法令・告示・通達

大気汚染防止法に基づく窒素酸化物の排出基準の改定等について

公布日:昭和50年12月13日
環大規263号

環境庁大気保全局長から各都道府県知事・各政令市市長あて
 昭和50年12月9日付けをもつて大気汚染防止法施行令の一部を改定する政令(昭和50年政令第349号。以下「改定政令」という。)及び大気汚染防止法施行規則の一部を改定する総理府令(昭和50年総理府令第75号。以下「改定府令」という。)が制定公布され、同年12月10日から施行された。
 今回の改定は、硫黄酸化物に係る総量規制基準を定める地域の追加指定及び窒素酸化物の規制強化に関するものである。
 硫黄酸化物に係る総量規制基準を定める地域としては、姫路市等、和歌山市等など計8地域を指定した。本職においては、来年度早々に原則として硫黄酸化物の排出基準(K値)が4.67以下の地域のなかから、K値を3.0又は3.5に強化しても環境基準の達成が困難と認められる地域について、第三次地域指定を行う方針であるので、該当すると思われる関係各県においては、大気汚染防止法(以下「法」という。)第5条の2第5項の規定に基づき申出を行う等所要の措置を行われたい。
 窒素酸化物の排出基準は、昭和48年8月に設定したところであるが、その後の技術進歩等を勘案して、規制対象施設を拡大するとともに、排出基準値の改定強化を図ることとしたものである。今回の規制強化は、二酸化窒素に係る環境基準の達成維持を図るため、工場・事業場から排出される窒素酸化物の低減対策をさらに一歩進めたものであるが、その考え方、改定政令及び改定府令の内容、並びに留意すべき事項は次のとおりであるので、法令の施行に遺憾なきを期されたい。

第1 窒素酸化物の規制強化の考え方

 1 今回の規制強化の背景   窒素酸化物対策については、昭和53年5月までに5年地域にあつては二酸化窒素に係る環境基準を、8年地域にあつては中間目標を、それぞれ達成するよう努めることとされているが、昭和49年度における大気汚染状況をみると、目標達成は極めて困難な情勢にあり、窒素酸化物による大気汚染の防止対策の確実な前進が強く望まれているところである。
   固定発生源からの窒素酸化物の排出低減対策としては、排煙脱硝、燃焼方法の改善、燃料転換等があげられる。現時点では、排煙脱硝は、LNG等の燃焼排出ガスのように硫黄酸化物を含まず、かつ、ばいじんを含まないか、それがごくわずかであるものに対しては実用化していると判断される。しかし、重油燃焼排出ガス等に対するものについては、個別の事例として大型の排煙脱硝装置が設置されているものもあり、今後1年ぐらいの間に実用化の見通しがつくものと思われるが、まだ、法律による全国一律の排出基準を設定しうるという段階には達していない。また、燃料転換については、エネルギー供給計画の中に硫黄酸化物に対する低硫黄化計画のような低窒素燃料の供給計画が組入れられていないため、燃料供給上の制約がある。これらを考慮して、今回の規制強化は、主として燃焼方法の改善と一部燃料転換を前提として行うこととした。

 2 規制対象施設について

   窒素酸化物を排出する主たる施設としては、既に規制されているボイラー、金属加熱炉、石油加熱炉及び硝酸製造施設のほか、セメント焼成炉、コークス炉、焼結炉、ガラス溶融炉等がある。今回の排出基準の改定強化に当たり、これらの未規制の施設のうち、セメント焼成炉及びコークス炉(いずれも新設のものに限る。)を規制することとした。両施設は、特定の型の炉を使用すると窒素酸化物の排出量が減少することが認められるので、規制対象施設とすることとしたものである。
   なお、焼結炉やガラス溶融炉については、これらの施設から排出される窒素酸化物の低減対策は排煙脱硝が中心となるものとされているが、これらに対する排煙脱硝の実用化の見通しがまだたつていないため、今回の改正では規制対象にすることを見送ることとした。
   また、昭和48年8月に窒素酸化物の排出基準を設定した後の窒素酸化物の排出低減技術の進歩等を勘案して、ボイラー、金属加熱炉及び石油加熱炉について新設、既設を問わず原則として排出ガス量が1万Nm3/hのものまで規制対象を拡大することとした。

 3 排出基準値について

   今回の排出基準の改定強化に当たつては、主として、燃焼方法の改善と一部燃料転換を前提としたものであるが、金属加熱炉及び石油加熱炉については、そのうちの一部は排煙脱硝を必要とするものもありうるとして、排出基準値を設定した。また、既設の施設については施設本体の改造の困難性等から前回と同様、新設の施設とは別に排出基準を設けることとした。

第2 改定の要点

 1 大気汚染防止法施行令関係

  1.   (1) 法第2条第2項の規定に基づき、コークス炉をばい煙発生施設として、指定したこと(大気汚染防止法施行令(以下「令」という。)別表第1の28の項の追加)。
  2.   (2) 法第5条の2第1項の規定に基づき、硫黄酸化物に係る総量規制基準を定める地域として、姫路市等和歌山市等計8地域を指定したこと(令別表第3の2の改正)。

 2 大気汚染防止法施行規則関係

   法第3条第1項の規定に基づき、窒素酸化物の排出基準を改定強化したこと(大気汚染防止法施行規則(以下「規則」という。)別表3の2の改定)。

 3 施行期日及び経過措置

  1.   (1) 改定政令及び改定府令は昭和50年12月10日から施行すること(改定政令附則及び改定府令附則第1項)。
  2.   (2) 改定府令施行の際、改定前の別表第3の2に定める排出基準の適用を受けていた施設(改定府令施行の際現に設置の工事がされており、工事終了後当該排出基準の適用を受けることとなる施設を含む。)(第1次規制の新設に相当する施設)については、従前どおりの排出基準を適用することとしたこと(改定府令附則第3項)。
  3.   (3) 改定府令施行の際現に大気汚染防止法施行規則の一部を改定する総理府令(昭和48年総理府令第44号)附則別表に定める排出基準の適用を受けていた施設(当該総理府令施行の際、現に設置の工事がされており、工事終了後、当該排出基準の適用を受けることとなる施設を含む。)〔第1次規制の既設に相当する施設〕については、昭和52年11月30日まで従前どおりの排出基準を適用し、昭和52年12月1日から改定府令附則別表第3に定める排出基準を適用することとしたこと(改定府令附則第4項及び第6項)。具体的には、排出ガス量が10万Nm3/h以上のガス専焼ボイラーは、昭和52年11月30日までに新しい既設の施設に対する排出基準を遵守できるようにする必要が出てくるが、他の施設は従前の排出基準がそのまま適用されるものであること。
  4.   (4) 今回の改定により新たに規制対象となつた既設の施設に対する排出基準は、昭和52年11月30日まで適用しないこととしたこと(改定府令附則第5項及び第6項)。

第3 留意すべき事項

 1 ばい煙発生施設の追加に伴う事項

  1.   (1) 今回の改定によりばい煙発生施設となつたコークス炉(令別表第1の28の項)については、改定政令施行の際、コークス炉を設置している者(設置の工事をしている者を含む。)にあつては法第7条の規定により、また、今後コークス炉を設置しようとする者にあつては法第6条の規定により、ばい煙発生施設としての届出が必要となること。なお、コークス炉の単位等については、大気汚染防止法の一部を改定する法律の施行について(昭和46年8月25日還大企第5号、本職通知。以下「46年通知」という。)第5の1を参照されたいこと。
  2.   (2) 今回の改定により、ばい煙発生施設となつたコークス炉については、窒素酸化物対策の観点から、ばい煙発生施設としたものであるが、硫黄酸化物の排出基準も適用されることとなり、当該排出基準に適合していない場合には法第13条第2項の規定により6カ月以内に適切な措置を講じさせることが必要となること。したがつて、(1)の届出を受理する際に硫黄酸化物の排出基準に適合しているかどうかを確認し、適合していないものについては適切に指導されたいこと。
        また、硫黄酸化物に係る総量規制基準を定める地域を管轄する都府県においては、総量削減計画を作成するに当たつて、コークス炉も硫黄酸化物に係るばい煙発生施設となることに充分留意されたいこと(法第5条の3第1項第2号及び第4号参照)。
  3.   (3) 届出にあたり、規則様式第1別紙2の窒素酸化物の濃度欄の記載については「大気汚染防止法に基づく窒素酸化物の排出基準の設定等について」(昭和48年8月9日還大規第133号、本職通知。以下「48年通知」という。)第3の1の(2)を参照されたいこと。

 2 窒素酸化物の排出基準の改定に関する事項

  1.   (1) 改定後の規則別表第3の2の窒素酸化物の排出基準は、今回改定されなかつた硝酸製造施設(令別表第1の27の項)を除き、昭和50年12月10日以後に設置される施設のみ適用され、同日現在すでに設置されているボイラー(令別表第1の1の項)、金属加熱炉(同6の項)又は石油加熱炉(同7の項)、(設置の工事がされているこれらの施設を含む。)に関する排出基準は、改定府令附則に定められていること。
  2.   (2) 今回の改定により、窒素酸化物の排出基準の適用を受ける施設が拡大されたが、具体的には次のとおりであること。
    1.    ア 新設について
      1.     ① ボイラーについては、排出ガス量が1万Nm3/hのものまで拡大したこと。
      2.     ② 金属加熱炉及び石油加熱炉については、排出ガス量が1万Nm3/h以上10万Nm3/h未満の鍛接鋼管用加熱炉を除き、従前あつた適用除外施設についても規制対象とすることとしたこと。
      3.     ③ 新たに排出ガス量10万Nm3/h以上のセメント焼成炉及びコークス炉を追加したこと。
    2.    イ 既設について
      1.     ① ボイラーについては、ガス専焼、石炭燃焼、固体燃焼及び原油タール燃焼のものについては排出ガス量1万Nm3/hまで、それ以外のボイラー(以下「その他ボイラー」という。)については排出ガス量4万Nm3/hまで拡大したこと。
      2.     ② 金属加熱炉及び石油加熱炉については、排出ガス量1万Nm3/hまで拡大したこと。
  3.   (3) 改定後の規則別表第3の2に掲げる施設に該当する施設であつても次に掲げる既設施設については窒素酸化物の排出基準を適用しないこととしたこと(改定府令附則第2項)。
    1.    ア その他ボイラーであつて排出ガス量が1万Nm3/h以上4万Nm3/h未満のもの〔排出ガス量が1万Nm3/h未満のものは、改定後の規則別表第3の2に掲げられていない。〕
    2.    イ 昭和48年8月9日以前に設置されたボイラー(設置の工事がされているものを含む。)で排出ガス量が4万Nm3/h以上10万Nm3/h未満のもののうち、当該施設において発生する硫黄酸化物の量を80%以上削減する能力を有する硫黄酸化物処理施設が付属しているもの
    3.    ウ 鍛接鋼管用加熱炉
    4.    エ エチレンの製造の用に供する分解炉及び独立加熱炉、メタノールの製造の用に供する改質炉並びにアンモニアの製造の用に供する改質炉
    5.    オ セメント焼成炉
    6.    カ コークス炉
  4.   (4) ボイラーに係る「規模」及び「燃焼」については48年通知第3の2の(2)に示したところによるほか、さらに次の点に留意されたいこと。
    1.    ア 規模については、当該ボイラーにおいて都市ガス、LPG、石炭、重油等を2種類以上使用している場合であつて、混焼の程度等により定格運転時の排出ガス量が異なるときは、排出ガス量の大きい方をもつて判断すること。
    2.    イ 当該ボイラーが2種類以上の燃料を使用する設備を有し、実際にそれらのすべてを使用するものである場合には、一時的に1種類の燃料を専焼するとき、又は2種類以上の燃料を混焼するときがあつても、「燃焼」として取扱うこと。ただし、都市ガスとLPGを混焼する場合のように2種類以上のガスを混焼する場合は、「ガスを専焼させるもの」として取扱うこと。
  5.   (5) 排出ガス中の窒素酸化物の測定、排出ガス中の残存酸素濃度及びばい煙排出者の測定義務については48年通知第3の2の(3)、(4)及び(5)を参照されたいこと。なお、46年通知第4の1及び2からも承知されるように、排出基準値は瞬間最大値と比較するものではないので、この点特に留意されたいこと。
  6.   (6) セメント焼成炉は負荷を一定に維持しても窒素酸化物の排出量に変動を生じるものであること等の特性を有するものであり、今回の排出基準値の設定は窒素酸化物排出濃度の一日平均値を用いて行つたものであるので、その監督に当たつては、この点留意されたいこと。

 3 今後の規制の拡大等に関する事項

  1.   (1) 今回改定した窒素酸化物の排出基準は、主として燃焼方法の改善と一部燃料転換を前提にしたものであるとともに、当該基準が全国一律に適用され、地域性を反映しないものであることを考慮して定められたものであること。
        なお、法第4条第1項の規定に基づき、いわゆる上のせ基準を設定する場合には、前述した窒素酸化物の排出低減対策の現状を勘案されるとともに、必要と思われる場合には、本職に相談されたいこと。
  2.   (2) 今回の改定で改定強化しなかつた既設大型施設の窒素酸化物の排出基準については、排煙脱硝技術、窒素酸化物に対する総量規制の実施等を勘案して、今後排出基準の改定強化を行う予定であること。また、排出ガス量が4万Nm3/h未満のその他ボイラー等も今後規制の対象とする予定であること。今回、窒素酸化物の排出規制対象施設としなかつた焼結炉、ガラス溶融炉等についても同様であること。
  3.   (3) 窒素酸化物対策については、今後、固定、移動両発生源対策の整合性を考慮しつつ科学的、かつ合理的に推進すべく検討を重ね、適切な規制強化等を図つていく予定であるが、当面、今後新設される大型施設については、地域の実情等を勘案し、必要に応じて、あらかじめ排煙脱硝装置の設置が可能であるようその敷地の確保について工場等を指導されたいこと。
  4.   (4) なお、窒素酸化物の総量規制については、昭和49年度から3カ年計画で汚染予測手法等の調査検討を進めているところであり、その結論を得次第できるだけ速かに導入する予定であること。