自然環境・生物多様性

新たな世界自然遺産候補地の考え方に係る懇談会 | 第1回議事録

平成24年8月28日

  • 環境省(芹澤) それでは、定刻になりましたので、ただ今より平成24年度第1回新たな世界自然遺産候補地の考え方に係る懇談会を開催させていただきます。
    私は、本日の進行を担当いたします環境省自然環境局自然環境計画課の芹澤でございます。どうぞ宜しくお願いいたします。
    なお、取材によるカメラ撮影につきましては冒頭のみとさせていただきます。議事に入りましたら、担当の指示に従いまして、取材のための撮影はおやめください。
    初めに、本懇談会の事務局を務めます環境省及び林野庁からご挨拶申し上げます。
    まず、環境省大臣官房審議官よりご挨拶いたします。星野審議官、宜しくお願いいたします。
  • 環境省(星野) 環境省大臣官房審議官の星野でございます。本日はご多忙の中、委員の皆様方には懇談会にご参加いただきまして、誠にありがとうございます。開会に当たりまして、環境省を代表して一言ご挨拶を申し上げます。
    我が国には、現在、世界自然遺産として屋久島、白神山地、知床、そして小笠原諸島の4地域が登録されております。いずれも我が国を代表する自然環境というだけではなくて、世界に唯一の価値を持つ遺産でもあり、私たちの世代が後世に確実に伝えていく責務がある地域でございます。こうした世界的な価値を有する世界自然遺産の存在は、日本の生物多様性の保全を進める上で大きな役割を果たしてきたと考えております。また、世界自然遺産の登録を目指す各地域における活動は、それぞれの地域の自然の価値を見つめ直すきっかけともなって、地域の活性化にも効果があったと思っております。
    一方で、世界自然遺産の登録数は、現在、世界で188、文化遺産も含む世界遺産全体では962と登録数が増加してきております。こうした数の増加に対応して、世界遺産地域としての価値を維持するための保全管理がしっかりと追いついているのかどうかという点が世界全体の課題にもなっているところであります。日本国内でも多くの観光客が訪れることによって環境への影響、さらには地域の住民の方々の生活や産業への影響など、登録に伴うマイナスの面の指摘もされているところでございます。
    そこで、この懇談会では、まず初めに日本の世界自然遺産が生物多様性保全の上で果たしてきた役割、さらには地域との関わり方について検証した上で、今後の世界遺産地域に求められる保全管理のあり方についてご議論をいただきたいと考えております。
    また、平成15年、環境省と林野庁で設置いたしました検討会によって世界自然遺産の候補地3カ所が選ばれ、そのうち知床、小笠原が登録され、残る奄美・琉球諸島が登録に向けた取組を開始しているところでございます。その検討会からおよそ10年が経過したということもございまして、次に世界自然遺産を目指すべき候補地があるのかないのかについても改めて考えてもよい時期になっているのではないかと思うところであります。この10年間に新たな知見や情報が得られているかどうかという点も含めて、さまざまな観点からの検討が必要と考えております。こうした考え方の整理についても、この懇談会でご議論をお願いしたいと思っております。
    委員の皆様方の学術的、専門的な見地から幅広いご意見をお願いいたしまして、検討を始めるに当たってのご挨拶とさせていただきます。本日は宜しくお願いいたします。
  • 環境省(芹澤) 引き続き林野庁の沼田次長よりご挨拶いたします。沼田次長、お願いいたします。
  • 林野庁(沼田) 林野庁次長の沼田でございます。本日は懇談会の委員の先生方、そしてゲストスピーカーの皆様方、お忙しいところお集まりいただきまして、誠にありがとうございました。また、日ごろから皆様方におかれましては森林・林業行政の推進、そして世界自然遺産地域の保全管理の問題、いろいろとご支援、そしてご高配をいただいておりまして、改めて御礼を申し上げたいと存じます。
    ただいま星野審議官からもお話があったわけでございますけれども、世界自然遺産に屋久島と白神山地が指定されまして、来年にはもう20年になるという状況でございます。そして、その2つに加えて知床と小笠原諸島が世界自然遺産に指定されているわけでございますけれども、その4つの陸域における95%ぐらいを国有林野が占めているという状況にあるわけでございます。そういった意味で、私どもとしてもそういった地域につきましては森林生態系保護地域に設定いたしまして、責任を持った保護管理活動を実施している状況にあるわけでございます。
    ご承知のように国有林野につきましては、我が国の森林面積の3割を占めておりますし、奥地脊梁山脈に存在しているということもございますので、豊かな景観とか原生的な森林生態系、そして貴重な動植物が生育・生息している状況になっているわけでございます。私どもとしてもいろいろな努力をさせていただいているわけでございます。例えば大正4年に保護林制度ができておりますけれども、実は国有林の面積は日本全体で約760万haございますけれども、そのうちの1割以上に当たります90万haが保護林に設定されておるわけでございます。そういった仕組みに加えまして、私どもは「緑の回廊」と言っておりますけれども、種の保存でありますとか遺伝的な多様性を確保するためのいわゆる「回廊」、移動経路を設けているという取組も行わせていただいておるわけでございます。私どもとしても、今後とも国有林野の管理経営を通じてこういった世界自然遺産地域を初めといたしました貴重な森林生態系の保全、生物多様性の保全に鋭意努力していきたいと考えているところでございます。
    本日は知床、小笠原諸島についていろいろなお話も承ることができる機会と思っておりますけれども、私どもとしてもこういった活動にご尽力いただいている皆様方には大変感謝申し上げたいと思っておりますし、また、いろいろご苦労されている点が多かろうと思っておりますので、ぜひ本日はそのようなお話も伺わせていただければありがたいと考えているところでございます。
    そういったものをベースにしながら、さらに今後、世界自然遺産地域にどういった管理をやっていったらいいかも含めて、また、さらにはその次のものがどういったものが考えられるかも含めて忌憚のないご意見、ご助言をいただければ大変ありがたいと思っているところでございます。今後とも、私どもとしてもこういった森林生態系の保全には力を入れて取り組んでまいりたいと思っているところでございますので、ご協力、宜しくお願いしたいということを申し上げまして、ご挨拶に代えさせていただきたいと存じます。本日はよろしくお願いいたします。
  • 環境省(芹澤) 本日は第1回目の会合でございますので、各委員のご紹介をさせていただきます。
    お手元の資料3枚目、配席表をご覧ください。
    まず、委員席奥から、大河内委員。
    岩槻委員。
    中静委員。
    また、資料4枚目に委員名簿がございますが、本日は小泉委員、敷田委員、吉田委員はご都合により欠席とのご連絡をいただいております。
    本日はゲストスピーカーとして知床及び小笠原諸島からご参加いただいておりますので、ご紹介させていただきます。
    座席奥のほうから、知床世界自然遺産地域科学委員会の大泰司委員長。
    北海道環境生活部環境局自然環境課施設・知床担当、高橋課長。
    小笠原村の岩本自然管理専門員。
    なお、環境省、林野庁の出席者も併せてご紹介させていただきます。
    初めに環境省から、先ほどご挨拶させていただきましたが、星野審議官でございます。
    亀澤自然環境計画課長でございます。
    桂川国立公園課長でございます。
    次に、林野庁からの出席者をご紹介いたします。
    先ほどご挨拶させていただきました沼田林野庁次長でございます。
    古久保森林整備部長でございます。
    徳丸研究・保全課長でございます。
    川端経営企画課長でございます。
    また、今回は関係する省庁といたしまして、外務省、農林水産省、水産庁よりご出席いただいております。
    次に、議事に従いまして座長選出に移らせていただきます。
    事務局といたしましては、岩槻先生にお願いしたいと考えております。本日ご欠席の先生につきましては、あらかじめお伺いいたしまして、ご異議なしと伺っております。そのほかの皆様、いかがでしょうか。
    (異議なし)
  • 環境省(芹澤) ありがとうございます。それでは、ご了承いただきましたので、座長を岩槻先生にお願いいたします。
    ここからは議事の進行を岩槻座長にお願いしたいと存じておりますが、その前に、林野庁の沼田次長につきましては、公務のため、ここで退席させていただきます。
  • 林野庁(沼田) 申しわけございません。宜しくお願いします。
  • 環境省(芹澤) それでは、議事の進行を岩槻座長、お願いいたします。
  • 岩槻座長 それこそ亀の甲より何とやらで座長を引き受けることにさせていただきます。
    今のお二人のご挨拶にもありましたように、この前、検討会を開かせていただいてから、ほぼ10年。10年の間に3つ候補地を挙げたうちの2つは無事に登録が終わり、最後の1つも進んでいると伺っているんですけれども、各地域の関係者の方、環境省、林野庁の関係者の方々のご努力に敬意を表して、それを前提に今回の懇談会で議論をしていただくことになるかと思います。
    今年はたまたま世界遺産の条約が採択されて40年ということですし、日本が批准して20年、ユネスコのそれの一連の行事も進んでいるところで、世界遺産そのものも曲がり角と言うのかどうか知りませんけれども、1つのチェックポイントに来ているかと思いますので、そういうことも背景に踏まえながら、日本でどう対応していくかについていろいろなご意見が伺えればと思っております。上手い具合に司会ができるかどうか知りませんけれども、どうぞ宜しくご協力のほどお願いいたします。
    それでは、第1回目の懇談会で、議事次第に従って議事を進めさせていただきます。
  • 環境省(芹澤) カメラ撮影の方はご退席をお願いいたします。
  • 岩槻座長 撮影されたら具合の悪いことがあるんですか。(笑)そういうことになっているみたいなので、それで進めさせていただきます。
    まず、資料の確認をお願いいたします。
  • 環境省(芹澤) それでは、まずお配りした資料の確認をさせていただきます。お手元の資料、初めに議事次第、その次に資料一覧、座席表、委員名簿、出席者名簿と続いております。その後、ホチキス1点どめになっております資料1、資料2、資料3、資料4、資料5、資料6-1、その次に資料6-2がA4、1枚ぺらです。資料6-3がA3、1枚になっております。そのあと参考資料1、こちらは1枚ぺらになっています。ホチキス1点どめで参考資料2、これで全部になっております。
    足りない資料等ございましたら、恐れ入りますが、お伝えいただきますようお願いいたします。資料のほうはよろしいでしょうか。
    それでは、説明に移らせていただきます。
  • 岩槻座長 それでは、議事次第に従って、まず懇談会の趣旨についてという説明から、事務局からお願いいたします。
  • 環境省(宮澤) それでは、後ろから失礼します。資料1をご覧いただきまして、懇談会の趣旨についてご説明させていただきます。 まず、今回、初回の懇談会ということで、懇談会の趣旨について改めてご説明をさせていただきます。資料1の「1.背景」の丸の1つ目のところは、先ほどからお話しいただいております通り、平成15年に世界自然遺産候補地に関する検討会を開催しまして、3地域候補地を選定いたしました。このうち知床、小笠原諸島については平成17年、23年にそれぞれ登録されまして、現在、奄美・琉球諸島について推薦に向けた作業を進めている状況でございます。
    平成15年の検討会では、候補地に関する自然環境等の情報を集めた上で、世界遺産としての価値を有する可能性がある地域を選定いたしましたが、その時点では、まだ自然環境の情報の不足が見られるということで、先に述べました3地域を選出するのと同時に、将来新たな知見や情報が得られて登録基準や完全性の条件への適合可能性が出てきた場合には、候補地としての検討を改めて行うべきであるといった結論をいただいておりました。また、平成15年の検討会から来年で10年が経過するという背景がございます。
    2.に移りまして、こうした状況を受けて懇談会の開催の趣旨といたしまして、3点ほど整理をいたしました。まず1つ目のところ、世界自然遺産地域については、日本の生物多様性保全において一定の役割を果たしてきたと考えられますが、既に登録された世界自然遺産4地域における保全管理上の成果を改めて検証したい。あわせて出てきている課題についても整理をしまして、今後の世界自然遺産地域に求められる保全管理のあり方は一体どういうものなのか検討をお願いしたいと考えております。
    2つ目の丸は、最近、綾の照葉樹林が登録されましたユネスコエコパークとかジオパークについて、近年、登録の動きが進んでおります。生物多様性保全の観点から見まして、世界自然遺産とこれらの他の国際的な地域制度との目的とか保全対象の考え方の違いを整理したいと考えております。
    3つ目の丸で、これらを踏まえまして、新たに世界自然遺産登録を目指す地域を検討する場合の考え方、具体的に言いますと、検討の方法として母集団をどう考えるかとか、母集団から候補地を絞り込む際の方法、それに加えて留意すべき点などを整理していただきたいと考えております。
    1枚めくっていただきまして、検討の内容ですが、今回、第1回目でございますけれども、検討会は、今後こちらに書いております議題に応じて、主に5回程度考えております。議題としましては、第1回目、第2回目で世界自然遺産地域4地域の保全に関するレビューで、今回、知床と小笠原諸島について現地からお越しいただいております。第2回目に白神山地、屋久島についてお話をいただきまして、第3回目に、これらを踏まえて保全管理についてご検討をいただければと考えております。第4回目については、国際的な世界自然遺産登録に係る動向とか国際的な地域制度との違いの整理、これらを踏まえまして第5回目に、新たな世界自然遺産候補地を検討する場合の考え方についてご議論をいただくといった内容を現在のところでは想定しております。
    また、その1枚後に資料1参考としてつけております。こちらはその他の国際的な地域制度で、ご参考までにつけておりますので、ご覧いただければと思います。
  • 岩槻座長 ただ今のご説明に何か質問、コメント等ございますでしょうか。
  • 大河内委員 背景の中にある「将来新たな知見や情報が得られ・・・検討を改めて行うべき」ということで、これはここを世界自然遺産にしてほしいというキャンディデートが何か出てきたということなのでしょうか。それとも、ごく一般的にこれをやっているということなんでしょうか。
  • 環境省(宮澤) 私からお答えさせていただきます。現時点で候補地として、まさにここであるという具体的な場所としては、我々としては今のところ出てきておりません。ただ、なぜこのタイミングで開催するかといいますと、前回、平成15年の世界自然遺産候補地に関する検討会の際に途中で候補に挙がった地域の中で、世界遺産を目指して自治体とか地域の研究者の方がかなり研究を進められている地域が幾つかございまして、そういったところから新たに得られた知見ということで情報の提供をいただいたり蓄積がされていて、国際的にも発表されているという状況がございます。そういった状況を踏まえまして、新しい情報が今のところ出てきている。であるので、今の時点で改めて見直す時期に来ているのではないかと考えております。
  • 岩槻座長 それでは、こういう趣旨に基づいて議論を進めていただくということで、2つ目の議事に進ませていただきます。
    2つ目は、平成15年の「世界自然遺産候補地に関する検討会」概要及び世界自然遺産登録の経緯について、これも事務局からお願いします。
  • 環境省(宮澤) それでは、資料2に従いましてご説明をさせていただきます。
    まず、平成15年の世界自然遺産候補地に関する検討会の概要について、ご説明をさせていただきます。
    こちらの検討会は、平成15年3月から5月まで4回にわたりまして、環境省と林野庁の共催で開催をさせていただきました。この検討会の中で候補地を絞り込んでいったわけですけれども、2つ目の丸[1]自然環境保全地域や国立公園、森林生態系保護地域など我が国において自然環境の観点から価値の高い地域をできる限り広い検討対象といたしまして、これを母集団としまして、[2]そこからさらに世界遺産条約上の登録の基準がございますので、こちらへの適合性を詳細に検討する。そのために、面積とか人為的改変がどのように進んでいるかという要件を整理しまして、これに従って19の詳細検討対象地域を選定いたしました。抽出をしました詳細検討対象地域は、資料2参考で2枚後ろにつけております。こういった19の詳細検討対象地域について学術的・専門的な観点から詳細に検討いただきまして、最終的に候補地を選定したということになります。
    丸の3つ目、詳細検討対象地域の中から、先ほどからお話ししたとおりの3地域を選定いたしました。これらが世界遺産の基準を満たす可能性が高いという結論を得られました。一方で、その他の大雪山、日高山脈、飯豊・朝日連峰、九州中央山地周辺の照葉樹林の4地域も世界自然遺産の登録基準に合致する可能性があるというご意見も出ておりましたが、最終的に検討会の結論としては集約できず、さらなる情報の収集があった時点で再度検討するという位置付けで終わっております。
    2.では、平成15年世界自然遺産候補地の選定手順について、具体的な絞り込みをどういった観点から行ったかということを、まとめています。こういった詳細な検討手順につきましては、この懇談会で最終的に、今回、遺産候補地を絞り込む考え方ということでご意見をいただくことになっておりますので、参考の情報としてつけております。
    平成15年の際の選定手順を簡単に説明しますと、まず[1]第1回の検討会で母集団について整理いたしました。先ほどお話ししましたとおり、我が国の中で重要な自然環境の地域として保護地域等を広く母集団としております。第2回の検討会で、母集団から、詳細に検討する地域を絞り込むための要件を整理いたしました。その結果、一定の面積を持つ地域とか生物地理学上重要な島嶼地域とか幾つかの要件をご意見をいただいて整理しております。これらの要件に従って膨大な母集団の中から抽出をした結果、最終的には19の詳細検討対象地域が選定されました。第3回、第4回の会議では、この19の詳細検討対象地域について、より詳しい情報を収集いたしまして、これをもとにご議論をいただきまして、最終的に先ほどお話しした3地域を世界遺産としての可能性が高いという結論を得たという経緯になっております。
    3.平成15年の候補地検討会が終了した後の世界自然遺産登録の経緯について簡単にご報告させていただきますと、これも先ほどからご報告しているとおりですけれども、知床と小笠原諸島につきましては、こちらの表に掲載しておりますとおり、平成17年、平成23年にそれぞれ世界遺産として登録されております。
    それから、日本では世界自然遺産の管理に当たりまして世界自然遺産地域連絡会議と世界自然遺産地域科学委員会という組織を遺産地域ごとに設置しております。今回ゲストスピーカーとしてお越しいただいている方にも、こういった枠組みに参画いただいております。この保全管理の枠組みは知床の世界自然遺産においてつくり上げられまして、現在では国内の屋久島、白神山地を含む世界自然遺産4地域すべてで適用しております。
    1枚めくっていただきまして資料2参考です。こちらは、平成15年に選定しました19の詳細検討対象地域について、その後、国際的な枠組みで何らかの保護地域とかに登録されたものを挙げております。世界自然遺産、ユネスコエコパーク、世界ジオパーク、また、ご参考として日本ジオパークの枠組みに認定されたものをこの表に整理しております。
    資料2の説明は以上です。
  • 岩槻座長 どうもありがとうございます。私は、20年前とおっしゃった屋久島、白神が推薦され、登録された経緯は余りよく知らないんですけれども、この前の15年の検討会では、今の2つが、どちらかというと象徴的な場所を選んで登録されたのに対して、日本列島の中でどこが望ましい場所であるかを丁寧にスクリーニングしましょうということで、このときには膨大な資料をつくっていただいて、その資料の中から順番に絞り込んできて今の19が選ばれ、その19の中から、まず考えられるべき地域として3つの地域が選ばれたという経過だったと記憶します。もちろんこれは登録要件にいかに合うかということも検討の課題に入っていましたので、それがすんなりかどうか知りませんけれども、順調に登録されたというのは、ある意味では当然のことかもしれません。しかし、その登録の過程で、今日もご説明いただく科学委員会の評価といいますか、検討が進められているというやり方は、ユネスコの中でも高く評価されていると聞いていますので、具体的にそれがどういうことかということを、今日はお話を伺いながら、これから先を考えていく上の材にしていただけるということかと思います。
    お2人ともこの前はメンバーじゃなかったですね。今の事務局からのご説明に何かご意見、ご発言がありましたらどうぞ。
  • 大河内委員 小笠原が世界遺産に登録されるに当たっては、前回の平成15年のものを何回も何回も勉強させていただきました。岩槻先生のいろんな発言等も勉強させていただいて、今日があったということになっております。ですから、内容はよく存じ上げておりますけれども、今回がそれを受けてのことということで理解いたしました。
  • 中静委員 質問みたいなことですけど、基準にクリアしそうなものが19あったということで、最近また世界遺産に関する指定では少し傾向が変わってきたということも聞いています。これはこれからの議論ということでいいかとは思いますけど、もし何かかなりはっきり変わった点があればお聞きしておきたいと思います。
  • 環境省(宮澤) 今ご指摘いただいた点は、まさに第4回の会合で整理をしたいと考えております。それまでにきちんと整理をしましてご説明をさせていただきます。宜しくお願いします。
  • 岩槻座長 それでは、議題の2はそういうことで、さらにその先のほうで議論が発展するということを含めて、議事の3に進ませていただきます。
    知床、小笠原という最近登録された2つの地域の保全管理の状況及び課題について、これはまず知床世界自然遺産について、世界自然遺産地域科学委員会委員長の大泰司先生からご説明をお願いしたいと思います。
  • 大泰司科学委員会委員長 それでは、早速始めさせていただきます。正確できちんとしたお話は、次の高橋課長さんからございますので、私のほうは大ざっぱに雑談も加えて説明させていただければと思っております。
    これは、おわかりのとおり、この光り輝いているところがホットスポットです。流氷南限海域で非常に生産性の高いところで、ここはオホーツク文化期から着目されていました。千島アイヌの場合ですと、島がたくさんあるから、(島の名前を)いちいち覚えるのが大変だから、順番をつけて呼んだんじゃないかと思うんですけれども、カムチャツカ半島のすぐそばの占守(シュムシュ)、幌筵(パラムシル)を1番、2番として、択捉は19番、20番が色丹、21番が国後、22番が松前となっています。
    この海域は、アイヌ民族もオホーツク文化の場合も、いろんな自然資源を利用していたんですけれども、交易に役立って非常に価値のあるものにオジロワシとオオワシの尾羽とラッコの皮がありました。それがあるということで、千島列島には千島アイヌが住み着いて、豊かといえば豊かな生活をしていた面があります。
    これ(図は未掲載)は、皆さんご存じの蠣崎波響の「夷酋列像」のイニンカリ図です。着ているのはいわゆる蝦夷錦ですけれども、イニンカリも交易によってこういう衣装を得て、それをまた日本国内の交易に使いました。この図には白い子グマが描かれているのが特徴です。この間、西興部村に出てニュースになりましたけれども、アルビノではありません。ホッキョクグマとも言われていましたけれども、白いヒグマは国後と択捉に、世界でここだけにいる白変種です。これは国後の白いヒグマですけれども、もっと真っ白なのから、このように部分的にしか白くないのまでいます。今朝、衛星携帯で電話をしたら、昨日、(目下調査中の)択捉で白いヒグマを見たという情報が入りました。イニンカリは厚岸の酋長ですけれども、国後でラッコを買い付けて(交易を行うなど)勢いを持っていた象徴に、こういうクマが一緒に描かれたのかと思ったりしています。
    氷縁生態系が豊かだということについては、もう皆さんよくご存じのとおりで、寒極核から北西の風がオホーツク海北西岸に吹きつける。ここをオホーツクの海洋物理化学の人たちは、「海氷の生産工場」と名付けたわけです。
    海氷は生産工場から東カラフト海流と北風によって、ここ(知床・北方四島)に溜まるわけです。そこに非常に生産性が高い地域ができる。その詳しいことは省きますけれども、最近さらに海洋物理化学の調査が詳しく行われ、ここの地域が特別生産性が高い理由がわかってきたということです。
    これは知床・北方四島の海域の食物連鎖の大ざっぱな図ですけれども、問題となるのは、漁業を行うところは第3次消費者から上は漁師さん(漁業者)になってしまうわけです。また、保護区域であっても生態系を維持する場合でも、(漁業と両立させるためには)第3次、第4次消費者の部分は少し削らなければならないということになって、アザラシが増えたら間引かざるを得ないということになってくる。ですけれども、北方四島、特に歯舞、色丹のあたりは漁業を行っていませんから非常にシャチが多いのが特徴です。知床にシャチがたくさん出てくるのは、そういう漁業を行っていない保護区が(近くに)あるからと考えることができます。
    ここが(根室半島と歯舞群島の間を流れる)珸瑤瑁(ゴヨウマイ)水道ですけれども、ここを過ぎると(動物の様子が)がらりと変わりまして、人を恐れないアザラシとかラッコが近寄ってくるという特徴があります。先ほどの食物連鎖の図は、このあたりで示されるということになります。
    保護区がこういうふうに設定されて維持されているということもここ(北方四島)の特徴で、ここ(択捉島北端)に茂世路(モヨロ)湾があります。今、白いヒグマの調査グループはここにいますけれども、このあたり(の海域一帯)はラッコの保護のための保護区になっています。ラッコは、環境収容力いっぱいに増えていまして、千島列島とカムチャツカまで合わせて2万7000頭と数えられています。ほぼ前の状態に資源が回復したと考えられます。
    これはクジラの調査を主に行ったときの航行図ですけれども、世界中のクジラの調査をしたボースンが、このようにクジラの種数も密度も高いところはほかになかったと言っています。
    海獣類は、日本には種数も個体数も多いのが特徴で、南のほうにはジュゴンがいます。三陸沖から房総沖まで、冬にはオットセイがすごい数でいます。その北にトド、ラッコとゼニガタアザラシは、もとは襟裳岬ぐらいまで両方ともいたと考えられています。そのほかゴマフアザラシ、クラカケアザラシ、アゴヒゲアザラシ、ワモンアザラシですけれども、今問題になっているのは、これら海獣類の増加です。旧ソ連は、1955年から65年にかけて、毎年10万頭の海獣猟業を行っていました。それを95年にやめてからどんどん増え出して、以前は100万頭と言っていたんですけど、今、(オホーツクの)鰭脚類は150万頭とか180万頭とか推定されています。クジラは10万頭以上はいるだろうし、合わせて年間500万tの魚を食べている、オホーツク海の漁獲の3倍ぐらいは食べているという推定があります。これをどうするか、というのが切実な課題になっているといえばなっているということが言えます。
    トドについては北水研(北海道区水産研究所)が積極的に調査を進めていまして、トドの繁殖島はここ(千島)にあったんですけれども、今はチュレニー島のコロニーが大きくなっています。海氷に、いわゆる流氷が少なくなって、こちら(サハリン)側で増える個体数が多くなってきました。
    これはライコケ島ですけれども、5月の末にオスがまず縄張りをつくるために来ます。その折、ここに観察台をつくって、水も食料も2カ月分運んで、学生を2人ぐらいずつ配置していくわけです。そして観察を続けて、7月になって子が生まれると、これは発信器をつけているところですけれども、こういうふうに横腹に(大きくなっても残る)焼印を押します。それを80年代から、もう7000頭ぐらい続けていまして、これを見ることによって、どこ生まれのトドをどこで見かけたということで、トドの動きが非常に詳しくわかるようになってきました。今は北水研もロシアと共同でやっていて、特にチュレニー島ではたくさん焼印を押して、それが北海道で見られています。
    話を知床半島に戻しますと、知床は日本の中でこういう場所にあるわけで、そして、知床の場合は、こちらの左側のイカとかマグロとかイワシなど暖流の魚と(中央・右側の)寒流系のサケとかスケトウとかマダラとか両方います。今は暖かくなって暖流系の魚が増えているから、その対応を考えようとしています。それを食べるイルカや、陸に入ったものはヒグマも食べますし、オジロワシ、オオワシも食べるわけですけれども、漁業者も捕る。そして多様性を維持しながら漁業を続けるほうが漁獲も維持できるという発想があります。これが知床方式と呼ばれるようになりました。
    もう1つの特徴は、カラフトマスですと1年間で1~2㎏になって戻るし、シロザケですと1gぐらいの稚魚が3年とか5年かけて3㎏とか5㎏と3000倍とか5000倍になって知床の陸域に戻ってくるという特徴があるわけですね。これを大事にしようというわけです。
    知床の漁業については知床方式で(漁場を管理・)維持するということで、もともとある漁業者たちによる自主的な管理を行政と科学委員会と一緒になってサポートしようとしています。それを論文にして座長の桜井さんとか松田さんや牧野さんが国際的に発信して、日本はこういうことができるのかということで評価されているというのがあります。特に牧野さんはシュプリンガーからこの間、本を出しまして、日本の漁業のやり方について広く認められるということは成果だったと考えられます。
    あとは、世界遺産のクライテリアについて、知床の場合は「生態系」と「生物多様性」の2つが評価されて、それを維持しようということです。世界遺産になった効果は、国際レベルで理想的な管理を追求することができるということと、特に環境省と林野庁と北海道の縦割りを越えた協力が推進されたということが特徴です。
    ここでちょっと余計なことをつけ加えるならば、そもそも1999年頃、ドイツのグループと国後の保護区の人たちが国後を世界遺産にしようとして、サハリン州議会ではOKでしたがモスクワでだめになったという経過があります。それで、2001年頃、ロシアと日本で、北方四島とウルップのロシアの保護区を世界遺産にしようというシンポジウムをやって、(それを日露の参加者で)決議しようとしたんですけれども、日本としてはそれには乗れないということがありました。そして、斜里町を中心に強力に世界遺産の希望を出して世界遺産になったわけですけれども、そのとき(の評価書)には、隣接する地域も含めて世界遺産にすることが望ましいという意見がついています。要するに同一の生態系になるのだから、北方四島も含めて世界遺産地域にしろということです。それは今、棚上げになったままです。
    知床の場合特徴的なことは、科学委員会を登録される前からつくって、必ずしもスムーズでなかったんですけれども、IUCNの質問に対する政府回答に科学委員会も参加した。それと、最も勢力があるのは海域関係者ですけれども、前から桜井さんたちは知床の漁業者の相談にいろいろ乗っていたこともあって、登録のときに説得するのに非常に大きな力があった。これらについては、岩槻先生も参加された知床の5周年のシンポジウムの記録に残っていますので、参考にしていただければと思います。
    この後は高橋さんが詳しく説明されますけれども、とにかくこういう経過でいろいろと出た宿題を次々とこなしていったということが言えると思います。
    管理体制はこういうふうになっていて、2つの省庁と道が協力して進めて、どこにも科学委員会が入っています。
    (ワーキンググループ)それぞれの活動ですけれども、海域については、先ほど言った知床方式を世界にアピールしてくれというわけですね。生産性の高い生物多様性の高い海域は漁業も盛んに行われているんだから、そういうところを世界遺産にするためには、両立する必要があるから、漁業をちゃんとコントロールする必要がある。河川の工作物については、私どもも内心できるとは思っていなかったんですけれども、林野庁さんも非常に積極的に魚が遡上する状況をつくって、知床では前のように河口部でクマが余り見られなくなった。というのは、上流までサケが上がっていくから、クマは河口におりてこなくても上流で捕れるということです。シカの場合も密度を低くすることにほぼ成功して、もとの植生が戻りつつあります。
    これら(知床の成果)の特徴は、河川のやり方は本州方面にも使われていますし、新たにヒグマの管理方法は松田さんが座長になってつくりましたけれども、それも北海道にはまだできていないのを先につくって、理想的なものを先につくることができる。シカについても、個体数の調整の仕方のいろんなテストをやって、それを道内、あるいは全国に普及することができる。適正利用・エコツーリズムについても、今、敷田さんが理想的な方法を追求して、これも先進的な方法として役立つのではないかと期待しております。
    これは最後ですけれども、結局、知床の場合が参考になるとしたら、海域、あるいは海域と陸域の地域だと思うんですけれども、まず日本では知床、この流氷南限海域がある。次にあるのは親潮・亜寒帯系の海域、次に本州東方の混合水域、ここは黒潮と千島海流、それに親潮が混じって非常に生産性の高い三陸沖です。これ(この新「三陸復興国立公園」の地域)は、陸域も魚が遡上することが今より期待することができるとか、知床の例が参考になる地域じゃないかと思われます。あとは黒潮・亜熱帯、小笠原も奄美・琉球もそれに入ると思うし、生産性が高いのは五島、対馬、壱岐とかあるわけですけれども、こちらについても知床の経験が参考になることが考えられます。
    以上です。
  • 岩槻座長 どうもありがとうございました。今の説明に対して何かご質問かコメントかありますでしょうか。
  • 中静委員 知床の科学委員会に関しては本当に評価が高くて、私たちもいつも勉強させていただいているところですけど、例えばこういうワーキンググループの成果は、クマが上流でサケを捕れるようになったとか、植生もシカの制御が上手くいったとかということをご紹介いただいたんですけど、そのほか何かもしご紹介いただけるようなことがあれば。
  • 大泰司科学委員会委員長 特徴的なのはシカと河川工作物のワーキンググループと、ヒグマもこの間すばらしい案をつくったんですけれども、知床の場合は知床データセンターがありまして、そのサイトを見ていただければ、かなり詳しくそれぞれ書いていますので、それを参考にしていただければと思います。
  • 大河内委員 いつも先行的にいろんなことをやられていて、私たちも参考にさせていただいているのですが、ワーキンググループはどちらかというと永続的に活動しているものなんでしょうか。それとも時限を区切って活動しているのでしょうか。
  • 大泰司科学委員会委員長 一応時限を区切って、いつまでも続けるというつもりでは、どのワーキンググループもできていないんですけれども、ただ、ユネスコからの継続的な宿題が出される海域とかは、まだまだ続くつもりでやっていると思います。だけど、クマの場合は3年の予定が2年間でクマの管理計画をつくるとか、河川工作物ももう目処ができた段階でワーキンググループからアドバイザーパネルで後のモニタリングをするというふうに、状況に応じてなくしたりということはやっています。
  • 岩槻座長 得られた情報の発信は論文とか今のサーバーとかが主ですか。
  • 大泰司科学委員会委員長 論文の生産性も非常に高くて、例えばシカですと、知床も含めて梶さんがポピュレーションダイナミクスに北海道のシカと知床もあわせて書いていますし、大体英文で発表している。それが非常に量が多いというのも特徴ではないかと思います。
  • 岩槻座長 どうもありがとうございました。高橋課長のお話の後で、また質問が出るかもしれませんけれども、引き続き高橋課長から地域連絡会のご紹介をお願いいたします。
  • 高橋課長(北海道) それでは、私のほうから知床世界遺産地域の関係についてご説明させていただきます。
    最初にこの知床の状況ですが、先ほど大泰司先生から説明がありましたけれども、もう1度スライドで説明いたしますと、2005年(平成17年)7月に登録されまして、所在地は斜里町と羅臼町であります。面積は約7万1100ha、陸域が4万8700ha、海域が2万2400haとなっております。管理体制としては、環境省、林野庁、北海道となっております。この地域はオホーツク海に突き出た形になっておりますので、気候的には海洋の影響を強く受けております。また、冬はオホーツク海で形成される流氷群が接岸いたします。この流氷がもたらす生き物の営みが知床の特徴であるクライテリアの生態系、生物多様性に該当すると評価され、遺産登録になったものでございます。
    知床の世界自然遺産地域管理計画は、目的といたしましては、自然遺産としての価値の継承、多様かつ特異な価値の遺産地域の適正な保全と管理となっております。これに基づきまして遺産地域の管理が進められております。
    これは先ほども大泰司先生から説明がありました管理体制の状況でございます。管理は、環境省さんは釧路自然環境事務所、林野庁さんが北海道森林管理局、そして北海道となっております。この中には知床世界自然遺産地域科学委員会と遺産地域連絡会議がございます。この中で各ワーキングがありまして、エコツーリズムが科学委員会と地域連絡会議であったものを合体いたしまして、現在、知床世界自然遺産地域適正利用・エコツーリズム検討会議が組織されております。
    世界遺産委員会からの主な勧告といたしまして4つほど掲げております。1つとしては海域管理計画の策定、2つ目として河川工作物の改良、3つ目としてエゾシカ保護管理計画の策定、4つ目としてエコツーリズムに関する戦略策定となっております。
    最初の海域管理計画ですけれども、これは遺産地域内の海域部分の保護レベルの強化を目的に海域の管理計画を策定する旨の勧告でございました。これに対しては平成19年12月に知床世界自然遺産地域多利用型統合的海域管理計画を策定しております。この計画は知床遺産地域の保護管理の基本的な考え方や保護管理措置を記載しております。知床は古くから漁業が基幹産業として発展してきた地域でありまして、漁業との両立が遺産登録後においても重要なポイントの1つでございました。現在、主要な水産資源については、漁業関係法令や漁業者、漁業団体の自主的な取組により資源の状況と漁獲のバランスを保ち、持続的な利用が可能となるよう多大な努力が払われてきております。しかし、根室海峡の主要な産物でありますスケトウダラの漁獲量については、1989年(昭和64年)がマダラ、スケトウダラなどの漁獲量が最盛期のときでありましたけれども、それが現在1割以下、約1万tの低水準となっております。平成22年度の漁獲量は過去最低を記録するなど資源量の減少が懸念されております。また、一方でロシアのトロール船がスケトウダラと同一系群を漁獲しておりまして、漁獲資源及び海域生態系への影響が懸念されております。この海域管理計画は海域ワーキンググループの科学的立場からの助言をいただきながら、漁業協同組合、関係行政機関の意見を聞きながら策定しモニタリングも行っております。事務局は環境省と北海道となっております。
    これは第Ⅰ期海域管理計画の内容ですけれども、遺産地域内海域の海洋生態系の保全と持続的な水産資源利用による安定的な漁業の営みの両立を目指しております。基本的な方針といたしましては、自主的管理、自主ルールが基調、それと海洋生態系の保全の措置、モニタリング手法等となっております。
    モニタリングにつきましては、1から6の6つの構成要素に基づきまして、11の項目について実施しております。現在、この海域管理計画を見直しの作業中です。25年3月までをめどに次の計画を策定することで、いま検討しております。次の計画といたしましては、現計画を評価し、この評価に基づきまして現計画の目的を堅持しつつ強化する視点といたしましては、地球温暖化を含む気候変動、生態系と生物多様性、社会経済性を強化し、次期の計画に反映していくこととしております。
    次は河川工作物の改良でございます。遺産地域内5河川13基のダムの改良が科学委員会から改良すべきということで意見をいただいております。この内訳としては、国有林が5基、北海道が7基、斜里町が1基であります。これは24年度中にすべて改良予定であります。これの改良をしていく中で、サケ科魚類の遡上効果は確認されております。
    これが、一部ルシャ川での改良したダムでございます。これがフラットになっておりまして、なかなか遡上ができないということがありまして、改修後は切れ目を入れたところです。
    これが拡大したところですが、こういうところに切れ目を入れることによって、ここを利用してサケ科魚類が遡上できることになっております。
    次はエゾシカの保護管理でございます。知床半島には推定生息数として約1万頭以上のエゾシカがいると言われておりまして、特に幌別と岩尾別地区では約5000頭ほどの最大の越冬地があると言われております。これだけ増えてきたことによりまして、高密度になりまして採食圧で越冬地の樹木の樹皮食いがイチイ、オヒョウなど、幼樹採食によって更新不良、林床植物の現存量低下、海岸性の植生群落のイネ科植物と希少植物のシレトコスミレの減少など生物多様性に対してもかなりの影響があるとなっております。
    第Ⅰ期計画の取組と課題といたしまして、知床岬での個体数調整を実施いたしました。その結果、クマイザサやイネ科草本類の若干の回復が見られております。また、ルサ相泊地区では囲いワナやシャープシューティングによる実験的な個体数調整で約500頭ほど捕獲いたしました。その結果、餌付けによる適切な個体誘導、ワナで捕る場合、ワナにまで導く誘導の開発が課題となっております。また、知床半島ではエゾシカの個体数は増加しておりまして、これまで生態系への影響が小さかった高山帯等への影響が拡大することが懸念されております。高山植物への食圧ということになります。あと、個体数調整でシカを捕るということで、道路を閉鎖して餌を道路の脇に置いて集まってくるシカを撃つシャープシューティング、あるいは銃声でシカが逃げるのでサイレンサーのようなものをつける銃器への消音器使用、あと夜間の銃器使用など、この3点がかなり効果的だと言われているんですけれども、これは現行制度のもとでは銃刀法による関係で禁止措置になっており、現行ではなかなか難しいと言われております。
    次は4番目のエコツーリズムの関係です。遺産地域に関する統合的なエコツーリズム戦略を早急に策定すること、また、エコツーリズムに取り組んでいる各種組織を包括的な1つのワーキンググループのもとに統合することが求められました。これに対し、平成22年に科学委員会の適正利用・エコツーリズムワーキンググループと地域連絡会議の適正利用・エコツーリズム部会が統合して、先ほど説明いたしましたエコツーリズム検討会議が設置されました。このエコツーリズム戦略ですけれども、本年度中に策定を予定しておりまして、パブリックコメントも終了しております。新たなエコツーリズムの提案を募集しておりまして、地域連絡会議の中で新たなエコツーリズムが承認を受けた場合には試行としてやってみることになっております。
    こうした対応につきまして世界委員会に報告し、今年6月に開催されました第36回世界遺産委員会においては高い評価を受けたところですけれども、サケ科魚類の移動、産卵状況のモニタリングの継続、河川工作物のさらなる改良の検討などについては、また要請を受けているところでございます。これらの事柄につきましても、科学委員会の皆様からのご助言を受けながら対応してまいりたいと考えております。
    次は、その他の課題と取組で、ヒグマ関係でございます。
    知床半島のヒグマの個体群は世界有数の高密度で維持されております。また、年間約170万人の観光客や登山等を目的とする来訪者がありまして、小型観光船からのヒグマ観光が旅行商品になるなど、ヒグマは重要な観光資源の1つともなっております。その一方で、遺産地域に隣接する住宅地とヒグマの行動範囲が重なっていることもありまして、人の存在を恐れず避けないヒグマが増加して、利用者とヒグマとの遭遇や住民の生活圏への出没など日常的に発生しております。ヒグマ問題は一部の問題グマに起因することが多く、この原因として、餌付けや誘引物等の放置、不用意な接近など人間側の行動も一因となっております。ヒグマ対策として現地調査、追い払い、駆除、パトロール、誘引物除去等の対策を講じておりまして、このようなことが地元でもかなり負担となっております。
    これは今年の8月17日に出ました、ヒグマが観光客の投棄したと思われるゴミについていたという新聞記事でございます。このように1度人間の出すゴミの味を覚えますと、執拗に執着いたしまして、ひいては人間との摩擦、人間を襲うような事故にもつながるということで、このように地元でも非常に問題になっております。このような人間のゴミなどに味をしめて人間につきまとうようになるクマを問題グマと呼んでおります。
    観光利用とヒグマということですけれども、知床半島の先端部は道路もないような場所が多いので、そういう場所に入るには自己の責任での立ち入りを周知しております。また、知床の主要な利用地域である知床五湖は自然公園法の利用調整地区にも指定されておりまして、地上遊歩道の立入認定手数料、ヒグマ活動期はガイドの引率、人を恐れないヒグマが出た場合には歩道を閉鎖する措置を講じておりますけれども、最近、ヒグマが出没いたしまして歩道を閉鎖する頻度は非常に増加しております。
    これがヒグマの心配なく知床の第1湖まで行ける高架木道でございます。これは高さが高いところで約5mありまして、両側にはクマを寄せつけないような電気ショックを与えるものをしております。22年度の利用者数が約25万2000人となっております。これは料金が無料で行けるようになっております。大体800mほどの延長でございます。
    これは知床を訪れる方への自然の紹介、または環境保全への意識の向上を図るということでの知床自然遺産センターの外見と展示してあるものの写真でございます。
    これが知床における観光入込数の推移でございます。知床を構成する斜里町、羅臼町における観光客の合計は、平成17年度の遺産登録時がピークでございまして、約245万人訪れております。だんだん減少してきておりまして、この原因としては、ブームが去ったことと長引く景気の低迷などが考えられております。その一方で海外からの観光客の増加もあります。また、体験型観光への転換などの変化も見られてきております。特に知床の自然を単に見るだけでなく体験するという観光、大人数ではなく少人数、個人でゆっくり体験する観光に徐々に転換しようとしております。こうした変化に対し提供する観光プログラムの多様化、地域の受け入れの考え方、体制など、地域も対応を進めることが求められております。先ほどありましたが、昭和46年は「知床旅情」がヒットいたしましたときですけれども、このときが約121万人で、第1次のブームのときでした。それから知床横断道路ができて若干また増えたりもしましたが、減少の傾向がかなり続いていくのではないかということで、地元では非常に危機感が募っております。
    これは山岳を利用する方への環境保全ということで、山岳し尿問題としての携帯トイレの使用を普及啓発しております。また、これは携帯トイレを回収するためのボックスとか登山口にあるトイレで、こういうことで山岳環境の保全に努めております。山岳で年間1万人ほどの登山者がありますので、こうした保全にも取り組んでおります。
    まとめといたしましては、海域については海域管理計画を策定するなどの取組をしております。河川工作物、ダムの改良によってサケ科魚類の産卵床の増加が確認されております。野生動物や漁業を対象としたエコツーリズムの推進、知床半島先端部や五湖での利用ルールづくり、漂着ゴミなど環境保全への取組、環境保全意識の向上ということがあります。一方で、エゾシカやヒグマ対策が大きな課題となっており、また、観光客が減少しているということもあります。
    以上、知床の状況について説明させていただきました。
  • 岩槻座長 どうもありがとうございました。それでは、何かご質問かコメントかございますか。
  • 大河内委員 質問です。ありがとうございました。観光客のマナーの問題が取り上げられていましたけれども、それと外国からのお客さんが増えるということ、特に世界遺産になれば世界中から来るのは避けられないと思うんですけど、その辺でマナー向上が難しいとか問題があるとかというようなことはありますでしょうか。
  • 高橋課長(北海道) 自然のところに入っていくので、やはり自然にダメージを与えないということで、利用者が一番多い知床五湖のところで、先ほどの高架木道はそのまま入れるのですけれども、地上歩道を歩く場合はレクチャーを受けて入っていくということがありまして、その辺は入っていく方のマナーはかなり守られているところはあります。それと、オーバーユースにどうしてもなって人が多くなってくるという面では影響があるかと思います。
  • 大河内委員 例えばレクチャーをする際に中国語とか韓国語とか英語とか、そういう言葉しかしゃべれない人だけが来るということはなくて、ちゃんと通訳がついて来るという感じなのでしょうか。
  • 高橋課長(北海道) その辺の具体的なところはわかりません。
  • 中静委員 エコツーリズム検討会議が科学委員会と地域連絡会議の合同でできたということですけど、そのときの検討事項は主にその推進ということなのでしょうか。あるいは例えば今お話になっていたオーバーユースの問題も含めてということなのでしょうか。
  • 高橋課長(北海道) エコツーリズムのほうは、最初は科学委員会と地元の委員会とかたくさんあったので、それを統一してつくるということがありまして、エコツーリズムの中では、当然オーバーユースにはどう対応していくかということもあります。それと希少種をどのように守っていくのかなど。
  • 中静委員 推進という形でお話しされていると伺ったんですけど、推進という点では、科学委員会のほうも何かやっているんですか。
  • 大泰司科学委員会委員長 基本的にIUCNからもエコツーリズムを推進しろということで、盛んにして地域に利益をもたらすようにしろということでいろんな調整をして、野生動物に害を及ぼさないように、だけど面白い観察ができるように工夫をしています。
  • 岩槻座長 今のエコツーリズムに関しては科学委員会と地域連絡会議が合同で会合を持たれているようですけれども、知床では両者のコラボが上手い具合にいっていると伺っているんですけれども、管理のスキームから見ると一緒に何かをやっているということはない。情報の交流は双方の信頼感に基づいて上手い具合にいっているということなんでしょうか。
  • 大泰司科学委員会委員長 これも恐らく座長の人柄じゃないかと思います。最初はいろいろあったけど、話し合っていくうちにガイド側も科学委員会の側もすっかり信頼関係ができて、鳥の集団に近づき過ぎないということを守るようになると同時に、水中カメラで撮った鳥を観光客に見せるようなことを工夫したら、エコツーリズムのガイドのほうはそれを利用できて、お互いにプラスになる方向に進んでいるみたいです。
  • 岩槻座長 エコツーリズムだけじゃなしに全体のスキームとして両者が上手にコラボできるというのが非常に大切なことだと思うんですけれども、信頼感に基づくというのは最終的に一番必要なことだとは思うんですけれども、知床ではこういうやり方をしたから、他のところも真似をしたらいいようないいモデルになる、両者が情報交流が上手くいくという他のところへの教えになるようなことはあるでしょうか。
  • 大泰司科学委員会委員長 そういう専門家が専門的に進めているということは、私は観光が学問になると思っていなかったんですけれども、やはり何でもプロが扱うと違うなと思います。これも私には説明し切れないので、知床データセンターのサイトを見ていただければと思います。
  • 岩槻座長 どうもありがとうございました。知床はまた議論はあるかもしれませんけれども、時間が押していますので、知床のお2人、どうもありがとうございました。
    続いて小笠原のほうに移らせていただきます。小笠原は、最初は懇談会の委員としてではなくて、小笠原の科学委員会委員長としての大河内さんにまずお願いします。
  • 大河内委員 それでは、早速お話しさせていただきます。
    世界自然遺産小笠原自然遺産地域、小笠原諸島の成果と課題ということで話をしていただきたいということでした。
    初めに、小笠原の世界自然遺産としての価値ということで、「地質」と「進化」と「生物多様性」の3つのクライテリアで提案したのですが、認められたのは「進化」だけだったということです。代表的な進化の例として陸産貝類があります。例えば1つの島、これは兄島という島ですが、落ち葉の下に棲むやつ、落ち葉の上に棲むやつ、幹に棲むやつ、葉っぱに棲むやつといろんな種類に分かれていて、母島に至っては北部と中部と南部でそれぞれ種類構成が違っていて、その進化の系統も全部わかっている。こういうようなことがあって、しかも小笠原は、例えばガラパゴス諸島のイサベラ島の何百分の1という小さい島でこういうことが起こっている。小さい島で起こっているところがすばらしいということで、我々は小さくて心配していたのですが、それを評価していただきまして世界自然遺産になったわけです。ということは、非常に小さいので、すぐにでも壊れてしまうということで、私たちは日本の自然遺産の中で一番危機遺産に近い島だと危機感を持って対応しているところです。
    登録前の課題は、先ほど岩槻先生からも、事務局からも話がありましたように、2003年に知床、小笠原、琉球を候補とするとなっていたとき、小笠原の問題として、外来生物の影響があるなんてものじゃなくて激し過ぎる、事前の対策がないと無理ですよということを言われております。それから、国立公園に環境省の事務所がなくてレンジャーがいない。この2つが問題として出ています。こちらのほうは、その後、紆余曲折がありましたが、今ではレンジャーがいらっしゃいます。
    前半についてですが、先ほど小笠原と知床の世界遺産がどういうふうに登録されて、順調に登録しましたという話がありましたけど、実は知床は平成16年に暫定リストを提出して、すぐに推薦書を提出しています。ところが、小笠原は平成19年に暫定リストを提出して、3年後に推薦書を提出しています。これは、推薦書を提出する前に科学委員会ができたので、すいませんけど科学委員会が抵抗いたしまして、こんな状態ではとても出せませんと事務局に話しまして、3年間で対策を立ててからやりましょうということで、3年対策を立ててもらって推薦書を出した。決して順調ではなかったということです。
    どんなことをやったかということですが、2003年当時、動物ではヤギとオオヒキガエルとアノールが問題だと言われていました。実際にはその他にネコ、ネズミ、ノブタ、ウシガエル、ニューギニアヤリガタリクウズムシが問題だったんですが、この辺はまだ当時はわかっていなかった。2010年に推薦書を出したときにどうなっていたかというと、ヤギは一部の島から根絶、オオヒキガエルは対処中だったのですが、これは大して重要でないということでランクが低下しています。アノールは、非常に難しいんですけど、エリア排除を始めた。ネコも同じです。捕獲して里親を探すという活動を続けている。クマネズミは、ネズミの根絶はこれが日本で多分最初だと思いますが、西島から根絶した。ウシガエルは根絶しました。これもどういう順番で根絶したらいいかということを研究した上で根絶した。ニューギニアヤリガタリクウズムシ、これについては非常に難しくて、拡散防止を研究していた。そして自主ルールで対応しました。
    2012年にはどうなったかというと、特に変わったところは、ヤギは父島以外の全島から根絶しました。アノールはフェンスが完成して、現在、オガサワラシジミが絶滅するんじゃないかと言われていたのが絶滅せずに生き残っているということ自身が大成果だと思います。ネコについてもエリア排除がかなり進んだのと、町のネコは、父島はほぼ全島不妊化して、一部のエリアからは捕獲して里親に出す作業をしています。クマネズミについては、さらに4つの島から根絶しました。ニューギニアヤリガタリクウズムシは洗浄施設等をつくっているんですけど、これはまだまだ問題が多く残っています。
    植物は、当時はアカギだけが問題だったのですが、そのほかギンネム、モクマオウ、キバンジロウ、ガジュマル、シチヘンゲ、それから在来種を植栽することによる遺伝子攪乱といういろんな問題がありまして、それぞれについて対応しています。アカギについては、枯らす方法がないというのが問題だったんですけど、枯らす方法が確立しまして、弟島から根絶したのではないかと我々は思っています。モクマオウやこの辺の樹木については技術的には大した問題はないので大分やっているのですが、例えばギンネムはヤギを駆除した後に増加している。シチヘンゲもそうですね。こういう感じで、ある種類を絶滅すると別の種類が増えてしまうという問題があります。最後の遺伝子攪乱についてはワーキンググループで検討して、島間で遺伝的変異の少ない種を(植栽可能樹種として)選定したところです。
    その一例として生物間相互作用に基づく順応的管理をやっているわけですけど、例えば海鳥・陸鳥はネズミに食われますが、鳥もネズミもネコが食べているということです。こういう鳥はネコに食べられちゃうのですが、一方でネコはクマネズミを制御しているかもしれない。また、クマネズミは在来植物を食べている。オガサワラノスリはクマネズミに依存している。これでクマネズミとネコを根絶すると、ここの生物間相互作用が消えて、海鳥・陸鳥が助かるのはいいんですけど、オガサワラノスリがもしかすると非常に危機的な状況になるかもしれない。ただ、将来、海鳥・陸鳥が増えれば、本来の餌である海鳥・陸鳥に依存することができるだろう。ただ、この間には何年もかかるので、これを全域でやるとオガサワラノスリは滅びちゃうかもしれないから、少しずつやっていけばいいのではないかというようなことを科学委員会で話し合いまして、そういうふうな形でやっているところです。実際にここに見えている兄島からネズミを根絶したのですけど、オガサワラノスリはちょっと影響を受けていますが、滅びることなく現在もいるという状況です。
    そういうことを図にまとめたのが小笠原が推薦書につけましたアクションプランの一部にある島ごとの生態系の管理図です。どこを根絶すると何が起こるかということを予測するという形でやってきています。
    上手くいったほうの話をしますと、例えばこれはヤギがいっぱいいて、植生がほとんどなくなりつつある聟島ですけど、ここでヤギを根絶した後にオオハマギキョウが復活した。ネズミを根絶した西島では、あっという間にハシナガウグイスが増加した。それから、これはごく最近見つかったオガサワラヒメミズナギドリです。これはミッドウエーから採集された標本が2個体あるだけで、もう絶滅したのではないかと言われていたのですが、小笠原でこのように生きた姿が見つかって、小笠原に生存していることが確認された。これが恐らくネズミに食われて減っているので、ネズミを根絶することによってこれが増えてくる。こういうものが増えれば、将来、クライテリアのⅹ生物多様性を加えることもできるのではないかと私たちのほうでは考えています。
    これはエリア排除です。これはグリーンアノールが入らないようにしているフェンスで、この中には2haにトラップが5300個掛けてあります。根絶はできないんですけど、非常に密度が低くなっていて、オガサワラシジミが現在も生き残っています。この種が生き残っている2カ所のうちの1つです。もう1つのエリア排除区は父島の東平ですけど、ここにはアカガシカラスバトという当時20~30羽しかいないのではないかと言われていたハトがいるんですけど、そこにフェンスをつくってネコを排除して、そのネコは東京都獣医師会の厚意で東京に持ってきて、そちらで人間に飼われて幸せなネコの人生を送っている。ネコはいろいろな意見があって非常に難しい動物なので根絶はできなくて、保護して里親に出すということになっています。
    次のスライドをご覧下さい。これが小笠原が登録されたときにユネスコから言われたことのリストです。いっぱい書いてあるんですけど、順番にやっていきます。
    1つは、侵略的外来種対策を継続しなさいということで、これは現在やっています。アクションプランで毎年度、各事業の進捗状況を科学委員会が審議して承認しています。それぞれの主要な事業については助言のための委員会があります。また、ここで解決できていない未解決の問題は、ワーキンググループをつくって解決しています。それが、例えば先ほど言った種間相互ワーキンググループで、何を削ったら何が増えるかはなかなかわからないので、これは実験をして調べています。外来種侵入ワーキンググループは外来種の侵入を防止するための施策、検疫とかそれに準ずる方法について、法律的な枠組みも含めて検討しています。生態系アクションプランワーキンググループは先ほどのアクションプランのリニューアルをやっているところです。
    重要なインフラ開発について、事前に厳格な環境影響評価をしなさいと言われています。これは、実際、問題は時々あります。例えば環境影響評価が小笠原の特殊性のために上手くできない業者が請け負う事例がありました。それが本土だったら環境影響評価をしなくてもいいような大して重要でない事業ですが、小笠原では、先ほどから言われますように島が非常に小さいということと生態系が脆弱だということで、そういう場合でも問題になってしまうことがある。こういうことがあるので、今、勉強会を検討してもらっているところです。
    海洋公園地区をさらに拡張することの検討は、まだこれからの課題になります。
    気候変動の影響評価とモニタリング計画は、事業がありまして、現在行っているところです。ちなみに海洋については、小笠原では漁業は知床ほどは活発ではなくて、その1つの理由が、余りに遠くてコストがかかるということで、たくさん漁業をやっているわけではないので、これは原理的にはそんなに難しくはないと思うんですけれども、いろんな問題がありますので、これからの問題となります。
    小笠原エコツーリズム協議会に、科学委員会のメンバーを加えて助言してもらうことを言われていますので、協議会に私が参加する体制となっていますが、まだ開かれていないので、私自身はまだ参加したことはありません。
    観光業者に対して、必須条件と認証制度を設定するなどして、規制と奨励措置を実施。これについても、エコツーリズム協議会が自主的に非常に以前から活動をやっておりまして、小笠原のさまざまな規制は、特段、科学委員会からの助言がなくても、今までもしっかりできていたということがありますので、ここが非常に重要な役割を担っております。規制については、小笠原は入山規制もかなり厳しくしておりまして、ガイドなしではほとんど入れなくなっていますので、研究者が行っても簡単に研究できないという状況にもなっております。そういう意味で、この辺はしっかりできているんですが、さらにしっかりやれという話を聞いております。
    この写真は、ガイドが南島でやっているところです。1人が受け持つ人数とか南島に入る1日の人数は決まっておりますし、島から島へ移動するときは靴の裏の泥をきれいに洗ってプラナリアの移動を防ぐという措置をしてもらっているところです。
    ということで、これで全体の流れを説明いたしました。
    最後に、この写真は南硫黄島ですけど、これが小笠原で唯一原始の島、ネズミのいない島で、ここに行くと鳥がたくさん飛んできてウンチをいっぱいして、生態系が全然違うんだそうです。小笠原の本来の生態系は、恐らく今生きている人は誰も見たことがなくて、もっともっと海と陸が深い関係があった時代があったんだろうと思います。
    岩本さんと何の打ち合わせもしていないので、どういう話になるのかわからないのですが、宜しくお願いいたします。以上です。
  • 岩槻座長 どうもありがとうございました。何か。
  • 中静委員 気候変動の影響評価ということで、小笠原で気候変動の影響評価で特に問題点はどういう点ですか。
  • 大河内委員 余り調べていないので、よくわからないのですけど、少なくとも父島の気象観測台のデータを見る限りずっと温度は上がり続けていますね。確かに地球温暖化しているんだというのはよくわかります。
    それから、この南硫黄島に関して言うと、昔の調査と今回の調査を比べると雲霧帯の位置が少し上がっているらしいということも聞いています。そういうことは、まだこれからモニタリングしてみないとわからないところです。
  • 岩槻座長 外来種の問題は検討会のときからいろいろ話題になっていて、それが非常に詳細に詰められて登録に結びついたのは科学委員会のご努力だと敬意を表します。ただ、申請したときにはクライテリアⅷ、ⅸ、ⅹで出したのにⅸしか通っていないんですよね。ⅷ、ⅹはキャンセルされたわけですよね。これは科学委員会としてはどういうふうに受けとめられていますか。
  • 大河内委員 ⅷは、地質に関しては地質の専門家に入っていただいているんですけど、彼に言わせると、この主張はおかしいと言っているんですけど、どうしようもないですね。見解の相違ということです。
  • 岩槻座長 それは現地調査のときの説明のディスカッションではどうだったんですか。
  • 大河内委員 現地調査に来られた方は地質の専門家ではないので、それを持ち帰ってIUCNの専門家がそう判断したということです。生物多様性については、重要なのは認めるんだけれども、種類が余り多くないとか、固有種がたくさんいないとかいうことですけど、先ほど絶滅したやつを見つけたりしましたので、その辺もチャンスが出るかなと思っています。
  • 岩槻座長 要するに見解の相違ということですね。
  • 大河内委員 そうです。
  • 岩槻座長 ただ、登録されたから良かったようなものの、3つで申請していながら1つしか、というのは、今後考える上では用心しないといけないというのか、慎重に対応しないといけないという教訓にもなるという気がします。
  • 大河内委員 実際のところ、地質のところが落ちるとは夢にも思っていなくて、生物多様性のところは、もしかすると、例えばハワイと比較しますと大分厳しいかなという感じは持っていました。
  • 岩槻座長 それでは、また後で岩本さんのお話を伺ってから質問が出るかもしれませんけれども、岩本さんのほうに、宜しくお願いいたします。
  • 岩本自然管理専門員(小笠原村) 小笠原村役場の岩本です。先ほど最後にあったように、大河内先生と資料を打ち合わせしていなかったものですので、小笠原が昨年6月登録ということで、今年、初めての夏を迎えておりまして様々な混乱があります。その中で、打ち合わせ等時間をとれなかった面でパワーポイントの資料を用意できなかったものですので、印刷の資料で説明させていただきたいと思います。
    資料6-1に沿って印刷物で説明させていただきます。小笠原諸島の保全管理につきましては、登録時に小笠原諸島管理計画、生態系保全アクションプランを策定し、他地域同様、科学委員会、地域連絡会議の検証を受けながら進めている結果、現在、着実に成果を出している状況です。今の大河内先生の説明にあったように、具体的にいろんな検討会等を開催しております。
    進め方といたしましては、資料6-3を見ていただきたいと思います。6-3に検討体制と各種計画の関係概念図がございます。ほかの地域と同じように小笠原についても登録前に既に科学委員会、地域連絡会議が設定されております。科学委員会から左の矢印にあるように、事務局としては環境省、林野庁、東京都、小笠原村役場で、課題への基本方針の提示、また個別事業・計画への助言等をいただいております。事務局としては科学委員会に対して横断的課題の検討を要請しております。この事務局の下に、先ほど説明にあったように各種の検討会がすべてぶら下がって実質上の事業の進行管理を行っております。ここに今記載されているのは代表的なもので、各外来種ごとに30近くの取組の検討委員会等を開いております。また種間相互ワーキンググループ等を入れながら着実に進めている状況です。
    一番下段の地域連絡会議につきましては、小笠原村の商工会、また観光協会、漁協、農協等、地元の関係機関が入っておりまして、科学委員会の提言から取組等の状況の報告を受けて地元としての取組を決めております。右に行っている地域課題検討ワーキンググループが24年度から動き出しておりますけれども、登録後のさまざまな地域の課題等をこのワーキンググループの中で新たに検討していく。その右横の地域アクションプランが、現在仮称ですけれども、登録後出てきた小笠原独自のさまざまな問題等を取り入れて地域のアクションプラン等を今後つくっていく。
    先ほどあったように管理計画の下にある生態系保全アクションプランにつきましては、外来種ごと、それから小笠原は諸島ですので、各島ごとの具体的な取組等をこの生態系アクションプランの中で指定しております。それを実際上動かすのは、先ほどの各検討会等でやって、常に成果を科学委員会に上げて検証をしていくという形で現在進めております。
    取組の一例としては、このアクションプランの中で、先ほど外来種として一番大きな問題としてのノヤギのお話が先生からありましたけれども、例えばノヤギの駆除に関しましては東京都が行っております。先ほど言ったように父島を除いてほかの属島については、今現在、ほぼ根絶という形で、各属島の植生が順調に回復している状況です。また、父島のノヤギの駆除に関しまして、それと並行して環境省では、父島東平には特殊な固有種の植物がかなり生存しているということで、ノヤギ、ノネコの防除柵を設置しております。同じノヤギの取組でも、駆除は東京都で、希少植物の保護政策は環境省が柵を設置しております。そこの東平に同時にノネコの防除ということでネコ返しをつけておるんですけれども、この東平に生息している先ほどのアカガシラカラスバトは、登録前の段階では30羽から40羽程度生息しているという状況でしたけれども、現実的にこの取組を始めて、この2年間、山の中のネコ等の生息数がかなり落ち込んでおります。最近はほぼ根絶に近い状況で、新たに生産されるネコが出ておりません。また、同時に集落内のネコについても対策を進めておりまして、今現在、父島内では、新たに生産されているネコがほぼいない状況になっております。その結果、今年の父島で確認した新たに標識をつけたアカガシラカラスバトの若鳥が約27羽で、その親を含めると、推定でこの2年間で今現在100羽以上には増えているだろうと言われております。
    反面、今までその姿自体が30~40ということで島内でもほとんど見られなかったアカガシラカラスバトが、この2年で一気に100羽以上増えたということで、現在、集落内に頻繁に出没する状況になっております。その中から新たな問題として、住居のガラスのバードストライクとか、住民の使っている車による車両事故のロードキル、あと、数は少なくなっておるんですけれども、住民の飼っている飼い猫による捕食事故等、登録前には年間1羽も事故事例がなかったんですけれども、この2カ月の間に一遍に5羽のアカガシラカラスバトの死傷事故が起こっております。
    ということで、対策を進めている中で、増えてくれば当然想定される問題ですけれども、現実的には、また新たに出てきた対応策について、先ほどの地域アクションプランの中で今後検討されていく形になると思っております。
    2番目で世界自然遺産登録の意義ということで、小笠原諸島が世界遺産に登録されましたのは海洋島という特殊な地形から来る独自の生態系、先ほどの大河内先生の説明ですべて詳しく説明されたとおり、陸産貝類含めて独自の生態系が評価され世界自然遺産に登録されました。逆に特異な生態系は、同時に外来種に対して非常に脆弱なものでしたので、暫定を出してから推薦書を出すまでに、外来種についての取組でかなりの時間をかけたという先ほどの説明にあったとおりです。実際に具体的なアクションプランを策定いたしまして対策を進めてきた結果、先ほどのアカガシラカラスバトの例のように、劇的な回復を今示しております。これは希少鳥類のアカガシラカラスバトに拘らず、ノヤギを駆除したことによって、植物についても様々な固有種の植物が各属島に増えております。この世界自然遺産登録がなされなかった場合、小笠原のこの脆弱な自然は、当初、平成15年に候補地になった段階でも、あと数年、手をつけなかったとしたら、この自然は失われるだろうと言われている中で候補地に選んでいただいたわけですけれども、現在、順調に回復している。また、想定以上の回復というのが各先生方からもいただいておりますので、小笠原の失われた自然が、この遺産登録によって維持されてきたと思います。
    3.登録後の小笠原の現状を説明させていただきます。遺産登録後の小笠原に関しましては、ほかの遺産地域同様、遺産登録効果で、冒頭に言いましたように初めての夏を迎えて、今年の小笠原は観光客が異常に増えております。観光客の経年変化につきましては、資料6-2につけております。資料6-2に、最初に観光満足度調査結果で、これは今年の8月24日時点で観光客等のアンケートを取りまとめた資料になっております。(1)主要項目満足度で、「おがさわら丸」が-0.28で、これは今、小笠原に来ている交通アクセスは「おがさわら丸」1隻で、船の中の劣悪な環境ということで、一番大きなマイナス度をとっております。実質上、観光客が増えることによって船を含めていろんな形での観光客からの不満足度があって、相対的に総合満足度を見ていただいてもわかるように、対前年で満足度としてはかなり落ちております。また、同時にツアー別の満足度を見ていただきますと、現実的に海のイルカクジラウオッチングとかドルフィンスイミングは、実際は天候の具合によってツアーに参加したけれどもクジラに会えないとかイルカに会えないという例もありますので、その面からのマイナス度はあるんですけれども、先ほどのガイドの認証制度等もありますけれども、今現在、小笠原にいるガイド数自体が今の観光客に適応するだけの数がまだ用意されていない。というのは、一気に観光客が1.74倍に増えたということで、現実的に今押し寄せる観光客に対応できない中で、山域のガイド等も1人で一遍に15人とか案内すると、どうしてもフォローできない面がありまして、こういう満足度がかなりマイナスになっております。これは先ほどの資料6-3にあった形のエコツーリズムの検討と今後の大きな課題になってくるとは思っております。
    それと、この下段に書いてあるとおり、世界遺産登録以降増加した客層も、高齢者、または遺産登録ということで、実質上の小笠原の状況を余り理解しておられない観光客の方が増加されたということで、現実的に小笠原に来たときに、情報不足によって事実上のマイナス効果があったのではないかということがありますので、役場としては、今後、観光事業者等に正確な情報を伝えていくことでお客様の満足度をこれからも上げていきたいと考えております。
    裏面におがさわら丸乗船数ということで、19年からの5年間の経年変化を掲げております。この中で、22年度観光が1万3910人で、登録後、23年度は2万4165人、月別の観光客数として、下にあるとおり、これは登録の6月を基準にしておりますので、22年7月から6月までと23年7月から6月までの実質上の観光客数を比較いたしまして、対前年1.74倍。また、同時に「おがさわら丸」以外の観光船(クルーズ船)で来られるものが3.で明記してあります。これで見ましても、平成24年度の予定が30艘で、延べ51日来る予定になっております。これが23年度ですと14艘。登録前の22年度と比べるとわずか2艘で、23年度は震災等の影響もあったので、一概にこの年度と比較するのは難しいところもあるんですけれども、来年夏までのクルーズ船の量も入っておりますので、着実に来年はこの30から50艘近くになっていく。観光船の滞在日数も、島内には2泊程度しかしないということと、その料金が非常に高いということで、先ほどの満足度調査の中でも、観光船のほうは来られて不満に思われる方がかなり多いということで、今後、観光船等に対しての指導も考えていかなくちゃいけないところかなと思います。
    先ほどの不満足度で「おがさわら丸」の船内環境が非常に良くないということで、今年の夏から、それまで1060人の定員数を、2等船室を改良いたしまして、現在768名の定数に減らしております。そういう意味でも若干環境をよくして、お客様の気持ちをよくしてあげたいという取組はされております。
    小笠原に行くのが先ほどから言っている「おがさわら丸」1隻で、現実的に東京竹芝桟橋を出て小笠原に着くまで約25時間かかりますので、その25時間の船内で小笠原の自然から取組状況、自然への配慮等を観光客の方に周知しております。入口が1個ということで、ある面、自然環境への影響、観光のオーバーユース等は小笠原の場合、幸い入口の「おがさわら丸」のところである程度観光客対応をとれば、そういう面がかなり防げる。登録後の観光形態も、先ほど言ったようにガイドの案内、また、小笠原の遺産価値を純粋に経験していくような熟年層、それから世界遺産ということで外国人の利用増も見られております。
    登録前の観光形態では海のレジャーが中心でしたので、若者の海洋レジャーが中心であったのですけれども、登録の成果としては、小笠原の実際上の観光形態が1週間お休みをとらないと来られないということで、トレッキング等、団塊の世代等高年齢の方が利用するように変わってきております。
    小笠原の今後の課題といたしましては、4.に書いてあるんですけれども、[1]交通アクセスの改善ということで、何回も今まで説明しているとおり、交通アクセスが「おがさわら丸」1本で、これは島民の生活路線も兼ねております。今回の観光客増によって、今年24年の夏場では、島民の東京への行き帰り等の切符も取れない状況で、島民もキャンセル待ちという状況ですので、今後、交通アクセスの改善も地元では取り組んでおります。今までの悲願の中で、小笠原村は飛行場計画があったんですけれども、世界遺産登録後、自然環境配慮を考えていくと、観光用の飛行場はとても無理だ。ただし、小笠原の場合、1週間に1回の船ですので、民生安定のための航空路線は、これからも当然島として要求はしていくんですけれども、観光等のための航空路は当初から考えておりませんので、そういう意味でいくと、将来的にもアクセスは船1艘ということで多分動いていくと思います。
    [2]エコツーリズムの改善検討で、先ほどの説明にあったように、ガイド認定制度自体が今の現状に追いついていないのが現状です。その中で1人のガイドさんによってかなり多くの観光客の方を案内されているということで、その部分の新たな観光メニューとか自然に配慮した観光ガイドのあり方等を、これからエコツーリズム推進マスタープラン等の中で検討していく。当然、登録前のIUCNの勧告の中にも、それを策定する際に科学委員会の意見を全面的に取り入れてほしいということで、環境に配慮した形のガイドのあり方等をこれから検討していくつもりでおります。
    [3]地元島民の意識改革を兼ねた環境教育の充実で、次世代教育を含めた環境教育を行って、島民総ガイドという発想の中で、島の自然を島民全体が守っていく。小笠原の島民に関しましては、今現在2500人弱という数でありますので、その中で観光客すべての方をガイドできるような形の次世代教育も今後検討していきたい。
    [4]新たな外来種の侵入・拡散の検討で、当初、登録時から一番問題になっている外来種につきましては、当然、アクションプラン等で対応策はつくっておるんですけれども、逆に観光客、またいろんな形で人の交流ができると、今までなかったような外来種等が、また再度島に入ってくる。また同じような対策をとらなくちゃいけないということで、今、科学委員会を中心に新たな外来種の侵入・拡散をどのように防ぐかということで検討中です。ただし、小笠原の場合の特異性で入口が1個しかないということで、その入口で防げば新たな外来種は防ぐことができるのではないかということで、今事業を進めております。
    最後に、先ほどの2500人の島民しかいない狭い島ですので、自然と共生した島の暮らしの実現で、島民生活の狭い区域内に希少動物が侵入している状況です。実際、住居地域、島民が生活する区域のすぐ隣が自然遺産区域で、そこに暮らしている島民がいますので、自然との共生は、小笠原の自然を保全すること自体が、実際上、今島民に求められている持続性のある社会に繋がるという形で、村の総合計画の中でも基本方針で自然と共生した島の暮らしの実現を掲げて、地元自治体としても取り組んでおります。
    雑駁な説明で申しわけないのですけれども、これで報告は終わります。
  • 岩槻座長 どうもありがとうございました。事前に打ち合わせがなかったということですけれども、何か補足されることとかありますか。
  • 大河内委員 補足ではないんですけど、「おがさわら丸」が定員を削減したというのは、確かに「おがさわら丸」の状況は、非常に混んでいるときに乗った人ならわかると思うんですけど、物すごく大変で、高齢者の方から不満が多かったんですけど、観光客が減るし、島民に不便が出るにもかかわらず減らしたというのは本当に凄い大英断だと思います。
  • 岩槻座長 何かご質問、コメントはありますか。
  • 中静委員 将来的にどのぐらいの観光客が望ましいかという想定はあるのですか。
  • 岩本自然管理専門員(小笠原村) 今、小笠原村のインフラの概要は、将来人口として小笠原島民3000人、一時滞在者が2000人ということで、インフラは5000人規模で想定しております。今の「おがさわら丸」の定員が、先ほど言ったように768人ということで、約1000人の方が2航海いらしたとしても耐えられる形にしておりますので、将来構想としましても、大きな船でもしきた場合、宿泊施設から島内のインフラのゴミなり、し尿処理の能力等を考えても、今より倍増した船を持ってくると、2航海いられると今度は一時滞在者が4000人ということなってしまうので、現実に将来構想としては今の一時滞在1000人、2000人というのが将来構想の中です。
  • 岩槻座長 満足度の調査で、観光客が増えると、どうしてもここで解析されているような形での満足度の低下が出てきたと思うんですけど、こういうことをもう少し詳細に見るために、例えばリピーターの方の満足度がどうなっているというような統計は全然とっていらっしゃらないのですか。
  • 岩本自然管理専門員(小笠原村) 多分リピーターのほうもこれから必要になってくるとは思うんですけれども、昨年6月から丁度1年経過した段階ですので、今の状況ですと、リピーターの方がなかなか来れる状況じゃないんですね。いわゆる新規観光客だけで切符の売り出しが終わってしまいますので、声としてはリピーターの方からかなりいろんな声を聞いてはおります。
  • 岩槻座長 どうもありがとうございました。
    大分予定の時間をオーバーしているんですけれども、会場は大丈夫だということなので、もう少し時間を延ばさせていただいて、2つの事例について総合的に、それから今後どう議論していくかということを含めても、どうぞご自由にご発言をいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
  • 大河内委員 どちらも科学委員会ができて活動している、実際に地域連絡会議も活動している事例だということで、ある意味でいうと先にできた屋久島、白神よりもそういう部分ではよく動いているところだと思います。世界自然遺産というのは、本来は自然を守るためであると同時に、地元では観光地としての期待があって、逆に言うと、それがなければ世界自然遺産が維持できないという構造になって、聞いてみると、もちろん上手くいっていることは上手くいっているんですが、難しいところは難しいことがあって、今後も難しいところは増えていくんだろうなという印象を受けました。特に知床は観光客が減っていて歯どめがかかっていないというお話だったんですけど、やはりそれは幾ら成果が上がっていても、地元としては期待外れで、もしかすると世界遺産になっていなければもっと減っていたかもしれないので、必ずしも世界遺産になったからどうということではないと思うんですけど、その辺が難しいですね。産業との関係は十分考えていく必要があるという印象を受けました。
  • 岩槻座長 私も知床でツーリストの数が減っているというのは、一時は増えても、それが維持できなかったのは一体何かというのはもう少し解析される必要があるのではないかと思いますけれども、地元としては、それはどういうふうに理解していらっしゃるんですか。
  • 高橋課長(北海道) 地元はいろんな要因、大震災もありましたし、通過型で1回来て、その後、リピーターも少なくなったということもあるんですけれども、地元としては、さらに何か施設整備をして魅力的なものをつくりたいという声も一部にはあります。例えば先ほど紹介した高架木道をさらに延長できないのか。あそこのところは植生にそんなに影響はないということで、地元のエコツーのほうもある程度同意できた場所ですが、あれよりさらに向こうに行くと、知床の貴重な自然の森林も伐採しなくてはああいうものはできなくなるんですね。そういうのがありまして、地元としては何かまた1つ目玉になるものをつくりたいという意見を持っている方もおります。
  • 岩槻座長 実際、知床へ行かれた方のためのサービスとしてはそういうものが必要だと思うんですけれども、まず来る人を増やす必要があります。今の満足度の問題ではなくて行こうという気になる、それはいらっしゃった方の満足度がそれを広げていくことにもなるんですけれども、広報といいますか。
  • 高橋課長(北海道) やはり海のほう、例えば漁業の活動の場所を見せるとか、動物のエコツーの関係で動物ウオッチングをするとか、クジラ、イルカとか、地道にそういうものも今だんだんつくり上げては来ています。そういうメニューが結構たくさん出てきております。ただ、マスツーリズムによる多くの観光客が来るのだけ呑み込めるかというと、まだそこまでは来ていない状況です。
  • 岩槻座長 自然遺産にということが保全と結びつくという意味では、科学委員会の情報がどちらもご自分の地域だけじゃなしにグローバルにどういうふうに保全に結びつけていけるかということでは、知床は外へどんどん発信されているという話があったんですけど、小笠原の場合も、先ほどそういうお話は出てきませんでしたけれども、特に外来種に対する対応の仕方は非常にいい成果が上がっている部分があるんですが、そういうものは世界へ向けての発信も随分やっていらっしゃるんでしょうか。
  • 大河内委員 世界に向けての発信もあるんですけど、指定されてまだ1年ということもあるんですが、小笠原が自然遺産になるときには、むしろ私たちはガラパゴスを随分勉強させていただいて、ガラパゴスにチャールズ・ダーウィン研究所という民間の研究機関があるんですが、そちらの方と交流もしました。話を聞くと、ダーウィン研究所もリコメンデーションを出すだけで、実際にやるのはエクアドル政府、ガラパゴスの州政府がやるので、私たちと国とか東京都の関係と非常によく似た関係だということで、そういうのは勉強させていただきました。
    小笠原で得られた成果は、発信の仕方は幾つかあって、1つはサイエンティフィックペーパーとして発信するというのはもちろんやっているところです。いろんな駆除の成果等をペーパーとして出しているんですけど、サイエンスでない部分、特に島の外来種の根絶事業については世界のいろいろな組織が発信していて、その辺との関係をどうしていくのかを整理中ですけれども、小笠原の世界遺産のホームページがありますので、そこで私たち自身でこれまでの経験を英文で載せようではないかということを今検討しているところです。
  • 岩槻座長 小笠原については、私は拘るようですけれども、クライテリアのⅷとⅹが無視されたというのはちょっと残念に思っているんですけれども、そういうことに対して科学委員会として、もう終わったものだからいいと言うんじゃなしに、もう少し反撃しようとか、そういうことは余り考えていらっしゃらないんですか。
  • 大河内委員 ⅷ地質のところは随分検討して、反撃しないほうがいいのではないかという結論でしませんでした。なかなかここは微妙なことがあります。ⅹ生物多様性のところは、将来新たなデータを持ってもう1度拡張していこうということを考えています。日本では地質でとった世界遺産はないんですね。たしか1つもないと思います。これはなかなか難しくて、地質というのは世界共通のもので、小笠原はかなり特異なので、これでとれないと、日本では地質で世界遺産をとるのは物凄く難しくなるのではないか。例えば火山ということでいうと、あちこちの火山が世界遺産になっていて、とるチャンスがもう全然ないんですね。そういうことで、地質はなかなか反撃が難しいなというのが印象です。
  • 岩槻座長 先ほどの説明にもありましたように世界遺産だけに問題を閉じずに、ジオパークやエコパークにも話を広げようとしますと、ジオパークはそれをまさにテーマにしているわけですけれども、そういうところでもっと地域を拡大していくことも一方ではあるのかもしれません。
  • 大河内委員 これも将来の、またこの先のことなんですけど、一度ユネスコの方でエコパークの方が来られたときにディスカッションを持ったことがあるんですけど、世界遺産というのは、昔はベスト・オブ・ベストだったんだけど、今はアウトスタンディングなんですね。ですから、ジオパークとかエコパークは一種のtypical、彼はtypicalという言葉を使いましたけど、ただの典型だから、典型は幾つあってもいいと言っていたんですが、そうではなくて、アウトスタンディングというのは世界に類を見ないので、そこを地質で突破することは難しいんだけど、ぜひ挑戦しないといけないので、小笠原もあきらめたわけではなくて、今、牙を磨いているところとお考えください。
  • 岩槻座長 この問題はいずれ議論の対象になると思うんですけれども、日本から発信する話としても、エコパークはMABプログラムのユネスコが認定したものになっていますけれども、ジオパークのほうは、ユネスコはエンドースするだけで、NGOが考えているものとなっていますよね。それはそれでいいのかどうか。日本としては、むしろユネスコにもっとプッシュして、ジオパークをもっときっちり認定したほうがいいんじゃないかということを意見として出すかどうかということも、さらに世界遺産ということを考える上で議論していいことじゃないかと思っております。
  • 中静委員 先ほどの議論に戻るんですけど、観光客といいますか、訪れる人がどれぐらい増えるか。本当を言うと増えればいいという話ではない。確かに地元の産業を考えますと、増えていっていただくことが非常にいいことなんでしょうけど、世界遺産があって、エコパークがあって、いろいろなジオパークがあってということになってくると、世界遺産であることをどういうふうに来てもらう人に見ていただくか、そのために遺産の価値を維持するには、どのぐらいの規模でなければいけないかみたいな議論はある程度必要になってくるのかな、と小笠原のお話を聞いて思いました。僕も白神に関わっていますけど、白神の場合は、むしろ最初に観光客として訪れていた人たちがほとんどない状態から増えて、今減っているところです。もう1つ違うのは、世界遺産地域の中心部にほとんど人が入れない、或いは僅かな人しか入れない状態で、観光という点では、どちらかというと遺産地域の周辺地域でやっているのが現状ですので、世界遺産としてどのような見せ方をしたらいいのかも、これから応募していくときに考えていくべき問題なのかなと思いました。
  • 岩槻座長 まだ議論はあるかと思いますけれども、また2回目以後で議論が続けられると思いますので、少しぐらい延ばしてもというのが、20分既にもう延びていますので、これぐらいで今日の議論は閉めさせていただきたいと思います。
    ということで、事務局へマイクを返させていただいてよろしいでしょうか。
  • 環境省(芹澤) すみません。追加しまして1点、先ほどの資料説明のときに説明が不足しておりまして、参考資料1、参考資料2につきましては、本日ご欠席の吉田先生より本日の懇談会で配付する資料としてお預かりしているものですけれども、内容といたしましては第4回以降の内容となってきますので、その際に吉田先生からご説明をいただく予定であります。
    それでは、岩槻先生、本日はありがとうございました。次回の開催日につきましては、別途調整をしているところですので、また後日ご連絡をさせていただきます。
    本日の議事はこれで終了となります。本日は長時間にわたりご議論いただきましてありがとうございました。

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