法令・告示・通達

水質汚濁防止法の施行について

公布日:昭和46年07月31日
環水管12号

[改定]
昭和60年8月1日 環水管181号

(各都道府県知事あて環境事務次官通知)
 近年における産業活動の急速な拡大、人口の都市集中等に伴い、公共用水域の水質の汚濁問題は、全国各地で発生をみるに至るとともに、汚濁の態様も複雑化してきている。これにより、指定水域制をとる水質保全法体系による排水規制制度は、この事態に対処し得ないこととなり、このため、第六四回国会において、同法体系を抜本的に改善する排水規制法として、水質汚濁防止法(昭和四五年法律第一三八号。以下「法」という。)が制定された。
 本法は、昭和四五年一二月二五日に公布され、また水質汚濁防止法施行令(昭和四六年政令第一八八号。以下「令」という。)水質汚濁防止法施行規則(昭和四六年総理府令、通商産業省令第二号。以下「規則」という。)および排水基準を定める総理府令(昭和四六年総理府令第三五号。以下「府令」という。)は、それぞれ昭和四六年六月一七日、同一九日および同二一日に公布され、いずれも同月二四日から施行された。
 今後の水質汚濁の防止は、本法の運用に万全を期してこそ確保されるものであり、貴職におかれては、左記事項に留意され、水質公害の防止に遺憾なきを期せられたい。
 以上命により通達する。

一 本法制定の趣旨

  本法は、旧水質保全法および旧工場排水規制法に代替するものとしてこれらの旧水質二法の制度上の欠陥を改善すべく、その運用を通じて得られた反省の上に制定されたものである。
  本法制定の趣旨を、旧水質二法との関連において明らかにすると、次のとおりである。

 (一) 後追い行政の是正

   旧水質保全体系では、排水規制は、水質汚濁問題が発生し、または発生するおそれのある水域を順次指定水域に指定したうえで、行なうこととされていたため、水質汚濁問題の発生の後を追いかける仕組みとなつていた。
   本法では、この点を是正することとし、排水規制については、指定水域制を廃止し、公共用水域のすべてを対象として、行なうこととした(法第三条、第一二条等)。これにより後追い行政といわれた旧制度を改善し、公共用水域の水質汚濁の事前予防に万全を期することとしたものである。

 (二) 排水基準遵守の強制方法の強化

   旧水質保全体系のもとでの排水規制の仕組みは、

  1.   ① 汚水発生施設(特定施設等)の設置の際の事前届出制と設置計画の変更命令制
  2.   ② 汚水発生施設の設置後における排水基準違反に対する汚水処理方法等の改善命令制の二つがその根幹であり、水質基準違反行為に対しては、直ちに罰則が適用されることはなく、単に、以後における汚水処理方法等の改善を命ぜられるにとどまつていた。この仕組みは、水質基準の遵守を強制する措置としては、これでは、必ずしも十分ではないため、本法では排水基準違反は、直ちに処罰し得ることとするいわゆる直罰主義を採用した(法第一二条および第三一条)。またこれに伴い、改善命令は、従来の懲罰的な措置としてではなく、予防措置として規定するとともに、旧工場排水規制法では明文の規定がなかつた操業の停止に関し、排出水の排出の一時停止命令制を明文化した。これにより、排水基準の遵守強制の仕組みを格段に強化したものである。

 (三) 都道府県段階への権限委譲

   旧水質保全法体系のもとでの水質基準の設定は、経済企画庁長官、その遵守強制の措置は、原則として主務大臣が行なうという国の直轄方式をとつていたが、この仕組は、本来は、すぐれて地域的問題である水質汚濁問題の解決にあたつて、行政の能率化と地域の実情の反映に問題なしとしなかつた。また、公害対策基本法(以下「基本法」という。)では、かかる見地から第六四回国会における改正により、水質汚濁に係る環境基準(以下「水質環境基準」という。)の類型あてはめの権限についても、都道府県知事に委任できることとされ、これとの均衡を図る必要も生じた。
   このため、本法においては、排水規制の権限は、原則として都道府県段階に委譲することとし、排水基準の設定については、国の定めた基準よりもきびしい基準を都道府県条例で定め得ることとし、また、排水基準の遵守強制の措置に関する権限は、原則として都道府県知事のものとすることとした。

 (四) 公共用水域の監視測定体制の整備

   旧水質保全法体系の下では、排水規制の効果を確認するための公共用水域の水質の監視測定体制についての規定がなかつた。公共用水域の水質の測定は、国、都道府県、市町村等がそれぞれの必要性に応じて個別に行なわれるなど、統一的な見地からする監視測定は、必ずしも確保されていなかつた。このため、公共用水域の監視測定体制は、十分なものとはいえなかつた。
   本法では、この点を是正することとし、公共用水域の水質の監視測定のために一章を設け、規定を整備した(法第三章)。これにより、公共用水域の水質の常時監視測定が確保され、監視測定結果が、排水基準の見直し、排水基準遵守状況の点検等に活用され、排水規制の実施にあたつて、効果的な行政運営を期待することとした。

 (五) 法体系の一元化

   旧水質保全法体系では、水質基準の設定は、旧水質保全法、その遵守強制のための措置は、事業場の種類ごとに、旧工場排水規制法、鉱山保安法、と畜場法、へい獣処理場等に関する法律、水洗炭業法、砂利採取法、採石法、下水道法、清掃法、建築基準法および旧船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律の各法によることとされていた。その結果、単に規制根拠法が多岐にわたるのみでなく、排水基準遵守強制の仕組みも多様であり、行政の一元性を欠いていた。
   本法では、この点を是正するため、排水基準の設定とその遵守強制措置とは、原則としてすべて本法の定めるところによることとし、法体系の一元化を図ることとした。

 (六) その他の改善

   本法においては、以上のほか、旧水質保全法体系の運用を通じて得られた反省の上に、次のような諸改善を行なつている。

  ア 公共用水域の範囲の拡大

    終末処理場がなく、かつ、流域下水道に接続していない公共下水道および都市下水路を公共用水域とすることとした(法第二条第一項)。

  イ 色および温度による水質汚濁の取扱いの明確化

    「水質の汚濁」および「排出水の汚染状態」の用語には、色および熱によるものを含むこととした(法第一条、第三条第一項)。

  ウ 規制対象事業場の範囲の拡大

    従前は、第二次産業関係を中心としていたが、本法では第一次産業や第三次産業に属する事業場も対象とし得ることとした(法第二条第二項)。

  エ 異常渇水等緊急時の措置の創設

    河川等の異常渇水時における水質の汚濁の防止については、排水基準による排水規制では対処し得ないので、これに関する措置を定めた(法第一八条)。

  オ 立入検査権の整備

    排水基準設定のためにも強制立入検査ができることとした(法第二二条第一項)。

  カ 公物管理者の役割の明確化

    公物としての公共用水域の管理者の水質汚濁防止行政上の役割を明確化した(法第二四条第三項)。

  キ 法律と条例との関係の明確化

    従来必ずしも明らかでなかつた法律と条例との関係を明確化した(法第二九条)。

二 本法の目的

  本法の目的は、工場、事業場から公共用水域に排出される水の排出を規制すること等により、公共用水域の水質の汚濁の防止を図り、もつて国民の健康を保護するとともに生活環境を保全することである(法第一条)。本法は基本法のいわば実施法であつて、その意味で本法の目的も基本法の目的(同法第一条)に即して定められたものである。
  従つて、本法に用いられている生活環境の定義は、基本法第二条第二項の定義と同一であるので、運用上留意されたい。

三 本法の規制対象

  本法による排水規制の対象は、特定事業場から公共用水域に排出される水である。

 (一) 公共用水域の範囲

   公共用水域の範囲については、法第二条第一項で定めている。

  1.   ア 同項中の「その他公共の用に供される水域」としては、沿岸海域以外の海域を含み、また「その他公共の用に供される水路」としては、公共の用に供される水域に接続する公共溝渠、かんがい用水路等にさらに接続する水路を含む。
  2.   イ 公共用水域の範囲には、①公共下水道であつて、終末処理場を設置しているもの、②公共下水道であつて終末処理場を設置している流域下水道に接続するもの、③流域下水道であつて、終末処理場を設置しているものの三者は、含まれない。下水道法の建前では、公共下水道または流域下水道であつて終末処理場を有さないものまたは終末処理場を有しない公共下水道であつて流域下水道に接続していないものはあり得ない。従つて、法第二条第一項で規定する「終末処理場を設置しているもの」あるいは「その流域下水道に接続する公共下水道」とは、終末処理場を「現に」設置しているもの、あるいは、終末処理場を「現に」設置している流域下水道に「現に」接続している公共下水道をいい、設置または接続計画中のものは含まれない。
        これらの公共下水道や流域下水道を公共用水域の範囲から除外した趣旨は、これらの下水道はそれ自体一種の事業場と考えられ、本法の規制対象とし得るためこれらを、公共用水域として扱い、そこに排出される工場、事業場の排水を本法で規制対象とする必要はないと考えられたからである。
        なお、旧水質保全法では、このほか、終末処理場を設置していない公共下水道と処理場を設置していない都市下水路についても「これらを一律に公共用水域から除外していた。しかし、これらの公共下水道や都市下水路(これについては、下水道法改正により、今後は処理場を設置しているものは制度上なくなることとなる。)は、「機能上、一般河川と区別する理由に乏しく、本法上は公共用水域として取り扱うこととした。

 (二) 特定事業場と特定施設

  1.   ア 本法による排水規制対象事業場は、全工場、事業場ではなく「特定事業場」であり、(法第二条第三項、第一二条第一項等)「特定事業場」とは「特定施設」を設置する工場または事業場である。
  2.   イ 「特定施設」は、政令で指定されることとされており、(法第二条第二項)、法施行にあたつては、水質汚濁防止を図るうえで必要な施設は、ほぼ網羅的に、特定施設として指定した(令第一条)。
        このうち、公共下水道および流域下水道の終末処理場が「下水道終末処理施設」として、またいわゆる共同汚水処理工場の施設が、「特定事業場から排出される水(公共用水域に排出されるものを除く。)の処理施設」として指定されたことに、留意されたい(令別表第一第七三号および第七四号)。また、旧水質保全法では規制対象外であつた洗濯業、写真現像業、自動車等の洗浄業等の第三次産業関係の施設が対象となつている(令別表第一第六七号、第六八号および第七一号)。
  3.   ウ 特定施設の政令による指定は、政令で定める有害物質を含む汚水等、政令で定める項目に関して生活環境を阻害するおそれのある程度の汚水等を排出する施設につき行なわれる(法第二条第二項第一号および第二号)。このうち、政令で定める有害物質としては基本法に基づき水質環境基準が定められている物質を指定している。また、生活環境に係る項目としては水質環境基準が定められている項目のほか、旧水質保全法の水質基準の対象にされていた項目を指定している(令第二条および第三条)。

四 排水基準の設定

  本法による排出水の排出の規制(法第二章)は、各特定事業場に対して、排出水の汚染状態の許容限度としての排水基準を遵守させることにより行なわれる。排水基準の設定は、法第三条により行なわれる。
  なお、排水基準は、熱による排出水の汚染状態(いわゆる温熱排水)についても定めることができる旨明定された(法第三条第一項)。また、色によるものは、「汚染状態」の用語には当然含まれる概念として、明文の規定は設けていない。ちなみに、これらについては、排水基準の設定を検討中である。

 (一) 総理府令で定める排水基準

  1.   ア 法第三条第一項の規定に基づき政令で定められた排水基準は、全公共用水域を対象として、全特定事業場につき一律に適用されるものである(府令第一条)。
        全特定事業場につき一律のものとして定めたのは全特定事業場から排出される水の汚染状態の最低限の基準を設定する趣旨であり、その水準はBOD等の一般的な水質汚濁を示す指標に関しては、一般家庭汚水の水質と同程度の水質を確保する見地から定められている。これは、水域ごとの排水量の総量が著しく多量のものとならない限り、特定事業場からの排出水の水質を一般家庭汚水の水質と同程度に維持することによつて、河川等の自然浄化作用により公共用水域の水質の汚濁を防止できるとの考えにもとづくものである。
        この排水基準を全公共用水域につき共通のものとして定めたのは、旧水質保全法における指定水域主義の反省の上に考えられたものである。水質の汚濁がまだ進行していない水域についても、水質汚濁の未然防止を図る必要があり、各水域の水質の汚濁の程度を問わず、全水域を対象に排水基準を定めることとしたものである。
  2.   イ 府令で定める排水基準は、府令別表第三の業種の欄に掲げる一定の業種に属する特定事業場については、法施行後五年間に限り、暫定的にゆるい基準を設けている(府令第二条)。これらの業種は、汚水処理技術が未開発なもの、府令第一条の一律基準を遵守するための大規模な汚水処理施設の設置あるいは生産工程の変更等に一定の期間を要するからである。
  3.   ウ 府令で定める排水基準は、その違反に対して直罰規定(法第一二条、第三一条)を設けたこととの関連もあり、原則的には排出水の汚染状態の最大値で定めているが、BOD等一定の項目については、最大値とあわせて日間平均値を採用している。また、BODは河川への排出水に、CODは海域と湖沼への排出水に限り適用することとしている(府令別表第二備考四)。さらに、いわゆる生活環境項目に関しては、排水量五〇m3日未満の工場、事業場については適用しないこととしている(府令別表第二備考二)。このため、日間平均値の定義、河川と湖沼あるいは海域との境界区分、一日当たりの平均的な排出水の量が五〇立方メートルであることの定義等を明らかにする必要があり、これらについては別途通達する。

 (二) 都道府県条例で定める排水基準

  1.   ア 都道府県は、府令で定める排水基準では水質汚濁防止上不十分と考えられる水域については、条例で、府令で定める排水基準にかえて適用すべきよりきびしい排水基準(以下「上乗せ排水基準」という。)を定めることができる(法第三条、第三項)。その際にはあわせて、当該水域の区域の範囲を明らかにしなければならない(同条第四項)。
    1.    (ア) 上乗せ排水基準は、府令で定める排水基準のすべてに代替するものではない。府令で定める排水基準は、法第二条第二項第一号の物質又は同項第二号の項目ごとに設定されるものであるから、上乗せ排水基準もこれらの項目または物質ごとに設定され、当該物質または項目に係る府令で定める排水基準に代替するのみである。なお、上乗せ排水基準は、対象物質または項目ごとに府令で定める排水基準にかえて適用されるものであるから、それ以外の物質または項目を対象とすることは、上乗せ排水基準としてはできない。ただし、これらについて、法第二九条に規定する条例による排水規制を行なうことを妨げるものではない。
    2.    (イ) 上乗せ排水基準の設定は、府令で定める排水基準の検定方法(府令第三条)を前提として行なうのを原則とする。なお、一日当りの平均的な排出水の量が五〇立方メートル未満である工場等府令で定める排水基準の全部又は一部が適用されないこととされている特定事業場(府令別表第二備考二から四まで)に係る排出水については、当該特定事業場に適用されないことにされている当該排水基準の対象物質または項目について、最もゆるい許容限度が定められているものとして、当該物質または項目につき上乗せ排水基準を設定することができるものとして取り扱うこととする。
  2.   イ 上乗せ排水基準の設定は、政令で定める基準に従い条例で行なわなければならない(法第三条第三項)。条例で定める基準の水準は、水質環境基準が定められているときは、その維持のために必要かつ十分な程度のものにしなければならない(令第四条)。また、上乗せ排水基準の設定にあたつては、対象水域、対象物質または項目別の基準値、対象特定事業場等の基本的事項については、条例で直接行なうものである。
    1.    (ア) 「水質汚濁に係る環境基準が定められているとき」とは、府令で定める排水基準の対象物質または項目につき水質環境基準が定められている場合という趣旨である。この場合において、当該対象物質または項目のうち、生活環境の保全に関する水質環境基準の対象項目であるものについては、公共用水域ごとに類型のあてはめをしてはじめて水質環境基準が定められたこととなるものであるが、令第四条の趣旨からしてこの種のあてはめに係る項目についての上乗せ排水基準の設定は、あてはめを行なつてから行なうものとして運用することとする。なお、水質環境基準の対象項目以外の項目については、都道府県において適宜公共用水域の水質汚濁防止の目標を設定のうえ、上乗せ排水基準を設定することができる。
           都道府県条例により特定事業場を対象として府令が定める排水基準の対象物質または項目につき行なわれてきた排水規制が、本法による排水規制に移行することにより基準がゆるくなる場合にあつては、早急にこれに代替する上乗せ排水基準を設定することが水質汚濁防止上必要である。従つて、この種の場合には、類型あてはめ、あるいは上述の目標の設定なしに上乗せ排水基準を設定することができるものとして運用することとする。
           なお、環境基準の達成期間および下水道整備等他の施策との関連に十分留意するものとする。
    2.    (イ) なお、令第四条では「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律第三条第一項の規定により指定された対策地域における農用地の土壌の同法第二条第三項の特定有害物質による汚染を防止するため水質環境基準を基準とせず定められる条例の規定を除く」と規定しているが、これは同法に基づき指定された当該地域におけるカドミウム等特定有害物質による農用地の土壌の汚染を防止するためには、当該有害物質につき水質環境基準が設定されている場合にあつても、当該環境基準を基準とせず、上乗せ排水基準を設定できるという趣旨である。
  3.   ウ 上乗せ排水基準を定める場合には、都道府県知事はあらかじめ、環境庁長官および関係都道府県知事に通知しなければならない(法第三条第五項)。この趣旨は、国が上乗せ排水基準設定状況を早期には握するとともに、二以上の都道府県にまたがる水域(県際水域)について上乗せ排水基準の設定が行なわれる場合に、関係都道府県(例えば、上流県と下流県、左岸県と右岸県)の上乗せ排水基準相互間に基準の設定時期または基準の内容に著しい跛行性が生ずることを防止しようとするものである。従つて、上乗せ排水基準の設定を行なおうとする場合には、当該都道府県知事はできるだけ早い機会にこれを通知されたい。なお、県際水域については、この通知制度の趣旨にかんがみ、基準設定時期は関係県が同一日付でするよう努めるとともに、基準のレベルの斉合性の確保には十分留意されたい。
        この事前通知の様式等その取扱いについては、別途通知する。
  4.   エ 上乗せ排水基準の設定または変更については、環境庁長官の勧告制が定められている(法第四条)。
        なお、法第三条第三項による上乗せ排水基準の設定事務については地方自治法第二四五条第四項(技術上の助言または勧告)、第二四六条の二(事務の違法、不当処理に対する内閣総理大臣の監督権)の規定が適用される。

五 排水基準の遵守の強制

 (一) 特定施設設置前の措置

  ア 特定施設設置の届け出

  1.    (ア) 工場、事業場から公共用水域に水を排出する者は、特定施設を設置しようとするときは、所定の事項を都道府県知事に届け出なければならない(法第五条および規則第三条)。届出事項は法第五条で定める七事項であるが、同条第七号に規定する事項としては、①排水の量ならびに②排水および用水の系統が定められていることには注意を要する(規則第三条第一項)。また、届出を要するのは特定施設を設置する全ての工場、事業場であり、当該特定施設が設置される工場または事業場からの排出水の量の大小を問わないことに留意されたい。
  2.    (イ) 届出は、当該工場、事業場の所在地を管轄する都道府県知事に対して行なう。届出の受理は届出自体が計画変更命令(法第八条)の発動につながることにかんがみ、市町村職員による都道府県知事の事務の一部の補助執行(地方自治法第一五三条第三項)の対象とはしないものとして取扱うことに留意されたい。

  イ 特定施設の構造等の計画変更命令

    都道府県知事は、届出に係る特定事業場の排出水の汚染状態が排水基準(府令で定めるものおよび上乗せ排水基準)に適合しないと認めるときは、届出受理の日から六〇日以内に限り、届出に係る特定施設の構造もしくは使用の方法または汚水等の処理の方法に関する計画の変更、または特定施設の設置計画の廃止を命ずることができる(法第八条)。
    法第八条に基づく都道府県知事の計画変更命令は排出水の汚染状態が、特定事業場の排水口(排出水を排出する場所をいう。)において、排水基準に適合しないと認めるときに行なわれるが、この場合「排水口において」とは、如何なる排水口においてもという程度の意味であり、排水基準適合性は、各排水口ごとにチエツクされる趣旨である。従つて、各排水口の汚染状態を各排水口の排水量をウエイトとして加重平均したものをもつて排水基準適合性を判断することは否定されていることに留意されたい。
    なお、排水口は、「排出水を排出する場所をいう」としているのは、排水口とは特別の排水設備或いは排水のための構築物に限る趣旨ではなく、広く特定事業場から公共用水域に排出水が排出される地点をいうこととすることにある。

 (二) 特定施設設置後の措置

  ア 排水基準違反への直罰

  1.    (ア) 排出水を排出する者は、その汚染状態が排水口において、排水基準に適合しない排出水を排出してはならない(法第一二条第一項)。その違反は処罰される(法第三一条)。これは、いわゆる直罰規定であり、旧水質保全法体系にはなかつた。
  2.    (イ) 法第一二条第一項は、ある施設が特定施設として政令指定された際、現にその施設を設置している者の当該施設を設置している工場、事業場から排出される水には六月間(当該施設が政令で定める施設であるときは一年間)は、適用されない(法第一二条第二項本文)。これは、汚水処理施設の設置等排水基準を遵守するための準備期間中は、排水基準の強制は猶予しようという趣旨である。
         その際、汚水処理施設の設置に長期間を要する特定施設に関しては、特に一年間の猶予を認めることとしたものである(令第五条)。この適用猶予の規定は、法施行の時点でも適用されるため、法施行に伴う経過措置としても機能することとなる。法施行時における一年間の適用猶予施設は、令別表第二に掲げている。
  3.    (ウ) 上記の猶予期間は、一定の場合には適用されない。すなわち、ある施設が特定施設として政令指定された際、①すでにその施設を設置している工場、事業場が特定事業場であるとき②その者に適用されている地方公共団体の条例の規定で法第一二条第一項の規定に相当するもの(その違反に対する罰則があるものに限る。)があるときの二つの場合である(法第一二条第二項ただし書)。
         ①の場合は、当該工場、事業場はすでに本法上の特定事業場であり、排水基準の適用を現に受けているものであるから、当該工場、事業場に現に設置している他の施設がその後特定施設となつたからといつて、その時点から、それまで従来適用されていた排水基準を適用猶予する必要はないからである。ただし、特定施設となつた当該施設に係る上乗せ排水基準が業種別に設定された場合であつて、合理的範囲内での経過措置が必要なときは、この経過措置は、上乗せ排水基準を定める条例自体において規定すべきものであるから、この点に留意されたい。
         ②の場合は、当該工場、事業場には従来地方公共団体の固有条例により法第一二条第一項と同様の排水規制が行なわれていたものであり、排水規制の根拠規定が固有条例から本法に移行するにすぎない場合であるので、同項の適用を猶予する必要はないからである。なお、「前項の規定に相当する」地方公共団体の条例の規定の解釈上留意すべきことは、第一に工場、事業場の「排水口における」排水規制を定めるものに限ることである(必ずしも明文の規定は必要ない)。従つて、排水口の水質の排水量による加重平均値での排水規制を定めた規定は除外されることとなる。第二は、固有条例による排水規制の基準値のレベルが本法による排水基準のレベルと同等以上のものに限ることである。従つて、固有条例の排水規制基準が本法の排水基準よりもゆるい場合は、「相当する規定」はなかつたことになる。なお、以上の判断は、排水基準の対象とされている物質または項目ごとに行なわれなければならない。

  イ 汚水等の処理方法の改善命令等

  1.    (ア) 都道府県知事は、排出水を排出する者が、排水基準違反の排出水を排出するおそれがあると認めるときは、期限を定めて、特定施設の構造もしくは使用の方法、汚水等の処理の方法の改善を命じまたは特定施設の使用もしくは排出水の排水の一時停止を命ずることができる(法第一三条第一項)。
  2.    (イ) 法第一三条第一項に定める改善命令等は、現実に排水基準違反がなくても、特定施設、汚水処理施設に構造的、技術的欠陥があり、違反の「おそれ」があれば適用できる。ただし、通常は排水基準違反があつたものについて適用されることになるものと考えられる。
  3.    (ウ) 本規定も、法第一二条第一項と同様に排水口ごとに排水基準違反のおそれの有無を判断して適用するものである。
  4.    (エ) 本規定は、汚水等の処理の方法等の改善命令および、特定施設の使用または排出水の排出の一時停止命令を内容とする。後者は、事実上操業停止命令として機能するものであるが、原料の搬入、製品の売り込みや搬出等の事業活動をも停止するものではない。
  5.    (オ) 本規定についても、法第一二条第一項と同様に一定期間の適用猶予が認められている(法第一三条第二項)。これについては、アの(ア)および(イ)に準じて取り扱うこととする。

六 排出水の汚染状態の測定等

 (一) 排出水の汚染状態の測定

  1.   ア 排出水を排出する者は、その汚染状態を測定し、結果を記録しておかなくてはならない(法第一四条第一項)。直罰規定の導入によつて、排出水を排出する者は常にその排出水の汚染状態について注意する実質上の義務を負うことになるが、旧工場排水規制法においては、排出水の汚染状態の測定および結果の記録を義務づけているので、本法においても重ねて規定したものである。ただ、本法においては、上述の理由によりこれを訓示規定にとどめている。
  2.   イ 排出水の汚染状態の測定は、当該排出水に係る排水基準に定められた事項について行なうこととされている(規則第九条第一号等)。従つて、例えば、令第三条のいわゆる生活環境項目に関しては、一日当たりの平均的な排出水の量が五〇立方メートル未満の工場または事業場に係る排出水については、測定しなくてもよい(府令別表第二備考二から四参照)。また、排水基準が定められているすべての物質および項目について測定するものとすることは、水質汚濁の状況、分析測定機関の実態等からみて、必ずしも実際的ではないので、当該排出に係る特定事業場の属する業種からみて通常問題とされる物質または項目について測定すれば足りるものとし、この旨指導されたい。排出水の汚染状態の測定は、当該排水基準に係る検定方法に従つて行なわなくてはならない(規則第九条第一号)。なお、測定の頻度についてはとくに定めていないが、当該水域における水質の汚濁の状況、当該排出水の汚染状態を勘案して適宜指導することとされたい。
  3.   ウ 測定の結果は、所定の方式に従つて記録し、これを三年間保存するものとされている(規則第九条第二号)。

 (二) 排出水の排出の方法の適正化

   排水基準に適合している排出水を排出していても、排水口の位置が養殖場、上水道取水源等の利水地点に向いているときなどは、水質汚濁問題を生ずるおそれがあり、このような場合を考慮して、排出水を排出する者は、排水口の位置その他の排出水の排出の方法を適切にしなければならないこととされている(法第一四条第二項)。これも訓示規定であつて罰則の適用はない。排水基準に適合している排出水を排出している場合の措置であるからである。実際上は、この規定を手がかりとして、必要に応じ所要の行政指導を行なうこととされたい。ここで、「その他の排出水の排出の方法」としては、季節的、時間的な排出水の量の変化等が考えられる。

 (三) 地下水

   地下水の水質の汚濁の防止については、有害物質を含む汚水等(これを処理したものを含む。)が地下にしみ込むことにならないよう適切な措置をしなければならない旨を訓示的に定めている(法第一四条第三項)。
   「有害物質を含む汚水等」について規定した趣旨は、最近の地下水汚染の事例からみて、少なくとも有害物質を含む汚水等は地下にしみこむこととならないよう適切に処理しなければならないこととする必要があるからである。「これを処理したもの」とは、排水処理を行なつた後の水、汚泥等をいう。要するに、その状態を問わず、また、排水管、沈澱池等の場所を問わず、有害物質を含む汚水等は、地下にしみ込ませてはならないということである。この規定を手がかりとして、必要に応じ所要の行政指導を行なうこととされたい。

七 水質の汚濁の状況の監視等

 (一) 都道府県知事による常時監視

  ア 本法においては、公共用水域の水質の汚濁の状況について都道府県知事に常時監視させることとしている(法第一五条)。これにより、排水基準の見直し、排水基準遵守取締りの強化等排水規制の強化に資することとしたものである。
    なお、この規定は、国、市町村等が一般的に公共用水域の水質の測定等を行なうことを否定する趣旨ではない。また、常時監視に関する事務が、市長に委任された場合(法第二八条)にも、当該市の区域に属する公共用水域につき当該都道府県知事が水質の測定を行なうことを妨げるものではない。

 (二) 測定計画

  1.   ア 常時監視の有効かつ科学的な手段として、公共用水域の水質の測定を統一的視点から総合的に行なうため、都道府県知事は、国および地方公共団体が行なう水質の測定について、毎年、国の地方行政機関の長と協議して測定計画の作成にあたることとされている(法第一六条第一項)。
        この制度は、公共用水域の水質の監視測定体制を整備するため、本法において創設された制度であり、これが実効を期するよう十分配慮されたい。「国の地方行政機関」の範囲は、測定計画作成の趣旨にかんがみ、公共用水域の水質の測定を実施する機関であるとして運用されたい。
  2.   イ 測定計画に定める測定の方法に関し、水質の検定方法については、水質環境基準が定められている項目にあつては、水質環境基準において掲げている検定方法により、その他の項目については、昭和四六年六月二一日経済企画庁告示第二一号に掲げる方法により行なうよう措置されたい(法第一六条第二項)。
  3.   ウ 測定計画の作成は、公共用水域の水質の汚濁の防止に関する重要事項であるので、都道府県水質審議会において、これについて審議するよう措置されたい。
  4.   エ 測定計画を作成したときおよび測定計画に従つて行なわれた測定の結果の送付を受けたときは、測定状況は握のため、遅滞なくその内容を、別に通達するところにより、環境庁水質保全局長に通知されたい。

 (三) 公表

   都道府県知事は、測定計画による測定の結果、判明した公共用水域の水質の汚濁の状況については、これを公表しなければならない(法第一七条)。なお、公共用水域の水質の汚濁の状況の公表の方法、回数等については、適宜判断されたい。ただ、測定計画を毎年作成することとされていることから、少なくとも年一回は、公表する必要がある。
   測定計画に従つて行なわれた測定結果はすべて都道府県知事に送付されるので(法第一六条第三項)、事務の委任を受けた市長が公表を行なう場合は、当該市の区域に属する公共用水域について当該市以外のものが測定したデータの送付を受けた都道府県知事は、これを当該市長に送付する等の協力をなされたい。

八 緊急時の措置

 (一) 趣旨

   排水規制は、公共用水域の水量を想定したうえで行なうものであるため、この水量が異常渇水により想定量以下となつた場合等には、排水規制の実効性はうすくなる。これに対処して排水基準を改訂することは、異常渇水等の事態は一時的であること等を考慮すれば必ずしも実際的ではないので、このような場合には、排水量の総量を減少させること等により公共用水域の水質の汚濁の改善を図ることとしたものである(法第一八条)。
   従つて、本措置は、排水基準を遵守させることにより行なう排水規制の補完的な措置である。

 (二) 緊急時の措置の命令の要件

  ア 自然的条件の変化

    緊急時の措置命令は、異常な渇水、潮流の変化その他これに準ずる自然的条件の変化によつて、公共用水域の水質の汚濁が進行した場合に発動することができる(令第六条)。ダムの建設等人為的なものによる場合は、これに含まれない。
    「異常な渇水」とは、流量変動の幅の大小によつて水域により異なるが、著しく水量が減少した場合であり、必ずしも何年に一度の異常な渇水である必要はない。これとの関連で、河川流量等の常時は握につとめる必要がある。
    「その他これに準ずる自然的条件の変化」としては、停滞性の水域において、一定方向の強い風により汚濁の状況に異変をきたす場合等がある。

  イ 水質環境基準をこえる状態の発生

    緊急時の措置命令は、異常な渇水等の自然的条件の変化により、公共用水域の水質の汚濁の程度が、有害物質(令第二条)に関しては水質環境基準において定められている値、生活環境項目に関しては、当該水域につき水質環境基準において定められている水質の汚濁の程度の二倍をこえる状態になつたときに、発動することができる(令第六条)。
    有害物質に関して、このように定めたのは、事柄の性格上、常に水質環境基準が維持されているべきであるからである(水質環境基準においても、人の健康の保護に関する環境基準の関係項目については、公共用水域の水量の如何を問わず達成、維持されるべきものとされている。)。また、生活環境項目に関しては、代表的な河川の数年間における平均低水流量と平均渇水流量あるいは最低流量の比を勘案して、水質環境基準によつて示される水質の汚濁の二倍をこえる場合とした。
    なお、令第六条により、水質環境基準が定められていない物質または項目に係る水質の汚濁を理由として緊急時の措置を発動することはできない。

  ウ 相当日数継続

    緊急時の措置命令は、イに述べた状態が発生し、これが「相当日数継続すると認められる場合」でなければ発動できない(令第六条)。しかし、現にイの状態が発生して相当日数経過している必要はなく、将来に向つて、継続することが客観的に認められれば足りる。

 (三) 緊急時の措置命令の相手方

   緊急時の措置命令の相手方は、(二)の要件に該当する水域に排出水を排出する者である。    本措置は、排水基準を遵守している者に対しても、一定期間、一定の義務を負わせることを趣旨としているので、原則としては、排水量の多少によつて命令の相手方に差別をつけることなく、当該水域に排出水を排出するすべての者を対象とするものである。

 (四) 緊急時の措置命令の内容

   緊急時の措置命令の内容としては、「排出水の量の減少その他必要な措置」が規定されている(法第一八条)。「その他必要な措置」には、特定施設の使用の一時停止、希釈水による排出水の汚染状態の改善等が含まれる。
   緊急時の措置命令は、「期間を定めて」行なわなくてはならない(法第一八条)。期間の定めのない命令は、無効である。この期間については一般的には(二)のウにいう「相当日数」の期間を参酌して定められたい。

 (五) 事態の一般周知

   緊急時の事態が生じたときは、これを一般に周知させなくてはならない(法第一八条)。水道用水取水者、水産業者、その他一般の住民がこの事業を知つて適切な行動をとることができるようにするためである。周知の方法は、テレビ、ラジオ、新聞、広報車等により適宜行なうこととされたい。

 (六) 本措置の実施

   緊急時の措置命令は、とるべき措置の内容その他必要な事項を記載した文書により行なわなくてはならない(規則第一〇条)。この命令違反には、罰則が適用されるので、命令の内容を明確にしておく必要があるからである。
   また、河川法施行令(昭和四〇年政令第一四号)第一六条の六により、河川管理者も、一定の緊急時の措置をとることができるので、本措置の実施にあたつては河川管理者とも十分連絡されたい。

九 削除

一〇 報告および検査

  1.  (一) 特定事業場に対する報告徴収および立入検査は、上乗せ排水基準の設定を含め、この法律の施行に必要な限度において行なうことができる(法第二二条第一項)。
  2.  (二) 報告徴収
    1.   ア 報告を徴収できる事項は、特定施設の使用の方法、汚水等の処理の方法ならびに排出水の汚染状態および量その他の法第五条第七号の総理府令で定める事項についてである(法施行令第八条第一項)。
    2.   イ 「汚水等の処理の方法」とは、汚水等の処理施設の設置場所、汚水等の処理施設の種類、構造、汚水等の処理の系統、汚水等の集水および汚水等の処理施設までの導水の方法等である(規則第三条第三項第四号参照)。
    3.   ウ 「排出水の汚染状態および量、その他の総理府令で定める事項」とは、排出水の汚染状態および量ならびに用水および排水の系統である(規則第三条第一項)。
  3.  (三) 立入検査
    1.   ア 立入検査の対象となる施設または物件は、特定施設および汚水等の処理施設ならびにこれらの関連施設、特定施設において使用する原料ならびに関係帳簿書類である(令第八条第二項)。「これらの関連施設」とは、製造工程において特定施設に接続する機械または装置、汚水等の導水施設、排水口までの排水路等である。「特定施設において使用する原料」には、石灰、触媒等特定施設において使用する材料を含む。
    2.   イ 鉱山、電気工作物および廃油処理施設に関しては、都道府県知事による立入検査は、一定の場合に限り行なうことができる(令第八条第三項)。これらの施設に関しては、排水基準の遵守強制措置は、それぞれ鉱山保安法、電気事業法および海岸汚染防止法の規定によつて行なうこととされているので(法第二三条第二項)、立入検査についても、一般的には、これらの法律に基づく規制権限を有する国の関係行政機関の長が行なうこととなる。

一一 公共用水域管理者

  河川、港湾等の公共用水域を管理する者は、当該公共用水域の水質の汚濁につきその管理上大きな関心を有している事情にかんがみ、本法では、公共用水域の管理を行なう者で一定のものは、都道府県知事に対し、当該公共用水域の管理上必要があると認めるときは、当該公共用水域の水質の汚濁の防止に関して意見を述べることができることとした(法第二四条第三項)。
  この意見陳述権を有する公共用水域管理者に、法律上定められている河川管理者および港湾管理者のほか、河川法準用河川の管理者、終末処理場を現に設置していない公共下水道または終末処理場を現に設置していない流域下水道に接続する公共下水道の管理者および都市下水路管理者、漁港管理者、水産資源保護水面管理者ならびに一定のかんがい排水用水路管理者である(令第九条)。

一二 適用除外等

 (一) 放射物質

   放射性物質による公共用水域の水質の汚濁およびその防止については、特殊の専門的技術的判断を必要とするので、監視測定を含め、原子力基本法およびその関係法の定めるところによることとし、本法の諸規定を適用しないこととしている(基本法第八条参照)。

 (二) 鉱山、電気工作物および廃油処理施設

  1.   ア 鉱山保安法第八条第一項に規定する施設、電気事業法第二条第七号に規定する電気工作物または海洋汚染防止法第三条第九号に規定する廃油処理施設が本法の特定施設となつたときは、これらの施設に係る排出水については、法第五条から第一一条までおよび第一三条の規定は適用せず、それぞれ鉱山保安法、電気事業法または海洋汚染防止法の規定によつて排水基準を遵守させることとしている(法第二三条第二項)。これらの法律には、許認可、改善命令、許認可の取消し等本法の排水基準強制措置に相当する規定があるからである。この場合において、法第三条に規定する排水基準は、同条第三項の上乗せ排水基準を含め、これらの施設に係る排出水について適用されること、法第一二条第一項のいわゆる直罰規定および法第一八条の緊急時の措置の規定ならびにこれらの規定との関連で法第二二条第一項および第二項の規定が適用されることに留意すべきである。
  2.   イ これらの法律を所管する国の行政機関の長と都道府県知事との間の事務の連携については法第二三条第三項から第五項までに定められている。
        なお、廃油処理施設については、法第二三条第三項において海洋汚染防止法については規定せず、また、同条第四項において海洋汚染防止法については本法の第八条の規定に関してのみ規定しているが、これは、海洋汚染防止法において、それぞれ関係の規定があるので、二重に規定するのを避けたものである(海洋汚染防止法第三七条第一項および第二項)。
        また、本法施行時においては、鉱山に係る施設と廃油処理施設が特定施設として指定されており(令別表第一条第一号、第七〇号)、本法の排水基準が鉱山保安法および海洋汚染防止法における許認可等の要件として効力を有するようそれぞれ施行規則等において規定が整備されている(金属鉱山等保安規則第二九五条第一項、石炭鉱山保安規則第三七六条の二八第一項、石油鉱山保安規則第三〇七条第一項、鉱煙、ばい煙、坑水および廃水の排出基準を定める省令第四条、海洋汚染防止法施行規則第一四条第一〇号、第二一条第二号)。

一三 事務の委任

 (一) 市長への事務委任

   本法においては、都道府県知事の権限に属する事務は、政令によつてこれをさらに市長に委任することができることとしている(法第二八条)。これは、公害関係事務が地域社会に強く密着した事務であるので、これを担任する能力を有する場合は、市長にまで委任しうることとし事務の円滑な推進を図ることとしたものである。今回の政令制定にあたつては、人口五〇万人以上の市一四を対象として事務の委任を行なつた(令第一〇条)。

 (二) 委任事務の範囲

   上記市長に対し委任が行なわれる事務の範囲は、広域的に処理する必要がある測定計画に関する事務を除き、本法において都道府県知事の権限に属する事務とされている事務のすべてである。測定計画の作成に関する事務(法第一六条第一項)は、法律上委任の対象から除かれるが、これに関連する測定計画に従つて行なわれた測定の結果の送付の受理に関する事務(法第一六条第三項)も委任の対象から除くこととしたものである。また、委任をうける市によつて委任事務の範囲を異にすることはない。

 (三) 都道府県知事の指揮監督等

   本法の規定によつて都道府県知事の権限に属するものとされた事務は、いわゆる国の機関委任事務であり、従つて、事務が委任された市長に対しては、当該都道府県知事が指揮監督等を行なう(地方自治法第一四六条第一二項)。

一四 条例との関係

 (一) 特定事業場の排出水の規制

   本法の排水規制の対象である排出水に関し、本法で規制対象としている物質または項目以外の物質または項目について条例で規制することを妨げない(法第二九条前段)。なお、法第二九条前段において、「有害物質によるものを除く」としているのは、本法における有害物質は、すべて本法に基づき規制されることとなつているので、同条においてあらためてこれに関し規定する必要がないからである。

 (二) 非特定事業場の排水の規制

   特定施設を設置していない工場または事業場、すなわち非特定事業場から公共用水域に排出される水については、本法の規制対象としている「有害物質」および「項目」についても、条例で規制することを妨げない(法第二九条後段)。本法においては、水質汚濁上問題のある施設は、何時でも「特定施設」として政令で定め、排水規制の対象とし得るので、明文の規定がない場合は、本法の規制対象物質または項目に関しては必要かつ十分な規制が行なわれており、条例で規制することを許さない趣旨であると解する余地が生ずる。しかし、地域によつては、当該水域において特に問題とされる施設もあり、これらについて、本法で特定施設として指定しない場合条例によつて規制できないことになるのは、水質汚濁防止の見地から適当ではない。そこで、明文の規定をもつてこのような場合も条例による規制が可能である旨を入念的に明らかにしたものである。なお、非特定事業場に関し、本法の規制対象物質または項目以外の物質または項目については、本法ではとくに指定していないが、これについては、条例による規制は当然に可能である。

 (三) 規制の方法

   法第二九条の規定により、条例で排水規制を行なう場合は、規制に必要な措置をすべて条例で定めなければならない。法第三条第三項の上乗せ排水基準を定める条例は、上乗せ排水基準のみを定めるものであり、その強制はすべて本法によつて行なわれるのに対し、法第二九条によつて条例で規制を行なう場合は、基準の設定、施設の届出、改善命令等排水規制体系自体につき条例で定めなければならない。

一五 経過措置

 (一) 旧水質基準の効力

   旧水質保全法に基づき設定された水質基準は、形式上は法施行とともに失効する(法附則第二項)こととなるが、これらの旧水質基準は、ここ一、二年の間に設定されたものも多く、また、法第三条第一項に基づき設定された排水基準よりきびしい数値による許容限度を定めているものが大部分であり、法施行と同時にこれらを失効させてしまうことは、排水規制でのブランクを生ずることとなる。このため、これらにかわるものとして、法第三条第三項の上乗せ排水基準をすみやかに設定することが望ましいが、旧水質基準は加重平均基準であることもあり、それには一定の日時を要するものと考えられる。このような見地から、法附則第六項に基づき所要の経過措置が定められた。

  1.   ア 令附則第三項および第四項において、「総理府令で定める特別の水質基準」(以下「特別水質基準」という。)は、法施行後一定期間に限り、法第一三条第一項の改善命令の対象として適用することとした。府令においては、旧水質保全法に基づく旧水質基準は、すべて、この「総理府令で定める排水基準」であると定め、実質上旧水質基準のすべてを、法施行後一定期間を限り、なお有効とするよう措置したところである(府令附則第二項)。
  2.   イ 特別水質基準は、法施行の日に旧水質基準の適用を受ける施設で法第二条第二項の特定施設であるものを設置している者を対象とする。従つて、法施行の日に現に旧水質基準の適用を受けている者に限られるのではなく、法施行の日現在は旧水質基準は適用猶予されているが、法施行後適用が開始されることとなる者も含む。
  3.   ウ 特別水質基準は、法施行後六月間(令第五条に規定する施設に係るときは一年間)は、法第三条の排水基準の強制が適用猶予されるので、その間は法施行前と同様に従来どおり適用される(令附則第三項)。また、この期間経過後は、法施行後二年間に限り、法第三条の排水基準と併置した形で適用される(令附則第四項)。ただし、この併置した形での適用は、法第三条第三項の上乗せ排水基準が設定されたときは、これと重複する限りにおいて失効することとなる(府令附則第三項)。
  4.   エ 特別水質基準としての旧水質基準は、旧水質保全、法体系下におけるときと同様に、加重平均方式で適用される。このことは、この基準につき法第一三条第一項を適用する際の読み替え規定(令附則第三項および第四項)において「特定事業場の排水口において排水基準」とあるのを単に「総理府令で定める特別の水質基準」と読み替えるにとどめていることからして、明文上明らかである。
  5.   オ 特別水質基準としての旧水質基準は、単に法第一三条第一項の改善命令の対象とされるにとどまり、法第一二条第一項による直罰規定の対象にはならない。このことは、旧水質基準が、旧工場排水規制法においては改善命令規定のみによつて適用されてきた事情を考慮したものである。

 (二) 実施の制限の起算日

   法施行の際、現に旧工場排水規制法の規定によつて特定施設の設置または変更につき実施の制限を受けている者の法第七条による実施の制限の起算日および当該者に対する計画変更命令(法第八条)を行ないうる期間の起算日は、法施行の日ではなく、旧工場排水規制法による届出が受理された日である(法附則第三項)。

 (三) 旧工場排水規制法による処分等の効力

   旧工場排水規制法によつてした処分、手続その他の行為は、本法に相当規定があるときは、本法によつてしたものとみなすこととしている(法附則第四項)。従つて、例えば、特定施設の届出につき、旧工場排水規制法によつて行なつている場合は、本法にもとづき重ねて行なう必要はない。届出事項につき、本法と旧工場排水規制法との間に若干の差があるが、これは問わない。
   実務上は、排出水の量のように本法により新たに届出事項となつた事項については、法第二二条による報告徴収を行なうことにより、対処されたい。
   ただし、本法によつて新たに特定施設として指定された施設については、届出を必要とする。この場合、法律上は、当該施設に関してのみ届出させればよいが、排水処理の実態は握のため、あらためて本法の規定による届出をさせるよう指導されたい。また、法施行前に出された改善命令等の命令は、本法によつて行なわれたものとみなされ、法施行後にその違反があつた場合は、命令違反の罰則については本法が適用される。

 (四) 法施行前の行為に対する罰則の適用

   法施行前の行為であつて、旧工場排水規制法の規定に基づき処罰されるべきものがあつた場合は、法施行後もこれに対して罰則を従前の例により適用する(法附則第五項)。