自然環境・生物多様性

新たな世界自然遺産候補地の考え方に係る懇談会 | 第2回議事録

平成24年9月20日

  • 林野庁(櫻井) それでは、定刻になりましたので、ただいまより平成24年度第2回新たな世界自然遺産候補地の考え方に係る懇談会を開催させていただきます。
    私は、本日の進行を担当いたします林野庁森林整備部研究・保全課の櫻井と申します。宜しくお願いいたします。
    なお、取材によるカメラ撮影につきましては冒頭のみとさせていただいてございます。議事に入りましたら、取材のための撮影はおやめいただきますようお願いいたします。
    初めに、本懇談会の事務局を務める環境省及び林野庁からご挨拶を申し上げます。
    まず、環境省の自然環境局長よりご挨拶いたします。伊藤局長、お願いいたします。
  • 環境省(伊藤) 委員の皆様方におかれましては、ご多忙中、ご出席賜りましてありがとうございます。私、8月10日付で自然環境局長を拝命いたしました伊藤でございます。どうぞ宜しくお願いいたします。第1回目の懇談会は所用により出席できず大変失礼いたしました。
    世界自然遺産につきまして、私ごとになりますけれども、私は自然環境局を担当するのはこれで2回目で、1回目は平成16年の7月から1年間、自然環境局の総務課長ということで務めさせていただきました。その当時、ちょうど知床が自然遺産に登録される場面に立ち会わせていただきました。この世界自然遺産に登録された日本の貴重な世界の宝とも言える自然遺産をきちっと維持管理していくことは非常に重要なことで、それを大前提にしつつ、さらにまた新しい世界自然遺産の日本における後方支援をどういうふうに考えていったらいいのかという非常に重要な課題だと考えております。どうか先生方、闊達なご議論を賜りますことをお願い申し上げまして、冒頭の挨拶とさせていただきます。
  • 林野庁(櫻井) 引き続き林野庁からのご挨拶でございますが、林野庁におきましては、9月11日付で幹部の異動がございました。第1回目の懇談会でご挨拶をさしあげました沼田次長につきましては長官に就任し、次長には新しく篠田次長が就任いたしております。本日は篠田次長よりご挨拶いたします。では、篠田次長、お願いいたします。
  • 林野庁(篠田) 次長の篠田でございます。ご紹介ございましたように、私は11日付で、ほぼ10日前でございますけど、交代で次長ということで就任をいたしました。どうぞ宜しくお願い申し上げます。
    私もやや自己紹介めいたことを申し上げますと、環境省に出向していた時期がございまして、昭和と平成を挟んでいたころに自然保護局にお世話になっておりました。その後、林野庁に戻ったり、ほかの農林省の局とかにおりましたので、こういう話題も手掛けたといいますか、近くでやっていたことがございます。ちょうど知床が指定になるちょっと前だったと思いますが、現地調査に、私は行きませんでしたけれども、担当官が行っていたとか、そういったことが記憶にございます。私ども国有林ということで管理しておりますけれども、特に白神山地などでございますと、全域が国有林でございますので、そういう意味では私どものほうとも非常に関連が深いと考えております。
    私どもの整備といたしまして、昭和60年代に入りましていろいろ自然保護の問題もございましたので、制度的な裏付けということで森林生態系保護地域ということで指定させていただいたり、それなりの制度的な裏打ちと申しますか、そういうことはさせていただいてきたというのが経過としてあるんだろうと考えております。その後、白神山地はご案内のとおり自然遺産ということで今日に至っております。
    現在は公益的機能重視ということで管理経営をいたしておりますし、そのようにやや長い目で見ていただきますと、私どもの行政も相当大きく様変わりをしてきているんだろうと考えているわけでございます。私どもは、国民の財産である国有林という言い方をしておりますし、それを着実にやっていくのが私どもの使命だろうと考えているところでございます。
    本日は白神山地の関係で現状でございますとか、あるいは今後の課題でございますとか、そういったことでご報告をいただけるということでございます。いろいろ新しい課題であるとか、従来想定していなかったようなお話も出てこようかと思いますので、そういった点につきまして、幅広くお話を承らせていただいて、また今後どうしていくかということで、ご示唆に富んだお話をお聞きできればと考えているところでございます。何分お忙しいところをお集りいただきまして恐縮でございますけれども、どうぞ宜しくご指導いただきますように、また、今日はご報告をしていただく両県の方々には、今後とも宜しくお願いしたいと思いますので、どうぞ宜しくお願いいたします。
    簡単でございますけど、ご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。
  • 林野庁(櫻井) 次に、委員のご紹介をさせていただきますが、第1回の懇談会開催以降に新たに太田英利委員、橋本佳延委員にご就任いただいておりますので、ご報告いたします。
    本日は、委員6名にご出席をいただいております。
    まず、中央の座長、岩槻委員でございます。
    向かって右側お隣、大河内委員です。
    中静委員でございます。
    座長の反対側、太田委員でございます。
    小泉委員でございます。
    敷田委員でございます。
    本日は吉田委員、橋本委員はご都合によりご欠席とのご連絡をいただいております。
    また、本日はゲストスピーカーとして、白神山地世界遺産地域連絡会議から、青森県、秋田県にもご出席をいただいておりますので、ご紹介をさせていただきます。
    座席奥のほうから、青森県自然保護課、前澤課長でございます。
    隣、秋田県自然保護課上田主査でございます。
    次に、環境省、林野庁の出席者もあわせてご紹介いたします。
    初めに環境省から、伊藤自然環境局長でございます。
    亀澤自然環境計画課長でございます。
    桂川国立公園課長でございます。
    次に、林野庁からの出席者をご紹介いたします。
    篠田林野庁次長でございます。
    徳丸研究・保全課長でございます。
    鈴木経営企画課企画官でございます。
    また、今回は関係する省庁として、外務省、文化庁からもオブザーバーとしてご出席をいただいております。
    それでは、議事の進行を岩槻座長にお願いしたいと思いますが、篠田次長につきましては、公務につき、ここで退席させていただきます。
  • 林野庁(篠田) 失礼いたします。
  • 林野庁(櫻井) また、カメラ撮影につきましては、ここまでとなりますので、これ以降の撮影はお控えください。
    それでは、岩槻座長、宜しくお願いいたします。
  • 岩槻座長 座長をお引き受けしております岩槻です。
    暦では彼岸になったので、もう少し涼しくなるかと思っていたんですけど、来る道、随分暑かったですけれども、部屋の中は涼しくていいんですが、議論はホットに闘わせようと思います。
    最初に資料の説明をお願いいたします。
  • 林野庁(櫻井) それでは、お配りした資料について確認をさせていただきます。まず、資料1は白神山地世界自然遺産地域科学委員会のご報告として、中静委員長にご報告いただく発表資料になります。続いて、資料2は青森県からのご報告資料になります。資料3は秋田県からのご報告の資料になります。資料4は知床世界自然遺産における適正利用、観光について敷田委員からご報告いただく資料になります。参考資料といたしましては、参考資料1として、第1回目の懇談会の議事概要をおつけしております。参考資料2は各遺産地域における登録後の成果、課題等整理表(案)でございます。参考資料3は、本日ご欠席の吉田委員から事前に提出のあったご意見でございます。そのあと、資料1参考、資料2参考をつけさせていただいておりますが、こちらにつきましては、第1回で配付した資料ですけれども、一部訂正がございましたので、改めて配付をさせていただいているものでございます。そのほか、本日はパンフレットとして「日本の世界自然遺産」と「世界遺産の森ワークブック」の2種類をお配りさせていただいております。これら足りない資料などございましたら、お申し出いただければ幸いです。大丈夫でしょうか。
  • 岩槻座長 よろしいでしょうか。それでは、早速今日の議事に入らせていただきます。
    今日は白神山地の状況のお話を伺って普通の意見交換に入らせていただくということですけれども、まず最初に、議題1は日本の世界自然遺産地域(白神山地)の保全管理の状況及び課題について、最初に、この地域の科学委員会委員長をやっていただいております中静委員に報告をお願いします。宜しくお願いします。
  • 中静委員 中静です。どうぞ宜しくお願いします。
    今日お願いされたのは、登録による保全管理上の成果及びその他の効果、遺産登録の意義と、各機関の取り組み、遺産地域の現状、これらを踏まえた今後の課題ということでしたので、それらについてお話しします。
    これは典型的なブナ林の写真ですが、ユネスコで世界遺産に登録された時にSOUVはできていたんですけれども、新しい形式のSOUVに直すということで、retrospective SOUV(r-SOUV)を昨年改訂しまして、それをユネスコに送りました。現在、その修正依頼が来ていまして、今直している途中なので、まだ最終版ではないんですけれども、今のところこういう形になっています。
    まず、東アジアに残る最大の原生的なブナ林である。最終氷期が終わってから8,000年前ぐらいまでにはもう白神山地でブナが見られるようになっていた。ブナ属の森林自身は、北米とかヨーロッパとか東アジアに分布するんですが、日本では氷期に南日本域に逃げていたものが氷期以降に分布を拡大した。そういうブナ林として白神山地は最も典型的なものです。しかも、ヨーロッパとか北米に比べると氷河の影響を受けていないので、非常に種の多様性の高い植物群落ができている。日本海側に特徴的な非常に稀な多雪環境があり、それを反映しているということと、ブナ自身が日本固有種ですので、そういう意味で世界的に見ても特殊である。それから、落葉広葉樹林に常緑のタケ類が入るというのは、世界では南米とここだけなんですけれども、そういう意味でも、(チシマザサがブナの林に広く広がっている点が)特殊である。その生態系をつくっているクマゲラ、カモシカ、ツキノワグマなどの比較的貴重な動物もいて、それらが相互作用を保ちながら生態系の姿を完全に残している、というのがSOUVの内容です。
    冷温帯は落葉広葉樹林帯ということになって、日本ですと、それは皆さんブナ帯とおっしゃるんですけれども、実際にブナが純林といいますか、非常に優占度の高い状態をつくるのは日本海側の雪の非常に多い地域だけです。太平洋側と気候が全く違っていて、冬の間、雪がたくさん降るということと、1年中湿潤な状態が保たれているということが、このブナ林の特徴だということを指摘しておきます。
    もう1つは、この白神山地を中心としまして日本海側の北部はグリーンタフ地域といいまして、火山灰を起源とする非常にもろい基岩を持っているんですね。これは崩れた岩ですけど、このように広域に崩れるところがあるわけです。白神山地周辺の十二湖の周辺では、過去300年前ぐらいに大規模な地滑りが起こっていることもあります。そういうところですので、そういう崩れた跡に雪がたくさん積もってなだれ斜面がたくさんできるわけですね。こういうなだれ斜面はイヌワシが狩りをする場所になっていたりする。あるいは、そういう地滑りの土砂が堆積したところに、他のブナ林ではあり得ないぐらい広面積でブナの一斉林ができる。白神では、一斉にでき上がった林ができやすいということが知られています。さらに、こういう細くて一斉林型をしたところにクマゲラが巣をつくると言われています。
    雪が多い、あるいは日本海側の冬の風が強いということで、日本海側に近い山頂部では、この写真のように筋ができるぐらいの風衝のブナ林ができています。中に入ってみると樹高10mとか15mぐらいで非常に矮性化したブナ林も見られますし、尾根筋に行きますと、これは人が立っているので高さはわかると思いますけど、ここにブナの種子が稔っているのがご覧になれると思います。高さで言うとわずか2mか3mぐらいで結実するのですが、(幹の根元は意外に太くて)、ブナの幹は横にはっていて、樹高が低いわけです。
    ブナ林は世界中にあるように言うんですけれども、特に日本海側のブナ林のような多雪環境というのは、他の地域ではあまり見られることではありません。さらに林床にササがある。夏の温度がこれだけ暖かい地域で、雪がこんなに降るのは、世界的にも珍しい環境である。そういう意味では特殊な環境だということです。さらに、白神山地ということになりますと雪と地形(地質)の影響を受けてなだれ斜面とか地滑りの非常に多い特殊なブナ林になっています。そういう林が広く残っているわけですが、逆にこういう地形であるからこそ、(今まで伐採されずに)広く残ったという側面もあります。
    白神山地は、国有林の事業で伐採されてきました。日本のブナの伐採量の統計を見ると、先ほど林野庁次長のお話にあったように、1970年代までブナはたくさん伐られていたんですけど、それが73年に新たな森林施業ということで伐採のやり方を変え、89年には保護林の再編・拡充という通達が出ました。このときに森林生態系保護地域ができるわけですね。その数年後に白神山地の世界遺産が登録され、現在ブナ林はほとんど伐採されていない状態です。
    伐採中止のきっかけになりましたのが、青秋林道という、この計画線図です。青森県側、秋田県側の双方から少し着工したところで反対運動が起こって、現在、世界遺産地域になっているところを縦断するはずだった林道が中止されて、現在の遺産地域が残ったわけです。その意味では、世界遺産登録を契機として、非常に広い特徴的なブナ林が保全されたということが言えると思います。
    登録までの経緯は今説明したとおりですけど、90年に森林生態系保護地域に設定されて、93年には7,000haを追加して、93年の12月に登録されるわけです。そして95年に管理計画ができます。2010年、登録から17年かかっているわけですけれど、知床とか小笠原諸島に比べるとかなり遅れた形で科学委員会ができるという時間的な経緯になっています。
    連絡会議によって、遺産地域の管理計画が95年にできたのですが、その後に作られた知床、小笠原諸島のほうが科学委員会として、しっかりしたものを作成されました。それらと較べると白神山地の管理計画は内容が極めて簡単なものであって余り細かい記述がないとか、あるいは行動計画の具体性がないという指摘がありました。知床で最初に取り入れられました順応的保全管理は国際的にも評価は高いんですけど、そういう意識があまりない時代だったと思います。もう1つは、白神山地自身が喫緊の問題点が余りなかったということもあると思います。しかし、さすがにシンプルすぎる管理計画だったということで、科学委員会が出来た後に白神でもこれを改定したわけです。
    科学委員会は2010年6月にでき、順応的な管理に必要な助言をするという役割を担ってきたわけですけど、当面やってきた課題は、モニタリング計画を策定するということと、定期報告への対応、管理計画改定への助言です。
    管理計画の変更の方針ですが、1つはOUVに合致した管理目標の設定です。恥ずかしい話なんですけど、今まで管理目標がなかったんです。それを設定するということと、それから保全と利用を両立させていく管理体制をつくることです。もう1つは、2010年のときから指摘されていたことですけど、気候変動に対する対応を議論しておきなさいということでしたので、気候変動を含むその他のリスクに対する対策を議論しました。この件に関しては、後でまた詳しくお話しします。
    あとは、先ほど言いましたように管理計画が非常にシンプルなものであったので、実際に行動ができる具体的なものに変えるとか、策定主体の変更に関して助言してきたということです。
    そのうちのモニタリング計画ですが、これは管理目標に沿った形でモニタリングをすることを明確にしました。また、白神山地のモニタリングは、環境省、林野庁のほかに、県の方もやっておられますし、ボランティアの方がやっている場合や、研究者が個々にやっておられるケースもありました。そういう多様な主体のやっていらっしゃるモニタリング計画を網羅する形でモニタリング計画をつくっております。最初は、数値目標をつくるという議論もあったんですけど、今のところ難しいということで、文章で書くという形にさせていただいています。SOUVにあるようなブナ林を成立させている気象・水象・地象の基礎的な環境条件が把握できるようにする、ブナ林を中心とした森林生態系が維持されている状況とか、気候変動の影響を予兆できるという体制にする、3つ目は利用のほうで、遺産地域の価値が損なわれないような利用ができているかをモニタリングするというのが目標になっています。
    そういうモニタリングですが、先ほど言いましたようにボランティアでモニタリングをやっていらっしゃる。私もそうした活動の1つに関わっているんですけど、他にも、例えば遺産地域よりは少し外れた十二湖の周辺ですけど、中学生がブナ林のモニタリングをしてくれています。しかも、かなり精度の高いモニタリングです。
    私たちがやっているモニタリングでは、ブナ林が本当に衰退していないかどうかを測っているわけです。この図は、ブナ林の持っている現存量の増減ですけど、10年間調べて余り大きく変化していないわけです。しかし、ブナ林1本1本の木が成長して稼いだものと、倒れたりして失われたものを見ますと、成長している速度が少しずつ減っている傾向とか、2003年、2004年に大きな台風が来た時に(急激に残存量が)減る、という実態が次第に明らかになっているところです。
    さらに、ブナ林がSOUVの中心ですので、そのブナ林の動きを白神地域全体で把握する必要があるだろうということで、環境省の予算で全体をモニタリングする試みも行っています。当初、衛星画像を使ってという議論もあったんですけど、衛星画像よりは航空機レーザを使ってモニタリングしていくことを技術開発していただきました。例えば、この図は林冠の高さです。赤く見えているのは、20年ぐらい前に伐採した跡地で樹木が育っているところです。遺産地域の少し外になります。こういうデータの中から、実際に私たちが地上でモニタリングしている地域を抜き出しますと、実際に測っている木とよく対応した形で航空機レーザでモニタリングできます。これをもう少し充実していけば、広域にブナ林が変化する様子をモニタリングしていけるだろう、という体制を整えつつあるところです。
    このようなモニタリングデータはボランティアでお願いしている方も含めて、今年の科学委員会で、このようなシートを使って、毎年ご報告をいただこうということを決めました。ボランティアの方にはなるべく負担のかからないようにしたいということもあるんですけれど、モニタリングの結果を1枚裏表のシートで報告していただくという体制を整えまして、これを西目屋の世界遺産事務所に蓄積していくシステムを作ったところです。
    さらに、これらのデータをいろんな方に利用していただくという形にしたいと思います。
    今後の管理上の問題点は幾つか指摘されていますが、いずれも、まだ顕著にその影響が現れているとは言えない状態です。ただ、心配なのは幾つかありまして、1つは、行動範囲の広い動物の保全で、クマも、イヌワシも、クマゲラもそうですけれど、世界遺産地域は1万7,000haあるんですが、どうやらその地域だけで生息しているとはいずれも思えない。そういう動物のことを考えると、さらに広いところまで含んだ保全策といいますか、遺産地域の外側まで含んだ管理計画とは言わないまでも、それに近いものが必要になってくる可能性があります。もう1つは温暖化です。それからニホンジカの分布拡大がこれからも非常に大きな問題になってくるだろう。それからナラ枯れの拡大、もう1つは周辺のリストレーションです。
    もう少し詳しくお話ししますと、野生鳥獣の広域の行動に関しては、先ほど航空機レーザでいろいろなブナ林の様子が掴めることがわかってきましたので、例えばイヌワシの行動範囲をそれと重ね合わせる、あるいは狩り場の位置を合わせるとか、巣がつくれる場所を特定するというような技術開発を、環境省のプロジェクトでやっていただいています。
    温暖化の影響は、これは森林総研の田中さん達のチームの研究成果ですが、現在のブナの分布範囲から推定される2100年頃、大体90年後のブナの分布適域です。2100年には、今の気候条件が温暖化、あるいは雪の降り方が変わり、ブナが分布に適した地域がどういうふうに変化するかという予想をしたものですが、ブナに非常に適した場所が、現在の世界遺産地域にはたくさんあるんですが、このまま気候変化が進むと、気候変化シナリオによっても違いますが、かなり厳しい状態になっていくという予想されています。この対策として何ができるかは、非常に難しいところですが、こういう現象をモニタリングで把握できるような体制を組むべきであるという議論をしているところです。
    ニホンジカに関しましては、これは自然環境保全基礎調査で第2回と第6回のときにニホンジカの分布が変化しているのを示した図ですが、第2回のときは岩手県の南部にしかいなかったのが、だんだん北上しています。つい最近の報告では、さらに秋田県の中には確実に入っているという状態です。シカの専門家に言わせますと、入って数年ぐらいで大きな影響を及ぼすことが明らかですので、この早期対策を今から考えておくべきではないかという議論が、今、科学委員会の中では起きています。
    それからナラ枯れです。山形県では非常に大きな被害を受けておりまして、秋田県にも及んでいます。実は、平成22年には青森県の、白神山地の西側の海沿いのナラ林に入ってしまったことが報告されておりますので、これが白神山地のナラに入ってくる可能性は、高いですし、温暖化の影響も含めて検討しておく必要があるだろうということです。
    もう1つは、これは白神山地の世界遺産地域の外ですけど、30年ぐらい前に伐採された森林がこういうふうに残っておりまして、こういう森林を元のブナ林に戻そうという活動をされているボランティアの団体がたくさんあるんですね。林野庁のほうで、こういうブナ林に戻す活動をサポートしてくださるんですけれども、さまざまな回復活動をされておりますので、どういうふうな考え方でブナ林に戻していったらいいかという方針や基準づくりを数年前に委員会をつくっていただいています。ブナの植林もやっておられまして、初期には産地が余りはっきりしないブナが植えられていた経緯もあって、このあたりの考え方も科学委員会の中で少し整理する必要があるのではないかということも話しているところです。大体以上です。
  • 岩槻座長 どうもありがとうございました。白神山地の現状を科学委員会の側からご紹介いただいたのですが、中静さんのお話の中にも出てきましたけれども、白神山地の科学委員会は前回お話を伺った知床と小笠原諸島の場合とは違って、白神山地は登録されてもう20年近くになるんですよね、それで2010年というんですから、科学委員会としての活動はほんのちょっとで、むしろ林野庁が中心になって登録の時から見ていただいていたということだと思います。この間の大河内先生の小笠原諸島のところは、むしろ登録するのに至るまでの科学委員会のご努力が非常に大きかったという話を伺ったのですけれども、そういうアドミニストレーションの話は、いずれにしても総合討論のところで議論することがあればしてもいいんですけれども、今のお話の内容に関して、差し当たり特にご質問、コメントがありましたらいただきたいのですが、いかがでしょうか。
  • 大河内委員 ユネスコの修正依頼を受けて改訂中というSOUVは、単に量が増えるということもあるんでしょうけど、こういうところは変えたいというところがあれば教えていただければと思います。
  • 中静委員 前のSOUVは記述内容も非常に少なかったですし、記述形式が少し変わったのでそれに合わせたという事です。前のSOUVにある内容とIUCNが推薦した文に則りながら改訂するということですので、内容的にはほとんど変わっておりません。
  • 岩槻座長 他はいかがでしょうか。特になければ、後の地域連絡会議のほうのお話も伺った上で、また戻ればと思いますので、どうも中静さん、ありがとうございました。
    それでは、次に地域連絡会議ですけれども、青森県側と秋田県側と両方から今日はご説明いただくんですけれども、まず青森県側から、前澤課長さんからお願いいたします。
  • 前澤課長 青森県の前澤でございます。どうぞ宜しくお願いいたします。
    それでは、世界自然遺産白神山地の概要と青森県の取組ということでご説明いたします。
    今お話もありましたけれども、白神山地は1993年ですから19年前、我が国初の世界自然遺産ということで、屋久島とともに登録されたところでございます。青森と秋田にまたがりまして、青森県側は3町村、秋田は藤里町1町で4町村に所在してございます。面積は約1万7,000haで、そのうち4分の3が青森県となっております。特徴といたしましては、中静委員からご説明があったと思うんですけれども、東アジア最大級のブナ林の残存地でございます。クライテリアは生態系に該当するということでございます。
    ほかの世界自然遺産との大きな相違点といたしまして、その保全制度の位置づけとしては、国立公園ではなく自然環境保全地域に指定されまして、その保全が担保されているということでございます。また、世界遺産としての対象が、かつては北日本のどこにでもあったブナ林が白神山地にまとまって残っているという点でございます。
    遺産地域ですが、グリーンのところが核心地域、薄い緑のところがバッファソーンでございますけれども、このうち遺産地域の一部、白神岳の稜線部と暗門の滝周辺地域が自然公園となっておりまして、その他につきましては、先ほど申し上げたとおり自然環境保全地域に指定されております。
    世界遺産登録の経緯です。昭和50年代に青森と秋田を結ぶ青秋林道建設問題に端を発したブナ林の保護運動が起こりまして、その結果、青秋林道の建設が中止になりました。そして平成2年、林野庁が森林生態系保護地域に指定しまして、現在の遺産地域を保全することになりました。その後、政府が世界遺産条約を批准いたしまして、平成4年には環境省が自然環境保全地域に指定、そして平成5年の世界遺産登録となっております。
    登録後の動きですが、平成7年に地域連絡会議を立ち上げまして、同じ年の11月には管理計画が策定されました。管理計画の中で核心地域の入山規制については、さらに検討を進めるとしていたことから、平成8年に秋田、青森それぞれの県で地域懇話会を開催いたしまして、青森県側につきましては既存の歩道に加えて指定する27ルートに限り、登山目的であれば許可制で入山を認めることになりました。一方、秋田県のほうでは、学術研究など特別な理由がある場合を除き、原則入山禁止となりました。後ほど秋田県からのご説明があると思います。その後、平成15年、青森県側の登山目的については、許可制から届出制へ変更しております。
    その後、平成16年には国設鳥獣保護区に指定、次に、科学委員会は平成22年に設置、資料は21年になっておりますが、申しわけございませんが、ご修正願います。そして今年度、モニタリング計画を策定して今に至っております。
    地域連絡会議でございますけれども、目的は適正な保全管理の推進のための連絡調整で、組織といたしましては、環境省、林野庁、青森・秋田両県でございます。
    また、この地域連絡会議ですが、会議の開催のほかに関係機関による核心地域などの合同パトロールを年に数回実施しております。これが今申し上げた合同パトロールの様子でございます。
    次に、世界遺産登録がどのように自然環境の保全に寄与したかでございます。まず、森林生態系保護地域に設定したことでブナ林の保全という形はでき上がっておりまして、その後の世界遺産登録を契機に来訪者が増加したものと考えております。そしてまた、現在の入山規制は、遺産登録後の入山者増加をある程度コントロールできたのではないかと考えております。一番下に書いておりますけれども、一方で、鳥獣保護区、あるいは禁漁区設定に対する反対意見も一部ございます。
    保全上の課題ですけれども、核心地域への入山については、残念ながら無許可、無届けで入山する者や、禁止行為である樹木の伐採、釣り、たき火、こういう行為が毎年確認されているところでございます。
    これは、許可及び届出を行って核心地域に入山している方の人数ですけれども、入山規制をしてから平成13年までは増加したものの、その後は年々減少しているところでございます。
    この写真は核心地域内での違法伐採の写真でございます。歩くのに邪魔とか、テントを張るために支柱にするとかいろいろな目的が考えられるわけでございますが、このような行為が確認されているところでございます。
    これは釣りをしている様子でございます。遺産地域内は内水面漁協が禁漁区に設定しておりますけれども、釣り目的の入山が確認されております。
    これはたき火跡ですが、たき火のみならずごみも放置しているということで、環境省、林野庁、本県による巡視活動とかチラシの配布など普及啓発活動を行っているものの、残念ながら違法行為やマナー違反が繰り返されております。
    次は青森県の取組で、青森県と市町村の取組についてこれからご紹介いたしますけれども、まず、白神山地の自然環境を把握する目的で、昭和61年から3カ年かけまして植物、動物、地質など多面的な自然環境調査を実施しました。この成果は世界遺産登録の推薦を行う際の学術的資料として高く評価されていると思っております。世界遺産登録後は保全利用・基本計画の策定、巡視員の配置、自然観察歩道の整備やビジターセンターの整備を行っております。
    また、秋田県とともに白神山地憲章の制定のほか、遺産地域周辺地域の生態系調査、世界自然遺産会議の開催、自然観察歩道等利用影響調査を行っております。
    これは西目屋村に県が整備した白神山地ビジターセンターでございます。同じ敷地内には環境省の世界遺産センターも整備されておりまして、背景は雪をいただいた岩木山でございます。
    周辺の市町村についても、施設整備、あるいはガイドの養成を行っております。まず初めに鰺ヶ沢町でございますけれども、自然観察林、自然観察館、キャンプ場などを整備しております。深浦町ですけれども、宿泊施設、遊歩道などを整備しております。西目屋村では、同じく宿泊施設、物産館、遊歩道を整備するとともに、暗門の滝におきまして森林環境整備推進協議会によりまして協力金を徴収いたしまして歩道整備に活用しているところでございます。
    これは観光統計です。白神山地関連施設の入込者数の推移ですけれども、これによりますと、遺産登録された平成5年に20万人程度であったものが、平成16年には130万人を超えました。しかしながら、最近は80万人程度という数字になっております。
    このグラフは環境省が設置している入山カウンターの推移でございますけれども、その機器を設置してから減少傾向にあるということでございます。内訳ですけれども、一番濃い茶色の暗門の滝のカウントが全体の7割ほどを占めております。一方、グレーの色の白神岳の登山者は余り大きな変動はなくて、毎年3,000人から4,000人となっております。
    丸い数字が入山カウンターの設置場所ですけれども、今ご説明した[1]暗門の滝は世界遺産地域の中でも最もアクセスがよく、景勝地でもあるということで、入り込みが多くなっております。
    左側が暗門の滝でございまして、右側は世界遺産地域ではございませんけれども、白神岳の麓に位置する十二湖の青い感じに見える青池です。観光スポットとして入り込みが多くなっているところでございます。
    最後になりますけれども、地域の課題で、世界遺産=世界レベルの観光地と勘違いした、言ってみれば観光資源としての過度な期待があります。しかしながら、その期待に反して観光客は減少を続けておりまして、世界遺産を活用した地域づくりの観点からは課題となっておると考えております。そして、保全上の課題は、先ほどのご説明とまたダブりますけれども、やはり違法行為、あるいはマナー違反が挙げられると思います。それと、施設の管理の観点から、地質の脆さなどに起因する土砂崩れによる歩道などの施設の維持管理経費が増大しているということが挙げられると思います。また、世界遺産地域の周辺地域は野生動物、ツキノワグマ、ニホンザルとの軋轢の増加も課題になっていると考えております。
    以上でございます。どうもありがとうございました。
  • 岩槻座長 どうもありがとうございました。今の前澤課長のご報告に何かご質問、コメントがありますでしょうか。
  • 大河内委員 どうもありがとうございました。すごく単純な質問ですけど、宿泊施設を幾つかつくられていますけど、これは公的な宿泊施設ですか。
  • 前澤課長 公的な施設ではなくてあくまで民間です。
  • 大河内委員 新しいところがそれまでの宿泊施設を圧迫してしまうようなことはないんですか。
  • 前澤課長 今申し上げた民間、一部三セクもありまして、圧迫ということは余り聞いてはおりませんけれども、最近の傾向ですと、白神山地に限ったことではないんでしょうけれども、全般的に入込客数が減少傾向にあるというのは事実です。付け加えて申し上げますと、ちょっと話は変わるんですけれども、国立公園の十和田湖が、新聞等でご承知かと思うんですけれども、残念ながら一部宿泊施設の休業、あるいは廃業も実際問題として出てきている状況でございます。
  • 岩槻座長 最後のスライドで、世界自然遺産は世界レベルの観光地と勘違いした過度な期待があるという、この期待をしているのは地元の地域の住民の人ということですか。県としては、それはどういうふうに評価されているんでしょうか。
  • 前澤課長 地元関係町村の方は、当然観光振興が主眼にありますから、そちらの方は観光がもっと盛んになってほしいという考えがございます。今日からたまたま県議会が始まっておりますけれども、県議会議員さんもエリア的には弘前方面の方がいらっしゃるんですけれども、例えば国内に限らず世界の世界遺産に視察に行っておりまして、たまたまそこが観光地としてなっていた、それに比べて青森県は進んでおりませんという声は実際に聞こえてくるんですね。あとは、余り言いたくないんですけれども、県の中も、我々は自然保護サイドの人間ですけれども、別に観光サイドの部署は、どうしても目線が自然保護というよりも、どちらかというと地域振興、観光振興というふうに視点が向いているというのが実際のところでございます。
  • 太田委員 最後にツキノワグマやニホンザルとの軋轢とあったんですけど、そういう動物は前からいたと思うんですけど、これは遺産として登録されて以降にそういうものが増えてきたという意味ですか。
  • 前澤課長 実際、ある程度頭数を調査していて、ちょっと古いんですけれども、その被害状況から類推しますと増加傾向にあるのではないかと考えております。特にニホンザルは増加しているという結果になっております。
  • 太田委員 それを遺産登録と結びつけた何か議論があるんですか。
  • 前澤課長 今のところは、遺産登録=サルの増加というご意見、あるいは見解は出ておりません。むしろ下北半島が特定鳥獣保護管理計画を策定しておりまして、個体数調整はやっておるんですけれども、今2,000頭ぐらいおるんですけれども、そちらは明らかに増えている。これはあくまで参考でございますけど、以上です。
  • 岩槻座長 中静さん、科学委員会ではそういう野生動物の動態については、今のところまだ数字はないですか。
  • 中静委員 野生動物は、ツキノワグマ、ニホンザルに関しては、(県の野生鳥獣被害や有害駆除の報告などの他には)定期的なモニタリングはされていません。クマゲラとかイヌワシに関しては幾つか、ボランティアの方が持っています。
  • 岩槻座長 よろしいでしょうか。どうもありがとうございました。秋田のほうの様子も伺った上で、また議論に戻りたいと思いますけれども、秋田のほうから上田主査にお願いします。
  • 上田主査 秋田県庁自然保護課、上田と申します。宜しくお願いします。本来は、当課の課長が来て説明する予定だったのですが、今、県議会の真っ最中で、今ちょうど委員会に呼ばれて答弁している最中だと思います。本人は大変来たがっていたのですが、今回来れなくなってしまいましたので、私が代わりに説明させていただきます。どうぞ宜しくお願いします。
    では、秋田県側の状況についてご報告いたします。
    まずこの写真は、秋田県側の二ツ森というところですが、先ほど話題に出ました青秋林道の終点からわずか30~40分で頂上まで達することができるところで、白神山地の遺産地域の中では、秋田県側で入り込み人数が一番多い場所です。ここは山の頂上になりますので、いわゆる緩衝地域の中に入り込んで核心地域が間近に見られる場所で、非常にいい場所ではあります。
    世界遺産地域の概要ですが、もう中静先生とか青森県の説明がありましたので、こちらは概要を簡単にご説明します。注目していただきたい点は、秋田県側は全体の4分の1である。これは核心地域、緩衝地域どちらから見てもほぼ4分の1の面積だということです。ですので、図面で見ますと、全体が遺産地域になるのですが、ここの下側の4分の1の範囲が秋田県側の遺産地域になるということです。その周辺として、例えば白神県立自然公園とかが分布しています。あとは各自治体のいろんな施設がこのあたりにあるという感じになっております。
    世界遺産登録の意義ですが、秋田県側の見解としても基本的には同じですけれども、一番の成果は、白神山地が現状のまま保全されることが保証されたこと、基本的には白神山地は自然保護運動から盛り上がって最終的に世界遺産登録に至ったという、もうこれに尽きるのですが、こういう形で自然が残ったことが一番の成果です。白神山地は遺産登録以前はほとんど無名でした。知る人も多分いなかったと思います。20年前、白神山地という言葉をご存じな方は恐らくいらっしゃらないんじゃないかというぐらいです。地元でも一部沢釣りが好きな方とか山登りが好きな方が入り込む程度で、あとは基本的にマタギです。クマ撃ちなど狩猟を営んでいた文化的な地元の方々が暮らしていた場所であります。秋田県側から見ると、鉱山が活発でしたので、鉱山のために木が伐採されて、製錬のための燃料に使われていたとか、木材として純粋に使われていた事情がございます。ですので、景観的には必ずしもすぐれた景観ではございません。白神山地に来た方は、逆にがっかりする方もいらっしゃいます。ただ、地元にとっては、以前は何の変哲もないただの山でした。それが、言葉としては少し大げさですが、世界に冠たる至宝へと変貌しました。その状況を詳しく調査をしますと、大規模な伐採・造林や観光開発などから、白神山地ほど分厚く隔絶された場所はなかったということ、独自の生態系とか生物進化史上のプロセスが高く評価された、よく調べてみると、それだけ貴重な場所だったということがわかりました。
    先ほども少し話題に出ましたが、核心地域については入山規制がされております。秋田県側は学術研究等の特別の理由がある場合を除いて原則入山禁止です。青森県は、登山については特定の「27ルート」に限って入山は容認されております。これは、秋田県側は粕毛川の源流部に位置して、貴重な動植物相の豊かな地域であり、原生的な状態を維持すべき地域である。青森県側は、既存の登山道に加えて渓流や稜線について既に利用されている実態がございました。この入山規制については、白神山地の遺産地域登録に先立って、林野庁で森林生態系保護地域に設定される際に、保存区域を設定するときに入山規制について議論がされました。そのときに地元の人たちとの協議の中で、総体的に原生的な森林面積が少ない秋田県側は保全しようと、もともと利用も人が入り込むような場所ではなかったので、結果的にそういう合意がなされています。青森県側は逆に入山を容認にしようという形で地元との合意がなされて、遺産登録の際に、そのルールをそのまま引き継いだという形でございます。
    先ほどの青森県側のグラフと同じものですが、これは林野庁に許可をとって核心地域へ入っている方々の人数です。グラフの縦軸の数字が青森県のグラフと違うのですが、基本的には大体40~50人程度です。青森県の場合は大体500人から300人ぐらいでしたので、10分の1まではいかないのですが、5分の1から10分の1程度の人数だということがおわかりいただけると思います。
    遺産地域保全管理上の課題ですが、こういうような状況もございまして、秋田県側に限っては大きな問題は生じてございません。それは、原則入山禁止で、もともと人の立ち入りが非常に少ないということ、それから樹木の伐採等、青森県の場合は事例があるのですが、秋田県側ではほとんどございません。地元の理解、協力のもと、良好に保全されていると思われます。ただ、既存の登山道沿いでは、どこでもあると思うんですが、一部で高山植物の盗掘などは発生しております。ただ、それほど大きな問題になるような規模ではございません。将来にわたっては、あえて言うならば、先ほど中静先生の話にもありましたが、ニホンジカの侵入による影響が懸念される。ただ、現時点では何の問題も起きてはいないのですが、将来的にそういう問題が発生する可能性があると思っております。秋田県側でも状況の確認を続けております。科学委員会等で生息状況を確認していきたいと思っております。
    遺産地域及び周辺地域への入山者数についてです。環境省が設置された自動カウンターのデータを引用したいと思います。秋田県側については、[9]二ツ森、[10]小岳、[11]岳岱は秋田県側で一番入込数が多い場所です。それから[13]真瀬岳の登山口で、ここから登るんですけど、ここの4カ所で計測をしております。計測箇所別の入山者数、19年から23年の平均をとってみました。一目瞭然ですが、秋田県側は全体の2割にすぎません。ほとんどが青森県側で、しかも、7割を暗門の滝が占めております。このような状況です。これを見ていただくとおり、秋田県側にはマスツーリズムで観光客がどっと来て、それをさばくような場所はございませんので、人数的にもこのような状況になっております。
    秋田県側の4カ所の入山者数の経年変化を見てみました。大きく見ると岳岱自然観察教育林が一番多くて大体6,000人前後、だんだん減ってはきていますが、そのくらいの人数が入っております。2番目に人気なのが二ツ森という山の頂上です。これが大体2,000人強ぐらいです。あとは小岳、真瀬岳は非常に少ない人数です。ただ、少しおもしろいなと思うのが、23年、去年、震災の影響で結構観光客が減ったことはあるのですが、見てみますと、岳岱は減っているような減っていないような感じですけど、小岳とか二ツ森を見ると減っていないんですね。というのは、いわゆるライトな観光客はほとんど来ていないのかな、逆に山好きな方は、いずれ来るときには来る。固定客がついているのか、リピーターさんが多いのかという感じなのかなとは思っております。
    観光客の面で見ますと、まず藤里町のデータです。藤里町については、全域がほぼ白神山地関連で、全域のデータをいただいております。平成5年の遺産地域指定から見て、ちょっと飛んでいるのですが、15年からずっと見てみますと、順調にと言ったら語弊があるのですが、右肩下がりです。県外、県内の区別をつけてもらっているんですけれども、ほとんどが県内観光客でございます。
    八峰町です。これは海側の自治体になるんですけれども、こちらは集計範囲が年度によって異なっているので一概には言えませんが、まず最初の青いところが二ツ森だけを集計しておりました。その後、留山というもう1カ所、これは後ほど少しまたご説明しますが、非常にいいブナ林が残っている地域がございます。これを見てみますと余り変わっていないですね。23年からはもう少しいろんな場所をまとめて町が集計を始めましたので、少し増えているように見えますが、恐らく横並びなのかなという感じは受けております。
    ここから秋田県としての取り組みについて少しご説明いたします。秋田白神自然ふれあい構想がございます。これは、遺産登録後、平成6年から3カ年で植生調査、動植物調査を行いまして、そのデータをもとに平成9年3月、秋田白神自然ふれあい構想を策定しております。図面を見ていただくとおり、遺産地域の周辺部を対象として設定をしました。この考え方としては、世界遺産地域は基本的に管理計画に基づいて保全をしていく。県としてはそれに補てんするというか、協力する形で周辺部についてのいろんな利用とか保全を決めていこうというものです。ですので、遺産地域を含めて白神山地の森の多様な生物をまず保全するということ、環境への負荷の少ない持続可能な地域づくりをやっていく、もう1つとして白神山地の自然とか伝統的地域文化を生かした地域活性化に結びつけていきたいということです。
    遺産地域周辺の自然環境評価をこのときに行っております。植生図からA区分、B区部、C区分と分けて色塗りをしております。基本的に色が濃くなるほど自然度が高いと見てください。当然この遺産地域の中はべったりと濃い緑色が塗られるということです。この周辺部については、濃い緑色のある部分から二次林を主とした真ん中の緑色、それから一番黄色っぽい人為植生で、どういう形で分布しているかは、植生図の色塗りを分けてやっております。
    これに基づいてどういうふうに利用していくか、あるいはどういう場所に適しているかを設定しております。基本的に一番自然度の高いA区分については、まず保全が必要、原生的な自然とのふれあいの場として適しているだろうと評価しております。B区分は半自然植生ですので、A区分が分断化している場所をつなぐ、景観的には良好な森林ですので、自然とのふれあい拠点などの整備に適している。C区分としては人為植生、いわゆるスギ植林などですので、これは水源涵養とか生物多様性に配慮した持続的な森林施業、ブナ林復元などに適していると思っております。ここでは市民参加による森づくりとか林業・森林への理解を深める場として利用ができると思っております。
    ふれあい構想の中では幾つかのプロジェクトを挙げておりますが、その中での主要プロジェクト3つについてご説明します。ハタハタの森プロジェクト、野生生物エコランドプロジェクト、白神エコミュージアムプロジェクト、こういう3つのプロジェクトがあるのですが、ハタハタは魚の名前です。秋田で有名な魚ですけれども、森をつくることで魚の資源をちゃんと保全しようという意味合いも込めて、そういう森をちゃんとつくっていこう。これは自然再生の活動が中心になってくると思います。野生生物エコランドプロジェクトは緑の回廊のような移動回廊を設定するとか、野生動物と林業の共存を目指した面的林業、それから周辺地域の活用・活性化ということでエコミュージアムプロジェクトという位置づけでございます。
    これはプロジェクトに沿ってというわけではなくて、今までやられているいろんな活動をプロジェクト毎に整理し直すと、こういうものがあるというふうに見ていただきたいと思いますが、ハタハタの森プロジェクト関連では、例えば地元のNPOとかボランティア、地元自治体によって植樹活動がずっとなされております。例えば秋田県の中では水と緑の森づくり税という税金をいただいているのですが、その補助事業も活用されております。例えば23年度は6団体が実施しまして、全部で605人の方が植林活動に参加されております。これは今年の春、6月の新聞記事です。
    野生生物エコランドプロジェクト関連ですと、例えば白神八甲田緑の回廊は林野庁の全面協力で13年度に設定されております。白神から八甲田に係る部分で国有林を緑の回廊として設定をしていただいております。それから、国指定の鳥獣保護区は白神山地全域が指定されております。また、秋田白神県立自然公園が平成16年に既存の2つの県立公園を再編・拡張する形で指定をし直しております。この周辺部、ピンク色で示したところが県立自然公園です。
    白神エコミュージアムプロジェクト関連としましては、いわゆる利用拠点ということで、例えば白神山地の世界自然遺産センター藤里館が環境省、秋田県、藤里町の連携の事業として整備されております。あとは、周辺のトイレとか登山道などの整備が進んでいなかったので、この20年間の間にさまざまな整備が行われております。例えばこれは国設くるみ台キャンプ場の写真を載せております。また、林野庁によるさまざまな普及啓発活動とか歩道の整備がなされております。これは林野庁が去年整備された岳岱の自然観察教育林で、非常にきれいなブナの林の中ですけど、木道をつくって、ロープが張ってあると思いますけれども、これも地元ガイドによって張られて、森を踏み外しなどないような形で観察することができる。あるいは白神山地のガイドを地元で盛んに育成をしていただいております。
    また、拠点施設としましては、先ほどの藤里館のほかに八森ぶなっこランドとかあきた白神体験センター、ふるさと自然公園センターなどが整備されております。特にあきた白神体験センターは、いわゆる研修所で、温泉宿泊施設の隣に建っておりまして、海のすぐそばです。海のシーカヤックの体験から白神山地の山の体験まで、特に学生さん、児童生徒を中心にいろんな環境教育に使ってもらっています。
    このうち自然保護課で人数を把握しているのが3つあるのですけれども、利用状況としましては、少し減ってきてはいます。
    森林環境学習もやっておりまして、特に児童生徒を対象に充実した活動をしております。先ほど申し上げた税金の補助事業も活用しております。23年度は特に白神山地に近い県の北部の小中学校に白神山地周辺で活動してもらっています。23年度は897人です。これはそのときの写真ではないのですが、こういう感じで子供たちを連れて勉強している。ここは留山という八峰町にあるところですが、ここはちょっと特殊な場所で、普通、白神山地のブナ林は標高800m以上に大体あるんですけれども、ここは標高160m程度です。これは地元の方々が非常によい形で保全をしていまして、そのため残った。ここ最近まで人を入れない管理をしていました。最近やっと木道を整備して開放を始めたのですが、これも今でもガイドを伴わないと入ってはいけないというふうにしております。標高は160m程度ですが、非常に大きなブナの木が残っているので、こういう場所もいい場所だなと思います。留山というのは、人をとめる、伐採をとめるという意味の留山です。雨の日ですけど、ちょうどブナの幹を伝った樹幹流がよく見られて、これもまたいい写真だなと思っています。
    地元では白神ガイド団体があります。藤里町と八峰町、それぞれ19名、57名のガイドがおります。この2つのガイドの会が連携してあきた白神ガイド連絡協議会を設立しました。アサヒビールの社会貢献事業の寄附を受けて活動しております。具体的には登山道の補修とか看板の設置、広報活動などをやっています。また、独自の研修もやっていまして、ほかの地域のガイド団体と合同でいろんな研修を毎年1回程度やっています。
    このガイドツアーの利用人数です。これは人数が増えている、減っているように見えますが、トータルで見ると非常に頑張っていらっしゃるなと思います。特に八峰町はガイドの人数自体もずっと増やしてきていますので、それに応じて実績も増えているという形だと思います。最近は年間5,000人程度の方がガイドを使っていただいております。
    また、秋田県側、青森県側合わせて環白神エコツーリズム推進協議会が立ち上がりました。これは青森県の関連する市町村、秋田県側の2つの町が会員となっておりまして、エコツーリズムの推進基盤づくりとか情報発信などを行っています。最終的には窓口の一本化をして総合的な役割を担う機関を5年以内に設立したいということで活動しています。
    また、来年、世界遺産登録20周年を迎えますので、秋田県、青森県両方で記念イベントを今検討しております。基本的には保全が大前提です。観光としては、秋田県の場合、ちょうどデスティネーションキャンペーンが来年が本番でありますので、それとの連携という形を考えています。うちの知事も、基本的には保全が大前提だ、観光は前面に出すべきではないということをはっきりと言っております。
    今後の課題としまして、まず20年たっておりますのでさまざまな設備、施設が老朽化しております。この補修の費用も大変ですが、県も財政が厳しい中、なかなか手が出せないところもありまして、いずれどうしようかと困っている部分もあります。また、来訪者数自体はじわじわと減ってきていますので、そこをどう扱っていくか。ただ、保全をするという立場もありますので、余りお客さんがどっと来ると、保全に対してどうなのかというところもあります。基本的には、秋田県の場合は遺産地域の中には入れないという立場を今とっておりますので、そこをうまく保ちながら、しかも地域を活性化していくためにどうするか、これが基本的には地元で頑張られているエコツーリズムの活動につながっていく、そこが解決の糸口なのかなと思っております。
    また、入山規制の取り扱いについて、基本的に秋田県は今は入れないという立場でありまして、それで合意がなされているのですが、青森県が遺産地域に入れるということもありますので、少し中に入らせてくれという声もなきにしもあらずなところはあります。果たしてそれをどうするか、これは県が決める話ではなくて、地元の合意によって決まっていくものですので、いずれこの話も出てくるのかなと思っております。
    また、ニホンジカの分布拡大の懸念は、先ほど中静先生がおっしゃったとおりです。また、ツキノワグマ、ニホンザルは、出没が増えているというよりも、遺産地域の中は鳥獣保護区として保護されているのですが、当然、クマやサルなどは保護区あるなしに関わらず移動して人里に出てきてしまう。出てきてしまうと有害鳥獣捕獲という形で、基本的には駆除しています。ですので、際限なく捕っていれば、当然中の動物も減ってしまう。ただ、今年も全県ではかなりの数が出てきている。今年は白神山地周辺だけを見るとそれほど多くの数のクマの捕獲はないんですけれども、大体今、全県で1,000頭弱、900頭ぐらいのツキノワグマがいると推定されているのですが、そのあたりの保護と有害駆除との関わりで、人里に出てくると駆除しなければいけないけれども、遺産地域全体として見れば保全しなければいけない、そこの兼ね合いです。ニホンザルについても、白神山地の周辺地域だけで今14の群れが確認されています。恐らく700頭前後がいる。遺産地域の奥のほうの群れは確認していないんですけれども、周辺地域だけ確認すると、そのくらいのニホンザルが出てきていまして、農業被害なども発生はしております。そのような状況で、当然、有害鳥獣捕獲駆除という形で、悪さをするサルについては捕ってしまわなければいけないということもあります。そのあたりの関わりを今後どうしていくのかというところが1つの問題になると思います。
    これが最後の写真で、岳岱のブナ林です。紅葉の時期ですので、こういう遺産地域の中と同じようなブナ林が手軽に見られるということで、秋田県の中では一番人気があるスポットです。
    以上でございます。
  • 岩槻座長 どうもありがとうございました。それでは、今の秋田県からのご報告に対して何かご質問、コメントありますでしょうか。
  • 大河内委員 ちょっとわからなかったのですが、世界遺産地域は入れないようにしているというお話でしたけれども、それは緩衝地域も立入禁止ということですか。
  • 上田主査 緩衝地域については立ち入りは規制されていませんが、登山道がないんですね。二ツ森に登る登山道は緩衝地域に食い込んでいるんですけれども、それ以外は登山道が基本的にないので、一般の方は藪を越えていけば入れるんですけど、基本的には入れない状況になっています。
  • 大河内委員 そうしますといろいろ出てくる学術研究の入山数はそういうところに入っているんでしょうけど、それ以外の数値は世界遺産の外側でのアクティビティーの数値ということになるんですね。
  • 上田主査 今回の数字はすべて世界遺産外側と見ていただければいいと思います。二ツ森だけが緩衝地域に食い込んでいる。小岳もちょうど境目ですので少しかかっている。
  • 大河内委員 少しかかっているというぐらいですね。わかりました。
  • 敷田委員 1点だけお願いします。秋田白神自然ふれあい構想の主要プロジェクトとして3つご紹介をいただきましたが、この推進主体は秋田県でしょうか。それとも地元の市町村が積極的に関与しているのでしょうか。
  • 上田主査 ふれあい構想としましては、県が策定はしたのですが、具体的にそこにつながっているプロジェクトは県がどうこうしてくださいという形ではなくて、呼びかけで、こういう形でいろんな利用とか保全を進めていきましょうという考えに基づいてはいます。ただ、最近はこの構想を策定してから随分時間がたちますので、覚えていらっしゃる方はいないんではないかな。今回、ある意味こじつけに近い形で整理をし直しています。ただ、図らずもというか、期せずして今までやられた活動を整理し直すと、このプロジェクトに沿うような形での活動がなされているということで、今後もう少しこれを見直した形でいろんな動きをやっていきたいと思っているところです。
  • 大河内委員 もう1つお願いします。ガイドですけど、協議会ができているのですが、これはライセンスを県が発行しているとか、あるいはこの協議会が発行しているとか、そういうことなのでしょうか。それとも、「私、ガイドです」と言えば、その瞬間にガイドになれるのでしょうか。その辺ちょっと教えてください。
  • 上田主査 八峰町と藤里町のガイドについては、それぞれの町とか商工会でガイドの会をつくっていまして、研修などを受けてガイドに登録されるという形をとっています。ですので、地元で認定をしているという形です。
  • 大河内委員 そうしますと、例えば秋田の場合、余り入るところはないのでわからないんですけど、ガイドなしで入れないようなところにもし行く場合には、そういう方でないと受け付けないということになっているのですか。
  • 上田主査 基本的にはガイドなしでどこでも入れます。核心地域の中は入って行けないので、ガイドさんが案内している場所も周辺地域だけです。
  • 岩槻座長 どうもありがとうございました。引き続いて3人のプレゼンテーションを受けて、白神山地全体について何かご質問、コメント、ディスカスすることがありましたらご発言いただきたいのですが、いかがでしょうか。
  • 小泉委員 さっき、がっかりしてしまうという話がありました。それに対しての対応ですが、ガイドの方がどのくらいの説明をしているかによって随分違うような気がします。さっき中静さんがおっしゃっていましたが、白神山地は大変な価値のある森だと思います。しかしそれが余り伝わっていないような気がします。中静さんの話でも出ていましたが、世界的に見てブナのあるところは日本付近と西ヨーロッパとアメリカ東部だけです。ただ日本の場合と他は違っていて、(西ヨーロッパなどは)全体にナラが多いような感じがします。一方、日本のブナ林は、本当にブナが優占しています。これは世界的に見ても唯一のブナ林ではないかと思います。白神山地は、さらに地滑りと雪崩が頻繁に起こるというようなことがあって、あの森ができている。そういう解説をきちっとやってくださると、がっかりは減るんじゃないかと思います。確かに巨木が余りなくて、全体としては藪山みたいな感じのところが多いです。また木は割合に細いですよね。それは地滑りがしょっちゅう起こるとか、それによって森林がしょっちゅう更新しているということが条件としてあるわけです。それがあそこの特徴でもあるので、その辺のことをガイドの方が説明したり、あるいは解説板に書いてくださったりすれば、もうちょっと価値の見直しが起こるような気がします。ですから、その辺がどうなっているか、もしわかったら少し教えてほしい。それが1つです。
    もう1つは、秋田県のほうではマタギの方が今までおられたと思うんですけれども、それは今どうなっているのか教えてください。
  • 岩槻座長 全体の広報の問題、どなたからでもいいですし、具体的にマタギの問題は秋田のほうからお願いできますか。
  • 青森県 ガイドの説明があると満足度が高まる、そのとおりだと思います。観光客の旅行の形態の実態を見ると、バスで来るマスツアーと個人で来る個人ツアーという形と2つに分けられると思うんですけれども、平成18年ぐらいを境に、どうしても個人客にシフトしてしまっている。実際、ガイドの手当てはお客さんが旅行社経由でガイドさんをお願いする。3日前までにお願いして、それでガイドがついて案内するという形をとっているのが一般的だったんですけれども、個人客にシフトすることによって、逆に今、ガイドさんが個人客にガイドできていないような状態になってきています。そういうのもあって、景観を楽しみに来た方にとってはがっかり感があるのかなと思います。ただ、個人客の中でもブナの森を楽しみに来た方にとっては非常に満足度が高いということで、一概に皆さんがっかりして帰っているわけではなくて、世界遺産級のブナ林はどんなものなんだと非常に期待度を上げて楽しみに来た方にとっては、何だこんなものなのというような話だったり、青森の場合は青池もきれいな青い池が相当大きな池なんだろうなと思って見にいったらすごく小さかったとか、暗門の滝は世界遺産クラスの滝なんだから、よっぽど大きいんだろうと期待して行ったら、高さがそんなになかったとか、そういう景観を楽しみに来たお客さにとっては、がっかり感があるという話になるのかなと思いますけれども、ブナの森を楽しみに来た方にとっては非常に満足して帰っています。もちろんガイドがつけば、さらに満足度がぐっと上がるということで、そういう意味ではガイドの質をどう上げるかは1つの課題になっています。
    マタギについてですけれども、青森県の白神山地周辺だと目屋マタギというマタギと赤石マタギということで、西目屋村に昔からいるマタギ、それから鰺ヶ沢の赤石渓流沿いにいた赤石マタギという2つのグループがあったんですけれども、現状としては、どちらも実際のマタギとしての活動はもうほとんどされていない。どちらのマタギもガイドになって、西目屋の目屋マタギは白神マタギ舎というガイド団体をつくって、マタギの暮らしぶりとかを解説して、逆に観光客の方は非常に喜んでいらっしゃる。赤石マタギは宿泊施設も経営しながらガイドもやったり、どちらも世界遺産地域の巡視員にもなっていまして、純粋なマタギの暮らしはもうなくなって、巡視員をやりながら、ガイドもやりながら生計を立てているのが実態かなと思っています。
  • 上田主査 秋田県も基本的に状況は同じです。マタギについては、昔は遺産地域の中でクマ撃ちをやっていたんですけれども、それができなくなっていますので、ガイドをされている方もいらっしゃれば、マタギの文化をどう残していくかというところでも、ちょっとつらいところはあると思っています。先ほどがっかりという話をしたのは、青森県と同じで景観的な話ですので、ちゃんとガイドがついて説明を受ければ、当然満足度は高いです。唯一秋田県の中で見晴らしがいいということでいうと、手軽に行けるところで1番が先ほどの表紙の二ツ森、あそこの上に立つと360度、何も人の気配がない山の中の真ん中に立てるので、そこは皆さんすごく感激していらっしゃいます。そういう状況です。
  • 岩槻座長 今の小泉委員のご質問にちょっと悪乗りして、私もお返事を特に要求するわけじゃないんですけど、広報に関しては、今のご説明は、来た人にどれだけ満足度を与えるかという話だったんですけれども、世界遺産としての広報は、実際に来ていただいた方に満足いただけるという、これも非常に重要なことなんですけれども、それと同時に、そのものの持つ意味を広く知っていただくことが大切だと思います。小笠原諸島の場合には、さまざまなことを学術的にも広報されているみたいですし、いろいろな発信をされているというのを前回お話を伺いました。そういう意味では、白神山地の世界唯一というユニークさをどう世界に向けて発信していくか、これは科学委員会も関係あるのかもしれませんけれども、お考えいただきたい。
    もう1つのマタギのほうは、これはもうまさに問題提起そのものですけれども、ユネスコのテーマの中には文化の多様性の保全ということもあるわけですよね。その文化の多様性の保全という言い方からいいますと、マタギのような特殊な文化を白神山地の保全の中でどう位置づけていくのかというのも、地域連絡会でさらに発展させていただくことを、多分小泉さんの質問の中にも、そういう意味があったんじゃないかと思うんですけど、ご検討いただけたらというふうに、特に答えを要求するんじゃなしにコメントさせていただきます。
    他に何かご発言ありますか。
  • 大河内委員 秋田県のほうが特に多かったのかもしれません。もしかすると青森県もそうだと思うんですが、世界遺産の外側の地域でいろんな活動をされていて、1つの質問としては、バッファゾーンを増やすおつもりはないのかということと、もう1つは、最後に吉田委員のコメントにあるんですけど、世界遺産管理地域といって、バッファゾーンよりさらに外側の地域までも含めて世界遺産の対象というよりも、世界遺産全体の地域という形で、もっと緩いけれども一定の規制のかかっているところがあるんですけど、こういう形で再編することは、これは科学委員会のほうかもしれませんけれども、どうなんでしょうか。
  • 中静委員 科学委員会でその議論をしたことがございます。現在の白神山地で緩衝地域と呼んでいる地域ではなくて、現在の遺産地域の外側に(UNESCOの定義するような)バッファゾーンに相当するものを作ってはどうかという議論はありました。ただ、遺産としてそういう正式なバッファゾーンを設けるということになりますと、もう1回遺産申請をし直さないといけないということで、それは大変労力もかかるということで、当面ユネスコが認めるバッファゾーンの申請はしないでおこう、ということになりました。ただ、先程ちょっと言いましたように、遺産地域の外側で必要が生じた場合には、柔軟にその管理も考えるというスタンスでいます。
  • 岩槻座長 それでは、お三方、プレゼンテーションとご質問に対してどうもありがとうございました。この後もまだエコツーリズムについて多少議論を続けたいと思いますので、よろしかったら、その間も適当にご発言いただけたらと思います。
    議題の2つ目に進ませていただきまして、これは本当は敷田委員が前回出ていただいていたら前回ご説明いただいたら、なお良かったのかもしれませんけれども、知床に関して、知床世界自然遺産における適正利用、観光について、こちらのほうがご専門の敷田委員からプレゼンテーションをいただいて議論をさせていただきたいと思います。お願いします。
  • 敷田委員 1回目は欠席をさせていただきましたので失礼いたしました。そのときに議論が利用やエコツーリズム、エコツアーに集中したということで、今回、補足をしてほしいというオーダーを受けましたが、お話を聞いたのが先週の末でありまして、ほぼ週末ぐらいしか準備をする時間がなくて、皆さんのお手元の資料4からご用意をさせていただきました。関連機関に承諾はいただいておりますけれども、ほぼあり物を使わせていただいております。私の説明の中で資料の順番が飛びますが、ご容赦をお願いしたいと思います。 資料4のレジュメで流れがつくってありますので、それをまずご覧になってください。その後、順番に私から資料ナンバーを言いますので、少し飛び飛びになりますが、ご容赦をお願いしたいと思います。
    私は北海道大学から参りましたが、前回お話がありました知床の科学委員会委員長の大泰司先生の下で科学委員を務めております。同時に、その科学委員会の組織の中にある「適正利用・エコツーリズムワーキンググループ」というワーキンググループの座長をしておりまして、この場が実際には知床のエコツーリズムと大きく関わりを持つことになっております。その仕組みは前回の資料にもありましたが、今回でいきますと資料ナンバー4の[6]の下の図になります。世界自然遺産管理におけるエコツーリズムという図がございますが、その下に構造が出ておりまして、科学委員会と地元の連絡会議の中間を取り持つ仕組みとして知床世界自然遺産地域適正利用・エコツーリズム検討会議が持たれております。ですので、専門家の集団でありますワーキンググループではなしに、実際は地元の方々と一緒に会議をやっておりまして、ほぼ100%近くが地元の方と一緒になった会議として運営をしております。こういう中で仕事をしておりますけれども、今日のお話は今までの遺産の資源そのもの、遺産そのものというよりも、遺産をどのように観光面から管理をしていこうかというお話になります。
    知床の置かれた立地が、例えば今の白神山地と若干違いまして、知床が世界遺産になった時には既に200万人近くの観光客がいらっしゃっていた。ピークで245万人という紹介が前回ありましたし、現在も180万人がいらっしゃっていまして、斜里町側のウトロという町は、世界遺産の町ではなく、温泉が出るのでお客さんが来る温泉観光地と全く同じ様子です。たまたまその横に世界遺産に登録された立派な原生自然が存在をしているとお考えになるほうがわかりやすいと思います。ですから、順番から言うと、先に温泉観光地があって世界遺産になっているというのは、地元の人たちの共通のフレームワークであろうと思います。外から見るとこれが逆さまになりがちなので、世界遺産の入り口のゲートウエータウン、アメリカの国立公園で言えば、入り口ですべての雰囲気が感じられる場所が単なる温泉観光地だという非常に厳しい見方もあります。しかし、これは地元の人たちにとっては非常に反発を買う指摘です。
    さて、知床にいらっしゃる観光客ですが、先ほどお話ししましたようにピークで250万人、現在180万人ということで、登録の際には増えました。その数は、前回ご紹介があったと思いますが、さらに詳しい資料を今日は資料4の[3]でお持ちしております。平成13年から23年までの観光客数の変化で、さすがに17年、18年の登録前後については非常に観光客が増えたように見えます。一番下の行がピーク時との比率で書いてあります。そこを見ていただきますように3けたはありません。要するに減少しているわけで、ピークの登録前後から見ますとぐっと減っているというのが現実です。冬期3月などは60%ぐらいに減っていまして、これは一般に言われるように、遺産効果は2~3年で、その後は元に戻るというのは、まさにそのとおりです。ただ、ここだけを見ておりますと、こういう変化があったんだねということですが、これは実際は北海道全体の観光の中の知床という位置づけで見ないと見方を誤ることがあります。
    一番最後の資料4の[7]をご覧になってください。これは北海道経済部観光局がつくっております北海道観光の現況のような資料です。知床の位置は、1枚目の下の地図にありますように、札幌からでも車で7時間、列車で5時間以上かかります。北海道は全国の22%の面積を持っていますので、東北6県と新潟県を足した広さがありますが、その中でも札幌から見るとかなり遠い位置にあります。現在、北海道に実質いらっしゃっている観光客は、年間5,000万人いらっしゃいます。そのうちの10%、500万人が道外観光客です。千歳空港の利用者が1,000万人いるので、その約半分ぐらいという見当です。実際は道内観光客の方が9割で、この人たちが知床にもアクセスするはずですが、距離が札幌からでもかなりあるので、遠いところからアクセスして一遍に何カ所も見て回るという観光スタイルのほうがパフォーマンスがいいので、自然と道外観光客のほうが多くなるという傾向があります。北海道に来る観光客は、下の棒グラフにありますように、4割が関東です。
    それから、先ほど白神山地の説明の中で、団体と個人のお話が出ておりましたが、現在の観光形態は、これは北海道だけではないのですが、団体旅行は10%しかいらっしゃいません。バスを連ねてお客さんが来るというのは、もうない現象でありまして、逆に言うと、バスを連ねてくるお客さんをターゲットにしようとした段階で9割のお客さんを失うことになります。ですが、団体旅行というのは、一般にはマスツアーとかと批判の対象ですが、管理の面からいくと非常に楽な観光です。例えばバスガイドさんに全部お伝えしておけば全員のお客さんに伝わるという極めてシンプルな構造を持っています。これが個人のお客様やグループでいらっしゃいますと、全部にそれを伝達するのはほぼ無理でありまして、皆様好き好きの格好、スタイルで観光されてしまうので、こちらが望ましくないということもおやりになる方が出てきます。パッケージツアーというのは、皆さんが旅行会社の店頭に行ってお買いになる商品ですが、これを買う人は今はほとんどいらっしゃいません。2割ぐらいです。インターネットとかスマホが使える方はキャリアも、ホテルも、アクティビティーもほとんどご自身で予約、催行されます。こういう時代になっております。
    さて、ちょっと元に戻しますと、その上の折れ線グラフを見ていただきたいと思います。これは道内観光客の地域別の入込割合で、平成11年を100としたときからの推移ですが、この中で知床に関係するのは右のオホーツク、釧路・根室で、これは総合振興局の区域が分かれていますので、この2つに入っているのですが、これを見ますと、両方ともグラフが下向きにどんどん下がってきております。これは、知床の訪問だけではなしに道東方面のお客さんでありまして、この道東方面のお客さん自体が下がっている中では、知床に幾ら魅力があっても戻らないということは、誰でも想定できることです。これには理由がありまして、航空会社の統合や路線の廃止、小型機の導入ということで、千歳までは非常に便がいいし、安いチケットで来られるのですが、その先は非常に高くつくので、なかなか来にくいという現状があります。道東方面は、今の状況が非常に悪いとお考えになっていただければと思います。
    さて、こういう状況ですが、観光客の数は、先ほどの資料4の[3]に知床の訪問サイトごとに載せてあります。ざっと見ていただくと右肩下がりというのが印象であろうと思います。実際そのとおりでありまして、お客さんが減ったことは紛れもない事実だと思いますが、私たち、特にエコツアーやエコツーリズム、観光による資源利用を考えている分野では、数というのは一番ベーシックなデータでありまして、どのような形態で使っているかが1番のポイントになります。ただ歩いて通過していらっしゃる方と自然観察をされる方では自然環境に対するインパクトが全然違ってきますので、その内容がわからないと実際は管理ができないことになります。知床は、まだこういうふうに数のデータがほぼカバーされていまして、これは環境省、林野庁の予算と人員が大量に投入されておりますから大変ありがたいことですが、スタートに立っているという状況だとお考えください。現在は、それをどのような利用形態、利用内容かというところへ深める準備を続けております。
    このモニタリングですが、単年度をやればいいということではなしに、精度ももちろん重要ですけれども、継続が必要で、この推移がポイントになります。この推移に変化があったときに利用形態や利用内容は変わってきた、自然環境に負荷がかかる前兆でないかとか、かかっていないかという推定をして対応していく。予防的措置がとれれば、なおよいということになります。これが基本的に観光による資源管理の基本であります。
    このように観光客をベースにしておりますので、観光についての資源管理は資源が実際は2つあります。まず、観光資源、知床でいいますとほぼ自然資源です。それと観光客という資源が他方にあります。ですから、観光客と観光資源の間を調整しているのが、この地域の管理となります。ここで、例えば知床の世界遺産地域内の自然資源保護度だけを高めると、当然外の資源、観光客のほうはおもしろくないわけで離れていきます。つまり外の資源を失うわけです。これは資源管理としてはうまい方法ではありません。逆に外の資源、観光客のほうを優先して、どんな使い方でもさせてしまえという設定をつくっていきますと地域内の資源が疲弊しますので、これもまたまずい管理なので、常にこの間のバランスをとるのが観光による資源利用の基本になってきます。ですから、具体的な正解があるわけではないのですが、少なくとも皆さんが想定した望ましい状態から外さないというような、かなり動的なダイナミックな管理を求められるのが観光のマネジメントであります。
    さて、先ほどバスガイドさんのお話をしましたが、今の観光客がどういうふうな利用形態や満足度を持っているかというのは、おもしろいデータが今日ありまして、資料4の[4]をご覧になってください。こちらは後からも紹介しますが、ウトロ海域部会資料となっている、ケイマフリという海鳥の保護・保全と観光利用を両立させようというエコツーリズム検討会議の中の部会です。そこでの調査データです。この資料を見ていただきますと、例えば、この観光船を使った観光客は8割ぐらいがウトロに宿泊をしていらっしゃいます。ということは、ウトロでの滞在時間がある程度あるということなので、この間にガイドツアーへの参加や事前の情報提供ができるチャンスがあるということです。
    こういうふうに観光客の基本データがあるといろんなことがわかってきます。「知床に旅行されたのは今回で何回目ですか?」という質問です。特徴的なグラフです。1回目と2回目に集中していまして、8割ぐらいが1~2回目です。ですので、この1~2回目の方がもう1度来て知床を大切に使ってくれるかというと、そのチャンスは非常に低いということになります。ですから、こうした人たちに環境保全や自然保護について熱心に説いても、知床の資源保護にとってはかなりロスが大きいことになりまして、アプローチの仕方を変えなければいけないというのが、こういうデータからわかってきます。
    さらに、その下のデータを見ますと、もうこの船に乗ることは8割方の人が決めて知床にやっていらっしゃいます。さらに、これはこの年度のデータには入っていないのですが、6割ぐらいがインターネット経由で予約をとっていらっしゃいます。既に6割が事前に行動を決めて入っていらっしゃいますので、現地で1回しか来ない人に大変な労力をかけて自然保護や環境保全を語るよりも、いらっしゃる前にネット経由、メール経由でいろんな情報提供をしたり、入ってくる際のマナーをお伝えするほうがはるかに効果的であるということも予測はできます。まだこういうシステムは知床でも導入はされておりませんが、ガイド組織がありますので、近い将来、現実的になってくると思います。
    こういうふうに、ベーシックなところでは観光客の方とのコミュニケーションをいかに構築していくかが、これからの知床での1つの課題になっていくと考えております。
    さて、具体的な知床での成果は何かというご質問が前回ありましたので、それをレジュメの資料4の[3]でご紹介したいと思います。知床五湖の利用調整地区はガイドがついて解説をしながら楽しんでいただくということについては前回説明があったと思いますので、また、報道も多いので省略をさせていただきます。
    それから、ヒグマ管理方針。今年度は非常にヒグマが多く出て人との遭遇が増えていますが、この遭遇のコントロールが1つの知床の課題でありまして、原生自然とどれだけの度合いでお客さんに接触していただくか、これが恐らくこれからの具体的な課題になっていくと思います。先ほどのケイマフリの例でいきますと、このグラフの中にデータが入っていますが、観光船に乗っていらっしゃる方のターゲット、観賞したい、利用したい自然資源はヒグマです。これはホエールウオッチングと同じですが、ターゲットがヒグマになってしまっているので、ヒグマが見られるか見られないかが満足度の決定要因になってきます。実は次にお話しするこのケイマフリの保護・保全と観光利用の調和では、ここがポイントでした。つまり、観光船の方はケイマフリが生息している海域を利用して、船で横切っていくので、ケイマフリの保護・保全の面からしますと、観光船が入ってきては困る、やめてほしいということになりまして、保護・保全をやっていらっしゃる野鳥の会と観光船利用の方の対立が激しかったわけです。ですが、このデータがありますと、観光船が持っている資源はヒグマしかほとんどないということがわかりますので、彼らは第2の資源が欲しいはずだと推測できます。そうすると、ケイマフリを資源化してうまく提供することができれば、誰も資源を徹底的に破壊して利用してしまおうということは採算の面からも考えないので、それが観光船の方にとっては観光資源になります。
    それを利用して進めているのが、このケイマフリの管理でありまして、観光船の利用の人たちはケイマフリを利用するときに「ソフト」がございませんので、研究者の方が調査結果や生態の知識について、それを観光船に提供する。観光船の人は提供されたものをただで使えるわけですから、何らかのお返しをしたいということでケイマフリの調査を買って出てくれております。研究者の方が毎日船を出すよりも、観光船は毎日どうせ出ているのですから、その方たちが調査をしてくれることで非常にコストが安い調査ができるという相乗効果ができまして、これがケイマフリ型の観光と環境の協働として、知床で進んでおります。それにつきましては資料の4の[5]をご覧になっていただければ、どういう活動が行われているかが理解いただけると思います。
    資料4の[5]の一番最後のページをご覧になってください。先程私がお話ししたように、基本フレームワークは左側にあります利用可能な自然観光資源で、右側にいらっしゃるもう1つの資源は利用者です。この2者の関係をいかに知床で構築しようかというのが私たちが考えていることであります。一般にいえば、これは利用者を連れてくる観光事業者だけになるのですが、ここに研究者を組み込んで、さらには科学委員会の仕組みもここに埋め込んでいこう。自然資源をそのままの形で体験してしまわれるのは、知床にとっては非常にもったいない話ですので、そこに付加価値をつける。それは研究者と事業者が協力することで、よりつけやすくなるだろうという設計で、このケイマフリの活動は進んでおります。
    もう1つの注目すべき例としては、知床のエコツーリズム戦略がございます。これは資料4の[6]をご覧になっていただきたいのですが、時間の関係で内容は説明しませんで、どういう考え方かを説明しますと、エコツーリズム戦略はそもそもIUCNから作りなさいという指示を受けまして検討がスタートしました。本来ですと、これは環境保全レベルを設定して、そのレベルに至るようにしましょうという一種の目標設定になるわけです。しかし、これをやりますと、目標をつくれるのは専門家や行政機関の方になって、それを達成する役目を負わされるのは地域の方という非常にいびつな構造を生んで、これでは誰も守らないわけで、戦略の意味がなくなります。
    そこで、今回とりました戦略は、戦略自体の中に物の決め方を書いてしまえと、そこで参加型の提案ができて、新しいルールや新しい利用の仕方を皆さんが議論をした上で決定できる仕組みをつくりました。ということになりますと、皆さんの参加意欲が自動的に上がって、こういう提案をしたいとか、ああいうことをやりたいという意見が次々に出てくるわけです。もちろんそれを野放しにしますと勝手に使われてしまいますので、専門家は、むしろそれを逆にチェックさせていただいたりアドバイスをする立場に転換するというやり方をとっています。これがエコツーリズム戦略の知床での新しい試みです。現在、試行段階に入っておりまして、今年度スタートしたところですので、これからの成果が楽しみです。
    以上も含めまして、知床で今進んでいることは、知床のブランドマネジメント、この1点に尽きます。ブランドというのは、価値を高めれば、それだけ皆さんから認めていただけるし、自分たちも最終的には誇りを持てる内容であります。ブランドマネジメントのためには規制をしたほうがいいという例は非常に多くあります。ブランド品をお買いになった皆さんはわかると思いますが、徹底して規制をしております。それをやる価値があるのが知床だと考えております。
    こうした仕組みは、知床は今、登録後につくっておりまして、多分つくれるようになったのは2005年の登録から5年たって第2期に入っているから、かなり余裕ができたからだと考えております。ですが、これが遺産登録前からこういう仕組みの素地があれば非常に簡単につくっていける部分は幾つもあるわけです。登録以前にこういう検討をしたり、登録してから以降、こういう体制がつくれるかというのは1つの大きなポイントです。
    あと、専門家の方が多く関わっておりまして、これは知床でも同じですが、自然環境の分野の専門家の方が非常に多いので、必ずしも管理、マネジメントには、長けていらっしゃいませんので、何かあると規制型のコントロールをされます。規制型のコントロールは、皆さんも道路交通法をよくおわかりのように大変嫌な存在で、誰も進んで従いたいとは思っていませんので、もっとスマートなコントロールが導入されていい時期に私たち社会は変わってきています。そういう分野の専門家に参加をしていただく時期かなと知床では考えております。
    最後に、ブランドマネジメントというお話をしましたが、知床の世界遺産のわかりやすい説明に私は時々使うのですが、観光というのは実は病院と同じようなシステムで、hospitalとhospitalityは語源が同じですが、非常によく似ています。観光資源がいかにすばらしくても、病院の医療技術がいかにすばらしくても必ずしも評価をされるということではありませんし、逆に過大な評価をされる場合もあります。世界遺産というのは、ある意味では昨日まで町立病院だったのが、いきなり世界脳神経外科病院と指定されちゃった、そうすると、皮膚科や耳鼻咽喉科の患者さんまで全国からやってくるようになってしまったみたいな状況でありまして、こういう状況が時間がたつとだんだん元に戻ってくるときに、いかに本体のところをブランド化できるかだと思います。その点では、資源がいかにすばらしいかというところもありますが、資源を紹介していく、先ほどガイドの話が出ていましたが、こういう分野についても世界遺産登録との関係の中で触れていいところだと思っています。国内のような観光と割と近い、人と自然が割と近い設定の中では重要なポイントになってくるのではないかと思います。
    以上で私からの補足的な説明を終わります。ありがとうございました。
  • 岩槻座長 どうもありがとうございました。順序を間違えていたんですけれども、知床に関しては前回幾つか質問があって、それがそのままになっておりますので、事務局のほうでまとめていただいたお答えを宮澤さんからお願いします。
  • 環境省(宮澤) 後ろから失礼します。前回、知床のご発表をいただいた時の質問で、知床五湖にはレクチャーを受けてから入るという説明に関して、外国人の団体旅行者が来た際のマナーの関係で、外国語対応はどうなっているのかといったお話がありましたので確認してまいりました。レクチャーは映像レクチャーがありますが、こちらは日本語ナレーションに英語の字幕、それから中国語圏、韓国語圏の方には映像レクチャーの内容を訳したパンフレットを用意しておりまして、こちらで内容をお伝えできる形にしているということです。
    ご参考までに海外旅行者への対応として外国語版のパンフレットということで、これも日本語のほかに英語、中国語、韓国語版はつくっているということです。以上です。
  • 岩槻座長 どうもありがとうございました。今の敷田さんのプレゼンテーションを含めて、本当は議論すべきことがたくさんあるのかもしれませんけど、時間が今日も来てしまいまして、1つ、2つだけ何か特にここで発言しておきたいことがありましたら伺っておきたいのですが、いかがでしょうか。
  • 大河内委員 特に発言ということではないんですけれども、どうもありがとうございました。いろいろ参考になることがありまして、特にインターネット経由で予約するというのは今は普通の形態なので、何を予約したかによって発するメッセージを返すのは大変すばらしいアイデアかと思いますので、ぜひ参考にさせていただきたいと思います。
  • 岩槻座長 ほかはいかがでしょうか。部屋の時間は多少延びてもいいんだそうで、お忙しい方はもうご退席いただくことになるかもしれませんけど、何かご発言があれば。
  • 敷田委員 今の小笠原諸島の例ですと、運搬手段がほぼ100%船なので、そこでいろいろな事前情報の提供ができるチャンスはあると思いますので、知床との条件の違いだと思います。
  • 大河内委員 実際には「おがさわら丸」がその日に着くと、中で放送しているんですけど、ちょうどそのころになると島が見えるので、みんな甲板に出てしまって、そこは微妙なところかなという感じがいたします。ただ、船だけで行くのがいいということはIUCNもいろんな方がおっしゃっておりますし、例えば全然違うんですけど、最近、上高地に行きますと、あそこはバスしか入れないので、あのバスの中でサルに餌をやっちゃいけないとかちゃんと言うわけですね。ああいうのは非常に優れていると思います。
    ついでですので一言言うと、先ほどおっしゃっているように素地があると大変いいというのは、小笠原諸島もそのとおりで、もとの小笠原の観光客はほとんどダイビングとホエールウオッチングで、しかもホエールウオッチング協会も既にできていましたし、ダイビングはダイビングの団体がございまして、ガイドの仕方も全部マニュアル化されているんですね。今度初めて世界遺産になって陸上部門ができたわけですけれども、そういう意味で、もともと素地があったということで、小笠原エコツーリズム協議会がトップダウンでなくて自主ルールで自ら決めていったというプロセスがありますので、本当におっしゃられたことが、なるほどなと思いました。これからも情報交換で宜しくお願いしたいと思います。
  • 敷田委員 宜しくお願いします。恐らく漁業にとっても同じだと思うのですが、知床の観光が世界遺産と出会って、観光自体がどう変われるかと考えればいいのだと思います。追い出す、追い出さないとかという話ではなしに、双方が国内の文化素地の中でどういうふうに変われるかがポイントだと思います。今はちょうど知床側が世界遺産のシステムをうまく利用できる能力が上がってきた時期なのではないかと私は考えています。
  • 岩槻座長 今の知床と小笠原諸島と新しい世界遺産での観光のやりとりを聞かれて、立入規制をしている白神山地や、今日は屋久島の方はいらっしゃらないのですが、屋久島も立入規制が話題になったりしているそうですけれども、そういうところにおけるエコツーリズムとの関わりは、それぞれの特性を生かして進めていく必要があると思いますけれども、差し当たり白神山地のほうで何かご感想でも伺うことができますでしょうか。
  • 中静委員 白神山地の場合は、例えば屋久島と比べても、大きな観光資源がほとんどない状態で世界遺産になったという点が、ほかのところと全く違うところだなと思っています。周辺地域には温泉もあるんですけれども、それとは全く違う形で世界遺産が作られた、というのがかなり大きな違いです。したがって、エコツーリズムのノウハウもほとんどない状態だと思っています。実際には、地域の方たちが今一生懸命勉強されている状態ですので、そういうところで最初に考えるべき問題はどういうことなのかというご示唆があれば、ぜひこれから勉強させていただきたいと思っています。今日でなくてもいいですから、宜しくお願いいたします。
  • 敷田委員 私もガイドが専門分野ではないのですけれども、ポイントは2つあると思います。1つはエンターテインメントだと思います。お勉強ではないんです。観光にいらっしゃる方は楽しみたい、ついでに勉強ができればいいと思っているのですが、エコツアーではまず勉強で、後が楽しみになることが多く、逆さまになって意見が合わないところがあります。エンターテインメント性をまず上げて楽しく学んでもらうことがポイントだと思います。
    あと、ガイドの方はそれぞれ癖があったり流派があるのでなかなかご意見が合わない方がいらっしゃいまして、利用のレベルを統一するのは非常に困難なところがあります。そういう面では、早くからガイド組織を柔軟につくっていくということは1つのポイントだと思います。もうおやりになっているとお聞きしたので安心をしております。
  • 岩槻座長 時間がなくて余り深入りした議論はできないかもしれませんけど、世界遺産に指定するというのは、やはり世界ブランドにするということであって、世界ブランドにするということは、地域がいかに潤うかということが常に話題になる、先ほど青森県でもちょっとお伺いしたようなことがあると思います。世界遺産の本来の目的は、確かに地域の要求を満たしてサステイナビリティーを高めるということではあるんですけれども、元来ユネスコが世界遺産を考えた目的はそれだけではなかったはずです。特に今年コンベンションの40周年になるので、1度そういうことをここでも議論できたらいいんじゃないかと思います。ユネスコは一体何を求めて世界遺産を設定したのか、それに対して、日本は後れて20年前に遺産条約は批准したんですけれども、それに参加したのはなぜか、それが今本当に世界遺産の管理時に十分生かされているのかどうかという問題、これから登録をもし増やすとすれば、そういうことをどうしても考えないといけないということです。いかにテクニカルに上手にエコツーリズムを振興していくかを議論するのは非常に大切なことで、それ抜きに世界遺産は維持できないとは思うんですけれども、それと同時に、もっとプリンシプルそのものも考えていく必要があるんじゃないかと考えていますので、それはいずれ委員会の先のほうで、またご協力いただきたいと思います。これは私の個人的な意見です。
    ほか何かご発言ありますでしょうか。
  • 敷田委員 恐らく座長がおっしゃるとおりだと思います。たまたま知床の場合は世界遺産以前から国立公園でしたし、環境省、林野庁の人が一生懸命保全をされていましたし、知床財団の活動もありましたので、そういう面では、世界遺産を利用して、さらにその保全度合いを地元の力で高められないかなという視点が知床だと思います。それは、世界遺産に登録されたタイミングが違うので、地域ごとに管理の状態というか、目標が違うと思いますし、知床自体も時期が変わるとやり方は変わって当然と思っております。
  • 岩槻座長 ほかに特にご発言がないようでしたら、もう時間が少しオーバーしていますので、今日はこれで終わりにして、櫻井さんのほうにマイクを戻させていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
  • 林野庁(櫻井) 議題3のその他になるのですけれども、第3回の懇談会の進め方について私から説明させていただきたいと思います。
    今日は発表者の方のご都合もありまして屋久島を議題から外しております。第3回の懇談会におきましては、この屋久島について、これまでの登録地の議論と同様にご発表いただく予定にしております。その後になりますが、今後の世界自然遺産地域に求められる保全管理のあり方がどういうことかということの取りまとめに向けてご議論いただくということで考えております。それに当たりましては、事務局でこれまでの議論を、ご発表だったりご意見を踏まえまして取りまとめのたたき台をご用意させていただきまして、これをベースにご議論いただくことで考えております。
    ご議論をいただく際のご参考の資料といたしましては、本日、参考資料2でA3横の折り込んでいる資料を配付させていただいているんですけれども、これは第1回目の懇談会で出ましたご発表とかご意見をまとめて整理してみたものですが、これと同じような形で本日の第2回で出ましたご発表、ご意見についても整理をさせていただいて配付させていただくということで考えております。また、これ以外にでもご議論いただく際に必要となる情報がありましたら、それもご用意させていただきたいと思いますので、この場でも、また後日でもいいのですけれども、ご助言なりいただければと思います。
  • 岩槻座長 そういうことをお伝えいただいた上で終わりにさせていただくということですけれども、宜しくお願いします。
  • 林野庁(櫻井) また事務局にメールでなり思い当たるものがありましたら、ご連絡いただければと思います。
    岩槻座長、本日はありがとうございました。次回の開催日につきましては、10月23日火曜日の午前中ということで予定をしておりますので、ご出席のほど宜しくお願いいたします。
    本日の議事はこれで終了させていただきます。本日も長時間にわたりましてご議論いただき、ありがとうございました。

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