法令・告示・通達

在来鉄道の新設又は大規模改良に際しての騒音対策の指針について

公布日:平成7年12月20日
環大一174号

環境庁大気保全局長から各都道府県知事・政令指定都市市長あて

 在来鉄道の新設又は大規模改良に伴い生じる騒音問題を未然に防止するため、環境庁では平成4年9月以来学識経験者等から構成される検討会を設置して検討を行ってきたところであるが、このたび、その結果が別添のとおりとりまとめられた。
 この結果に基づき、鉄道事業法(昭和61年法律第92号)第2条第1項の適用を受ける鉄道のうち普通鉄道(ただし、新幹線鉄道を除く)又は軌道法(大正10年法律第76号)の適用を受ける軌道のうち線路構造が普通鉄道と同様であり鉄道運転規則(昭和62年運輸省令第15号)を準用する軌道であって、新規に供用される区間及び大規模な改良を行った後供用される区間における列車の走行に伴う騒音について、生活環境を保全し、騒音問題が生じることを未然に防止する上で目標となる当面の指針を別紙のとおり定めたので、貴職におかれては、在来鉄道の新設又は大規模改良に係る環境影響評価に際し本指針を活用するなど騒音問題の未然防止に関し、格段のご配意をお願いする。
 また、運転本数の増大は必ずしも線路又は軌道の大規模な改良を伴わないため、この指針の対象とはならないが、そのような場合であっても、運転本数を2倍以上に増大させる場合にあっては、大規模な改良を行う場合に準じた環境対策が講じられるよう、貴職におかれても格段のご配意をお願いしたい。
 なお、関係省庁にこの旨協力を依頼したところであるので申し添える。

〔別紙〕 在来鉄道の新設又は大規模改良に際しての騒音対策の指針について

  在来鉄道の新設又は大規模改良に際して、生活環境を保全し、騒音問題が生じることを未然に防止する上で目標となる当面の指針を次のとおり定める。在来鉄道の新設又は大規模改良工事を施行するに当たっては、本指針に適合できるよう計画するとともに、供用後速やかに、本指針に対する適合性を検証することが望ましい。

 1 対象

   鉄道事業法(昭和61年法律第92号)第2条第1項の適用を受ける鉄道のうち普通鉄道(ただし、新幹線鉄道を除く)又は軌道法(大正10年法律第76号)の適用を受ける軌道のうち線路構造が普通鉄道と同様であり鉄道運転規則(昭和62年運輸省令第15号)が準用される軌道であって、新規に供用される区間(以下「新線」という)及び大規模な改良を行った後供用される区間(以下「大規模改良線」という)における列車の走行に伴う騒音を対象とする。
   ここで、「新線」とは、鉄道事業法第8条又は軌道法第5条の工事の施行認可を受けて工事を施行する区間をいう。また、「大規模改良線」とは、複線化、複々線化、道路との連続立体交差化又はこれに準ずる立体交差化(以下「高架化」という)を行うため、鉄道事業法第12条の鉄道施設の変更認可又は軌道法施行規則(大正12年内務・鉄道省令)第11条の線路及び工事方法書の記載事項変更認可を受けて工事を施行する区間をいう。ただし、平成7年12月19日以前に既に新線又は大規模改良線として工事が認可申請されている区間は、指針の適用の対象外とする。
   なお、本指針は、以下の区間等については適用しないものとする。ただし、これらについても、必要な騒音対策を講じることが望ましい。

  1.   ① 住宅を建てることが認められていない地域及び通常住民の生活が考えられない地域。
  2.   ② 地下区間(半地下、掘り割りを除く)。
  3.   ③ 踏切等防音壁(高欄を含む)の設置が困難な区間及び分岐器設置区間、急曲線区間等ロングレール化が困難な区間。
  4.   ④ 事故、自然災害、大みそか等通常とは異なる運行をする場合。

 2 指針

  在来鉄道の新設又は大規模改良に際して、生活環境を保全し、騒音問題が生じることを未然に防止する上で目標となる当面の指針を次表のとおりとする。

新線
 等価騒音レベル(LAeq)として、昼間(7~22時)については60dB(A)以下、夜間(22時~翌日7時)については55dB(A)以下とする。なお、住居専用地域等住居環境を保護すべき地域にあっては、一層の低減に努めること。
大規模改良線
 騒音レベルの状況を改良前より改善すること。

 (1) 測定方法及び評価

   測定方法及び評価については、以下のとおりとする。

  1.    ① 測定方法は、原則として、当該路線を通過する全列車(上下とも)を対象とし、周波数補正回路をA特性に合わせ、通過列車ごとの騒音の単発騒音暴露レベル(LAE)を測定することとする。ただし、通行線路(上下等)、列車種別、車両型式、走行時間帯(混雑時には列車速度が低くなる場合がある)等による騒音レベルの変動に注意しつつ、測定を行う列車の本数を適宜減じて加重計算しても良い。
  2.    ② LAEから等価騒音レベル(LAeq)の算出は次式によるものとする。
    図:等価騒音レベル(LAeq)の算出の式
        T:LAeqの対象としている時間(秒)。7時~22時はT=54,000、22時~翌日7時はT=32,400
  3.    ③ 測定に当たっては、列車騒音以外の暗騒音との差が10dB(A)以上となるような間を測定すること。なお、暗騒音との差が十分確保できない場合は、近似式である次式により、騒音計のslow動特性を用いて測定したピーク騒音レベル(LAmax)からLAEを算出することが適当である。
        LAE≒LAmax+10log10t
        t:列車の通過時間(秒)
         ただし、貨物列車の場合には、先頭車両(機関車)に対応して大きなピークが計測されるため、この式で算出したLAEより実際のLAEは小さくなる。
  4.    ④ 測定機器は、計量法(平成4年法律第51号)第71条の条件に合格したものを使用する。
  5.    ⑤ 雨天、その他の特殊な天候の日は避けて測定するものとする。

  (2) 測定点の選定

   鉄道(軌道を含む)用地の外部であって、なるべく地域の騒音を代表すると思われる屋外の地点のうち、以下の条件を満たす場所を測定点として選定するものとする。

   ① 近接側軌道中心線からの水平距離が12.5mの地点を選定する。なお、鉄道用地の外部に測定点を確保できない場合には、鉄道用地の外部であって、できるだけ線路に近接した位置を測定点とする。

   ② 高さは地上1.2mとする。

   ③ 窓又は外壁から原則として3.5m以上離れた地点を選定する。なお、窓や外壁の近くで測定した場合、その反射の影響により、3dB(A)程度数値が高くなることがある。

  (3) 注意事項

    本指針の適用に当たっては、以下の点に注意すること。

  •    〇 この指針は、許容限度や受忍限度とは異なること。
  •    〇 測定方法が異なる場合、これらを単純に比較することはできないこと。
  •    〇 この指針は、在来鉄道の走行音に係る住民反応調査等を設定の基礎資料としたものであるため、その他の騒音の評価指標として使用することはできないこと。

  (4) 指針の見直し

    本指針については、設定に際しての基礎資料を適宜再評価することにより、必要に応じ改定する。

 3 その他

  1.   ① 学校、病院その他特に静穏さを要求する施設、線路に著しく近接した施設等があらかじめ存在していた場合など、特殊な事情により騒音問題が発生する場合には、必要に応じた対策を講じること。
  2.   ② 測定点と異なる場所において鉄道騒音が問題となる場合には、参考のため、当該問題となる場所においても併せて測定を行うことが望ましい。

〔参考〕

(運輸省鉄道局長宛)

  在来鉄道の新設又は大規模改良に伴い生じる騒音問題を未然に防止するため、環境庁では平成4年9月以来学識経験者等から構成される検討会を設置して検討を行ってきたところであるが、このたび、その結果が別添のとおりとりまとめられた。
  この結果に基づき、鉄道事業法(昭和61年法律第92号)第2条第1項の適用を受ける鉄道のうち普通鉄道(ただし、新幹線鉄道を除く)又は軌道法(大正10年法律第76号)の適用を受ける軌道のうち線路構造が普通鉄道と同様であり鉄道運転規則(昭和62年運輸省令第15号)を準用する軌道であって、新規に供用される区間及び大規模な改良を行った後供用される区間における列車の走行に伴う騒音について、生活環境を保全し、騒音問題が生じることを未然に防止する上で目標となる当面の指針を別紙のとおり定めたところである。
  ついては、本指針に基づく騒音対策が適切かつ円滑に実施されるよう、鉄道事業者及び軌道経営者に対する指導について貴職の御協力をお願いする。
  なお、運転本数の増大は必ずしも線路又は軌道の大規模な改良を伴わないため、この指針の対象とはならないが、そのような場合であっても、運転本数を2倍以上に増大させる場合にあっては、大規模な改良を行う場合に準じた環境対策が講じられるよう、併せて貴職の御協力をお願いする。
  また、本指針については、都道府県知事及び政令指定都市市長宛通知したので念のため申し添える。

(建設省道路局長宛)

―前略―
  ついては、本指針に基づく騒音対策が適切かつ円滑に実施されるよう、貴職の御協力をお願いする。
 また、本指針については、都道府県知事及び政令指定都市市長宛通知したので念のため申し添える。

(建設省都市局長宛)

―前略―
  ついては、鉄道及び軌道に係る都市計画事業の実施に当たっての騒音の抑制のための対策が適切かつ円滑に実施されるよう、貴職の御協力をお願いする。
  なお、本指針については、都道府県知事及び政令指定都市市長宛通知したので念のため申し添える。

[別添]
  在来鉄道の新設又は大規模改良に際しての騒音対策の指針について

平成7年12月20日
  環境庁在来鉄道騒音指針検討会

目次

 委員名簿

  1.  1 経緯
  2.  2 指針の性格と対象
    1.   1) 指針の性格
    2.   2) 対象とする騒音
  3.  3 騒音の評価指標
  4.  4 指針の設定
    1.   1) 時間の区分
    2.   2) 指針値設定の基礎資料
      1.    ① 住民の騒音に対する意識調査
      2.    ② WHOが示した騒音に係るクライテリア
      3.    ③ 諸外国における鉄道騒音についての指針等
      4.    ④ 技術的対応可能性
        1.     ア) ピーク騒音レベル
        2.     イ) 等価騒音レベル
    3.   3) 指針の提案
  5.  5 測定方法
    1.   1) 測定点の選定
    2.   2) 測定方法及び評価
  6.  6 その他

委員名簿

 [委員名簿]

  座長 石井 聖光 東京大学名誉教授
     芦田  淳 南海電気鉄道株式会社取締
           役鉄道事業本部次長

(7年度)

     家田  仁 東京大学工学部教授
     池田 靖忠 西日本旅客鉄道株式会社鉄
           道本部施設部長

(4~5年度)

     大山 忠夫 (財)鉄道総合技術研究所
           高速低騒音新幹線開発部長

(4~6年度)

     桑野 園子 大阪大学人間科学部助教授
     須田 征男 東日本旅客鉄道株式会社取
           締役施設電気部長

(6~7年度)

     橘  秀樹 東京大学生産技術研究所教
           授
     田中 丈晴 運輸省交通安全公害研究所
           交通公害部音響研究室長
     辻本三郎丸 兵庫県立公害研究所第一研
           究部主任研究員
     徳岡 研三 西日本旅客鉄道株式会社鉄
           道本部施設部長

(6~7年度)

     野口 達雄 (財)鉄道総合技術研究所
           環境防災技術開発推進部長

(7年度)

     則武  晋 京王帝都電鉄株式会社取締
           役鉄道事業本部長
     林  禎彦 南海電気鉄道株式会社取締
           役鉄道事業本部次長

(4~6年度)

     福西 幸夫 東日本旅客鉄道株式会社取
           締役施設電気部長

(4~5年度)

     吉田 拓正 国立公衆衛生院建築衛生学
           部居住環境衛生室長

 [作業グループ]

  主査 橘  秀樹 東京大学生産技術研究所教
           授
     上原 幸雄 東京都環境保全局大気保全
           部騒音振動課企画調整係次
           席
     上部  忠 東日本旅客鉄道株式会社施
           設電気部担当部長・環境保
           全課長
     加来 治郎 (財)小林理学研究所騒音
           振動第三研究室長
     川井  清 西日本旅客鉄道株式会社鉄
           道本部施設部環境対策室長
     桑野 園子 大阪大学人間科学部助教授
     辻本三郎丸 兵庫県立公害研究所第一研
           究部主任研究員
     森藤 良夫 (財)鉄道総合技術研究所
           環境防災技術開発推進部主
           幹技師
     山本 拓郎 南海電気鉄道株式会社鉄道
           事業本部工務部保線課長
     吉田 拓正 国立公衆衛生院建築衛生学
           部居住環境衛生室長
     和田  宏 京王帝都電鉄株式会社工務
           部長

 [事務局]
   環境庁大気保全局自動車環境対策第1課
     100 東京都千代田区霞ケ関1―2―2
     Tel 03―3581―3351(代表)
     Fax 03―3593―1049

1 経緯

  鉄道については、新幹線を対象として、昭和50年7月29日に環境基準が設定、告示された。当時、新幹線について環境基準が設定されたのは、周辺住民に対し各種被害が生じており、一部の地域においては深刻な社会問題となっていたとの認識に基づくものである。
  一方、新幹線以外のいわゆる在来鉄道による騒音については、中央公害対策審議会では、騒音評価方法、周辺住民に及ぼす影響等なお調査研究すべき課題が多く残されておりこれらの検討の成果を待って設定すべきと整理され(昭和47年12月19日)、個別の事例ごとに所要の対策が講じられることにより問題の解決が図られてきた。
  しかしながら、昭和63年3月と4月に開通した津軽海峡線と瀬戸大橋線において、開通当初から多数の苦情が発生した。これらのケースでは、種々の対策が講じられることにより苦情件数は減少したが、騒音問題が生じることを未然に防止することの重要性が改めて認識された。
  また、我が国では、大都市地域や全国的な幹線道路の沿道を中心に自動車交通に起因する大気汚染問題が生じており、鉄道は、利便性の確保という観点のみならず、地域レベルの大気汚染の改善や地球環境の保全の面からも整備が望まれている。
  このような状況の中で、在来鉄道の新設、大規模改良に伴う環境の急変による騒音の問題の未然防止が必要との観点から、地方公共団体等の間で対策指針の設定を要望する声が高まった。
  以上の背景から、環境庁では、「在来鉄道騒音指針検討会」を平成4年9月17日に発足させ、合計9回にわたり、在来鉄道の新設又は大規模改良に際しての騒音対策の目標となる指針を設定すべく検討を重ねた。本報告は、この検討結果をとりまとめたものである。

2 指針の性格と対象

 1) 指針の性格

   この検討会では、前述の経緯を踏まえ、在来鉄道の新設又は大規模改良に際して、生活環境を保全し、騒音問題が生じることを未然に防止する上で目標となる当面の指針を提案することとした。このような指針の性格上、在来鉄道の新設又は大規模改良に際し、この指針に適合できるよう計画し、また、供用後速やかに、指針に対する適合性を検証することが望ましいものと考える。なお、この指針については、設定に際しての基礎資料を適宜再評価することにより、必要に応じ改定等を行う必要がある。

 2) 対象とする騒音

   今回提案する指針は、鉄道事業法(昭和61年法律第92号)第2条第1項の適用を受ける鉄道のうち普通鉄道(ただし、新幹線鉄道注を除く)又は軌道法(大正10年法律第76号)の適用を受ける軌道のうち線路構造が普通鉄道と同様であり鉄道運転規則(昭和62年運輸省令第15号)が準用される軌道注であって、新規に供用される区間(以下「新線」という)及び大規模な改良を行った後供用される区間(以下「大規模改良線」という)における列車の走行に伴う騒音を対象とすることとする。

   注 新幹線とは、主たる区間を列車が200km/h以上の高速度で走行できる幹線鉄道(全国新幹線鉄道整備法)。新幹線規格新線(いわゆるスーパー特急)は環境基準を準用しているのでこの指針の対象外とする。一方、新幹線直通線(いわゆるミニ新幹線)は、在来鉄道に分類される。

   注 大阪市営地下鉄、名古屋鉄道豊川線、近畿日本鉄道東大阪線及び京阪電鉄京津線(予定)が該当する。
   ここで、「新線」とは、鉄道事業法第8条又は軌道法第5条の工事の施行認可を受けて工事を施行する区間をいう。また、「大規模改良線」とは、複線化、複々線化、道路との連続立体交差化又はこれに準ずる立体交差化(以下「高架化」注という)を行うため、鉄道事業法第12条の鉄道施設の変更認可又は軌道法施行規則(大正12年内務・鉄道省令)第11条の線路及び工事方法書の記載事項変更認可を受けて工事を施行する区間をいう。ただし、いずれもこの指針が示された時点で既に新線又は大規模改良線として工事が認可申請されている区間は、指針の適用の対象外とする。

   注 連続立体交差化とは、鉄道と幹線道路とが2カ所以上において交差し、かつ、その交差する両端の幹線道路の中心間距離が350m以上ある鉄道区間について、鉄道と道路とを3カ所以上において立体交差させ、かつ、2カ所以上の踏切道を除却することを目的として、施工基面を沿線の地表面から隔離して、既設線に相応する鉄道を建設することであるが、ここでは、厳密にこの定義に該当しなくとも、相当程度の長さの立体交差化も準ずるものとして想定した。
   なお、以下の区間等については、指針の適用については対象外とすることが適当と考える。ただし、これらについても、必要な騒音対策を講じることが望ましい。

  •   〇 住宅を建てることが認められていない地域注及び通常住民の生活が考えられない地域注。
    •   注 都市計画法(昭和43年法律第100号)第9条第12項に定める工業専用地域等
    •   注 都市計画法に基づく用途地域の定めがなく定められる予定もない地域であって、相当数の住宅等の立地も見られない地域。
  •   〇 地下区間(半地下、掘り割りを除く)。
  •   〇 踏切等防音壁(高欄を含む)の設置が困難な区間、及び分岐器設置区間、急曲線区間等ロングレール化が困難な区間。
  •   〇 事故、自然災害、大晦日〈おおみそか〉等通常とは異なる運行をする場合。
      駅構内での放送等、線路、ヤード等における作業騒音、踏切音を対象とせず、列車の走行音のみを対象としたのは、件数ベースで鉄道騒音に係る苦情の74%が列車走行音に起因(環境庁調べ、昭和62~平成5年度)していたため、列車の走行音に検討を限定したことによるものである。列車の走行音以外の騒音については、住民反応調査及び技術的評価を行っていないので、今回提案する指針の適用は困難である。

3 騒音の評価指標

  ヒトが耳で感じる音の大きさは基本的には音圧の大小によるが、その表示量として一般に音圧レベル(単位:デシベル、dB)が用いられる。この量は対象とする音圧をp、基準の音圧をp0(=2×10-5Pa)としたとき、10×log10(p/p0)2であらわされる。
  音圧レベルという表示法が用いられる理由は、人が耳で聞くことのできる音圧の範囲が10^5以上の範囲にも及ぶこと、また、音圧の絶対値で表すよりもこの表示法で表した方が感覚的な大小とも良く対応する(「Weber―Fechnerの法則」という)ことなどによる。なお、この音圧レベルで表せば、やっと聞き取れる程度の小さな音から耳を覆いたくなるような大きな音までが0~120dB程度の数値範囲に収まる。
  また、音の大小の感覚は、音の周波数にも依存し、ヒトの場合、約1000~4000Hzで最も感度が高いことが知られている。そこで、いろいろな周波数の成分を同時に含む音を感覚的な大きさに近い量として評価する場合、ヒトの耳の感度を近似的に反映させたA特性と呼ばれている周波数関数(聴感補正特性)の重み付けをした音圧レベルが用いられる。この音圧レベルを特に騒音レベル(又はA特性音圧レベル)といい、単位としてデシベル(記号dB(A)又はdB)が用いられる。
  一般に環境の騒音レベルは、時々刻々変動する。パーセント時間率騒音レベル(通常、Lxで表記)は、一定時間間隔ごとに測定した騒音データをもとに累積度数曲線を描いたとき、累積度数が100―X%に相当する騒音レベル(すなわち、X%除外値)であり、我が国では、一般騒音及び道路騒音については、L50値で環境基準を設定している。一方、新幹線騒音については、ピーク騒音レベル(通常、LAmaxで表記)で環境基準を設定しており、連続する20本の通過列車に対して、騒音計のslow動特性を用いて測定したピークレベルを読みとり、うち高い半数をエネルギー換算した後の平均値(パワー平均という)で評価している。さらに、航空機騒音については、ピーク騒音レベルを騒音の発生時間帯(昼間/朝夕/夜間)の重み付けをして評価したWECPNL値で環境基準を設定している。
  これらの従来から使用してきた評価方法については、在来鉄道騒音の評価方法として使用した場合、以下の通りと考えられる。すなわち、

 〇 パーセント時間率騒音レベルのうち、これまで一般騒音及び道路騒音の評価に使ってきたL50は、鉄道騒音のような間欠性騒音の評価には適していない。

 〇 ピーク騒音レベルLAmaxは、睡眠妨害防止の観点からは有用な指標となりうるが、騒音の発生頻度や継続時間を反映しないので、指標として単独で使用することは不適切とされている。
  これらの評価指標のほか、近年、国際的には、変動する騒音レベルのエネルギー的な時間平均値、すなわち、対象とする時間内に発生する騒音の全エネルギーをその時間で平均し、これを騒音レベルに戻した値である等価騒音レベル(通常、LAeqで表記)という評価方法が広く用いられている。等価騒音レベルは、騒音の発生頻度や継続時間を含めて評価することが可能である。また、ISO(International Organization for Standardization)1996(音響―環境騒音の記述と測定)では、環境騒音の統一的な評価指標として等価騒音レベルを推奨している。さらにこれを受けて、後述するようにWHO(World Health Organization)の騒音に係るクライテリア、諸外国の鉄道騒音に係る指針等も等価騒音レベルが基本評価量として用いられている。
  このような状況を踏まえると、我が国で在来鉄道の新設又は大規模改良に際しての騒音対策の指針を定めるに当たっては、等価騒音レベルによる評価を基本とすることが適当である。

4 指針の設定

 1) 時間の区分

   新幹線の環境基準については、6~24時という列車の運行形態を念頭に置いて、時間区分を設けずに設定され、「将来、当該時間以外の時間において新幹線鉄道が通常の形態として運行されることとなる場合においては、本環境基準は必要な改訂が行われるものであること。」とされた。このような経緯を踏まえると、在来鉄道については、就寝時間を考慮し「夜間」という時間帯を追加する必要がある。
   一般騒音(道路騒音を含む)の環境基準に係る時間帯の区切りは、都道府県によって異なるが、夜間は21ないし22時~5ないし6時とされている。また、航空機騒音の場合では、夜間は22~7時とされている。
   在来鉄道の新設又は大規模改良に際しての騒音対策の指針においては、我が国の実態を踏まえ、7~22時を昼間、その他を夜間とするのが適当と考える。

 2) 指針値設定の基礎資料

   在来鉄道の新設又は大規模改良に際しての騒音対策の指針を定めるに当たっては、以下の①~④の項目を総合的に判断することが適当と考える

  ① 住民の騒音に対する意識調査

    騒音の生活環境に対する影響を評価するに当たって、住民の騒音に対する意識調査を利用することが多い。この調査の結果は、居住者の慣れ、価値観等によって反応にばらつきが生じるが、調査計画に際しての慎重な配慮と統計的手法により、客観的かつ科学的把握も可能である。
    このような騒音に対する大規模な意識調査としては、我が国では表1の3つが存在する。

表1 我が国における在来線鉄道線騒音に係る大規模な住民反応調査

調査主体
調査年度
サンプル数
調査地点
環境庁
環境庁
東京都
昭和50~59
平成4~5
昭和58
4,331
1,069
830
全国57地点
全国9地点
都内15地点


    これらの意識調査は、「あなたは、毎日の生活の中でそれらの音をどのように感じていますか?」という質問を、自動車、飛行機、電車、工場、建設工事及びその他の項目に分け、

    全然うるさくない1.........2.........3.........4.........5.........6.........7非常にうるさい

   に〇を付してもらう形式で調査員による訪問面接調査を行ったものであるが、等価騒音レベル(LAeq,24時間値)と反応率注の関係を図示すると図1のとおりとなる。

   注 ここでは、「全然うるさくない」を1、「非常にうるさい」を7としたとき、上図は5、6又は7を、下図は6又は7を回答した者の割合のことをいう。
    図1から、反応率30%に対応するLAeq(24時間値)を読みとると、前記7段階の内5以上を回答した者(図1中(5+6+7)/(1~7)で表記した)については概〈おおむ〉ね45~55dB(A)、前記7段階の内6以上を回答した者(図1中(6+7)/(1~7)で表記した)については50~60dB(A)となる。

図1 在来鉄道に関する住民反応調査結果1

図1 在来鉄道に関する住民反応調査結果2
 図1 在来鉄道に関する住民反応調査結果

(環境庁の50,51年度調査では、騒音のピークレベルのみを計測したので、これと単発騒音暴露レベルの関係及び列車本数を基に等価騒音レベル値を推定した。)

 ② WHOが示した騒音に係るクライテリア

    WHOは1993年に産業、交通、建設・土木等に起因する騒音に係るクライテリアの草案を示した。この草案はまだ確定していないが、以下のとおり推奨値が示されている。

  •   〇 1mの距離でのリラックスした会話を妨害しない観点から、完全に内容を理解できるようにするためには約45dB(A)以下、かなり理解できるようにするためには約55dB(A)以下、話し手が少し大声で話すことも許容する場合は約65dB(A)以下とすることを推奨する。
  •   〇 難聴を防止する観点から、LAeq(8時間値)として75dB(A)以下とすることを推奨する。また、ピーク値が130~150dB(A)になるとそのリスクは増加する。
  •    〇 睡眠を妨害しないためには、REM睡眠の割合の減少等を指標に検討した結果、寝室内でLAeqとして30dB(A)以下注、LAmaxとして45dB(A)以下とすることを推奨する。また、屋外では、窓を開けて就寝することも考慮するとLAeqとして45dB(A)以下とすることを推奨する。
       注 WHOが1980年に示したクライテリアでは、レベル変動が小さい騒音については、一般の人に睡眠影響が出ない上限値をLAeqとして35dB(A)としている。
  •    〇 日中の定常騒音の場合、バルコニー、テラス、その他屋外において、甚だしく悩まされること(seriouslyannoyed)を防止するためにはLAeqとして55dB(A)以下、中程度に悩まされること(moderatelyannoyed)を防止するためにはLAeqとして50dB(A)以下とすることを推奨する。また、夕~夜間には、さらに5~10dB(A)低くするべきである。
        このWHOのクライテリアでは、その他、心臓疾患、精神生理、作業能力及び社会行動の観点についても言及しているが、これらについては、十分な知見がなく、指針を示せないと記述されている。
        また、欧州の多くの国では、技術、経済面での可能性を考慮し、WHOのクライテリアを目標としつつも10dB(A)程度大きな値を交通騒音対策の指針等としているとされている(五十嵐寿一、騒音制御、19[2]、 1995)。
        なお、家屋の遮音性能については、最近の外国の報告(H.E.vonGierke
  ③ 諸外国における鉄道騒音についての指針等

    諸外国では、ヨーロッパ地域を中心として、鉄道騒音についての指針等が示されている。これらの指針等は、性格、沿線の状況、測定(又は予測計算)する場所等が異なり、数値のみの単純な比較はできないことに注意が必要である。
    各国の新線又は大規模改良に係る鉄道騒音指針等を列記すると表2のとおりである。また、既設線に起因する鉄道騒音に係る指針等を列記すると表3のとおりであり、設定済み若しくは設定を計画している国は少ない。
表2 各国の新線又は大規模改良に係る鉄道騒音指針等(住居地域、屋外、環境庁調べ)

国名
LAeq上限値(dB(A))
法的拘束力
備考
昼間
夜間
終日
オーストリア
65~70
(6―22)
55~60
(22―6)
 
 最も騒音が大きそうな点について予測計算し、左値と比較。左値は、建設/改造前の騒音レベルに応じて範囲の中で選択。
デンマーク
   
60
推奨値
 原則として新線のみに適用。大規模改良線はケースバイケース。ただし、計画時には拘束力がある許容限度として使用。LAmax≦85dBAも併用
フランス
65
(8―20)
 新線のみ。この指針を超えた場合には、住宅防音対策を実施。第2、3世代TGVに対しては62、60dB(A)への移行を予定。
ドイツ
64
(6―22)
54
(22―6)
有(許容限度)
 予測計算の結果、超過が予想される場合は防音対策の計画を要求できる。事後に超過した場合、事業者から防音補償を受けられる。
オランダ
60
(7―19)
50
(23―7)
60
 超過時には原則として事業者が住宅防音工事を実施するが、下段の許容限度未満の場合は免除可。LAeq(19~23時)≦55dB(A)。
73
(7―19)
63
(23―7)
73
有(許容限度)
 既設線にも適用。屋内騒音レベルも規定。LAeq(19~23時)≦68dB(A)。
ノルウェー
   
55~60
 建設中のオスロ空港線に対する指針。予測計算で評価。LAmax(22~6時)≦70~80dB(A)を併用。
55
 他の新線・大規模改良に適用する提案値。予測計算で評価。室内でLAeq,24h≦30dB(A)。室外LAmax(22~6時)≦80dB(A)、室内はLAmax(22~6時)≦50dB(A)。
スウェーデン
60
 95年設定予定。室内LAeq,24h≦30dB(A)かつLAmax(22~6時)≦50dB(A)。大規模改良線にあってはLAeq,24hで+10、LAmaxで+5dB(A)。


 注 指針等に適合しない場合の措置に係る拘束力について示したものであるが、当該措置に要する費用は、必ずしも鉄道事業者側のみが負担するものではなく、行政が負担している事例もある。

表3 各国の既設線に係る鉄道騒音指針等(住居地域、屋外、環境庁調べ)

国名
LAeq上限値(dB(A))
備考
昼間
夜間
終日
オランダ
73
(7―19)
68
(19―23)
63
(23―7)
73
許容限度(再掲→表2)
ノルウェー
スウェーデン
     
73
75
騒音改善のためのパイロット計画。
95年設定予定。室内LAeq,24h≦45dB(A)かつLAmax(22~6時)≦60dB(A)。
  ④ 技術的対応可能性

   ア) ピーク騒音レベル
     平成4年度及び5年度に通勤に使用されている在来鉄道(いずれもロングレールを使用し、高欄又は防音壁が存在するもの)の騒音を調査した。これらの結果を近接側軌道中心線からの水平距離=12.5m、高さ=1.2mの条件のもとで整理するとLAmax(slowピーク騒音値。以下同様。)は表4のとおりとなった。表4に示したとおり、線路構造や軌道構造が同じであっても、騒音レベルは必ずしも同一とはならないが、これは、高欄の高さ、車両又は軌道に関する保守、車両そのものの特性などが要因となっているものと考えられる。なお、この表の中で平均LAmaxを列車速度を変えて換算しているが、これは環境庁が調査した地点については実測結果による関係式に基づき、また、鉄道事業者が調査した結果については経験式である(1)式に基づき行ったものである。なお、表4の騒音レベルは算術平均であるが、パワー平均と比較して約1dB(A)過小になっているので、その評価に当たっては、この点を考慮する必要がある。
    LAmaxv1=30log10(v1/v2)+LAmaxv2 (1)
    LAmaxv:速度vkm/hのときのslowピーク騒音値
     表4をもとに、騒音対策として水準の高い技術を採用している路線における騒音レベルの平均的水準をもって騒音対策の技術的目標(ここでは速度90km/hベースでのLAmax)とするという考え方にたって、路線構造別に考察すると、以下のとおりである。なお、平均的水準を超える騒音レベルの路線については、当面は、車輪踏面、レール踏面の削正のような保守管理の充実、さらにはモーターフアン音の低減(例えば内扇型への移行)のような車両対策の推進が重要であり、今後、騒音対策効果に係るデータの収集、整理に努める必要がある。

  •     〇 高架バラスト軌道...高架バラスト軌道を全体としてみると、74dB(A)程度が平均的な水準となった。しかし、バラストマットないし吸音性高欄(吸音材を使用した防音壁)のような追加対策を講じている3路線に関しては、他〈ほか〉の路線より騒音レベルが低い傾向が見られ、69~71dB(A)となった。
  •     〇 高架スラブ軌道...高架スラブ軌道を全体としてみると、79dB(A)程度が平均的な水準となった。しかし、高架スラブ軌道についても吸音性高欄(吸音材を使用した防音壁)を設置することは可能であり、これにより2dB(A)程度の騒音の低減が可能である。また、消音バラストについては、採用例が少なく現時点での定量的評価が困難であるが、1~2dB(A)程度の騒音の低減が可能とされている。なお、防振スラブについては、普通スラブと比較して騒音レベルを低減する効果は認められなかった。
  •     〇 盛土軌道(バラスト)...平均的な水準は76dB(A)程度となった。さらに吸音材を使用した防音壁を使用できることを考慮すれば、これにより2dB(A)程度の騒音の低減が可能である。
  •     〇 地平軌道(バラスト)...地平軌道に防音壁を設置している3例については、LAmaxの平均的水準は78dB(A)となった。さらに吸音材を使用した防音壁を使用できることを考慮すれば、これにより2dB(A)程度の騒音の低減が可能である。
         以上より、LAmaxとして75dB(A)程度以下という水準を騒音対策の技術的目標とする注。なお、高架バラスト軌道については70dB(A)程度となっている。また、列車速度が大きくなると騒音レベルは大きくなる傾向があり、120km/hの時、LAmaxは79dB(A)程度以下(高架バラスト軌道は73dB(A)程度)となる。
  •    注 東葉高速鉄道(西船橋~勝田台)及び首都圏新都市鉄道(秋葉原~つくばの一部区間)においても、環境保全目標としてLAmax≦75dB(A)(上位半数のパワー平均。本路線構造物端から10mまでの区域等を除く。)が使用された。なお、首都圏新都市鉄道の走行速度は最高130km/hである。

表4 構造別に見た在来鉄道のピーク騒音レベル(LAmax)速度換算値

線路・
 
 
調査地点
 
調査
 
 
騒音対策
 
 
その他
 
地上高
 
高欄高
 
平均速度
 
平均LAmax(dBA)
90km/h
120km/h
軌道構造
主体
(m)
(m)
(km/h)
ベース
ベース
高架(バラスト)
民鉄―A線
環境庁
バラストマット
 
7.6
1.3
79
69.0
71.5
軌道
民鉄―B線
環境庁
バラストマット
 
7.9
1.2
86
70.2
71.4
 
民鉄―C線
環境庁
吸音性高欄
 
9.0
1.0
86
69.2
73.7
 
3線平均
           
69.5
72.2
 
JR―A線
環境庁
 
6.7
1.2
84
76.4
80.2
 
JR―B線
環境庁
 
7.2
2.0
81
72.6
78.0
 
JR―C線
環境庁
 
7.3
1.4
94
70.2
74.8
 
JR―D線
環境庁
 
9.4
1.2
92
74.0
75.5
 
民鉄―D線
環境庁
 
9.0
1.0
96
71.5
76.7
 
JR―B線
事業者
 
7.6
1.0
77
77.0
80.8
 
JR―E線
事業者
 
5.8
0.9
82
75.2
79.0
 
JR―F線
事業者
 
6.5
1.5
60
75.3
79.0
 
JR―C線
事業者
 
7.0
1.3
78
75.9
79.6
 
JR―D線
事業者
 
9.0
1.2
96
75.2
78.9
 
10線平均
           
74.3
78.3
 
高架(バラスト)軌道平均
       
73.2
76.9
高架(スラブ)
JR―A線
環境庁
消音バラスト
防振スラブ
5.5
2.1
76
77.2
81.2
軌道
JR―A線
環境庁
消音バラスト
 
6.2
1.5
81
74.8
79.2
 
JR―B線
環境庁
 
9.2
1.0
88
75.3
74.9
 
JR―D線
環境庁
 
7.6
1.0
80
79.5
81.2
 
JR―H線
環境庁
 
9.5
1.5
81
74.4
78.0
 
JR―G線
事業者
 
4.5
1.5
81
75.4
79.1
 
JR―I線
事業者
防振スラブ
6.5
1.5
87
79.4
83.2
 
JR―I線
事業者
防振スラブ
5.3
1.5
85
76.7
80.5
 
JR―A線
事業者
 
8.9
0.8
71
80.1
83.8
 
JR―B線
事業者
 
8.4
1.1
82
78.2
82.0
 
JR―B線
事業者
 
7.0
1.0
81
78.4
82.1
 
JR―D線
事業者
 
7.4
1.2
97
77.0
80.8
 
JR―D線
事業者
 
6.9
1.2
66
81.0
84.8
 
高架(スラブ)軌道平均
       
77.5
80.8
盛土軌道
JR―F線
環境庁
 
4.3
1.1
85
74.1
79.0
 
JR―A線
環境庁
 
3.3
1.3
81
72.2
71.7
 
JR―B線
事業者
 
5.3
1.2
63
77.6
81.4
 
盛土軌道平均
       
74.7
77.3
地平軌道
民鉄―C線
環境庁
 
1.3
84
74.8
76.5
 
JR―J線
事業者
 
2.2
74
78.6
82.3
 
JR―K線
事業者
 
1.3
77
76.0
79.8
 
地平軌道平均
         
76.5
79.5
*ロングレールであり、近接側軌道から水平距離=12.5m、高さ=1.2mの地点での評価結果。

   イ) 等価騒音レベル
     ここで得られた騒音対策の技術的目標を等価騒音レベル(LAeq)に換算する必要がある。通過列車ごとの騒音の単発騒音暴露レベル(車両が1回通過する間の騒音レベルのエネルギー平均値、LAE)とLAeqの間には次の(2)式の関係がある。
図:(2)式
    T:LAeqの対象としている時間(秒)。7時~22時はT=54,000、22時~翌日7時はT=32,400
     単発騒音レベルのパワー平均を
LAmaxとし、運行本数をnとすると、以下のとおりとなる。
図:(3)式
     また、LAmaxとのLAE間には次の(4)式の関係注2があることが知られている。
    LAE≒LAmax+10log10t
    t:列車の通過時間(秒) (4)

     (3)式と(4)式を組み合わせることにより、lmの列車がvkm/hで走行した場合、LAmaxのパワー平均を
LAmaxとすれば、
図:(5)式
    が得られる。
     列車の長さを160m(8両編成)、列車速度を90km/h、
LAmaxを75dB(A)とし、LAeqを試算した。この結果は図2のとおりである。

   注 貨物列車の場合には、先頭車両(機関車)に対応して大きなピークが計測されるため、(4)式で算出した単発騒音レベルLAEより実際のLAEは小さいので注意が必要である。

図2:列車本数と技術的に対応可能な等価騒音レベルの関係
 図2 列車本数と技術的に対応可能な等価騒音レベルの関係

 (LAmax=75dB(A)、列車速度90km/h、8両編成の場合)
     最近開業した新線の運行本数について調べた結果、表5が得られた。図2と表5から、LAmax=75dB(A)の場合、新線についてはLAeq(7~22時)は60dB(A)程度以下、LAeq(22~7時)は55dB(A)程度以下にすることが可能と考えられる。
     さらに、最近供用された大規模改良線のうち、運行本数が大きいものについて調べた結果、表6が得られた。図2と表6から、大規模改良線については、運転本数が多い路線もあり、新線と比較して5dB(A)程度大きくなってしまう状況もあることがわかった。
     なお、貨物列車と旅客列車の両方が走行する区間については、その合計の運転本数は大規模改良線と同様の範囲内である。しかし、貨物列車は、列車の長さが長いため、旅客列車とLAmaxが同じであっても、LAEが約2dB(A)大きい傾向があり、この結果、夜間の等価騒音レベルはさらに約1dB(A)大きくなる場合がある。

表5 最近供用された新線*1の運行本数及び列車速度

会社名―路線名
位置
開業年月
列車本数
7~22
[本]
22~7
速度*2
[km/h]
JR北海道―津軽海峡線
JR東日本―成田線
JR四国―本四備讃線
首都圏都市鉄道
京王帝都電鉄―相模原線
小田急電鉄―多摩線
相模鉄道―いずみ野線
名古屋市交通局
大阪府都市開発
南海電気鉄道―空港線
神戸電鉄―公園都市線
神戸電鉄―公園都市線
木古内~中小国
成田~成田空港
児島~宇多津
秋葉原~つくば
多摩センター~橋本
多摩センター~唐木田
いずみ野~いずみ中央
上小田井~庄内緑地公園
光明池~和泉中央
泉佐野~りんくうタウン
横山~フラワータウン
フラワータウン~ウッディタウン中央
88/3
91/3
88/4
2000/4
90/3
90/3
89/4
93/8
95/4
94/6
91/10
95予定
101
76
118
276
258
190
244
342
248
152
120
120
53
2
17
38
41
46
48
38
64
24
26
26
73~83
62
49~83
~130
53~76
56~73
48
75
82
46~51
46
46
  1.  *1 1985年以降で予定を含むJR及び大手民鉄の路線。
  2.  *2 2種類記述があるものは緩行と急行の速度である。

表6 最近供用された大規模改良線*1の運行本数及び列車速度

会社名―路線名
位置
種別
列車本数
7~22
[本]
22~7
速度*2[km/h]
JR東日本―中央本線
東京~神田
高架化(95/7)
518
102
43
JR東海―東海道本線
稲沢~尾張一宮
高架化(94/1)
328
98
45~103
JR東海―東海道本線
三河三谷~三河塩津
高架化(01/3予定)
215
87
55~100
JR西日本―阪和線
美章園~杉本町
高架化(02/3予定)
543
91
40~78
東武鉄道―伊勢崎線
竹の塚~大袋
高架・複々線化(98/3予定)
629
114
56~91
京成電鉄―押上線
立石~青砥
高架化(87/3)
698
118
32~51
小田急電鉄―小田原線
喜多見~和泉多摩川
高架・複々線化(97/3予定)
650
124
43~91
東京急行―東横線
多摩川園~日吉
高架・複々線化(97/12予定)
580
88
36~46
京浜急行―本線
新馬場~大森海岸
高架化(93/12)
574
82
88
名古屋鉄道―名古屋本線
金山~神宮前
複々線化(90)
866
142
55~57
京阪電気鉄道―本線
枚方公園~御殿山
高架化(90/3)
538
92
48~62
南海電気鉄道―本線
萩の茶屋~岸里玉出
高架化(95/11)
1033
169
48~94
阪神電鉄―本線
武庫川~尼崎
高架化(94/1)
519
93
49~84
  1.  *1 1985年以降で予定を含むJR及び大手民鉄の路線のうち運行本数又は列車速度が大きいもの。
  2.  *2 2種類記述があるものは緩行と急行の速度である。

 3) 指針の提案

   これらの基礎資料をもとに、在来鉄道の新設又は大規模改良に際して、生活環境を保全し、騒音問題が生じることを未然に防止する上で目標となる当面の指針を次表のとおりとすることを提案する。

新線
 等価騒音レベル(LAeq)として、昼間(7~22時)については60dB(A)以下、夜間(22時~翌日7時)については55dB(A)以下とする。なお、住居専用地域等住居環境を保護すべき地域にあっては、一層の低減に努めること。
大規模改良線
 騒音レベルの状況を改良前より改善すること。


   注 原則として、都市計画法第9条第1項から第7項に定める第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第二種中高層住居専用地域、第一種住居地域、第二種住居地域及び準住居地域をいい、例えば、これらと同様の土地利用状況にある地域、前記用途地域への指定予定がある地域を含む。
   なお、この指針は、許容限度や受忍限度とは異なることに注意する必要がある。また、測定方法が異なれば単純に比較することはできないことのほか、本指針は、在来鉄道の走行音に係る住民反応調査等を設定の基礎資料としたものであるため、その他の騒音の評価指標として使用することはできないことに注意が必要である。

5 測定方法

 1) 測定点の選定

   在来鉄道の新設又は大規模改良に際しての騒音対策の指針に対する適合性を調査するために騒音を測定する場合、鉄道(軌道を含む)用地の外部であってなるべく地域の騒音を代表すると思われる地点のうち、以下の条件を満たす屋外の場所を測定点として選定するものとする。
  〇 近接側軌道中心線からの水平距離については、新幹線に係る騒音に関し25m及び50mの地点で測定してきた経緯があり、在来鉄道においても同様の地点で測定してきたが、在来鉄道沿線は新幹線沿線より近接して住宅が存在する場合が多いことを考慮し、12.5mの地点を選定するものとする。なお、この水平距離であれば、一部の例外を除き、鉄道用地の外部に測定点を確保することができるが、確保できない場合には、鉄道用地の外部であって、できるだけ線路に近接した位置を測定点とするものとする。

  〇 高さは地上1.2mとする。

  〇 窓又は外壁から、原則として3.5m以上離した地点を選定する。これは、窓や外壁の近くで測定した場合、その反射の影響により、3dB(A)程度数値が高くなることがあるためであり、JIS(日本工業規格)及びISOにおいてもこの旨規定されている。

 2) 測定方法及び評価

   原則として、当該路線を通過する全列車(上下とも)を対象とし、周波数補正回路をA特性に合わせ、通過列車ごとの騒音の単発騒音暴露レベル(LAE)を測定することとする。ただし、通行線路(上下等)、列車種別、車両型式、走行時間帯(混雑時には列車速度が低くなる場合がある)等による騒音レベルの変動に注意しつつ、測定を行う列車の本数を適宜減じて加重計算しても良い。LAEからLAeqへの算出は(2)式に示したとおりである。
   この測定に当たっては、列車騒音以外の暗騒音との差が10dB(A)以上となるような間を測定することが必要である。なお、暗騒音との差が十分確保できない場合は、近似式である(4)式により、騒音計のslow動特性を用いて測定したピーク騒音レベル(LAmax)からLAEを算出することが適当である。
   また、使用する機器については、計量法(平成4年法律第51号)第71条の条件に合格したものを使用すべきである。
   なお、雨天、その他の特殊な天候の日は避けて測定するものとする。

6 その他

  1.  ① 学校、病院その他特に静穏さを要求される施設、線路に著しく近接した施設等があらかじめ存在していた場合など、特殊な事情により騒音問題が発生する場合には、必要に応じた対策を講じることが望ましい。
  2.  ② 測定点と異なる場所において、鉄道騒音が問題となる場合には、参考のため、当該問題となる場所においても併せて測定を行うことが望ましい。