環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成30年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第3章 地域循環共生圏を支えるライフスタイルへの転換>第1節 持続可能性と豊かさの評価

第3章 地域循環共生圏を支えるライフスタイルへの転換

私たちの暮らしは、自然の恵み(生態系サービス)によって支えられています。私たちの価値観やライフスタイル・ワークスタイルの在り方は、消費行動やエネルギー・資源の利用等を通じて、地球環境に大きな影響を及ぼしており、国民一人一人が自然の恵み(生態系サービス)を意識して自分ゴト化し、暮らしを通じて「地域循環共生圏」を支えるライフスタイルへの転換を図る必要があります。また、AI、IoT等の技術革新は、ライフスタイル・ワークスタイルにも大きな変化をもたらします。

第3章では、「豊かさ」や「モノ」に対する国民の意識の変化を概観するとともに、シェアリング・エコノミーやテレワークといった新たなライフスタイル・ワークスタイルが環境面に与える効果等を紹介します。

第1節 持続可能性と豊かさの評価

1 「豊かさ」や「モノ」に対する意識の変化

(1)「モノの豊かさ」から「心の豊かさ」に

1960年代の高度経済成長に象徴されるように、我が国は、戦後、物質的・経済的な豊かさを追求してきました。その結果、経済が発展し、我が国の一人当たりのGDPは世界トップレベルとなり、多くの人が便利で快適な生活を送れるようになりました。その一方で、「豊かさ」に対する国民の意識は大きく変化してきています。

内閣府の世論調査によれば、かつては「心の豊かさ」より「モノの豊かさ」を重視する人の割合の方が大きくなっていましたが、1979年を境に逆転し、近年は「心の豊かさ」を重視する人の割合が「モノの豊かさ」を重視する人の2倍程度となっています(図3-1-1)。

図3-1-1 「心の豊かさ」と「物の豊かさ」の意識の推移
(2)「モノ消費」から「コト消費」に

近年の国民の消費行動について、モノやサービスを購入する「モノ消費」より、購入したモノやサービスを使ってどのような経験・体験をするかという「コト消費」に、消費者の関心が置かれていると言われています。

総務省の家計調査によれば、経済のサービス化が進む中で、家計に占めるサービスへの支出割合は上昇傾向にあります(図3-1-2)。また、内閣府の世論調査によれば、今後の生活においてどのような面に力を入れたいと思うかについては、「レジャー・余暇生活」、「食生活」、「自己啓発・能力向上」といったサービスに関連する項目が高くなっており、「自動車、家電製品、家具などの耐久消費財」や「衣生活」といったモノに関連する項目は相対的に低くなっています(図3-1-3)。

図3-1-2 家計における財・サービス支出の内訳の推移
図3-1-3 今後の生活において力を入れたいところ(複数回答)

環境省の調査によれば、物の所有を控えようと行動している人は全体の半数を占めており、その理由として、保管場所、手入れや片付けの手間、所有することによる経済的な負担といった理由に加えて、若い世代においては、「所有しなくてもレンタルやシェアで代替できる」や「物を買うよりもレンタルやシェアの方が安いから」といった理由も挙げられています(図3-1-4)。

図3-1-4 物の所有に対する市民の意識
(3)「より安く」から「より良い」に

モノを購入する際に安さだけを重視する人の割合は減少傾向にあります。一方で、多少値段が高くても品質の良いものやできるだけ長く使えるもの、安全性に配慮した商品等を購入する人の割合は、長期的には増加する傾向にありますが、直近データでは減少傾向も見られています(図3-1-5)。

図3-1-5 消費者の消費価値観の推移
(4)環境配慮行動・環境保全活動への取組は減少傾向

環境配慮行動に取り組んでいる人の割合は、「ごみは地域のルールに従ってきちんと分別して出すようにする」で約9割、「日常生活において節電等の省エネに努める」及び「日常生活において節水に努める」で約8割、「日常生活においてできるだけごみを出さないようにする」及び「油や食べかすなどを排水口から流さない」で約7割となっており、特に家庭において日常的に取り組める行動が高い水準にあると言えます。一方、こうした取組の多くで、近年少しずつ減少傾向が見られるようになってきています(図3-1-6)。

図3-1-6 環境配慮行動を実施している人の割合

環境保全活動については、内閣府の世論調査によれば、社会に貢献したいと思うと答えた人の割合は6割を超える一方で、そのうち自然・環境保護活動(環境美化、リサイクル活動、牛乳パックの回収等)に参加したいと答えた人の割合は3割を下回っており、2009年の41.6%をピークに減少傾向にあります(図3-1-7)。

図3-1-7 社会への貢献内容(上位5項目、時系列、複数回答)

環境配慮行動の多くは、単純に何かを我慢することを求めるものではなく、エネルギーや資源の無駄をなくして経済的なメリットももたらすものです。また、自然とのふれあいを始めとした環境保全活動を通じて、健康で心豊かな生活にもつながることが期待されます。日常生活に環境配慮を織り込むことにとどまらず、環境配慮行動や環境保全活動を通じて生活の質を向上させるというより積極的な視点を持って、国民一人一人が日々の行動の中で実践していく必要があります。

2 より良い暮らしのために

(1)GDPを超える豊かさの指標

国際的に「豊かさ」を評価しようとする取組が進められています。2007年11月に、欧州委員会(EC)、欧州議会、ローマクラブ、経済協力開発機構(OECD)、WWFによって、「Beyond GDP」の国際会議が開催されてから、進歩を適切に評価し、豊かさを計測する指標を構築する取組が行われています。それまでは、GDPを拡大させることを目標に各種政策が行われてきましたが、主に生産量を計測する目的で作られたGDPでは、人々の生活の質(QOL)や豊かさ(Well-being)がどれくらい向上しているかや、将来に利用できる資源がどれだけ残っているかといった持続可能性を十分に評価できないことから、GDPを超えた評価指標を示して、これを政策目標にしていくことの必要性が認識されています。

具体的な取組としては、OECDの「より良い暮らし指標(BLI:Better Life Index)」、国連大学(UNU)及び国連環境計画(UNEP)の「包括的富指標(Inclusive Wealth Index)」、国連持続可能開発ソリューションネットワークの「世界幸福度(World Happiness)」、国連開発計画(UNDP)の「人間開発指数(Human Development Index)」等が挙げられます。

(2)より良い暮らし指標(BLI)

OECDのBLIでは、生活の質に関して、所得、雇用と収入、住宅、ワークライフバランス、健康、教育、社会とのつながり、市民生活とガバナンス、環境の質、安全といった11分野の定量評価を行っています。

BLIでは各指標に重要度を設定できますが、各指標の重要度を同じとした場合、2017年の国別ランキングは、ノルウェー、デンマーク、オーストリア、スウェーデン、カナダの順になっています。

日本はOECD加盟国等38か国中23位となっており、雇用、平均寿命、教育といった分野については、OECD諸国の中でも位置付けが高くなっていますが、市民生活とガバナンス、仕事のストレス、ワーク・ライフ・バランスといった分野で位置付けが低くなっており、働き方改革等を通じたワーク・ライフ・バランスの確保が必要となっています(図3-1-8)。

図3-1-8 日本の平均的な幸福度

3 人間活動が地球環境に与える影響

(1)世界のエコロジカル・フットプリント

人間活動が地球環境に与える影響を示す指標の一つに、「エコロジカル・フットプリント」があります。エコロジカル・フットプリントは、私たちが消費する資源を生産したり、社会経済活動から発生するCO2を吸収したりするのに必要な生態系サービスの需要量を地球の面積で表した指標です。世界のエコロジカル・フットプリントは年々増加し、1970年代前半に地球が生産・吸収できる生態系サービスの供給量(バイオキャパシティ)を超えてしまっており、2013年時点で世界全体のエコロジカル・フットプリントは地球1.7個分に相当します(図3-1-9)。現在の私たちの豊かな生活は、将来世代の資源(資産)を食いつぶすことによって成り立っていると言えます。

図3-1-9 世界のエコロジカル・フットプリントとバイオキャパシティの推移
(2)日本のエコロジカル・フットプリント

国別のエコロジカル・フットプリントを見ると、先進国では大きく、途上国では小さくなる傾向にあります。日本は世界の38番目に大きく、米国の0.6倍、中国の1.4倍となっています(OECD加盟35か国中21位)。日本のエコロジカル・フットプリントは近年減少傾向にありますが、2013年のエコロジカル・フットプリントで見ると、世界平均の約1.7倍に当たり、世界の人々が日本人と同じ生活をした場合、地球が2.9個必要になります。

また、日本のエコロジカル・フットプリントの特徴として、日本国内のバイオキャパシティと比べてエコロジカル・フットプリントが大きいことが挙げられます(図3-1-10)。このことは、私たちが国内で消費する資源の多くを海外からの輸入に頼っており、そのことを通じて、海外の生態系サービスにも影響を与えていることを意味しています。

図3-1-10 日本人一人当たりのエコロジカル・フットプリントとバイオキャパシティの推移
(3)国内のエコロジカル・フットプリントの分布

我が国の国土を縦横1kmメッシュで分割すると、そのうちの約6割のメッシュにおいては、区域内のエコロジカル・フットプリントがバイオキャパシティの範囲内に収まっており、その地域が持続可能な状態にあると言えます。一方、残りの約4割のメッシュにおいては、エコロジカル・フットプリントがバイオキャパシティを超過している状態にあり、区域内で消費する食料・エネルギー等の資源の生産や排出したCO2の吸収を国内の他地域や海外に依存していることが分かります。特に、エコロジカル・フットプリントがバイオキャパシティの100倍を越える区域は全体の約4%を占めており、その6割が東京、大阪、神奈川の3都府県に集中しています(図3-1-11)。

図3-1-11 日本のエコロジカル・フットプリントの分布

コラム:京都市のエコロジカル・フットプリント

京都市では、2016年に、グローバル・フットプリント・ネットワーク、いであ株式会社、WWFジャパンと共同で、京都市内のエコロジカル・フットプリントの試算を行いました。その結果、京都市民の暮らしは、地球2.0個分となり、全国平均よりは約10%小さく、世界平均よりは約30%大きい結果となりました。

また、WWFジャパンによると、同市のエコロジカル・フットプリントは、全国平均と比べて「住居、光熱費」で約45%、「交通」で約24%小さい値であり、その要因として、京都市内は一戸建てよりもマンション等の共同住宅の割合が大きく、また、CO2排出係数の低い都市ガス利用が多いこと、京都市民は外出手段として、自動車を利用する割合が少なく、電車・バス等の公共交通機関を利用する割合が大きいことなどを挙げています。

同市では、2030年度に1990年度比で温室効果ガス排出量を40%削減する目標を掲げています。この目標が世界中で達成され、京都市民の暮らしを世界中の人々がしたとすると、エコロジカル・フットプリントは約30%減少し、地球1.4個分の負荷となります。「地球1個分の暮らし」を目指して、更なる取組の進展が期待されます。

京都市のエコロジカル・フットプリントの比較

コラム:世界で最も貧しい大統領

ウルグアイのホセ・ムヒカ元大統領は、その質素な暮らしぶりから「世界で最も貧しい大統領」と呼ばれていました。2012年にブラジル・リオデジャネイロで開催された国連持続可能な開発会議(リオ+20)において、貧富の格差が広がり、貧困が大きな問題となっている現代のグローバリズム、消費主義社会、物質主義社会に対して警鐘を鳴らし、私たち自身のライフスタイルを見直すべきだとしたスピーチを行って、世界から大きな注目を集めました。

リオ+20におけるホセ・ムヒカ大統領のスピーチ

私たちは発展するために生まれてきているわけではありません。幸せになるためにこの地球にやってきたのです。人生は短いし、すぐ目の前を通り過ぎてしまいます。命よりも高価なものは存在しません。ハイパー消費が世界を壊しているにもかかわらず、高価な商品やライフスタイルのために人生を放り出しているのです。(中略)

昔の賢明な人々、エピクロス、セネカやマイアラ民族までこんなことを言っています。「貧乏な人とは、少ししか物を持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」(中略)

根本的な問題は私たちが実行した社会モデルなのです。そして、改めて見直さなければならないのは、私たちの生活スタイルだということ。(中略)

幸福が私たちのもっとも大切なものだからです。環境のために闘うのであれば、人類の幸福こそが環境の一番大切な要素であることを覚えておかなくてはなりません。

(佐藤美由紀著「世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉」双葉社より引用)