環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第4章 東日本大震災及び平成28年熊本地震からの復興と環境回復の取組>第1節 東日本大震災からの復興に係る取組

第4章 東日本大震災及び平成28年熊本地震からの復興と環境回復の取組

第1節 東日本大震災からの復興に係る取組

2011年3月11日に、マグニチュード9.0という日本周辺での観測史上最大の地震が発生し、それによって引き起こされた津波によって、東北地方の太平洋沿岸を中心に広範かつ甚大な被害が生じました。また、東京電力福島第一原子力発電所の事故によって大量の放射性物質が環境中に放出され、被災した多くの方々が避難生活を余儀なくされました。

2017年4月1日までに、双葉町及び大熊町を除いた居住制限区域及び避難指示解除準備区域の避難指示が解除されるという大きな節目がありましたが、被災地では引き続き帰還困難区域における特定復興再生拠点区域の整備や中間貯蔵施設の整備、特定廃棄物の処理等の復興・創生に向けた努力が続けられています。ここでは、被災地における復興・創生に向けた取組を概観します。

1 放射性物質汚染からの環境回復の状況

(1)空間線量率の状況

航空機モニタリングによる、2017年9月時点の東京電力福島第一原子力発電所から80km圏内の地表面から1mの高さの空間線量率の平均は、2011年11月時点と比べて約74%減少しています。東京電力福島第一原子力発電所事故によって放出された放射性物質は、主にヨウ素131、セシウム134、セシウム137で、半減期はそれぞれ約8日、約2年、約30年となっています。放射性物質の物理的減衰と降雨等の自然要因による減衰効果を考慮して、2011年8月時点と比較して2年後に約4割、5年後に約5割減少すると推定されていました。放射線量の減少は、この推定を上回るペースで進んでおり、除染の効果や降雨等の自然現象の影響等によるものと考えられます(図4-1-1)。

図4-1-1 東京電力福島第一原子力発電所80km圏内における空間線量率の分布
(2)水環境における放射性物質の状況

環境省では、2011年から福島県及び周辺地域の水環境における放射性物質のモニタリングを継続的に実施しています。公共用水域(河川、湖沼、沿岸)のうち、2016年度までの沿岸では、水質からは放射性セシウムは全期間を通じて検出されていません。河川及び湖沼については、2013年度以降、福島県以外の水質では放射性セシウムは検出されておらず、福島県の水質においても、検出率及び検出値は減少傾向にあります(図4-1-2)。また、地下水中の放射性セシウムについては、2011年度に福島県において検出されたのみで、2012年度以降検出されていません。

図4-1-2 福島県及びその周辺における公共用水域の放射性セシウムの検出状況
(3)東京電力福島第一原子力発電所事故により放出された放射性物質に係るモニタリング

東京電力福島第一原子力発電所事故により環境中に放出された放射性物質のモニタリングについては、政府が定めた「総合モニタリング計画」(2011年8月モニタリング調整会議決定、2017年4月改定)に基づき、関係府省、地方公共団体、原子力事業者等が連携して実施しています。また、放射線モニタリング情報のポータルサイトにおいて、モニタリングの結果を一元的に情報提供しています。

(4)野生動植物への影響のモニタリング

東京電力福島第一原子力発電所の周辺地域での放射性物質による野生動植物への影響を把握するため、関係する研究機関等とも協力しながら、野生動植物の試料の採取、放射能濃度の測定、推定被ばく線量率による放射線影響の評価等を進めました。また、関連した調査を行っている他の研究機関や学識経験者と意見交換を行いました。

(5)野生鳥獣への影響と鳥獣被害対策

東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、放射線量の高い帰還困難区域等においては、農業生産活動等の人為活動が停滞し、狩猟や被害防止目的の捕獲を行うことが難しい状況となり、イノシシ等の野生鳥獣の人里への出没が増加し、農地を掘り返したり、家屋に侵入したりする被害が発生しています。

これらの鳥獣をこのまま放置すれば、住民の帰還準備や帰還後の生活、地域経済の再建に大きな支障が生じるおそれがあることから、2013年度から帰還困難区域等において、イノシシ等の生息状況調査及び捕獲、捕獲個体の最終処分を実施しており、2017年度は、5町村(福島県富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村)でイノシシを計758頭、アライグマ、ハクビシンを計660頭捕獲しました。

2 放射性物質に汚染された土壌等の除染等の措置

平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境汚染への対処に関する特別措置法(平成23年法律第110号。以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)では、除染の対象として除染特別地域と汚染状況重点調査地域を定めています。除染特別地域は、警戒区域又は計画的避難区域の指定を受けたことがある地域で、国が除染実施計画を策定し、除染事業を進めてきました。他方、汚染状況重点調査地域は、地域の放射線量が0.23マイクロシーベルト/h以上の地域がある市町村について、当該市町村の意見を聴いた上で国が指定し、各市町村で除染を行ってきました。

除染特別地域(帰還困難区域を除く)については2017年3月末に、汚染状況重点調査地域についても2018年3月19日に除染実施計画に基づく面的除染が完了しました(図4-1-3)。

図4-1-3 除染の進捗状況(2018年3月末時点)
(1)国直轄除染地域(除染特別地域)

除染特別地域に指定されている福島県内の11市町村では、環境省が除染作業を実施し、2017年3月末までに、全ての市町村で面的除染が完了しました(帰還困難区域を除く)。その総数・総面積は、宅地約2万3,000件、農地約8,700ha、森林約7,800ha、道路約1,500haに及びます。

面的除染を完了した市町村においては、除染の効果が維持されているか確認することなどを目的に、除染実施後のモニタリング等を行ってきました。こうした施策もあって、2017年4月1日までに、双葉町及び大熊町を除いた居住制限区域及び避難指示解除準備区域の避難指示が解除されました。

(2)市町村除染地域(汚染状況重点調査地域)

汚染状況重点調査地域では、各市町村が地域ごとの実情、優先順位や実現可能性を踏まえて除染実施計画を策定し、これに基づき除染を進めてきたところであり、2018年3月19日に、面的除染が完了しました。

また、2017年3月末までに、12市町村において、地域の放射線量が0.23マイクロシーベルト/h未満となったことが確認され、汚染状況重点調査地域の地域指定が解除されました。これにより、汚染状況重点調査地域に指定されている市町村は104市町村から92市町村になりました。

(3)森林の放射性物質対策

森林については、2016年3月に復興庁・農林水産省・環境省の3省庁が取りまとめた「福島の森林・林業の再生に向けた総合的な取組」に基づき、住居等の近隣の森林、森林内の人々の憩いの場や日常的に人が立ち入る場所等の除染等の取組と共に、林業再生に向けた取組や住民の方々との安全・安心の確保のための取組等を関係省庁が連携して進めてきました。

また、除染を含めた里山再生のための取組を総合的に推進するモデル事業として、2018年3月に上記3省庁で新たに4地区をモデル地区として選定しました。

さらに、森林からの落葉等の飛散や土壌の流出に伴う放射性物質の動態に関する調査研究を実施しました。

3 中間貯蔵施設の整備

(1)中間貯蔵施設の概要

放射性物質汚染対処特措法等に基づき、福島県内の除染に伴い発生した放射性物質を含む土壌及び福島県内に保管されている10万ベクレル/kgを超える指定廃棄物等を最終処分するまでの間、安全に集中的に管理・保管する施設として中間貯蔵施設を整備することとしています。福島県内の除去土壌等の発生量は、減容化(可燃物を焼却)した後で1,600万〜2,200万m3と推計され(2013年7月時点の除染実施計画等に基づく推計値)、その容量は東京ドームの約13〜18倍に相当します。

環境省では、中間貯蔵施設の整備と継続的な除去土壌等の搬入を進めています。2016年3月に公表した「当面5年間の見通し」では、用地取得や施設整備に全力を尽くすことにより、「復興・創生期間」の最終年である2020年度までに、最大1,250万m3 程度の除去土壌等を搬入できる見通しとしています(図4-1-4)。この見通しに沿って取組を進めることによって、少なくとも、学校や住宅等で現場保管されている除去土壌等に相当する量(公表時点の推計値で約180万m3)の中間貯蔵施設への搬入を目指すとともに、用地取得等を最大限進め、幹線道路沿いにある除去土壌等に相当する量(約300万〜500万m3)の中間貯蔵施設への搬入を目指しています。

図4-1-4 除去土壌等の搬入の見通し
(2)中間貯蔵施設の用地取得の状況

中間貯蔵施設整備に必要な用地は約1,600haを予定しており、予定地内の登記記録人数は2,360人となっています。2018年3月末までに地権者の連絡先を把握した面積は約1,220ha、用地調査を実施した面積は約1,160haに達しており、契約済み面積は約874ha(全体の約54.6%)、1,419人(全体の約60.1%)の方と契約に至るなど、着実に進捗してきています。政府では、用地取得については、地権者との信頼関係はもとより、中間貯蔵施設事業への理解が何よりも重要であると考えており、引き続き地権者への丁寧な説明を尽くしながら取り組んでいきます。

(3)中間貯蔵施設の整備の状況

2016年11月から受入・分別施設(図4-1-5写真4-1-1)と土壌貯蔵施設(図4-1-6写真4-1-2)の整備を進めています。受入・分別施設では、福島県内各地にある仮置場等から中間貯蔵施設に搬入される除去土壌等を受け入れ、搬入車両からの荷下ろし、容器の破袋、可燃物・不燃物等の分別作業を行います。土壌貯蔵施設では、受入・分別施設で分別された除去土壌等を放射能濃度やその他の特性に応じて安全に貯蔵します。2017年6月に除去土壌等の分別処理を開始し、2017年10月には分別した土壌の貯蔵を開始しました。除去土壌等の処理・貯蔵を更に進めるために、引き続き、これらの施設の整備を進めています。

図4-1-5 受入・分別施設イメージ
写真4-1-1 受入・分別施設
図4-1-6 土壌貯蔵施設イメージ
写真4-1-2 土壌貯蔵施設
(4)中間貯蔵施設への輸送の状況

中間貯蔵施設への除去土壌等の輸送については、2017年度までに累計で73万m3程度の除去土壌等の輸送を目標としており、2018年3月末までに累計で約76万m3の輸送を実施しました(写真4-1-3)。

写真4-1-3 中間貯蔵施設への輸送の様子(輸送時は緑色のゼッケンを掲示)

また、今後の輸送に向けて、輸送実施計画を更新するとともに、中間貯蔵施設の輸送ルートで必要な箇所について舗装厚の改良等の道路交通対策を実施しました。

(5)2018年度事業方針の公表

2017年11月に、「2018年度の中間貯蔵施設事業の方針」として、[1]2018年度の輸送量は「当面5年間の見通し」の最大値である180万m3程度とする、[2]2019年度も、できる限り最大値(400万m3)を目指すなどの方針を示しました。あわせて、当面の施設整備イメージ図(2017年11月)(図4-1-7)を公表しました。

図4-1-7 当面の施設整備イメージ
(6)減容・再生利用に向けた取組

福島県内の除去土壌等については、中間貯蔵開始後30年以内に福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずることとされています。福島県外における除去土壌等の最終処分の実現に向けては、減容技術等の活用により、除去土壌等を処理し、再生利用の対象となる土壌等の量を可能な限り増やし、最終処分量の低減を図ることが重要です。このため、県外最終処分に向けた当面の減容処理技術の開発や除去土壌等の再生利用等に関する中長期的な方針として、2016年4月に「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略」及び「工程表」を取りまとめました(図4-1-8)。また、同年6月には、除去土壌等の再生利用を段階的に進めるための指針として、「再生資材化した除去土壌の安全な利用に係る基本的考え方について」を取りまとめました。

図4-1-8 中間貯蔵除去土壌等の減容・再利用技術開発戦略の概要

これらに沿って、2016年12月に南相馬市内の仮置場において、除去土壌を用いて試験盛土を施工し、空間線量率等の測定を行いました。この結果、空間線量率等の大きな変動が見られず、盛土の浸透水の放射能濃度は全て不検出であり、再生利用について一定の安全性が確認されています。

4 放射性物質に汚染された廃棄物の処理

(1)対策地域内廃棄物の処理

福島県の11市町村にまたがる地域が汚染廃棄物対策地域として定められています。これまで、避難されている方々の円滑な帰還を積極的に推進する観点から、避難指示解除準備区域及び居住制限区域において、帰還の妨げとなる廃棄物を速やかに撤去し、仮置場に搬入することを優先目標としてきました。こうした取組により、2015年度末までに、帰還困難区域を除いて、帰還の妨げとなる廃棄物の仮置場への搬入を完了しました。また、地域住民の方々のご理解と地方公共団体との緊密な連携によって、2018年3月末までに、191万トンの廃棄物の仮置場への搬入が完了しました(図4-1-9)。仮置場に搬入した可燃性の災害廃棄物等は、仮設焼却施設でその減容化を図っています。

図4-1-9 対策地域内の災害廃棄物等の仮置場への搬入済量

この仮設焼却施設については、計9市町村で10施設を設置することとしており、2017年度には大熊町で稼働を開始するなど、2018年3月末時点ではこのうち7施設が稼働中、1施設が建設準備中であるほか、2施設では処理を完了しています(表4-1-1)。事業を実施している仮設焼却施設においては、排ガス中の放射能濃度、敷地内・敷地周辺における空間線量率のモニタリングを行って安全に減容化できていることを確認し、その結果を公表しています。

表4-1-1 稼働中及び建設工事中の仮設焼却施設
(2)指定廃棄物の処理

2018年3月末時点で、11都県において、焼却灰や下水汚泥、農林業系副産物(稲わら、堆肥等)等の廃棄物計約21万トンが環境大臣による指定を受けています(表4-1-2)。政府は、指定廃棄物の処理に関して、放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針(2011年11月閣議決定)で「当該指定廃棄物が排出された都道府県内において行う」としています。

表4-1-2 指定廃棄物の数量(2018年3月末時点)

指定廃棄物は、国に引き渡されるまでの間、各都県のごみ焼却施設や下水処理施設、農地等において、各施設等の管理者等が国のガイドラインに沿って、遮水シート等で厳重に覆って飛散・流出を防ぐとともに、空間線量率を測定して周辺への影響がないことを確認するなどにより、適切に一時保管されています。

ただし、こうした一時保管場所における保管は、国による処理方針が確立するまでの間、やむを得ず一時的に負担をお願いしている措置であることから、災害等に備え、長期にわたる確実な管理体制を早期に構築することが必要です。

なお、8,000ベクレル/kg以下に減衰した指定廃棄物については、放射性物質汚染対処特措法施行規則第14条の2の規定に基づき、当該指定廃棄物の指定の解除が可能です。また、指定解除後の廃棄物の処理について、国は技術的支援のほか、指定解除後の廃棄物の処理に必要な経費を補助する財政的支援を行うこととしています。

ア 福島県内での処理

福島県内の指定廃棄物及び対策地域内廃棄物について、10万ベクレル/kg以下のものは既存の管理型処分場に搬入し、10万ベクレル/kgを超えるものは中間貯蔵施設に搬入する計画としています。

農林業系廃棄物や下水汚泥等の可燃性の指定廃棄物については、搬入の前に焼却等の処理によって処分量を削減し、性状の安定化を図る減容化事業を地元の協力と理解を得ながら進めています。これまでに、3件の減容化処理事業について焼却等処理を終えたほか、2016年1月に飯舘村蕨平(わらびだいら)地区において、飯舘村及び周辺5市町の可燃性廃棄物を焼却処理する仮設焼却施設が稼働しました。加えて、田村市・川内村において、県中・県南等の24市町村の農林業系廃棄物を焼却処理する仮設焼却施設が稼働しました。また、安達地方の3市町村の農林業系廃棄物等の減容化事業についても、準備を進めています。

既存の管理型処分場(旧フクシマエコテッククリーンセンター)の活用については、2015年12月に福島県、富岡町及び楢葉町から当該処分場の活用を容認いただき、2016年4月に施設を国有化しました。同年6月には、国と県及び2町の間で安全協定を締結し、必要な準備工事を行った上で、2017年11月から施設への廃棄物の搬入を開始しました(写真4-1-4)。

写真4-1-4 管理型処分場の様子
イ 福島県外での処理

環境省では、宮城県、栃木県、千葉県、茨城県、群馬県において、有識者会議を開催し、長期管理施設の安全性を適切に確保するための対策や候補地の選定手順等について、科学的・技術的な観点からの検討を実施し、2013年10月に長期管理施設の候補地を各県で選定するためのベースとなる案を取りまとめました。その後、それぞれの県における市町村長会議の開催を通じて長期管理施設の安全性や候補地の選定手法等に関する共通理解の醸成に努めた結果、宮城県、栃木県及び千葉県においては、各県の実情を反映した選定手法が確定しました。

このうち宮城県においては、2017年度末までに計14回の市町村長会議が開催されました。2016年4月に同県から国に対し、8,000ベクレル/kg以下の汚染廃棄物の処理への支援等についての要望があり、2017年7月に県主催の第14回市町村長会議において、指定廃棄物を除く8,000ベクレル/kg以下の汚染廃棄物を圏域ごとに処理する方針を決定しました。2018年3月から、仙南地域において試験焼却を開始しています。

栃木県においては、2017年度末までに8回の市町村長会議を開催しました。2017年7月、指定廃棄物を一時保管している農家等が所在する市町の首長が集まる会議において、長期管理施設の整備の方針は堅持しつつ、農家の負担軽減策として、地元の意向を踏まえた市町単位での暫定的な減容化・集約化を国から提案し、県・保管市町と調整を行っています。

千葉県においては、2016年度末までに計3回の市町村長会議を開催するとともに、長期管理施設の詳細調査の実施に理解を得られるよう取り組んでいます。また、2016年7月に全国で初めて8,000ベクレル/kg以下に減衰した指定廃棄物の指定を解除しました。

茨城県においては2016年2月、群馬県においては同年12月に、「現地保管継続・段階的処理」の方針を決定しました。この方針を踏まえ、必要に応じた保管場所の補修や強化等を実施しつつ、8,000ベクレル/kg以下となったものについては、段階的に既存の処分場等で処理することを目指しています。

5 帰還困難区域における特定復興再生拠点区域の整備

2017年5月に改正された福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号)に基づき、各市町村の認定特定復興再生拠点区域復興再生計画に沿って、帰還困難区域の特定復興再生拠点区域における家屋等の解体・除染とインフラ整備等とを一体的に進めることとしています。

これまで、2017年9月に双葉町、11月に大熊町、12月に浪江町、2018年3月に富岡町の特定復興再生拠点区域復興再生計画が認定されており、環境省では既に一部の工事に着手するなど、当該計画に沿って家屋等の解体・除染を進めています。

6 放射線に係る住民の健康管理・健康不安対策

(1)福島県における健康管理

国は、福島県の住民の方々の中長期的な健康管理を可能とするため、福島県が2011年度に創設した福島県民健康管理基金に交付金を拠出するなどして福島県を財政的、技術的に支援しており、福島県は、同基金を活用し、2011年6月から県民健康調査等を実施しています。具体的には、[1]福島県の全県民を対象とした個々人の行動記録と線量率マップから外部被ばく線量を推計する基本調査、[2]「甲状腺検査」、「健康診査」、「こころの健康度・生活習慣に関する調査」、「妊産婦に関する調査」の詳細調査を実施しています。また、ホールボディ・カウンタによる内部被ばく線量の検査や、市町村に補助金を交付し、個人線量計による測定等も実施しています。

2016年3月に福島県「県民健康調査」検討委員会が取りまとめた「県民健康調査における中間取りまとめ」では、甲状腺検査の先行検査で発見された甲状腺がんについては、放射線による影響とは考えにくいと評価されています。また、当該中間とりまとめでは、甲状腺検査について県外への転出が増加する年代に対する受診案内の確実な送付を徹底すべきとする指摘がされており、福島県は高等学校卒業予定者等を対象とした啓発活動等の取組を行っています。

(2)国による健康管理・健康不安対策

環境省では、2014年12月に取りまとめられた「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議中間取りまとめ」を踏まえた施策として、事故初期における被ばく線量の把握・評価の推進、福島県及び福島近隣県における疾病罹患動向の把握、福島県の県民健康調査「甲状腺検査」の充実、リスクコミュニケーション事業の継続・充実に取り組んでいます。

2017年度から、甲状腺検査の結果、詳細な検査(二次検査)が必要になった方へのこころのケアを充実させるために、二次検査を実施する医療機関への研修会を開催するなど、サポート体制の整備に努めています。

さらに、2014年度から福島県いわき市に「放射線リスクコミュニケーション相談員支援センター」を開設し、東京電力福島第一原子力発電所の事故により避難指示が出された12市町村を中心に、住民を支える放射線相談員や自治体職員等の要望に応じて、住民からの個々の相談への対応や専門家の派遣、研修会や相談員等の意見交換会の開催など、科学的・技術的な面から組織的かつ継続的な支援を実施しています。

なお、2017年12月の「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」において、放射線リスクコミュニケーション相談員支援センターを中心として、関係府省庁等が連携し、相談員等が説明に必要とする情報ニーズの収集、好事例の共有、相談員等と放射線の専門家やその他支援機関との連携強化等を図ることが示されたことを受け、内閣府原子力被災者生活支援チームとの共催により、同年12月に、放射線相談員や生活支援相談員等が成功事例や失敗事例等の共有を図るためのワークショップ(相談員合同ワークショップ)を開催しました。

加えて、福島県の現状について、日本全国に広く伝えていくため、福島県及び環境省の関係部局が連携し、新宿御苑等を活用して、環境再生の状況や取組について発信しています。

そのほか、希望する住民に個人被ばく線量計を配布して外部被ばく線量を測定し、ホールボディ・カウンタによって内部被ばく線量を測定することで、住民に自らの被ばく線量を把握してもらい、不安軽減につなげています。

コラム:川内のワインと木戸川のサケ(福島県川内村、楢葉町)

福島県内では、東日本大震災からの生業の復興と放射線不安・風評被害払拭に向けた取組が各地で進められています。

川内村では、「ワインを核とした関連産業の育成と振興」を目指し、村が筆頭株主となってかわうちワイン株式会社を設立し、村内の高田島地区の約3ヘクタールの圃場で、ワインぶどうの栽培に取り組んでいます。

川内村のワイン畑

同地区は、阿武隈山地の花崗岩が風化した水はけのよいまさ土土壌と、夏の夜間の冷涼さ・冬の寒さが特徴で、フランスのワイン産地を彷彿させる風景が拡がっています。その特徴を活かし、使われなくなった牧草地を開墾して、シャルドネ、メルロー、カベルネソーヴィニオンといった世界的によく知られた品種のワイン用ぶどうの栽培を行うとともに、2020年のワイン出荷を目標に、ぶどう栽培と技術の習得に励んでいます。

楢葉町を流れる木戸川では、古くからサケ漁が盛んで、「木戸川のサケ」は地域ブランドとなっていましたが、東日本大震災による津波被害や東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う全町民への避難指示等により、サケ漁ができなくなっていました。

木戸川のサケ漁の様子

木戸川漁協では、2015年9月の楢葉町の避難指示解除に合わせて、いち早くサケのふ化事業を再開させるため、津波で大きな被害を受けたふ化場や直売所の整備を行うとともに、継続的な放射性物質のモニタリング調査でサケの安全性の確認を行いました。また、漁協役職員が学校や各地のイベントにおいて、「木戸川のサケ」の魅力を発信することで、安全性のPRと風評被害払拭に向けた取組を行いました。こうした取組により、2015年10月に、木戸川のサケ漁が再開され、サケのみそ漬け等の製品が販売されるなど、「木戸川のサケ」ブランドの復活に向けた第一歩を踏み出しています。

環境省では、「つなげよう、支えよう森里川海」プロジェクト等とも連携しながら、こうした福島の復興創生に向けた取組の支援と放射線不安・風評被害払拭に向けたリスクコミュニケーションを実施しています。

7 三陸復興国立公園を核としたグリーン復興

(1)三陸復興国立公園に関する取組

青森県八戸市から福島県相馬市まで、太平洋沿岸をつなぐ約1,000kmに及ぶ長距離自然歩道「みちのく潮風トレイル」については、これまで順次路線を開通しており、2017年4月から9月までの間に宮城県女川町、南三陸町、陸前高田市の区間(約250km)と岩手県大槌町、久慈市の区間(約40km)の合計約290kmが新たに開通しました。これによって約690kmが開通しました。また、トレイルの利用を促進するための取組として、トレイルマップの配布、メディアを通じたPR、地域住民向けフォーラムやイベントの開催、ウェブサイトのリニューアル等を実施しました。

震災の影響や震災以降の変化状況の把握を目的に、干潟、アマモ場、藻場の三つの生態系を対象とした生態系監視調査を実施し、その結果を生物多様性センターのホームページ「しおかぜ自然環境ログ」で公開しました。また、生物多様性センターが運営する生物情報収集・提供システム「いきものログ」を利用し、身近な生きものへの震災の影響を把握するための市民参加型調査「しおかぜ自然環境調査」を継続実施しました。

(2)公園施設の整備

三陸復興国立公園の主要な利用拠点やみちのく潮風トレイルにおいて、防災機能を強化しつつ、被災した公園利用施設の再整備や観光地の再生に資する復興のための整備を推進しました(図4-1-10)。宮城県石巻市では、里山・里海フィールドミュージアム事業の核となる「石巻・川のビジターセンター」を整備しました。また、青森県及び岩手県内での三陸復興国立公園の整備について、自然環境整備交付金による支援を行いました。

図4-1-10 三陸復興国立公園における取組の様子