環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成24年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第4章>第3節 我が国に眠る地上資源の発掘・活用

第3節 我が国に眠る地上資源の発掘・活用

1 我が国に眠る地上資源

 第1章で見てきたように、鉱山から採掘できる天然資源には限りがあり、場合によっては、十数年のうちにもこれまで経験したことのない早さや規模で資源の枯渇に直面するおそれも生じています。また、鉱物資源の採掘に伴いさまざまな環境問題が発生しています。加えて、精密機器の必需品である貴金属・レアメタルの安定供給も大きな課題となっています。

 他方で、我が国に存在するさまざまな使用済製品の中には、原材料として使用した有用な金属資源が多く含まれています。そこから、金属資源を回収し、再利用することができれば、新たに鉱山から採掘する天然資源の投入量を抑制することができます。

 鉱山から採掘される地下資源は基本的に産出国と消費国が異なっていますが、使用済製品の中に含まれる金属資源(地上資源)は、産出国と消費国が一致する可能性が高いのが大きな特徴です。例えば、我が国においては、自動車の排出ガス浄化装置の触媒に使用されている白金の需要が大きく、使用済製品として多くの触媒が発生しています。これをそのまま廃棄物として処分せずに、分別収集を行い白金を回収し、新たに製造する触媒の原材料として使用することができれば、海外の鉱山から輸入する白金をその分減少させることができます。

 独立行政法人物質・材料研究機構では、地上資源として、我が国にどれだけの金属資源が存在するのか、推計する研究が行われています。その推計結果によれば、我が国に蓄積されている金属資源(地上資源)の量は、鉄12億トン、銅3,800万トン、銀6万トン、金6,800トン、レアメタルであるタンタル4,400トン、リチウム15万トンとなっています。これを、世界全体の現埋蔵量に占める割合で考えると、鉄1.62%、銅8.06%、銀22.42%、金16.36%、タンタル10.41%、リチウム3.83%となります(図4-3-1)。


図4-3-1 我が国の都市鉱山の蓄積量と世界の埋蔵量に対する我が国の都市鉱山の比率

 この数値には、現在まだ使用中の製品、廃棄物として埋められたものなど、直ちに資源を回収することができないものも多く含まれていることに留意する必要がありますが、総量として、我が国に眠っている地上資源は、海外の大鉱山に匹敵する大きなポテンシャルを有しているといえます。

 それでは、これらの大量の地上資源について、現時点で我々はどの程度有効活用できているのでしょうか。平成21年に再生利用されずに処分場に埋め立てられた金属系廃棄物の量は、一般廃棄物で約53万トン(発生量の約34%)、産業廃棄物で約23万トン(発生量の約3%)となっています。このほか、使われないまま家庭で保管(退蔵)されている製品も、相当数あり、携帯電話(約5割)、ビデオ・DVDプレイヤー(約3割)、携帯音楽プレイヤー(約4割)といった小型電子機器の退蔵率が高いとの調査結果も出ています(環境省調査)。

 このように、我が国に眠っている地上資源については、さらなる活用を図っていく余地が十二分にあるといえます。

2 金属資源のリサイクルの流れ

 我が国の金属資源のリサイクルは、どのように行われているのでしょうか。金属資源のリサイクルの流れについて、簡単にまとめたのが、図4-3-2です。


図4-3-2 主要製品のリサイクルフロー

 家電製品のうち、エアコン、テレビ、冷蔵庫、洗濯機の4品目については、家電リサイクル法により、リサイクルが義務付けられています。消費者は、買換え時に小売業者に廃家電を引き渡し、収集・運搬費用とリサイクル費用を支払います。小売業者に引き渡された廃家電は、製造業者に引き渡され、鉄、銅、アルミニウム等の資源の回収が行われ、再商品化されています。平成22年度における家電4品目の再商品化率(再商品化重量/処理量)は、エアコン88%、ブラウン管テレビ85%、液晶・プラズマテレビ79%、冷蔵庫・冷凍庫76%、洗濯機・衣類乾燥機86%となっています。

 パソコン、密閉型蓄電池、自動車用バッテリーについては、資源有効利用促進法により、メーカーによる回収・再資源化が義務付けられています。平成22年度における再資源化率(再資源化重量/処理量)は、デスクトップパソコン(本体)76.1%、ノートブックパソコン55.6%、密閉型蓄電池50.0%~76.6%となっています。

 自動車については、自動車リサイクル法により、フロン類、エアバッグ類、シュレッダーダスト(廃車時に発生する破砕残さ)を対象として、回収・適正処理が義務付けられています。また、事業者の自主的回収により、エンジン、ドア、タイヤ等の有用部品はリユースされており、残った廃車スクラップからも鉄等の有用金属の回収が行われています。これらにより、自動車の再資源化率は約95%と高い割合になっています。

 コピー機については、リースでの販売の割合が高いこともあり、多くの機器が使用後にメーカー等により回収されています。また、リユース、リサイクルを効率よく実施するために、設計段階で、どのような材料が使われているかがすぐに分かるようにした材料へのグレード表示や、リユースすることを想定した強度設計等が行われています。回収されたコピー機は、本体や光学部品等のうち劣化が軽微なものは再びそのまま製品に使用(リユース)されており、リユースされない部材は、資源として、鉄、ステンレス、プラスチック等の回収が行われたりしています。これにより、コピー機の再資源化率は99%以上と高いものになっています(社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会)。

 容易にリサイクルが可能な鉄やアルミニウムで主に構成されるスチール缶、アルミ缶等については、市町村等が分別収集を行った後に、金属資源の回収が積極的に行われています。スチール缶のリサイクル率は89.4%(スチール缶リサイクル協会)、アルミ缶のリサイクル率は92.6%(アルミ缶リサイクル協会)と、いずれも高い値となっています。

 金属資源別に見ると、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、鉛(Pb)のように、量が多く単一素材に区分しやすい金属資源は、比較的リサイクルが進んでいます(図4-3-3)。


図4-3-3 金属元素別のリサイクル率

 他方で、上記以外の金属資源は、複数の種類の金属が含まれた状況で廃棄物等として排出されることが一般的であり、選別や精錬工程により金属種類別に分離することが必要となります。したがって、大規模な設備投資が必要となるなど回収に多くのコストを要しています。

 例えば、電子部品等から金や銀を回収する際には、金・銀の含有率の高い部材を回収した上で、銅などの別のベース金属を回収する工程で副次的に分離回収を行います。具体的には、まず、原料を高温で溶融・酸化して鉄や硫黄などを取り除き、マットと呼ばれる中間生産物をつくります。このマットをさらに高温で溶融・酸化することで純度を高めて、99.5%程度の粗銅を製造します。その後、電気精製工程(水溶液中に溶かし、電気を使って再度析出する工程)を経て純度99.99%の電気銅を製造します。この電気精製工程において、粗銅に含まれる金、銀、白金類を分離回収することができます。

 なお、回収した電子部品等に含まれる金や銀の濃度が高い場合には、硝酸等を用いる湿式還元(溶液中の酸などの濃度を変えて個別の金属を取り出す処理)によって取り出すことも可能です。

 また、リチウムイオン電池などの蓄電池のリサイクルにおいては、電池ケースやリサイクル対象外の不純物を除去した後に、リサイクル対象物質を抽出します。さらに、この段階では、まだ複数の金属が含まれているため、素材に合わせた数種類の溶液を使用してマンガン、コバルト、ニッケル、リチウム等を個別に溶液として分離します。分離した溶液に電気を流して金属を抽出する電気精製工程を経ることで、やっと純度の高い金属を取り出すことができます。

 上記のような複雑な回収工程を市町村等の廃棄物処理施設で行うのは一般的に困難であり、現在、廃棄物として排出された金属資源のうち、鉄、アルミニウム以外の金属資源の大部分は埋立て処分されています(図4-3-4)。


図4-3-4 平成22年度の市町村における有用金属の回収状況

3 リサイクルをした場合の環境負荷

 リサイクル処理を行う際にはエネルギーや副原料を必要とし、また、廃棄物等から資源を回収し、輸送する過程でもエネルギーを消費します。つまり、リサイクル製品をつくろうとした場合、かえってエネルギーや資源を大量に消費してしまう場合もあるのです。

 このため、リサイクルをしたほうがよいのか、それとも廃棄物としてそのまま処分してしまったほうがよいのか判断するためには、リサイクルに要するエネルギーや環境負荷を定量的・科学的に評価し、これとリサイクルをせずに通常の天然資源を用いた場合とを比較することが必要となります。この評価・分析手法は、LCA(Life Cycle Assessment)と呼ばれています。

 図4-3-5は、アルミ缶について、リサイクル原料の使用割合の違いによって、エネルギー消費量がどう異なるのかを示したものですが、リサイクル原料の使用割合を増やすほど、エネルギー消費量が減っていくことが分かります。これは、天然資源を用いる場合には、アルミニウムの原材料であるボーキサイトからアルミニウムへの製錬過程で、多くのエネルギーを必要とするためです。


図4-3-5 アルミ缶のリサイクル材料の使用率とエネルギー消費量の関係

 なお、現在、我が国のアルミ缶のリサイクル原料の使用割合はおおむね約60%となっていますので、100%天然資源でアルミ缶を製造する場合と比較した場合、エネルギー消費量は約50%削減されているものと試算することができます。

4 国外に流出する循環資源と環境への影響

 鉄くず、非鉄金属くず等の金属系廃棄物等の我が国の輸出量は、平成12年から、平成22年までの10年間で、約2倍以上に大きく増加しています(図4-3-6)。また、平成22年に輸出された中古製品は、自動車80万台、PC等のモニター460万台、テレビ260万台となっています(貿易統計)。これは、開発途上国の旺盛な資源需要・製品需要を背景としたものです。中古車や中古二輪車はロシア、アラブ首長国連邦やチリ、ニュージーランドなどさまざまな国に輸出されています。また、輸出されるテレビの大半は日本で使われなくなったブラウン管テレビであり、主にベトナム、マカオ、フィリピン、タイなどの東南アジアの国々に輸出されています。


図4-3-6 鋼鉄くず、非鉄金属くずの輸出量の推移

 国内で発生した循環資源が海外で再使用(リユース)されたり、リサイクルされたりするのは、グローバルな視点からの資源循環に資するものです。

 しかしながら、海外で行われているリサイクルに伴う環境負荷にも注意を払う必要があります。特に、海外に輸出された使用済みの電気電子機器の一部は、再使用されずにそのまま解体され、そこから有用金属の回収が行われていると考えられます。

 中国広東省スワトウ市のグイユ村には、先進国から輸出された使用済みの電気電子機器が大量に持ち込まれ、部品のリユースと、有用金属の回収が行われています。グイユ村では、人口約15 万人のうち約10万人程度がリサイクルに何らかのかたちで従事しており、年間100 万トンの電気電子機器のリサイクルを行っているとされていますが、電子基板を鉄板に乗せハンダを溶かして部品を取ったり、電線の被膜を取り除くために野焼きに近いことを行ったりしていたことが確認されています。


写真4-3-1 中国・グイユ村の廃棄物置場に座る子ども

 これらの電気電子機器には、鉄、ステンレス、銅、金などの有用金属のほか、鉛やカドミウムなどの有害物質が含まれています。例えば、鉛は、体内に吸収され、血中の鉛濃度が高くなり、一定濃度を超えると神経毒性(末梢神経の伝達速度の低下や自律神経機能への影響)や腎臓機能の低下が発生します。また、子どもの血中の鉛濃度が高くなると、重大な発育阻害を引き起こすことが明らかとなっています。

 鉛やカドミウムのリサイクル工程においては、加熱処理により発生した蒸気を吸引することにより人体に取り込まれたり、排水に混ざり水の汚染が発生したりするおそれがあります。このため、手作業による野焼き処理を行うのではなく、機械や風力などの選別装置を用いることや、しっかりとしたばい煙、排水処理施設を用意することが重要となります。

 開発途上国では、これらの有害物質の処理を適切に行っていないが故に、環境汚染や作業員の健康被害を引き起こしているとの研究報告がなされています。具体的には、中国の電気電子機器のリサイクル工場が集中しているある地域で、血液中の鉛やカドミウムの濃度が許容濃度を超えている事例が報告されています。

 また、家電製品に使われている難燃剤であるポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE)の濃度が、鶏などの家畜で高くなっていることが報告されています。鶏のポリ臭化ジフェニルエーテルの濃度が高くなると、鶏自身に悪性腫瘍が発生する可能性が高くなることに加え、これを人が食べることで胎児の発育に影響を及ぼすおそれがあります。

 他方で、我が国の事業者は、これらの有害物質を適正に処理する技術を有しています。使用済電気電子機器からの金属回収を行う際には、例えばケーブルであればプラスチックで皮膜されているため、その除去が必要であり、電子基板であれば部品・素材ごとに分離・選別が必要になります。開発途上国ではこれらの作業を主に手作業で実施し、その際にプラスチックを焼却して除去したり、鉛の入ったハンダを手作業で溶かして部品の分解などを行ったりすることがあり、健康被害や環境汚染の原因となっています。一方、我が国のリサイクル処理においては、一部の手解体工程を除くと機械化処理が主であり、工場も法令に基づいて環境対策が十分にとられています。

 このため、平成24年4月に閣議決定された第4次環境基本計画においては、輸出が増加している循環資源について国内での利用の促進を図るとともに、開発途上国では適正な処理が困難であるが我が国では処理可能な国外廃棄物等を対応能力の範囲内で受け入れ、途上国における環境・健康への悪影響の低減と資源としての有効活用を図ることとされています。


違法に回収される廃家電等


 廃家電等が国内で違法に不用品回収業者により回収されたり、住民が粗大ごみ等として排出した使用済小型電子機器等が持ち去られたりする事例が増加しています。

 不用品回収業者が回収した廃家電等は、一部はそのまま中古品として販売されたりもしていますが、不適正な処理がなされているものが少なくなく、飛散・流出を防止するための措置やフロン回収の措置等を講じずに分解・破壊が行われる例が多く見られます。また、不用品回収業者が引き取った廃家電等の処理に困り山中に不法投棄する事例も確認されているほか、不用品回収業者が回収した廃家電等や持ち去られた使用済小型電子機器等の多くが、資源価格の高騰している海外に違法・不適正に輸出され、現地で不適正な形で処理されています。

 国民生活センターには、不用品回収業者について、当初無料をうたっていたのに、作業後に料金を請求されたといった苦情も寄せられています。不用品回収業者が金銭を受けて不用品を引き取る行為は、廃棄物の収集運搬に当たります。廃棄物を収集運搬するには廃棄物処理法に基づく許可を受ける必要があり、これを無許可で収集運搬した場合には、刑事罰の対象となる違法行為となります。

 特に家電リサイクル法対象の家電4品目(テレビ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機)については、故障している・年式が古いなど中古品としての価値がない又は不用品回収業者において粗雑に扱うなど中古品としての取扱がなされていない場合には、金銭の授受に関係なく廃棄物に該当し、これを収集運搬するには上記の許可が必要となります。

 消費者の側でも自らが排出した廃家電等がどのように取り扱われるのか注意を払い、廃家電等を違法な不用品回収業者に引き渡すのではなく、家電リサイクル法に基づく小売業者への引渡しや市町村による収集など正規のルートに沿って排出していくよう心がけていくことが重要です。

 さらに、近年、収集運搬に許可を必要としない古紙、缶等についても、資源価格の高騰を背景に、無断で集積場から持ち去られる事例も増加しています。このため、現在、280以上の市町村において、資源ごみの持ち去りを独自に規制する条例が制定されています。


5 使用済小型電子機器等を対象とした新たなリサイクル制度

 我が国においては、先に紹介したように、大型の家電製品については、家電リサイクル法に基づくリサイクル、あるいは製造者による自主的回収が積極的に行われ、有用金属のリサイクルが行われています。

 他方で、安定的にリサイクルが行われていないゲーム機などの使用済小型電子機器等の中にもレアメタルを含む有用金属が含まれています。

 使用済小型電子機器等に関する統計は整備されていませんが、環境省では、1年間で使用済みとなり廃棄等が行われる小型電子機器等は65.1万トンであり、そのうち有用金属は、27.9万トン(金額換算すると844億円)になると推計しています。また、1年間で使用済みとなる小型電子機器等に含まれている金属の推計量と、1年間で新たに製品製造時に使用される国内需要量とを比較したのが図4-3-7です。金属別にみると、タンタル(対国内需要量比9.4%)、金(対国内需要量比6.4%)、銀(対国内需要量比3.7%)などについては、使用済小型電子機器等の回収・リサイクルを行うことにより、新たな天然資源投入量を抑制する一定の効果が見込まれることが分かります。


図4-3-7 使用済小型電子機器中の有用金属含有物と国内需要量の比較

 例えば、一般的に、携帯電話の本体(140g)には金が48mg(200円相当)程度含まれていますが、これは、鉱山で鉱石52.8kgを採掘して得られる資源の量に匹敵します(図4-3-8)。現段階では、基板からの資源回収については様々な技術上の課題がありますが、仮に平成23年に我が国で排出された使用済携帯電話約4,000万台のすべてから金の回収ができたと仮定すると、重量にして約2トン、金額換算にして約80億円分の金を資源として再利用することができることになります。


図4-3-8 都市鉱山からの金の採掘イメージ

 EUなどでは、使用済小型電子機器等について、有用金属が多く含まれることを考慮し、すでに制度的にリサイクルが行われています。

 我が国でもこの使用済小型電子機器等に着目し、環境省と経済産業省が協力して、平成20年度から回収モデル事業を実施しています。モデル事業を実施した地方公共団体からは、採算性を高めるためには小型電子機器等を広域的に収集運搬することが不可欠であり、廃棄物を収集運搬する際に必要となる廃棄物処理法に基づく許可を不要とすること等の規制緩和を講じるべきとの意見が出されました。

 また、小型電子機器等から回収された有用金属の取引価格は、その金属資源の需給状況や比較対象となる天然資源の取引価格によって、大きく変動する可能性があります。市町村がコストをかけて小型電子機器等を回収しても、市況変化を理由にリサイクル事業者が引取りを拒否することが簡単にできてしまうのであれば、多くの市町村が制度に参加することを躊躇するものと考えられます。

 これらを踏まえ、政府は、新法として、「使用済小型電子機器等の再資源化の促進に関する法律案(小型電子機器等リサイクル法案)」を平成24年3月9日に国会に提出しました。

 図4-3-9は小型電子機器等リサイクル法に基づくリサイクルの流れを示したものです。使用済小型電子機器等の回収方法は、ボックス回収、ステーション回収、ピックアップ回収等の中から地域の実情に応じて市町村が任意に選択します。市町村が回収した使用済小型電子機器等は、環境大臣及び経済産業大臣の認定を受けた事業者(認定事業者)に引き渡され、有用金属の回収・リサイクルが行われます。安定的なリサイクルを行う観点から、認定事業者は、市町村から引取りを行うことを求められた際には、正当な理由がない限り、これに応じる義務があります。


図4-3-9 小型電子機器等リサイクル法案の概要

 小型電子機器等リサイクル法案に基づき、認定事業者が使用済小型電子機器等の収集・運搬を行おうとするときは、廃棄物処理法に基づく許可を不要とするほか、施設整備に必要な資金を調達する際に産業廃棄物処理事業振興財団の債務保証を受けることができるようになります。

 以上のように、小型電子機器等リサイクル法案は、誰かに義務を課すタイプの制度ではなく、リサイクルの環への参加を促すタイプの制度となっています。このため、住民、市町村、リサイクル事業者といった、地域内の関係者が積極的に協力することが必要不可欠であり、リサイクルが地域内で効率的に実施されるよう、個々の高い環境意識が「地域力」として結集することが強く期待されます。

6 地上資源を発掘・活用している先進的事例

 我が国では、高い環境意識や近年の資源価格の高騰等を背景として、事業者や地方公共団体が中心となって、金属資源のリユース・リサイクルを自主的・積極的に行うという新たな取組が現れつつあります。以下では、そのような、地上資源を発掘・活用している国内の先進的な取組事例をいくつか紹介します。

(1)地域における小型電子機器等の回収

 富山県は、2010年10月から、県内各市と連携・協力し、使用済小型電子機器等のリサイクル推進モデル事業を開始しています。これは、各市が、小型電子機器等を回収し、金属リサイクル事業者に引き渡すことでリサイクルを推進するというものです。

 県内のリサイクル事業者が使用済小型電子機器等の買取りに積極的であったことから、県の呼びかけで県内の各市と事業者が連携することでモデル事業が実施できるようになりました。

 このモデル事業の回収方法としては、自治体の設置したリサイクル拠点に市民が直接持ち込む方法や、回収した粗大ごみから自治体の職員が分別を行う方法など、回収方法を各市で実施しやすい方法を任意に選択しています。また、回収した小型電子機器等を事業者に売却することで、市の廃棄物処理費用が低減するので、市民にとってのメリットも分かりやすくなっているというのが特徴として挙げられます。

 現在、リサイクル事業者の積極的な活動もあいまって、富山県のモデル事業をベースに、さらに近県の石川県、福井県の自治体においても同様の取組が行われるようになっており、広域での取組に広がっています。

(2)鉄鋼リサイクルの質的変化

 現在、鉄については、鉄鋼生産時や工場等で発生する加工スクラップ、土木・建築物の解体時に発生するスクラップ、自動車などの使用済製品から回収されるスクラップが再び鉄鋼生産へと循環しており、我が国で製造される鉄鋼製品の原料約1億4千万トンのうち、約5,300万トン(約38%)が鉄スクラップ由来の原料となっています(図4-3-10)。


図4-3-10 日本の鉄鋼フロー

 鉄スクラップを原料とした鋼材の原材料は、これまで、それ程高水準の品質が求められない建築用建材などに用いられていましたが、近年、スクラップへの異物混入を減らし純度を高めたり、新たな設備投資を行ったりして、高品質化を行う動きも見られるようになってきています。

 これにより、従前、天然資源の鉄鉱石を原材料として製造されてきた電気電子機器や自動車の鋼板の原材料に鉄スクラップが用いられるようになる、というリサイクルの質的変化が見られています。

 鉄鉱石から鉄を製造する際には、エネルギーに加えて鉄鉱石に含まれる酸素分について、コークスなどを使用し除去すること(還元すること)が必要なため、多くの二酸化炭素を排出します。一方、鉄スクラップから電炉を用いて鉄を製造する場合には、鉄スクラップを溶かして製品化するためのエネルギーだけで事足りることから、鉄鉱石を原料として生産するよりも二酸化炭素排出量が少なくなります。鉄スクラップの使用量を増やすことは、二酸化炭素の排出量減少にもつながっているのです。

(3)銅線のリサイクル

 銅線は、通電性が高いことから、電線・通信網、建築物・家電・自動車製品の配線等として幅広く使用されています。

 このうち、電線・通信網に用いられている銅線については、銅体が太く、かつ、形状が一定であることから、専用の機械を用いることで、容易に本体の銅線部分と被覆材部分を分離させることができます。このため、電力会社・通信会社は、保守点検時等に回収した電線のリサイクルに積極的に取り組んでおり、そこから取り出された銅は、純度が高く、銅線をはじめさまざまな用途に利用できることから、ほぼ100%がリサイクルされています。

 他方で、建築物の配線に用いられている銅線は、配線部分を解体時に取り出すのに、手間とコストを要することから、建築廃棄物として、一体的に処分されることも多くなっています。このため、そのまま廃棄されてしまうことも多い被覆のプラスチック部分をきちんとリサイクルし、トータルの処理コストを下げることが重要であり、回収した配線を種類別に分別した後に、被覆のリサイクル処理を行うといった工夫も行われています。

 なお、自動車に使用されている電線は、解体時に分離されているものの、ケーブルが束ねられており、各種コネクタ等も付属しているため、現行の機械による分離選別が困難となっています。このため、その大部分は海外に輸出され、手解体によって銅体と被膜を分離するリサイクル処理が行われています。

(4)インクカートリッジ里帰りプロジェクト

 家庭用プリンターメーカーの6社は、家庭等で使用されたインクカートリッジを回収し、資源として再利用するインクカートリッジ里帰りプロジェクトを2008年4月に開始しました。回収されたインクカートリッジは、仕分け拠点でプリンターメーカーごとに一つひとつ仕分けされ、各メーカーへ送られます。その後、各メーカーで再利用可能なものはインクカートリッジとしてリユースされているほか、原材料としての利用(マテリアルリサイクル)も行われています。

 回収率を高めるため、回収箱は、全国約3,600の郵便局に設置されています。また、151の自治体も回収に協力しており、市町村役場などの自治体施設約1,900カ所で回収が行われています。回収拠点に郵便局や自治体施設を活用するという工夫により、回収実績は、2008年度70万個、2009年度130万個、2010年度160万個、2011年度は約200万個弱(見込み)と順調に伸びています。

 また、2010年4月から回収したカートリッジ1個当たり3円を国連環境計画(UNEP)に、2011年3月から同じく1個当たり1円を環境省と国連大学高等研究所が主唱する「SATOYAMAイニシアティブ」に、それぞれ寄附しており、インクカートリッジ里帰りプロジェクトは、インクカートリッジの回収・リサイクルにとどまらず、森林保護や生物多様性の保全などほかの環境貢献活動にも寄与しています。


図4-3-11 インクカートリッジ里帰りプロジェクトの概要及びイメージキャラクター「里帰りくん」、

(5)超硬工具のレアメタルリサイクル

 金属加工用のドリルの刃や鉱山掘削用の工具などに用いられている超硬工具は、高い耐摩擦性や高温での硬度が必要とされるため、そのほとんどに、レアメタルのタングステンが使用されています。

 超硬工具の製造業者等を会員とする超硬工具協会は、経済産業省の支援も受けながら、業界を挙げて、リサイクルに関する取組を行っています。具体的には、回収・リサイクルの手引きを超硬工具のユーザー等に配布し、刃先となる超硬チップが有価物となることや、分別回収の徹底について周知を行っています。また、タングステン粉末の精練工程で生じる原料くずについては、機器等に付着した粉や切削くずなどを可能な限りすべて回収し、再び原料用に利用しています。

 加えて、工具メーカーも、必要最小限の刃先のみにタングステン材を使用する製品を開発するなど、製品設計段階でタングステンの使用量を減らす取組を行っています。

(6)使用済遊技機のリユース・リサイクル

 パチンコ・パチスロ遊技機については、1990年代に大量廃棄や野積み状態が社会問題化し、これをきっかけに適正処理の機運が高まり、リサイクル料金をメーカーが負担する自主的なリサイクルシステムが構築されました。

 このリサイクルシステムは、メーカーの下取り対象となっておらず、かつ、中古品として転売もされないものを対象として、一般社団法人遊技機リサイクル協会が主体となって運営しています。リサイクル料金はあらかじめメーカーが負担しているので、パチンコ店は、無料で使用済遊技機を廃棄することが可能となっており、不法投棄を行う経済的インセンティブを大きく減少させています。

 使用済遊技機は、使用期間が短い同じタイプの機器が同時に一定量発生するという特徴があるため、回収後は、積極的に液晶や制御基板などのパーツのリユースが進められています。また、それ以外の素材は、鉄、アルミ、プラスチックなどに分別され、マテリアルリサイクルされています。

 ただし、このリサイクルシステムにすべての事業者が参画しているわけではなく、いかにその裾野を広げていくかが課題となっています。


「使い捨てカメラ」ではない!環境にやさしい「レンズ付きフィルム」


 一般的に「使い捨てカメラ」と私たちが呼んでいた「レンズ付きフィルム」は、実は私たちの目で見えないところでリユース・リサイクルされており、「使い捨て」られていなかったことを皆さんは知っていますか。

 レンズ付きフィルムは、昭和61年の販売開始以降、誰でも簡単に写真を撮れることなどが受けてヒット商品となりました。

 レンズ付きフィルムは、フィルムを現像するため、使用後に写真屋さんに持ち込むことになりますが、当初は、フィルムを撮りだした後に残るレンズやボディ部分はそのまま廃棄されていました。

 しかしながら、レンズ付きフィルムの製造を行っていたA社は、販売量が急増したことから、リサイクルに取り組む決意を固め、平成2年にリサイクルセンターを整備。レンズ付きフィルムは現像のためお店に戻ってくるという特徴を活かし、また、リユース・リサイクルを意識した製品設計を行い、生産、販売、回収、リユース・リサイクルまで一貫した循環型システムを確立しました。

 現在、レンズ付きフィルムのリユース・リサイクルは、仕分け、分解、検査、再製造にいたるまですべて機械化・自動化されています。具体的には、リユースする部品は、製造時にユニット化されており、ユニットごとに分解、取出し、検査が行えるようになっています。また、リサイクルする部品は、材質を統一して、部品間、機種間を越えてリサイクルできるようになっています。

 現在は、デジタルカメラが主流となっていますが、海水浴場などデジタルカメラが使いづらい場所で利用されるなど、レンズ付きフィルムにも一定の需要があり、生産が続けられています。

 以上のとおり、循環型システムが確立しているレンズ付きフィルムは環境に配慮した製品ですので、使い終わった後は、安心して、街の写真屋さんに預けましょう。


リサイクルを前提に設計されたレンズ付きフィルム


循環資源の国内活用を推進するための国民運動「活かそう資源プロジェクト」


日本のごみを日本の財産に

 環境省では、「日本のごみを日本の財産に」の掛け声とともに、再生された循環資源を活用した製品の質の高さや二酸化炭素削減効果などの社会的有用性等を広く国民に伝え、そうした循環資源を活用した製品の普及推進を通じて、国内での循環資源の利活用を促進する国民運動「活かそう資源プロジェクト」を平成24年3月より展開しています。


企業と消費者をつなぐ国民運動を展開し、国産循環資源の活用を推進

 循環型社会の構築のためには、再生された循環資源を活用した製品の需要拡大を推進していくことが重要です。これまで、さまざまな事業者によって循環資源を活用した製品の商品化がなされてきましたが、売れ行きが伸びず生産終了となる商品も少なくなく、そうした循環資源を活用した製品の需要が拡大される状況にはいたっていないのが現状です。その原因にはさまざまなことが挙げられますが、循環資源を活用した製品の需要がそれほど伸びず、それにより供給側が生産を減少し、さらにそれが需要を停滞させているという指摘もあり需要と供給の問題があることが指摘されているのも事実で、そうした問題解決に向け国が支援を行うことも、循環資源を活用した製品の需要拡大を図っていく上で重要であると考えています。「活かそう資源プロジェクト」は、このような問題認識から立ち上げられた運動で、国が旗振り役となり、多くの企業の賛同を求め企業と消費者をつなぎ、循環資源の活用推進に向けた好循環をつくり出す国民運動です。

 具体的には、廃棄物を国内で中間処理することにより産出される資源を「国産循環資源」と位置づけ、[1]ホームページや各種イベント等を通じて広く国民に向け、国産循環資源を活用した製品の有用性等の情報を発信するとともに、[2]資源化などの廃棄物の適正処理を行うことができる優良な廃棄物処理業者の情報を分かりやすく提供できるシステム「優良産廃ナビゲーションシステム(優良さんぱいナビ)」を構築運営し、[3]廃棄物排出業者と廃棄物処理業者の協業づくりの場(コンソーシアム)を設置運営し未利用循環資源の活用促進に向けた基盤づくりを行っていきます。

 資源を大事に使う持続可能な循環型社会の構築に向け、企業の皆様には循環資源を活用した製品の製造やそうした情報の積極的な公表を促しつつ、国民の皆様には、循環資源の活用推進に向け具体的な4つのアクションを呼びかけていきますので、是非、「活かそう資源プロジェクト」にご参加ください。

 詳しくはこちらまで 活かそう資源プロジェクト(別ウィンドウ)


循環資源の国内活用を推進するための国民運動「活かそう資源プロジェクト」

7 まとめ

 国内で行われているリユース・リサイクルの先進事例を見ると、リサイクルシステムを構築するために、製品設計段階で、リユース・リサイクルを考慮した設計を行うなど、川上のメーカーが主導的な役割を果たしていることが分かります。自動車やコピー機の部品には、その部品がどのような素材でできているのか一目でわかるように工夫されています。これにより、素材別の分別・リサイクルが行いやすくなります。部品毎に分解しやすい設計となっていることも重要です。例えば、ネジの数が少なくなっていたり、部品レベルで分解が容易になっていたりすれば、それだけ効率的に分解することができます。

 また、回収した部品をメーカーが再び同種の製品に使ったり、製品の原材料として用いたりすることで、安定的・水平的なリユース・リサイクルの環がつくられることになります。

 メーカーにとっても、リユース・リサイクルに積極的に取り組むことで、大きな経営上のメリットをもたらしている場合も多いと考えられます。例えば、安定的に原料を調達できる、環境に配慮していることを消費者にPRできる、場合によっては低コスト化を実現できる、といったことが考えられます。 

 川下の取組ももちろん重要です。リサイクルやリユースについて、経済性をもって継続的に行うためには、大量の使用済製品を効率的に集めることが必要となります。このため、リース形態をとっているという利点を活かしメーカー自らがほぼ100%使用済製品の回収を行う(コピー機)、回収拠点として郵便局や市町村市役所を活用する(家庭用プリンターのトナーカートリッジ)といったさまざまな工夫が行われています。各家庭から排出される使用済みの小型電子機器等について、地方公共団体が回収面で大きな役割を果たすことで、上手くリサイクルが行われている事例もあります(富山県)。

 このように、リユースやリサイクルが円滑に行われるためには、川上と川下にいたるまでの総合的なシステムがしっかりと構築されることが必要となります。

 今回は、我が国に眠る地上資源の再利用に焦点を当て、さまざまな取組を紹介しました。しかしながら、リユースやリサイクルを行う場合には、少なからずエネルギーを消費しているということを忘れてはなりません。

 そもそも、資源をあまり使っていない製品を使用する、使い捨て製品を極力使わない、ものを大事に使う、そういった消費行動が、最も資源節約につながりますし、エネルギーの消費も少なくすむのです。

 したがって、しっかりとしたリユースやリサイクルのシステムを社会的に構築することに加え、消費者である私たち一人一人が、地球上で人間が利用できる天然資源の量に物理的限界があることを認識し、小さなことでもできることを実践していくことも極めて重要なのです。