環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成24年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第3章>第5節 地域循環圏の創出に向けて

第5節 地域循環圏の創出に向けて

 循環型社会の形成という観点から地域づくりを見ていくことも重要です。この節では循環型社会形成推進基本計画に掲げられている「地域循環圏」という考え方を敷衍し、具体的な取組とともに概観します。

1 地域循環圏とは

 世界的に資源制約が顕在化し、循環資源の価値が高まる中、資源採取、生産、流通、消費、廃棄などの社会経済活動の全段階を通じて、廃棄物等の発生抑制や循環資源の利用などの取組により、新たに採取する資源をできるだけ少なくし、環境への負荷をできる限り少なくした循環型社会の形成を図っていく必要性がますます高まっています。そして地域の特性・活力を活かし、それぞれの地域において循環型社会を形成していくことがその実現の鍵となります。循環型社会形成推進基本計画では、このような観点から、「地域で循環可能な資源はなるべく地域で循環させ、地域での循環が困難なものについては循環の環を広域化させていく」という考え方に基づく「地域循環圏」という概念が提示されています。これは、廃棄物の適正処理を前提に、循環資源の種類ごとに地域の特性を踏まえて最適な範囲で循環させる地域社会の構築を目指すものです。

 実際の地域循環圏づくりでは、単なる資源循環システムづくりだけではなく、地球温暖化対策としての低炭素社会づくりや、自然の恵みを将来にわたって享受できる自然共生社会の構築も視野にいれながら、さまざまな関係者の連携・協働による有機的な結びつきの下に、新しい循環ビジネスや環境への取組が複層的に織り合いながら活性化していく循環システムを地域づくりの面からも築きあげていくことが求められます。

2 地域循環圏の類型パターン

 地域循環圏の形成に当たっては、概念的にその類型をパターン化して見ていくことが有用であると考えられます。最適な循環の範囲は、循環資源の性質により異なります。例えば、[1]一定の地域のみで発生する、腐敗しやすい等の特徴を持つバイオマス系循環資源は、その地域において循環させる、[2]高度な処理技術を要するものはより広域的な地域で循環させることが適切であると考えられます。また、対象となるエリアの地域特性や、既存のリサイクル関連施設などの配置によっても、その類型・範囲は異なってきます。

(1) 里地里山里海地域循環圏

 農山漁村を中心とした循環圏で、農林水産業に由来するバイオマス資源の地産地消的な利活用が行われます。例えば、里地里山エリアでは、生ごみの堆肥化や飼料化などを組み合わせながら低炭素型の循環システムが構築されます。また、農業や畜産業由来の廃棄物や林地残材のエネルギー利用や小水力発電の実施といったエネルギー利用システムが構築されます。

 里海エリアでは、魚腸骨や貝殻など水産業由来の廃棄物の活用をはじめとして、漁船のリユースネットワークの構築や漁船でのバイオディーゼル燃料(BDF)利用などの取組が進められます。さらに、豊かな自然を背景に環境教育プログラムの実践やエコツーリズムなどを観光産業と提携した町おこしの取組を進めることが考えられます。

(2)都市・近郊地域循環圏

 人口集積の多い都市エリアでは多種多様な循環資源が排出されます。都市近郊の農村地域との連携も含め、静脈産業集積地(エコタウン等)や動脈産業集積地(臨海部工業地帯や工業団地等)とも連携をはかりながら、効率的な資源循環が行われます。

 例えば、都市農村連携の具体的な例としては、都市近郊エリアの農業地域と連携して、都市で排出される食品廃棄物を飼料や堆肥として有効に活用する仕組みを構築し、そこから得られた農産物が都市地域に還元される仕組みが考えられます。

(3) 動脈産業地域循環圏

 セメント、鉄鋼、非鉄精錬、製紙等の基幹的な動脈産業の基盤やインフラをこれまで以上に活用しながら、循環資源を大量に抱えもつ大都市エリアと連携し、循環システムの構築やエネルギーの利活用システムを高度化させていきます。 

(4) 循環型産業(広域)地域循環圏

 循環型産業が集積されたエコタウン地域の保有する転換技術や広域静脈物流などをより一層高度化させ、これまで、高効率な転換処理システムが確立されていない循環資源のリサイクルなどを、動脈産業地域循環圏との連動をはかりながら、優位性のあるシステムとして形成していきます。

 ソーティングセンター(統合集積選別処理施設)などの循環産業機能を活用し、地域循環圏を構成することにより、社会経済活動の活性化が図られます。


図3-5-1 地域循環圏の類型パターンと重層的な構成イメージ


図3-5-2 地域循環圏のイメージ

3 地域循環圏の形成事例

 地方公共団体等が中心となって、地域循環圏の形成が具体的に進んでいる地域もあります。以下に、いくつかその事例を紹介します。

(1) 湿潤系バイオマスの利活用事例(都市・近郊地域循環圏+循環型産業(広域)地域循環圏)

 福岡県三潴郡大木町では、持続可能な循環のまちづくりを目指し、平成20年3月に10年以内でごみ処理量ゼロにすることを目標とした「もったいない宣言」を出しています。その一環として、同町では、食品廃棄物、し尿等の家庭から出されるバイオマス系循環資源の利活用に取り組んでいます。

 具体的には、町内全域の生ごみ、し尿、浄化槽汚泥の受入れを可能とするメタン発酵施設を整備し、一週間に2回、10~20世帯ごとに設置したバケツコンテナに、市民が自ら家庭で分別・水切りした生ごみを直接投入し、回収を実施しています。これにより、従来、焼却処理などを行っていた生ごみやし尿等をバイオマス系循環資源としてエネルギー資源(バイオガス)や有機肥料(液肥)として、町内で有効活用しています。また、ごみ処理コストが削減され、町の財政負担軽減にもつながっています。町民へのアンケート調査結果によれば、このような有機性廃棄物の利活用、生ごみの分別収集をしたいと考える住民の割合は非常に高く、住民の支持によりこのシステムが維持されていることがうかがえます。大木町では、さらに、地域住民協力の下、全国で初めて家庭から排出される使用済み紙おむつの分別回収・再資源化にも取り組み始めています。回収された紙おむつは、約20km程度離れた大牟田市の紙おむつリサイクル施設で水溶化処理し、再生パルプとして建設資材に再利用されるなど、町域内での湿潤系バイオマスの地域循環圏に加え、より広域の紙おむつリサイクルという複層化した地域循環圏の形成が進んでいます。


写真3-5-1 バケツコンテナでの生ごみ回収

 また、福井県坂井市では、冬の味覚・越前ガニの殻を肥料にする取組が行われています。同市の宿泊施設は、カニ料理の残さである殻の処理に困っていましたが、肥料として活用できることに気付き、地元の農家と連携して、殻の肥料への利用が始まりました。宿泊施設から出された殻は、ビニールハウスで自然乾燥後、機械で5ミリ角に粉砕することで、窒素分を含む立派な肥料となります。カニ殻肥料を用いて栽培された米や野菜は、休暇村や地元直売施設等で販売されたり、料理に使われたりしています。

 取組は、面的広がりも見せており、現在は35の飲食・宿泊施設、8農家が参加しています。

(2) 木質系バイオマスの利活用事例(里地里山里海地域循環圏+都市・近郊地域循環圏)

 山口県では、平成13年度に「やまぐち森林バイオマスエネルギー・プラン」を策定し、地域の未利用森林資源を活用したエネルギーの地産地消を目指してきました。平成17年度からは、これまでの森林バイオマス活用の取組等の成果を基に、全国に先駆けて森林組合、民間企業、行政、研究機関等がコンソーシアムを組み、森林バイオマスの利活用に取り組んでいます。

 具体的には、森林バイオマス専用の収集運搬機材の開発・運用、林業生産活動と連携した収集システムを確立することにより、収集運搬の低コスト化を実現し、未利用森林バイオマスの大規模収集とエネルギー利用を可能にしました。平成21年度には6,262tの森林バイオマスの収集・供給を行っています。また、ガス化コージェネレーション、木質ペレットボイラーの整備・稼働による熱利用、電力会社の石炭発電との連携により、一般住宅や福祉施設・公共施設へのエネルギー供給など中山間地域における分散型の新たなエネルギー供給システムを確立し、上流から下流までの一貫した森林エネルギー利用システムの構築を進めています。

(3) 小型家電の利活用事例(循環型産業(広域)地域循環圏+動脈産業地域循環圏)

 デジカメやオーディオプレイヤーなどの小型電子機器は回収、再生利用の取組が遅れており、廃棄されて埋め立てられたり、家庭に退蔵されたりしている小型電子機器は都市鉱山にも喩えられます。その効果的な回収に当たってはエコタウン等の循環型産業のシステムを活用し、回収された小型家電の再生利用には動脈産業の非鉄精錬のシステムを活用していくこととなります。小型家電のリサイクルの取組事例については、第4章第3節6で富山県の取組を紹介しています。

4 東北地方の復興に向けた地域循環資源の利用促進

 震災により大量に発生した災害廃棄物については、これをできる限り再生利用し、復旧・復興事業として整備する施設の建設資材などに活用することが必要です。また、優れた無害化技術やリサイクル技術を有する企業が東北地方に立地しているという特色を活かして、東北地方を最先端の循環ビジネス拠点とすることで、経済の活性化や雇用の創出に貢献し、先進的な循環型社会の形成を促していくことも重要です。

 このため、環境省では、平成24年度事業として、[1]自治体を含む地域の協議会等が行う資源循環計画の策定支援、[2]容器包装リサイクル法の対象外である製品プラスチックや、食品廃棄物のリサイクルに関する実証事業、[3]使用済みのびんを回収・洗浄し、地域内でリユースする実証事業を実施することとしています。

5 地域循環圏形成推進ガイドラインについて

 地域循環圏の構築は、地域における資源の循環利用を促進するとともに、循環型社会の形成を担う人材育成や地域コミュニティの再生といった地域活性化にもつながることから、全国で取組が広がることが期待されています。環境省では、地域循環の形成促進を目指して、具体的な事業のモデルイメージの提示や、構想・将来ビジョンの策定の流れ等についてまとめた地域循環圏形成推進ガイドラインを策定しています。

 このガイドラインにおいて、地域循環圏の形成は、[1]適正で効率的な資源循環、[2]地域特性を活用する資源循環、[3]地域活力をもたらす資源循環の3本の基本軸に基づいて、12の基本コンセプトに基づき推進することとしています(図3-5-3)。


図3-5-3 地域循環圏形成の基本軸