法令・告示・通達

大気汚染防止法の一部を改正する法律の施行について(依命通達)

公布日:平成1年12月27日
環大企489号

環境事務次官から各都道府県知事・政令市市長あて

 先般第114回国会において大気汚染防止法の一部を改正する法律(平成元年6月28日法律第33号。以下「改正法」という。)が可決、成立し、平成元年12月27日から施行された(大気汚染防止法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(平成元年12月19日政令第328号))。これに伴い、大気汚染防止法施行令の一部を改正する政令(平成元年12月19日政令第329号)及び大気汚染防止法施行規則の一部を改正する総理府令(平成元年12月27日総理府令第59号)が制定、公布され、平成元年12月27日からそれぞれ施行されることとなった。
 本改正法は、石綿その他の人の健康に係る被害を生ずるおそれがある物質による大気汚染を防止するため制定されたものである。貴職におかれても、改正後の大気汚染防止法(昭和43年法律第97号。以下「法」という。)の厳正かつ実効性のある施行について万全を期すため、下記の事項に十分御留意のうえ格段の御協力を願いたく命により通達する。

第1 改正の主な内容

  改正法の主な内容は、近年、発がん性等の健康影響の観点から、国民の関心が高まっている石綿等による大気汚染の問題に対処するため、石綿その他の人の健康に係る被害を生ずるおそれのある粉じんを特定粉じんとして所要の規制にかからしめることとしたものであること。
  特定粉じんに関する規制の基本的考え方は、発がん性等の健康影響を有する特定粉じんに関しては、国民の健康を保護する上で、当該粉じんの大気中の濃度を確実に一定水準以下に抑えることが必要であり、このため改正前の大気汚染防止法による粉じん発生施設の構造等の基準による規制に代えて、濃度の基準による規制等を導入しようというものであること。
  改正法では、粉じんのうち石綿その他の人の健康に係る被害を生ずるおそれのある物質を特定粉じんとし、これに伴い、特定粉じんを発生する施設を特定粉じん発生施設とした上で、特定粉じんの規制措置として特定粉じん発生施設の設置等の届出、計画変更命令等、特定粉じんの規制基準の遵守義務、改善命令等、特定粉じんの濃度の測定等の規定を設けたこと。
  このような規制を導入することにより、石綿製品等製造工場等の周辺地域において、当該工場等から排出され、又は飛散する特定粉じんの濃度を一定の水準に抑えることとしたこと。

第2 定義の改正に関する事項

 1 一般粉じん及び特定粉じん

   粉じんのうち石綿その他の人の健康に係る被害を生ずるおそれのある物質を特定粉じんとし、それ以外の粉じんを一般粉じんとしたこと。(法第2条第5項)
   一般粉じんは、物質を特定しない概念であり、特定粉じんとして指定されたもの以外の粉じんがすべて一般粉じんとなること。
   特定粉じんとしては、粉じんのうち、その人体への暴露と発がん性等の健康影響との関係が科学的知見により明らかにされ、環境中の濃度からみて、人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものを指定することになるが、今回は石綿を指定したこと。(大気汚染防止法施行令(昭和43年政令第329号。以下「令」という。)第2条の2)
   なお、今後、科学的知見の集積により、このような要件を満たすことが明らかになつた物質については、必要に応じて特定粉じんとして追加することとなること。

 2 一般粉じん発生施設及び特定粉じん発生施設

   一般粉じんを発生する施設を一般粉じん発生施設、特定粉じんを発生する施設を特定粉じん発生施設としたこと。(法第2条第6項及び第7項)
   一般粉じん発生施設は、改正前の粉じん発生施設と基本的に同じものであること。(法第2条第6項、令第3条及び別表第2)
   特定粉じん発生施設に関しては、当該施設から排出され、又は飛散する特定粉じんが大気の汚染の原因となるものであることが必要であること。(法第2条第7項)
   石綿に係る特定粉じん発生施設については、石綿製品等製造工場における石綿の排出又は飛散の実態等を踏まえ、石綿を含有する製品の製造の用に供する施設のうち石綿の排出量が多いと考えられる一定規模以上の施設を指定することとしたこと。なお、これらの施設であつても、湿式のもの及び密閉式のものは、当該施設から排出され、又は飛散する石綿は実際上ないと考えられることから、特定粉じん発生施設から除くこととしたこと。(令第3条の2及び別表第2の2)

第3 特定粉じんの規制基準に関する事項

  特定粉じんの規制基準は、特定粉じんの発生又は飛散の態様を踏まえ、特定粉じん発生施設を設置する工場又は事業場の敷地の境界線における濃度の許容限度として定めることとしたこと。(法第18条の5)
  特定粉じんの規制基準は、濃度による定量的な基準であるが、ばい煙の排出基準がばい煙発生施設を単位に適用されるのと異なり、特定粉じん発生施設が設置されている工場又は事業場を単位として適用されること。
  また、敷地境界における規制基準は、特定粉じんの発生施設のみならず、特定粉じん発生施設以外の施設から排出され、又は飛散する特定粉じんも含めて適用されること。
  石綿に係る特定粉じんの規制基準は、石綿による健康影響及び排出抑制技術を勘案して、大気中の石綿の濃度が1lにつき10本であることとしたこと。(法第18条の5、大気汚染防止法施行規則(昭和46年厚生省・通商産業省令第1号。以下「規則」という。)第16条の2第1項)

第4 特定粉じん発生施設の設置等の届出に関する事項

 1 特定粉じん発生施設の設置又は変更の届出

   特定粉じんを大気中に排出し、又は飛散させる者は、特定粉じん発生施設を設置しようとするとき又は特定粉じん発生施設の構造等を変更しようとするときは、所要の事項を都道府県知事(法第31条第1項に基づき事務の委任を受けた市の長を含む。以下同じ。)に届け出なければならないものとしたこと。(法第18条の6、規則第10条の2)
   特定粉じん発生施設の届出は、ばい煙発生施設及び一般粉じん発生施設の届出が原則として施設ごとの届出であるのと異なり、2以上の異なる種類の特定粉じん発生施設がある場合も、同一の工場又は事業場につき1枚の届出書によって届出をすることができること。(規則第13条第3項)
   これは、特定粉じんの規制基準が工場又は事業場単位で適用される基準であること、同一の工場又は事業場には2以上の特定粉じん発生施設が設置されることが多いこと等にかんがみ、届出者の便宜等を考慮したことによる措置であること。

 2 経過措置

   改正法の施行期日である平成元年12月27日において、現に特定粉じん発生施設を設置している者又は特定粉じん発生施設の設置の工事をしている者であって特定粉じんを大気中に排出し、又は飛散させるものは、改正法施行の日から30日以内に、都道府県知事に対し、特定粉じん発生施設の使用の届出をする必要があること。(法第18条の7、規則第10条の2)

第5 計画変更命令等及び実施制限に関する事項

  都道府県知事は、特定粉じん発生施設の設置又は変更の届出があった場合において、当該届出に係る特定粉じん発生施設が設置される工場又は事業場の敷地の境界線における大気中の特定粉じんの濃度が規制基準に適合しないと認めるときは、届出受理の日から60日以内に限り、計画の変更又は廃止を命ずることができることとしたこと。(法第18条の8)
  本規定は、規制基準に適合しない濃度の特定粉じんが排出され、又は飛散することによる大気汚染を未然に防止するためのものであること。
  特定粉じん発生施設の設置又は変更の届出をした者は、その届出が受理された日から60日間は、特定粉じん発生施設の設置又は変更の実施が制限されること。(法第18条の9)
  また、届出が受理された日を確定するため、都道府県知事は、受理書を届出者に交付しなければならないこと。(規則第10条の3)

第6 規制基準の遵守義務

  特定粉じん発生施設を設置する工場又は事業場における事業活動に伴い発生し、又は飛散する特定粉じんを、工場又は事業場から大気中に排出し、又は飛散させる者(以下「特定粉じん排出者という。)は、規制基準を遵守しなければならないものとしたこと。(法第18条の10)   特定粉じんの規制基準は、敷地境界線上のいずれの点においても遵守される必要があり、したがって、敷地境界線上のいずれか1地点でも規制基準を超える濃度の特定粉じんが検出される場合には、規制基準違反となること。

第7 改善命令等に関する事項

 1 改善命令等の要件

   都道府県知事は、特定粉じん排出者が排出し、又は飛散させる特定粉じんの当該工場又は事業場の敷地境界線における大気中の濃度が規制基準に適合しないと認めるときは、当該特定粉じん排出者に対し、期限を定めて当該特定粉じん発生施設の構造若しくは使用の方法の改善若しくは特定粉じんの処理の方法若しくは飛散の防止の方法の改善を命じ、又は当該特定粉じん発生施設の使用の一時停止を命ずることができるものとしたこと。(法第18条の11)
   本規定は、特定粉じんの排出又は飛散の態様等にかんがみ、いわゆる直罰によらず改善命令等を適用することにより、規制基準の遵守義務の実効性を担保するためのものであること。
   改善命令等の発動に当たっては、ばい煙の排出の規制の場合と異なり、規制基準違反が継続すること(継続性の要件)及び人の健康又は生活環境に係る被害を生ずるおそれがあること(被害要件)を必要とせず、都道府県知事が規制基準に適合しないと認めれば改善命令等を発動することが可能であること。
   また、改善命令と特定粉じん発生施設の使用の一時停止命令とは、選択的に又は同時並行的に適用することが可能であること。

 2 改善命令等の適用猶予

   改善命令等の規定は、ある施設が特定粉じん発生施設として政令で指定された際、既に当該施設を設置している特定粉じん排出者に対しては6月間適用されないこと。(法第13条第2項及び第18条の13第3項)
   これは、特定粉じんの処理又は飛散の防止のための施設の設置等規制基準を遵守するための準備期間中は、改善命令等は猶予しようという趣旨であり、特定粉じんの規制基準の遵守義務が猶予されるものではないこと。

第8 特定粉じんの濃度の測定に関する事項

  特定粉じん排出者は、総理府令で定めるところにより、その工場又は事業場の敷地の境界線における大気中の特定粉じんの濃度を測定し、その結果を記録しておかなければならないものとしたこと。(法第18条の12)
  石綿に係る特定粉じんの濃度の測定は、環境庁長官が定める測定法により、6月を超えない作業期間ごとに1回以上行うこととされていること。(規則第16条の3第1号)
  ただし、測定に伴う事業者の負担等を考慮して、環境庁長官が別途定めるところにより、測定の回数を特定粉じん排出者の工場又は事業場の規模等に応じて、変えることができることとしたこと。(規則第16条の3第1号ただし書)
  石綿に係る特定粉じんの濃度の測定の結果は、所定の事項を記録し、これを3年間保存する必要があること。(規則第16条の3第2号)

第9 報告及び検査に関する事項

 1 報告徴収

   報告を徴収できる事項は、特定粉じん発生施設の構造及び使用の方法、特定粉じんの処理又は飛散の防止の方法、特定粉じん発生施設の配置図、特定粉じんの排出の方法、特定粉じんを処理し、又は特定粉じんの飛散を防止するための施設の設置場所、特定粉じんの発生及び特定粉じんの処理に係る操業の系統の概要、特定粉じん発生施設を設置する工場又は事業場の付近の状況並びに法第18条の12の規定による特定粉じんの濃度の測定場所及び当該測定場所を選定した理由であること。(法第26条、令第12条第4項)

 2 立入検査

   立入検査の対象となる施設又は物件は、特定粉じん発生施設及びその関連施設、特定粉じん発生施設に使用する原料並びに関係帳簿書類であること。(法第26条、令第12条第4項)

第10 適用除外に関する事項

  電気工作物又はガス工作物であるばい煙発生施設等については、届出、計画変更命令等に関する規定が適用除外とされているが、特定粉じん発生施設については、そのような規定が設けられていないこと。(法第27条)
  これは、特定粉じん発生施設については、電気工作物又はガス工作物であると同時に特定粉じん発生施設であるものが考え得ないためであること。

第11 事務の委任等に関する事項

  特定粉じんに関する規制について、政令で定める市の長に委任される事務の範囲は、ばい煙の排出の規制及び一般粉じんに関する規制の場合と同様に、令第13条第1項に規定する市の長に対しては、工場以外の事業場に係るものに限り委任し、地方自治法第252条の19第1項の指定都市の長に対しては、工場に係るものも含め委任することとしたこと。(法第31条、令第13条)

第12 条例との関係に関する事項

  特定粉じんに関して、条例による規制が可能である場合は、次のとおりであること。(法第32条)

  1.  ① 特定粉じん発生施設において発生し、又は飛散する特定粉じん以外の物質の規制に関する場合
  2.  ② 特定粉じん発生施設以外の特定粉じんを発生し、及び排出し、又は飛散させる施設について、その施設において発生し、又は飛散する特定粉じんの規制に関する場合

  これは、条例との関係について、ばい煙の排出の規制の場合と同様の規定を特定粉じんについて設けたものであること。

第13 罰則に関する事項

 1 罰金の額の引上げ

   前回大気汚染防止法の改正が行われた昭和49年以降の物価の上昇、公害の防止に関する法律として同一の範ちゅうに属する水質汚濁防止法の罰金額等を勘案して、罰金額を引き上げたこと。(法第33条、第33条の2、第34条、第35条及び第37条)

 2 特定粉じんに関する規制に係る罰則

   特定粉じんは、特に人の健康に被害を及ぼすおそれのある物質として一般粉じんとは区別して規制されるものであることから、特定粉じんに関する規制については、ばい煙に準ずる罰則を課すこととしたこと。(法第33条、第34条、第35条及び第37条)