法令・告示・通達

水質汚濁防止法の一部を改正する法律の施行について

公布日:平成8年10月01日
環水管275号

環境事務次官から各都道府県知事・政令市長あて
 水質汚濁防止法の一部を改正する法律(平成8年法律第58号。以下「改正法」という。)は第136回国会において成立し、平成8年6月5日に公布され、平成9年4月1日から施行される。
 これに伴い、水質汚濁防止法施行令の一部を改正する政令(平成8年政令第208号)及び水質汚濁防止法施行規則の一部を改正する総理府令(平成8年総理府令第38号)が平成8年7月5日に公布され、また、水質汚濁防止法施行規則第9条の4の規定に基づく環境庁長官が定める測定方法(平成8年環境庁告示第55号。以下「告示」という。)が同年9月19日に公布され、いずれも改正法の施行の日から施行される。
 本改正法は、有害物質により汚染された地下水による人の健康に係る被害を防止するため、地下水の水質の浄化のために必要な措置を定めるとともに、油の流出事故による水質汚濁を防止するため、事故時の措置に関する規定の整備等を行うものである。貴職におかれては、下記事項に留意の上、改正法の施行に遺漏なきを期されたい。
 以上、命により通達する。

第1 改正法の趣旨

  地下水は、温度の変化が小さく水質が清浄であることなどから、全国で約3,000万人の飲用に供されるなど、古来より豊富で良質な水資源として住民に親しまれ、都市用水等として重要な役割を果たしているほか、災害時等緊急時の水源としても重要である。
  こうした地下水の水質を保全するため、既に水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号。以下「法」という。)に基づき、有害物質を含む水の地下への浸透を禁止する措置等を講じてきているところであるが、地下水は、流速が極めて緩慢であるなどの理由から自然の浄化が期待しにくいため、有機塩素系化合物等の有害物質によりいったん汚染された地下水については、汚染の改善の傾向が見られない現状にある。
  また、水質汚濁事故時の措置としては、有害物質の流出事故について、既に法に基づき、引き続き有害物質を含む水の排出又は浸透の防止のための応急措置を義務づける等の措置を講じてきているが、昨今、全国的に多発している油の流出事故については、事故時の措置に関する規定がなく、浄水場の取水停止、農業用水の汚濁等の生活環境被害が発生している。
  本改正法は、こうした状況にかんがみ、有害物質により汚染された地下水による人の健康に係る被害を防止するため、地下水の水質の浄化のために必要な措置に関する規定とともに、油の流出事故による水質汚濁を防止するため、事故時の措置に関する規定を整備することとしたものである。

第2 地下水の水質の浄化に係る措置命令等

  今回の法改正により、都道府県知事(法第28条第1項に基づき事務の委任を受けた市の長を含む。以下同じ。)は、特定事業場において有害物質に該当する物質を含む水の地下への浸透があったことにより、現に人の健康に係る被害が生じ、又は生ずるおそれがあると認めるときは、総理府令で定めるところにより、その被害を防止するため必要な限度において、当該特定事業場の設置者(相続又は合併によりその地位を承継した者を含む。)に対し、相当の期限を定めて、地下水の水質の浄化のための措置をとることを命ずることができるとされた(法第14条の3第1項)。
  また、法第14条の3第1項本文に規定する場合において、都道府県知事は、同項の浸透があった時において当該特定事業場の設置者であった者(相続又は合併によりその地位を承継した者を含む。)に対しても、同項の措置をとることを命ずることができることとされた(法第14条の3第2項)。
  さらに、法第14条の3第2項による措置命令を円滑に運用するため、特定事業場の設置者(特定事業場又はその敷地を譲り受け、若しくは借り受け、又は相続若しくは合併により取得した者を含む。)は、当該特定事業場について同項の規定による命令があったときは、当該命令に係る措置に協力しなければならないこととされた(法第14条の3第3項)。

 1 措置命令

   地下水の水質の浄化に係る措置命令は、汚染原因者である特定事業場の設置者又は設置者であった者を対象として発せられるものである。したがって、汚染原因者である命令時における特定事業場の設置者に加え、既に特定事業場の設置者でなくなっている者で有害物質に該当する物質を含む水の地下への浸透があった時に特定事業場の設置者であった者についても、改正法の公布の日(平成8年6月5日)前に特定事業場の設置者でなくなった者を除き措置命令の対象となり、命令時における特定事業場の設置者であるが有害物質に該当する物質を含む水の地下への浸透があった時に特定事業場の設置者でなかった者は措置命令の対象とならない。
   また、措置命令は、「特定事業場において有害物質に該当する物質を含む水の地下への浸透があったことにより、現に人の健康に係る被害が生じ、又は生ずるおそれがあると認めるとき」発することができることとされている。この場合、「有害物質に該当する物質」とは、水質汚濁防止法施行令(昭和46年政令第188号。以下「令」という。)第2条に規定するカドミウム等の物質を指すものであり、「該当する」としたのは、地下水汚染の原因となる浸透の時点で有害物質に指定されていない物質についても、措置命令の時点で有害物質に指定されていれば、措置命令の対象となることを明らかにするためである。
   さらに、地下水汚染から人の健康を保護するという観点から、措置命令は、水質汚濁防止法施行規則(昭和46年総理府・通商産業省令第2号。以下「規則」という。)第9条の3第2項に定められる浄化基準を超えて汚染された地下水に関し、次に掲げる地下水の利用等の状態に応じて、同項各号に定められる地点において浄化基準(汚染原因者が二以上ある場合には、削減目標)を達成することを限度として発することができることとされている。この浄化基準及び削減目標に係る測定方法は、告示により示されているので留意されたい。

  1.   (1) 人の飲用に供せられ、又は供せられることが確実である場合(規則第9条の3第2項第1号)
         「人の飲用に供せられる」とは、地下水を井戸等により直接に飲用に供することが地域において一般的である場合を指すものであり、上水道が整備されている場合であっても、地下水が常態として飲用されている場合が含まれる。「供せられることが確実である」ことについては、宅地開発等を行うべく所要の法令上又は地方公共団体の条例・要綱上の手続きをとっている地域において、将来的に地下水が飲用に供せられることが計画されていることをもって判断することとされたい。
  2.   (2) 水道法(昭和32年法律第177号)第3条第2項に規定する水道事業(同条第5項に規定する水道用水供給事業者により供給される水道水のみをその用に供するものを除く。)、同条第4項に規定する水道用水供給事業又は同条第6項に規定する専用水道のための原水として取水施設より取り入れられ、又は取り入れられることが確実である場合(規則第9条の3第2項第2号)
         「取り入れられることが確実である」ことについては、上記(1)の「供せられることが確実である」ことについてと同様に判断することとされたい。
  3.   (3) 災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第40条第1項に規定する都道府県地域防災計画等に基づき災害時において人の飲用に供せられる水の水源とされている場合(規則第9条の3第2項第3号)
         「都道府県地域防災計画等」には、市町村地域防災計画、都道府県又は市町村の条例又は要綱等が含まれる。
  4.   (4) 水質環境基準(有害物質に該当する物質に係るものに限る。)が確保されない公共用水域の水質の汚濁の主たる原因となり、又は原因となることが確実である場合(規則第9条の3第2項第4号)
         河川等の公共用水域において水質汚濁に係る環境基準(水質汚濁に係る環境基準について(昭和46年環境庁告示第59号)別表1の項目の欄に掲げる項目に限る。)を超えて汚染され、又は汚染されることが確実であると判断されるときに、地下水がその汚染の主たる原因となる場合を指し、その地下水が浄化基準を超えているときに、措置命令の対象となることとなる。なお、当該公共用水域の汚染について、他の汚染原因がある場合は、地下水対策だけでなく、他の汚染原因についての対策も併せて講じ、汚染の早期改善に努められたい。また、「原因となることが確実である」ことについては、汚染源からの距離、地下水の流向、流速等を勘案して判断することとされたい。

   また、浄化を達成するまでの「相当の期限」を設定するに当たっては、措置命令制度の円滑な施行を図る観点から、人の健康を保護するという目的の範囲内で汚染原因者の技術的能力や経済的能力についても十分勘案することとされたい(規則第9条の3第3項)。

 2 協力規定

   法第14条の3第2項に基づき汚染原因者たる特定事業場の設置者であった者が浄化のための措置を実施するに当たっては、命令時における特定事業場の設置者(特定事業場又はその敷地を譲り受け、若しくは借り受け、又は相続若しくは合併により取得した者を含む。)が所有、管理している土地について、適切な地点への浄化装置の設置、作業員の出入り等が必要になる場合が考えられる。法第14条の3第3項の規定は、こうした観点から命令時における土地の所有者等に対し、浄化作業を円滑に実施するための協力を義務付けることとしたものであるが、これら命令時における土地の所有者等は地下水汚染について汚染原因者として何ら負うべき責任がなく、また、措置命令の実施がこれらの者の事業活動や生活に与える影響が一律に予測できないことから、罰則のない義務としたところであり、これは資金協力まで求めるものではないものの、地下水の水質の浄化のための措置を円滑に進めるため必要な協力であることから、その点について協力者の理解を得つつ、汚染された地下水の浄化装置の設置のための場所の提供、機材置き場の提供、作業員の出入りの承認等の協力を求めることとされたい。

 3 報告及び検査

   今回の法改正により、都道府県知事は、汚染された地下水の浄化の措置を行うために必要な事項に関し、特定事業場の設置者及び特定事業場の設置者であった者に対し、報告を求め、又はその職員に、その者の特定事業場に立ち入り、特定施設その他の物件を検査させることができることとされた(法第22条第1項)。これは、都道府県知事が地下水の水質の浄化に係る措置命令を発する際には汚染源及び汚染原因者の特定が不可欠であることから、汚染源及び汚染原因者の特定を行うために、必要な範囲内において、報告を徴収し、立入検査させることができるようにされたものである。

第3 事故時の措置

  今回の法改正により、特定事業場の設置者は、当該特定事業場において、特定施設の破損その他の事故が発生し、油を含む水が当該特定事業場から公共用水域に排出され、又は地下に浸透したことにより生活環境に係る被害を生ずるおそれがあるときは、直ちに、引き続く油を含む水の排出又は浸透の防止のための応急の措置を講ずるとともに、速やかにその事故の状況及び講じた措置の概要を都道府県知事に届け出なければならないこととされた。これにより、特定事業場の設置者は、従来の有害物質に加え、油についても、事故時の措置を講じなければならないこととされた(法第14条の2第1項)。
  さらに、油に係る事故時の措置については、油の流出事故の実態にかんがみ、貯油施設等を設置する貯油事業場等の設置者についても、特定事業場の設置者と同様に、事故時の措置の対象とされた(法第14条の2第2項)。
  また、都道府県知事の行う応急措置命令については、従来の有害物質に係る事故の場合と同様に、都道府県知事は、当該特定事業場の設置者又は貯油事業場等の設置者が、法第14条の2第1項又は第2項の応急措置を講じていないと認めるときは、これらの者に対し、これらの規定に定める応急の措置を講ずべきことを命ずることができるものとされた(法第14条の2第3項)。

 1 油並びに貯油施設等及び貯油事業場等の範囲

   事故時の措置の対象となる油は、重油その他の政令で定める油をいい、具体的には、原油、重油、潤滑油、軽油、灯油、揮発油及び動植物油が指定されている(法第2条第4項、令第3条の3)。
   また、油に係る事故時の措置の対象とされた貯油事業場等とは、特定事業場以外の工場又は事業場で貯油施設等を設置するものである(法第14条の2第2項)。ここで、貯油施設等とは、油を貯蔵し、又は油を含む水を処理する施設(特定施設を除く。)で政令で定めるものをいい、具体的には、上記の政令で定める油を貯蔵する貯油施設及び上記の政令で定める油を含む水を処理する油水分離施設が指定されている(法第2条第4項、令第3条の4)。

 2 応急措置及び届出

   特定事業場の設置者又は貯油事業場等の設置者が、応急の措置を講ずるとともに、都道府県知事へ事故の状況及び講じた措置の概要を届け出なければならない場合とは、「特定施設又は貯油施設等の破損その他の事故が発生し、油を含む水が当該特定事業場又は貯油事業場等から公共用水域に排出され、又は地下に浸透したことにより生活環境に係る被害を生ずるおそれがあるとき」であるが、この特定施設又は貯油施設等の破損その他の事故は、人為的な事故に限らず、天災を含む不可抗力による事故を含むことに留意されたい。
   また、応急の措置とは、事故が発生した場合における引き続く油を含む水の公共用水域への排出又は地下への浸透の防止のための措置であり、必ずしも原状回復措置とは一致しない。具体的には、特定施設又は貯油施設等への油の供給の停止、土のうの積み上げ、油吸着マットの設置、油汚染表土の除去等の措置が挙げられる。
   なお、都道府県知事への届出については、大量の油が流出し応急の措置に時間を要すると思われる場合等状況に応じ、応急の措置を講ずる前であっても、速やかに事故の状況を届け出るとともに、講じようとしている応急の措置を都道府県知事に届け出るよう指導し、事故への対応状況を把握するとともに、適切な措置が講じられるよう指導に努められたい。

 3 応急措置命令

   都道府県知事が、応急措置を命ずることができる場合とは、「特定事業場の設置者又は貯油事業場等の設置者が応急の措置を講じていないと認めるとき」である。「応急の措置を講じていないと認めるとき」とは、事故の内容に照らし、適切な応急措置が講じられていないと認める場合であり、何らかの応急の措置を講じている場合であっても、その措置内容が適切なものでない場合には、都道府県知事は、当該特定事業場の設置者又は貯油事業場等の設置者に対し、適切な措置を講ずるよう命令することができる。

第4 適用除外

  1.  1 今回の法改正により、法第23条第2項が改正されたが、これは従前の整理にのっとり、同項に掲げる事業場又は施設について、地下水の水質の浄化に係る措置命令については鉱山保安法(昭和24年法律第70号)又は電気事業法(昭和39年法律第170号)の相当規定により、油に係る事故時の措置については鉱山保安法、電気事業法又は海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律(昭和45年法律第136号)の相当規定により措置することとしたものである。
  2.  2 これらの法律を所管する国の行政機関の長と都道府県知事との間の事務の連携については、法第23条第3項から第5項までに定められており、今回の法改正に伴い、都道府県知事が、行政機関の長に対し法第14条の3第1項又は第2項の規定に相当する鉱山保安法又は電気事業法の規定による措置をとるべきことを要請することができるものとされた(法第23条第4項)。

第5 罰則規定

  1.  1 地下水の水質の浄化に係る措置命令に係る罰則規定は次のとおりである。
       法第14条の3第1項又は第2項の規定による命令に違反した者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する(法第30条)。
       また、従前の規定との関係から罰則が適用されることとなる者は次のとおりである。
       法第22条第1項の規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又は同条第1項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者(法第33条第4号、20万円以下の罰金)
  2.  2 油に係る事故時の措置に係る罰則規定は次のとおりである。
       法第14条の2第3項の規定による命令に違反した者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する(法第31条第1項第2号)。
  3.  3 法第34条の規定により、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、上記1、2の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各条の罰金刑を科する(両罰規定)。
  4.  4 法の罰金の上限の金額は昭和53年以来改正を行っていないことから、今回の法改正に際して、法第30条、第31条、第32条及び第33条について所要の改正を行った。法第14条の2及び法第14条の3に関連する条項以外についても罰金の上限の金額が変わることに留意されたい。

第6 関係者への周知

  油に係る事故時の措置については、特定事業場のほか、特に貯油事業場等については、これまで法の適用対象となっていなかったことから、現時点において、法の趣旨が必ずしも徹底されていない場合もあると思われ、これら特定事業場の設置者及び貯油事業場等の設置者に対し十分な周知徹底を図る必要がある。
  また、地下水の水質の浄化に係る措置命令についても、制度の趣旨について措置命令の対象となりうる特定事業場の設置者に対し周知徹底を図る必要がある。
  このような現状を踏まえ、法の施行を平成9年4月1日からとし(改正法附則第1条)、周知期間を設けたところであり、都道府県及び政令市においても、市町村その他関係機関の協力を得ながら、周知徹底を図るよう努められたい。

第7 経過措置

  特定事業場における有害物質に該当する物質を含む水の地下への浸透のうち改正法の公布の日(平成8年6月5日)前にあったものについては、当該浸透時における当該特定事業場の設置者(相続又は合併によりその地位を承継した者を含む。)が改正法の公布の日まで引き続き当該特定事業場の設置者である場合を除き、改正後の法第14条の3第1項及び第2項の規定は適用しないものとされた(改正法附則第2条)。

第8 関係諸法律の改正

  今回の法改正により、特定工場における公害防止組織の整備に関する法律(昭和46年法律第107号)、瀬戸内海環境保全特別措置法(昭和48年法律第110号)、湖沼水質保全特別措置法(昭和59年法律第61号)、特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の水質の保全に関する特別措置法(平成6年法律第9号)について、所要の改正を行ったが、法の条項移動による整理を行ったものであり、実質的意義を伴う改正を行ったものではない。

第9 その他

  その他、今回の法改正の運用に係る事項については別途通達する。