法令・告示・通達

水質汚濁防止法の一部を改正する法律の施行について

公布日:平成8年10月01日
環水管276号

環境庁水質保全局長から各都道府県知事・政令市長あて
 標記については、平成8年10月1日付け環水管第275号、環水規第319号をもって環境事務次官名により通達したところであるが、同通達において別途通達することとされている事項及びその他の事項については、下記により運用することとされたい。

Ⅰ 地下水の水質の浄化に係る措置命令等

 1 措置命令の発動手順

   地下水の水質の浄化に係る措置命令は、以下の手順によって調査等を実施の上行うことを基本とされたい。

  (1) 汚染源、汚染原因者等の調査

    地下水汚染が判明した場合、「重金属等に係る土壌汚染調査・対策指針及び有機塩素系化合物等に係る土壌・地下水汚染調査・対策暫定指針」(平成6年11月11日付け環水管第205号、環水土第207号環境庁水質保全局長通知)(以下「指針」という。)等を参考とし、資料等調査、地下水調査、土壌ガス調査、ボーリング調査等必要な調査を実施するとともに、必要に応じて、有害物質の性質、有害物質浸透地域の地質、有害物質の使用工程等について関連する各分野の専門家に意見を求めること等により、汚染の程度、汚染源及び汚染原因者たる特定事業場の設置者の特定等汚染実態の詳細を把握することとする。
    なお、汚染原因物質の使用・排出状況調査等の実施に際し事業場への立入等を行う場合には、円滑な調査の実施を図るため、先ず調査対象者へ協力依頼等を行った上で任意の調査を行うよう努めるとともに、汚染源が絞り込まれた段階では、汚染原因者の可能性のある特定事業場の設置者に対して、必要に応じ、それまでの調査結果を説明しつつ、必要な調査を実施するよう努めることとする。
    汚染源及び汚染原因者を特定するための調査、汚染原因者が特定された後の追加的な調査、浄化完了後の地下水質のモニタリング調査は都道府県知事(水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号。以下「法」という。)第28条第1項に基づき事務の委任を受けた市の長を含む。以下同じ。)が行うものとする。

  (2) 措置命令の発動

    (1)の調査により、汚染源及び汚染原因者たる特定事業場の設置者全てを特定した後、当該設置者の自主的な取組の意向を確認するとともに、特定事業場以外において地下浸透がなされた場合等のように「特定事業場において」に該当しないとき、有害物質に該当する物質以外の物質が地下浸透後他の物質と反応し有害物質に該当する物質に変化した場合等のように「有害物質に該当する物質を含む水の地下への浸透があったこと」に該当しないとき、汚染が特定事業場の敷地の直下にとどまっており周辺に影響を及ぼしていない場合、過去において人の健康に係る被害が生じ、又は生ずるおそれがあったが、上水道の敷設や、利水地点における対策等浄化のための適切な措置がなされた場合等のように「人の健康に係る被害が生じ、又は生ずるおそれがあると認めるとき」に該当しないときには措置命令の発動要件を満たさないこと等に留意しつつ、措置命令の発動要件を満たしているか否かについて判断することとする。
    併せて、特定事業場の設置者であった者が汚染原因者である場合において法第14条の3第3項の協力が必要な場合には、この協力が得られるか否かについても判断することとする。
    措置命令を課すに当たっては、汚染原因者たる特定事業場の設置者に対し、当該設置者の責任で浄化措置を講ずべき地下水の範囲、達成すべき浄化基準(汚染原因者たる特定事業場の設置者が二以上ある場合には、それらの者の特定事業場における有害物質の地下への浸透が当該地下水の水質の汚濁の原因となると認められる程度に応じて、各汚染原因者ごとに定められる削減目標)、浄化実施のための準備期間、汚染原因者たる特定事業場の設置者の技術的、経済的能力等を勘案して設定した相当の期限、汚染原因者を特定した根拠を明らかにし、これらを記載した文書をもって通知するとともに、行政手続法(平成5年法律第88号)に基づく弁明の機会を付与することとする。

  (3) 浄化措置の実施等

    措置命令を課した場合には、汚染原因者たる特定事業場の設置者が浄化措置を実施することとなる。この場合、浄化方法については、排出水の処理装置により汲み上げた地下水を浄化する方法等も含め、特にその方法に制限を定めず、汚染原因者たる特定事業場の設置者の責任により選択するものとする。ただし、汚染の拡散等周辺環境に悪影響を与えるおそれのある方法等をとり、又はとろうとしている場合には、適切な措置をとるよう技術指導等に努めることとする。
    措置命令に基づく浄化措置は、水質汚濁防止法施行規則(昭和46年総理府・通商産業省令第2号。以下「規則」という。)第9条の3第2項各号に定める測定点においてその対象となる地下水に含まれる有害物質の量について、規則別表に定められている浄化基準が満たされれば法の目的を達成するため、法第14条の3を根拠にこの必要な限度を超える浄化を汚染原因者たる特定事業場の設置者に求めることなく、浄化基準が将来にわたり満たされると都道府県知事が判断する場合に終了することとする。
    なお、規則第9条の3第2項第4号の場合には、当該公共用水域において公共用水域の水質の汚濁に係る環境基準が満たされ、将来にわたって再び公共用水域の水質の汚濁に係る環境基準を超えるおそれがなくなれば法の目的を達成するため、措置命令に基づく浄化措置は終了することとする。
    また、措置命令を行った後、上水道の敷設等により、人の健康に係る被害が生ずるおそれがなくなった場合にも浄化措置は終了することとする。
    措置命令後「相当の期限」を経過しても浄化基準が満たされなかった場合には、地下水の浄化という措置命令の本来の目的にかんがみ、その時点の汚染状況、汚染原因者たる特定事業場の設置者からの事情聴取等を踏まえ、汚染原因者たる特定事業場の設置者が当該措置命令に対する取組を実施しなかったなど悪質な場合を除き、原則として、再命令等により浄化措置が継続されるよう対処することとする。なお、再命令等の発動については、通常の措置命令の発動と同様の取り扱いとする。

 2 措置命令の発動に当たっての留意事項

   措置命令を課すに当たっては、以下の事項に留意されたい。

  1.   (1) 大震災等の通常想定し得ない天災により特定施設等の破損等が生じた場合に措置命令をかけるに当たってはその事情を斟酌すること、特定事業場の設置者以外の者の行為により地下水汚染が生じた場合、特定事業場の設置者以外の者により放置された物質が雨水によって「有害物質に該当する物質を含む水」となって地下に浸透した場合等で特定事業場の設置者に帰責事由がないときは措置命令の対象とならないこと。
  2.   (2) 技術的に浄化不可能な深度の地下水が汚染されている場合、汚染原因者たる特定事業場の設置者及び設置者であった者の全部若しくは一部が不存在又は完全無資力の場合、法第14条の3第3項の協力すべきすべての者が協力しなければ被害を防止することができない場合において一者でも協力が得られない場合も含めて同項の協力が得られない場合等で浄化が事実上不可能な場合であって都道府県知事が助言等最大限の可能な支援を講じても浄化が不可能な場合、汚染原因者たる特定事業場の設置者が二以上ある場合において汚染に係る寄与度が不明又は一部について特定できないことにより各汚染原因者毎の削減目標を明らかにすることができない場合には措置命令を課さないものとすること。
  3.   (3) 地中に自然的に有害物質が含まれていることにより地下水が汚染されている場合には原則として措置命令の対象にならないが、自然汚染と特定事業場の設置者による地下への浸透とがあいまって地下水が汚染されている場合には、自然汚染分のみで浄化基準を超えている場合を除き特定事業場の設置者による汚染分についてはその寄与度に応じて措置命令を課すことができること。
  4.   (4) 特定事業場となる前の事業場からの浸透については措置命令の対象とならないが、特定事業場となる前からなった後にかけて浸透が行われた場合で特定事業場となる前の浸透となった後の浸透が分離可能なときは特定事業場となった後の浸透については措置命令の対象となること。
  5.   (5) 措置命令を課すに当たっては、汚染原因者の技術的又は経済的能力からとりうる措置を十分に勘案し、法第14条の3第3項の協力が必要な場合には協力が得られる者のとりうる協力手段を参酌して期限を設定するとともに、効果的な浄化地点、適切な措置等の選択について、汚染原因者に対する情報提供に努めること。

 3 報告及び検査等

   法第22条の報告及び検査は、汚染原因者である可能性のある特定事業場の設置者又は設置者であった者を対象に行うものであり、法第14条の3第3項により協力を求めうるに過ぎない者はその対象に含まれない。
   今回の法改正に伴い、新たに求めることができるとされた「報告」は、地下水の水質の浄化に係る措置命令を行う上で必要な報告として、既存の資料等から判明する事項について報告を求めるものであり、改めて汚染原因者たる特定事業場の設置者に土壌ガス調査等の実地の調査を課すものではなく、特定事業場の設置者又は設置者であった者は、報告を求められた事項について記録がない場合は、その旨を報告すればよいことに留意されたい。
   また、今回の法改正に伴い、新たにその職員にさせることができるとされた「検査」は、地下水の水質の浄化に係る措置命令を行う上で必要な特定事業場への立入りによる既存の資料及び当該事業場の設備等の調査、汚染源特定等のための土壌及び地下水の調査等である。

 4 汚染原因者たる特定事業場の設置者に対する支援

   汚染原因者たる特定事業場の設置者が適切かつ円滑に浄化を行うことができるよう浄化措置に係る技術的助言等の支援を行うように努められたい。なお、地方公共団体の実施している支援措置としては、汚染原因者たる特定事業場の設置者に対する浄化装置の貸与を行っている事例があること等を参考にされたい。
   また、地下水汚染に関する調査や浄化を対象として環境事業団等に融資制度が設けられているので、必要に応じ活用を図られたい。

 5 経過措置に関する留意事項

   法第14条の3第1項及び第2項の規定は、公布の日(平成8年6月5日)前に特定事業場の設置者でなくなった者に対しては適用しないこととしているが、本法公布後に特定事業場の設置者でなくなった者については適用されるので、特定事業場の設置者が特定施設の使用廃止の届出等を行った場合であっても、当該特定施設に係る資料等を保管しておく必要があることに留意されたい。

 6 関係機関との連携等

   地下水の汚染については、河川や水道の適正管理、毒物・劇物の取締、廃棄物の適正処理、飲用水の衛生確保等と密接に関連するため、本法担当部局は、次の部局との連携を図るよう努められたい。

  (1) 河川管理者との連携

    河川の流水への影響があると認められる地下水の汚染について、原因究明の調査を実施する場合、地下水の水質の浄化に係る措置命令を課す場合には、河川管理者に事前に連絡し、連携を図りながら対応されたい。

  (2) 水道担当部局との連携

    地下水の水質の浄化に係る措置命令を課す場合には、水道担当部局に対し情報提供を行うよう努められたい。

  (3) 薬事担当部局との連携

    地下水汚染の原因物質が毒物又は劇物に該当するものであるときに地下水の水質の浄化に係る措置命令を行う場合には、事前に薬事担当部局に連絡するとともに、措置の実施に際して必要に応じ調整及び協力を行うよう努められたい。

  (4) 産業廃棄物担当部局との連携

    地下水汚染が廃棄物に起因する場合においては、廃棄物担当部局に対して直ちに情報提供するよう努められたい。

  (5) 環境衛生担当部局との連携

    地下水の水質の浄化に係る措置命令を課す場合には、環境衛生担当部局に連絡するよう努められたい。

 7 その他

   地下水の水質の浄化に係る措置命令に基づき、又は自主的に地下水の浄化に取り組む事業者に関する情報については、関係者の正当な利益の保護との関連も考慮し、適切に取り扱うよう留意されたい。
   トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン以外の物質による地下水汚染については、その浄化措置について地方公共団体において必ずしも十分な知見が集積されているとは限らず、技術的助言等が必要になると考えられることから、これらの汚染に対する措置命令を当該都道府県の区域内において初めて行う際には、環境庁にその旨連絡されたい。
   なお、法の運用に当たっては、自主的な事務処理の簡素化、現有職員の効率的活用を図るよう努められたい。

Ⅱ 油に係る事故時の措置について

 1 貯油事業場等の定義

   法第14条の2第2項の「貯油事業場等」には、工場又は事業場に該当しないものは含まれない。このため、例えば一般的には、家庭や田畑は貯油事業場等には含まれない。また、法第2条第4項の「貯油施設等」には、ドラム缶等の容器、車両等で移動可能なものは含まれない。ただし、特定事業場及び貯油事業場等の敷地内からの油の流出については、すべて事故時の措置の対象となるので留意されたい。

 2 事故の届出

   法第14条の2第1項及び第2項の油に係る事故により「生活環境に係る被害を生ずるおそれがあるとき」とは、油による水質の汚濁により、浄水場における取水停止、農業被害、水産被害、魚類のへい死、油膜の発生等の被害が発生するおそれがある場合である。即ち、水道、水田の取水口、漁場等の利水地点や広く一般の人が利用する地点において油膜が生ずるおそれがある場合等が該当することとなる。
   油に係る事故の届出については、有害物質に係る事故の届出と同様に、迅速性を要することから、必ずしも文書で行う必要はなく、迅速かつ確実に届け出られるのであれば、その手段や経路は問わないこととする。届け出るべき内容は、事故の状況及び講じた措置の概要であり、具体的には、事故発生の時刻、場所、原因、油の流出量、周辺の状況、汚染の拡大の予測、講じた措置の内容等である。

 3 関係機関等への連絡

   油の流出事故による生活環境被害を防止するためには、河川管理者等関係機関において実施される各種対策も重要であることから、事故発生の際に緊密かつ迅速な連絡が図られるよう、予め各関係機関との緊密な連携体制の一層の強化に努めるとともに、これら機関と十分連携を保って事案に対処されたい。

  (1) 消防機関

    消防法(昭和23年法律第186号)第11条第1項により許可を受けた危険物施設に対し応急措置命令を発するに当たっては、当該危険物施設の許可権者である市町村長等と発動の要否、措置の内容について事前に調整し、当該市町村長等が火災予防の観点から意見を述べた場合には、当該意見を尊重することとされたい。

  (2) 河川管理者、下水道管理者

    油流出による被害拡大を防止するため、事故の発生を知ったときには、直ちに当該地域の河川管理者及び下水道管理者に事故の状況等を連絡されたい。

  (3) 水道事業者

    水道に対し被害の拡大を防止するため、事故の発生を知ったときには、直ちに当該地域の水道事業者に事故の状況等を連絡されたい。

  (4) 海上保安庁の事務所

    事故により海域が汚染され、又は汚染されるおそれがあるときは、直ちに海上保安庁の事務所に事故の状況等を連絡されたい。

  (5) 漁業団体、土地改良区等の利水関係機関

    当該事故による汚染の状況によっては、漁業団体、土地改良区等の利水関係機関に事故の状況等を速やかに連絡されたい。

 4 その他

  1.   (1) 貯油事業場等の設置者等で小規模な事業者に対し、応急措置命令を課し、又は応急措置の実施・届出に関する指導を行う場合には、これらの者の経済的能力に留意するとともに、必要に応じ、技術指導等を行うよう努められたい。
  2.   (2) 大震災等の通常想定し得ない天災により特定施設等の破損等が生じた場合に応急措置命令を課すに当たってはその事情を斟酌するとともに、第三者の犯罪行為により事故が発生した場合等で事業者に帰責事由が存しない場合は応急措置命令を適用しないこととするが、これらの場合においても事故の状況及び講じた措置の概要について十分に把握し、適切に対処することとされたい。
  3.   (3) 法第14条の2の規定を運用するに当たっては、特定事業場の設置者又は貯油事業場等の設置者による消防法、石油コンビナート等災害防止法(昭和50年法律第84号)等の他の法律に基づく災害に関する応急措置(関係機関への通報を含む。)の実施に支障を生じさせないよう配慮されたい。