法令・告示・通達

筑後・佐賀平野地盤沈下防止等対策要綱の推進について

公布日:昭和60年08月15日
環水企291号

(佐賀県知事・福岡県知事あて環境庁水質保全局長通達)

 昭和六〇年四月二六日地盤沈下防止等対策関係閣僚会議において標記要綱の決定が別添のとおり行われた。
 本要綱は、昭和五六年一一月一八日の地盤沈下防止等対策関係閣僚会議の決定に基づき定められたものであり、筑後・佐賀平野における地盤沈下の防止と地下水の適正な保全を図るため、同地域の実情に応じた総合的な対策を推進しようとするものである。
 ついては、貴職におかれても、本要綱決定の趣旨その他左記の事項に留意の上、筑後・佐賀平野における地盤沈下の防止と地下水の保全が適切かつ円滑に行われるよう各般の施策の実施方お願いする。また、本通知の貴管下関係市町村への周知方お願いする。

 一 要綱決定の趣旨について

   本要綱は、筑後・佐賀平野において広域にわたつて地盤沈下が生じ、これに伴う著しい被害が生じていることにかんがみ、同地域における地盤沈下を防止し、併せて地下水の保全を図るため、同地域の実情に応じた総合的な対策を推進することを目的としている。

 二 要綱の対象地域について

  1.   (一) 本要綱の対象地域は、地盤が沈下し、地下水の水位が異常に低下し、又は塩水が混入し、このため災害又は生活環境に係る被害が生じ、又は生ずるおそれのある地域及び帯水層の連続性からみてこれと一体的にとらえる必要のある地域を含めた一つのまとまりのある地域について、関係地方公共団体の意見を勘案して要綱別表に定めているものである。
  2.   (二) 規制地域は、対象地域のうち、地下水の採取により地盤が著しく沈下し、地下水の水位が異常に低下し又は塩水が相当程度混入し、このため災害又は生活環境に係る被害が生じ又は生ずるおそれのある地域及びこれらの地域に著しい影響を与え、又は与えるおそれのある地域であつて、一体的に地下水採取の削減に関する措置をとる必要のある地域について、関係地方公共団体の意見を勘案して要綱別表に定めているものである。
  3.   (三) 観測地域は、対象地域のうち規制地域以外の地域について、要綱別表に定めているものである。

 三 地下水採取に係る目標量について

   規制地域内における地下水採取目標量は、最新の科学的知見に基づき、年間地下水採取量と水準測量の結果求められた年間の沈下体積との相関関係等を勘案して、地盤沈下を停止させ得ると見込まれる地下水採取量を求めて定めているものである。

 四 地盤沈下防止等対策について

  要綱五(一)(1)の「要請」については、要綱の目的に照らし現行条例の適切な運用等を求めているものである。

五 観測及び調査について

   観測及び調査は、対象地域における地盤沈下等の状況を把握し、要綱による地盤沈下の防止等の実効の程度を掌握する上で重要なものであり、貴職におかれても観測体制の充実等を図られたい。

六 要綱の推進について

  1.   (一) 本要綱の推進に当たつては、関係地方公共団体が密接な関連を有していること、関係地方公共団体が主体となつて実施するものも含まれていること等から、国と関係地方公共団体が連携をとりつつ推進することが不可欠であり、貴職におかれても、国の施策に準じて、地域の実情に応じた具体的な施策の推進を図られたい。
  2.  (二) 要綱八(三)について
       要綱八(三)の「その他必要な援助」については、現に継続している諸施策についての国の財政上、金融上の援助が中心となるが、新たな施策に対する措置についても、これを排除するものではなく、毎年度の予算編成過程で必要に応じて、所管ごとに具体的な検討を行うこととしているものである。
  3.  (三) 要綱八(五)について
       要綱の推進に万全を期するため、国土庁は、毎年度関係省庁及び関係地方公共団体の協力を得て、要綱の実施状況をとりまとめることとしている。
       具体的には、国土庁が対象地域における地盤沈下の状況、地下水採取量、地盤沈下による被害の実情、対策諸事業の実施の状況等について毎年度とりまとめることとし、更に、国において、これらの状況を総合検討し、必要な施策についても検討を行うこととしているので、貴職におかれても、要綱の実施状況の把握等に努められたい。

別表
   筑後・佐賀平野地盤沈下防止等対策要綱

(昭和六〇年四月二六日)
(地盤沈下防止等対策関係閣僚会議決定)

 一 要綱の目的

   この要綱は、筑後・佐賀平野において地下水の採取により地盤沈下及びこれに伴う著しい被害が生じていることにかんがみ、同地域における地盤沈下を防止し、併せて地下水の保全を図るため、地下水の採取制限、代替水源の確保及び代替水の供給、節水及び水使用の合理化、地盤沈下による災害の防止又は復旧等に関する事項を定めることにより、同地域の実情に応じた総合的な対策を推進することを目的とする。

 二 筑後・佐賀平野の現況

   筑後・佐賀平野は、東側、西側及び北側をそれぞれ筑肥山地、杵島山地及び脊振山地に囲まれ、南側は有明海に面している。また、周辺部は、比較的小規模な扇状地、氾濫原が分布し、その下流には、三角州、干拓地が広く分布している。
   筑後・佐賀平野は、厚さ数百メートルに及ぶ第四紀層の未固結堆積物から構成されている。その最上部には有明粘土層とよばれる沖積粘土層が分布し、その下部には砂礫層と粘土層とが互層する洪積層が厚く分布し、その間に数層の帯水層がある。有明粘土層は有機質を含み含水比も高く極めて軟弱であるため、地下水位の低下による圧密沈下が生じ易い。
   佐賀平野における地盤沈下は、昭和三三年に注目されるようになり、年間五~一〇cm程度の沈下が続き、昭和四八年には佐賀県杵島郡白石町で年間沈下の最大値一三・〇cmを記録している。
   また、筑後平野において昭和四四年にその徴候が認められ、昭和四八年には大川市で四・八cmの沈下が記録されている。
   このため、地下水の採取規制などの地盤沈下対策が強く求められるようになつた。一方、地下水採取量は、佐賀県の地下水の採取規制の区域内で、昭和五七年度において、佐賀市を中心とした佐賀地区で年間約七〇〇万m3、白石町、有明町等の白石地区で年間約一二〇〇万m3であるが、佐賀地区では、昭和五〇年度以降減少傾向にあり、白石地区では渇水年に増大している。また、福岡県では減少傾向にある。
   地下水位については、佐賀平野のうち、佐賀地区ではやや回復傾向にあり、白石地区では横ばい状態である。しかしながら白石地区では夏期に低下し、冬期に上昇する季節変動が大きい。また、筑後平野においては全体的には回復傾向が見られる。
   これらに対応して白石地区で年間の沈下の最大値は三~五cmと、いまなお沈下が続いている。また、筑後平野においては沈下は鈍化傾向にある。
   この結果これまでの二六年間に白石町においては九六cmの累計沈下を記録し、筑後・佐賀平野におけるゼロメートル地帯(平均朔望満潮位以下の地域)の面積は約二五〇km2に達している。このため、白石地区等では、井戸の抜け上り、建物等構造物の損傷、平時の排水不良、洪水等の湛水等の被害が生じている。また、地下水の塩水化が白石地区の六角川河口付近、筑後平野の大川市等で生じている。

 三 要綱の対象地域

   この要綱の対象地域は、規制地域と観測地域に区分し、規制地域にあつては、地下水の採取に係る目標量を設定し、その達成のための規制、代替水源の確保、代替水の供給及び地盤沈下による災害の防止等に関する措置を講ずる区域とし、観測地域にあつては、地盤沈下、地下水位等の状況の観測又は調査等に関する措置を講ずる区域とし、それぞれ別表に掲げるとおりとする。

 四 地下水採取に係る目標量

   対象地域における地盤沈下を防止し、併せて地下水の適正な保全を図るための、規制地域内における地下水採取目標量(以下「目標量」という。)及びその目標年度は次の表の通りとする。

地区名
目標量
目標年度
佐賀地区
年間六○○万m3
昭和六九年度
白石地区
年間三○○万m3
昭和六九年度

 五 地盤沈下防止等対策

   地下水採取を四の目標量以内に抑制するため、次の施策を推進するものとする。

  1.   (一) 規制地域については、次の施策を推進するものとする。
    1.    (1) 地下水採取規制
           規制地域については、地下水採取規制に関する条例の適切な運用を図る等の措置が講ぜられるよう関係地方公共団体に要請するとともに、地下水採取の自主規制の継続等についても関係地方公共団体と連携をとりつつ指導する。
    2.    (2) 代替水源の確保及び代替水の供給
           水源の表流水への転換を計画的に進める。
          このため、別記一の代替水源の確保に係る事業及び別記二の代替水の供給に係る事業を促進する。また、転換に際し関係地方公共団体と連携をとりつつ、地下水採取者に対し適切な指導を行う。
    3.    (3) 節水及び水使用の合理化
      1.     ① 節水及び水使用の合理化を促進する。
              このため、関係地方公共団体と連携をとりつつ、地下水採取者に対し適切な指導を行う。
      2.     ② ①のほか、効率的な水使用、回収率の向上、漏水の防止等の節水及び水使用の合理化を図るための施策を推進し、地下水の採取量を減少させるよう努める。
  2.   (二) なお、観測地域については、地盤沈下、地下水位等の状況の観測又は調査を行うとともに、適切な地下水の採取について関係地方公共団体と連携をとりつつ指導する。

 六 観測及び調査

  (一) 対象地域における地盤沈下等の状況を把握するため、水準点における水準測量並びに観測井における沈下量、地下水位及び水質の観測を計画的に行うとともに、観測に必要な施設の整備等を進める。
  (二) (一)のほか、井戸の水位及び水質の一斉調査、地下水採取量及び地盤沈下等による被害の実態調査を定期的に行う。また、地質・土質等の関連資料を収集整備し、水収支、塩水化、地下水かん養等に関する調査、解析を行う。

 七 地盤沈下による災害の防止又は復旧

   地盤沈下による湛水災害を防止し、河川管理施設及び土地改良施設の機能を復旧するため、別記三の地盤沈下対策事業を推進する。また、別記四の、地盤沈下による湛水災害の防止と河川管理施設、土地改良施設及び海岸保全施設の機能の復旧に資するその他の関連事業についても推進を図るほか、地盤沈下による抜け上がり等の被害の発生している公共施設等の復旧に資する事業の推進に努めるものとする。

 八 要綱の推進

  1.   (一) 国は、要綱の目的を達成するため、五から七までの事項につき、要綱に基づく施策の積極的な推進を図るものとする。
  2.   (二) 国は、関係地方公共団体に対して、国の施策に準じて、地域の実情に応じた具体的な施策の推進を図るよう要請するものとする。
  3.   (三) 国は、関係地方公共団体等に対して、要綱の目的を達成するため助言、指導、その他必要な援助を行うよう努めるものとする。
  4.   (四) 要綱に基づく施策の円滑な実施を図るため、必要に応じ、国、関係地方公共団体等により構成される協議会を開催するものとする。
  5.   (五) 国土庁は、毎年度関係省庁及び関係地方公共団体の協力を得て、要綱の実施状況をとりまとめるとともに、国は必要に応じ要綱の見直しを行うものとする。
県名
地区名
対象地域
規制地域
観測地域
福岡県
   
久留米市、筑後市、城島町、大木町、三潴町、瀬高町、三橋町、大川市、柳川市、大和町及び高田町の区域
佐賀県
佐賀地区
佐賀市(県道小城北茂安線以南の地域に限る。)、諸富町、川副町、東与賀町、久保田町、大和町(県道小城北茂安線以南の地域に限る。)、牛津町及び芦刈町の区域
佐賀市及び大和町の区域のうち規制地域を除く区域並びに神埼町、千代田町、三田川町、東脊振村、中原町、北茂安町、三根町、上峰村、小城町及び三日月町の区域
白石地区
北方町、大町町、江北町、白石町、福富町及び有明町の区域
鹿島市の区域



     佐賀導水建設事業(建設省)
     城原川ダム建設事業(建設省)
     嘉瀬川ダム建設事業(建設省)
     矢筈ダム建設事業(佐賀県)
     中木庭ダム建設事業(佐賀県)
     以上の他
      必要な代替水源の確保に係る事業

  •    (注) ( )内は事業主体である。以下別記三まで同じ。

     佐賀東部水道用水供給事業(佐賀東部水道企業団)
     筑後川下流用水事業(水資源開発公団)
     筑後川下流土地改良事業(農林水産省)
     筑後川下流白石土地改良事業(農林水産省)
     以上の他
      必要な代替水の供給に係る事業

     白石地区地盤沈下対策土地改良事業(佐賀県)
     地盤沈下対策河川事業―只江川、白石川、廻里江川、別段川、緑郷川、新川(佐賀県)
     以上の他
      必要な地盤沈下対策事業

     土地改良事業(湛水防除事業等)
     河川事業(直轄河川改修事業等)
     海岸事業(直轄海岸保全施設整備事業等)
     以上の他
      必要な公共施設等の復旧に資する事業