自然環境・生物多様性

新たな世界自然遺産候補地の考え方に係る懇談会 | 第1回概要

日時

2012年8月28日(火)14:00~16:30

場所

TKP東京駅八重洲カンファレンスセンター

出席委員等(敬称略)

(1)委員
岩槻 邦男(兵庫県立 人と自然の博物館 館長)
大河内 勇(独立行政法人 森林総合研究所 理事)
中静 透 (国立大学法人 東北大学大学院生命科学研究科 教授)
(2)ゲストスピーカー
大泰司 紀之(知床世界自然遺産地域科学委員会 委員長、国立大学法人 北海道大学総合博物館研究員)
高橋 洋記(北海道 環境生活部 環境局 自然環境課 施設・知床担当課長)
岩本 誠(小笠原村 自然管理専門員)

議題

  1. (1)懇談会の趣旨について
  2. (2)平成15年の「世界自然遺産候補地に関する検討会」概要及び世界自然遺産登録の経緯について
  3. (3)日本の世界自然遺産地域(知床・小笠原諸島)の保全管理の状況及び課題について
  4. (4)意見交換など

概要

  • 座長には岩槻委員が選出された。その後、議題に沿って議事が進行された。
  • 委員からの主な質疑・意見は、以下のとおり。

(1)懇談会の趣旨について

  • 本懇談会は、新たに具体的な候補地が出てきたため開催するのか。
  • (事務局)現時点で具体的な候補地はない。平成15年の検討会での詳細検討対象地域の中には、新たな知見が得られてきている地域もあることから、平成15年の検討会での座長コメント(将来新たな知見や情報が得られ、登録基準や完全性への条件への適合可能性が出てきた場合には、あらためて検討を行うべき)も踏まえ、あらためて検討を行う時期にきていると考える。

(2)平成15年の「世界自然遺産候補地に関する検討会」概要及び世界自然遺産登録の経緯について

  • 平成15年の検討会では、日本列島の中で自然環境の観点から価値が高い地域を丁寧にスクリーニングし、膨大な資料から選定された19の詳細検討地域から、最終的に3つの候補地が選定されたと記憶している。
  • 推薦の過程では、科学委員会等によって詳細な検討が行われており、このような進め方が、ユネスコにおいて高く評価されていると聞いている。
  • 近年、世界遺産登録の可否の審査において、傾向に変化があったと聞いているが、明確に変わった点は何か。
  • (事務局)整理の上、第4回懇談会で説明する。

(3)世界自然遺産地域「知床」の保全管理の状況及び課題についての報告

  • 大泰司 知床世界自然遺産地域委員会委員長
    • 知床の漁業は、生物多様性を維持することで漁業も維持出来るという発想の知床方式を採用している。漁業者による自主的な管理に加え、行政機関や科学委員会が協力して保全している。
    • 世界遺産の効果は、国際レベルでの管理が行われるようになったことである。また、環境省、林野庁、北海道といった行政機関の垣根を越えた管理が推進されたことも特徴である。
    • 生物多様性の高い海域の場合、世界遺産とするためには、漁業との両立が必要である。
    • 河川工作物の改良、エゾシカの個体数調整、エコツーリズムなどの先進的な取組は、遺産地域以外での自然環境の保全管理にも参考になっている。

質疑・応答

  • 得られた情報の発信は、論文やウェブサイトで行っているのか。
  • (大泰司委員長)論文の発表数が多く、英文での投稿も行っている。
  • 高橋 北海道施設・知床担当課長
    • 漁業が基幹産業であり、遺産登録後も、漁業との両立が重要なポイントの一つである。主要な水産資源については、関連法令や漁業者等の自主的な取組により、持続可能な利用が可能になるよう多大な努力がなされている。
    • 世界遺産委員会では、サケ科魚類の移動・産卵の状況のモニタリングの継続、必要に応じた河川工作物のさらなる改良について要請を受けており、今後も、科学委員会の助言を得つつ、対応していくこととしている。
    • 観光客は、遺産登録時の245万人がピークであり、徐々に減少している。その一方で、海外観光客の増加や体験型観光への転換といった変化が見られ、少人数でゆっくり観光する形態に変化しつつある。これに対し、観光プログラムの多様化や地域の受入体制整備など、対応が求められている。

質疑・応答

  • 遺産登録によって観光客が増加することは回避できない。それに伴って、利用者のマナー向上などの問題はあるのか。
  • (高橋課長)利用者の多い知床五湖の地上歩道は、レクチャーを受けてから入ることになっているため、マナーは守られているが、オーバーユースの問題はある。
  • エコツーリズム検討会議の検討事項には、オーバーユースの問題も含まれるのか。
  • (高橋課長)検討事項には、オーバーユースにどう対応していくかといったことも含まれる。

(4)世界自然遺産地域「小笠原諸島」の保全管理の状況及び課題についての報告

  • 大河内 小笠原諸島世界自然遺産地域科学委員会委員長
    • 平成19年に暫定リストを提出したが、外来生物対策についてさらなる対応が必要であったことから、3年間の対策を経て推薦書を提出した経緯があり、決して順調な道のりではなかった。
    • 生物間相互作用に基づく順応的な保全管理を実施している。
    • 登録時の世界遺産委員会の決議に従い、各勧告事項への対応を行っている。
    • 小笠原諸島では、様々な規制措置がとられており、保全管理において重要な役割を担っている。主要な場所はガイドなしでは入山できない。今後もしっかりと管理していく必要がある。
  • 岩本 小笠原村自然環境専門員
    • 登録に向けた課題として外来種対策の検討に多くの時間を要した。外来種対策は、各行政機関が、科学委員会の助言を受け、アクションプランに基づき着実に進めている。
    • 外来種対策により絶滅危惧種のアカガシラカラスバトが劇的に増加したが、集落へ頻出するようになり、交通事故死への対策など今後検討の必要がある。
    • 外来種対策の結果、小笠原諸島の生態系は想定以上の劇的な回復を示し、遺産登録により維持されてきた。登録が無ければ、数年で脆弱な自然は失われていたと思われる。
    • 登録後の効果として、観光客は1.74倍に増加した。おがさわら丸は、生活路線も兼ねていることから、本年夏には、住民の利用に支障をきたした。
    • 混雑のため、おがさわら丸の観光満足度が低下していることから、運航会社は乗船客の定員を1000名から768名に変更し、船内環境の改善を図っている。
    • 現在、ガイド数が追いついていない状況であり、今後、ガイドの育成が大きな課題である。
    • 観光客の増加への対応として、新たな外来種の侵入拡散防止について、科学委員会及びその下に設置されたワーキング・グループで検討されている。

質疑・応答

  • 将来的な観光客の想定はあるのか。
  • (岩本自然環境専門員)現在のインフラは、将来人口3,000人、一時滞在2,000人の計5,000人の利用を想定したものである。将来構想としても、観光客を1000人~2000人と想定している。
  • おがさわら丸が定員を削減したのは大英断であったと考える。

(5)意見交換

  • どちらの地域も科学委員会や地域連絡会議が効果的に活動している事例である。
  • 世界自然遺産は、本来、自然を守るためのものであるが、同時に、地元では観光地としての期待がある。それがなければ、遺産地域を維持することが出来ない構造となっており、上手くいっているところもあるが、今後、難しいところが増えていくという印象である。
  • 産業との関係を十分考慮していく必要があると感じた。
  • 「知床」について、ピークに達した後に減少しつつある来訪者を増やすための対策が必要である。
  • 単純に観光客が増加すればよいということではない。世界遺産であることをどのような形で見てもらうか、どの程度の観光客の規模で維持していくのかを考える必要がある。
  • 「白神山地」の場合、世界遺産地域の中心部には人が入れない状況であり、観光は遺産地域の周辺で行っている。世界遺産としてどのような見せ方をすればよいのか、今後推薦を行っていく上では、そういったことも考えながら検討した方が良いと感じた。

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