法令・告示・通達

人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律の施行について

公布日:昭和46年06月30日
法務省刑事(刑)92号

法務省刑事局長から検事総長・検事長・検事正あて

 過般の第六四回臨時国会において成立した標記法律は、昭和四五年一二月二五日法律第一四二号として公布され、きたる七月一日から施行されることとなつた。
 この法律は、最近における公害の実情にかんがみ、工場又は事業場における事業活動に伴つて人の健康に係る公害を生じさせる行為等について特別の処罰規定等を設けることにより、公害の防止に関する他の法令に基づく規制と相まつて人の健康に係る公害の防止に資することを目的として制定されたものであり、現行の刑法の規定によつては処罰しえない行為を処罰しうるものとしていること、公害発生の主体ともいうべき事業主に対しても刑罰を科しうるものとしていること等の点において、当面の要請にこたえるところが少なくないと考えるが、その立案及び国会における審議の過程において、立法の要否、規定の内容、運用方針等全般にわたつて種々の論議を呼んだことは周知のとおりであり、それだけに今後におけるこの法律の運用については、国民各界各層ともそれぞれの立場において深い関心を寄せているものと考えられる。
 したがつて、この法律の運用にあたつては、あくまでも厳正公平な態度を堅持し、必要に応じ、関係諸機関の意見をも徴して、事犯の実態に即した適切妥当な検察権の行使に努められたいのであるが、特に具体的事件の捜査処理に際しては、その適否いかんが社会一般に少なからぬ影響を及ぼすものであることに留意し、事実の認定、各規定の解釈、適用等について慎重に配慮することはもとより、被害の程度、住民感情の動向、行政規制の状況、企業側の態度等の諸般の事情についても十分に検討を加え、適宜上級庁の指揮を仰ぐ等その措置に遺憾なきを期し、さらに、警察その他の関係機関に対しても随時適切な助言、指導を行なつて本法制定の趣旨及び運用上の問題点を徹底させるよう配慮し、もつて、この法律の適正な運用を図られたい。
 なお、この法律の制定に際し、衆議院及び参議院の各法務委員会において別紙(一)及び(二)の附帯決議がなされているので、了知されたく、また、各規定に関する当局の解釈等については、既配布の検察資料一五五号「人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律解説」を参照されたい。
 右命により通達する。

別紙(一)

  人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律案に対する附帯決議

    (衆議院法務委員会昭和四五、一二、一〇)

  1. 1 政府は、複雑多岐にわたる公害の実情にかんがみ、不断の努力によりいやしくも企業責任が現場責任者のみに転嫁されることのなきよう努める等適切な運用をはかるとともに、今後公害の状況に応じ必要により関係法令について所要の改正措置を講じ、将来いわゆる食品薬品公害等の防止についても規制措置を検討するなど公害の防止に万全を期すること。
  2. 2 政府は、公害監視につき適切な措置を講ずることによりいわゆる公害事犯の未然防止及びその的確な把握に努めるとともにこの種の事件の迅速かつ適正な処理に資するため裁判、検察その他関係機関について人的物的両面にわたりその整備強化をはかること。
      右決議する。

別紙(二)

  人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律に対する附帯決議

    (参議院法務委員会昭和四五、一二、一八)

 いわゆる複合公害についても、刑法の共犯の条件がみたされる場合には、本法の適用がある。
 よつて、政府においては、この種の事件についても積極的に取締るべきである。
 右決議する。