなく、業界や部門の枠組みを超えた主体間連携による削減貢献、優れた技術や素材の普及等を通じた国際貢献、革新的技術の開発や普及による削減貢献といった各業種の取組についても深掘りし、こうした削減貢献を可能な限り定量化することにより、貢献の可視化とベストプラクティスの横展開等を行いました。2019年3月末までに115業種が2030年を目標年限とする計画を策定しており、自主的取組に参画する業種の日本のエネルギー起源CO2排出量に占める割合は5割となりました。2016年5月に閣議決定した「地球温暖化対策計画」においても、低炭素社会実行計画を産業界における対策の中心的役割と位置付けており、2030年度削減目標の達成に向けて引き続き自主的な取組を進め、温室効果ガスのグローバルな排出削減をより一層推進していきます。

複数事業者の連携による省エネ取組等を促進するため、エネルギーの使用の合理化に関する法律(昭和54年法律第49号。以下「省エネ法」という。)の改正法が2018年6月に公布、同年12月に施行されました。

産業分野等の事業者に対して、温室効果ガス排出削減に有用なCO2削減ポテンシャル診断の実施、既存ストックからCO2削減効果の高い設備へ更新するための補助、L2-Tech(先導的低炭素技術)情報の収集とリスト化等の取組を行いました。

中小企業におけるCO2排出削減対策の強化のため、低炭素機器導入における資金面の公的支援の一層の充実や、中小企業等の省エネ設備の導入や森林管理等による温室効果ガスの排出削減・吸収量をクレジットとして認証し、低炭素社会実行計画の目標達成等のために活用するJ-クレジット制度の運営、さらにCO2排出低減が図られている建設機械の普及を図るため、一定の燃費基準を達成した建設機械を燃費基準達成建設機械として認定しており、加えて新たに2018年4月から小型油圧ショベルの認定を開始しました。

農林水産分野においては、2017年3月に策定した農林水産省地球温暖化対策計画に基づき、緩和策として施設園芸等における省エネルギー対策、農地土壌に関連する温室効果ガス排出削減対策、バイオマスの活用の推進、我が国の技術を活用した国際協力等を実施しました。

(2)業務その他部門の取組

エネルギー消費量が増加傾向にある住宅・ビルにおける省エネ対策を推進するため、省エネ法における建材トップランナー制度に基づき、断熱材・窓(サッシ、複層ガラス)等の建築材料の性能向上を図っています。2017年10月には、建材トップランナー制度に準じた「準建材トップランナー制度」を導入し、吹付け硬質ウレタンフォーム断熱材がその対象となりました。それに伴い、吹付け硬質ウレタンフォーム原液の製造等を行う者及び施工を行う者の判断基準となるべき事項等を定めたガイドラインを公表しました。また、大幅な省エネ性能を実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指したビル(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル、以下「ZEB(ゼブ)」という。)の普及を進めるため、ZEB設計ガイドラインの作成等を目的とした実証事業を行っています。2015年7月には、大規模非住宅建築物のエネルギー消費性能基準への適合義務や表示制度等を措置した、建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(平成27年法律第53号。以下「建築物省エネ法」という。)が公布されました。また、建築物等に関する総合的な環境性能評価手法(CASBEE)、省エネルギー性能に特化した指標である建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)の充実・普及を行いました。さらに、省CO2の実現性に優れたリーディングプロジェクト等に対する支援のほか、ビルオーナーとテナントが不動産の環境負荷を低減する取組についてグリーンリース契約等を締結して協働で省エネ化を図る事業に対する支援や、環境不動産の形成を促進するための官民ファンドの設置等を行いました。

更なる個別機器の効率向上を図るため、省エネ法のトップランナー制度においてエネルギー消費効率の基準の見直し等について検討を行っています。2019年1月には、テレビジョン受信機のエネルギー消費性能の向上を図るため、総合資源エネルギー調査会省エネルギー小委員会テレビジョン受信機判断基準ワーキンググループを設置し、新しい省エネ基準について審議を開始しました。また、2019年3月には、高効率照明の普及の促進に向け、トップランナー制度の対象である照明器具及び電球の対象範囲を拡大するなどの措置を講じるため、「エネルギーの使用の合理化等に関する法律施行令の一部を改正する政令」を閣議決定し、エアコン、電気温水機器等の基準についても検討を進めています。さらに、既存の事業場について、ストック全体の低炭素化のため、温室効果ガス排出削減に有用なCO2削減ポテンシャル診断の実施、既存ストックからCO2削減効果の高い設備へ更新するための補助、L2-Tech情報の収集とリスト化等の取組を行いました。

政府実行計画に基づく取組に当たっては、2007年11月に施行された国等における温室効果ガス等の排出の削減に配慮した契約の推進に関する法律(平成19年法律第56号)に基づき、温室効果ガス等の排出の削減に配慮した契約を実施しました。

(3)家庭部門の取組

消費者等が省エネルギー性能の優れた住宅を選択することを可能とするため、CASBEEや住宅性能表示制度の充実・普及を実施しました。再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロとすることを目指し、省エネ性能と住み心地を兼ね備えた住宅(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス、以下「ZEH(ゼッチ)」という。)の普及や、再生可能エネルギーの自家消費拡大を目指したZEH(ZEH+(ゼッチ・プラス))および集合住宅におけるZEHの実証、省エネリフォームの普及、低炭素型の賃貸住宅の新築、改修を支援しました。また、都市の低炭素化の促進に関する法律(平成24年法律第84号)に基づく、低炭素建築物の認定基準の普及・促進を図りました。加えて、各家庭のCO2排出実態やライフスタイルに合わせた、きめ細かなアドバイスを行う家庭エコ診断制度の創設に向けた基盤整備及び運営を行い、2011年度から2018年度までに約9.7万件の診断を行いました。2015年7月には、住宅の表示制度等を措置した建築物省エネ法が公布されました。

国民一人一人に配慮した無理のない行動変容を促進し、低炭素社会にふさわしいライフスタイルの自発的な変革を創出することを目的として、ナッジ等の行動科学の知見に基づく新たな政策手法の検証を行いました。具体的には、家庭部門に加え運輸部門や業務部門、また、学校教育や医療・健康等の現場を対象に、電気、ガス、灯油、自動車燃料等の使用に伴うエネルギー消費やCO2排出実態に係るデータを収集、解析し、ナッジやブースト等の行動インサイトとAI/IoT(BI-Tech)を活用して一人一人にパーソナライズされたメッセージをフィードバックし、低炭素型の行動変容を促しました。また、2017年4月には産学官連携の日本版ナッジ・ユニット(BEST)を発足し、2019年3月までに計8回の連絡会議を開催し、年次報告書を取りまとめました。

(4)運輸部門の取組

省エネ法に基づき、輸送事業者に対して貨物又は旅客の輸送に係るエネルギーの使用の合理化に関する措置等を推進しています。また、グループ一体としての省エネ取組や複数事業者による省エネ取組を適切に評価する制度等を規定するとともに、ネット通販の拡大に伴う増エネ懸念に対処し、新たに荷受側にも省エネ努力を求めるため、省エネ法の改正法が2018年6月に公布され、同年12月に施行されました。

自動車単体対策としては、自動車燃費の改善、車両・インフラに係る補助制度・税制支援等を通じたクリーンエネルギー自動車の普及促進等を行いました。また、環状道路等幹線道路ネットワークをつなぐとともに、今ある道路の運用改善や小規模な改良等により、道路ネットワーク全体の機能を最大限に発揮する「賢く使う」取組等の交通流対策やLED道路照明灯の整備を行いました。さらに、改正された流通業務の総合化及び効率化に関する法律(物流総合効率化法)(平成17年法律第85号)に基づく総合効率化計画の認定等を活用し、環境負荷の小さい効率的な物流体系の構築を促進しました。そして、共同輸配送、モーダルシフト、大型CNGトラック導入、貨客混載等の取組について支援を行いました。加えて、港湾の最適な選択による貨物の陸上輸送距離の削減、港湾における総合的な低炭素化等を推進するとともに、グリーン物流パートナーシップ会議を通じて、荷主や物流事業者等の連携による優良事業の表彰や普及啓発を行いました。さらに、省エネ法のトップランナー制度における乗用車の燃費基準について、2018年3月より総合資源エネルギー調査会省エネルギー小委員会自動車判断基準ワーキンググループ及び交通政策審議会陸上交通分科会自動車部会自動車燃費基準小委員会の合同審議会において審議を進めています。

鉄軌道分野については、省エネ車両や回生電力の有効活用に資する設備の導入により、鉄軌道ネットワーク全体の省エネルギー化を行いました。

内航海運分野については、船舶における低炭素機器の導入支援、革新的省エネ技術の実証事業等により、船舶の省エネ・低炭素化を促進しました。国際海運分野については、国際海事機関(IMO)において2018年4月に採択された、今世紀中可能な限り早期に国際海運分野からの温室効果ガス排出をゼロとすること等を目標にする「GHG削減戦略」の策定を主導しました。このほかにも国際航海船舶の燃費規制強化の議論のコーディネーターを我が国が務めるなど、国際海運の地球温暖化対策に積極的に貢献しました。

航空分野については、国際民間航空機関(ICAO)において国際航空分野の温室効果ガス排出削減に向けた国際的枠組みづくりの議論を主導するとともに、飛行経路の短縮を可能とする広域航法(RNAV)の導入等の航空交通システムの高度化や地上動力装置(GPU)の利用促進等の環境に優しい空港(エコエアポート)の推進等を行いました。

(5)エネルギー転換部門の取組

太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱、バイオマス等の再生可能エネルギーは、地球温暖化対策に大きく貢献するとともに、エネルギー源の多様化に資するため、国の支援策によりその導入を促進しました。また、ガスコージェネレーションやヒートポンプ、燃料電池等、エネルギー効率を高める設備等の普及も推進してきました。さらに、二酸化炭素回収・貯留(CCS)の導入に向け、技術開発や貯留適地調査等を実施しました。

電気事業分野における地球温暖化対策については、2016年2月に環境大臣・経済産業大臣が合意し、電力業界の自主的枠組みの実効性・透明性の向上等を促すとともに、省エネ法やエネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(エネルギー供給構造高度化法)(平成21年法律第72号)に基づく基準の設定・運用の強化等により、2030年度の削減目標やエネルギーミックスと整合する2030年度に排出係数0.37kg-CO2/kWhという目標を確実に達成していくために、電力業界全体の取組の実効性を確保していくこととしています。また、これらの取組が継続的に実効を上げているか、毎年度、その進捗状況を評価し、目標が達成できないと判断される場合には、施策の見直し等について検討することとしています。これを受けて、2017年12月、政府としては、産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会資源・エネルギーワーキンググループを開催し、電力業界の自主的枠組みの評価・検証を行いました。また、環境省は、2018年3月、電気事業分野における地球温暖化対策の進捗状況の2017年度の評価結果を公表しました。さらに、第5次エネルギー基本計画(2018年7月閣議決定)において、非効率な石炭火力に対して、新設を制限することを含めたフェードアウトを促す仕組み等を講じていくことが明記されたことを踏まえ、総合資源エネルギー調査会省エネルギー小委員会火力発電に係る判断基準ワーキンググループを開催し、石炭火力の新設基準の見直しを行いました。

5 エネルギー起源CO2以外の温室効果ガスの排出削減対策

(1)モントリオール議定書に基づく取組

2016年10月、ルワンダ・キガリにおいて、モントリオール議定書第28回締約国会合(MOP28)が開催され、HFCの生産及び消費量の段階的削減を求める議定書の改正(キガリ改正)が採択されました。本改正を踏まえ、中央環境審議会地球環境部会フロン類等対策小委員会・産業構造審議会製造産業分科会化学物質政策小委員会フロン類等対策ワーキンググループ合同会議を開催し、2017年11月に「モントリオール議定書キガリ改正を踏まえた今後のHFC規制のあり方について」を公表しました。さらに、2018年6月には、特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律の一部を改正する法律(平成30年法律第69号)が成立し、キガリ改正の発効日である2019年1月1日に施行されました。

(2)非エネルギー起源CO2、メタン及び一酸化二窒素に関する対策の推進

廃棄物の発生抑制、再使用、再生利用の推進により化石燃料由来廃棄物の焼却量の削減を推進するとともに、有機性廃棄物の直接最終処分量の削減や、全連続炉の導入等による一般廃棄物焼却施設における燃焼の高度化等を推進しました。

下水汚泥の焼却に伴う一酸化二窒素の排出量を削減するため、下水汚泥の燃焼の高度化や、一酸化二窒素の排出の少ない焼却炉及び下水汚泥固形燃料化施設の普及、下水道革新的技術実証事業における温室効果ガス削減を考慮した汚泥焼却技術の実証を実施しました。

(3)代替フロン等4ガスに関する対策の推進

代替フロン等4ガス(HFC、PFC、SF6、NF3)は、オゾン層は破壊しないものの強力な温室効果ガスであるため、京都議定書の対象(NF3については2013年からの第二約束期間にて追加)とされています。その排出量の削減に向け、産業界の取組に関しては、自主行動計画の進捗状況の評価・検証を行うとともに、行動計画の透明性・信頼性及び目標達成の確実性の向上を図りました。また、代替フロン等4ガスのHFCの排出量削減に向け、業務用冷凍空調機器からの冷媒フロン類の回収を徹底するため、フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(平成13年法律第64号。以下「フロン排出抑制法」という。)に基づき、フロン類の回収及び再生・破壊を進めました。また、特定家庭用機器再商品化法(平成10年法律第97号。以下「家電リサイクル法」という。)、使用済自動車の再資源化等に関する法律(平成14年法律第87号。以下「自動車リサイクル法」という。)に基づき、家庭用の電気冷蔵庫・冷凍庫、電気洗濯機・衣類乾燥機、ルームエアコン及びカーエアコンからのフロン類の適切な回収を進めました。

代替フロン等4ガスの中でも、HFCについては、冷凍空調機器の冷媒用途を中心に、CFC、HCFCからHFCへの転換が進行していることから、排出量が増加傾向にあります。また、冷凍空調機器の廃棄時のみではなく、使用中においても経年劣化等により冷媒フロン類が機器から漏えいするため、今後は代替フロン等4ガスの排出量が、冷媒HFCを中心に急増すると見込まれています(図1-1-12)。

図1-1-12 代替フロン等4ガス(京都議定書対象)の排出量推移

このため、従前の特定製品に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する法律(フロン回収・破壊法)が2013年6月に改正され、法律名称をフロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律(フロン排出抑制法)と改め、新たにフロン類製造・輸入業者に対するフロン類の転換・再生利用等、フロン類使用製品(冷凍空調機器等)の製造・輸入業者に対するノンフロン又は低GWP(温室効果)の製品への転換、業務用の冷凍空調機器ユーザーに対する定期点検等によるフロン類の漏えい防止等、冷媒の充填における登録された業者による適正な実施を求めるとともに、フロン類の再生業を導入し、2015年4月に施行されました(図1-1-13)。

図1-1-13 フロン排出抑制法の概要

また、冷媒にフロン類を用いない省エネ型自然冷媒冷凍等装置の導入を促進するための補助事業等を実施しています。

2018年度は、昨年度に引き続き全国で説明会を実施し、2016年度から始まったフロン類算定漏えい量報告・公表制度等の周知を行うとともに、業務用冷凍空調機器を使用する事業者から報告のあったフロン類算定漏えい量報告の集計結果の公表を行いました。

6 森林等の吸収源対策、バイオマス等の活用

土地利用、土地利用変化及び林業部門(LULUCF)については、京都議定書第二約束期間のルールに則して、森林経営等の対象活動による吸収量について目標を定めています。具体的には、地球温暖化対策計画に基づき、森林吸収源対策により、2020年度に約3,800万トンCO2以上、2030年度に約2,780万トンCO2、都市緑化等の推進により、2020年度に約120万トンCO2、2030年度に約120万トンCO2、農地土壌炭素吸収源対策により、2020年度に708~828万トンCO2、2030年度に696~890万トンCO2の吸収量を確保することとしています。

この目標を達成するため、森林吸収源対策として、森林・林業基本計画等に基づき、多様な政策手法を活用しながら、適切な間伐や造林等を通じた健全な森林の整備、保安林等の適切な管理・保全、効率的かつ安定的な林業経営の育成に向けた取組、国民参加の森林づくり、木材及び木質バイオマスの利用等を推進しました。また、森林吸収源対策の着実な推進に向けた財源確保について引き続き検討し、市町村が実施する森林整備等に必要な財源に充てるため、都市・地方を通じて、国民一人一人が等しく負担を分かち合って、国民皆で、温室効果ガス吸収源等としての重要な役割を担う森林を支える仕組みとして、森林環境税及び森林環境譲与税を創設し、2019年度から譲与を開始することとなりました。

都市における吸収源対策として、都市公園整備や道路緑化等による新たな緑地空間を創出し、都市緑化等を推進しました。さらに、農地土壌の吸収源対策として、炭素貯留量の増加につながる土壌管理等の営農活動の普及に向け、炭素貯留効果等の基礎調査、地球温暖化防止等に効果の高い営農活動に対する支援を行いました。

7 国際的な地球温暖化対策への貢献

(1)開発途上国への支援の取組

途上国では深刻な環境汚染問題を抱えており、2018年に開催された世界保健機関(WHO)の大気汚染と健康に関する国際会議でも、地球温暖化対策と環境改善を同時に実現できるコベネフィット・アプローチの有効性が認識されています。我が国では2007年12月から本アプローチに係る途上国との協力を進めており、石炭焚き熱供給ボイラの改良による大気汚染物質と温室効果ガスの同時削減効果や、高濃度汚水の処理に係る水質汚濁物質と温室効果ガスの同時削減効果について確認しています。また、2010年から「アジア・コベネフィット・パートナーシップ」の活動支援を通して、アジア地域におけるコベネフィット・アプローチの推進・普及を実施しています。

途上国が「一足飛び(リープフロッグ)」に低炭素社会へ移行できるよう、JCMを通じて、都市間連携を活用し、日本の自治体が持つ経験を基に、制度・ノウハウ等を含め優れた低炭素技術を途上国に大規模に展開するための支援や、アジア開発銀行(ADB)等と連携したプロジェクトへの資金支援を実施しました。

加えて、気候変動による影響に脆(ぜい)弱である島嶼(しょ)国に対し、気候変動への適応・エネルギー・水・廃棄物分野への対応に関する支援や、研究者によるネットワーク設立に向けた支援など、様々な環境問題を支援する取組を行っています。

森林の減少及び土地利用の変化に伴う温室効果ガス排出量は世界全体の人為的な排出量の約1割を占めるとされており、2015年12月にCOP21で採択されたパリ協定においては、森林を含む吸収源の保全及び強化に取り組むこと(5条1項)に加え、途上国の森林減少及び劣化に由来する温室効果ガスの排出の削減等(REDD+)の実施及び支援を推奨すること(同2項)などが定められました。また、REDD+を推進するため、JCMにおけるREDD+の実施ルールの検討及び普及を行いました。

(2)アジア太平洋地域における取組

環境省は、2018年7月、都内において、気候変動枠組条約事務局等との共催により、「適応委員会(AC)専門家会合」及び「第27回気候変動に係るアジア太平洋地域セミナー(APセミナー)」を開催しました。両会合にはアジア太平洋地域のみならず、世界中から各国政府、国際機関・研究機関等の適応関係者約75名が参加し、活発な意見交換が行われました。

AC専門家会合においては、ACの三か年作業計画の一環として検討が位置付けられている三つのグローバルアジェンダ(パリ協定の下での適応、SDGs、仙台防災枠組)の国レベルでの実施方法、モニタリング・評価における指標設定と活用について、専門家の知見も得ながら、認識を共有しました。さらに異なる機関間の協調、各レベルの関係者に対する能力強化等についても議論を行いました。

APセミナーにおいては、AC専門家会合の議論を掘り下げることを目的に、三つのグローバルアジェンダの地方レベルからグローバルレベルでの統合について、議論が行われました。

(3)JCMの推進に関する取組

環境性能に優れた先進的な低炭素技術・製品の多くは、一般的に導入コストが高く、途上国への普及に困難が伴うという課題があります。このため、途上国への優れた低炭素技術・製品・システム・サービス・インフラ等の普及や対策実施を通じ、実現した排出削減・吸収への我が国の貢献を定量的に評価するとともに、我が国の削減目標の達成に活用するJCMを構築・実施してきました。こうした取組を通じ、途上国の負担を下げながら、優れた低炭素技術の普及を促進しています。

2030年までの国際協力の取組として、コ・イノベーションを可能とする環境・基盤の整備に向けJCMプロジェクトで導入した技術の現地基準へのスペックインやプロジェクトを契機とした新たな市場の開拓等、技術導入の基盤となる制度や市場変革につながる事例も生まれています。

これまでにクレジットの獲得を目指す環境省JCM資金支援事業のほか、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による実証事業を実施しており、17か国とJCMを構築しています(表1-1-3)。

表1-1-3 JCMパートナー国ごとの進捗状況
(4)短寿命気候汚染物質に関する取組

ブラックカーボン、メタン、HFC等の短寿命気候汚染物質については、その対策が短期的な気候変動防止と大気汚染防止の双方に効果があるとして国際的に注目されており、2012年2月に米国、スウェーデン等により立ち上げられた「短寿命気候汚染物質(SLCP)削減のための気候と大気浄化のコアリション(CCAC)」に、2012年4月に我が国も参加を表明しました。2017年11月にはCOP23の場でCCAC閣僚級会合が開催され、廃棄物分野や農業分野をはじめとしたSLCP対策の重要性を再確認したボンコミュニケが採択されました。2017年9月にはCCACに対して、ブラックカーボンの排出インベントリ作成や排出削減等に関する国内の取組をまとめたレポートを提出しました。

8 横断的施策

(1)低炭素型の都市・地域構造及び社会経済システムの形成

都市の低炭素化の促進に関する法律に基づく低炭素まちづくり計画策定支援をこれまで17都市に行いました。計画に基づく都市機能の集約を図るための拠点となる地域の整備を都市再生整備事業で行うことにより、低炭素型都市構造を目指した都市づくりを総合的に推進しました。

低炭素なまちづくりの一層の普及のため、温室効果ガスの大幅な削減など低炭素社会の実現に向け、高い目標を掲げて先駆け的な取組にチャレンジする23都市を環境モデル都市(表1-1-4)として選定しており、各自治体の2017年度の取組評価及び2016年度の温室効果ガス排出量等のフォローアップを行いました。

表1-1-4 環境モデル都市一覧

都市の低炭素化をベースに、環境・超高齢化等を解決する成功事例を都市で創出し、国内外に展開して経済成長につなげることを目的として、2011年度に東日本大震災の被災地域6都市を含む11都市を環境未来都市(表1-1-5)として選定しており、引き続き各都市の取組に関する普及展開等を実施しました。さらに、地域特性・資源を踏まえた低炭素で災害に強い地域に向けた地域の防災拠点への自立・分散型エネルギーの導入支援を行いました。

表1-1-5 環境未来都市一覧

2018年度需要家側エネルギーリソースを活用したバーチャルパワープラント構築実証事業費補助金により、工場や家庭等が有する蓄電池や発電設備、ディマンドリスポンス等のエネルギーリソースをIoT技術により統合制御し、電力の需給調整に活用する、いわゆるバーチャルパワープラントの構築に向けた実証事業を行いました。また、2018年度地域の特性を活かしたエネルギーの地産地消促進事業費補助金により、工場の未利用排熱、地下水熱等の再生可能エネルギー熱といった地域のエネルギーをその地域で活用する、地産地消型エネルギーシステムの構築支援(事業計画の策定やシステム構築等の支援)を実施し、再生可能エネルギーの更なる普及やエネルギーの効率的な利用を推進しました。

交通システムに関しては、公共交通機関の利用促進のための鉄道新線整備の推進、環状道路等幹線道路ネットワークをつなぐとともに、今ある道路の運用改善や小規模な改良等により、道路ネットワーク全体の機能を最大限に発揮する「賢く使う」取組等、交通流対策等を行いました。

再生可能エネルギーの導入に関して、2013年10月から国内初の本格的な2MWの浮体式洋上風力発電の運転を開始し、本格的な運転データ、環境影響・漁業影響の検証、安全性・信頼性に関する情報を収集し、事業性の検証を行いました。2016年度からは、洋上風力発電の事業化を促進するため、施工の低コスト化・低炭素化や効率化等の手法の確立及び効率的かつ正確な海域動物・海底地質等の調査手法の確立に取り組んでいます。

再生可能エネルギー電気・熱自立的普及促進事業により、地方公共団体等の積極的な参画・関与を通じて各種の課題に適切に対応する再生可能エネルギーの導入を行いました。また、公共施設等先進的CO2排出削減対策モデル事業により、複数の公共施設等が存在する地区内で再エネ設備を導入し、自営線等を整備、電力を融通する自立・分散型のエネルギーシステムを複数構築し、システム間において自己託送等で電力を融通することにより、地区を越えた地域全体でCO2排出削減に取り組む事業の構築を支援しました。また、農地等における営農を前提とした再生可能エネルギーシェアリングモデルシステムの構築と導入の推進を行い、地域や農業と調和した再生可能エネルギーを導入するモデル事例を創出しました。

このほか、近年、RE100やSBT(Science Based Targets)のように、再生可能エネルギーを指向する需要家が増えてきていますが、需要と供給を結びつけるためには、再生可能エネルギーの価値を市場で取引できるようにする必要があります。この観点から、2018年度より、自立分散・自家消費型の再生可能エネルギーのCO2削減価値を属性情報とともに遠隔地間で売買取引するプラットフォーム実証を実施し、ブロックチェーン技術での価値の移転の記録に成功しました。

(2)水素社会の実現

水素は、利用時にCO2を排出せず、製造段階に再生可能エネルギーやCCSを活用することで、トータルでCO2フリーなエネルギー源となり得ることから、脱炭素社会実現の重要なエネルギーとして期待されています。また、水素は再生可能エネルギーを含め多種多様なエネルギー源から製造し、貯蔵・運搬することができるため、一次エネルギー供給構造を多様化させることができ、一次エネルギーのほぼ全てを海外の化石燃料に依存する我が国において、エネルギー安全保障の確保と温室効果ガスの排出削減の課題を同時並行で解決していくことにも大いに貢献するものです。

水素利用については、家庭用燃料電池(エネファーム)や燃料電池自動車(FCV)の普及が先行しており、導入拡大に向けた支援を行いました。また、水素の供給インフラについても、商用水素ステーションが全国約103か所(2019年3月末時点)、再エネ由来の水素を活用する比較的規模の小さなステーションが全国26か所(2019年3月末時点)で開所するなど、世界に先駆けて整備が進んでいます。さらに、燃料電池バス・燃料電池フォークリフト等の産業車両への導入支援や水素発電の技術開発実証など、水素需要の更なる拡大に向けた取組を進めました。

水素の本格的な利活用に向けては、水素をより安価で大量に調達することが必要です。このため、海外の褐炭等の未利用エネルギーから水素を製造し、国内に水素を輸送する国際水素サプライチェーン構築実証を行いました。また、製造時にもCO2を排出しない、トータルでCO2フリーな水素の利活用拡大に向けては、再生可能エネルギーの導入拡大や電力系統の安定化に資する技術として、太陽光発電といった自然変動電源の出力変動を吸収し、水素に変換・貯蔵するPower-to-gas技術の実証も行いました。さらにこれに加え、地域の未利用資源(再生可能エネルギー、副生水素、使用済みプラスチック、家畜ふん尿等)から製造した水素を純水素燃料電池、FCV、燃料電池フォークリフト等で利用する、地産地消型の低炭素水素サプライチェーンの構築実証等も行いました。

一方、水素社会の実現には、技術面、コスト面、インフラ面等でいまだ多くの課題が存在しており、官民一体となった取組を進めていくことが重要です。このような観点を踏まえて決定された「水素基本戦略」(2017年12月再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議決定)では、水素社会実現に向けて官民が共有すべき方向性・ビジョンを示しています。引き続き、同戦略に沿って、水素社会実現に向けた取組を官民連携の下で進めていきます。

水素がビジネスとして自立するためには国際的なマーケットの創出が重要です。そこで、2018年10月に経済産業省及びNEDOが主催して、世界で初めて水素社会の実現をメインテーマとした閣僚レベルが議論を交わす「水素閣僚会議」を東京で開催しました。21の国・地域・機関から閣僚等が集まり、水素に関する国際連携の重要性やグローバルな水素利活用に向けた政策の方向性を共有するとともに、その成果を議長を務めた世耕弘成経済産業大臣より「Tokyo Statement(東京宣言)」として発出しました。今後はTokyo Statementに基づいて各国と連携を進めていきます。

(3)温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度

地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号。以下「地球温暖化対策推進法」という。)に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度により、温室効果ガスを一定量以上排出する事業者に、毎年度、排出量を国に報告することを義務付け、国が報告されたデータを集計・公表しています。

全国の1万2,432事業者(1万4,930事業所)及び1,353の輸送事業者から報告された2015年度の排出量を集計し、2018年8月に結果を公表しました。今回報告された排出量の合計は6億9,460万トンCO2で、我が国の2015年度排出量の約5割に相当します。

(4)排出抑制等指針

地球温暖化対策推進法により、事業者が事業活動において使用する設備について、温室効果ガスの排出の抑制等に資するものを選択するとともに、できる限り温室効果ガスの排出量を少なくする方法で使用するよう努めること、また、国民が日常生活において利用する製品・サービスの製造等を事業者が行うに当たって、その利用に伴う温室効果ガスの排出量がより少ないものの製造等を行うとともに、その利用に伴う温室効果ガスの排出に関する情報の提供を行うよう努めることとされています。こうした努力義務を果たすために必要な措置を示した、排出抑制等指針を策定・公表することとされており、これまでに産業部門(製造業)、業務部門、上水道・工業用水道部門、下水道部門、廃棄物処理部門、日常生活部門において策定しました。

(5)国民運動の展開

2015年度から実施している国民運動「COOL CHOICE」では、賛同企業・団体等の協力を得て、全国津々浦々に低炭素型の製品、サービス、ライフスタイルなど、温暖化対策に資する「賢い選択」を促しました。

国民運動「COOL CHOICE」の促進に当たっては、2016年5月から環境大臣がチーム長となり、経済界、地方公共団体、消費者団体、メディア、NPO、関係省庁等をメンバーとして設置された「COOL CHOICE推進チーム」において、普及啓発の進め方や基本的な方針、実施計画、その他国民の消費生活やライフスタイル転換のための取組について様々なアイディアやアドバイスをいただき、効果的な展開を図りました。

写真1-1-2 城内環境副大臣出席の下で第6回COOL CHOICE推進チームを開催

また、チームの下に設置された作業グループ(省エネ家電、省エネ住宅、エコカー、低炭素物流、ライフスタイル)において、各分野ごとの普及啓発の推進について検討し、機動的に活動しました。

夏期には、冷房時の室温を28℃で快適に過ごすライフスタイル「クールビズ」を推奨しました。また、クールビズの一環として、一人一台のエアコン使用をやめ、涼しい場所をみんなで共有する「クールシェア」も呼び掛けました。

冬期には、暖房時の室温を20℃で快適に過ごすライフスタイル「ウォームビズ」を推奨しました。また、家族やご近所同士が一つの部屋や場所に集まったり、気軽に立ち寄りみんなで暖かく過ごせる公共施設等を利用することで、暖房使用によるエネルギー消費を削減する「ウォームシェア」も呼び掛けました。

さらに、通年の取組として、よりCO2排出量の少ない移動に取り組む「smart move(スマートムーブ)」を推進し、エコだけでなく、便利で快適なライフスタイルを呼び掛けました。

加えて、CO2削減につながる環境負荷の軽減に配慮した自動車利用への取組として「エコドライブ」も推進し、環境にやさしく、安全運転にもつながるエコドライブの取組を呼び掛けました。

これらの取組のほか、2018年11月26日から12月2日までの間に、地球温暖化の現状を知り、低炭素型の製品への買換・サービスの利用・ライフスタイルの選択などの「賢い選択」を広く国民や企業の皆様に実践していただくことを集中的に呼びかけていく「COOL CHOICEチャレンジ」を実施しました。

(6)「見える化」等の推進

温室効果ガス排出量の「見える化」とは、商品やサービスの製造等に伴う温室効果ガスの排出量を定量的に可視化することなどを言います。政府では、民間事業として実施されている「カーボンフットプリントコミュニケーションプログラム」と連携し、「カーボンフットプリントを活用したカーボン・オフセット制度」の運用を通じて温室効果ガス排出量の見える化を促進しています。なお、2019年3月末時点でカーボンフットプリントコミュニケーションプログラムの製品カテゴリールール(PCR)の累計数は108件、認定商品数は累計で1,592件となっています。また、事業者において、原料調達・物流・製造・使用・廃棄等サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量の「見える化」及び削減を促進するため、事業者向けセミナーの開催・個社別算定支援等を行いました。さらに、前述した家庭エコ診断等において、家庭におけるCO2排出量の「見える化」を推進しています。日本企業の環境性能の高い製品やサービス等が、グローバル市場に導入され、普及することによる世界全体の排出削減貢献の見える化を促進しています。2018年度は、ポーランドで開催されたCOP24において排出削減貢献の見える化に関するサイドイベントを開催し、グローバル・バリューチェーン全体でCO2の排出削減を図ることの意義を世界の産業界と共有しました。引き続き、企業活動におけるグローバル・バリューチェーンを通じた排出削減貢献の透明性向上と取組の更なる拡充を進めていきます。

(7)国内排出量取引制度

国内排出量取引制度については、2005年度から2013年度まで、確実かつ費用効率的な削減と取引等に係る知見・経験を蓄積するため、自主参加型国内排出量取引制度(JVETS)を実施し、2008年度から2013年度まで「排出量取引の国内統合市場の試行的実施」における試行排出量取引スキームを実施しました。

2010年12月には、地球温暖化問題に関する閣僚委員会において、国内排出量取引制度を含む地球温暖化対策の主要3施策についての政府方針を取りまとめ、国内排出量取引制度について、地球温暖化対策の柱としつつ、我が国の産業に対する負担やこれに伴う雇用への影響、海外における排出量取引制度の動向とその効果、国内において先行する主な地球温暖化対策(産業界の自主的な取組等)の運用評価、主要国が参加する公平かつ実効性のある国際的な枠組みの成否等を見極め、慎重に検討を行うこととしました。

その後、2016年5月に策定された地球温暖化対策計画では、国内排出量取引制度について、「我が国産業に対する負担やこれに伴う雇用への影響、海外における排出量取引制度の動向とその効果、国内において先行する主な地球温暖化対策(産業界の自主的な取組等)の運用評価等を見極め、慎重に検討を行う」とされており、これを踏まえて、海外における制度の動向やその効果等について調査し、検討を行いました。

(8)J-クレジット、カーボン・オフセット

国内の多様な主体による省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用等による排出削減対策及び適切な森林管理による吸収源対策を引き続き積極的に推進していくため、低炭素社会実行計画の目標達成やカーボン・オフセット等に活用できるクレジットを認証するJ-クレジット制度を着実に実施しました。また、J-クレジットの対象となるプロジェクトの拡充や認証プロセスの効率化により、制度の円滑な運営を図るとともに、認証に係る事業者等への支援やクレジットの売り手と買い手のマッチング機会を提供するなど制度活用を促進するための取組を強化しました。2019年1月末時点で、J-クレジット制度の対象となる方法論は61種類あり、これまで31回の認証委員会を開催し、省エネ・再エネ設備の導入や森林管理に関するプロジェクトを760件登録し、また登録プロジェクトから、累計597回の承認、累計405万トンCO2のクレジット認証をしました。J-クレジット制度の活用により、中小企業や農林業等の地域におけるプロジェクトにカーボン・オフセットの資金が還流するため、地球温暖化対策と地域振興が一体的に図られました。

「カーボン・オフセット」とは、市民、企業等が、自らの温室効果ガスの排出量を他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量(クレジット)の購入や、他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動の実施等により、排出量の全部又は一部を埋め合わせるという考え方です。また、「カーボン・ニュートラル」は、カーボン・オフセットの深化版として、より広い範囲の排出量を対象とし、排出量の全部を埋め合わせるという考え方です。適切なカーボン・オフセットの普及促進のため、「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」(2014年3月)に基づき活動を行ってきており、2017年4月からは環境省の公開する文書に準拠しながら民間主導でカーボン・オフセット宣言が行われています。

2012年11月から、算定されたカーボンフットプリント(CFP)等の値を活用してカーボン・オフセットを行い、専用のマーク(どんぐりマーク)を添付する「カーボンフットプリントを活用したカーボン・オフセット制度」を開始し、2018年4月に従来の事務局による制度認証から、規程に則った実施事業者による自主的な制度認証(自主宣言)へと移行しました。

(9)金融のグリーン化

温室効果ガスの大幅削減を実現し、低炭素社会を創出していくには、必要な温室効果ガス削減対策に的確に民間資金が供給されることが必要です。このため、金融を通じて環境への配慮に適切なインセンティブを与え、資金の流れをグリーン経済の形成に寄与するものにしていくための取組(金融のグリーン化)を進めることが重要です。

詳細については、第6章第2節を参照。

(10)排出量・吸収量算定方法の改善等

気候変動枠組条約に基づき、温室効果ガスインベントリの報告書を作成し、排出量・吸収量の算定に関するデータとともに条約事務局に提出しました。また、これらの内容に関して、条約事務局による審査の結果等を踏まえ、その算定方法の改善等について検討しました。

(11)地球温暖化対策技術開発・実証研究の推進

地球温暖化の防止に向け、革新技術の高度化、有効活用を図り、必要な技術イノベーションを推進するため、再生可能エネルギーの利用、エネルギー使用の合理化だけでなく、窒化ガリウム(GaN)やセルロースナノファイバー(CNF)等の新素材の活用によるエネルギー消費の大幅削減、燃料電池や水素エネルギー、蓄電池、熱を活用した蓄エネルギー、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)等に関連する技術の開発・実証、普及を促進しました。

農林水産分野においては、農林水産省地球温暖化対策計画及び農林水産省気候変動適応計画に基づき、地球温暖化対策に係る研究及び技術開発を推進しました。

この一環として、2018年9月まで、農業分野の温室効果ガス排出削減に関する研究ネットワークであるグローバル・リサーチ・アライアンス(GRA)の議長国を務めるとともに、農業分野における温室効果ガス削減技術の開発に係る海外の研究者との共同研究を推進しました。

温室効果ガスの排出削減技術の開発として、畜産分野における温室効果ガスの排出を低減する飼養管理技術等の開発を推進しました。

農林水産分野における温暖化適応技術については、人工林生産能力の予測技術を開発し、気候変動がスギ人工林へ及ぼす影響の評価を行うとともに、温暖化の進行に適応する農作物の品種・育種素材及び生産安定技術、山地災害リスクを低減させる森林管理手法、亜熱帯性赤潮等の予測技術等の開発を推進しました。

9 公的機関における取組

(1)政府実行計画

政府における取組として、地球温暖化対策推進法に基づき、自らの事務及び事業から排出される温室効果ガスの削減を定めた「政府がその事務及び事業に関し温室効果ガスの排出の抑制等のため実行すべき措置について定める計画(政府実行計画)」を2016年5月に閣議決定しました。この計画では、2016年度から2030年度までの期間を対象としており、2013年度を基準として、政府全体の温室効果ガス排出量を2030年度までに40%、中間目標として2020年度までに10%削減するという目標を設定し、LED照明の率先導入等の措置を講ずることとしています。

各府省庁は温室効果ガスの削減に取り組み、2017年度は基準年度である2013年度に比べ5.5%の削減を達成しています。

(2)地方公共団体実行計画

地球温暖化対策推進法に基づき、都道府県及び市町村は、地球温暖化対策計画を勘案し、その区域の自然的社会的条件に応じて、温室効果ガスの排出の抑制等のための総合的かつ計画的な施策を策定し、及び実施するように努めるものとされ、特に都道府県、指定都市、中核市及び施行時特例市は、地域における再生可能エネルギーの導入拡大、省エネルギーの推進等を盛り込んだ地方公共団体実行計画(区域施策編)の策定が義務付けられています。

このため、地方公共団体実行計画策定・実施マニュアルの公表や地方公共団体職員向けの説明会等を実施するなどして、より多くの地方公共団体が実効的な計画を策定・実施するよう取り組んでおり、2018年10月時点で、施行時特例市以上では100%、全体では29.3%の都道府県・市区町村が計画を策定しました。

全ての地方公共団体は、自らの事務・事業に伴い発生する温室効果ガスの排出削減等に関する地方公共団体実行計画(事務事業編)の策定が義務付けられており、2018年10月時点で85.6%の都道府県・市区町村が計画を策定しました。

これらの地域の計画推進を後押しするため、「地方公共団体実行計画策定支援サイト」や地方公共団体職員向けの掲示板、地方公共団体メーリングリスト等を活用した情報発信を行いました。

地球温暖化対策推進法に基づき、引き続き都道府県や指定都市等において、地域における普及啓発活動や調査分析の拠点としての地域地球温暖化防止活動推進センター(地域センター)の指定や、地域における普及啓発活動を促進するための地球温暖化防止活動推進員を委嘱し、さらに関係行政機関、関係地方公共団体、地域センター、地球温暖化防止活動推進員、事業者、住民等により地球温暖化対策地域協議会を組織することができることとし、これらを通じパートナーシップによる地域ごとの実効的な取組の推進等が図られるよう継続して措置しました。

2016年度からは、地球温暖化対策計画に掲げる温室効果ガス削減目標の達成に資する再生可能エネルギー設備導入等を補助する「再生可能エネルギー電気・熱自立的普及促進事業」と事務事業編に基づくPDCA体制の強化・拡充及び省エネルギー設備導入等を補助する「地方公共団体カーボン・マネジメント強化事業」を実施しました。

「地域の多様な課題に応える低炭素な都市・地域づくりモデル形成事業」により、地方公共団体と地元企業の連携のもと地域資源を活用した環境社会調和型の再エネ事業のモデル事例を構築することを目的として、当該取組を実施しようとする地方公共団体を対象に、排出削減に関連する行政計画との整合を図りつつ、地方公共団体実行計画に位置付ける具体的施策について事業計画の策定や実現可能性調査を支援しました。

地方公共団体の戦略的な参画又は関与の下、市民、地元企業、地域金融機関等の地域の資金による出資を促し、地域の再生可能エネルギー等から得られる低炭素な電力供給を主導する小売電気事業と相まって地域の低炭素化等を推進する仕組みを構築する事業体を普及させることを目的とした「地域低炭素化推進事業体設置モデル事業」を実施しました。