自然環境・生物多様性

新たな世界自然遺産候補地の考え方に係る懇談会 | 第2回概要

日時

2012年9月20日(木)13:00~15:15

場所

TKP東京駅八重洲カンファレンスセンター

出席委員等(敬称略)

(1)委員
岩槻 邦男 (兵庫県立 人と自然の博物館 館長)
大河内 勇 (独立行政法人 森林総合研究所 理事)
太田 英利 (兵庫県立大学 自然・環境科学研究所 教授)
小泉 武栄 (国立大学法人 東京学芸大学 教授)
敷田 麻実 (国立大学法人 北海道大学観光学高等研究センター 教授)
中静 透  (国立大学法人 東北大学大学院生命科学研究科 教授)
(2)ゲストスピーカー
前澤 豊利 (青森県 自然保護課長)
上田 貴夫 (秋田県 自然保護課長代理、調整・自然環境班 主査)

議題

  1. (1)日本の世界自然遺産地域(白神山地)の保全管理の状況及び課題について
  2. (2)知床世界自然遺産における適正利用、観光について
  3. (3)意見交換
  4. (4)その他

概要

(1)世界自然遺産地域(白神山地)の保全管理の状況及び課題についての報告

  • 中静 白神世界自然遺産地域委員会委員長
    • 主な価値としては、ブナが分布しているヨーロッパや東アジアに比べ、白神のブナ林は氷河の影響を受けていない非常に多様性の高い植物群落であること、多雪環境を反映して、日本固有のブナを優占樹木とした森林を形成していることなど。
    • 1995年に策定した現行の管理計画は、最近策定された知床等の管理計画に比べて内容が極めて簡単で、管理目標や行動計画の具体性が無い、順応的保全管理の観点が入っていないといった問題があり、改定作業中。
    • 科学委員会の目的は、科学的なデータに基づいた順応的管理に必要な助言を与えることで、これまで取り組んできた議題は、モニタリング計画の策定、遺産委員会への定期報告、管理計画の改定など。
    • 遺産地域の内外では、国・県・ボランティア団体・研究者、中学生など多様な主体がモニタリングを実施してきており、モニタリング計画は、これらを連携・網羅する形で作成中。
    • 今後の管理上の課題として、クマ、イヌワシ、クマゲラなど遺産地域を超えて生息する動物を考慮した、より広い範囲の保全策の検討、温暖化の影響、ニホンジカの分布拡大、ナラ枯れの拡大、周辺のリストレーションがある。
    • ブナ林の再生に関して、多くのボランティア団体が活動しているため、林野庁が委員会を設置し、どのようなことをやっていくのか、どのような方針で取組むのかなどの基準づくりを行った。

質疑・応答

  • 遺産地域の外側にバッファーゾーンを広げるつもりはないのか。
  • (中静委員長)科学委員会においてもその議論を行ったことがあるが、世界遺産条約上のバッファーゾーンを設定するためには、世界遺産委員会への申請が必要になるため、当面見送ることにした。一方で、遺産地域の外側について、何らかの対応をする必要性が生じれば、その管理についても柔軟に検討することにしている。
  • 前澤 青森県自然保護課長
    • 白神山地世界遺産地域の遺産区域(16,971ha)の約4分の3(12,627ha)を青森県側が占め、そのほぼ全域が自然環境保全地域に指定され、一部に国定公園や県立公園が指定されている。
    • 登録後、平成7年に地域連絡会議の設置と管理計画の策定を行い、平成8年に入山規制に関する地域懇話会を開催した。入山規制については、既存の歩道に加えて指定する27ルートに限り、登山目的の入山を許可制(後に届出制に移行)によって認めることとした。
    • 保全上の成果として、全域が森林生態系保護地域に設定(平成2年)されたことで、ブナ林の保全が担保されたこと、入山規制によって入山者増加をある程度コントロールできたことなどが挙げられる。一方で、狩猟や釣りの禁止に対する反対意見もある。
    • 保全上の課題として、無届出による核心地域への入山者や、樹木の伐採、釣り、たき火などの禁止行為が確認されている。遺産地域内で関係機関の合同パトロールで対応している。
    • 青森県は、多面的な自然環境調査、巡視員の配置、自然観察歩道の整備、ビジターセンター等の整備を実施している。関係市町村では、宿泊施設や自然観察館などの整備、自然観察ガイドの養成を実施している。
    • 観光客の入り込み数に関しては、平成16年度の130万人をピークに、年々減少傾向を示しており、最近では80万人程度で推移。関係町村が観光資源として過度な期待を抱いているが、期待に反して観光客が減少し続けている。世界遺産を活用した地域づくりが課題。
    • その他の課題として、歩道等の維持管理経費の増大、ツキノワグマやニホンザル等との軋轢の増加がある。

質疑・応答

  • 新たに作られた宿泊施設は、公的な施設か。また、既存の施設を圧迫することはないか。
  • (前澤課長)第3セクターを含む民間の施設である。圧迫したということは聞いていない。利用者は全体的に減少傾向。
  • ツキノワグマやニホンザルとの軋轢があるということだが、遺産登録との関連があるのか。
  • (前澤課長)近年増加してきていることは明らかだが、遺産登録=サルの増加という見解はない。調査結果を基に、個体数調整を行っている。
  • (中静委員長)ツキノワグマやニホンザルは定期的なモニタリングは行っていない。クマゲラやイヌワシ等は行っている。
  • 世界レベルの観光資源として過度な期待をしていたというのは、住民か。県はどう評価しているか。
  • (前澤課長)地域は観光振興が主眼にあるので、観光がもっと盛んになって欲しいという考えがある。県の中でも観光サイドでは観光振興への期待はある。
  • 上田 秋田県自然保護課 調整・自然環境班 主査
    • 白神山地世界遺産地域の秋田県側は、遺産区域(16,971ha)の約4分の1(4,344ha)を占め、周辺に秋田白神県立自然公園が指定されている。
    • 核心地域については、学術研究等の特別な目的がある場合を除き、入山を規制している。これは、森林生態系保護地域の設定の際に、地元の人たちの協議の中で、総体的に原生的な森林面積が少ない秋田県側は、もともと人が入るような場所ではなかったこともあり、保全しようということで合意したもの。
    • 保全管理上の問題については、地元の理解・協力の下、良好に保全されていると考えられる。登山道沿いの一部で高山植物の盗掘が確認されているが、大きな問題となっていない。将来的には、ニホンジカの侵入に対する影響が懸念される。
    • 観光客の入り込み数(藤里町)に関して、平成15年以降減少傾向にあり、観光客の構成は県内の観光客が多くを占めている。
    • 秋田県の取組として、登録後に世界遺産周辺部の動植物調査等を実施し、平成9年に遺産地域と周辺部を対象とした「秋田白神自然ふれあい構想」を設定。管理計画に基づいて保全される遺産地域に対し、県として遺産周辺部で様々な利用や保全を決めて遺産管理に協力するというもの。構想では、今までの関連する活動をとりまとめ、ハタハタの森プロジェクト、野生生物エコランドプロジェクト、白神エコミュージアムプロジェクトなど幾つかのプロジェクトを挙げた。 白神の森の多様性を保全し、遺産地域周辺では環境への負担の少ない持続可能な地域作りを行い、白神山地の自然や伝統的地域文化を活かした地域活性化に結びつけていきたい。
    • 関連する2つの町のガイド団体が連携して、あきた白神ガイド連絡協議会を設立した。
    • 中心部の保全を保ちながら、いかに地域振興につなげるかが課題。
    • その他の今後の課題として、周辺施設の老朽化と補修費用、来訪者数の減少、現行の入山規制の取扱い(これは県が決めるものではなく、地元の合意によって決まっていくもの)、ニホンジカの分布拡大、ニホンザル等の野生動物と人間との軋轢、などが挙げられる。

質疑・応答

  • 遺産地域内には入山規制がされているということだが、緩衝地域も入山規制されているのか。
  • (上田主査) 緩衝地域に入山規制はないが、登山道がなく、実質的に立入りできない。
  • 秋田白神自然ふれあい構想のプロジェクトの実施主体はどこか。
  • (上田主査) 構想として県が設定したが、具体的な各プロジェクトは、利用や保全を進めていこうとする考えに基づいて、各実施主体により実施されているもの。
  • ガイド協議会などがあるが、ガイドのライセンス制度のようなものがあるのか。
  • (上田主査) 関連する町や商工会でガイドの会を作っており、研修などを受けてガイド登録することになっている。地域で認定している形。

(2)知床世界自然遺産における適正利用、観光について

  • 敷田 知床世界自然遺産地域科学委員会委員 (北海道大学観光学高等研究センター 教授)
    • 知床では、エコツーリズムについて科学委員会と地域連絡会議の間を取り持つ仕組みとして適正利用・エコツーリズム検討会議が設置されている。
    • 現在検討しているエコツーリズム戦略には、地域の方々が提案し、専門家がチェック・アドバイスするという新しい試みを加えている。提案型とすると、皆さんの参加意欲が上がる。
    • 知床の観光客の入り込み数は、ピーク時との比率を見ると減少しているが、北海道全体の観光の中の知床という位置付けで見ないと、見方を誤ることがある。道東方面へのお客さん自体が減っている中で、知床にいくら魅力があってもピーク時の数に戻らないことが予想される。
    • 観光客の形態は、殆どが個人・グループによる観光、約8割が知床を訪問するのが1~2回目の人々、約6割が事前に知床での行動を決めて来ているというデータがある。ここから、環境保全等を観光客に呼びかける手段として、事前にネットやメール経由で様々な情報やマナーを提供する事が効果的と予測できる。このように観光客とのコミュニケーションをいかに構築していくかが課題。
    • 観光における資源管理は、観光資源(知床では自然資源)と観光客という2つの資源の間のバランスをとることが基本。
    • 知床で「ケイマフリ型」の観光と環境の調和が進んでいる。これは、観光船の利用エリアがケイマフリ(海鳥)の生息海域と重なり、ケイマフリの保全と観光利用とで対立があったところ、ケイマフリを観光資源化することで、研究者から観光船へケイマフリの生態などの知識を提供し、観光船はケイマフリの調査を行うという相乗効果が出ている例。
    • 知床で今進んでいることは、ブランドマネジメント。ブランドは、価値を高めれば皆さんから認めて頂き、自分達も最終的には誇りを持てる。このためには徹底して規制した方がいい例が多い。
    • 遺産登録前から管理の仕組みの素地があれば非常に簡単に仕組みを作れる。登録以前の検討や登録後の組織体制の整備が、遺産管理の大きな一つのポイント。
    • 知床では、以前から行われてきた保全の取組が、世界遺産を利用してさらに高められている。
    • 規制型のコントロールより、もっとスマートなコントロールが導入されていい時期であり、そうした分野の専門家に参加いただく時期だと考える。

(3)意見交換

  • 白神山地の保全管理等に係る意見交換
    • ガイドの説明によって、観光客の満足度は変わる。ガイドの質の向上が一つの課題である。
    • 世界遺産は、その遺産の持つ意味を広く知ってもらうことが求められる。学術的な発信や、世界に向けた発信も求められる。
    • ユネスコのテーマには文化の多様性も含まれている。マタギのような固有の文化を、白神山地の保全の中でどのように位置付けていくのかということも、地域連絡会のような場で議論してはどうか。
  • 知床世界自然遺産における適正利用、観光に係る意見交換
    • インターネットの予約時に何を選択したかで、メッセージを選択して送付するというのは非常に良いアイデアであり、他地域でも参考になる。
    • 小笠原の場合は、運搬手段がほぼ100%船であるので、そこで様々な事前情報を提供することが効果的である。それぞれの地域の特殊性を活かして普及啓発を進めることが重要である。
    • 観光資源を効率的に利用するためには、一つにはエンターティメント性を上げて、お客さんに楽しく学んでもらうこと。また、ガイド組織を早い段階から柔軟に作っていくことがもう一つのポイント。
    • ユネスコが世界遺産を考えた目的は、地域の要求を満たしてsustainability(持続性)を高めるだけではなかったはず。ユネスコが世界遺産に求めるものは何か、日本が条約に参加したのはなぜか、というprinciple(原理、根本方針)そのものについても、もっと考えなければいけない。

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