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わが国の自然環境を取り巻く状況 |
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自然環境は、生物多様性と自然の物質循環を基礎とし、生態系が微妙な均衡を保つことによって成り立っています。そして、自然環境は、地球温暖化の防止、水環境の保全、大気環境の保全、野生生物の生息環境としての役割などの機能を有しており、現在及び将来の人間の生存に欠かすことのできない基盤となっています。また、自然環境は、社会、経済、科学、教育、文化、芸術、レクリエーションなど様々な観点から人間にとって有用な価値を有しています。
しかし、これまで人間が行ってきた自然の再生産能力を超えた自然資源の過度な利用などの行為により、自然環境の悪化が進んできました。その結果、生物多様性は減少し、人間生存の基盤である有限な自然環境が損なわれ、生態系は衰弱しつつあります。
わが国は、その地史や気候等を背景として、多様で豊かな自然環境を有しており、私たちは様々な恩恵を享受しています。一方、私たちは、地震、台風、豪雨などによる自然災害への備えを怠ることはできません。
戦後、高度経済成長期を経て自然災害に対する安全性や物質的な生活水準は向上してきましたが、その一方で、大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会経済活動の増大に伴い、自然環境に大きな負荷を与えてきました。
また、自然に対する人為の働きかけによって維持されてきた里地里山等における二次的な自然環境の質も、生活・生産様式の変化、人口の減少など、社会経済の変化に伴い、その働きかけが縮小撤退することにより変化してきました。
このように、直接間接を問わず、様々な人間活動、人為の影響等によって、自然海岸や干潟、湿原などが減少しているほか、人工林や二次林の手入れ不足、耕作放棄地の拡大等により、わが国の生態系の質の劣化が進んでおり、メダカに代表される身近な野生生物の絶滅のおそれが高まるなど、わが国の自然環境は大きく変化しています。 |
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自然再生の方向性 |
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現在、自然と共生する社会の実現と地球環境の保全が重要な課題となっています。このため、自然環境の価値を再認識し、長い歴史の中で育まれた地域固有の動植物や生態系その他の自然環境について、生態系の保全や生物種の保護のための取組を推進すべきことはもちろん、過去に損なわれた自然環境を積極的に取り戻す自然再生によって地域の自然環境を蘇らせることが必要となっています。
わが国は、南北に長く、モンスーン地帯に位置することなどから、豊かな生物相を有するとともに、変化に富んだ美しい自然を有しています。同時に、狭い国土面積に稠密な人口を抱え、その地形、地質、気象などの条件から自然災害を受けやすいという特性があるほか、土地利用の転換圧力が強い都市地域、農林水産業等を通じ二次的な自然を維持形成してきた農山漁村地域など、地域によって、自然を取り巻く状況に大きな違いがあります。このため、わが国での自然再生を考える際には、地域の自然環境の特性や社会経済活動等、地域における自然を取り巻く状況をよく踏まえるとともに、これらの社会経済活動等と地域における自然再生とが相互に十分な連携を保って進められることが必要です。
さらに、森林、農地、都市、河川、海岸等の生態系は、流域の水循環、物質循環等を介して密接な関係を有していることや、広い範囲を移動する野生生物の生態学的特性を踏まえ、地域の自然再生を進めるに当たっては、周辺地域とのつながりや流域単位の視点などの広域性を考慮する必要があります。
こうしたことを踏まえ、自然再生の視点として、次の3つを掲げます。 |
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過去の社会経済活動等により損なわれた生態系その他の自然環境を取り戻すことを目的とし、健全で恵み豊かな自然が将来世代にわたって維持されるとともに、地域に固有の生物多様性の確保を通じて自然と共生する社会の実現を図り、あわせて地球環境の保全に寄与することを旨とすべきこと。 |
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[2] |
地域に固有の生態系その他の自然環境の再生を目指す観点から、地域の自主性を尊重し、透明性を確保しつつ、地域の多様な主体の参加・連携により進めていくべきこと。 |
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[3] |
複雑で絶えず変化する生態系その他の自然環境を対象とすることを十分に認識し、科学的知見に基づいて、長期的な視点で順応的に取り組むべきこと。 |
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これらの視点を踏まえた上で、自然再生の推進に関する基本的方向を次のとおり示します。 |
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ア |
自然再生事業の対象 |
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自然再生を目的として実施される事業(以下「自然再生事業」という。)は、今後重視すべき先の3つの視点を明確にした新たな取組であり、開発行為等に伴い損なわれる環境と同種のものをその近くに創出する代償措置としてではなく、過去に行われた事業や人間活動等によって損なわれた生態系その他の自然環境を取り戻すことを目的として行われるものです。
このような自然再生事業には、良好な自然環境が現存している場所においてその状態を積極的に維持する行為としての「保全」、自然環境が損なわれた地域において損なわれた自然環境を取り戻す行為としての「再生」、大都市など自然環境がほとんど失われた地域において大規模な緑の空間の造成などにより、その地域の自然生態系を取り戻す行為としての「創出」、再生された自然環境の状況をモニタリングし、その状態を長期間にわたって維持するために必要な管理を行う行為としての「維持管理」を含みます。 |
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イ |
地域の多様な主体の参加と連携 |
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自然再生事業は、それぞれの地域に固有の生態系その他の自然環境の再生を目指すものです。このため、どのような自然環境を取り戻すのかという目標やどのように取り戻すのかという手法の検討等については、それぞれの地域の自主性・主体性が尊重されるべきです。
自然再生事業の実施に当たっては、当該自然再生事業の構想策定や調査設計など、初期の段階から事業実施、実施後の維持管理に至るまで、関係行政機関、関係地方公共団体、地域住民、特定非営利活動法人その他の民間団体(以下「NPO等」という。)、自然環境に関し専門的知識を有する者等地域の多様な主体が参加・連携し、相互に情報を共有するとともに、透明性を確保しつつ、自主的かつ積極的に取り組むことが重要です。 |
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ウ |
科学的知見に基づく実施 |
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自然再生事業は、科学的知見に基づいて実施するべきであり、地域における自然環境の特性や生態系に関する知見を活用し、自然環境が損なわれた原因を科学的に明らかにするなど、科学的知見の十分な集積を基礎としながら、自然再生の必要性の検証を行うとともに、自然再生の目標や目標達成に必要な方法を定めることが必要です。
この場合、自然の復元力及び生態系の微妙な均衡を踏まえて行うことが重要であり、工事等を行うことを前提とせず自然の復元力に委ねる方法も考慮し、再生された自然環境が自律的に存続できるような方法を含め、自然再生を行う方法を十分検討すべきです。
また、わが国では、間伐材や粗朶などの地域の自然資源を用いたり、人力を十分に活用した作業を行うなど伝統的な手法を行ってきたことを踏まえ、このような手法のうち自然と調和したきめ細かで丁寧な手法について、地域における経験と実績に基づく知見の把握に努めるとともに、その有効性を確認しつつ、自然再生の手法として用いていくことも必要です。 |
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エ |
順応的な進め方 |
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自然再生事業は、複雑で絶えず変化する生態系その他の自然環境を対象とした事業であることから、地域の自然環境に関し専門的知識を有する者の協力を得て、自然環境に関する事前の十分な調査を行い、事業着手後も自然環境の再生状況をモニタリングし、その結果を科学的に評価し、これを当該自然再生事業に反映させる順応的な方法により実施することが必要です。
また、自然再生において、自然の復元力が十分に発揮されるよう条件を整えることにより回復の過程に導く場合や、その回復の過程の中で補助的に人の手を加える場合がありますが、生態系の健全性の回復には一般に長い期間が必要であることを十分に認識すべきです。
このため、自然再生事業の実施に当たっては、自然再生の目標とする生態系その他の自然環境の機能を損なうことのないよう、自然環境が再生していく状況を長期的・継続的にモニタリングし、必要に応じ自然再生事業の中止や中止した場合に周辺環境へ影響が及ばないようにすることを含め、計画や事業の内容を見直していく順応的な進め方によることが重要です。 |
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オ |
自然環境学習の推進 |
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自然環境学習は、自然環境に対する関心を喚起し、共通の理解を深め、意識を向上させるとともに、希薄化した自然と人間との関係を再構築する上から重要です。
自然環境学習を効果的に行うためには、単なる知識の伝達にとどまらず、直接的な自然体験、保全活動への参画などが必要です。地域における自然環境の特性を踏まえ、科学的知見に基づいて実施される自然再生は、自然環境学習の対象として適切であり、自然再生事業を実施している地域が、その地域の自然環境の特性、自然再生の技術及び自然の回復過程等自然環境に関する知識を実地に学ぶ場として十分に活用されるよう配慮する必要があります。その際、過剰な利用により自然再生に悪影響が及ばないようなルール作りも併せて行うことや、博物館、公民館等の社会教育施設、学校教育機関及び研究機関等の地域の関係機関との協力と連携を図ることも重要です。 |
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カ |
その他自然再生の実施に必要な事項 |
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自然再生を将来にわたって効果的に推進するため、国及び地方公共団体は、調査研究の推進と科学技術の振興を図るとともに、全国的な事例などの情報提供に努める必要があります。
自然再生に関する施策の実効を期するためには、地域住民等の理解と協力が不可欠であり、自然再生の取組に際しては、地域の協議会での話合いを通じて合意の形成を図るとともに、自然再生の対象となる区域において一定の権原を持つ土地の所有者等の理解と協力を得ながら進めることが不可欠です。国及び地方公共団体は、自然再生の重要性に関する理解を促進し、地域における自覚を高めるために、自然環境学習の効果的な実施を含め、普及啓発活動を積極的に推進する必要があります。
また、再生された自然環境が将来にわたって適切に維持されるよう、自然再生の実施に際しては、地域の実状に応じて、自然環境の保全に資する様々な施策との広範な連携や必要な財政上の措置を講ずるよう努めることも必要です。
さらに、自然再生を効果的に進めるためには、農林水産業は本来、自然の物質循環機能に依存した持続的な生産活動であり、里地里山等の二次的自然の形成に寄与してきたことを踏まえ、自然再生事業に関連して、関係者の合意を得ながら、農薬や化学肥料などの使用の削減等による環境に配慮した農業生産活動や水路、ため池、水田のあぜ等の持続的な維持管理活動の実施、生物多様性に配慮した森林施業の実施、漁場環境の再生状況に応じた漁具の選定や漁期の設定など、地域の環境と調和のとれた農林水産業を推進することが必要です。また、長年にわたって自然環境と共存して活動してきた農林漁業者をはじめとする地域の知見を尊重しながら進めることが重要です。
なお、自然再生に当たっては、地球環境保全に寄与する観点から、地域の実情に応じて、地球規模で移動する野生動物の生息地・中継地への配慮や温室効果ガスの排出を低減した工法の採用、二酸化炭素の吸収源となる森林の適正な管理等を通じた地球温暖化対策への配慮が必要です。 |