自然環境・生物多様性

第58次南極地域観測隊同行日記 ~南極特別保護地区:海と陸のつながり~

南極特別保護地区:海と陸のつながり

2017年3月8日(火)


南極特別保護区を示す看板

沢沿いに生育 するコケ類

地衣類

 昭和基地やその周辺のフィールドでの約一ヶ月半の夏作業が終わり、2月15日には58次夏隊と57次越冬隊がすべて昭和基地を離れ、 しらせに戻りました。しらせは、15日より海洋観測を続けながら、オーストラリアへ向けて航海しています。さて、今回は、1月18日か ら23日の間、現地調査に行ったラングホブデの雪鳥沢について報告したいと思います。

 雪鳥沢は、昭和基地から南に約20kmのところにあり、第41南極特別保護地区に指定されています。南極特別保護地区とは、南極条 約の環境保護議定書に基づき、環境上や科学上の価値等を保護するため国際的に指定し保護されている場所です。現在、南極全体で70カ 所程度の場所が南極特別保護地区に指定されていますが、この第41南極特別保護地区は日本が提案し、管理している唯一の南極特別保護 地区になります。

 この雪鳥沢は、大陸の氷河が融けた水が流れ出る沢で、ナンキョクオオトウゾクカモメや数千羽のユキドリが生息すると言われて います。ユキドリなどの海鳥は、海にいるオキアミや魚類を食べ、それらを露岩域の集団営巣地などで排せつします。このように海鳥が 出す排せつ物は、有機物として地衣類やコケ類といった陸上の生物にとって栄養の主要な供給源となっており、周辺の他の露岩域と比べ 大変豊かな植生が見られます。

そのため、雪鳥沢では1984年から地衣類やコケ類のモニタリング調査が行われています。このモニタリング調査への人為的な影響を 避け、また雪鳥沢の貴重で脆弱な生態系を保護するため、雪鳥沢を南極特別保護区に指定し、区域への立ち入りは科学的調査など特別な 目的がある場合に限定する、ヘリの着陸を禁止するなどといった規制をしています。

 昭和基地周辺の露岩域においては、有機物を含む土壌がほとんど存在せず、また気温が低いなど植物が生育するには厳しい環境で す。私自身、それまで訪れた露岩域では、ほとんど植物を見かけることがありませんでした。そのため、雪鳥沢で鮮やかな赤や黄色をし た地衣類や緑色のコケ類が豊かに生育している様子を目の当たりにして、久しぶりに見る植物に感動しました。この豊かさは、海鳥が海 にある養分を排せつ物という形で陸にもたらすことで、海域と陸域の生態系をつないでいることによりもたらされると言えます。ただ、 豊かとはいっても、日本と比べると種数や生育面積はとても限られています。今回雪鳥沢の自然を見て、このような厳しい環境下にある 南極の自然の保護の重要性を感じると同時に、これまで当たり前に感じていた日本の自然の豊かさを改めて認識するようになりました。

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