第6節 調査研究、監視・観測等の充実、適正な技術の振興等


1 調査研究及び監視・観測等の充実


(1)研究開発の総合的推進
環境分野は、第2期科学技術基本計画において、わが国の研究開発の重点分野の一つとされています。分野別推進戦略を踏まえ、重点課題として選定された地球温暖化研究、ゴミゼロ型・資源循環型技術研究、自然共生型流域圏・都市再生技術研究、化学物質リスク総合管理技術研究、地球規模水循環変動研究の5課題については、イニシャティブ研究会合等を開催し、省際的な研究開発の推進を図り、その成果を取りまとめました。
総合科学技術会議では、「環境研究開発推進プロジェクトチーム」において、上記の各重点課題の最新動向や関係府省における施策の取組・連携状況、不必要な重複及び実施中の施策の効果等について調査検討を行いました。また、科学技術連携施策群のテーマの一つとして「バイオマス利活用」を立ち上げ、研究・技術開発に関して関係府省における施策の取組・連携状況の把握や、関係府省の連携を深めるための課題の選定など、各府省の連携の下で積極的に推進しました。さらに、平成17年度は第2期科学技術基本計画の最終年度であることから、第3期の基本計画(計画年度:平成18〜22年度)及びこれに基づく分野別推進戦略を策定しました。

(2)環境省関連試験研究機関の整備と研究の推進
ア 独立行政法人国立環境研究所
環境大臣が定めた5年間の中期目標(平成13〜17年度)とこれを達成するための中期計画に基づき、重点研究分野を中心に、特に重要な以下の課題についてはプロジェクトを形成し、環境研究の推進を図りました。
1) 地球温暖化の影響評価と対策効果
2) 成層圏オゾン層変動のモニタリングと機構解明
3) 内分泌かく乱作用を有する物質及びダイオキシン類のリスク評価と管理
4) 生物多様性の減少機構の解明と保全
5) 東アジアの流域圏における生態系機能のモデル化と持続可能な環境管理
6) 大気中微小粒子状物質(PM2.5)・ディーゼル排気粒子(DEP)等の大気中粒子状物質の動態解明と影響評価
また、環境行政の新たなニーズに対応した以下の政策対応型調査・研究を2つの研究センターで実施しました。
1) 循環型社会形成推進・廃棄物管理に関する調査・研究
2) 化学物質環境リスクに関する調査・研究
重点研究分野をはじめ、長期的視点に立った基盤研究や創造的・先導的調査研究を6つの研究領域等で実施しました。
研究の効率的実施や研究ネットワークの形成に資するため、環境研究基盤技術ラボラトリーにおいて環境標準試料の作製等を実施するとともに、地球環境研究センターにおいて地球環境の戦略的モニタリング等を実施し、知的研究基盤の整備に取り組みました。
環境情報センターにおいては、環境の保全に関する国内外の資料の収集、整理及び提供を行い、国民等への環境に関する適切な環境情報の提供サービスを実施しました。
イ 国立水俣病総合研究センター
国立水俣病総合研究センターは、水俣病に関する総合的医学研究を行い、水俣病患者の医療向上を図るため、昭和53年に熊本県水俣市に設立され、水俣病に関する医学的研究、社会科学的研究、自然科学的研究等を幅広く行っています。また、水銀汚染問題に関する日本の経験の蓄積を活用し、国際共同研究等の国際協力に貢献していくなどの施策を実施しました。また、同センターに属する水俣病情報センターにおいては、資料の収集・整理・提供を実施しました。

(3)公害防止等に関する調査研究の推進
環境省に一括計上した平成17年度の関係行政機関の試験研究機関(国立機関及び独立行政法人)の地球環境保全等に関する研究のうち、公害の防止等に関する各府省の試験研究費は、総額12億3,272万円でした。8府省20試験研究機関等において、環境の現状の的確な把握、環境汚染による環境変化の機構の解明、環境汚染の未然防止、汚染された環境の修復等の領域にわたり、61の試験研究課題を実施しました。その内容は表7-6-1のとおりです。

表7-6-1	公害防止等に関する調査研究


(4)地球環境研究に関する調査研究等の推進
地球環境の保全を科学的知見に基づき適切に推進し、国際的な取組に貢献するため、平成17年6月に地球環境保全に関する関係閣僚会議が策定した「平成17年度地球環境保全調査研究等総合推進計画」等を踏まえつつ、総合的な調査研究等を実施しました。
関係府省の国立試験研究機関、独立行政法人、大学、民間研究機関等広範な分野の研究機関、研究者の有機的連携の下、「地球環境研究総合推進費」により、学際的、国際的観点を重視しつつ地球環境研究を推進しました。平成17年度は、戦略的な研究課題として、温暖化の危険な水準及び温室効果ガス安定化レベル検討のための温暖化影響の総合的評価に関する研究に着手しました。関係行政機関等による中長期的視点から着実に推進すべき研究については、「地球環境保全試験研究費」により、地球温暖化の防止に資する研究を行いました。17年度に実施した主な調査研究は表7-6-2のとおりです。

表7-6-2	平成17年度に実施した主な地球環境分野の調査研究


(5)基礎的・基盤的研究の推進
次世代の環境保全技術の基礎となる「知的資産」を蓄積するため、「環境技術開発等推進費」の「基礎研究開発課題」において、「空間明示モデルによる大型哺乳類の動態予測と生態系管理に関する研究」等計8課題及び「フィージビリティスタディ研究課題」のうち基礎研究開発の技術分野において1課題の研究の推進を図り、また、「自然共生型流域圏・都市再生技術課題」において、主要都市・流域圏の自然共生化に必要なシナリオの設計・提示を目指した2課題の研究の推進を図りました。

(6)地球環境に関する観測・監視
衛星による地球環境観測については、熱帯降雨観測衛星(TRMM)の降雨レーダ(PR)や米国地球観測衛星(Aqua)の改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR−E)から取得された観測データを、地球環境の観測・監視や環境問題の原因解明に活用しました。環境観測技術衛星「みどりII」(ADEOS-II)から得られた観測データについては、最大限活用すべくデータの精度の向上を図るとともに、オゾン層破壊の現象解明等に活用しました。また、陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の打上げ、環境省、国立環境研究所及び宇宙航空研究開発機構の共同による温室効果ガス観測技術衛星(GOSAT)の開発及び、全球降水観測(GPM)計画主衛星に搭載する二周波降水レーダ(DPR)の研究開発を行いました。
海洋における観測については、海洋地球研究船「みらい」等を用いた観測研究、観測技術の研究開発を推進しました。第47次南極地域観測隊が昭和基地を中心に、海洋、気象、電離層等の定常的な観測のほか、地球規模での環境変動の解明を目的とする各種のプロジェクト研究観測等を実施しました。特に、平成18年1月、約100万年前の気候や二酸化炭素濃度を解明するために、ドームふじ基地において深さ3,029mの氷床コアの採取に成功しました。
地球変動予測研究については、世界最高性能のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」を活用した地球温暖化予測モデル開発等を推進しています。
地球規模の変動に大きく関わっている海洋における観測について、海洋の観測データを飛躍的に増加させるため、海洋自動観測フロート約3千個を全世界の海洋に展開し、地球規模の高度海洋監視システムの構築を目指すARGO計画を推進しました。
「地球観測システム構築推進プラン」では、競争的研究資金制度のもと、地球観測システムの構築に貢献する研究開発等に効果的に取り組んでいます。本事業が創設された平成17年度は、地球温暖化・炭素循環分野及びアジアモンスーン地域水循環・気候変動分野における研究課題の実施を開始しました。
GPS装置を備えた検潮所において、精密型水位計により、地球温暖化に伴う海面水位上昇の監視を行い、海面水位監視情報の提供業務を継続しました。また、平成16年に続き、国内の影響・リスク評価研究の推進に向けて、日本付近のより詳細な気候変化の予測結果を更新・提供したほか、それらの結果を取りまとめ、「地球温暖化予測情報」として発表しました。
地上観測については、環境省及び気象庁が、それぞれ沖縄県波照間島や東京都南鳥島等で温室効果ガスの測定を行っています。気象庁ではWMO/GAW計画の一環として、温室効果ガス、CFC等オゾン層破壊物質、オゾン層、有害紫外線等の定常観測、日本海周辺海域及び北西太平洋海域における洋上大気・海水中の二酸化炭素等の定期観測、エーロゾルライダーを用いたエーロゾルの高度分布の測定を引き続き実施しました。また、黄砂及び有害紫外線に関する情報を発表しています。
世界の地上気候データの円滑な国際交換を推進するため、世界気象機関(WMO)の計画に沿って各国の気象局と連携し地上気候データの入電数向上、品質改善等のための業務を実施しています。
平成17年度に実施した主な観測・監視は表7-6-3のとおりです。

表7-6-3	平成17年度に実施した主な地球環境分野の観測・監視


(7)廃棄物処理等科学研究の推進
総合科学技術会議の「平成17年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」で重点を置くとされた研究イニシアティブのうち、「ごみゼロ型・資源循環型技術研究」を推進するため、競争的研究資金を活用し広く課題を募集し、平成17年度は、50件の研究事業及び6件の技術開発事業を実施しました。
研究事業については、「社会におけるマテリアルフロー分析、循環型社会の評価手法に関する研究」、「経済的インセンティブを用いた3R(リデュース、リユース、リサイクル)の推進に関する研究」、「地域における最適な資源循環システムの構築に関する研究」、「安全、安心のための廃棄物管理技術に関する研究」を重点テーマとし、廃棄物をとりまく諸問題の解決とともに循環型社会の構築に資する研究を推進しました。
技術開発については、「廃棄物適正処理技術」、「廃棄物リサイクル技術」、「循環型社会構築技術」を公募分野とし、次世代を担う廃棄物処理等に係る技術の開発を図りました。
文部科学省では、廃棄物の無害化処理と再資源化を図るとともに、影響・安全性評価及び社会システム設計に関する研究開発を産学官の連携で行う「一般・産業廃棄物・バイオマスの複合処理・再資源化プロジェクト」を開始しました。

(8)環境保全に関するその他の試験研究
環境省では、ナノテクノロジーを環境分野に活用した環境モニタリング・健康生態影響評価・環境汚染防止対策に関する技術開発等を行いました。
内閣府では、温室効果ガス削減の国際的な枠組みの問題等気候変動問題に焦点をあて、国内外の研究機関と共同で国際共同研究を実施しました。また、環境と経済の関係を示す「環境サテライト勘定」について、これまでの研究及びシステム開発を基に、改訂版環境・経済統合勘定ハンドブック(SEEA2003)の中でも中心的な役割を担っているNAMEA(National Accounting Matrix including Environmental Accounts)の推計及び勘定体系の改良を行いました。
総務省では、電磁波を利用した地球環境観測技術の研究として、GPM搭載2周波降水レーダーの開発、宇宙からの雲観測技術、宇宙からの風観測のためのライダー技術、宇宙からの大気微量成分の三次元観測技術、極域大気環境の総合計測技術に関する国際共同研究、高分解能映像レーダーによる地表面の高精度観測技術、亜熱帯環境計測技術の研究開発を実施しました。
農林水産省では、環境負荷を低減し、持続的農業を推進するための革新的技術の開発として、畜産臭気の低減技術の開発とバイオマスの総合利用による地域循環システムの実用化に関する取組を強化しました。また、地球温暖化が農林水産業に与える影響の評価や温室効果ガスの排出削減・固定化技術の開発を実施したほか、流域圏における水・物質循環の機構及び農林水産生態系の機能の解明による流域圏環境の総合的管理手法の開発、野生鳥獣による農林業被害を軽減する管理技術の開発、農林水産生態系における有害化学物質の動態把握と生物・生態系への影響評価と分解・無毒化等を通じたリスク低減技術の開発、アジアモンスーン地域における水循環変動を考慮した食料需給モデルの開発、水循環変動の影響を評価・予測、変動の影響を最小化するための対策シナリオの策定等を実施しました。
経済産業省では、植物機能や微生物機能を活用して工業原料を生産する技術開発、廃棄物や汚染物質の生分解・処理技術の開発を実施しました。特に、生物機能を活用した物質生産に係る実用化開発を推進する観点から、「バイオプロセス実用化開発プロジェクト」を実施しました。また、これらの開発を支える基盤整備のための生物遺伝資源の収集に係る技術開発や、バイオテクノロジーの産業利用における安全管理充実のための遺伝子組換え体のリスク管理に関する基盤研究等を実施しました。さらに、愛・地球博において、バイオマス由来プラスチックの利活用の実証を実施しました。
国土交通省では、ライフサイクル(製造から廃棄までの全期間)を通じたCO2と廃棄物に関する建築物の環境性能を定量的に評価する手法の開発、及びその対策技術の開発を実施しました。また、効果的なヒートアイランド対策の推進のために、地理情報等を活用して都市空間におけるヒートアイランド現象をスーパーコンピュータにより再現するシミュレーション技術の開発等について実施しました。
循環型社会の構築に向け、下水汚泥の建設資材利用や、他の有機質廃材と組み合わせた有効利用等の技術開発を推進しました。
環境への負荷が小さく、新たな海洋空間の創造が可能な超大型浮体式海洋構造物(メガフロート)の普及促進のための調査を行いました。また、内航海運の活性化と物流における環境負荷低減に大きく貢献する次世代内航船(スーパーエコシップ)の研究開発、外航海運分野からの環境負荷(バラスト水問題等)の低減と採算性を両立した低環境負荷型外航船(グリーンシップ)の研究開発、船舶からの大気汚染の防止を図ることを目的に、排出ガスに含まれるSOxを大幅に削減する活性炭素繊維(ACF)を活用した高機能排煙処理システムや、NOx及びCO2の排出を同時に削減させる超臨界水を活用した舶用ディーゼル燃焼技術といった新たな環境負荷低減技術の研究開発を実施しました。

2 調査研究、監視・観測等に係る国際的な連携の確保等


(1)戦略的な地球環境の調査研究・モニタリングの推進
地球環境保全に関する調査研究については、「平成16年度地球環境保全調査研究等総合推進計画」を踏まえ、国際的な研究計画に参加・連携しつつ、積極的に推進しました。また、「地球環境研究総合推進費」制度の一環として、海外の研究者を招へいして日本の国立試験研究機関等において共同研究を行う「国際交流研究」の枠組み等を活用し、調査研究等の充実、強化を図りました。
監視・観測については、UNEPにおける地球環境モニタリングシステム(GEMS)、世界気象機関(WMO)における全球大気監視(GAW)計画、WMO/ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)合同海洋・海上気象専門委員会(JCOMM)の活動、全球気候観測システム(GCOS)、全球海洋観測システム(GOOS)等の国際的な計画に参加、連携して実施するほか、平成15年6月のG8エビアン・サミットでの小泉総理の提唱に基づき開催された地球観測サミットの第3回会合において承認された「全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画」に基づき、同計画を実施するための国際的組織として設置された地球観測に関する政府間会合(GEO)において、執行委員会国を務めるとともにGEOSSの全体構成を検討する常設委員会である構造・データに関する委員会を共同議長として率いるなど、GEOの活動に積極的に参加しています。また、世界気象機関(WMO)の全球大気監視計画の一環として、温室効果ガス、CFC等オゾン層破壊物質、オゾン層、有害紫外線等の定常観測、エーロゾルライダーを用いたエーロゾルの高度分布の測定を引き続き実施しました。また、世界気象機関温室効果ガス世界資料センターとして全世界の温室効果ガスのデータ収集・管理・提供業務を、WMO品質保証科学センターとしてマレーシアにおける二酸化炭素観測に関する技術支援をはじめとする観測データの品質向上に関する業務を、WMO全球大気監視較正センターとしてアジア地区でのメタン標準ガスボンベの巡回比較業務を実施しました。
また、衛星観測機関と地上観測機関の協力により全地球規模での観測を実現するため、平成10年に関係国際機関による統合地球観測戦略(IGOS)パートナーシップが発足しており、文部科学省及び宇宙航空研究開発機構が地球観測衛星委員会(CEOS)を通じこれに参加しています。
世界の地上気候データのリアルタイム収集やその品質などを監視するGSN監視センター(GSNMC)の業務を平成11年からドイツ気象局と共同で実施しています。
アジア太平洋気候センターにおいて、アジア太平洋地域各国気象機関に対し基盤的な気候情報を引き続き提供するとともに、新たに、向こう3か月間の気温と降水量の階級ごとの出現確率を予測した資料や地球温暖化予測情報第6巻の提供を開始するなど、気候情報提供の改善と拡充を図りました。また、アジア太平洋地域を対象に気候情報の社会経済分野への応用に関する現地調査を行い、域内各国の気候情報の高度化に向けた取組と人材育成に協力しました。
また、VLBI(超長基線電波干渉法)や、GPS(汎地球測位システム)による国際共同事業に参画し、グローバルな地殻変動等の観測・解析を実施しました。また、測地基準系に基づく地球規模の海面変動の監視のための共同研究等を推進しています。
さらに、東アジア地域における残留性有機汚染物質(POPs)の汚染実態把握のための環境モニタリングが円滑に実施できるよう、東アジアPOPsモニタリングワークショップを開催しました。

(2)国際的な各主体間のネットワーキングの充実、強化
アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)の枠組みを活用し、アジア太平洋地域における特に開発途上国の地球変動研究の推進を積極的に支援しました。APNでは、神戸市内に開設したAPNセンターを中核として、気候変動や生物多様性に関する国際共同研究などに対し支援を行い、地域内諸国の研究者及び政策決定者の能力向上に大きく貢献しました。また、開発途上国の地球温暖化に関する科学的能力の強化を図るために、ヨハネスブルグ・サミットにおけるパートナーシップ・イニシアティブのひとつとして提唱した「持続可能な開発のための科学的能力向上プログラム(CAPaBLE)」として、地球温暖化の影響及び緩和策に関する先導的研究や、温室効果ガスの測定手法等について開発途上国の研究者の能力向上等を推進しました。APNにおけるこれまでの活動の評価報告書を踏まえた第2次戦略計画を策定し、一層充実させるための方向性を示しました。さらに、平成17年11月と18年3月には、全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画を具体化するため、能力開発に係るアジア地域での初めての取組として、「アジア太平洋地域における地球観測及び能力開発ニーズに関するスコーピングワークショップ:気候に焦点をあてて」を、東京とバンコクで開催しました。ワークショップでは、能力開発及び地球温暖化/気候変動の専門家が一堂に会し、地球観測分野の能力開発に関わるAPNの役割について議論を行いました。ワークショップの結果、アジア太平洋地域は気候変動に対して脆弱性が高く、気候変動とその影響に係る観測ニーズが一層高まっているが、観測の実施、既存データへのアクセス、データの分析・利用技術、データを利用したシミュレーション技術など多くの分野で能力開発が必要であることが共有され、今後、APNがこうした分野でのネットワーク形成・能力開発に重点を置くことが求められました。
また、地球環境の現状と変動の把握のための「地球地図構想」を提唱し、国際標準化機構等との連携を図りつつ、地球地図データ整備を実施しています。地球地図構想の一層の推進を図るため平成17年4月にはカイロで第12回地球地図国際運営委員会会合を開催しました。
さらに、アジア太平洋地域の持続可能な開発のための政策決定を支援するため、「アジア太平洋環境イノベーション戦略プロジェクト(APEIS)」を推進しました。本プロジェクトでは、第1フェーズ(平成14年度〜16年度)において、アジア太平洋地域の研究機関と共同で、衛星データを活用した統合的環境モニタリング、環境・経済統合モデルによる分析・評価、革新的な戦略オプションの開発を推進しました。また、平成16年のエコアジアにおいてその成果を政策決定者に発信し、17年度からAPFED-II(アジア太平洋環境開発フォーラム第2ステージ)の下で第2フェーズを開始することが合意され、引き続き研究活動を行いました。

3 技術の振興


(1)環境技術の開発支援
「持続可能な開発」の推進のため、汚染物質等の直接的な処理技術はもとより、資源、エネルギーの効率的利用のための技術等、地球環境の変化を緩和するための技術開発が必要です。また、特定の地球環境問題の解決のための技術が他の環境問題を起こさないよう配慮するとともに、開発途上国の自然的・社会的条件に適した技術の開発を推進する必要があります。
このような観点から、地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨等国際的に対応が必要になっている分野において技術開発を推進するとともに、技術開発体制の整備、充実を図りました(表7-6-4)。

表7-6-4	平成17年度に実施した主な環境技術の開発支援

また、環境政策上対応が急がれる技術の開発を行うため、「環境技術開発等推進費」の「実用化研究開発課題」において、「水鳥と共生する冬期湛水水田の多面的機能の解明と自然共生型水田農業モデルの構築」等計9課題、及び「フィージビリティスタディ研究課題」のうち実用化研究開発の技術分野における1課題の技術開発の推進を図りました。
地球温暖化対策に関しては、新たな地球温暖化対策技術の開発・実用化・導入普及を進めるため、「地球温暖化対策技術開発事業(競争的資金)」において、重点テーマである「水素・燃料電池社会の構築に関する対策技術の実用化開発」、「バイオマス燃料の製造・利用システムの技術開発」、「地域におけるエネルギーネットワークシステムの構築に関する技術開発」を中心に33件の技術開発事業を実施しました。
また、「環境技術実証モデル事業」では、先進的環境技術の普及をさらに促進すべく、湖沼等水質浄化技術等2技術分野を、新たに実証の対象に追加しました。
さらに、地方公共団体の環境測定分析機関等を対象として、各分析機関における環境測定分析技術の向上を図る契機とし、信頼性の確保に資する観点から、環境測定分析統一精度管理調査を実施しています。
平成17年度は、基本精度管理調査(重金属類(カドミウム、鉛、砒素、ほう素)と高等精度管理調査(重金属類(亜鉛)、芳香族化合物(ベンゾ(a)ピレン、ベンゾフェノン、4-ニトロトルエン)、揮発性有機化合物(ベンゼン、ジクロロメタン、塩化ビニルモノマー、1,3-ブタジエン)ダイオキシン類及びコプラナーPCBについて調査を実施しました。また、ホームページを利用した分析結果回収システムの改善を進め、さらに極端な分析結果(外れ値等)の原因究明に取り組みました。なお、解析・評価の高度化については、13〜16年度実施分の取りまとめを行うとともに、分析プロセスにおける要因の解析を実施しました。

(2)技術開発等に際しての環境配慮及び新たな課題への対応
先端技術に関する環境保全施策を推進するため、バイオテクノロジーと環境保全に関する基礎的な調査を行いました。また、バイオレメディエーション事業の健全な発展とバイオレメディエーションの利用の拡大を通じた環境保全を図るため、「微生物を用いたバイオレメディエーションに係る利用指針」に基づき、制度の適切な運用を行うとともに平成17年度においては同指針に基づき事業者から提出された1件の浄化事業計画につき、同指針に適合している旨の確認を行いました。

4 国による基盤整備等

科学技術振興調整費においては、平成16年度公募から創設した「重要課題解決型研究等の推進」の中で、「環境保全・再生技術に関する研究開発・技術実証実験」を対象課題として設定し、関係府省の連携の下、これらに対応した研究の推進を図りました。さらに、大学共同利用機関法人人間文化研究機構総合地球環境学研究所が実施する人文・社会科学から自然科学までの幅広い学問分野を総合化する研究プロジェクトの推進など、大学等における地球環境問題に関連する幅広い学術研究の推進や研究施設の整備、充実への支援を図るとともに、関連分野の研究者の育成を行いました。
また、科学研究費補助金、戦略的創造研究推進事業、私立大学が内外の研究機関と行う環境分野等の共同研究を支援する学術フロンティア推進事業等により、環境に関する基礎研究の推進を図りました。

5 地方公共団体、民間団体等取組の推進

地方公共団体の環境関係試験研究機関は、監視測定、分析、調査、基礎データの収集等を広範に実施するほか、地域固有の環境問題等についての研究活動も推進しています。

6 成果の普及等

環境保全に貢献する技術の普及と啓発を図るため、「環境技術情報ネットワーク」ホームページ(http://e-tech.eic.or.jp)により情報提供を行いました。
地球環境保全等試験研究費(公害防止等試験研究費)及び環境技術開発等推進費に係る研究成果については、環境保全研究発表会、環境保全研究成果集等を通じ公開し、行政機関、民間企業への紹介、普及を図りました。
廃棄物処理等科学研究成果については、廃棄物処理技術情報ホームページにおいて公開しているほか、「廃棄物対策研究発表会」において発表するとともに、関連する海外情報についても広く普及を図りました。
地球環境研究についても、地球環境研究総合推進費ホームページにおいて、研究成果及びその評価結果を公開しているほか、「脱温暖化社会に向けて−2050年からのバックキャスティング−」と題した地球環境研究総合推進費公開シンポジウムを開催し、地球温暖化対策に関する研究情報を分かりやすく紹介しました。


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