法令・告示・通達

大気汚染防止法の一部を改正する法律の施行について

公布日:平成9年02月12日
環大規31号

環境庁大気保全局長から各都道府県知事・各政令市長あて通知

 大気汚染防止法の一部を改正する法律(平成8年法律第32号。以下「改正法」という。)の施行については、その大綱が平成9年2月12日付け環大規第30号貴職あて通達「大気汚染防止法の一部を改正する法律の施行について」により示されたところであるが、細部については下記の事項に留意の上、改正法による改正後の大気汚染防止法(昭和43年法律第97号。以下「法」という。)の施行に遺漏のないようにされたい。

第1 特定粉じん排出等作業の規制

 1 特定建築材料及び特定粉じん排出等作業

   特定建築材料は、特定粉じんを発生し、又は飛散させる原因となる建築材料で政令で定めるものとされており(法第2条第8項)、既に特定粉じんに指定されている石綿(大気汚染防止法施行令(昭和43年政令第329号。以下「令」という。)第2条の2)を発生し、又は飛散させる原因となる吹付け石綿を特定建築材料として指定した(令第3条の3)。    特定粉じん排出等作業は、特定建築材料が使用されている建築物を解体し、改造し、又は補修する作業のうち、その作業の場所から排出され、又は飛散する特定粉じんが大気の汚染の原因となるもので政令で定めるものとされており(法第2条第8項)、特定粉じん排出等作業として、次の作業を指定した(令第3条の4)。

  1.   ① 建築基準法(昭和25年法律第201号)第2条第9号の2に規定する耐火建築物又は同条第9号の3に規定する準耐火建築物で延べ面積が500平方メートル以上のもの(以下「特定耐火建築物等」という。)を解体する作業であって、その対象となる建築物における特定建築材料の使用面積の合計が50平方メートル以上であるもの
  2.   ② 特定耐火建築物等を改造し、又は補修する作業であって、その対象となる建築物の部分における特定建築材料の使用面積の合計が50平方メートル以上であるもの

   したがって、特定耐火建築物等で吹付け石綿が使用されているものを解体し、改造し、又は補修する作業は特定粉じん排出等作業に該当する可能性があるので、特定耐火建築物等で吹付け石綿が使用されているものの所在を可能な範囲で把握しておくことが望ましい。
   なお、「準耐火建築物」は、「都市計画法及び建築基準法の一部を改正する法律」(平成4年法律第82号)による改正前の建築基準法第2条第9号の3に規定する「簡易耐火建築物」を含むものであることに留意されたい。

 2 作業基準

   特定粉じん排出等作業に係る作業基準は、特定粉じんの種類及び特定粉じん排出等作業の種類ごとに、特定粉じん排出等作業の方法に関する基準として総理府令で定めることとされており(法第18条の14)、石綿について、特定粉じん排出等作業を次の3種類に区分して、作業基準を設定した(大気汚染防止法施行規則(昭和46年厚生省・通商産業省令第1号。以下「規則」という。)第16条の4及び別表第7)。

  1.   ① 吹付け石綿の使用面積の合計が50平方メートル以上の特定耐火建築物等を解体する作業(②に掲げるものを除く。)
  2.   ② 吹付け石綿の使用面積の合計が50平方メートル以上の特定耐火建築物等を解体する作業のうち、あらかじめ吹付け石綿を除去することが著しく困難な作業
  3.   ③ 特定耐火建築物等を改造し、又は補修する作業であって、その対象となる建築物の部分における吹付け石綿の使用面積の合計が50平方メートル以上であるもの

   作業基準は、石綿の大気中への排出又は飛散を抑制することを目的に、特定粉じん排出等作業の方法に関する基準として設定しており、建築物の解体、改造等に当たり吹付け石綿を事前に除去することを原則としているが、事前除去が困難な場合には、その例外を認めている。
   すなわち、規則別表第7の二の項の中欄に掲げる「建築物の解体に当たりあらかじめ特定建築材料を除去することが著しく困難な作業」とは、例えば、崩壊しかけた建築物を解体する作業であり、このような場合は、人がその建築物内に立ち入って吹付け石綿の除去を行うことはできないので、同項に特別の作業基準を規定した。この作業に該当するか否かについては、個別事例に応じ、規則別表第7の一の項の下欄に掲げる作業基準を遵守することが可能な状態の建築物かどうかを踏まえ判断されたい。なお、この判断に当たっては、特定粉じん排出等作業を行う者に危険な作業を強いることにならないよう、十分配慮されたい。
   また、建築物の改造又は補修に当たっては、吹付け石綿を除去せず、いわゆる囲い込み工法又は封じ込め工法により石綿の飛散等を防止する場合があり、このような作業を行う場合は、吹付け石綿の劣化・接着状態を確認することを作業基準とし、「劣化が著しい場合、又は下地との接着が不良な場合」は、除去に係る作業基準に従って除去を行うことを作業基準とした(規則別表第7の三の項の下欄)。
   なお、規則別表第7の各項の下欄に掲げる「これ(ら)と同等以上の効果を有する措置を講ずること」とは、作業基準が特定粉じん排出等作業の方法に関する基準であり、実際の作業方法は対象となる建築物の状況や今後の技術の進展等に応じて様々な方法が想定されることから、作業基準に柔軟性を持たせる趣旨で規定したものである。
   いずれにしても、個別事例における作業基準に適合するかどうかの判断に当たっては、以上のような作業基準の趣旨を踏まえ、追って送付する予定の「アスベスト飛散防止対策検討会報告書」及び「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル」を参考にされたい。

 3 実施の届出

  1) 制度の概要

    特定粉じん排出等作業を伴う建設工事(以下「特定工事」という。)を施工しようとする者は、特定粉じん排出等作業の開始の日の14日前までに、所要の事項を都道府県知事又は法第31条第1項の規定に基づき事務の委任を受けた市の長(以下「都道府県知事等」という。)に届け出なければならない。ただし、特定粉じん排出等作業を緊急に行う必要がある場合は、事前届出の例外が認められる(法第18条の15第1項及び第2項並びに規則第10条の4及び様式第3の4)。
届出は、特定粉じん排出等作業ごとに行う必要があるが、二以上の特定粉じん排出等作業が同一の建築物について行われる場合、すなわち、建築物の改造又は補修に係る特定粉じん排出等作業が同一の建築物の複数の箇所で行われる場合には、一枚の届出書にまとめて届け出ることができる(規則第13条第4項)。
「緊急に行う必要がある場合」とは、典型的には、災害で崩壊し、交通等に支障を及ぼしている建築物を緊急に解体するような場合であるが、建築基準法第9条第1項若しくは第11項(同法第10条第2項において準用する場合を含む。)、第10条第1項、第11条第1項又は第90条の2第1項の規定に基づく特定行政庁の命令(違反建築物に対する除却命令等)であって、当該命令等に伴い特定粉じん排出等作業を14日以内に開始しなければならないこととなる場合もこれに該当する。
    また、特定工事が一端中断され、その後再開された場合で中断の前後でその工事内容に変更がないときは、一連の工事とみなし、特定粉じん排出等作業の実施の届出を改めて行う必要はない。

  2) 届出の受理

    届出の受理の事務は、特定工事を施工しようとする者の届出手続の負担軽減の見地から、可能な限り保健所、県事務所等の特定工事を施工する場所に近い行政事務所において行うことが望ましいので、この点に配慮されたい。
    特定粉じん排出等作業に係る届出については、ばい煙発生施設の設置等の届出の場合と異なり、受理書の交付を規定していないが、法第18条の15第1項の届出については、届出の受理日から14日以内に限り計画変更命令を行うことができることから、届出者及び受理者双方が受理日について共通の認識を持てるよう事務処理を行われたい。特に、届出書類が法令に規定された形式要件を満たしているかどうかの審査は、できるだけ届出書類が提出されたときに行い、届出書類の行政事務所への提出日と受理日が同一日になるよう努められたい。なお、保健所、県事務所等で届出の受理を行う場合、当該行政事務所で届出を受理した日が受理日になる。

  3) 罰則

    法第18条の15第1項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、3月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられる(法第34条第1号)。
法第18条の15第2項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、10万円以下の過料に処せられる(法第37条)。
    なお、これらの罰則は、故意にこれらの行為を行った場合に適用されるものであることから、施工者が建築物の解体等の作業の開始前に十分な調査を行い、当該建築物においては特定建築材料が使用されていないものとして当該作業を開始した後、当該作業が特定粉じん排出等作業に該当することが判明した場合には、その時点で作業を中断し、届出を行えば、罰則が適用されることはない。

 4 計画変更命令

  1) 制度の概要

    都道府県知事等は、特定粉じん排出等作業の実施の届出があった場合において、特定粉じん排出等作業の方法が作業基準に適合しないと認めるときは、届出受理の日から14日以内に限り、特定粉じん排出等作業の方法に関する計画の変更を命ずることができる(法第18条の16)。
    なお、本規定は、法第18条の15第2項の規定による届出があった場合には適用できないため、この場合の作業基準遵守の担保措置は、第18条の18の規定に基づく作業基準適合命令等により講じられたい。

  2) 留意事項

    計画変更命令は、特定粉じん排出等作業の実施に伴う特定粉じんの大気中への排出又は飛散を抑制する目的で、作業の方法を作業基準に適合させるために必要な限度において、作業の方法に関する計画の変更を命ずることができるものであり、特定工事を施工する者にこの趣旨を逸脱して過度な負担を課すことのないよう配慮されたい。これは、後述の作業基準適合命令等についても同様である。
計画変更命令を行う場合は、届出受理後、適正な審査に必要な期間を考慮してできる限り速やかに行われたい。
また、計画変更命令については、特定粉じん排出等作業に従事する労働者の特定粉じん暴露量が増加することのないよう運用されたい。このため、計画変更命令を発する場合には、関係する都道府県労働基準局長に事前に連絡し、調整されたい。
    その他、計画変更命令の運用については、追って送付する予定の「アスベスト飛散防止対策検討会報告書」及び「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル」を参考とされたい。これは、後述の作業基準適合命令等についても同様である。

  3) 罰則

    計画変更命令に違反した者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる(法第33条の2第1項第2号)。

 5 作業基準の遵守義務及び作業基準適合命令等

   特定工事を施工する者は、当該特定工事における特定粉じん排出等作業について、作業基準を遵守しなければならない(法第18条の17)。
この義務の履行を担保するため、都道府県知事等は、作業基準を遵守していないと認められる特定工事を施工する者に対して、期限を定めて作業基準に従うべきこと又は特定粉じん排出等作業の一時停止を命ずることができる(法第18条の18)。
   作業基準適合命令等に違反した者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる(法第33条の2第1項第2号)。

 6 注文者の配慮

   法に基づく特定粉じん排出等作業に係る規制措置は、特定工事を施工する者に対して行われるものであるが、特定工事を施工する者が法の規定を遵守するためには、特定工事の注文者が法の規定を理解し、施工契約が法の規定の遵守が可能な内容(施工方法、工期、施工に要する費用等)で結ばれる必要がある。
   このため、法第18条の19において特定工事の注文者の配慮の責務が規定されており、この規定の趣旨について周知徹底に努められたい。

 7 報告及び検査

   都道府県知事等は、法の施行に必要な限度において、特定工事を施工する者に対し、特定粉じん排出等作業の対象となる建築物の部分における吹付け石綿の使用箇所及び使用面積、特定粉じん排出等作業の方法、特定粉じん排出等作業の対象となる建築物の概要(耐火・準耐火の別、延べ面積等)、配置図及び付近の状況、特定粉じん排出等作業の工程を明示した特定工事の工程の概要等について報告を求め、又はその職員に、特定工事の場所に立ち入り、特定工事に係る建築物、特定粉じん排出等作業に使用される機械器具及び資材(特定粉じんの排出又は飛散を抑制するためのものを含む。)並びに関係帳簿書類を検査させることができる(法第26条第1項、令第12条第6項及び規則第10条の4第2項)。
   なお、文教施設について立ち入り検査を行うに当たっては、当該文教施設の特性に十分配慮されたい。

 8 経過措置

   平成9年4月1日に現に特定粉じん排出等作業が行われている場合における当該作業については、同日以降も作業基準の遵守義務(法第18条の17)及び作業基準適合命令等(法第18条の18)の規定は適用されない(改正令附則第2項)。
   なお、特定粉じん排出等作業の実施の届出(法第18条の15第1項)及び計画変更命令(法第18条の16)の規定についても、特定粉じん排出等作業の開始前に適用されるものであることから、平成9年4月1日に現に行われている特定粉じん排出等作業には適用されない。

 9 事務の委任

   特定粉じん排出等作業の規制に係る都道府県知事の権限に属する事務については、すべて令第13条第1項から第3項までに掲げる市の長に委任されている。

 10 条例との関係

   法の規定は、地方公共団体が、次に掲げる事項に関し、条例で必要な規制を定めることを妨げるものではない(法第32条)。

  1.   ① 特定粉じん排出等作業に伴い発生し、又は飛散する特定粉じん以外の物質の大気中への排出又は飛散
  2.   ② 特定粉じん排出等作業以外の建築物を解体し、改造し、又は補修する作業に伴い発生し、又は飛散する特定粉じんの大気中への排出又は飛散

 11 その他

   特定粉じん排出等作業に対する規制の導入に伴い、特定粉じんに関する規制基準として、法第18条の5に規定する規制基準と法第18条の14に規定する規制基準の二つが法律上規定されることとなった。このため、法第18条の5に規定する規制基準の略称を「敷地境界基準」に改めたが、その意味は、従来と何ら変更はない。

第2 有害大気汚染物質対策の推進

 1 有害大気汚染物質

  1) 定義

    法における「有害大気汚染物質」とは、継続的に摂取される場合には人の健康を損なうおそれがある物質で大気汚染の原因となるもの(ばいじん以外のばい煙及び特定粉じんを除く。)である(法第2条第9項)。
「継続的に摂取される場合には人の健康を損なうおそれがある物質」とは、ベンゼンのように人に対する発がん性がある物質、又はトリクロロエチレンのように人に対する慢性毒性がある物質を指す。
「大気の汚染の原因となる物質」とは、大気汚染の原因となりうる性状を有する物質を指す。
「ばいじん以外のばい煙及び特定粉じんを除く」とは、法に基づく工場・事業場に係る排出規制の対象となった特定の化学的性状を有する物質(法第2条第1項第1号の硫黄酸化物、同項第3号の有害物質及び同条第5項の特定粉じん)を有害大気汚染物質から除く趣旨であり、ばいじん及び一般粉じんは、「粒子状」といった物質の存在形態に着目した物質分類であるため、有害大気汚染物質から除かれるものはない。
    なお、ばい煙、粉じん及び特定物質については、法は、その発生形態(燃焼生成、機械処理生成、化学処理生成等)に着目した物質分類を行っているが、有害大気汚染物質については、種類が多く、その発生源も多様であり、これらの物質を包括的に対策の対象とするため、発生形態を特定せずに、物質を規定している。

  2) 物質リスト

    上記のような要件を満たす物質の個別名を網羅的に列記することは実際上困難であるが、中央環境審議会においては、健康影響の未然防止の見地から、一定の割り切りによる選定基準を設け、「有害大気汚染物質に該当する可能性がある物質」を幅広く選定したリストを作成するとともに、同リストの中から、大気汚染による人の健康に係る被害が生ずるおそれの程度(以下「健康リスク」という。)がある程度高いと考えられる有害大気汚染物質(以下「優先取組物質」という。)を選定したリストを作成している(平成8年10月18日中央環境審議会答申)ので、参考までに別添のとおり送付する。
これらのリストについては、政府において新たな知見や情報等を継続的に収集整理し、柔軟に見直していくこととしている。
「有害大気汚染物質に該当する可能性がある物質」については、これらの物質すべてに法第2章の3の規定が適用されるものではないが、健康被害の未然防止の見地から、行政は物質の有害性、大気環境濃度等に関する基礎的情報の収集整理に努めるとともに、事業者等は自主的に排出等の抑制に努めることが期待されるものである
    「優先取組物質」については、法第2章の3の規定が適用され、行政は、優先取組物質に特に重点を置いて、物質の有害性、大気環境濃度、発生源等について体系的に詳細な調査を行うほか、事業者に対して排出又は飛散の抑制技術の情報等の提供に努め、事業者の自主的な排出等の抑制努力を促進するものである。なお、優先取組物質のうちの金属化合物については個別の化合物が有害大気汚染物質に該当するか否かを明らかにしていく必要があることに留意されたい。

 2 施策等の実施の指針

   有害大気汚染物質による大気汚染の防止に関する行政の施策及び事業者等の措置は、大気汚染の状況、人の健康に及ぼす影響等に関する科学的知見の充実の下に、現在において健康被害を生じさせないことはもとより、将来にわたっても健康被害が未然に防止されるようにすることを旨として、実施されなければならない(法第18条の20)。
   なお、「科学的知見の充実の下に、将来にわたっても健康被害が未然に防止されるようにすること」とは、従来の大気汚染防止法の規制対象物質とは異なり、低濃度・長期曝露による健康影響が懸念されるという有害大気汚染物質の特徴を踏まえ、長期曝露による健康影響のおそれの程度に応じて適切な対策を講じていくためには物質の有害性や大気環境濃度等に関してなお一層の科学的知見を充実する必要があること、将来を見据えて未然防止を図る必要があることといった有害大気汚染物質対策の実施の指針を明らかにしているものであり、この実施の指針には、有害大気汚染物質による大気の汚染の防止に関する施策その他の措置は、人の健康に係る被害が生ずるおそれの程度の高い物質に係るものに重点を置いて実施されなければならないとの趣旨である。また、「健康被害が未然に防止されるよう」とは、科学的知見の充実の過程で健康被害が生ずるおそれが高いと明確に判断される場合には、科学的知見が必ずしも十分でない状況であっても、必要な措置を実施すべき場合もあり得るという趣旨も含まれている。

 3 各主体の責務、施策等

  1) 事業者の責務(法第18条の21)

    「事業者」とは事業活動を行う者一般を指すが、有害大気汚染物質対策を推進すべき主要な事業者としては、工場又は事業場において事業活動を行う者が想定される。
なお、鉱山保安法(昭和24年法律第70号)第2条第1項に規定する鉱業権者については、鉱山保安法の規定が適用されているため、個別の鉱業権者に対する有害大気汚染物質対策の推進に関する措置は、通商産業省が、法の有害大気汚染物質対策の推進に関する規定の趣旨を踏まえ、鉱山保安法に基づき行うこととしている。
    事業者の責務は、次のとおりである。

  1.     ① 事業活動に伴う有害大気汚染物質の大気中への排出又は飛散の状況を把握するようにすること
  2.     ② 事業活動に伴う有害大気汚染物質の大気中への排出又は飛散を抑制するために必要な措置を講ずるようにすること

    この責務は、事業者の自主的な判断の下に実施されるものであり、事業者に有害大気汚染物質の測定義務を課し、又は排出等の抑制を強制するものではない。
    なお、既に平成8年10月18日付け環大規第205号をもって本職から都道府県知事及び関係市長に通知したとおり、改正法の趣旨を踏まえ、環境庁及び通商産業省においては、「事業者による有害大気汚染物質の自主管理促進のための指針」を協力して作成し、事業者による有害大気汚染物質の自主管理の促進に努めているところである。このような国及び事業者における対策の実施状況も踏まえつつ、地方公共団体におかれても、法第18条の21の責務規定を受けた事業者の取組が促進されるよう、法第18条の23に基づき適切な措置を講ずるよう努められたい。

  2) 国の施策(法第18条の22)

    国が講ずべき施策は、次のとおりである。

  1.     ① 地方公共団体との連携の下に有害大気汚染物質による大気汚染の状況を把握するための調査の実施に努めること(第1項)
  2.     ② 有害大気汚染物質の人の健康に及ぼす影響に関する科学的知見の充実に努めること(第1項)
  3.     ③ 有害大気汚染物質ごとに大気汚染による人の健康被害が生ずるおそれの程度(健康リスク)を評価し、その成果を定期的に公表すること(第2項)
  4.     ④ 事業者が法第18条の21に規定する有害大気汚染物質の排出又は飛散を抑制するために必要な措置を講ずることを促進し、法第18条の23第2項に規定する地方公共団体による事業者に対する情報の提供に関する施策が推進されることに資するため、有害大気汚染物質の排出又は飛散の抑制のための技術に関する情報を収集整理し、及びその成果の普及を図るように努めること(第3項)

    国が行う「有害大気汚染物質による大気の汚染の状況を把握するための調査」については、法第18条の23に基づき地方公共団体がその区域において行う大気環境モニタリング調査と調整を図りつつ行うことが望ましいため、「地方公共団体との連携の下に」実施に努めることとされている。
    また、法第18条の22第2項においては、国は、「有害大気汚染物質ごとに大気の汚染による人の健康リスクに係る被害が生ずるおそれの程度を評価し、その成果を定期的に公表することとなっており、この評価は、地方公共団体が実施する有害大気汚染物質による大気汚染の状況を把握するための調査の結果を含めて行うこととしているので、調査結果の提供をお願いする。

  3) 地方公共団体の施策(法第18条の23)

    地方公共団体が講ずべき施策は、次のとおりである。

  1.    ① 地方公共団体の区域に係る有害大気汚染物質による大気汚染の状況を把握するための調査の実施に努めること(第1項)
  2.    ② 事業者に対し、法第18条の21に規定する有害大気汚染物質の排出又は飛散を抑制するために必要な措置を講ずることを促進するために必要な情報の提供を行うように努めること(第2項)
  3.    ③ 住民に対し、有害大気汚染物質による大気汚染の防止に関する知識の普及を図るように努めること(第3項)

    以上の地方公共団体の施策は、地域の実情に応じて、各地方公共団体の自主的な判断の下に行われるものである。
    ①の「有害大気汚染物質による大気汚染の状況を把握するための調査」は、地方公共団体が自ら行う大気環境モニタリング調査であり、有害大気汚染物質を排出する事業者に測定を行わせるものではない。
    ②の「知識の普及」は、有害大気汚染物質の意味、その健康リスクの考え方、対策の基本的考え方、日常生活における対策のあり方、といった一般的な知識の普及を住民に対して行うものである。

  4) 国民の努力(法第18条の24)

    何人も、その日常生活に伴う有害大気汚染物質の大気中への排出又は飛散を抑制するように努めなければならないことを規定している。

 4 指定物質に係る措置

  1) 指定物質

    指定物質は、有害大気汚染物質のうち人の健康被害を防止するためその排出又は飛散を早急に抑制しなければならないもので政令で定めるものとされており、指定物質としてベンゼン、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンを指定した(法附則第9項及び令附則第3項)。

  2) 指定物質排出施設

    指定物質排出施設は、指定物質を排出し、又は飛散させる施設(工場又は事業場に設置されるものに限る。)で政令で定めるものとされており、指定物質排出施設として以下の11種類の施設を指定した(法附則第9項、令附則第4項及び別表第6)。

  1.    ① ベンゼン(濃度が60体積%以上のものに限る。以下同じ。)を蒸発させるための乾燥施設であって、送風機の送風能力が1時間当たり1,000m3以上のもの
  2.    ② 原料の処理能力が1日当たり20t以上のコークス炉
  3.    ③ ベンゼンの回収の用に供する蒸留施設(常圧蒸留施設を除く。)
  4.    ④ ベンゼンの製造の用に供する脱アルキル反応施設(密閉式のものを除く。)
  5.    ⑤ ベンゼンの貯蔵タンクであって、容量が500kl以上のもの
  6.    ⑥ ベンゼンを原料として使用する反応施設であって、ベンゼンの処理能力が1時間当たり1t以上のもの(密閉式のものを除く。)
  7.    ⑦ トリクロロエチレン又はテトラクロロエチレン(以下「トリクロロエチレン等」という。)を蒸発させるための乾燥施設であって、送風機の送風能力が1時間当たり1,000m3以上のもの
  8.    ⑧ トリクロロエチレン等の混合施設であって、混合槽の容量が5kl以上のもの(密閉式のものを除く。)
  9.    ⑨ トリクロロエチレン等の精製又は回収の用に供する蒸留施設(密閉式のものを除く。)
  10.    ⑩ トリクロロエチレン等による洗浄施設であって、トリクロロエチレン等が空気に接する面の面積が3m2以上のもの
  11.    ⑪ テトラクロロエチレンによるドライクリーニング機であって、処理能力が1回当たり30kg以上のもの

    指定物質排出施設については、設置の届出等の規定が設けられていないため、都道府県知事等において施設の設置状況を把握することは容易ではないが、勧告等の措置を的確に実施するためには、設置状況を把握しておくことが望ましいので、関係事業者の協力を得て、可能な範囲で設置状況の調査を行うことが望ましい。

  3) 指定物質抑制基準

    指定物質抑制基準は、指定物質の種類及び指定物質排出施設の種類ごとに排出又は飛散の抑制に関する基準として環境庁長官が定め、公表することとされており、平成9年4月1日を基準として、新設施設と既設施設(設置の工事がされているものを含む。以下同じ。)に分けて指定物質抑制基準を設定した(法附則第9項、平成9年2月環境庁告示第5号(以下「新設施設基準」という。)及び平成9年2月環境庁告示第6号(以下「既設施設基準」という。))。
    新設施設基準については、平成9年4月1日から適用することとしており、同日以降設置の工事が始められ、稼働を開始した指定物質排出施設について適用されることとなる。既設施設基準については、平成10年4月1日から適用することとしており、この旨、関係事業者への周知徹底に努められたい。
    なお、今回定めた指定物質抑制基準は、指定物質排出施設の排出口における指定物質の排出濃度の基準となっているが、この「排出口」には、施設の安全弁等の非常時において指定物質等を放出するためのものは含まれない。

  4) 勧告

    都道府県知事等は、指定物質による大気汚染により人の健康被害が生ずることを防止するため必要があると認めるときは、指定物質排出施設を設置している者に対し、指定物質抑制基準を勘案して、指定物質排出施設からの指定物質の排出又は飛散を抑制するために必要な勧告をすることができ、この措置は、強制力を伴うものではない(法附則第10項)。
    勧告は、指定物質による相当程度の大気汚染が認められ、指定物質排出施設から排出される指定物質が当該大気汚染の原因の一つであると認められるときであって、当該指定物質排出施設について指定物質抑制基準に適合しておらず、かつ、継続的に適合しないおそれがあると認められる場合に行うこととされたい。

  5) 報告の徴収

    都道府県知事等は、勧告をするために必要な限度において、指定物質排出施設を設置している者に対し、必要な事項に関し報告を求めることができ、この措置は、強制力を伴うものではない(法附則第11項)。
    報告の徴収は、勧告に必要な限度で行うことができるものであることから、指定物質排出施設を設置する工場又は事業場の周辺において前述の相当程度の大気汚染が認められる場合に行うことができるものであり、勧告を行う必要がないことが明らかな場合には行わないこととされたい。

  6) 事務の委任

    指定物質に係る勧告及び報告の徴収に関する都道府県知事の権限に属する事務については、従来のばい煙発生施設に係る規制事務等と同様、事業場に係る事務は令第13条第1項から第3項までに掲げる市の長に委任され、工場に係る事務は地方自治法(昭和22年法律第67号)の指定都市及び中核市の長に委任されている(令附則第5項及び第6項)。

第3 事故時の措置

 1 対象

   事故時の措置の対象物質は「ばい煙」及び「特定物質」であり、対象施設は「ばい煙発生施設」及び「特定施設」である(法第17条第1項)。
   本規定による事故時の措置が適用される場合は、対象施設について故障、破損その他の事故が発生し、対象物質が大気中に多量に排出されたときであり、例えば、ばい煙発生施設である非常用施設の運転時や試運転時におけるセッティング不良等によるばい煙等の排出については、これに該当するものではない。

 2 通報義務

   対象施設を工場又は事業場に設置している者は、その施設について事故が発生し、対象物質が大気中に多量に排出されたときは、直ちにその事故の状況を都道府県知事等に通報しなければならない。ただし、石油コンビナート等災害防止法(昭和50年法律第84号)第23条第1項の規定に基づき、同法の特定事業所から異常現象の発生について通報が行われた場合は、都道府県知事等にその通報が達することとなっているため、法に基づく通報を行う必要はないこととした(法第17条第2項)。このため、同法に基づく通報の情報が、法第17条第1項に係ると思われるものである場合には、その情報が環境部局にも回付されるよう、関係部局間で措置されたい。
   なお、事故発生時においては、消防法(昭和23年法律第186号)第25条第1項の規定に基づく応急消火等他の法律に基づく施設設置者による事故に対する応急措置(関係機関への通報を含む。)の実施が最優先されるので、これに支障を及ぼすことのないよう配慮されたい。

 3 措置命令

   都道府県知事等は、事故に係る工場等の周辺区域における人の健康が損なわれ、又は損なわれるおそれがあると認める場合には、当該事故の拡大防止等に係る措置をとるべきことを命ずることができる(法第17条の3)。
   本規定に基づく命令を消防法第11条第1項により許可を受けた危険物施設に対し発するに当たっては、当該危険物施設の許可権者である市町村長等(消防法第11条第2項に規定する市町村長等をいう。)と措置の内容等について事前に十分調整を図るとともに、調整を受けた市町村長等が火災予防の観点から意見を述べた場合には、当該意見を尊重されたい。

 4 報告及び検査

   事故時の措置の対象施設にばい煙発生施設を加えたことに伴い、法第26条第1項の規定に基づく報告の対象に「ばい煙発生施設の事故の状況及び事故時の措置」を加えた(令第12条第1項)。なお、特定施設に係る報告及び検査の規定が令第12条第5項から第3項に移動したが、規定の趣旨は変わっていない。

 5 事務の委任

   事故時の措置に係る都道府県知事の権限に属する事務(新たに規定された通報の受理に関する事務を含む。)については、従来どおり、令第13条第1項から第3項までに掲げる市の長に委任されている(令第13条)。従って、工場に設置されているばい煙発生施設について事故が発生したときも、事故時の措置については、令第13条第1項から第3項までに掲げる市の長が行うこととなる。

第4 その他

  法第26条の報告及び検査に関する規定が改正されたことに伴い、同条を引用する立入検査の身分証明書の様式を改正した(規則第19条及び様式第8)が、当分の間、改正前の身分証明書を使用しても差し支えない。
  また、今回の法改正により、地方公共団体はいくつかの新たな事務を実施することとなるため、法の事務に関し自主的に事務処理の簡素合理化及び現有職員の効率的活用を図られることについては、十分に尊重することとしたい。

別添
優先取組物質

       


 注:金属化合物については、必ずしもそのすべてが長期毒性を有すると確認されているものではないため、今後、科学的知見の蓄積等を図り、個別の化合物の有害性を明らかにしていくことが必要である。
  有害大気汚染物質に該当する可能性がある物質