法令・告示・通達

水質汚濁に係る環境基準についての一部を改正する件の施行等について(通知)

公布日:平成15年11月05日
環水企発031105001・環水管発031105001

 環境基本法(平成5年法律第91号。以下「法」という。)第16条に規定される環境基準については、平成15年11月5日に「水質汚濁に係る環境基準についての一部を改正する件」(平成15年環境省告示第123号)として告示された(別添参照)。
 この改正は、生活環境の保全に関する環境基準(以下「環境基準生活環境項目」という。)として、新たに公共用水域における水生生物及びその生息又は生育環境を保全する観点から全亜鉛を追加するとともに、これについて基準値を設定したものである。
 今後、引き続き類型当てはめ等の環境基準の運用、環境管理等水生生物の保全に係る施策の重要事項について中央環境審議会水環境部会(以下「水環境部会」という。)において審議が行われることとされているところである。この審議結果を踏まえつつ、国において類型当てはめ、環境管理施策等について、順次講じていくこととしているが、貴職におかれても、下記事項に留意の上、環境基準の円滑かつ適切な施行に万全を期されるようお願いする。

1 基本的考え方

  水生生物の保全に係る水質環境基準(以下「水生生物保全環境基準」という。)は、生活環境を構成する有用な水生生物及びその餌生物並びにそれらの生息又は生育環境の保全を目的として設定するものであり、環境基準生活環境項目として位置付けるものとした。
  現在得られている我が国に生息する魚介類及びその餌生物に係る化学物質の毒性等に関する知見、公共用水域等における検出状況等から判断して、水環境の汚染を通じ水生生物の生息又は生育に支障を及ぼすおそれがあり、水質汚濁に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずる必要があると考えられる物質について、今般、環境基準生活環境項目に追加することとした。
  また、クロロホルム、フェノール及びホルムアルデヒドの3物質について、要監視項目として設定することとした。
  水生生物保全環境基準の考え方の詳細については、「水生生物の保全に係る水質環境基準の設定について(答申)」(平成15年9月12日付け中環審第146号)を参照されたい。

2 新たな環境基準生活環境項目及び基準値等

  新たに環境基準生活環境項目に追加した項目は、全亜鉛1項目である。これは、我が国における当該物質の生産・使用状況、公共用水域等における検出状況等を踏まえて、環境基準として設定したものである。
  基準値は、水生生物の集団の維持を可能とする観点から、基本的には慢性影響を防止する上で必要な水質の水準を定めるものである。このため全亜鉛の濃度の年間平均値として基準値を定めたものである。また、海域及び淡水域の区分、水域の水温、産卵・繁殖又は幼稚仔の生育場等の水生生物の生息状況の適応性に応じて6種類の類型に分けて設定した。
  水域類型及び基準値の概要は別表1のとおりである。

3 環境基準の運用上の取扱い

  環境基準の運用上の取扱いについては、以下に掲げる事項に留意されたい。

 (1) 環境基準の運用に係る重要事項について

   水生生物保全環境基準の設定が我が国で初めてであることに鑑み、環境基準の運用、環境管理等水生生物の保全に係る重要事項については、引き続き水環境部会で審議されることとなっている。このため、環境基準の運用に係る重要事項等については、水環境部会の結論を待って必要な情報提供を行うこととする。

 (2) 水域の類型指定について

   水域類型の指定に関する手続き等は、従来の生活環境項目において行われてきたものと同様であり、「環境基準に係る水域及び地域の指定の事務に関する政令」(平成5年政令第371号)の別表に掲げる公共用水域以外の公共用水域については、法第16条第2項の規定により都道府県知事が類型を当てはめる水域の指定を行うこととされている。
   国においては、(1)にある水環境部会の結論を踏まえ、具体の類型当てはめの検討を行う予定である。この国による具体の類型当てはめの検討を踏まえて、当方より都道府県に対し類型当てはめに関する検討方法等の技術的情報を提供する予定である。都道府県におかれては、これを参考にしつつ、管轄する水域の類型当てはめの実施をお願いする。

 (3) 公共用水域等の監視の実施について

   水生生物保全環境基準については、水質汚濁防止法(昭和45年法律第138号)第15条に基づく都道府県知事による公共用水域等の常時監視の対象として位置付け、水質の汚濁の状況の把握に努めるようお願いする。
   測定地点、測定回数、測定時期及び測定頻度の決定に当たっては、以下に掲げる事項を踏まえて行うものとし、適正な水域の監視に努められたい。
   なお、環境基準項目としての常時監視については、類型当てはめの後に行うこととなるが、それまでの間においても必要に応じて監視を行いつつ、概況の把握等に努められたい。

  ア 測定地点

    測定地点の選定に当たっては、水生生物の生息又は生育状況等を勘案し、水域内の既存の環境基準点・補助点等を活用しつつ、水域の状況を把握できる適切な地点を選定するものとする。

  イ 測定回数

    従来の生活環境項目と同様、年間を通じ原則として月1日以上採水分析するものとする。

  ウ 測定時期や回数の変更

    水生生物の生息又は生育状況、発生源の状況等により特定の時期等に着目する必要がある場合、凍結等水域の状況が測定に不適当な時期がある場合等にあっては、水質の時期的変動の有無等を勘案し、必要な対策につなげられるよう、測定時期や回数を適宜変更しても差し支えない。

4 要監視項目について

  今回、水生生物環境基準として設定した全亜鉛のほかに、有用な水生生物及びその餌生物並びにそれらの生息又は生育環境の保全に関連する物質ではあるが、公共用水域等における検出状況等からみて、現時点では直ちに環境基準とせず、引き続き知見の集積に努めるべきと判断された、クロロホルム、フェノール及びホルムアルデヒドの3項目について要監視項目として位置付け、継続して公共用水域等の水質測定を行い、その推移を把握していくべきこととした。
  要監視項目については、今後、国等において物質の特性、使用状況等を考慮し体系的かつ効果的に公共用水域等の水質測定を行うとともに、測定結果を国において定期的に集約し、その後の知見の集積状況を勘案しつつ、環境基準項目への移行等を検討することとしている。
  水質測定については、地域の実情に応じ必要と考えられる項目について、関係機関との連携を図りつつ、効率的に実施し、その結果を当職あて報告するとともに、必要に応じ公共用水域等の環境管理の参考とされたい。
  要監視項目の指針値及び測定法は、別表2及び別表3のとおりとする。

別表

項目
水域
類型
水生生物の生息状況の適応性
基準値
全亜鉛
河川及び湖沼
生物A
イワナ、サケマス等比較的低温域を好む
水生生物及びこれらの餌生物が生息する
水域
0.03mg/l以下
   
生物特A
生物Aの水域のうち、生物Aの欄に掲げ
る水生生物の産卵場(繁殖場)又は幼稚
仔の生育場として特に保全が必要な水域
0.03mg/l以下
   
生物B
コイ、フナ等比較的高温域を好む水生生
物及びこれらの餌生物が生息する水域
0.03mg/l以下
   
生物特B
生物Bの水域のうち、生物Bの欄に掲げ
る水生生物の産卵場(繁殖場)又は幼稚
仔の生育場として特に保全が必要な水域
0.03mg/l以下
 
海域
生物A
水生生物の生息する水域
0.02mg/l以下
   
生物特A
生物Aの水域のうち、水生生物の産卵場
(繁殖場)又は幼稚仔の生育場として特
に保全が必要な水域
0.01mg/l以下


 備考 基準値は年間平均値とする。

項目
水域
類型
指針値
クロロホルム
河川及び湖沼
生物A
0.7mg/l以下
   
生物特A
0.006mg/l以下
   
生物B
3mg/l以下
   
生物特B
3mg/l以下
 
海域
生物A
0.8mg/l以下
   
生物特A
0.8mg/l以下
フェノール
河川及び湖沼
生物A
0.05mg/l以下
   
生物特A
0.01mg/l以下
   
生物B
0.08mg/l以下
   
生物特B
0.01mg/l以下
 
海域
生物A
2mg/l以下
   
生物特A
0.2mg/l以下
ホルムアルデヒド
河川及び湖沼
生物A
1mg/l以下
   
生物特A
1mg/l以下
   
生物B
1mg/l以下
   
生物特B
1mg/l以下
 
海域
生物A
0.3mg/l以下
   
生物特A
0.03mg/l以下



項目
測定法
クロロホルム
日本工業規格K0125(用水・排水中の揮発性有機化合物試験方法)5.1、5.2及び5.3.1に定める方法
フェノール
付表1に掲げる方法
ホルムアルデヒド
付表2に掲げる方法


付表1

  フェノールの測定方法

 1 試薬(注1)

  1.   (1) 水
        日本工業規格K0557に規定するA2又はA3の水であって、必要に応じ、ヘキサンや使用する溶媒などで洗浄する
  2.   (2) メタノール
        日本工業規格K8891に定めるもの
  3.   (3) アセトン
        日本工業規格K8034に定めるもの
  4.   (4) ジクロロメタン
        日本工業規格K8161に定めるもの
  5.   (5) フェノール標準原液(1g/L)(注2)
        フェノール標準品(注3)100mgを正確に採り、全量フラスコ100mLに移し入れ、メタノール又はアセトンを標線まで加えたもの
  6.   (6) フェノール標準溶液(10mg/L)(注4)
        フェノール標準原液10mLを全量フラスコ1000mlに採り、ジクロロメタンを標線まで加えたもの
  7.   (7) サロゲート原液(1g/L)(注2)
        フェノール―d5標準品(注3)100mgを正確に採り、全量フラスコ100mLに移し入れ、メタノール又はアセトンを標線まで加えたもの
  8.   (8) サロゲート溶液(10mg/L)(注4)
        サロゲート原液10mLを全量フラスコ1000mLに採り、メタノールを標線まで加えたもの
  9.   (9) 内標準原液(1g/L)(注2)
        アセナフテン―d10標準品(注3)100mgを正確に採り、全量フラスコ100mLに移し入れ、ジクロロメタンを標線まで加えたもの
  10.   (10) 内標準液(10mg/L)(注2)
        内標準原液10mLを全量フラスコ1000mLに採り、ジクロロメタンを標線まで加えたもの
  11.   (11) 無水硫酸ナトリウム
        日本工業規格K8987に定めるもの
  12.   (12) 塩化ナトリウム
        日本工業規格K8150に定めるもの
  13.   (13) 塩酸(1+1)
  14.   (14) 窒素
        日本工業規格K1107に規定する高純度窒素2級のもの
  15.   (注1) 使用前に空試験を行い、使用できることが確認されているもの
  16.   (注2) 調整後冷暗所に保存し、使用時に純度が確認されていること
  17.   (注3) 使用時に純度が確認されているもの
  18.   (注4) 使用時に調製する

 2 器具及び装置

  1.   (1) ガスクロマトグラフ質量分析計(注5)
    1.    1) キャピラリーカラム
           内径0.2~0.32mm、長さ15~30mの溶融シリカ製のものであって、内面にポリエチレングリコールを0.1~3.0μm程度の厚さで被覆したもの又はこれと同等の分離性能を有するもの
    2.    2) 検出器
           電子衝撃イオン化法(EI法)が可能で、選択イオン検出法又はこれと同等の性能を有する方法でクロマトグラム測定が可能なもの
    3.    3) キャリヤーガス
           ヘリウム(99.9999vol%以上)であって、線速度を毎秒40cmとしたもの
    4.    4) インターフェース部
           温度を200℃程度に保つことができるもの
    5.    5) イオン源
           温度を200℃程度または使用装置の推奨温度(注6)に保つことができるもの
    6.    6) カラム槽昇温プログラム
           40℃で1分保ち、40~約190℃の範囲で毎分5℃の昇温を行うことができるもの
    7.    7) 注入口(注7)
           温度を150℃程度に保つことができるもの
    8.    8) 注入部
           スプリットレス法により1分後にパージできるもの
  2.   (2) 窒素吹き付け装置
  3.   (3) 振とう器
  4.   (注5) 共存する他の物質の影響を受けないよう設定条件を十分検討する。また、注入部やカラムなどに対象物質が吸着することがあるので、材質や汚れなどに注意する。
  5.   (注6) 支障なく測定できることが確認されている温度であること。
  6.   (注7) 注入口セプタムからゴーストが出現する場合は、セプタムをガスクロマトグラフに装着後、270℃程度で一夜程度パージしてから使用する。

 3 試料の採取及び保存

   試験は試料採取後直ちに行うこと。直ちに行うことができない場合は、試料50mLにサロゲート溶液10μL及び塩化ナトリウム1.5g(注8)を加え、塩酸(1+1)でpH約3として硫酸銅(Ⅱ)五水和物50mgを加えて降り混ぜ、0~10℃の暗所に保存し、できるだけ早く試験する。

  1.   (注8) 海水等試料に塩化ナトリウムが多く含まれる場合には、塩化ナトリウムは加えない。

 4 試験操作

  (1) 前処理

    試料50mLを分液ロート100mLに採り、サロゲート溶液10μL及び塩化ナトリウム(注8)1.5gを加える。塩酸(1+1)でpH3とし、ジクロロメタン10mLで1回、さらにジクロロメタン5mLで2回各10分間抽出する。抽出液を合わせ、窒素を吹き付けることにより3mL程度に濃縮する。無水硫酸ナトリウム約1gで脱水後、さらに窒素を吹き付けることにより1mlに濃縮(注9)し、得られた溶液に内標準液を10μL添加し、ガスクロマトグラフ質量分析用試料とする。
    別に試料と同量の水及びジクロロメタンを用いて、(1)の処理を行い、得られた試料液を空試験液とする。(注10)

  (2) 分析
  1.    (a) (1)で得られたガスクロマトグラフ質量分析用試料1μL(5(1)と同量)をマイクロシリンジを用いて採り、スプリットレス方式でガスクロマトグラムに注入し、選択イオン検出法又はこれと同等の性能を有する方法を用いて、特有の質量数(フェノールの定量イオン94、確認イオン65、フェノール―d5の定量イオン99、アセナフテン―d10の定量イオン164)をモニターする。クロマトグラムを記録し、保持時間(注11)に相当する位置のピークについて、ピーク面積又はピーク高さを測定する。(注12)
  2.    (b) 空試験液1μLを(a)と同じ操作を行って、クロマトグラムを記録し、それぞれの物質の保持時間に相当するピークについて、ピーク面積又はピーク高さを測定する。
  3.    (c) あらかじめ5により作成した検量線を用いてフェノールの量を求め、試料中の濃度を求める。
  4.   (注9) 窒素吹き付け操作では、濃縮液の表面が動いているのがようやく見える程度に窒素の流量を調節し、濃縮液が飛散しないように注意する。また、乾固させると窒素の吹き付けでフェノールが飛散することもあるので注意する。
  5.   (注10) 試料採取後直ちに試験を行わず、3により試料を保存した場合は、(1)の処理において硫酸銅(Ⅱ)五水和物50mgを加える。
  6.   (注11) ガスクロマトグラフ質量分析用試料中に夾雑物が多い場合には、保持時間が変わることがあるので注意する。
  7.   (注12) フェノール、フェノール―d5、アセナフテンd10について、定量イオン及び確認イオンが、検量線作成に用いた標準物質などの保持時間の±5秒以内に出現し、定量イオンと確認イオンの強度比が検量線作成に用いた標準物質におけるイオン強度比の±20%以下であれば、対象物質が存在していると見なすことができる。

 5 検量線の作成(注13)

   フェノール標準溶液(10mg/L)0.5~10mLを全量フラスコ100mLに段階的に採り、ジクロロメタンを標線まで加える。各濃度の希釈標準溶液1mLを採り、サロゲート溶液10μL及び内標準液10μLを加える。得られた混合液の1μLをガスクロマトグラフに注入し、クロマトグラムを記録し、フェノールとフェノール―d5との含有量比とピーク面積比の関係線を作成する。また、フェノール―d5と内標準との含有量比とピーク面積比の関係を求める。
  (注13) 検量線の作成は試料測定時に行う。

 6 定量及び計算

   試料及び空試験液についてサロゲートと対象物質の面積比を求め、対象物質の検出量をサロゲートで求める。次式で試料中のフェノール濃度を計算する。
    フェノール濃度(mg/L)=(検出量(ng)-空試験液の検出量(ng)(注14))÷(注入量(μL))×ガスクロマトグラフ質量分析用試料液量(mL)÷試料量(L)÷1000

  1.   (注14) 空試験液における検出値が空試験に用いた水以外の試料に由来する場合は、空試験液の検出量を差し引くこと。

 備考

  1 4(1)前処理の方法(溶媒抽出)に代えて固相抽出を行うことができる。この場合は以下のように操作する。

   (1) 器具及び装置
  •     ・固相:カートリッジ型、ディスク型等。酢酸エチル10ml、メタノール15mL及び水15mLで順次洗浄調製されたもの
  •     ・ガラス繊維ろ紙:保留粒子径1μm程度のもので、メタノール等の溶媒で洗浄するか、または、450℃程度で焼成し、妨害物質の溶出がないことを確認したもの。
  •     ・ろ過装置
  •     ・固相抽出装置
  •     ・溶出装置
   (2) 前処理

     試料(注15)50mLを採り、ガラス繊維ろ紙でろ過する。サロゲート10μL及び塩化ナトリウム1.5g(注8)を加え、よく振り混ぜて混合し、塩酸(1+1)でpH3以下とする。得られた液を固相に通水する。水10mLで固相を洗浄後、メタノール2mL及び酢酸エチル3mLで溶出する。溶出液に窒素を吹き付けることにより1mLに濃縮(注9)し、これに内標準液を10μL添加してガスクロマトグラフ質量分析用試料とする。

  1.   (注15) 浮遊物が多い試料では、ガラス繊維ろ紙でろ過し、浮遊物はメタノール20mlを加えて15分間超音波抽出を行う。得られた抽出液を3000rpmで10分間遠心後、窒素を吹き付けることにより3ml程度に濃縮し、ろ液にあわせる。得られたろ液を固相に通水する。

  2 測定においてフェノールのピーク形状が著しく悪い場合は以下に示す誘導体化を行う。

   (1) 試薬
  1.     (a) 2―プロパノール
  2.     (b) 内標準原液(1g/L)
          フェナントレン―d10 100mgを正確に採り、全量フラスコ100mLに移し入れ、メタノール又はアセトンを標線まで加えたもの
  3.     (c) 内標準溶液(10mg/L)
          内標準原液10mLを採り、全量フラスコ1000mLに移し入れ、2―プロパノールを標線まで加えたもの
  4.     (d) PFBB溶液
          臭化ペンタフルオロベンジル1g、18―クラウン6―エーテル1gを2―プロパノールで溶かし50mLとしたもの(注17)
  1.   (注16) この溶液は冷暗所保存で1週間程度安定である。PFBB毒性は不明であるが、催涙性が強いため、必ず手袋を着用し、ドラフト内で扱うこと。また、使用済の器具は、付着した試薬をアルカリ液で分解後、洗浄すること。標準試薬の秤量操作などもドラフト内で行い、試験者への化学物質の曝露をできるだけ避けること。
   (2) 器具及び装置
    (a) ガスクロマトグラフ質量分析計
  1.      (ア) キャピラリーカラム
           内径0.2~0.32mm、長さ15~30mの5%フェニルメチルシリコン又は5%フェニルメチルシリコン化学結合型のものであって、0.1~3.0μm程度の厚さ又はこれと同等の分離性能を有するもの
  2.      (イ) 検出器
           電子衝撃イオン化法(EI法)が可能で、選択イオン検出法又はこれと同等の性能を有する方法でクロマトグラム測定が可能なもの
  3.      (ウ) キャリヤーガス
           ヘリウム(99.9999vol%以上)であって、線速度を毎秒40cmとしたもの
  4.      (エ) インターフェース部
           温度を200℃程度に保つことができるもの
  5.      (オ) イオン源
           温度を250℃程度または使用装置の推奨温度(注6)に保つことができるもの
  6.      (カ) カラム槽昇温プログラム
           溶媒が2―プロパノールの場合は、60℃で1分間保ち、60~280℃の範囲で毎分7.5℃の昇温を行うことができるもの
  7.      (キ) 注入口(注7)
           温度を250℃程度に保つことができるもの
  8.      (ク) 注入部
           スプリットレス法により1分後にパージできるもの
  9.      (ケ) 測定イオン
化合物名
測定イオン
 
定量イオン
確認イオン
フェノール―PFB
274
181
フェノール―d5―PFB
279
181
フェナントレン―d10
188

   (3) 誘導体化操作
  1.     (b) 4(1)で得られた液にPFBB誘導体化試薬0.5mL及び炭酸カリウム約3mgを加えた後、密栓し、80℃で30分間加熱する。冷却後、20%塩化ナトリウム水溶液6mL、ヘキサン2mLを加え、激しく振り混ぜて1分間静置する。パスツールピペットを用いてヘキサン層を採取し、別のヘキサン6mlを用いて抽出を繰り返す。ヘキサンを合わせ少量の無水硫酸ナトリウムを詰めたカラムに通じ脱水し、容器とカラムをヘキサン5mLで洗浄し、抽出液とあわせ、窒素を吹き付け1mLとする。フェナントレン―d10内標準溶液を10μL添加し、ガスクロマトグラフ質量分析用試料とする。
  2.     (c) 5で得られた混合液について、(a)と同様の誘導体化操作を行い検量線作成用試料を得る。

  3 全操作を通じて、良好な回収結果(注17)(注18)が得られることをあらかじめ確認すること。空試験値については可能な限り低減化を図る。特に、フェノールは空試験でしばしば検出されることが知られているため、水、試薬の汚染をできるだけ減らすことが必要である。

  1.   (注17) サロゲートから求めたフェノールの回収率は70~120%、内標準から求めたサロゲートの回収率は50~120%であること。
  2.   (注18) サロゲートの回収率は、あらかじめ5で求めたサロゲートと内標準との含有量比とピーク面積比の関係からサロゲートの検出量を求め、次式で検出濃度を計算する。次に、検出濃度を添加した濃度で除したものを回収率とする。
           サロゲート検出濃度(mg/L)=検出量(ng)÷注入量(μL)×ガスクロマトグラフ質量分析用試料液量(mL)÷試料量(L)÷1000

  4 この測定方法の定量下限は0.001mg/Lである。

  5 この測定方法における用語の定義その他でこの測定方法に定めのない事項については、日本工業規格に定めるところによる。

付表2

  ホルムアルデヒドの分析方法

 1 試薬

  1.   (1) 水
        日本工業規格K0557に規定するA3の水
  2.   (2) 超純水
        日本工業規格K0211に定めるもの
  3.   (3) ヘキサン
        日本工業規格K8848に定めるもの
  4.   (4) メタノール
        日本工業規格K8891に定めるもの
  5.   (5) 硫酸ナトリウム(無水)
        日本工業規格K8987に定めるもの
  6.   (6) 塩化ナトリウム
        日本工業規格K8150に定める塩化ナトリウムを250℃以上で2時間以上加熱し、清浄なデシケータ中で放冷したもの
  7.   (7) 硫酸(1+1)
        硫酸容積1を超純水容積1に入れて希釈したもの
  8.   (8) ペンタフルオロベンジルヒドロキシルアミン塩酸塩(PFBOA)溶液
        ペンタフルオロベンジルヒドロキシルアミン塩酸塩(注1)600mgを透明摺り合わせ褐色全量フラスコ100mLに採り、水を標線まで加えたもの(注2)
  9.   (9) ホルムアルデヒド水溶液
        日本工業規格K8872に定めるもの
  10.   (10) チオ硫酸ナトリウム溶液(0.1mol/L)
        日本工業規格K8637に規定するチオ硫酸ナトリウム五水和物26g及び炭酸ナトリウム0.2gを水1Lに溶かし、2日間放置したものを使用時に標定(注3)したもの
  11.   (11) ホルムアルデヒド標準原液(1mg/mL)(注4)
        C%ホルムアルデヒド水溶液(注5)(10/C)gを正確に透明摺り合わせ全量フラスコ100mLに採り、メタノールを標線まで加えたもの
  12.   (12) ホルムアルデヒド標準溶液(10μg/mL)(注6)
        ホルムアルデヒド標準原液1mLを透明摺り合わせ褐色全量フラスコ100mLに採り、超純水を標線まで加えたもの
  13.   (13) 内標準原液(1mg/mL)
        ナフタレン―d8標準品100mgを透明摺り合わせ褐色全量フラスコ100mLに採り、ヘキサンを標線まで加えたもの
  14.   (14) 内標準液(1μg/mL)
        内標準原液(1mg/mL)0.1mLを透明摺り合わせ褐色全量フラスコ100mLに採り、ヘキサンを標線まで加えたもの
  1.   (注1) 純度が確認されているもの。
  2.   (注2) この溶液は調整後、冷暗所に保存する。
  3.   (注3) チオ硫酸ナトリウム溶液は使用時に次の手順で標定してから使用する。
    1.    (a) 可溶性でんぷん1gを水99mLに溶かす。
    2.    (b) 日本工業規格K8922に規定するよう素酸カリウムを130℃で約2時間加熱し、デシケーター中で放冷した後、0.72gを正確に透明摺り合わせ全量フラスコ200mLに採り、水を標線まで加える。
    3.    (c) (b)で得たよう素酸カリウム溶液20mLを透明摺り合わせ三角フラスコ300mLに採り、よう化カリウム2g及び硫酸(1+5)(硫酸容積1を水容積5に入れて希釈したもの)5mLを加え、直ちに密栓して静かに混ぜ、暗所に約5分間放置する。
    4.    (d) 次いで水100mLを加えた後、遊離したよう素をチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定し、溶液の黄色が薄くなってから指示薬として(a)で調整したでんぷん溶液1mLを加え、生じたよう素でんぷんの青色が消えるまで滴定する。これに要した0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液のmL数(α)を求める。
    5.    (e) 空試験として水20mLについて(c)から(d)までの操作を行い、これに要した0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液のmL数(β)を求める。
    6.    (f) 次式によりチオ硫酸ナトリウム溶液のファクターfを求める。
           f=a×(b/100)×(20/200)×[1/(x×0.003567)]
            ここで、a:よう素酸カリウムの量(g)
             b:よう素酸カリウムの純度(%)
             x:滴定に要した0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液量((α-β)mL)
  4.   (注4) 調製後、ただちに透明摺り合わせ褐色ガラス瓶に入れて冷凍保存する。
  5.   (注5) ホルムアルデヒド水溶液の濃度C%は次の手順で標定する。
    1.    (a) 日本工業規格K8920に規定するよう素13gと、日本工業規格K8913に規定するよう化カリウム20gを水20mLに溶かし、さらに水を加え1Lとする。
    2.    (b) 日本工業規格K8574に規定する水酸化カリウム6gに水94mLを加える。
    3.    (c) ホルムアルデヒド水溶液の約1gを透明摺り合わせ褐色全量フラスコ100mLに採り、水を標線まで加える。
    4.    (d) (c)で得たホルムアルデヒド水溶液10mLを共栓付き透明摺り合わせ三角フラスコ300mLに採り、これに(a)で得たよう素溶液50mL及び(b)で得た水酸化カリウム溶液20mLを加え、直ちに密栓して静かにふり混ぜ、15分間常温で静置する。
    5.    (e) 次いで、硫酸(1+15)(硫酸容積1を水容積15に入れて希釈したもの)15mLを加え、遊離したよう素を0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液を用いて滴定し、液が淡黄色になったら、でんぷん溶液1mLを指示薬として加えた後、液の青色が消えるまで更に滴定し、これに要した0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液のmL数(α)を求める。
    6.    (f) 空試験として水10mLについても(d)から(e)の操作を行い、これに要した0.1mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液のmL数(β)を求め、次式によりホルムアルデヒド水溶液の濃度C(%)を求める。
           C=1.5013×[(β-α)/W]×f
            ここで、f:チオ硫酸ナトリウム溶液のファクター
                W:ホルムアルデヒドの採取量(g)
  6.   (注6) 使用時に調製する。

 2 器具及び装置

  1.   (1) 細口褐色ガラス瓶
        容量500~1000mLの金属製キャップ付きの細口褐色ガラス瓶であって、あらかじめ超純水で洗浄した後、乾燥器(約200℃)で約6時間加熱処理し、放冷後密栓して清浄な場所に保管していたもの。
  2.   (2) 透明摺り合わせ分液漏斗
        容量100mLのものであって、あらかじめ水及びアセトンで洗浄した後、乾燥器(約200℃)で約6時間加熱処理したもの。
  3.   (3) 透明摺り合わせ試験管
        容量10mLのものであって、あらかじめ水及びアセトンで洗浄した後、乾燥器(約200℃)で約6時間加熱処理したもの。
  4.   (4) 透明摺り合わせ(褐色)全量フラスコ
        容量50mL,100mLのものであって、あらかじめ水及びアセトンで洗浄した後、乾燥器(約200℃)で約6時間加熱処理したもの。
  5.   (5) 透明摺り合わせ三角フラスコ
        容量300mLのものであって、あらかじめ水及びアセトンで洗浄する。なお、ホルムアルデヒドの定量に使用する透明摺り合わせ三角フラスコは、さらに乾燥器(約200℃)で約6時間加熱処理したもの。
  6.   (6) メスピペット
        最大容量1~5mLのものであって、あらかじめ超純水で洗浄後、乾燥器(約200℃)で約6時間加熱処理したもので、ホルムアルデヒド標準液を正確に採りだすために使用する。
  7.   (7) マイクロシリンジ
        容量10μLのもの
  8.   (8) ガスクロマトグラフ質量分析計
    1.    (a) キャピラリーカラム
           内径0.2~0.25mm、長さ30m程度の熔融シリカ製のものであって、内面に5%フェニルメチルシリコンを0.25μm程度の厚さで被覆したもの又はこれと同等の分離性能を有するもの
    2.    (b) 検出器
           電子衝撃イオン化法(EI法)が可能で、選択イオン検出法又はこれと同等の性能を有する方法でクロマトグラム測定が可能なもの
    3.    (c) キャリヤーガス
           ヘリウム(99.9999vol%以上)であって、定流量型では1mL/分、定圧型では線速度を毎秒30~60cmとしたもの
    4.    (d) インターフェース部
           温度を210~250℃に保つことができるもの
    5.    (e) カラム槽昇温プログラム
           60℃で2分保ち、60℃~150℃の範囲で毎分6℃の昇温を行うことができるもの
    6.    (f) 注入口温度:210~250℃
    7.    (g) 注入法:スプリットレス法により1分後パージできるもの
  9.   (9) 振とう機

 3 試料の採取及び保存(注7)

   試料の採取には細口褐色ガラス瓶を用いる。試料の採取にあたっては、試料水で内部を共洗い後、空気が入らないように口一杯に試料水を満たし、冷蔵状態で試験室まで運び、すみやかに分析する。

  1.   (注7) ホルムアルデヒドは空気中の微量常在成分であり、家具類や衣類、プラスチックからも発生することがあるので、試料採取容器の汚染には細心の注意を払う必要がある。ホルマリンを使用している実験室で試料および試料採取容器を扱うことは避けねばならない。

 4 試験操作 (注8)

  (1) 前処理
  1.    (a) 試料水(注9)50mLを透明摺り合わせ分液漏斗100mLに採り、PFBOA溶液1mLを加えて密栓して、手で振り混ぜて混合する。約2時間放置後、硫酸(1+1)1.6mLを加えてよく混合し、さらに5分間放置する。
  2.    (b) (a)の分液漏斗に塩化ナトリウム15g、ヘキサン10mLを加え、振とう機を用いて約10分間振とうする。放置後、水層を破棄し、ヘキサン層を透明摺り合わせ試験管10mLに移し、内標準液1mLを加えてよく混合し、硫酸ナトリウム(無水)約2gを用いて脱水する。(注10)(注11)
  3.    (c) ホルムアルデヒド標準溶液0.25mLをメスピペットを用いて透明摺り合わせ全量フラスコ50mLに正確に採り、標線まで超純水を加える。十分に混合した後、(a)から(b)までの操作を行い、添加回収試験液とする。
  4.    (d) 超純水50mLを透明摺り合わせ分液漏斗100mLに採り、(a)から(b)と同様の操作を行い、空試験液とする。
  1.   (注8) 実験室内の大気中ホルムアルデヒド濃度が高い場合は、窓を開けて外気を通気して、定量に影響を与えないことを確認してから、分析する必要がある。
  2.   (注9) 必要に応じ、ガラスフィルターでろ過してけん濁物質を除く。
  3.   (注10) ヘキサン層の分取では水を絶対に取らないようにする。
  4.   (注11) PFBOAホルムアルドキシムは揮発性が高いために、濃縮操作を行うと散逸の起こる可能性がある。
  (2) 分析
  1.    (a) (1)の(b)で得た試験液1μLをマイクロシリンジを用いて採り、スプリットレス方式でガスクロマトグラフに注入し、選択イオン検出法又はこれと同等の性能を有する方法を用いて、特有の質量数(PFBOAホルムアルドキシムの定量には181、確認には195、内標準液のナフタレンの定量には136)をモニターする。クロマトグラムを記録し、保持時間に相当する位置のピークについて、ホルムアルドキシムの定量イオン181と内標準液ナフタレンの136とのピーク面積比又はピーク高さ比を測定する。
  2.    (b) あらかじめ5により作成した検量線を用いて、抽出液中のホルムアルデヒドの全量(Aμg)を求める。次式により試料中のホルムアルデヒドの濃度を算出する。なお、ホルムアルデヒドが検出された試料水では、標準品のホルムアルドキシムのイオン181と195の強度比と、試料水中のホルムアルドキシムのイオン181と195強度比がほぼ一致することが確認されて、初めてホルムアルデヒドが検出されたことになる。
         ホルムアルデヒド濃度(mg/L)=A(μg)/検体量(mL)
  3.    (c) (1)の(c)で得た液についても一定時間ごとに(a)から(b)の操作を行って、ホルムアルデヒドの濃度を求め、濃度が15%以内の変動であることを確認する。また、回収率を求め、概ね70~130%の範囲であることを確認する。(注12) これらの範囲を外れた場合は、原因を究明して対策を講じた後、ガスクロマトグラフを調整し、5の検量線の作成を再度行うとともに、再度試料水、添加回収試験の分析を行う。
  4.    (d) (1)の(d)で得た液についても一定時間ごとに(a)から(b)の操作を行って、ホルムアルデヒドの濃度を求め、定量下限として指針値の1/10の値が確保できることを確認する。(注12)これが困難である場合は、原因を究明して対策を講じた後、5の検量線の作成を再度行うとともに、再度試料水、添加回収試験液、空試験液の分析を行う。
  1.   (注12) 添加回収試験、空試験は10検体又は1バッチの試験ごとに各々1回以上行う。

 5 検量線の作成(注13)

  1.   (1) ホルムアルデヒド標準溶液の0mL,0.05~5mLをメスピペットを用いて透明摺り合わせ全量スフラスコ50mLに段階的に採り、超純水を標線まで加える。以下4(1)(a)~(b)の操作を行い、検量線用標準液とする。検量線標準溶液の1mLをガスクロマトグラフに注入し、対象物質と内標準の含有量比とピーク面積比又は高さ比から検量線を作成し、それを用いて定量する。検量線の濃度範囲は、検出下限及び定量上限と予想される濃度を含む5段階とする。(注14)
  1.   (注13) 検量線の作成は試料測定時に行う。
  2.   (注14) 検量線で添加ホルムアルデヒド量が0の時の分析値が大きい時や検量線が直線にならない時は、試薬(試薬には水、超純水とも含まれている)がホルムアルデヒドで汚染されている可能性が高いと考えられ、原因を調べて検量線を作成し直す。なお、低濃度から高濃度までの範囲を1本の検量線で作成するのが困難な時は低濃度用と高濃度用の2本の検量線を作成してもよい。

 備考

  1.   1 この測定方法の定量下限は、3μg/Lである。なお、この定量下限は海域(生物特A)の指針値を想定したものであり、その他の水域においては定量下限を30μg/Lなどとして分析してもよい。
  2.   2 この測定方法における用語の定義その他でこの測定方法に定めのない事項については、日本工業規格に定めるところによる。