環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第3章>第5節 環境保全にも資する働き方改革

第5節 環境保全にも資する働き方改革

1 テレワークによる環境保全効果

テレワークはICTを活用した時間と場所を有効に活用できる柔軟な働き方のことで、ワーク・ライフ・バランスの向上や通勤による疲労軽減、地方における就業機会の増加等の効果に加えて、移動に伴うCO2排出量の削減やペーパーレス化等の環境保全効果も期待されています。

総務省の試算によれば、一定規模以上の人員を対象にテレワークを導入するとともに、オフィスのフリーアドレス化、フロア単位の輪番消灯・間引き消灯の実施、エアコン利用時間・スペースの縮小等を行うことにより、オフィス自体の電力消費量は一人当たり43%削減可能であり、テレワーク導入による家庭での電力消費量の増加を考慮しても、オフィス・家庭全体で電力消費量は、一人当たり14%削減可能と試算されています(図3-5-1)。

図3-5-1 テレワークによるオフィスでのCO2削減効果

また、オフィスとは異なる場所で仕事をするテレワークでは、仕事に必要な書類等を電子化することによってペーパーレス化が図られます。ペーパーレス化により、仕事の効率化が図られるとともに、紙の書類を保管するスペースの節約にもつながります。佐賀県では、在宅勤務の導入に伴うペーパーレス化により、2014年度は2012年度と比べて14.4%の紙経費の削減につながったと試算しています。

事例:テレワーク・デイにおける交通混雑緩和と環境保全効果

2012年ロンドンオリンピック・パラリンピック競技大会では、交通混雑によってロンドン市内での移動に支障が生じるとの予測から、市内の企業の約8割がテレワークを導入しました。2020年東京大会でもテレワークは交通混雑の回避の切り札と考えられています。

政府では、東京オリンピック開会式が行われる7月24日を「テレワーク・デイ」として、全国一斉のテレワークの実施を呼びかけています。2017年のテレワーク・デイには、全国で約950団体・6.3万人がテレワークを実施しました。その結果、東京23区内の500m四方単位で出勤率を分析すると、テレワーク・デイ当日の出勤率が5%以上減少していたエリアが都内の複数地域に存在し、広域的にワーク・シフトが発生しました。このうち、出勤率の著しい減少が見られた豊洲エリアでは8〜19時に人口が約1〜2割減少しました。また、豊洲駅では7〜9時と18〜20時に駅利用者数が最大で約2割減少し、混雑が緩和されました。

また、回答があった全ての団体でオフィスフロアの消費電力量が減少し、その削減率は平均で7.1%、最大で18%となり、ペーパーレス化の効果も報告されています。

2017年テレワーク・デイのバナー

事例:テレワークを含む多様な働き方の推進による環境負荷低減(日本マイクロソフト株式会社)

日本マイクロソフト株式会社では、社員が毎日「いつでも、どこでも、誰とでも」仕事ができる働き方を目指して、この価値観を社員間で共有し、実現するために、2010年以降、2011年の本社移転・オフィス統合に向けて、社員の働き方の多様性の在り方を議論し、推進してきました。働き方の多様性を実現するためには、具体的には、業務の標準化・電子化(システム化、AI化、ペーパーレス化、アウトソースの活用等)、社員間コミュニケーションのオンライン化(PC会議、チャット、PC電話の活用等)、社外利用を前提とした各種デバイス整備やクラウドの活用等に加えて、便利かつ安全安心な労働環境の整備が大きな役割を果たしています。この労働環境整備の具体施策の一つとして、よりフレキシブルな働き方により個人と組織のポテンシャルを最大限発揮するために、テレワーク勤務制度が開始されています。

働き方の多様性推進による成果

同社では2010年から2015年にかけて働き方の多様性を推進した結果、徹底した業務の電子化等による49%のペーパーレス化(紙使用量削減)、オフィスのフリーアドレス化やスポットライト導入に伴う照度調整等やテレワーク活用等による40%のオフィスの電力消費量削減を達成しています。

テレワークを含む多様な働き方の推進が、従前のオフィス環境の在り方を大きく変え、環境負荷低減にも貢献していることが分かります。

オフィス変更前/変更後(フリーアドレスなど)

2 宅配便の再配達削減によるCO2削減効果

(1)宅配便の再配達の状況

インターネットを利用した通信販売(EC)等の拡大により、2006年度に約29.4億個だった宅配便の取扱個数は、2016年度には約40.2億個と、ここ10年で3割近く増加しており、急速な伸びを示しています(図3-5-2)。

図3-5-2 宅配便の取扱個数

一方で、国土交通省が2014年に実施した宅配便に関するサンプル調査では、取扱個数の約2割が再配達となっており、再配達によるトラックドライバーの労働時間の増加は年間で約1.8億時間(約9万人に相当する労働力)と人手不足に拍車をかけているとともに、再配達によるCO2排出量の増加は年間約42万トンに達し、環境負荷の増加を招いています。

今後、高齢化と高齢者におけるインターネット等の利用の普及が進めば、ECの利用は更に増加し、その受け皿となる宅配便の取扱件数も増加することが予想されます。物流部門からのCO2排出抑制やサービスの担い手となるトラックドライバーの不足の観点からも、早急な対策が必要となっています。

(2)宅配便再配達防止における普及啓発

環境省では、経済産業省・国土交通省と連携して、「COOL CHOICEできるだけ1回で受け取りませんかキャンペーン〜みんなで宅配便再配達防止に取り組むプロジェクト〜」を推進しています(図3-5-3)。

図3-5-3 COOL CHOICEできるだけ1回で受け取りませんかキャンペーンロゴマーク

このキャンペーンでは、 再配達によるCO2排出量の増加や長時間労働による社会的損失、1回で受け取るための荷物の送り方や受け取り方等について、国民に分かりやすく伝え、実際の行動へつなげていく、国民運動を展開しています。2018年3月末時点で176団体・企業がこのキャンペーンに賛同しています。

(3)宅配ボックスによる再配達の削減

宅配便の再配達の削減に向けて、政府は2018年1月に決定した総合物流施策推進プログラムにおいて、宅配便の再配達率を2017年度の16%程度から2020年度までに13%程度まで削減することを目標に掲げており、民間事業者とも連携し、消費者も含めた関係者間でのコミュニケーションの強化、受取への消費者参加の推進のための環境整備等の取組に加えて、宅配ボックスの活用等による受取方法の多様化の取組を進めています。

2017年10月の内閣府の「再配達問題に関する世論調査」では、自宅用の宅配ボックスや公共スペースに設置された宅配ロッカーを利用したことがある人の割合は合わせて8.0%にとどまっていますが、今後利用可能な範囲内に宅配ロッカーが設置された場合、42.9%が利用したいと回答しています。

パナソニック株式会社が福井県あわら市で戸建用宅配ボックスを設置した実証実験結果によれば、4か月間の宅配ボックスの設置により、再配達の割合が49%から8%まで削減されるとともに、再配達に伴うCO2排出を約466kg、宅配業者の労働時間を約223時間削減したと試算されています(図3-5-4写真3-5-1)。

図3-5-4 宅配ボックス設置による再配達の削減効果
写真3-5-1 戸建用宅配ボックス

このように、宅配ボックス・宅配ロッカーの設置は再配達削減に大きな効果が期待できることから、国・地方公共団体・宅配事業者・通販事業者等による導入促進のための取組が進められています。

環境省では、2017年度に国土交通省と連携して「オープン型宅配ボックスの導入支援事業」を実施し、駅・コンビニエンスストア等の公共スペースへの宅配ボックスの設置を推進しています。また、宅配ボックス普及促進の取組の一環として、国土交通省の入る中央合同庁舎3号館に宅配ボックスを約1か月間設置し、同省及び環境省職員による体験利用を行うとともに、パネル展示を通じて受取方法の多様化等について周知を行いました。

3 営業時間の見直しや朝型生活へのシフトによるCO2削減効果

(1)営業時間の見直しによるCO2削減

人手不足が深刻化する中、労働環境の改善や生産性の向上等を目的として、小売店や飲食店の深夜営業の見直しや営業時間の短縮を図る動きが見られています。このような営業時間の短縮はエネルギー消費量やCO2排出量の削減という点でも効果があると言われています。

2009年度の埼玉県の調査によれば、24時間営業のコンビニエンスストアの営業時間を6時〜23時として8時間短縮した場合、約10%のCO2排出削減効果があると試算されています。

また、2009年度の八都県市首脳会議環境問題対策委員会の報告書によれば、24時間営業の店舗を最終電車から始発電車までの時間帯において閉店すると仮定した場合、1日当たりのCO2排出量の削減率は、食料品スーパーでは8.7%、コンビニエンスストアでは7.0%、ファミリーレストランでは13.9%と試算されています。

(2)朝型生活へのシフトによるCO2削減

1日の活動時間を前倒しするなど、夜型から朝型の生活へ移行することも、夜間の照明や空調等のエネルギー消費量の削減につながります。朝型生活への移行により、夜の電気の使用時間を1日1時間短縮した場合、1世帯当たりの年間CO2排出量は、照明で約85kg、エアコンで約58kg、テレビで約22kg、合計約165kgのCO2排出削減につながります。

環境省では2010年から朝をテーマにした新しいライフスタイルの取組として「朝チャレ!」を実施しています。また民間企業でも業務効率化や光熱費削減等を目的として、夏季の就業時間を前倒しするサマータイム制度等の取組が広がっています。