法令・告示・通達

自然環境保全基本方針

公布日:令和2年03月19日
環境省告示第29号

第1部 自然環境の保全に関する基本構想

 自然は、人間生活にとって、広い意味での自然環境を形成し、人間も含めた全ての生命が存立する基盤であるとともに、地域における固有の財産であり、限りない恩恵を与えるものである。すなわち、自然は、経済社会活動のための資源としての役割を果たすだけでなく、私たちの健康で心豊かな暮らしの実現のためになくてはならない構成要素を成すものである。

 特に、私たち日本人は、時として荒々しい脅威となる自然と対立するのではなく、自然に対する畏敬の念を持ち、自然に順応し、自然と共生する知恵や自然観を培ってきた。

 このように、人間も、日光、大気、水、土、生物などによって構成される生態系の一部であることを理解し、自然の理(ことわり)に沿った自然と人間とのバランスの取れた健全な関わりを社会の隅々に広げ、将来にわたり自然の恵みを得られるよう、自然の仕組みを基礎とする真に豊かな社会をつくることが必要である。

 自然環境保全法(昭和47年法律第85号。以下「本法」という。)制定時は、経済成長に伴う開発等による自然環境の破壊に対処することが最も大きな課題であった。このため、資源の持つ有限性に留意し、大量生産、大量消費、大量廃棄という型の経済活動に厳しい反省を加え、公害の未然防止に努めるとともに、経済的効率優先の陰で見落とされがちであった自然の非貨幣的価値を適正に評価し、尊重していかなければならないこととしてきた。さらに、自然環境の適正な保全に留意した土地利用計画の下に適切な規制と誘導を図り、豊かな環境の創造に努めることとされた。これらについては依然として重要な方針であり、引き続き推進していかなければならない。

 加えて、近年では、本格的な少子高齢化・人口減少社会を迎えるとともに、地方から東京圏への若年層を中心とする流入超過の継続により、人口の地域的な偏在が加速化し、地方の若年人口、生産年齢人口の減少が進んでいる。これはこれまで長い歴史を経て形成されてきた日本の自然環境にも深刻な影響を与えており、例えば、農林漁業の担い手や狩猟者の減少などにより、耕作放棄地や管理の行き届かない森林、沿岸域が増加し、野生鳥獣被害等が深刻化している。そうした地域では、自然災害に対するぜい弱性が高まるとともに、里地里山や里海など豊かな自然が失われ、多様な生物相とそれに基づく豊かな文化が危機に瀕(ひん)している。

 また、人間活動の発展に伴い、人及び物資の移動が活発化し、国外又は国内の他地域から、意図的・非意図的に導入される生物が増加している。このような生物の中には、産業利用等、私たちの生活の向上に積極的な役割を果たしてきたものもある一方、それまでその地域に存在しなかった生物が導入されることにより、その生物に対する防御機能を有していない在来生物が捕食、駆逐され、地域の生物多様性を大きく変質させるなどの問題が起きている。さらに、化学物質も生物多様性に大きな影響を与えてきた要因の一つと考えられており、その生態系への影響についてのリスク評価・リスク管理が行われている。

 その上、地球温暖化等の気候変動、海洋の一次生産の減少及び酸性化などの地球環境の変化は、生物多様性に今後も深刻な影響を与える可能性がある。

 このように、我が国の生物多様性の損失は現在も続いており、私たち一人一人が原因者となっている課題でもある。このまま損失が継続し、生態系がある臨界点を超えた場合、生物多様性の劇的な損失とそれに伴う広範な生態系サービスの低下が生じる危険性が高く、それらを再生することは困難である。そして、これら自然環境に関する問題は経済・社会の課題とも連関して複雑化してきていることから、複数の課題を統合的に解決していくことが重要である。

 もとより、自然環境保全政策は、以上のような基本的な考え方の下で展開すべき総合的な政策の重要部分を占めるものであり、それは自然環境保全の見地から地域の特性に応じて人間活動を規制するだけでなく、自然環境が有する多様な機能を積極的に増進して地域の課題を解決するという面を担うものであると言ってよい。したがって、その施策は国土や各地域において確保すべき自然の適正な質と量とを科学的に検討し、それを明確にしたものでなければならない。しかし、この施策の確立には人間活動や気候変動による影響の評価・予測や、限られた資源の配分等の困難な課題を伴うこととなり、さらに、自然の全貌は、現代の科学的知見によっても、完全には解明できない多くの部分を持つものであることを認識せざるを得ない。

 このような状況の下では、自然環境の保全については、将来に禍根を残すことのないよう将来予測に基づくより積極的な姿勢が求められる。言い換えれば、現在破壊から免れている自然を保護するだけでなく、予防的な態度に基づく取組や自然資源の順応的な管理・利用、関係者全てが広く自然的、社会的情報を共有した上での社会的な選択としての方向性の決定を重視しつつ、開発圧力が低減する機会を捉えた自然環境の再生・活用や安全な土地利用の推進、人手が入ることで維持されてきた二次的自然環境の保全・管理を図る方策等が必要である。

 そのため、当面の政策は、環境基本法(平成5年法律第91号)に基づく環境基本計画及び生物多様性基本法(平成20年法律第58号)に基づく生物多様性国家戦略の下で、自然環境保全上の効果を最大限に発揮できるものにする必要がある。また、地域ごとに自立・分散型の社会を形成しつつ地域資源を補完し支え合いながら農山漁村も都市も活かす「地域循環共生圏」の創造のように、諸課題の関係性を踏まえて、環境・経済・社会的課題の同時解決に資する効果をもたらすようにデザインするとともに、他の施策との密接な連携の下に行われなければならない。国土に存在する貴重な植生、野生動物、地形地質等のかけがえのない自然や優れた自然は、十分な面積にわたっての保全が図られるとともに、森・里・川・海が生み出す自然的なつながりを意識して連結性が確保されなければならない。さらに、太陽エネルギーの合理的な利用が可能である農林水産業に関しては、それが有する環境保全の役割を高く評価し、健全な育成を図る必要がある。都市地域においては、健康な人間生活を保障するに足る自然環境が巧妙に確保されなければならない。また、それぞれの地域の風土、文化は自然と一体不可分であり、その継承・活用を図りながら自然環境を保全していく必要がある。加えて、前述した地球環境の変化に起因する近い将来に起こり得べき事態を考慮に入れ、災害リスクの低減や気候変動への適応等に資する生態系の多様な機能が十分に発揮されるよう、健全な自然環境を維持・再生する必要がある。

 また、経済・社会のグローバル化等により、私たちは世界の生物多様性の恵みを利用して暮らしている。一方で、日本の生物多様性の恵みも様々な形により世界各地で利用されている。これを踏まえ、自然環境保全政策は、国内政策にとどまることなく、国際的な視野に立って、積極的な協力・連携を図りながら、展開していかなければならない。例えば、保護地域等に関する二国間協力などの生物多様性保全に直接関係する事業だけでなく、企業活動に必要な国際的なサプライチェーンを始め、経済社会活動に生物多様性への配慮を組み込んでいくことが重要である。また、愛知目標及びそれに続く生物多様性の世界目標のほか、気候変動、化学物質等に関する多国間の国際約束の実施や、持続可能な開発目標(SDGs)等の国際目標の達成に向けた取組における連携も強化しなければならない。さらに、生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)や、二次的自然環境における生物多様性保全とその持続可能な利用を目指す「SATOYAMAイニシアティブ」など、東日本大震災の教訓や里地里山における生物多様性の持続可能な利用に関する知見を含む我が国の経験を活かした国際協力を図ることも重要である。

 以上の前提に立ち、本法が求める自然環境を保全することが特に必要な区域等の生物多様性の確保その他の自然環境の適正な保全を総合的に推進するための基本的な方向を展望すれば次のとおりである。

  1. 1 国土に存在する多様な自然を体系的に保全するため、本法を始めとする各種の関係制度を総合的に運用する。
    1.  (1) 人為のほとんど加わっていない原生の自然地域、国を代表する傑出した自然景観、さらに学術上、文化上特に価値の高い自然物等は、多様な生物種を保存し、あるいは自然の精妙なメカニズムを人類に教えるなど、国の遺産として後代に伝えなければならないものである。いずれもかけがえのないものであり、厳正に保全を図る。
    2.  (2) 国土の自然のバランスを維持する上で重要な役割を果たす自然地域、優れた自然風景、野生動物の生息地、防災・減災に資する自然地域、さらに自然とのふれあいに適した自然地域等は、いずれも人間と自然との関係において欠くことのできない良好で有用な自然であり、適正に保護を図るとともに必要に応じて復元、整備に努力する。
    3.  (3) 自然の物質循環に生産力の基礎をおく農林水産業が営まれる地域は食料・林産物を始めとする資源の供給面だけでなく、生物多様性の保全、国土の保全、水源のかん養、大気の浄化等、自然のバランスの維持という面においても必要不可欠なものである。その環境保全能力を評価し、そこで育まれてきた文化の保全と一体となって、当該地域の健全な育成を図る。
    4.  (4) 都市地域における樹林地、草地、水辺地などの自然地域は、大気浄化、気象緩和及び気候変動への適応、無秩序な市街地化の防止、公害・災害の防止等に大きな役割を果たし、また地域住民の人間形成にも大きな影響を与えるものであるところから、健全な都市構成上、都市環境上不可欠なものについて積極的に保護し、育成し、あるいは復元を図る。
    5.  (5) 海洋は、水循環の維持、大気との相互作用等による気象緩和、二酸化炭素の吸収等の機能を持つものであり、水産物の供給だけでなく、地球上の多様な生物の生息・生育や私たちの豊かで潤いのある生活を支えるかけがえのないものであるが、一度海洋汚染等により海洋環境が損なわれるとその回復を図ることが非常に困難であることから、沿岸域から沖合域にかけて適正に保全を図る。
    6.  (6) 法令等による保護地域以外にも、民間等の取組により保全が図られている地域や、保全を目的としない管理が結果として自然環境を守ることにも貢献している地域(民間保護地域や「OECM;Other Effective area-based Conservation Measures」と呼ばれる。)があり、これらについては、そうした民間等の取組を促進するとともに、保護地域を核として民間保護地域やOECMとの連結性を強化することにより、広域的で強靱な生態系のネットワーク化を図り、生物多様性の保全を推進する。
  2. 2 保全すべき自然地域は、その特性に応じて適切に管理されなければならない。必要な規制に加え、絶滅危惧種や固有種の保全、外来生物の防除や、鳥獣による生態系影響等についての対策等の事業の実施も検討する。あわせて、必要な民有地の買上げを促進する。
  3. 3 自然環境を破壊するおそれのある各種の開発が行われる場合は、事業主体により必要に応じ、環境影響評価法等に基づく手続やその他の自主的な取組として、当該事業が自然環境に及ぼす影響の予測、代替案の比較等を含めた事前調査が行われ、それらが計画に反映され、住民の理解を得た上で行われるよう努める。開発後においても自然環境の保全のための措置が必要に応じ講ぜられるよう十分な注意を払うものとする。
  4. 4 自然のメカニズムについては、解明されていない部分が極めて多い。人間活動と自然との関係、自然が有する多様な機能、物質の循環、生態系の保全技術などについての研究を積極的に進めるため、研究体制の確立、情報システムの整備、研究者及び研究の成果を具体的施策に反映させる技術者の養成等に努める。 また、我が国の自然環境の現状を適確に把握するため、植生、野生動物、地形地質を始め、しばしば軽視されがちな目に見えない自然のメカニズムの側面等の各分野にわたる科学的な調査を実施する。
     あわせて、これらの調査研究によって明らかとなった情報を積極的に発信する。
  5. 5 自然環境の保全を十分図るためには、国民一人一人が保護、保全の精神を身につけこれを習性とすることが何よりも肝要である。このため学校や地域社会において環境教育を積極的に推進し、自然のメカニズムや人間と自然との正しい関係について国民の理解を深め、自然に対する愛情とモラルの育成に努める。
  6. 6 国民の自然に対する渇望に応えることは、自然環境保全の主要な目的の一つである。自然とのふれあいは、利用者には自然の価値を認識させ、その保全の意識を喚起すること、また、利用の受入れ側である地元住民や関連事業者には自然環境保全の動機を維持させることを通じ、自然環境保全に資するものである。したがって、自然とのふれあいに関する施策並びに地域における観光の振興及び環境教育の推進において重要な意義を有するエコツーリズムに関する施策を総合的かつ効果的に推進する。その際、海外から訪れる利用者が我が国の自然環境の魅力を満喫できる施策を積極的に推進する。また、一定の地域への過度な利用の集中等により、かけがえのない自然を破壊することのないように調整を図る。

 以上の自然環境保全施策は、国民の理解と協力の下に、国、地方公共団体、農林漁業者、事業者、民間団体、専門家、地域住民等の多様な主体が連携を図りつつ、強力に展開しなければならない。そのためには開発行為に対する規制、土地の持つ公共的性格の重視等につき、勇断をもって臨まなければならないが、同時に、国土保全その他の公益との調整に留意するとともに、保全のための負担の公平化、地域住民の生業の安定及び福祉の向上、所有権等の財産権の尊重等のため必要な施策を総合的見地から講じていく必要がある。自然の恵沢の享受と保全に関し、受益と負担の両面にわたって社会的公正が確保されてこそ、自然環境の適正な保全が図られるのである。

第2部 自然環境保全地域等に関する基本的事項

 本法に規定する4種の保全地域、すなわち、原生自然環境保全地域、自然環境保全地域、沖合海底自然環境保全地域及び都道府県自然環境保全地域は「自然環境の保全に関する基本構想」に基づき国土全域を対象として体系的に選定され、適切に保全され、必要に応じて点検されなければならないが、それらについての基本的事項はおおむね次のとおりである。

1 原生自然環境保全地域の指定方針

  我が国においては、国土の開発が非常に進んでいるため、人の活動によって影響を受けていない地域は、自然環境保全上極めて高い評価がなされるに至っており、その持つ学術的意義は大きく、重要な科学的情報源である。

  我が国の亜熱帯多雨林帯、暖帯照葉樹林帯、温帯落葉広葉樹林帯及び亜寒帯針葉樹林帯の各森林帯に残る原生の自然状態を維持している地域につき、次の要件に合致する典型的なものを原生自然環境保全地域として指定するものとする。

  1.  (1) 極相あるいは、それに近い森林、湿原、草原等の植生及び野生動物等の生物共同体が人の活動によって影響を受けることなく原生状態を維持していること。
  2.  (2) 生態系として動的な平衡状態を維持するため、一定の面積と形態が確保されていること。
  3.  (3) ⑵に関連し、当該地域の周辺が自然性の高い地域であること。

2 原生自然環境保全地域の保全施策

  原生自然環境保全地域の指定方針に鑑み、自然の推移に委ねることを保全の基本方針とする。

  1.  (1) 極相の状態や原生の状態を維持するため、原則として地域内において人為による改変を禁止するとともに、地域外からの各種の影響を極力排除するよう努める。
  2.  (2) 特定の植物若しくは動物で稀有なもの又は当該地域に固有な植物若しくは動物で、人為の影響を著しく受けやすいもの等を保存する必要のある場合には、立入制限地区を設け一層の保護を図るものとする。
  3.  (3) 自然災害により損傷が生じた場合には、原則として人為を加えず、可能な限り、自然条件での遷移によって復元を図るものとする。
  4.  (4) 当該地域の自然を観察し、調査し、研究するとともに、必要最小限の保全事業を執行し、厳正な管理を図るものとする。

3 自然環境保全地域の指定方針

  優れた天然林が相当部分を占める森林、その区域内に生存する動植物を含む自然環境が優れた状態を維持している海岸、湖沼、湿原又は河川、植物の自生地、野生動物の生息地等でその自然環境が優れた状態を維持しているもの等で一定の広がりをもった地域について、農林漁業等地域住民の生業の安定、福祉の向上、資源の長期的確保等自然的社会的諸条件を考慮しながら、指定を図るものであるが、特に次に掲げるものについては、速やかに指定を図るものとする。

  1.  (1) 人の活動による影響を受けやすいぜい弱な自然で破壊されると復元困難な地域
  2.  (2) 自然環境の特徴が特異性、固有性又は希少性を有するもの
  3.  (3) 当該地域の周辺において開発が進んでおり、又は急激に進行するおそれがあるために、その影響を受け、優れた自然状態が損なわれるおそれのあるもの

4 自然環境保全地域の保全施策

  自然環境保全地域の保全対象である特定の自然環境を維持するため、自然環境の状況に対応した適正な保全を図るものとする。

  1.  (1) 当該地域の生態系構造上重要な地区及び生態系の育成を特に図ることを必要とする地区、あるいは特定の自然環境を維持するため特に必要がある地区等で、保全対象を保全するために必要不可欠な核となるものについては、その必要な限度において、特別地区又は海域特別地区に指定し、保護を図るものとする。
  2.  (2) 当該特別地区における特定の野生動植物で稀有なもの、又は固有なものを保存する必要がある地区については、野生動植物保護地区を指定するものとする。
  3.  (3) 普通地区については、それが有する緩衝地帯としての役割が十分維持されるよう保全を図るものとする。
  4.  (4) 当該地域内において自然災害等により損傷が生じた場合は防災上の観点とともに生態学的調査結果を踏まえ復元等を図るものとする。
  5.  (5) 当該地域においては、適正な管理を図り、必要な保全事業及び生態系維持回復事業を実施するものとする。
  6.  (6) 国土の保全その他公益との調整、住民の農林漁業等の生業の安定及び福祉の向上に配慮するものとする。

5 沖合海底自然環境保全地域の指定方針

  海洋では、海山、熱水噴出域、湧水域、海溝、深海平原及び大陸斜面といった海底地形等の特徴に応じて、様々な生態系が形成されている。これらの生態系は、生物多様性上の価値及び海洋資源としての価値を有することから、これらの生態系を含む自然環境を保全する意義は大きい。また、重要な科学的情報源であり、その学術的意義も大きい。

  海洋の生態系は、陸域の生態系と比較して科学的に解明されていない事象が多く、特に沖合域においては、沿岸域ほど高い精度で科学的知見が蓄積されていない。他方、海洋に関しては海洋産業の育成による持続可能な開発・利用も重要な政策として推進されており、これに伴う沖合域の海底のかく乱等は、生態系に対して不可逆的な影響を与えてしまうおそれがある。

  このため、現在ある知見を基に、我が国の海山、熱水噴出域、湧水域、海溝、深海平原及び大陸斜面等の海底地形、地質又は自然の現象に依存する特異な生態系を含む自然環境が優れた状態を維持していると認める海域について、漁業等の生業の安定、資源の長期的確保、近隣国・地域との関係等自然的社会的諸条件を考慮しながら、一定の広がりをもって指定を図るものである。具体的には、「生物多様性の観点から重要度の高い海域」のうち沖合海底域に係るものを踏まえ、指定するものとする。なお、指定後の自然環境の変化、海洋資源の経済的価値の変化及び科学的知見の充実(海洋資源に係る知見の充実を含む。)等に伴う自然的社会的諸条件の変化が確認された場合には、海洋資源の開発及び利用という面も考慮しつつ、各分野の有識者から意見を聴取した上で、政府部内での十分な協議、社会的な合意形成等を経て、沖合海底自然環境保全地域の指定の見直しをできるものとする。ただし、沖合海底自然環境保全地域の指定を解除する際には、解除に伴う自然環境の保全への影響を考慮した適切な海域を新たに沖合海底自然環境保全地域に指定することを前提とする。なお、沖合海底自然環境保全地域については、定期的に点検を行うこととする。

6 沖合海底自然環境保全地域の保全施策

  沖合海底自然環境保全地域の保全対象である特定の自然環境を維持するため、自然環境の状況に対応した適正な保全を図るものとする。

  1.  (1) 当該地域の生態系構造上重要な地区及び生態系の育成を特に図ることを必要とする地区、あるいは特定の自然環境を維持するため特に必要がある地区等で、保全対象を保全するために必要不可欠な核となるものについては、その必要な限度において、沖合海底特別地区に指定し、保護を図るものとする。
  2.  (2) 沖合海底自然環境保全地域のうち、沖合海底特別地区に含まれない区域については、それが有する緩衝地帯としての役割が十分維持されるよう保全を図るものとする。
  3.  (3) 自然災害により損傷が生じた場合には、原則として人為を加えず、可能な限り、自然条件での遷移に委ねるものとする。
  4.  (4) 当該地域の自然を観察し、調査し、研究を推進し、科学的知見の充実に努めるものとする。
  5.  (5) その他公益との調整、漁業等の生業の安定に配慮するものとする。

7 都道府県自然環境保全地域の指定の基準

  都道府県自然環境保全地域は、自然環境が自然環境保全地域に準ずる土地の区域を対象とするものであり、次により指定を行うものとする。

  1.  (1) 自然環境保全地域の指定方針に準ずるものとするが、区域の設定は保護対象を保全するのに必要な限度において行うものとする。
  2.  (2) 都市地域において、優れた自然環境が残されている地域については、都市計画との調整を図りつつ、指定するものとする。
  3.  (3) 地域の指定は、私権の制約等を伴うものであるから、当該地域に係る住民及び利害関係人の意見を聴くなど、自然環境保全地域の指定手続に準じて行うものとする。

8 都道府県自然環境保全地域の保全施策の基準

  都道府県自然環境保全地域の保全対象である特定の自然環境を維持するため、自然の状況に対応した適正な保全を図り、必要に応じて積極的な復元を図るものとする。

  1.  (1) 特別地区、野生動植物保護地区及び普通地区の指定等については、自然環境保全地域に準じて行うものとする。
  2.  (2) 当該地域内において自然環境に損傷が生じた場合には、当該自然環境の特性と損傷の状況に応じ、速やかに復元又は緑化を図るものとする。
  3.  (3) 当該地域が小面積である場合には、地域外と接する部分の取扱いに特に注意を払い、必要に応じて樹林帯等を造成し、保護を図るものとする。
  4.  (4) 当該地域については、適正な管理を図り、必要な保全事業を実施する。
  5.  (5) 国土の保全その他の公益との調整、住民の農林漁業等の生業の安定及び福祉の向上に配慮するものとする。

9 自然環境保全地域等と自然公園法その他の自然環境保全を目的とする法律に基づく地域との調整の方針

  自然環境の適正な保全を総合的に推進するためには、本法に基づく4種の地域のみならず、自然公園その他の自然環境保全を目的とする法律に基づく各種の地域の指定が促進され、それらの保全が積極的に図られなければならないが、その際の自然環境保全地域等と他の地域との調整は、おおむね次のとおり行うものとする。

  1.  (1) 原生自然環境保全地域は、それが保有する自然環境の重要性に鑑み、現に自然公園、その他自然環境保全を目的とする法律に基づく地域に含まれているものであっても、自然公園としての利用等からも十分検討し、厳正に保全を図るべきものにつき指定するものとする。
  2.  (2) 自然環境保全地域及び都道府県自然環境保全地域は、自然公園の区域外において指定するものとする。ただし、現に都道府県立自然公園の区域に含まれている優れた自然の地域にあっては、当該地域の自然の特質、周辺の自然的社会的条件を検討し、場合により、関係都道府県と十分協議の上、自然環境保全地域へ移行させるものとする。
  3.  (3) 都市計画区域においては、自然環境保全地域と都道府県自然環境保全地域の指定は、原則として市街化区域については行わないものとし、その他の区域については良好な都市環境の形成を目的とする緑地保全地域と重複しないようにする等の調整を図りつつ行うものとする。